説明

抗菌性天然繊維及びその製造方法

【課題】 抗菌性を持続させることができ、洗濯した場合でも抗菌性を保持することができる抗菌性天然繊維及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 抗菌性天然繊維は、天然繊維のヒドロキシル基又はアミノ基にツヤ酸、β−ツヤプリシン等の抗菌性化合物のカルボキシル基、ヒドロキシル基と共役したカルボニル基等が結合されて構成されている。ツヤ酸、β−ツヤプリシン等の抗菌性化合物としては、ウェスタン・レッド・シダーからの1.2〜2.0MPaの高圧水蒸気を用いた水蒸気蒸留により得られるものが好ましい。天然繊維としては、ヒドロキシル基の多いセルロース系繊維が好ましい。抗菌性天然繊維は、酸触媒の存在下、天然繊維に抗菌性化合物を加熱して作用させ、天然繊維のヒドロキシル基又はアミノ基に抗菌性化合物のカルボキシル基、ヒドロキシル基と共役したカルボニル基等を反応させて結合させることにより製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性をもつ繊維製品の材料として用いられる抗菌性天然繊維及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維に抗菌性をもたせる技術としてヒノキチオールを用いる方法が知られている。例えば、繊維素反応型Nメチロール尿素樹脂またはウレタン樹脂あるいは絹を高圧下で加水分解した絹タンパク物質の中にヒノキチオールのマイクロカプセルまたはヒノキチオールを吸着させたセラミック微粒子を分散させた分散液に、セルロース系繊維を浸漬処理する方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
さらに、抗菌性レーヨン繊維の製造方法として、メタノールと希アルカリ液との混合溶媒にヒノキチオールを溶解した溶液を、ビスコースに添加し、混和後紡糸浴で凝固再生する方法が知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【特許文献1】特開平9−31858号公報(第2頁、第4頁及び第5頁)
【特許文献2】特開平7−108798号公報(第2頁及び第3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法においては、セルロース系繊維の表面に樹脂や絹たんぱく物質などの保護層が固着され、その保護層の中にヒノキチオールのマイクロカプセルが均一に分散された状態で閉じ込められている(特許文献1の図1)。しかしながら、ヒノキチオール自体がセルロース系繊維に結合している訳ではないことから、ヒノキチオールが経時的にセルロース繊維から離れ、特に洗濯をした場合にセルロース繊維から離れやすくなる。そのため、繊維製品の抗菌性が次第に低下する。
【0005】
一方、特許文献2に記載の方法では、ヒノキチオールをメタノールと希アルカリ液との混合溶媒に溶解することで、ゲル化することなく混和でき、レーヨン繊維の繊維化を可能とするものである。しかし、ヒノキチオールは混合溶媒に溶解された状態でレーヨン繊維に添加されているに過ぎず、レーヨン繊維との結合はなされていない。従って、ヒノキチオールは経時的にレーヨン繊維から離れ、繊維製品の抗菌性が失われていく。
【0006】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、抗菌性を持続させることができ、洗濯した場合でも抗菌性を保持することができる抗菌性天然繊維及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明の抗菌性天然繊維は、天然繊維のヒドロキシル基又はアミノ基と反応する反応性官能基を有する抗菌性化合物が天然繊維に化学的に結合されて構成されていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2に記載の発明の抗菌性天然繊維は、請求項1に係る発明において、前記抗菌性化合物は、カルボキシル基若しくはその変性基を有するツヤ酸若しくはその誘導体又はヒドロキシル基と共役したカルボニル基を有するツヤプリシンであることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3に記載の発明の抗菌性天然繊維は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記抗菌性化合物は、ウェスタン・レッド・シダーからの1.2〜2.0MPaの高圧水蒸気を用いた水蒸気蒸留により得られるものであることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4に記載の発明の抗菌性天然繊維は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の発明において、前記天然繊維は、セルロース系繊維であることを特徴とするものである。
請求項5に記載の発明の抗菌性天然繊維の製造方法は、酸触媒の存在下、天然繊維にそのヒドロキシル基又はアミノ基と反応する反応性官能基を有する抗菌性化合物を加熱して作用させ、天然繊維のヒドロキシル基又はアミノ基に抗菌性化合物の前記反応性官能基を反応させて化学的に結合させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に記載の発明の抗菌性天然繊維においては、天然繊維のヒドロキシル基又はアミノ基と反応する反応性官能基を有する抗菌性化合物が天然繊維に化学的に結合されている。例えば、抗菌性化合物のカルボキシル基は天然繊維のヒドロキシル基又はアミノ基とエステル化反応又はアミド化反応を行い、エステル化合物又はアミド化合物が生成される。そのため、抗菌性化合物は天然繊維に化学的に強固に結合され、抗菌性化合物に基づく抗菌性を持続させることができ、洗濯した場合でも抗菌性を保持することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明の抗菌性天然繊維においては、抗菌性化合物は、カルボキシル基若しくはその変性基を有するツヤ酸若しくはその誘導体又はヒドロキシル基と共役したカルボニル基を有するツヤプリシンである。このため、請求項1に係る発明の効果を十分に発揮させることができる。
【0013】
請求項3に記載の発明の抗菌性天然繊維では、抗菌性化合物は、ウェスタン・レッド・シダーからの1.2〜2.0MPaの高圧水蒸気を用いた水蒸気蒸留により得られるものであることから、請求項1又は請求項2に係る発明の効果に加え、抗菌性化合物を収率良く取得することができる。
【0014】
請求項4に記載の発明の抗菌性天然繊維では、天然繊維がセルロース系繊維であることから、セルロース系繊維に含まれる多数のヒドロキシル基に抗菌性化合物のカルボキシル基やヒドロキシル基を結合させることができ、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明の効果を向上させることができる。
【0015】
請求項5に記載の発明の抗菌性天然繊維の製造方法では、酸触媒の存在下、天然繊維にそのヒドロキシル基又はアミノ基と反応する反応性官能基を有する抗菌性化合物を加熱して作用させ、天然繊維のヒドロキシル基又はアミノ基に抗菌性化合物の前記反応性官能基を反応させて化学的に結合させるものである。このため、天然繊維のヒドロキシル基又はアミノ基に抗菌性化合物のカルボキシル基やヒドロキシル基を効率良く反応させることができる。従って、抗菌性を持続させることができ、洗濯した場合でも抗菌性を保持することができる抗菌性天然繊維を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
繊維製品の材料として用いられる抗菌性天然繊維は、天然繊維のヒドロキシル基〔水酸基(−OH)〕又はアミノ基(−NH)に、それらヒドロキシル基又はアミノ基と反応する反応性官能基を有する抗菌性化合物の前記反応性官能基が反応し、天然繊維に化学的に結合されて構成されている。抗菌性化合物の反応性官能基としては、カルボキシル基(−COOH)又はその変性基或いはヒドロキシル基等が挙げられる。
【0017】
天然繊維としては、綿(コットン)、レーヨン等のセルロース系繊維(植物繊維)、ウール、シルク等の動物繊維が用いられる。セルロース系繊維は、ヒドロキシル基を有し、詳細にはヒドロキシル基とメチロール基(−CHOH)とを有している。動物繊維は主にアミノ基を有している。これらの天然繊維うち、反応性官能基としてヒドロキシル基の含有量が多いセルロース系繊維が好ましい。
【0018】
前記抗菌性化合物として具体的には、反応性官能基としてカルボキシル基若しくはその変性基を有するツヤ酸(Thujic acid)若しくはその誘導体又は反応性官能基としてヒドロキシル基と共役したカルボニル基を有するツヤプリシンが優れた抗菌性を有する点から好ましい。ツヤ酸は、次の化学式(1)で表される化合物で、カルボキシル基を有する7員環化合物(トロポロン環をもつ化合物)である。
【0019】
【化1】

また、ツヤ酸の誘導体としては、ツヤ酸のカルボキシル基の水素がメチル基、エチル基等に変性された化合物、カルボキシル基がアミド変性された化合物等が挙げられる。
【0020】
前記ツヤプリシン(Thujaplicin)には、下記の化学式(2)で表されるα−ツヤプリシン(α−Thujaplicin)、下記の化学式(3)で表されるβ−ツヤプリシン(β−Thujaplicin)及び下記の化学式(4)で表されるγ−ツヤプリシン(γ−Thujaplicin)がある。β−ツヤプリシンはヒノキチオール(hinokitiol)と称される化合物である。
【0021】
【化2】

【0022】
【化3】

【0023】
【化4】

前記反応については、例えば天然繊維のヒドロキシル基にツヤ酸のカルボキシル基がエステル化反応してエステル化合物が生成される。また、天然繊維のヒドロキシル基にヒノキチオールのヒドロキシル基と共役したカルボニル基が作用してエーテル化合物が生成される。さらに、天然繊維のアミノ基にヒノキチオールのヒドロキシル基と共役したカルボニル基が反応してアミノエーテル化合物が生成される。天然繊維のアミノ基にツヤ酸のカルボキシル基がアミド化反応してアミド化合物が生成される。天然繊維のヒドロキシル基にツヤ酸の誘導体のもつカルボキシル基の変性基、例えばメチル変性基がエステル交換反応してエステル化合物が生成される。
【0024】
前記抗菌性化合物は、ウェスタン・レッド・シダー(Western Red Cedar、ヒノキ科ネズコ属、針葉樹)からの1.2〜2.0MPaの高圧水蒸気を用いた水蒸気蒸留により得られるものが好ましい。高圧水蒸気の圧力が1.2MPa未満では抗菌性化合物を十分に抽出することができず、2.0MPaを越えると製造が煩雑になって好ましくない。例えば、ウェスタン・レッド・シダーのチップを前記高圧の水蒸気で蒸煮し軟化させて抽出物を得、それを水蒸気蒸留して蒸留液を得、その蒸留液を冷却することにより、ツヤ酸等の結晶が得られる。また、蒸留液を酢酸エチル等の抽出液で抽出することによりツヤ酸、ツヤプリシン等が得られる。ちなみに、前記蒸留液中にはツヤ酸が30〜40質量%、β−ツヤプリシンが10〜15質量%及びγ−ツヤプリシンが13〜18質量%程度含まれている。
【0025】
次に、抗菌性天然繊維の製造方法について説明すると、酸触媒の存在下、天然繊維にそのヒドロキシル基又はアミノ基と反応する反応性官能基を有する抗菌性化合物を加熱して作用させ、天然繊維のヒドロキシル基又はアミノ基に抗菌性化合物の前記反応性官能基を反応させて化学的に結合させるものである。触媒としては、前記エステル化反応、アミド化反応等の反応を促進させることができる点で酸触媒が使用される。そのような酸触媒としては、塩酸(HCl)、p−トルエンスルホン酸、蟻酸、酢酸等が挙げられる。
【0026】
天然繊維に対して抗菌性化合物を反応させて抗菌性を発現させる場合には、天然繊維のもつヒドロキシル基の一部、例えば0.1〜10%のヒドロキシル基にツヤ酸又はその誘導体を反応させれば足り、さらにツヤ酸又はその誘導体としては前記ウェスタン・レッド・シダーの蒸留液を用いることが便利である。そして、通常ウェスタン・レッド・シダーの蒸留液を10〜100倍に希釈した希釈液が用いられる。
【0027】
前記エステル化反応、アミド化反応等の反応を行わせるための加熱温度は、100〜150℃程度である。加熱温度が100℃未満の場合には、エステル化反応、アミド化反応等の反応の反応速度が遅く、反応が完了するまでに時間を要し、効率が悪い。一方、加熱温度が150℃を越える場合には、エステル化反応、アミド化反応等の反応以外の副反応が起きたり、生成物の分解反応が起きたりして好ましくない。
【0028】
このようにして得られる抗菌性繊維は、大腸菌、黄色ブドウ球菌、MRSA(Methicillin resistant Staphylococcus aureus)等の菌類に対する良好な抗菌性を示し、菌の増加を抑制することができる。さらに、この抗菌性繊維について洗濯を繰り返して行った場合でも、抗菌性を十分に維持することができる。
【0029】
さて、本実施形態の作用を説明すると、抗菌性天然繊維は、塩酸等の酸性触媒の存在下、コットン等の天然繊維にツヤ酸、β−ツヤプリシン等の抗菌性化合物を100〜150℃程度に加熱して作用させる方法により製造される。このとき、天然繊維のヒドロキシル基にツヤ酸のカルボキシル基がエステル化反応を行ってエステル化合物を生成し、天然繊維のアミノ基にツヤ酸のカルボキシル基がアミド化反応を行ってアミド化合物を生成し、或いは天然繊維のヒドロキシル基にβ−ツヤプリシンのヒドロキシル基と共役したカルボニル基が反応してエーテル化合物が生成する。これらのエステル化合物、アミド化合物又はエーテル化合物は、ツヤ酸やβ−ツヤプリシンに基づく7員環構造を有しており、さらにカルボキシル基の残基等を有していることから、それらの特異な構造によって抗菌性が発現されるものと推測される。
【0030】
加えて、ツヤ酸やβ−ツヤプリシンは天然繊維にエステル結合、アミド結合又はエーテル結合を介して化学的に強固に結合されている。その結果、係る抗菌性天然繊維から得られる繊維製品を洗濯しても、前記エステル結合、アミド結合又はエーテル結合はそのまま保持される。よって、ツヤ酸、β−ツヤプリシン等の抗菌性化合物に基づく抗菌性を長期に渡って持続させることができる。
【0031】
以上詳述した本実施形態によれば、次のような効果が発揮される。
・ 本実施形態における抗菌性天然繊維では、コットン、レーヨン等の天然繊維のヒドロキシル基又はアミノ基にツヤ酸、β−ツヤプリシン等の抗菌性化合物のカルボキシル基、ヒドロキシル基等の反応性官能基が結合されている。例えば、ツヤ酸のカルボキシル基が天然繊維のヒドロキシル基又はアミノ基とエステル化反応又はアミド化反応を行い、エステル化合物又はアミド化合物が生成される。また、β−ツヤプリシンのヒドロキシル基と共役したカルボニル基が天然繊維のヒドロキシル基と反応してエーテル化合物が生成される。そのため、抗菌性化合物は天然繊維に化学的に強固に結合され、抗菌性化合物に基づく抗菌性を持続させることができ、洗濯した場合でも抗菌性を保持することができる。さらに、抗菌性化合物に基づいて、殺菌効果、除菌効果、防虫効果等の効果を発揮させることもできる。
【0032】
・ また、抗菌性化合物としてウェスタン・レッド・シダーからの1.2〜2.0MPaの高圧水蒸気を用いた水蒸気蒸留を行うことにより、抗菌性化合物を収率良く取得することができる。
【0033】
・ さらに、天然繊維がセルロース系繊維であることにより、セルロース系繊維に含まれる多数のヒドロキシル基に抗菌性化合物のカルボキシル基等の反応性官能基を結合させることができ、抗菌性を向上させることができる。
【0034】
・ 抗菌性天然繊維は、酸触媒の存在下、天然繊維にそのヒドロキシル基又はアミノ基と反応する反応性官能基を有する抗菌性化合物としてのツヤ酸やβ−ツヤプリシンを加熱して作用させるものである。そして、天然繊維のヒドロキシル基又はアミノ基に抗菌性化合物の反応性官能基を反応させて化学的に結合させる。このため、天然繊維のヒドロキシル基又はアミノ基に抗菌性化合物のカルボキシル基やヒドロキシル基を効率良く反応させることができる。従って、抗菌性を持続させることができ、洗濯した場合でも抗菌性を保持することができる抗菌性天然繊維を容易に製造することができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
まず、ウェスタン・レッド・シダーからのツヤ酸の製造について説明する。
ウェスタン・レッド・シダーのチップ400gを1.5MPaの飽和水蒸気で20分間蒸煮し、軟化させた後圧縮し、30分間高圧水蒸気蒸留を行い、蒸留液を得た。その蒸留液を冷蔵庫で冷却してツヤ酸の結晶を得、それを濾別後、熱水により再結晶させて精製した。
(実施例1及び比較例1、2)
前記蒸留液10.0mlに対し、触媒として1N塩酸(HCl)2.0ml(実施例1)又は炭酸ナトリウム(NaCO)0.5mg(比較例1)、1.0mg(比較例2)を加えた液に、それぞれ綿(コットン)を浸漬させ、脱水し、155℃で3分間加熱処理を行った。そして、実施例1、比較例1及び比較例2について、未洗濯処理、1回洗濯処理及び10回洗濯処理を行った。得られた各試料に関し、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureu)を用い、下記に示す方法に従って抗菌性試験を行った。その結果を表1に示した。
(実施例2〜5及び比較例3〜6)
前記高圧水蒸気蒸留で得られたツヤ酸を用い、市販のコットン(実施例2及び比較例3)、レーヨン(実施例3及び比較例4)、ウール(実施例4及び比較例5)、シルク(実施例5及び比較例6)の各天然繊維に対してエステル化反応及びアミド化反応を行った。すなわち、実施例2、3、4及び5においては、ツヤ酸1gと天然繊維10gに触媒としてp−トルエンスルホン酸20mg、溶媒として1,4−ジオキサン400mlを用い、120℃のオイルバス中で脱水しながら48時間還流を行った。反応後、天然繊維をメタノールで十分洗浄し、未反応のツヤ酸及びp−トルエンスルホン酸を除去した後、乾燥させた。比較例3、4、5及び6においては、上記の処理を行わない各繊維を用いた。このようにして得られた各繊維について、試験菌として黄色ブドウ球菌、MRSA(Methicillin resistant Staphylococcus aureus)及び大腸菌(Escherichia coli)を用い、下記に示す抗菌性試験を行った。その結果を表2に示した。
(抗菌性試験)
試料をそれぞれ0.4gにカットしてサンプル瓶に入れ、オートクレーブ内で121℃、15分間滅菌を行った。一方、予め液体培地で振とう培養した試験菌を1±0.3×10個/mlになるように調整し、試験菌液とした。その試験菌液を0.2ml採取し、前記試料に接種してキャップを閉め、37℃で18時間静置培養した。培養後、生理食塩水を加えて菌を洗い出した。10倍希釈法により、希釈系列を作製し、混釈平面培養を行った。48時間培養後、コロニーをカウントし、生菌数、殺菌活性値及び静菌活性値を求めた。殺菌活性値及び静菌活性値は、次のようにして算出した。
【0036】
図1は、試験菌の培養時間と生菌数との関係を示すグラフである。図中Aは標準繊維の接種直後の生菌数、Bは標準繊維の18時間培養後の生菌数及びC(CとC)は試験繊維の18時間培養後の生菌数を表している。
【0037】
殺菌活性値=−log(C/A)
静菌活性値=−log(C/B)
さらに、天然繊維(コットン)にツヤ酸が化学的に結合していることを確認するために、前記ツヤ酸を含む蒸留液で処理して得られた天然繊維に1,4−ジオキサンと水酸化ナトリウム水溶液を入れて24時間撹拌して加水分解反応を行わせた。その後、塩酸を用いて加水分解反応を停止し、クロロホルムで3回分液した。そして、クロロホルム層を濃縮し、濃縮後のサンプルをアセトンを用いて1mg/mlに調整し、質量分析(MS)及びガスクロマトグラフ分析(GC)を行った。その結果、質量分析でツヤ酸を確認でき、またガスクロマトグラフ分析でコットン1000mg当たりツヤ酸1.58mgを検出することができた。従って、コットンにツヤ酸が化学的に結合していることを確認することができた。
【0038】
【表1】

表1に示したように、実施例1においては未洗濯の場合はもとより、10回洗濯した場合でも未洗濯の場合と全く同じ生菌数、殺菌活性値及び静菌活性値が得られた。一方、比較例1及び2では1回洗濯すると、生菌数が増え、殺菌活性値が低くなり、及び静菌活性値も低くなった。さらに10回洗濯すると、生菌数が一層増え、殺菌活性値がより低下し、及び静菌活性値もより低下した。
【0039】
【表2】

表2に示したように、実施例2(コットン)及び実施例3(レーヨン)においては、それぞれ比較例3及び比較例4に比べ、全般に黄色ブドウ球菌、MRSA及び大腸菌について、生菌数が少なく、殺菌活性値及び静菌活性値を高くすることができた。一方、実施例4(ウール)及び実施例5(シルク)では、それぞれ比較例5及び比較例6に比べ黄色ブドウ球菌、MRSA及び大腸菌について全般に生菌数が減り、殺菌活性値及び静菌活性値が高くなったが、実施例2及び3に比べて生菌数が増え、殺菌活性値及び静菌活性値が低い結果であった。但し、実施例4及び実施例5においても、抗菌性は従来に比べて十分であった。
(実施例6)
抗菌性化合物としてのβ−ツヤプリシンとセルロース繊維のヒドロキシル基との反応性を確認するために、セルロース繊維の代わりにエタノールを用いて反応を行った。すなわち、β−ツヤプリシン100mgを乾燥エタノール50mlに溶解し、p−トルエンスルホン酸2mgを触媒として24時間脱水しながら還流させた。その後、エタノールを揮散させ、酢酸エチルを加えて分液し、酢酸エチル層から生成物を得た。その生成物をNMR(核磁気共鳴スペクトル)分析により同定した。その結果、生成物はβ−ツヤプリシンのヒドロキシル基と共役したカルボニル基がエチルエーテル化された化合物であった。よって、β−ツヤプリシンはセルロース繊維のヒドロキシル基と十分に反応することが確認された。
【0040】
なお、前記実施形態を次のように変更して具体化することも可能である。
・ ツヤ酸やツヤプリシンを化学合成法によって得ることもできる。
・ 抗菌性化合物として、抗菌性を有するβ―ラクタム系、キノロン系等の化合物を使用することも可能である。
【0041】
・ 天然繊維として、麻、ケナフ、バンブーコットン、バンブーレーヨン等を用いることもできる。
さらに、前記実施形態から把握できる技術的思想について以下に記載する。
【0042】
・ 前記ツヤプリシンは、β−ツヤプリシン又はγ−ツヤプリシンであることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の抗菌性天然繊維。このように構成した場合、請求項3又は請求項4に係る発明の効果に加え、ツヤプリシンをウェスタン・レッド・シダーから容易に得ることができる。
【0043】
・ 前記天然繊維はセルロース系繊維であり、抗菌性化合物はツヤ酸であることを特徴とする請求項5に記載の抗菌性天然繊維の製造方法。このように構成した場合、請求項5に係る発明の効果を容易に発揮させることができる。
【0044】
・ 前記反応は100〜150℃の温度で行われることを特徴とする請求項5に記載の抗菌性天然繊維の製造方法。このように構成した場合、請求項5に係る発明の効果に加え、エステル化反応、アミド化反応等の反応を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】試験菌の培養時間と生菌数との関係を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然繊維のヒドロキシル基又はアミノ基と反応する反応性官能基を有する抗菌性化合物が天然繊維に化学的に結合されて構成されていることを特徴とする抗菌性天然繊維。
【請求項2】
前記抗菌性化合物は、カルボキシル基若しくはその変性基を有するツヤ酸若しくはその誘導体又はヒドロキシル基と共役したカルボニル基を有するツヤプリシンであることを特徴とする請求項1に記載の抗菌性天然繊維。
【請求項3】
前記抗菌性化合物は、ウェスタン・レッド・シダーからの1.2〜2.0MPaの高圧水蒸気を用いた水蒸気蒸留により得られるものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の抗菌性天然繊維。
【請求項4】
前記天然繊維は、セルロース系繊維であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の抗菌性天然繊維。
【請求項5】
酸触媒の存在下、天然繊維にそのヒドロキシル基又はアミノ基と反応する反応性官能基を有する抗菌性化合物を加熱して作用させ、天然繊維のヒドロキシル基又はアミノ基に抗菌性化合物の前記反応性官能基を反応させて化学的に結合させることを特徴とする抗菌性天然繊維の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−307392(P2006−307392A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−133454(P2005−133454)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年11月1日、2日 日本木材学会中部支部主催の「2004年度 日本木材学会中部支部大会」において文書をもって発表
【出願人】(399052589)
【Fターム(参考)】