説明

抗菌防黴性シーリング剤組成物

【課題】優れた抗菌性及び防黴性を迅速に発現し、抗菌性及び防黴性を長期間維持する抗菌防黴性付与剤、及び該抗菌防黴性付与剤が均一に分散され、優れた抗菌性及び防黴性を迅速に発現し、抗菌性及び防黴性を長期間維持するシーリング剤組成物を提供すること。
【解決手段】リン含有化合物および/またはイオウ含有化合物を表面に有するニッケル系金属粉末、界面活性剤および水を含有し、ニッケル系金属粉末100重量部あたりの界面活性剤の量が5〜70重量部であり、水の量が25〜70重量部である抗菌防黴性付与剤と、シーリング剤とを混合してなり、シーリング剤100重量部あたりの抗菌防黴性付与剤の量が2.5〜10重量部である抗菌防黴性シーリング剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌防黴性シーリング剤組成物に関する。さらに詳しくは、例えば、屋内外におけるタイル、煉瓦などの目地、ユニットバスの構成部材の接続部などに好適に使用しうる抗菌防黴性シーリング剤組成物および該抗菌防黴性シーリング剤組成物に好適に使用しうる抗菌防黴性付与剤に関する。
【背景技術】
【0002】
シーリング剤は、一般に、浴室のタイルなどの目地、浴槽と浴室の壁との間隙、ユニットバスの構成部材の接続部などに使用されているが、浴室内は高温多湿状態となることからタイルの目地などにカビが発生することを抑制するために、シーリング剤には抗菌防黴剤が添加されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0003】
近年、抗菌防黴剤として種々のものが開発されており、なかでも、リン含有化合物および/またはイオウ含有化合物を表面に有するニッケル系金属粉末は、抗菌性および防黴性に優れていることから脚光を浴びている(例えば、特許文献5参照)。
【0004】
しかし、前記ニッケル系金属粉末は、抗菌性および防黴性に優れている反面、シーリング剤に添加したとき、シーリング剤中で偏在し、均一に分散させることができないため、前記ニッケル系金属粉末が均一に分散したシーリング剤の開発が待ち望まれている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−238301号公報
【特許文献2】特開平11−123151号公報
【特許文献3】特開平10−176163号公報
【特許文献4】特開平07−197012号公報
【特許文献5】特許第3691004号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、優れた抗菌性および防黴性を迅速に発現し、抗菌性および防黴性を長期間維持するとともに、シーリング剤に均一に分散させることができる抗菌防黴性付与剤、および該抗菌防黴性付与剤が均一に分散され、優れた抗菌性および防黴性を迅速に発現し、抗菌性および防黴性を長期間維持するシーリング剤組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
〔1〕リン含有化合物および/またはイオウ含有化合物を表面に有するニッケル系金属粉末、界面活性剤および水を含有し、ニッケル系金属粉末100重量部あたりの界面活性剤の量が5〜70重量部であり、水の量が25〜70重量部である抗菌防黴性付与剤と、シーリング剤とを混合してなり、シーリング剤100重量部あたりの抗菌防黴性付与剤の量が2.5〜10重量部である抗菌防黴性シーリング剤組成物、および
〔2〕リン含有化合物および/またはイオウ含有化合物を表面に有するニッケル系金属粉末、界面活性剤および水を含有してなり、ニッケル系金属粉末100重量部あたりの界面活性剤の量が5〜70重量部であり、水の量が25〜70重量部であることを特徴とする抗菌防黴性付与剤
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の抗菌防黴性付与剤は、優れた抗菌性および防黴性を迅速に発現し、抗菌性および防黴性を長期間維持するとともに、シーリング剤に均一に分散させることができるという効果を奏する。また、本発明のシーリング剤組成物は、抗菌防黴性付与剤が均一に分散し、優れた抗菌性および防黴性を迅速に発現し、抗菌性および防黴性を長期間維持するという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
一般に、一成分型シーリング剤は、空気中の水分と反応することによって硬化する性質を有し、二成分型シーリング剤においても一成分型シーリング剤と同様に空気中の水分と反応することによって硬化する傾向がある。したがって、シーリング剤は、その保存時にできるだけ水分との接触を避けなければならない。
【0010】
ところが、本発明者らが鋭意研究を重ねたところ、シーリング剤は、確かに空気中の水分と反応して硬化する性質を有するため、水分との接触を回避すべきであると考えられるが、この常識に反し、特定量の界面活性剤および特定量のニッケル系金属粉末とともに、特定量の水分を含有する抗菌防黴性付与剤をシーリング剤に特定量で配合した場合には、驚くべきことに、シーリング剤に水分が含有されるにもかかわらず、その水分によってシーリング剤がほとんど硬化せずに、ニッケル系金属粉末をシーリング剤に均一に分散させることができるという格別顕著に優れた効果が奏されることが見出された。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。
【0011】
本発明の抗菌防黴性付与剤は、リン含有化合物および/またはイオウ含有化合物を表面に有するニッケル系金属粉末、界面活性剤および水を含有し、ニッケル系金属粉末100重量部あたりの界面活性剤の量が5〜70重量部であり、水の量が25〜70重量部である抗菌防黴性付与剤と、シーリング剤とを混合してなり、シーリング剤100重量部あたりの抗菌防黴性付与剤の量が2.5〜10重量部であることを特徴とする。
【0012】
リン含有化合物および/またはイオウ含有化合物を表面に有するニッケル系金属粉末の好適な例としては、特許第3691004号明細書に記載のNi系粉末などが挙げられる。Ni系粉末の好適な例としては、水素含有量が1〜10000ppmであるニッケル系金属粉末の表面にリン含有化合物および/またはイオウ含有化合物を有し、粉末全体に占めるリン含有化合物および/またはイオウ含有化合物の合計含有量が0.001〜1重量%であるリン含有化合物および/またはイオウ含有化合物を表面に有するニッケル系金属粉末が挙げられる。
【0013】
リン含有化合物および/またはイオウ含有化合物を表面に有するニッケル系金属粉末において、リン含有化合物およびイオウ含有化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、併用してもよい。
【0014】
リン含有化合物および/またはイオウ含有化合物を表面に有するニッケル系金属粉末におけるリン含有化合物および/またはイオウ含有化合物の含有量は、充分な抗菌性および防黴性を発現させる観点から、好ましくは0.001重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上であり、ニッケル自身が有する抗菌性および防黴性を有効に発現させる観点から、好ましくは1重量%以下である。
【0015】
リン含有化合物およびイオウ含有化合物の種類には、特に限定がない。リン含有化合物およびイオウ含有化合物としては、例えば、リンやイオウそのものやその酸化物、その他の各種リン化合物やイオウ化合物、リン酸塩や硫酸塩、それらの複合化合物、リンやイオウを含む各種合金などをはじめ、リンおよびイオウ以外の化合物とリン含有化合物またはイオウ含有化合物との複合化合物、それらの混合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのなかでは、ニッケル系金属粉末の表面への付着性がよく、リンおよびイオウの付着量の調節が容易であり、抗菌性および防黴性に優れていることから、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム、リン酸鉄、リン酸マンガンなどが好ましく、これらは、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0016】
なお、ニッケル系金属粉末の表面におけるリン含有化合物および/またはイオウ含有化合物の付着量は、リン含有化合物およびイオウ含有化合物のうちの一方のみを溶解させ、他方を不溶物として残存させることによって測定することができる。
【0017】
リン含有化合物および/またはイオウ含有化合物を表面に有するニッケル系金属粉末を製造する方法としては、例えば、ニッケル含有量が好ましくは20質量%以上、より好ましくは50質量%以上であるニッケル系合金、好ましくは実質的にニッケルのみからなる粉末を製造し、この粉末にリン含有化合物および/またはイオウ含有化合物を接触させてその表面に付着させた後、この粒子に100〜700℃程度の温度で熱処理を施し、リン含有化合物および/またはイオウ含有化合物を粉末表面に固定した後、必要により水素を含有させる処理を施す方法などが挙げられる。
【0018】
原料として用いられるニッケル系金属粉末には、その混入が許容される他の成分が含まれていてもよい。前記他の成分としては、例えば、コバルト、酸素、ニッケルに不可避的に混入する元素などが挙げられる。
【0019】
ニッケル系金属粉末の平均粒径およびその形状には、特に限定がないが、抗菌性および防黴性を付与する観点から、ニッケル系金属粉末の平均粒径は、好ましくは0.01〜100μm、より好ましくは0.1〜50μmであり、その形状は、分散性およびニッケルイオンの溶出性を高める観点から、その表面に凹凸のある複雑な形状であることが好ましい。
【0020】
ニッケル系金属粉末に、リン含有化合物および/またはイオウ含有化合物を付着させる方法としては、例えば、湿式めっき法、乾式めっき法、化成処理法、吸着法などの方法が挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。なお、簡便で短時間の処理で所望量のリン含有化合物および/またはイオウ含有化合物をニッケル系金属粉末に付着させる観点から、ニッケル系金属粉末をリン酸溶液に浸漬する方法、リン酸塩でニッケル系金属粉末を表面処理する方法などが好ましい。
【0021】
リン含有化合物および/またはイオウ含有化合物が付着したニッケル系金属粉末には、抗菌活性を高める観点から、水素を含有させることが好ましい。
【0022】
ニッケル系金属粉末に水素を含有させる方法としては、例えば、ニッケル系金属粉末を、該粉末の溶出量が好ましくは0.05〜50g/m2・h、より好ましくは0.1〜20g/m2・hとなる水溶液に1〜10000分間、より好ましくは5〜2000分間浸漬させる方法が挙げられる。
【0023】
この方法によれば、リン含有化合物および/またはイオウ含有化合物が付着したニッケル系金属粉末を前記水溶液に浸漬することにより、ニッケル系金属粉末が酸化するため、水素ガスが発生するが、酸化反応が進行し、ニッケル系金属粉末の表面に皮膜が形成されると生じないようになる。このニッケル系金属粉末の酸化反応により、発生した水素は、その大部分が水素ガスとなるが、その一部はニッケル系金属粉末中に侵入し、粉末全体に拡散する。
【0024】
前記水溶液としては、ニッケル系金属粉末の表面に皮膜を形成させがたく、継続的にニッケル系金属粉末を溶出させる水溶液が好ましい。前記水溶液としては、例えば、硫酸、塩酸、フッ化水素酸、リン酸などの酸や水酸化ナトリウムなどのアルカリをはじめ、過酸化水素、塩化第二鉄、硫酸第二鉄などの酸化剤などの水溶液が挙げられる。前記水溶液のなかでは、酸水溶液は、ニッケル系金属粉末の表面にリン含有化合物および/またはイオウ含有化合物を付着させるための処理剤として利用することもできる。
【0025】
前記方法によれば、用いられる水溶液の組成とその温度および浸漬時間によってニッケル系金属粉末における水素含有量をほぼ一義的に決定することができるため、ニッケル系金属粉末における水素含有量を容易に制御することができる。また、前記方法によれば、ニッケル系金属粉末中に水素を均一に含有させることができる。
【0026】
ニッケル系金属粉末を前記水溶液に浸漬させた後、ニッケル系金属粉末と前記水溶液とは、例えば、濾紙やフィルターなどを用いて濾過する方法、遠心分離法、電磁石などを用いて分離する方法などにより、分離することができる。分離したニッケル系金属粉末の表面に付着している酸またはアルカリを除去するために、このニッケル系金属粉末を水で洗浄したり、弱酸または弱アルカリでこのニッケル系金属粉末に中和処理を施すことが好ましい。
【0027】
リン含有化合物および/またはイオウ含有化合物が付着したニッケル系金属粉末における水素含有量は、抗菌性および防黴性を充分に付与する観点から、好ましくは1ppm以上、より好ましくは10ppm以上であり、表層部で水素を安定して存在させる観点から、好ましくは10000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下である。
【0028】
リン含有化合物および/またはイオウ含有化合物を表面に有するニッケル系金属粉末は、商業的に容易に入手しうるものであり、その代表例として、(株)神戸製鋼所製、KENIFINE(ケニファイン)(登録商標)などが挙げられる。前記ニッケル系金属粉末は、優れた抗菌性および防黴性を有するのみならず、迅速に防菌性を発現し、それらの性質を長時間持続するという利点を有する。
【0029】
本発明の抗菌防黴性付与剤は、界面活性剤を含有する。界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、非イオン界面活性剤および両性界面活性剤が挙げられる。これらのなかでは、シーリング剤におけるニッケル系金属粉末の分散性を高める観点から、非イオン界面活性剤が好ましい。好適な非イオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレントリデシルエーテルなどが挙げられる。ポリオキシエチレントリデシルエーテルのHLB(グリフィン法で測定、以下同じ)は、ニッケル系金属粉末をシーリング剤に均一に分散させる観点から、好ましくは8〜15、より好ましくは10〜13である。ポリオキシエチレントリデシルエーテルは、商業的に容易に入手しうる化合物であり、その代表例として、ノイゲンTDS−50、ノイゲンTDS−70〔以上、第一工業製薬(株)製、商品名〕などが挙げられる。
【0030】
ニッケル系金属粉末100重量部あたりの界面活性剤の量は、シーリング剤におけるニッケル系金属粉末の分散性を高める観点から、5重量部以上、好ましくは10重量部以上、より好ましくは15重量部以上、さらに好ましくは20重量部以上であり、相対的にニッケル系金属粉末の使用量が少なくなりすぎないようにしてニッケル系金属粉末が有する抗菌性および防黴性を充分に発現させる観点から、70重量部以下、好ましくは60重量部以下、より好ましくは50重量部以下、より一層好ましくは45重量部以下、さらに好ましくは35重量部以下である。
【0031】
本発明の抗菌防黴性付与剤は、水を含有する。水としては、例えば、純水、イオン交換水などの精製水、水道水などが挙げられるが、これらのなかでは、精製水が好ましい。
【0032】
ニッケル系金属粉末100重量部あたりの水の量は、シーリング剤におけるニッケル系金属粉末の分散性を高める観点から、25重量部以上、好ましくは30重量部以上、より好ましくは35重量部以上であり、シーリング剤に配合したときに、シーリング剤が硬化するのを回避する観点から、70重量部以下、好ましくは65重量部以下、より好ましくは60重量部以下、さらに好ましくは55重量部以下である。また、ニッケル系金属粉末100重量部あたりの水の量は、抗菌防黴性シーリング剤組成物の流動性を抑制する観点から、40重量部以下であることが好ましい。
【0033】
本発明の抗菌防黴性付与剤は、ニッケル系金属粉末と水とを所定量で混合し、得られたニッケル系金属粉末の水分散液と界面活性剤とを所定量で混合することによって容易に調製することができる。
【0034】
本発明の抗菌防黴性シーリング剤組成物は、シーリング剤と抗菌防黴性付与剤とを混合することによって容易に調製することができる。このようにシーリング剤と抗菌防黴性付与剤とを混合した場合には、該抗菌防黴性付与剤に含まれているニッケル系金属粉末がシーリング剤中に均一に分散し、優れた抗菌性および防黴性がシーリング剤に付与される。
【0035】
シーリング剤としては、例えば、1成分型シリコーン系シーリング剤、2成分型シリコーン系シーリング剤、2成分型変性シリコーン系シーリング剤、2成分型ポリサルファイド系シーリング剤、1成分型ポリウレタン系シーリング剤、2成分型ポリウレタン系シーリング剤などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。シーリング剤は、商業的に容易に入手しうるものであり、例えば、ハマタイトSS−310(1成分型シリコーン系シーリング剤)、ハマタイト・シリコーン70(2成分型シリコーン系シーリング剤)、ハマタイト・スーパーII(2成分型変性シリコーン系シーリング剤)、ハマタイトSC−M500(2成分型ポリサルファイド系シーリング剤)、ハマタイトSEAL21(1成分型ポリウレタン系シーリング剤)、ハマタイトUH−01NB(2成分型ポリウレタン系シーリング剤)〔以上、横浜ゴム(株)製、商品名〕などが挙げられる。
【0036】
抗菌防黴性付与剤の量は、シーリング剤100重量部あたり、シーリング剤に抗菌性および防黴性を充分に付与する観点から、2.5重量部以上、好ましくは4重量部以上であり、シーリング剤に水分が付与されることによって硬化するのをできるだけ抑制する観点から、10重量部以下、好ましくは9重量部以下、より好ましくは8重量部以下である。
【0037】
本発明の抗菌防黴性シーリング剤組成物は、シーリング剤と抗菌防黴性付与剤とを混合することにより、容易に調製することができる。シーリング剤と抗菌防黴性付与剤とを混合する時期は、特に限定されないが、シーリング剤に水分が含まれていることから、シーリング剤の硬化をできるだけ抑制する観点から、シーリング剤を使用する直前に両者を混合することが好ましい。また、2成分型のシーリング剤を使用する場合には、抗菌防黴性付与剤は、2成分のいずれと混合してもよく、あるいは2成分を混合した後に、得られた混合物と混合してもよい。
【0038】
このようにして得られる本発明の抗菌防黴性シーリング剤組成物は、抗菌防黴性付与剤が均一に分散し、優れた抗菌性および防黴性を迅速に発現し、抗菌性および防黴性を長期間維持するものである。したがって、本発明の抗菌防黴性シーリング剤組成物は、防藻性およびヌメリ防止効果を発現するものと考えられる。
【0039】
以上のことから、本発明の抗菌防黴性シーリング剤組成物は、例えば、屋内外におけるタイル、煉瓦などの目地、ユニットバスの構成部材の接続部などに好適に使用することができる。
【実施例】
【0040】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0041】
実施例1
リン含有化合物を表面に有するニッケル系金属粉末として、KENI FINE Aタイプ〔(株)神戸製鋼所製、商品名〕7.5gと純水3gとを混合した後、得られた混合物と、非イオン界面活性剤として、ポリオキシエチレントリデシルエーテル〔第一工業製薬(株)製、商品名:ノイゲンTDS−50、HLB:10.5〕2gとを常温で混合することにより、抗菌防黴性付与剤を得た。
【0042】
得られた抗菌防黴性付与剤12.5gと、シーリング剤として、2成分系変性シリコーン系シーリング剤〔横浜ゴム(株)製、商品名:ハマタイト・スーパーII〕300gとを混合することにより、抗菌防黴性シーリング剤組成物を得た。
【0043】
得られた抗菌防黴性シーリング剤組成物を乾燥後の塗膜の厚さが約5mmとなるように縦30mm、横30mmの塩化ビニル樹脂板に塗布し、乾燥させることにより、試験片を作製した。得られた試験片を用いて、抗菌防黴性シーリング剤組成物の抗菌性を以下の評価方法に基づいて調べた。その抗菌性の経時変化の測定結果を表1に示す。
【0044】
〔抗菌性の評価方法〕
試験片をシャーレに入れた後、大腸菌〔エシェリシア・コリ(Escherichia coli)NBRC3972〕の濃度が5×10CFU/mLとなるように調整された調整菌液0.4mLを試験片に滴下した。次に、滴下した調整菌液の上にフイルムをかぶせ、該フイルム全体に調整菌液が行きわたるようにし、シャーレの蓋をすることにより、試験片に大腸菌を摂取した。このシャーレを温度35℃、相対湿度90%の雰囲気中で保持した。所定時間経過後、シャーレ中の試験片およびフイルムに、JIS Z2801に規定のSCDLP培地10mLを加えて大腸菌を洗い出し、得られた洗い出し液と菌数測定用培地とを用いた平板希釈法により、生菌数を測定した。
【0045】
比較例1
銀は抗菌性に優れていることが知られている。したがって、銀を含有する抗菌剤〔アトミクス(株)製、商品名:エポキシ用抗菌剤〕12.5gと、シーリング剤として、2成分系変性シリコーン系シーリング剤〔横浜ゴム(株)製、商品名:ハマタイト・スーパーII〕300gとを混合することにより、抗菌防黴性シーリング剤組成物を得た。
【0046】
得られた抗菌防黴性シーリング剤組成物を用いて実施例1と同様にして試験片を作製し、抗菌防黴性シーリング剤組成物の抗菌性を調べた。その抗菌性の経時変化の測定結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示された結果から、実施例1で得られた抗菌防黴性シーリング剤組成物は、短時間で優れた抗菌性を発現することがわかる。
【0049】
実施例2
リン含有化合物を表面に有するニッケル系金属粉末として、KENI FINE Aタイプ〔(株)神戸製鋼所製、商品名〕7.5gと純水3gとを混合した後、得られた混合物と、非イオン界面活性剤として、ポリオキシエチレントリデシルエーテル〔第一工業製薬(株)製、商品名:ノイゲンTDS−50、HLB:10.5〕2gとを常温で混合することにより、抗菌防黴性付与剤を得た。
【0050】
得られた抗菌防黴性付与剤15gと、シーリング剤として、2成分系変性シリコーン系シーリング剤〔横浜ゴム(株)製、商品名:ハマタイト・スーパーII〕300gとを混合することにより、抗菌防黴性シーリング剤組成物を得た。
【0051】
得られた抗菌防黴性シーリング剤組成物を乾燥後の塗膜の厚さが約5mmとなるように縦30mm、横30mmの塩化ビニル樹脂板に塗布し、乾燥させることにより、試験片を作製した。得られた試験片を用いて、抗菌防黴性シーリング剤組成物の抗菌性を以下の評価方法に基づいて調べた。その測定結果を表2に示す。
【0052】
〔抗菌性の評価方法〕
(1)大腸菌に対する抗菌性
試験片をシャーレに入れた後、大腸菌〔エシェリシア・コリ(Escherichia coli)NBRC3972〕の濃度が表2に示される濃度となるように調整された調整菌液0.4mLを試験片に滴下した。次に、滴下した調整菌液の上にフイルムをかぶせ、該フイルム全体に調整菌液が行きわたるようにし、シャーレの蓋をすることにより、試験片に大腸菌を摂取した。このシャーレを温度35℃、相対湿度90%の雰囲気中で保持した。24時間経過後、シャーレ中の試験片およびフイルムに、JIS Z2801に規定のSCDLP培地10mLを加えて大腸菌を洗い出し、得られた洗い出し液と菌数測定用培地とを用いた平板希釈法により、生菌数を測定した。
【0053】
(2)黄色ブドウ球菌に対する抗菌性
試験片をシャーレに入れた後、黄色ブドウ球菌〔スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)NBRC12732〕の濃度が表2に示す濃度となるように調整された調整菌液0.4mLを試験片に滴下した。次に、滴下した調整菌液の上にフイルムをかぶせ、該フイルム全体に調整菌液が行きわたるようにし、シャーレの蓋をすることにより、試験片に黄色ブドウ球菌を摂取した。このシャーレを温度35℃、相対湿度90%の雰囲気中で保持した。24時間経過後、シャーレ中の試験片およびフイルムに、JIS Z2801に規定のSCDLP培地10mLを加えて黄色ブドウ球菌を洗い出し、得られた洗い出し液と菌数測定用培地とを用いた平板希釈法により、生菌数を測定した。
【0054】
(3)抗菌活性値
大腸菌および黄色ブドウ球菌の各抗菌性を測定した後、JIS Z 2801抗菌性試験方法で定められている試験方法に準じて、対照試験における24時間培養後菌数を各実施例における24時間培養後菌数で除することによって求められた数値の対数値を抗菌活性値とした。
なお、一般に、抗菌活性値が2.0以上であるとき(99%以上が死滅)、抗菌性の効果があるとされている。
【0055】
実施例3
実施例2において、シリコーン系シーリング剤として、2成分系シリコーン系シーリング剤〔横浜ゴム(株)製、商品名:ハマタイト・シリコーン70〕300gを用いた以外は、実施例2と同様にして抗菌防黴性シーリング剤組成物の抗菌性を調べた。その測定結果を表2に示す。
【0056】
対照試験
実施例2において、抗菌防黴性シーリング剤組成物を塗布していない塩化ビニル樹脂板を用いた以外は、実施例2と同様にして抗菌性を調べた。その測定結果を表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
表2に示された結果から、実施例2〜3で得られた抗菌防黴性シーリング剤組成物は、大腸菌および黄色ブドウ球菌のいずれに対しても優れた抗菌性を有し、しかも優れた抗菌性が24時間以上持続することがわかる。
【0059】
実施例4
リン含有化合物を表面に有するニッケル系金属粉末として、KENI FINE Aタイプ〔(株)神戸製鋼所製、商品名〕100gおよび表3に示す量の純水を混合した後、得られた混合物と、非イオン界面活性剤として、表3に示す量のポリオキシエチレントリデシルエーテル〔第一工業製薬(株)製、商品名:ノイゲンTDS−50、HLB:10.5〕を常温で混合することにより、抗菌防黴性付与剤を得た。
【0060】
得られた抗菌防黴性付与剤の25℃における粘稠度を以下の評価基準に基づいて評価した。その結果を表3に併記する。
【0061】
〔粘稠度の評価基準〕
◎:シーリング剤に配合するのに適した粘稠度を有し、シーリング剤に均一に分散
A:粘りがあり、シーリング剤中にやや均一に分散しがたいが、使用可能
B:やや流動性があり、使用可能
C:流動性があり、使用可能
D:液状であり、使用可能
×:粉末状であることから、シーリング剤中に均一に分散しがたいため使用不可能
【0062】
【表3】

【0063】
表3に示された結果から、ニッケル系金属粉末100重量部あたりの界面活性剤の量が15重量部以上であり、かつ水の量が30重量部以上であることが好ましく、抗菌防黴性シーリング剤組成物の流動性を抑制する観点から、ニッケル系金属粉末100重量部あたりの水の量が40重量部以下であることがより好ましいことがわかる。
【0064】
実施例5
2成分系変性シリコーン系シーリング剤〔横浜ゴム(株)製、商品名:ハマタイト・スーパーII〕100gあたり表4に示す量で実施例1で得られた抗菌防黴性付与剤をこの2成分系変性シリコーン系シーリング剤に均一な組成となるように混合することにより、抗菌防黴性シーリング剤組成物を得た。
【0065】
得られた抗菌防黴性シーリング剤組成物をスレートパネルに塗布し、25℃の雰囲気中に24時間放置した後、形成された塗膜に手指を接触させ、塗膜のタックを調べて以下の評価基準に基づいて評価した。
【0066】
〔塗膜のタックの評価基準〕
A:塗膜の表面にタックが認められない。
B:塗膜の表面に手指が引っつかない程度の弱いタックが存在している。
C:塗膜の表面に手指が引っつく程度のタックが存在している。
D:塗膜の表面に手指がべとつく程度のタックが存在している。
【0067】
【表4】

【0068】
表4に示された結果から、塗膜のタックの低減の観点から、シーリング剤100gあたりの抗菌防黴性付与剤の量が10g以下であることが好ましく、9g以下であることがより好ましく、8g以下であることがさらに好ましいことがわかる。
【0069】
以上の結果から、本発明の抗菌防黴性付与剤は、優れた抗菌性および防黴性を迅速に発現し、抗菌性および防黴性を長期間維持するものであることがわかる。また、本発明の抗菌防黴性シーリング剤組成物は、前記抗菌防黴性付与剤を均一に分散させることができ、しかも優れた抗菌性および防黴性を迅速に発現し、抗菌性および防黴性を長期間維持するものであることがわかる。
【0070】
したがって、本発明の抗菌防黴性シーリング剤組成物は、例えば、屋内外におけるタイル、煉瓦などの目地、ユニットバスの構成部材の接続部などに好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン含有化合物および/またはイオウ含有化合物を表面に有するニッケル系金属粉末、界面活性剤および水を含有し、ニッケル系金属粉末100重量部あたりの界面活性剤の量が5〜70重量部であり、水の量が25〜70重量部である抗菌防黴性付与剤と、シーリング剤とを混合してなり、シーリング剤100重量部あたりの抗菌防黴性付与剤の量が2.5〜10重量部である抗菌防黴性シーリング剤組成物。
【請求項2】
リン含有化合物および/またはイオウ含有化合物を表面に有するニッケル系金属粉末、界面活性剤および水を含有してなり、ニッケル系金属粉末100重量部あたりの界面活性剤の量が5〜70重量部であり、水の量が25〜70重量部であることを特徴とする抗菌防黴性付与剤。

【公開番号】特開2009−84520(P2009−84520A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−259621(P2007−259621)
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【出願人】(507328760)株式会社ビルティ (1)
【Fターム(参考)】