説明

抗菌性組成物及び抗菌性製品

本発明は、銀イオン含有リン酸四価金属塩系抗菌剤粒子などの銀系抗菌剤を含有する抗菌性組成物を配合した繊維やフィルムなどの抗菌性製品への加工適性を改善することを目的とする。本発明は、下記式(1)で表されるリン酸四価金属塩系抗菌剤粒子、およびモース硬度6以下の無機化合物粒子を含有し、これらの最大粒子径が共に実質的に10μm以下である抗菌性組成物である。Ag(PO・nHO(1)式中、Qはアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン及び水素イオンよりなる群から選ばれた少なくとも1種のイオンであり、Mは4価金属イオンであり、nは0≦n≦6を満たす数であり、aおよびbは、いずれも正数であり、mはQの価数であり、a+mb=1である。さらに、上記抗菌性組成物を含有する抗菌性製品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、抗菌性組成物に関し、更に詳しくは、抗菌性組成物を配合した繊維やフィルムの加工性を改善することができる抗菌性組成物に関する。
【背景技術】
リン酸四価金属塩系抗菌剤は、抗菌性、安全性、及び耐熱性に優れることなどから、種々の樹脂に配合され、繊維、フィルム、各種容器などの身近な樹脂成形物に耐久性のある抗菌性を付与する添加剤として広範囲に利用されている(例えば、特開平3−083905号公報、特開平7−304620号公報および特開2002−309445号公報など参照)。
しかし、リン酸四価金属塩系抗菌剤を樹脂に配合して成形物を製造する場合、その成形物の接触走行によって接触する装置部分が摩耗し易いという問題がある。例えば、繊維の場合、製糸や後加工の工程において繊維はガイド類などと接触走行するが、その際の接触点がガイド類などの一部分に集中するので、硬度が高いアルミナやジルコニアなどのセラミックス製のガイドを使用しても、摩耗が容易に生じてしまうという問題があった。
この繊維紡糸時のガイド類などの磨耗対策として、繊維を芯鞘複合糸となし、その芯成分に無機粒子を添加する方法が提案されている(例えば、特開平8−144151号公報および特開昭62−57920号公報参照)。しかしながらこの方法ではリン酸四価金属塩系抗菌剤が繊維の芯部に添加されるため、抗菌効果が出難い。
更に、抗菌性ゼオライトの担持体の組成と構造を特定することにより粒子の分散性を改善することによる磨耗軽減の方法も提案されている(例えば、特開平8−151515号公報参照)が、抗菌性ゼオライトは、耐薬品性や耐洗濯性、耐光性などによる劣化がしやすいため抗菌性の耐久性に乏しく、リン酸四価金属系抗菌剤のような優れた性能が得られない。
繊維体に無機粒子を含有させた繊維の製造方法が開示されている(例えば、特開2001−159024号公報参照)が、無機抗菌剤についての記載および示唆がない。
【発明の開示】
本発明は、銀イオン含有リン酸四価金属塩系抗菌剤粒子などの銀系抗菌剤を含有する抗菌性組成物を配合した繊維やフィルムなどの抗菌性製品への加工適性を改善することを目的とする。
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のリン酸四価金属塩系抗菌剤粒子、およびモース硬度6以下の無機化合物粒子を含有し、これらの最大粒子径が共に実質的に10μm以下であることを特徴とする抗菌性組成物が、上記問題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、上記の特定のリン酸四価金属塩系抗菌剤粒子は、下記式(1)で示される。
Ag(PO・nHO (1)
式中、Qはアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン及び水素イオンよりなる群から選ばれた少なくとも1種のイオンであり、Mは4価金属イオンであり、nは0≦n≦6を満たす数であり、aおよびbは、いずれも正数であり、mはQの価数であり、a+mb=1である。
さらに、上記抗菌性組成物を含有する抗菌性製品についても発明するに至った。
本発明は、上記知見に基づいて完成されたものであり、以下に代表的なものを例示する。
1.上記式(1)で示されるリン酸四価金属塩系抗菌剤粒子およびモース硬度6以下の無機化合物粒子を含有し、これらの最大粒径が実質的に10μm以下であることを特徴とする抗菌性組成物である。
2.前記リン酸四価金属塩系抗菌剤粒子および前記無機化合物粒子の平均粒径が0.1〜5μmである上記1に記載の抗菌性組成物である。
3.前記無機化合物粒子の平均粒径が前記リン酸四価金属塩系抗菌剤粒子の平均粒径より小さい上記1に記載の抗菌性組成物である。
4.前記無機化合物粒子が光触媒活性のないアナターゼ型の二酸化チタンである上記1に記載の抗菌性組成物である。
5.前記リン酸四価金属塩系抗菌剤粒子と前記無機化合物粒子の配合比が95:5〜10:90である上記1に記載の抗菌性組成物である。
6.上記1〜5のいずれか1つに記載の抗菌性組成物を含有する抗菌性製品である。
7.前記抗菌性製品が抗菌性繊維または抗菌性フィルムである上記6に記載の抗菌性製品である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
○リン酸四価金属塩系抗菌剤
本発明における銀イオン含有リン酸四価金属塩系抗菌剤(本発明において、単に「リン酸四価金属塩系抗菌剤」という。)は、上記式(1)で表されるものである。
式(1)で表されるリン酸四価金属塩は、空間群R3cに属する結晶性化合物であり、各構成イオンが3次元網目状構造を形成している。
式(1)におけるQは、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン及び水素イオンよりなる群から選ばれた少なくとも1種のイオンであり、好ましい具体例には、リチウム、ナトリウムおよびカリウムなどのアルカリ金属イオン、マグネシウムまたはカルシウムなどのアルカリ土類金属イオンおよび水素イオンであり、これらの中では、化合物の安定性および安価に入手できる点から、リチウム、ナトリウム、アンモニウムイオンおよび水素イオンが好ましいイオンである。
式(1)におけるMは、4価金属イオンであり、好ましい具体例には、ジルコニウムイオン、チタンイオンまたは錫イオンがあり、化合物の安全性を考慮すると、ジルコニウムイオンおよびチタンイオンがより好ましく、特に好ましい4価金属イオンはジルコニウムイオンである。
式(1)の具体例として、以下のものを挙げることができる。
Ag0.005Li0.995Zr(PO
Ag0.01(NH0.99Zr(PO
Ag0.05Na0.95Zr(PO
Ag0.20.8Ti(PO
Ag0.10.9Zr(PO
Ag0.5Na0.250.25Zr(PO
Ag0.9Na0.1Zr(PO
Ag0.7Na0.3Sn(PO
本発明の式(1)で表されるリン酸四価金属塩系抗菌剤を合成する方法は、焼成法、湿式法および水熱法などがあり、例えば以下のようにして容易に得ることができる。
○リン酸四価金属塩系抗菌剤の合成方法
焼成法により合成する場合、炭酸リチウム(LiCO)または炭酸ナトリウム(NaCO)などのアルカリ金属を含有する化合物又はアルカリ土類金属を含有する化合物、酸化ジルコニウム(ZrO)などの四価金属を含有する化合物およびリン酸二水素アンモニウム(NHPO)などのリン酸基を含有する化合物を、モル比で約1:4:6となるように混合し、これを1100〜1400℃で焼成することにより、下記式(2)で示されるリン酸四価金属塩系化合物を得る。
Q’(PO (2)
式(2)のQ’はアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンまたはアンモニウムイオンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属イオンであり、Mは式(1)のものと同様のものであり、xはQ’が1価であるときは1であり、Q’が2価であるときは1/2である。
式(2)で表されるものを、室温〜100℃において、適当な濃度で銀イオンを含有する水溶液中に浸漬することにより、式(1)で示される化合物を得ることができる。
また、湿式法により式(1)で表されるものを合成する場合、水中において、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンおよびアンモニウムイオンよりなる群から選ばれる少なくとも一種のイオンを存在させて、リン酸イオンと四価金属イオンを反応させてリン酸四価金属塩を得て、これに銀イオンを担持させる。
より具体的には、オキシ硝酸ジルコニウムおよび硝酸ナトリウムの水溶液を攪拌しながら、この中にシュウ酸を加え、さらにリン酸を加える。水酸化ナトリウム水溶液にて反応液の約pHを3.5に調整し、7〜8時間加熱還流後、沈澱物を濾過、水洗、乾燥、粉砕し、リン酸四価金属[NaM(PO]を得る(Mは式(1)のものと同様のもので、この例ではジルコニウムである。また化合物は水和物であっても良い。)。これを適当な濃度で抗菌性金属を含有する水溶液中に浸漬することにより、式(1)で示される抗菌剤を得る。また、後の実施例に記載したようにオキシ硝酸ジルコニウムに替えてオキシ塩化ジルコニウムを使用することもできる。
式(1)におけるaの値は、必要とする特性および使用条件などに応じて適宜調整することができる。例えば、上記式(2)で表される化合物を浸漬する水溶液における銀イオンの濃度や、当該水溶液に浸漬する時間および温度などを調整することにより、式(1)のaの値が異なったものを得ることができる。
後述する抗菌性樹脂組成物又は抗菌性繊維組成物において、防かび、抗菌性および防藻性を発揮させるには、式(1)におけるaの値は大きい方がよい。式(1)のaの値が0.001以上であれば、充分に防かび、抗菌性および防藻性を発揮させることができる。しかし、式(1)のaの値が0.01未満であると、防かび、抗菌性および防藻性を長時間発揮させることが困難となる恐れがあるので、aの値を0.01以上の値とすることが好ましい。更に、抗菌性組成物を配合した抗菌性製品の成形性や機械的強度を維持し、十分な防かび、抗菌性および防藻性を長時間発揮させるために、aの値を0.2以上とすることが好ましい。また、経済性を考慮すると、aの値は0.7以下が好ましい。
本発明の式(1)で表されるリン酸四価金属塩系抗菌剤の化学的および物理的安定性を向上させ、熱や光の暴露後の変色を高度に防止した抗菌剤を得るためには、このリン酸四価金属塩系化合物に銀イオンを担持させた後に焼成工程を実施するのが好ましい。
この焼成工程を経ることにより、抗菌剤の化学的および物理的安定性を格段に向上させ、変色がなく耐侯性に極めて優れた抗菌剤を得ることができる。また、焼成前に付着していた水分がほとんど存在しなくなる為に、当該抗菌剤を配合した樹脂の加工性も向上する。この工程において、銀イオンを担持させたリン酸四価金属塩系化合物を500〜1300℃において焼成することが好ましく、より好ましくは600〜1000℃、特に好ましくは700〜900℃で焼成するのが良い。500℃未満の温度で焼成すると、抗菌剤の化学的および物理的安定性を向上させるという効果が不十分である恐れがあり、1300℃より高い温度で焼成すると、抗菌性が低下する、或いは微粒子状のリン酸四価金属塩系化合物が互いに融着するために、微粒子状の抗菌剤を得ることが困難になる恐れがある。焼成時間に特に制限はなく、通常1〜20時間の焼成により、十分に本発明の効果を発揮させることができる。昇温速度および降温速度についても、特に制限はなく、焼成炉の能力、生産性などを考慮して適宜調整することができる。
また、抗菌性および耐侯性が極めて優れた抗菌剤を得るには、本発明におけるリン酸四価金属塩系抗菌剤において水素イオンを担持させることが好ましい。リン酸四価金属塩系抗菌剤がアンモニウムイオンを有する場合、上記の焼成工程を実施することにより、アンモニウムイオンが熱分解して水素イオンが残るため、リン酸四価金属塩系抗菌剤に焼成工程を施せば水素イオンを担持させることができる。このときの好ましい焼成条件は、温度が600〜1100℃であり、時間が約0.5〜2時間である。
一方、リン酸四価金属塩系抗菌剤がアンモニウムイオンを有しないかまたは極めて少量しか有しない場合、リン酸四価金属塩系抗菌剤に水素イオンを担持させる工程を追加することが好ましく、その典型的な方法として、リン酸四価金属塩系化合物を酸性溶液に浸漬させる方法などがあり、この方法は、アンモニウムイオンを有するリン酸四価金属塩系化合物を焼成する上記の方法に比較して、生産性の高い方法である。なお、酸性溶液に浸漬させるリン酸四価金属塩系化合物は、銀イオンを担持させたものであっても、そうでないものであっても良い。リン酸四価金属塩系化合物に水素イオンを担持させるために浸漬する酸性溶液の好ましい具体例として、塩酸、硫酸および硝酸などの水溶液がある。酸性溶液の酸濃度、温度、浸漬時間は、特に制限はないが、一般に酸濃度が高い程および温度が高い程、短時間で水素イオンを担持させることができることから、好ましい酸濃度は0.1N以上であり、好ましい処理温度は40℃以上、より好ましくは60℃以上且つ100℃以下の温度であり、好ましい浸漬時間は10分以上、より好ましくは60分以上である。
本発明で用いるリン酸四価金属塩系抗菌剤は熱または光の暴露に対して安定であり、500℃、場合によっては800℃〜1100℃での加熱後であっても構造および組成が全く変化せず、紫外線の照射によっても何等変色を起こさない。また、本発明で用いるリン酸四価金属塩系抗菌剤は、液体状態にある水と接触したり、酸性溶液中でも骨格構造の変化がみられない。従って、各種成型加工物を得る際の加工および保存、さらには従来の抗菌剤のように、使用時において、加熱温度あるいは遮光条件などの制約を受けることがない。
リン酸四価金属塩系抗菌剤は、上記の合成方法により粒径分布を有する多分散粒子として得られる。本発明において使用する抗菌剤粒子は、この多分散抗菌剤粒子群を所定の粒子サイズ以上をカットして繊維の紡糸の際に弊害をもたらす粗大粒子を除去することができる。カットする最大粒径は適宜選択することができ、例えば、10μm、5μm又は2μmとすることが可能である。
本発明で用いるリン酸四価金属塩系抗菌剤粒子は、実質的に最大粒径が10μm以下であり、好ましくは実質的に5μm以下であり、更に好ましくは実質的に2μm以下のものが使用される。ここで、「実質的に」とは、最大粒径以下の粒子群の占める重量が全粒子重量の98%以上、好ましくは99%以上、更に好ましくは99.5%以上であることを言う。最大粒径が10μmを超える粗粒物では、例えば繊維に配合して溶融紡糸を行う際に、フィルター詰まりや糸切れを生じ易くなるので好ましくない。平均粒径は特に制限されないが、好ましくは0.1〜5μm、より好ましくは0.2〜2μmの範囲であり、平均粒径が0.1μm未満の微粒子では、繊維樹脂中に混入したときに凝集を起こして粗大化し易くなり、溶融紡糸時にフィルター詰まりや糸切れを生じる原因になる。また、平均粒径が5μmを超える場合にも同様の問題が生じることがある。なお、本発明での平均粒径とは、レーザー回折法により測定された体積基準による平均粒子径をいう。
○無機化合物粒子
本発明に用いる無機化合物粒子は、モース硬度6以下のものである。モース硬度が6より高いと、繊維紡糸時のガイド磨耗を軽減できない恐れがある。本発明に用いる無機化合物粒子は、モース硬度6.0以下のものが好ましく、モース硬度3.0〜6.0のものが更に好ましい。
モース硬度6.0以下の無機化合物粒子としては、無色ないし白色の粒子が好ましい。
モース硬度6.0以下の無機化合物粒子としては、無機酸のアルカリ土類金属塩、金属酸化物が好ましく、特に白色のものが適している。具体例としては、例えば炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、MgO、リン酸カルシウム類〔Ca(PO、CaHPOなど〕、タルク、マイカ、アナターゼ型二酸化チタン、酸化亜鉛、コロイド状シリカ、珪酸アルミニウム水和物などが挙げられる。
なお、本発明で使用するリン酸四価金属塩系抗菌剤粒子は、モース硬度6.0以下の無機化合物粒子には含まれない。
樹脂の成形や繊維の紡糸時は200℃以上の高温にさらされるため、無機化合物粒子は化合物中に結晶水や分解物を持たないか、持っていたとしても300℃までは水分の放出や分解を起こさないもので、吸湿性の低いものが好ましい。この好ましい例としては、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、アナターゼ型二酸化チタン、酸化亜鉛などが挙げられ、無水の化合物が好ましく使用される。さらに、繊維に汎用的に使用され、変色防止効果の高いことより、より好ましくはアナターゼ型二酸化チタンである。
アナターゼ型二酸化チタンは光触媒性能を有することが知られている。本発明の抗菌性組成物に光触媒性能を有する二酸化チタンを用いると、樹脂に添加し、成形物とした際および成形物を光の当たる環境下で使用した際に著しい樹脂の変色や劣化を起こす恐れがあるため好ましくなく、表面処理などを施し、光触媒性能を低下またはなくしたアナターゼ型二酸化チタンを使用することが好ましい。
リン酸四価金属塩系抗菌剤粒子と同じく、無機化合物粒子も一般に粒径分布を有する多分散粒子として得られる。本発明において使用する無機化合物粒子は、この多分散の無機化合物粒子を所定の粒子サイズ以上をカットすることにより繊維の紡糸の際に弊害をもたらす粗大粒子を除去することができる。カットする最大粒径は適宜選択することができ、例えば、10μm、5μm又は2μmとすることが可能である。
本発明で用いる無機化合物粒子は最大粒径が実質的に10μm以下であり、より好ましくは実質的に5μm以下であり、更に好ましくは実質的に2μm以下であるものが使用される。「実質的に」の定義は、リン酸四価金属塩系抗菌剤粒子の場合と同様である。最大粒径が10μmを超える粗粒物では、例えば繊維に配合して溶融紡糸を行う際に、フィルター詰まりや糸切れを生じ易くなるので好ましくない。平均粒径は特に制限されないが、好ましくは0.1〜5μm、より好ましくは0.2〜2μmの範囲であり、平均粒径が0.1μm未満の微粒子では、繊維樹脂中に混入したときに凝集を起こして粗大化し易くなり、溶融紡糸時にフィルター詰まりや糸切れを生じる原因になる。また、平均粒径が5μmを超える場合にも同様の問題が生じることがある。ここで、平均粒径は、粒度分布曲線に基づく50重量%径をいう。
また、更に好ましくはリン酸四価金属塩系抗菌剤粒子よりも平均粒径が小さいものである。平均粒径が式(1)で表されるリン酸四価金属塩系抗菌剤粒子よりも大きいと、リン酸四価金属塩系抗菌剤粒子の表面に無機化合物粒子が付きにくいため、抗菌性組成物を繊維やフィルムに配合して得られる抗菌性樹脂組成物の加工性を改善できない恐れがある。
尚、本発明における無機化合物粒子は1種類のみを使用しても、2種類以上を配合し併用してもよい。
○抗菌性組成物における配合割合
本発明の抗菌性組成物におけるリン酸四価金属塩系抗菌剤粒子と無機化合物粒子との好ましい配合割合は、これらの合計100質量部(以下単に部という)を基準として、無機化合物粒子が5〜90部であり、好ましくは30〜80部であり、更に好ましくは50〜75部である。無機化合物粒子の配合割合が5部より少ないと、抗菌性組成物を繊維やフィルムに配合して得られる抗菌性樹脂組成物の加工性を改善できない恐れがあり、無機化合物粒子が90部より多いと、リン酸四価金属塩系抗菌剤粒子による抗菌効果を発揮させることが困難となる恐れがある。また、充分な抗菌性を発揮させるには、抗菌性組成物における銀イオン濃度を0.5質量%以上とすることが好ましく、2質量%以上とすることがより好ましい。
○抗菌性樹脂組成物
本発明の抗菌性組成物は、樹脂に配合して抗菌性樹脂組成物とすることが可能である。
○樹脂
用いることができる樹脂は、天然樹脂、半合成樹脂および合成樹脂のいずれであってもよく、また熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。具体的な樹脂としては、成形用樹脂、繊維用樹脂およびゴム状樹脂のいずれであってもよく、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ABS樹脂、ナイロン、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリカーボネイト、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー、メラミン樹脂、ユリア樹脂、四フッ化エチレン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂およびフェノール樹脂などの成形用樹脂;ナイロン、ポリエチレン、レーヨン、アセテート、アクリル、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、キュプラ、トリアセテート、ビニリデンなどの繊維用樹脂;天然ゴムおよびシリコーンゴム、SBR(スチレン・ブタジエンゴム)、CR(クロロプレンゴム)、EPM(エチレン・プロピレンゴム)、FPM(フッ素ゴム)、NBR(ニトリルゴム)、CSM(クロルスルホン化ポリエチレンゴム)、BR(ブタジエンゴム)、IR(合成天然ゴム)、IIR(ブチルゴム)、ウレタンゴムおよびアクリルゴムなどのゴム状樹脂がある。
○抗菌性樹脂組成物における配合割合
抗菌性樹脂組成物における抗菌性組成物の好ましい配合割合は、抗菌性樹脂組成物100質量部当たり0.01〜10質量部である。0.01質量部未満では、抗菌性樹脂組成物に十分な抗菌性を発揮させることが困難となる恐れがあり、10質量部を越えて添加しても抗菌性の大きな向上はなく、寧ろ抗菌性樹脂組成物の有する他の物性を悪くする恐れがある。また、充分な抗菌性を発揮させるには、抗菌性樹脂組成物における銀イオン濃度を、0.001質量%以上とすることが好ましい。なお、マスターバッチとして用いる場合は、10〜35質量部が好ましく、更に好ましくは10〜25質量部である。
抗菌性樹脂組成物は、その樹脂の特性に合わせて適当な温度または圧力下で、抗菌性組成物および樹脂を混合することによって容易に抗菌性製品を調製することができる。これらの具体的操作は常法により行えば良く、塊状、フィルム状、糸状またはパイプ状、或いはこれらの複合体などの種々の形態に成形することができる。
本発明の抗菌性組成物の使用形態には、特に制限がなく、用途に応じて適宜他の成分と混合させたり、他の材料と複合させることができる。例えば、粉末、粉末含有分散液、粉末含有粒子、粉末含有塗料、粉末含有繊維、粉末含有紙、粉末含有プラスチック、粉末含有フィルム、粉末含有エアーゾルなどの種々の形態で用いることができ、更に必要に応じて、有機系防カビ剤、消臭剤、防炎剤、帯電防止剤、顔料、無機イオン交換体、防食剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、マイナスイオンセラミック、および建材などの各種の添加剤あるいは材料と併用することもできる。
本発明の抗菌性組成物を配合した抗菌性樹脂組成物は、防かび、防藻および抗菌性を必要とする種々の分野における抗菌性製品の原料として利用することができる。具体的用途として、例えば樹脂成形品としては、冷蔵庫、電子レンジ、テレビなどの電気製品に使用される成形品、医療器具、ブラシ類、食品用容器、まな板、水切り籠;食品包装フィルムなどの各種包材;医療用フィルムが代表的である。その他、防腐塗料、防かび塗料などの塗料類にも使用できる。繊維製品としては、シーツ、タオル、おしぼり、マスク、ストッキング、タイツ、ソックス、作業着、医療用着衣、医療用寝具、スポーツ着、包帯、漁網、カーテン、カーペット、下着類およびエアーフィルターなどが例示できる。ゴム製品では各種チューブ、パッキンおよびベルトなどが挙げられる。
得られる抗菌性樹脂組成物は加工性が良好であることから各種の用途に使用可能であるが、特に製糸工程におけるガイドなどの装置部分の摩耗を改善する効果が大きく、さらに最終製品に至るまでの紡績、仮撚、編成あるいは製織などの高次加工性を向上することができる。この場合、単糸繊度が細い糸にはより好ましく、なかでも5d以下が好ましく、特に4d以下では大きな効果を発揮でき好ましい。また、本発明による効果を発現するためには繊維構造はフィラメントであることが好ましく、細い糸を使用できることからマルチフィラメンントがより好ましい。
繊維用の抗菌性樹脂組成物に用いる樹脂は特に制限はないが、好ましくはポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリプロピレン樹脂などである。
また本発明の抗菌性樹脂組成物の製糸は、通常使用される方法で行えばよく、用途や目的に応じてその方法を選ぶことができる。なかでも口金あたりの吐出量が多い場合や巻取速度が速い場合には好適である。特に、紡糸速度が3500m/分以上の場合は極めて高い効果が発揮される。
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。なお、%は質量%である。
○合成例1(リン酸四価金属の合成)
オキシ塩化ジルコニウム(0.2モル)の水溶液を攪拌しながら、この中にシュウ酸(0.1モル)を加え、さらにリン酸(0.3モル)を加える(リン酸イオン1当量当たりのジルコニウムイオンの当量は0.67)。この溶液を苛性ソーダ水溶液でpH3.5に調整し、95℃で20時間加熱還流した後、沈殿物を濾過、水洗、乾燥してから粉砕し、網目状リン酸ジルコニウムナトリウムを[NaZr(PO・1.1HO]得た(Na型リン酸ジルコニウム塩、モース硬度約8、平均粒径0.9μm)。
○合成例2(リン酸四価金属塩系抗菌剤粒子の合成−1)
合成例1で得たNa型リン酸ジルコニウム塩の粉末を、銀イオンを含む1N硝酸溶液に加えて60℃で10時間攪拌する。その後スラリーを濾過して純水で十分に水洗し、更に110℃で一晩加熱乾燥した後、750℃で4時間焼成することにより、抗菌性のリン酸四価金属塩系抗菌剤粒子(イ)を調製した(銀含有量:3.7質量%)。
○合成例3(リン酸四価金属塩系抗菌剤粒子の合成−2)
合成例1で得たNa型リン酸ジルコニウム塩の粉末を、銀および硝酸の濃度を変化させて、それ以外は合成例2と同様の操作を行うことにより、抗菌性のリン酸四価金属塩系抗菌剤粒子(ロ)を調製した(銀含有量:10質量%)。
合成例2および合成例3で得た2種類のリン酸四価金属塩系抗菌剤粒子(イ)および(ロ)の物性値を表1に示す。

【実施例1】
合成例3で得た抗菌性リン酸塩化合物(ロ)とアナターゼ型酸化チタンである富士チタン(株)製酸化チタン・TA−300(モース硬度5.5、平均粒径0.4μm)とを3:7の割合で混合し、抗菌性組成物(A)を調製した。
【実施例2】
合成例3で得た抗菌性リン酸塩化合物(ロ)と丸尾カルシウム(株)製炭酸カルシウム・カルテックス5(モース硬度3、平均粒径0.9μm)とを3:7の割合で混合し、抗菌性組成物(B)を調製した。
<比較例1>
合成例3で得た抗菌性リン酸塩化合物(ロ)と丸尾カルシウム(株)製炭酸カルシウム・スーパーSS(モース硬度3、平均粒径2.2μm、最大粒径15μm)とを3:7の割合で混合し、抗菌性組成物(a)を調製した。
<比較例2>
合成例3で得た抗菌性リン酸塩組成物(ロ)とルチル型酸化チタンである石原産業(株)製酸化チタン・CR−60−2(モース硬度6.5、平均粒径0.2μm)とを3:7の割合で混合し、抗菌性組成物(b)を調製した。
実施例1〜2、比較例1〜2で得た抗菌性組成物A、B、aおよびbの物性値を表2に示す。
実施例1〜2、比較例1〜2で作製した抗菌性組成物の粒径は、レーザー回折式粒度分布計で測定した。

【実施例3】
○抗菌性樹脂組成物の紡糸試験
ポリエステル樹脂(ユニチカ製MA2103)に抗菌性組成物Aを10%配合したマスターバッチを作製した(抗菌性樹脂組成物)。そして、これとポリエステル樹脂ペレットとを混合して、抗菌性組成物含有量が1.0質量%の抗菌性樹脂組成物を作製した。この抗菌性樹脂組成物を用いてマルチフィラメント紡糸機で紡糸温度275℃、巻き取り速度4000m/分で溶融紡糸し、2デニール/フィラメント、24フィラメントの抗菌性ポリエステル繊維をドラム状に巻き取り、抗菌性ポリエステル繊維を得た。このときの濾圧上昇、糸切れ発生回数およびアルミナ製セラミックガイド摩耗の程度から製糸性を評価した(各水準:10kg巻×4個)。この結果を表3に記す。
得られた抗菌性ポリエステル繊維は精練した後、抗菌性を評価した。結果を表3に示す。
抗菌性の評価はJIS L 1902−1998の定量試験により評価し、黄色ブドウ球菌で試験した。抗菌活性値が2.2以上のものを抗菌性ありとした。
【実施例4】
○抗菌性樹脂組成物の紡糸試験
抗菌性組成物Aの替わりに抗菌性組成物Bを用いた以外は実施例3と同様に操作し、製糸性を評価した。結果を表3に記す。
<比較例3>
○抗菌性樹脂組成物の紡糸試験
抗菌性組成物Aの替わりに合成例2で作製したリン酸四価金属塩系抗菌剤粒子(イ)を用いた以外は実施例3と同様に操作し、製糸性を評価した。結果を表3に記す。
<比較例4>
○抗菌性樹脂組成物の紡糸試験
抗菌性組成物Aの替わりに比較例1で作製した抗菌性組成物aを用いた以外は実施例3と同様に操作し、製糸性を評価した。結果を表3に記す。
<比較例5>
○抗菌性樹脂組成物の紡糸試験
抗菌性組成物Aの替わりに比較例2で作製した抗菌性組成物bを用いた以外は実施例3と同様に操作し、製糸性を評価した。結果を表3に記す。

表3の結果からも明らかな様に、本発明の規定要件を満たす実施例の抗菌性ポリエステル繊維は、紡糸時に濾圧上昇、糸切れを起こすことがなく、リン酸四価金属塩系抗菌剤粒子を単独で使用するよりもガイド磨耗を軽減でき、繊維紡糸時の加工性に優れていることがわかる。更に高い抗菌性を持っているのがわかる。これに対し、本発明の規定要件を外れる場合は、繊維紡糸加工性に劣ることがわかる。
【実施例5】
○塩化ビニリデンフィルムの成形試験
塩化ビニリデン樹脂(呉羽化学工業(株)製、クレハロン)に添加量が50又は100mg/mになるように抗菌性組成物Aを添加し、Tダイ法(操作条件:押出し温度200℃)により膜厚4、10、18または44μmの抗菌性フィルムを作製した。これらの抗菌性フィルムについて凝集物の有無、膜の破れ及び抗菌活性を調べた。抗菌性組成物Aの含有量が100mg/mであり、膜厚が4μmである抗菌性フィルムにおける結果を表4に示す。
なお、抗菌性の評価はJIS Z 2801により評価し、黄色ブドウ球菌で試験を行った。抗菌活性値が2.0以上のものを抗菌性ありとした。結果を表4に示す。
【実施例6】
○塩化ビニリデンフィルムの成形試験
抗菌性組成物Aの替わりに実施例2で作製した抗菌性組成物Bを用いた以外は実施例5と同様に操作し、フィルム成形性および抗菌活性を評価した。抗菌性組成物Bの含有量が100mg/mであり、膜厚が4μmである抗菌性フィルムにおける結果を表4に示す。
<比較例6>
○塩化ビニリデンフィルムの成形試験
抗菌性組成物Aの替わりに比較例1で作製した抗菌性組成物aを用いた以外は実施例5と同様に操作し、フィルム成形性および抗菌活性を評価した。抗菌性組成物aの含有量が100mg/mであり、膜厚が4μmである抗菌性フィルムにおける結果を表4に示す。

表4から明らかなように、本発明の規定要件を満たす実施例の抗菌性塩化ビニリデンフィルムは、凝集物や膜の破れの発生を起こすことなく、成形時の加工性に優れていることが分かる。さらに、高い抗菌性を有していることが分かる。
なお、各抗菌性組成物の含有量が異なるフィルム及び膜厚が異なるフィルムの結果は、上記表4の結果と同じであった。
【産業上の利用可能性】
本発明の抗菌性組成物は、各種ゴム、プラスチックなどの材料およびそれらからなるフィルム、シートなどの成形品、並びに各種繊維、紙、皮革、塗料、接着剤、断熱材、コーキング材などに適用する抗菌剤として有用である。特に繊維用途において、溶融紡糸時に濾圧上昇、糸切れを起こすことなく、リン酸四価金属塩系抗菌剤粒子を単独で使用するよりもガイド磨耗を軽減でき、また繊維紡糸時の加工性に優れており、高い抗菌性を付与することのできる抗菌性組成物を提供することができ、この組成物から抗菌性繊維を容易に得ることができるようになる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示されるリン酸四価金属塩系抗菌剤粒子およびモース硬度6以下の無機化合物粒子を含有し、これらの最大粒径が実質的に10μm以下であることを特徴とする抗菌性組成物。
Ag(PO・nHO (1)
(式中、Qはアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン及び水素イオンよりなる群から選ばれた少なくとも1種のイオンであり、Mは4価金属イオンであり、nは0≦n≦6を満たす数であり、aおよびbは、いずれも正数であり、mはQの価数であり、a+mb=1である。)
【請求項2】
前記リン酸四価金属塩系抗菌剤粒子および前記無機化合物粒子の平均粒径が0.1〜5μmである請求の範囲第1項に記載の抗菌性組成物。
【請求項3】
前記無機化合物粒子の平均粒径が前記リン酸四価金属塩系抗菌剤粒子の平均粒径より小さい請求の範囲第1項に記載の抗菌性組成物。
【請求項4】
前記無機化合物粒子が光触媒活性のないアナターゼ型の二酸化チタンである請求の範囲第1項に記載の抗菌性組成物。
【請求項5】
前記リン酸四価金属塩系抗菌剤粒子と前記無機化合物粒子の配合比が95:5〜10:90である請求の範囲第1項に記載の抗菌性組成物。
【請求項6】
請求の範囲第1項〜第5項のいずれか1つに記載の抗菌性組成物を含有する抗菌性製品。
【請求項7】
前記抗菌性製品が抗菌性繊維または抗菌性フィルムである請求の範囲第6項に記載の抗菌性製品。

【国際公開番号】WO2004/064523
【国際公開日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−508066(P2005−508066)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000362
【国際出願日】平成16年1月19日(2004.1.19)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】