説明

抗菌性木材加工品およびそれを用いた抗菌性外装体

【課題】 抗菌性木材加工品および抗菌性外装体において、長期間使用しても抗菌性を維持することができるとともに、容易に製造できるようにする。
【解決手段】 板厚tのブランク板材7を、例えばヒノキやヒバなどの抗菌性を有する木材から切り出す。そして、高温高圧水蒸気環境下で、キャビティ金型8、コア金型9により圧縮成形を行い、肉厚t(ただし、t<t)の前カバー3Aの形状を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性木材加工品およびそれを用いた抗菌性外装体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、手に持って使用したり、手に触れたりすることが多く、細菌の増殖やカビの発生が起こりやすい機器、あるいは、例えばシロアリ、カビなどに侵されやすい環境で使用される機器において、抗菌処理を施すことが行われている。
抗菌処理としては、例えば樹脂製品では抗菌剤を添加して成形する処理が、金属製品などでは抗菌剤を表面にコーティングする処理が、それぞれ知られている。
例えば、特許文献1には、抗菌剤を合成樹脂に添加して成形した外装ケース、または樹脂ケースの表面に抗菌剤の塗布部を設けた外装ケースを有する情報読取装置およびその保持装置が記載されている。
また、特許文献2には、キーボードの前面に抗菌成分が配合された柔軟な樹脂、ゴム材、金属を用いたパームレストを粘着剤で固定したり、嵌め込んだりすることにより、抗菌作用が劣化しても容易に交換できるようにしたノート型パソコンが記載されている。
また、特許文献3には、ヒノキチオールを含む青森ひばなどの木材の薄膜を所定形状に加工してなる抗菌シートが記載されている。
【特許文献1】特開平9ー34980号公報(第2−3頁、図2)
【特許文献2】特開2002−32178号公報(第2頁、図1−3)
【特許文献3】特開2001−31518号公報(第2頁、図1−3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のような従来の抗菌性外装体には、以下のような問題があった。
特許文献1に記載の技術では、抗菌剤を合成樹脂に添加した外装ケースの場合、内部に配合された抗菌剤が無駄に使用されており、表面の抗菌剤が劣化してしまうと、抗菌作用を持続することができないという問題がある。また、抗菌剤を表面のみに塗布する場合にも、摩耗や損傷などにより抗菌剤塗布部が失われると抗菌作用が失われてしまうという問題がある。
特許文献2に記載の技術では、抗菌作用が劣化しても交換できるようにしているが、交換作業の手間がかかり、交換部品のコストがかかるという問題がある。したがって、例えば携帯電話などのように、使用時に外装体の全体に手が触れる場合などには、適用することが難しいという問題がある。
特許文献3に記載の技術では、抗菌作用を有する木材を用いているので、例えば抗菌剤を塗布するといった抗菌処理を行う必要がないが、薄膜シートのため、強度が小さく、例えば外装体などのように外力が加わる部材には適用することができないという問題がある。
【0004】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、長期間使用しても抗菌性を維持することができるとともに、容易に製造できる抗菌性木材加工品および抗菌性外装体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明では、抗菌性木材加工品において、抗菌性を有する木材を金型で圧縮成形してなる構成とする。
この発明によれば、金型で圧縮成形するので、金型に応じた3次元形状に加工することができ、木材自体の抗菌性を用いるので、抗菌処理などを後加工する手間を省くことができる。
木材の抗菌性は、木材に含有される精油などの抗菌作用に基づいている。このような精油は、表面からいわゆる木の香りとして長時間にわたり徐々に放出されては内部から補われていく。この精油成分は、圧縮成形されることにより、厚さに比べて含有量が多くなっているため抗菌作用を長期間にわたって持続できるものである。
【0006】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の抗菌性木材加工品において、前記抗菌性を有する木材がヒノキまたはヒバである構成とする。
この発明によれば、ヒノキまたはヒバの有する強力な抗菌作用により、優れた抗菌性を備えることができる。
ヒノキの精油成分には、例えばカンフェン、αーピネンなどのモノテルペン、また例えばカジノール、ヒノキオールなどのセスキテルペンなどを含んでおり、これらテルペン類の相乗作用により抗菌作用を有する。そのため、細菌の繁殖や、カビ、ダニなどの発生を抑えることができ、シロアリを寄せ付けないことでも知られている。
ヒバの精油成分は、ツヨプセン、セスキテルペン、ヒノキチオール、βドラブリンなどを含んでおり、このうちヒノキチオールとβドラブリンとにより強力な抗菌性がもたらされている。またシロアリ、蚊などを寄せ付けない防虫作用も有する。
【0007】
請求項3に記載の発明では、抗菌性外装体において、請求項1または2に記載の抗菌性木材加工品により、被覆物を覆う形状が形成された構成とする。
この発明によれば、請求項1または2に記載の抗菌性木材加工品を用いるので、請求項1または2に記載の発明と同様の作用効果を備えることができる。
特に、外装体では、比較的薄肉に圧縮成形されるので、板厚方向への精油成分の移動距離が短くなるため、表面から抗菌性を有する精油成分が失われてもただちに補給されるため、抗菌効果の持続性を高めることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の抗菌性木材加工品およびそれを用いた抗菌性外装体によれば、抗菌性を有する木材を圧縮成形することにより、抗菌処理などの後加工を行うことなく容易に製造でき、表面が摩耗したり傷ついたりしても抗菌性を維持でき、しかも圧縮成形することにより、厚さに比べて抗菌成分を多量に含有することができるので、長期間にわたって使用しても抗菌性を維持することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下では、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
本発明の実施形態に係る抗菌性外装体について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る抗菌性外装体の一例について説明するための斜視説明図である。図2は、本発明の実施形態に係る抗菌性外装体の一例について説明するための平面図およびA−A断面図である。
【0010】
本発明の抗菌性外装体は、抗菌性を有する木材を金型で圧縮成形した本発明の抗菌性木材加工品を用いて構成されるもので、材質自体の抗菌性により細菌の繁殖、カビの発生などを抑え、それにより汚れや腐食などを防止することができる外装体である。そのため、手に持って使用したり、湿気や水分が多い環境で使用したりする道具や機器の外装体などに好適に用いることができるものである。
細菌の繁殖、カビの発生は、衛生上問題となるばかりでなく、黒ずみを起こしたり、木材の腐食を起こしたり、という具合に、外観上、耐久性上の問題をも引き起こすものである。
【0011】
図1に示すように、本実施形態のカバー3(抗菌性外装体)は、電動かみそり1の把持部を構成するもので、前カバー3A(抗菌性外装体)と後カバー3B(抗菌性外装体)とからなる。
前カバー3Aは、図2(a)、(b)に示すように、平面視で一方が幅狭で他方が幅広の上面部3aの外周部に、上面部3aと略同じ肉厚の側面部3bが平面視略U字状をなすように立設されてなる。そして、上面部3aの幅広部分の端部側に側面視コ字状の開口部3cが形成されている。
前カバー3Aの平面視幅狭の部分は、手で把持しやすい幅に設けられ、上面部3a上に滑り止めを兼ねた凹部5…が適宜ピッチで形成されている。上面部3aの幅狭部分と幅広部分との間には、電源スイッチに連動したスライドバー4を摺動可能に保持する溝孔部6が設けられている。
前カバー3Aの平均的肉厚は、厚さtとされている。
【0012】
前カバー3Aは、抗菌性を有する木材を金型で圧縮成形することにより製造される。
抗菌性を有する木材としては、材内の精油成分が抗菌作用を有する木材であればどのような材質を用いてもよい。例えば、ヒノキ、ヒバ、ネズコ、タイヒ(タイワンヒノキの通称)、ユーカリなどの天然木を挙げることができる。またこれらをチップ状、おがくず状にして固めたものも好適に採用できる。
【0013】
後カバー3Bは、図1に示すように、前カバー3Aと略同様な概形状とされ、上面部3a、側面部3b、開口部3cを備える。
そして、前カバー3Aと後カバー3Bとの側面部3bの端部同士(図2(b)の下側に相当)を合わせることにより、それぞれの開口部3cにより、側面視角穴状の開口部を有する筐体が形成されるようになっている。
なお、図1、2では、図示の簡単のために省略しているが、前カバー3A、後カバー3Bのそれぞれの側面部3bの端部には、それぞれ筐体を形成するために適宜の合わせ目が形成できる形状が設けられている。例えば、互いの突き当て部、嵌合部、連結部、ねじ締結部など、一般のカバー、外装体の合わせ目に設けられるような形状が必要に応じて設けられている。
後カバー3Bの材質は、前カバー3Aと同様の木材が採用できる。
【0014】
電動かみそり1は、これら前カバー3A、後カバー3Bにより、バッテリ、モータなど電動かみそり1を動作させるための不図示の機構が被覆物として覆われて内蔵され、それらに接続してひげ剃り動作を行うために、相対的に移動しあう内刃、外刃が設けられたかみそり部2が、開口部3c、3cから突出して設けられている。
【0015】
前カバー3Aの製造方法について、簡単に説明する。
図3(a)、(b)、(c)は、本発明の実施形態に係る抗菌性外装体の各製造工程について説明するための図2(a)のA−A断面図に相当する断面説明図である。
【0016】
図3(a)に示すように、厚さt(ただし、t>t)の平板状のブランク板材7を、前カバー3Aの展開寸法よりも大きめに切断して、前カバー3Aを圧縮成形するためのキャビティ金型8、コア金型9に対してセットする。
キャビティ金型8、コア金型9には、金型面8a、9aに、必要な凹凸形状が形成されている。例えば、符号8bは、前カバー3Aの凹部5に対応する突起部である。
【0017】
そして、図3(b)に示すように、キャビティ金型8、コア金型9をスライドし、ブランク板材7を図示上下方向に肉厚がtとなるまで圧縮する。このとき、ブランク板材7を軟化させるために、高温高圧水蒸気を噴射しつつ圧縮を行う。例えば、180℃〜200℃程度の高温水蒸気を噴射することが好ましい。また、キャビティ金型8、コア金型9も同等の温度に加温することが好ましい。このような圧縮工程は、例えば、キャビティ金型8、コア金型9を高圧容器内に設置するとより効率的に行うことができる。
【0018】
このような圧縮工程では、高温水蒸気が木質繊維に膨潤されて木質繊維の柔軟性が増すために、割れなどを引き起こすことなく、ブランク板材7を金型面8a、9aに沿って変形させ、金型面の形状を転写することが可能となる。
そして、形状が固定されるまで、型締めを保持する。
所定時間、型締めを保持した後、水分を乾燥させて、脱型する。
そして、ブランク板材7を前カバー3Aの展開寸法より大きくとったために上面部3a、側面部3bの端部に形成される縁部10を除去加工する(図3(c)参照)。また、必要に応じて、切欠き、貫通孔などを加工する。
このようにして、前カバー3Aが製造される。ここで、前カバー3Aの圧縮率αは、α=1−(t/t)、となっており、αの値は0.5〜0.7程度とされる。
なお、後カバー3Bも、金型面8a、9aの形状が異なる以外は上記と同様な工程を行うことにより製造される。
【0019】
次に本実施形態のカバー3の作用について説明する。
電動かみそり1は、例えば、洗顔時などに使用されることが多く、洗面所、浴室などの高湿度もしくは水に濡れやすい環境において用いられる。また、カバー3の部分は把持部を構成しているので、濡れたり汚れたりしている手で把持されることが多い。また、かみそり部2に近い部分では、ひげ、汗や垢などが付着しやすい。
そのため、カバー3には、細菌が繁殖したりカビが発生したりしやすくなっている。
【0020】
しかし、本実施形態のカバー3によれば、抗菌性を有する木材からなるので、こうした環境下でも細菌やカビの活動が抑制され、清潔な表面を維持することができる。
このような抗菌作用は、木材内に含まれる精油成分の特性に由来するもので、木材全体に行き渡っている。したがって、表面が傷ついたり摩耗したりしても木材表面において一定の抗菌作用が維持される。
また、精油成分は、木材表面から徐々に揮発したり洗い流されたりして、経時では失われていくが、木材内部から補給されていくので、材内に蓄積された精油成分が残っている限りは抗菌作用が失われない。
本実施形態では、木材を圧縮成形しているので、高強度が得られて傷や摩耗も比較的起こりにくくなること、また、同じ厚さの天然木材に比べて多くの精油成分を含み、失われた精油分の供給路が短くて済むことなどが相俟って、優れた抗菌作用を長期間にわたって保持することができる。
【0021】
抗菌性を有する精油成分は、多岐にわたるが、例えば、ヒノキの場合、例えばカンフェン、αーピネンなどのモノテルペン、また例えばカジノール、ヒノキオールなどのセスキテルペンなどを含んでおり、これらテルペン類の相乗作用により抗菌作用を有すると言われている。
また、ヒバの場合、ツヨプセン、セスキテルペン、ヒノキチオール、βドラブリンなどを含んでおり、このうちヒノキチオールとβドラブリンとにより強力な抗菌性をもたらすと言われている。
これらヒノキ、ヒバは、特に種々の古建築物などでも十分耐食性が検証されており、非常に優れた抗菌作用を有することが知られている。ただし、抗菌性の木材はこれらに限定されることなく、抗菌性外装体の使用環境などに応じて、適宜好適な材質を選択することができる。
例えば、防虫作用(特定の昆虫を近寄らせない作用)と抗菌作用とは異なる作用であるが、一般に防虫作用を有する木材は、何らかの抗菌作用を有する場合が多いので、採用できる場合が多い。
【0022】
このように、本実施形態の抗菌性外装体によれば、抗菌性を有する木材を金型で圧縮成形して形成するので、抗菌処理などの後加工を施すことなく、長期間使用しても抗菌性を維持できる外装体とすることができる。
ある種の木材が抗菌性を有することは周知であるが、本実施形態では、圧縮成形することにより、電動かみそり1などの工業製品の外装体に適用可能な形状、必要な強度を実現することが可能となり、また、抗菌作用をより長期間持続させることが可能となっているものである。
【0023】
なお、上記の説明では、抗菌性外装体を電動かみそりに適用した例で説明したが、本発明の抗菌性外装体は、これ以外の機器の外装体にも適用できることは言うまでもない。
このような機器として、手で持つ機器、高湿環境または水に触れやすい環境で用いる機器、衛生上抗菌性が必要な機器であれば、どのような機器の外装体であってもよい。
例えば、カメラや携帯電話、ICレコーダ、PDAなどの電子機器、あるいはテレビやビデオデッキ、エアコン、プロジェクタなどの家電製品、浴室、トイレ用機器のリモコンなどの機器を含めることができる。
【0024】
また、上記の説明では、抗菌性木材加工品の例として、抗菌性外装体の例で説明したが、抗菌性が必要とされ、しかも、金型による圧縮成形を行うことにより、高強度を備えつつ種々の造形が容易となる点を生かすことができるならば、外装体に用途が限定されるものではない。
例えば、容器、把持部、取っ手や、道具、機構の一部など、外装体以外のどのような部材であってもよい。
【0025】
また、上記の説明では、金型による圧縮成形として、平板状のブランク板材を成形する場合の例で説明したが、ブランク材を成形品より厚肉の3次元形状として圧縮成形してもよい。その場合、例えば一方の開口した函状などであっても、比較的深さのある形状を容易に成形することができるという利点がある。
【0026】
また、上記の説明では、圧縮成形の形状が略均一の肉厚を有する例で説明したが、木材の圧縮成形は、このような均一肉厚形状に限定されるものではなく、成形前のブランク形状、成形後の製品形状は、いずれが偏肉していてもよい。また、その結果、部位により圧縮率が異なっていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態に係る抗菌性外装体の一例について説明するための斜視説明図である。
【図2】本発明の実施形態に係る抗菌性外装体の一例について説明するための平面図およびA−A断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る抗菌性外装体の各製造工程について説明するための図2(a)のA−A断面図に相当する断面説明図である。
【符号の説明】
【0028】
1 電動かみそり
3 カバー(抗菌性外装体)
3A 前カバー(抗菌性外装体)
3B 後カバー(抗菌性外装体)
7 ブランク板材
8 キャビティ金型(金型)
9 コア金型(金型)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌性を有する木材を金型で圧縮成形してなる抗菌性木材加工品。
【請求項2】
前記抗菌性を有する木材が、ヒノキまたはヒバであることを特徴とする請求項1に記載の抗菌性木材加工品。
【請求項3】
請求項1または2に記載の抗菌性木材加工品により、被覆物を覆う形状が形成されてなる抗菌性外装体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−130673(P2006−130673A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−319040(P2004−319040)
【出願日】平成16年11月2日(2004.11.2)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】