説明

抗血管形成化合物を用いた炎症性腸疾患の治療

炎症性腸疾患、とりわけクローン病の様々な側面を治療するのに有用な治療剤としての血管形成のインヒビターを開示する。腸組織における腸炎症または炎症浸潤の大きさを低減させる方法、患者における炎症誘導性サイトカインの全身レベルまたは消化管関連レベルを低下させる方法、固定化腸組織の切片において微小血管密度を低減させる方法および炎症性腸疾患を治療する方法を開示する。上記を達成するのに好ましい薬剤は、Pro-His-Ser-Cys-Asn (SEQ ID NO:1)を含むペンタペプチドおよびその変異体または誘導体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
生化学および医薬の分野における本発明は、血管形成のインヒビターが炎症性腸疾患(IBD)、とりわけクローン病(CrD)の治療に有用であるとの発見に関するものであり、これら状態を治療する新規な方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
慢性炎症疾患および動物モデル
炎症状態、とりわけ慢性炎症疾患は、臨床医薬において特に重要である。これら疾患は、免疫系の作用によって引き起こされ、T細胞の不適切な活性化、制御サイトカインおよびケモカインの発現、免疫寛容の欠如などが関与している。自己免疫疾患および/または慢性炎症疾患の例は、多発性硬化症、炎症性腸疾患(IBD)、慢性関節リウマチなどの関節疾患、全身性エリテマトーデスである。これら疾患のあるものは、以下のようにかなり器官/組織特異的である:腸(CrD)、皮膚(乾癬)、膵島またはβ細胞(インスリン依存性糖尿病(IDDM))、唾液腺(シェーグレン病)、骨格筋(重症筋無力症)、胸腺(橋本甲状腺炎;グレーヴズ病)、前眼房(ブドウ膜炎)、および様々な心血管疾患。
【0003】
炎症性腸疾患(IBD)は、2つの腸疾患を記載するのに用いられる包括用語であり、その病因は完全には理解されていない:クローン病(CrD)および潰瘍性大腸炎。IBDは世界中で発症しており、数百万の人々に罹患しているが、その経過および予後は非常に多岐にわたる。IBDの発症は若年成人に多く、典型的に下痢、腹痛、および発熱を呈する。貧血および体重の減少もIBDに共通する徴候である。IBDに罹患した人の10%〜15%が、10年の期間にわたって手術を必要とする。IBD患者はまた、腸癌の発症のリスクも高い。これら疾患は、不安や抑鬱を含む心理徴候を高い頻度で伴う。
【0004】
残念ながら、IBDの新規な治療法は殆どなく、診断および治療ともに病因の詳細な知見の欠如のために行き詰まっている。遺伝的要因、外部からの刺激および生体内の微生物叢の組み合わせが、腸粘膜の免疫を介した障害に寄与しうる。腸の炎症はしばしば抗生物質に対応するとの知見に基づき、CrDの開始および進行における細菌の関与が示唆されている。直接検出かまたは疾患に関連した抗微生物免疫応答のいずれかにより、CrDにおける一般的な腸内微生物および新規な病原体の関与が示唆されている。慢性大腸炎の遺伝的に感受性の多くの動物モデルにおいて、管腔微生物は疾患に必要な共因子と思われる、なぜなら無菌状態で飼育した動物は該疾患を発症しないからである。
【0005】
自己免疫疾患病理の最初のステップは、該疾患が散発的であるヒトにおいては屡々曖昧であり、最初の病原T細胞が活性化されて何年も後に徴候が現れることがある。それゆえ、疾患の誘発を抑制するのに有効な療法をデザインすることは困難であった。対照的に、これら疾患の多くの後期ステージには共通の特徴がある。T細胞による炎症性(「炎症誘導性(proinflammatory)」とも称する)サイトカインの放出により、および活性化段階および免疫/炎症プロセスのエフェクター経路に関与する他の細胞により引き起こされた疾患部位/標的器官における炎症が典型的に存在する。これら細胞には、マクロファージ、樹状細胞およびその前駆細胞、Bリンパ球および形質細胞およびNK細胞(NKT細胞を含む)が含まれる。これら反応は、屡々「標的」細胞の破壊および組織の損傷に関与する。
【0006】
実験的慢性炎症のマウスモデルを用いた研究が、炎症を開始させ特定の最終器官の破壊に導く免疫調節異常(immunological dysregulation)の性質を定めるのに役立つ。例えば、Mombaertsら、Cell, 1993, 75:274-82; Tarrantら、J Immunol, 1998. 161 :122-127; Powrieら、Immunity, 1994, 1 :553-562; Hongら、J Immunol, 1999. 162:7480-91; Horak, Clin Immunol Immunopathol, 1995, 76(3 Pt 2):S172-173; Ehrhardtら、J Immunol, 1997. 158:566-73; Davidsonら、J Immunol, 1998, 161:3143-9; Kuhnら、Cell, 1993. 75(2):263-74; Neurathら、J Exp Med, 1995. 182:1281-90を参照。炎症の粘膜モデルの最近の概説は、Strober, Wら、2002, Annu. Rev. Immunol. 20:495-54(参照のためその全体を本明細書に引用する)である。上記のように、動物モデルは、様々な相互作用を研究するための非常に有用な手段を提供してきた。これらモデルの一層良いものの一つの顕著な特徴は、組織病理学および病理生理学がヒトの対応する状態のものと類似していることであり、新規な治療戦略を試験するうえでのモデルの有用性をさらに強固なものにしている。IBDの場合には、この開発は均一なものではなく、大抵の強調は免疫機構の調節(Blumberg RSら、1999, Current Opin Immunol. 11:648-656; Stroberら、上掲)および最近では腸内フローラの調節(Sartor RB, 2001, Curr Opin Gastroenterol. 4:324-330)に置かれている。
【0007】
インターロイキン10(IL−10)および慢性炎症疾患
ここ何年かの間、インターロイキン10(IL−10)がインビトロで多くの造血細胞型の増殖および分化に影響を及ぼすこと、およびマクロファージおよびT細胞機能の特に強力なサプレッサーであることが知られている。このことが示された一つの方法は、ジーンターゲティングによるIL−10欠損(ノックアウトまたはKO)突然変異マウスを作製することによってであった(Kuhn Rら、1993, Cell 75:263-74)。これらマウスでは、リンパ球の発生および抗体応答は正常であるが、殆どの動物は成長が遅滞し、貧血であり、慢性腸炎を罹患している。腸における変化には、過度の粘膜過形成、炎症反応、および主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスII分子の異所性の上皮発現が含まれる。対照的に、これらIL−10KO突然変異体がSPF(specific pathogen-free)状態に維持されると、局所的な炎症しか生じない(近位の結腸に限定される)。それゆえ、(1)これら突然変異体における腸炎症は、腸内抗原によって刺激された非制御免疫応答によって生じる、および(2)IL−10は腸管における本質的な(負の)レギュレーターである、との結論が得られる。
【0008】
さらに最近では、Takeda, Kら、1999, Immunity 10:39-49は、マクロファージおよび好中球中のStat3遺伝子が細胞特異的に破壊されたマウスについて報告している。これらStat-3KOマウスは、内毒素(=リポ多糖または「LPS」)媒介ショックに対して高度に感受性であり、TNFα、IL−1、IFNγ、およびIL−6などの炎症性サイトカインの産生レベルが増大していた。著者らは、これらサイトカインのLPS−誘発産生が、IL−10の炎症性サイトカイン産生に対する抑制作用の喪失によって増大したと結論している。これらマウスは向Th1型に「極性化した(polarized)」免疫応答を示し、年齢とともに慢性腸炎を発症した。主としてIL−10によって媒介されたマクロファージおよび好中球の「不活化(deactivation)」においてStat3が決定的な役割を演じていることは明らかである。IL−10KOモデルは、本発明を例示する選択モデルとなるものである。
【0009】
Bhan AKら、1999, Immunol Rev 169:195-207は、IBDの粘膜炎症の発症を研究するのに用いられたトランスジェニック(Tg)およびKO動物モデルでの大腸炎の研究を概説している。遺伝的要因および環境要因、とりわけ正常な腸内フローラは、上記のように粘膜炎症の発症の要因であった。正常な粘膜ホメオスタシスは、サイトカインのアンバランス、経口耐性の廃棄(abrogation of oral tolerance)、上皮バリヤーの破綻(breach of epithelial barriers)、および免疫制御細胞の喪失によって破壊された。全てではないが幾つかの免疫不全は、適当な状況下、大腸炎に導いた。CD4+T細胞は大腸炎における病原リンパ球として同定されており、Th1かまたはTh2のいずれかの経路により炎症を媒介しうる。Th1経路は殆どの大腸炎モデル(およびヒトCrD)において優勢である。対照的に、T細胞レセプターα鎖のKOであるマウス(TCRαKOマウス)で観察される大腸炎は、結腸炎症においてTh2経路が優勢であることを含む多くの特徴が潰瘍性大腸炎と共通していた。そのようなモデルは、IBDを処置する治療戦略の開発に重要である。その後の論考において、同じグループ(Mizoguchi Aら、2003, Inflamm Bowel Dis. 9:246-259)は、正常な腸内微生物叢に対する激化した(exaggerated)免疫応答が慢性腸炎症の開始および永続化に関与していることを認めた。主要な経路には、CD4+TCRαβT細胞と抗原提示細胞(樹状細胞)との相互作用による「獲得」免疫応答が関与している。Tr1細胞、Th3細胞、およびCD4+CD25+T細胞並びにB細胞を含む免疫制御細胞は、直接または間接に活性化T細胞応答に影響を及ぼした。
【0010】
Toxoplasma gondiiに感染したIL−10欠損(IL−10KO)マウスは、広範に拡がった肝臓壊死を伴うIL−12およびIFNγの過剰産生を特徴とするT細胞媒介ショック様反応に屈した(Villegas ENら、2000, Infect Immun. 68:2837-44)。マウスのT. gondii感染は、B7およびCD40コスティミュラトリー分子の増大した発現という結果となったが、これは野生型マウスおよびIL−10KOマウスで同様であった。これらのマウスのT. gondii感染後の2セットのコスティミュラトリー相互作用(CD28−B7またはCD40−CD40L)のインビボでの阻止は、IFNγまたはIL−12の血清レベルに影響を及ばさず、これらマウスを死から防御することもなかった。しかしながら、両経路が阻止されたとき、IL−10KOマウスは感染の急性相を生き残り、血清IFNγおよびアラニントランスアミナーゼが低減するとともに肝臓および脾臓における誘導性酸化窒素シンターゼの発現が減少していた。CD40−CD40L相互作用の阻止は寄生虫特異的な回帰(recall)応答においてサイトカイン産生に対する影響が最小であったが、CD28−B7相互作用の阻止は、IFNγ(しかしIL−12ではなく)の産生の低減という結果となった。両コスティミュラトリー経路が阻止されたときに、IFNγ産生のさらなる低減が生じた。著者らは、IL10−媒介制御の不在下、CD28−B7およびCD40−CD40Lの両相互作用が感染誘発性の免疫病理の発症に関与していると結論した。
【0011】
IBDの急性相から慢性相への進行は動物モデルにおいて十分に特徴付けられておらず、患者で容易には評価できない。Spencer DMら、Gastroenterology 122:94-105 (2002)は、大腸炎の実験モデルでの粘膜免疫応答の変化の長期的研究を報告している。IL−10欠損マウスにおいて、大腸炎の重篤度、体重、大便の密度(consistency)および血液含量、血清アミロイドA、および組織検査を35週間にわたって調べた。炎症を起こした腸での粘膜固有層単核細胞によるIL−12、IL−18、IFNγ、TNFα、IL−4、およびIL−13の対応産生を測定した。疾患の進行の間の別個の時点での中和抗IL−12モノクローナル抗体(mAb)の投与は、この化合物の治療強度の評価を可能にした。腸炎症の形態(the form of intestinal inflammation)と合わせた臨床表示(clinical manifestations)は、疾患の重篤度の進行的な増大を特徴とする大腸炎の早期相(10〜24週)と、それに続く慢性的な炎症が無制限に持続する後期相(>25週)を明確に描き出した。早期の疾患を罹患するマウスからの粘膜固有層単核細胞は進行的により多くのIL−12およびIFNγを合成したが、両サイトカインの産生は劇的に減少し、後期相では疾患前のレベルに戻った。このパターンと一致して、中和抗IL−12は、後期ではなく早期の疾患を逆行させた。対照的に、IL−4およびIL−13の産生は、疾患前ないし早期の疾患から後期の疾患へ進行的に増大した。IL−10欠損マウスにおいて発症する大腸炎は2つの別個の相に発展すると結論された。早期の大腸炎ではIL−12が中心的な役割を果たすのに対し、後期の疾患ではおそらくIL−4およびIL−13によって媒介される他の免疫機構が優勢で慢性的な炎症を持続させている。
【0012】
大腸炎のIL−10KOマウスモデルは、最近、Scheinin, T.ら、Clin Exp Immunol 133:3843 (2003)によってさらに実証されている。これら著者は、真に価値あるモデルはヒト疾患の応答に類似する仕方で既存の療法に応答しなければならないことを強調している。難治性のCrDは抗TNFα抗体療法によく応答することが示されているので、この研究者らは抗TNFα療法に対するIL−10KOマウスの応答を調べ、ヒトにおけるCrD「活性指標(Activity Index)」と類似のIL−10KOマウスのための新規な評価システムを開発した。大便試料をサイトカインについて試験し、その知見を組織検査と比較した。彼らは、臨床スコアにより、または胃腸の組織検査により判断されるように、4週目に開始する抗TNF抗体療法が該疾患を顕著に緩解させたと報告している。大便試料中の炎症性サイトカインの顕著な低減が認められ、臨床改善のさらなる正確な測定手段が加えられた。著者らは、このモデルがCrDと関連する他の治療様式を評価するうえで有用であると結論付けている。
【0013】
血管形成(血管新生)は、成人組織での既存血管構造からの新規な毛管形成のプロセスとして定義される(Folkman Jら、1992, J Biol Chem 267:10931-34)。血管形成は、増殖、発生および修復を含む生物学的プロセスの基本的要素であるが、最後の30年では腫瘍の増殖にとって本質的な現象として現れ、その抑制は癌療法の第一歩と認められている(Folkman J, 1971, N Engl J Med 285:1182-1186)。この分野での一里塚は、VEGFに対するモノクローナル抗体が結腸直腸の癌患者の生存を長引かせたという報告であった(Hurwitz Hら、2004, N Engl J Med 350:2335-2342)。血管形成は、アテローム性動脈硬化症、慢性関節リウマチ、糖尿病性網膜症、乾癬、気道炎症、消化性潰瘍、およびアルツハイマー病に至る多様な非新生物疾患において本質的機能を有しているので、その重要さは癌の生物学を超えていると今では評価されている(Gould VEら、2002, Human Pathol 33:1061-1063; McDonald DM., 2002, Am J Respir Crit Care Med. 164:S39-S45; Vagnucci AHら、2003, Lancet 361:605-608)。
【0014】
病的な血管形成は殆ど常にといっていいほど、ある程度の炎症と関連しており、最近、IBDが血管/微小循環現象および異常なまたは過度の血管形成が役割を果たしている幾つかの炎症状態のうちに列挙された(Carmeliet P, 2003, Nature Med. 9:653-60; Laroux FSら、2001, Microcirculation 8:283-301; Hatoum OAら、2003, Am J Physiol Heart Circ Physiol 285:H1791-96)。最近の2つの報告のみが、IBDの動物モデルの文脈で血管形成について論じており、両者ともデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発マウス大腸炎を扱っている。インビボ共焦点顕微鏡を用いた第一の研究では、研究者らは、広汎性の血管過多および血管の曲がりおよび粘膜毛管の膨張をDSS投与の数日後に観察している(McLaren WJら、2002, Dig Dis Sci 47:2424-2433)。第二の研究は、炎症関連結腸腫瘍形成に対するタバコ喫煙の影響を評価したものであり、喫煙に暴露された動物(DSSにより大腸炎が誘発された)におけるVEGFおよび血管形成の増大を報告している(Liu ESLら、2003, Carcinogenesis 24:1407-1413)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、IBDまたはCrDの病理生理学に対する血管形成抑制の影響の報告はなされていない。これが本発明の主題である。上記のような進歩にも拘わらず、この衰弱をもたらす疾患群を治療するための新規で改善された方法に対する必要性が当該技術分野において依然として存在し、本発明者らは本明細書に開示する本発明により有意な前進の一歩をもたらした。
【0016】
上記の引用文献は、そのいずれかが関連する従来技術文献であることを認めたことを意図するものではない。これら文献の日付に関する言及およびその内容に関する表示はすべて、出願人が利用できた情報に基づくものであって、これら文献の日付または内容の正確さに関していかなる許容をも構成するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、IBD、とりわけCrDに関連する病理学的事象の抑制を必要とする患者に有効量の抗血管形成化合物を提供することによる、そのような病理学的事象の抑制方法を提供する。
【0018】
特に、本発明は、IBD患者の腸組織における腸炎症の大きさを低減する方法であって、そのような処置を必要とする患者に
(a)血管形成を抑制する化合物;および
(b)薬理学的に許容しうる担体または賦形剤
を含む医薬組成物の有効量を投与し、それによって炎症または浸潤(infiltrate)を低減させることを含む方法に関する。
【0019】
本発明はまた、患者における炎症誘導性サイトカインの全身レベルまたは消化管関連レベルを低下させる方法であって、そのような低下を必要とする患者に
(a)血管形成を抑制する化合物;および
(b)薬理学的に許容しうる担体または賦形剤
を含む抗血管形成医薬組成物の有効量を投与し、それによって炎症誘導性サイトカインのレベルを低下させることを含む方法をも包含する。
【0020】
本発明はまた、固定化腸組織の切片で決定されるように、IBD患者から得た生検から微小血管(microvessel)密度を低減させる方法であって、
(a)そのような処置を必要とする患者に
(i)血管形成を抑制する化合物;および
(ii)薬理学的に許容しうる担体または賦形剤
を含む医薬組成物の有効量を投与し、
(b)該患者から腸生検を得、ついで
(c)該生検で微小血管密度を決定する
ことを含み、その際、該化合物の投与が、該患者による該化合物の受領前の微小血管密度と比べて低い微小血管密度という結果となる、方法にも関する。
【0021】
本発明は、患者においてIBDを治療する方法であって、そのような処置を必要とする患者に
(a)血管形成を抑制する化合物;および
(b)薬理学的に許容しうる担体または賦形剤
を含む医薬組成物の有効量を投与し、それによって該疾患を治療することを含む方法を包含する。
【0022】
上記方法において、該化合物は、アミノ酸配列:
Xaa1-Xaa2-Xaa3-Xaa4-Xaa5 (SEQ ID NO:81)
(式中、
Xaa1は、Pro, Gly, Val, His, Iso, Phe, Tyr, またはTrp;
Xaa2は、His, Pro, Tyr, Asn, Glu, Arg, Lys, Phe, またはTrp;
Xaa3は、Ser, Thr, Ala, Tyr, Leu, His, Asn, またはGlu;
Xaa4は、L-もしくはD-Cys, L-もしくはD-ホモシステイン(Hcy), L-もしくはD-ペニシラミン, -SH基を有する他のアミノ酸またはL-もしくはD-His;および
Xaa5は、Asn, Glu, Ser, Thr, His, またはTyr)
を含む5ないし約30アミノ酸残基のペプチド、または該ペプチドのN末端またはC末端がキャッピングされた誘導体である。
【0023】
上記方法の他の態様において、該ペプチドは、アミノ酸配列:
Xaa1-His-Ser-Xaa2-Asn (SEQ ID NO:86)
(式中、
Xaa1は、Pro, Hisであるか, またはアミノ酸ではなく、および
Xaa2は、L-もしくはD-Cys, L-もしくはD-Hcy, L-もしくはD-ペニシラミン, -SH基を有する他のアミノ酸、またはL-もしくはD-His)
を有する。
【0024】
好ましい態様において、上記ペプチドは、アミノ酸配列:
Pro-His-Ser-Xaa-Asn (SEQ ID NO:87)
(式中、Xは、L-もしくはD-Cys, L-もしくはD-Hcy、ペニシラミン, -SH基を有する他のアミノ酸、またはL-もしくはD-His)
を有する。
【0025】
好ましいペプチドは、アミノ酸配列:Pro-His-Ser-Cys-Asn (SEQ ID NO:1)を含む。
【0026】
最も好ましい抗血管形成化合物は、アミノ酸配列:Pro-His-Ser-Cys-Asn (SEQ ID NO:1)を有するペンタペプチドである。
【0027】
上記方法において、該ペプチドは、N末端が好ましくはアシル基で、さらに好ましくはアセチル基でキャッピングされているのが好ましい。該ペプチドは、C末端が好ましくはアミド基で、さらに好ましくはアミノ基でキャッピングされているのが好ましい。
【0028】
上記方法の好ましい態様において、患者はヒトであり、IBDはCrDである。
【0029】
本発明はまた、以下の目的のいずれかを達成するための、または以下の目的のいずれかを達成するための医薬の製造のための、第一および第二医薬用途をも包含する:
(a)IBD患者の腸組織における腸炎症または炎症浸潤の大きさを低減させる;および/または
(b)患者における炎症誘導性サイトカインの全身レベルまたは消化管関連レベルを低下させる;
(c)固定化腸組織の切片で決定されるように、IBD患者から得た生検において微小血管密度を低減させる;および/または
(d)患者におけるIBDを治療する。
【0030】
上記用途において、該化合物は、アミノ酸配列:
Xaa1-Xaa2-Xaa3-Xaa4-Xaa5 (SEQ ID NO:81)
(式中、
Xaa1は、Pro, Gly, Val, His, Iso, Phe, Tyr, またはTrp;
Xaa2は、His, Pro, Tyr, Asn, Glu, Arg, Lys, Phe, またはTrp;
Xaa3は、Ser, Thr, Ala, Tyr, Leu, His, Asn, またはGlu;
Xaa4は、L-もしくはD-Cys, L-もしくはD-ホモシステイン(Hcy), L-もしくはD-ペニシラミン, -SH基を有する他のアミノ酸またはL-もしくはD-His;および
Xaa5は、Asn, Glu, Ser, Thr, His, またはTyr)
を含む5ないし約30アミノ酸残基のペプチド、または該ペプチドのN末端またはC末端がキャッピングされた誘導体である。
【0031】
上記用途の他の態様において、該ペプチドは、アミノ酸配列:
Xaa1-His-Ser-Xaa2-Asn (SEQ ID NO:86)(式中、Xaa1は、Pro, Hisであるか, またはアミノ酸ではなく、およびXaa2は、L-もしくはD-Cys, L-もしくはD-Hcy, L-もしくはD-ペニシラミン, -SH基を有する他のアミノ酸、またはL-もしくはD-His)を有する。上記好ましい用途において、上記ペプチドは、アミノ酸配列:Pro-His-Ser-Xaa-Asn (SEQ ID NO:87)(式中、Xは、L-もしくはD-Cys, L-もしくはD-Hcy、ペニシラミン, -SH基を有する他のアミノ酸、またはL-もしくはD-His)を有する。最も好ましくは、該ペプチドは、アミノ酸配列:Pro-His-Ser-Cys-Asn (SEQ ID NO:1)を有するペンタペプチドである。該ペプチドが、N末端がアセチル基で、C末端がアミノ基でキャッピングされている、上記用途も包含される。好ましい用途において、患者はヒトである。好ましい用途において、IBDはCrDである。
【0032】
本発明者らは、抗血管形成化合物である、配列:Pro-His-Ser-Cys-Asn (SEQ ID NO:1)(本明細書では1文字表記でPHSCNとして示す)が、CrDのマウスモデルにおいて既存のIBDの徴候を劇的に低減させることを見出した。本発明者らはさらに、ここで例示した化合物に加えて同様の結果をもたらす化合物による血管形成の抑制を認識し、この「クラス」の化合物はIBD、とりわけCrDを治療するための潜在的に強力な医薬となるものである。
【0033】
ペンタペプチド:PHSCN (SEQ ID NO:1)およびそのキャッピングされた誘導体:アセチル-PHSCN-NH2 (Ac-PHSCN-NH2と略す)は、本発明の好ましい態様である。Ac-PHSCN-NH2はまた、本明細書において医薬開発上の略語「ATN−161」によっても言及する。これら分子および他の置換変異体および幾つかのその医薬用途は、D. Livantの以下の特許およびLivantらの文献(参照のためその全体を本明細書に引用する)に記載されている:米国特許第5,840,514号, 同第5,989,850号, 同第6,001,965号, 同第6,025,150号, 同第6,140,068号, 同第6,331,409号, 同第6,472,369号, 同第6,576,440号および同第6,841,355号; Livantら、Cancer Res, 2000,60309-20。
【0034】
細胞表面分子の一つのクラスである特異的インテグリンは、内皮細胞(EC)の血管形成応答を媒介するのに重要であると同定されている。インテグリンαVβ3、αVβ5およびαVβ1は、ECの移動、増殖および生存を促進することによって新生物性および非新生物性の血管形成において重要な役割を果たしていることが示されている(Brooks PCら、1994, Cell 79:1157-64 ; Brooks PCら、1995, J Clin Invest 96:1815-22 ; Kerr JSら、1999, Anticancer Res 19:959-68 ; Kerr JSら、2000, Expert Opin Investig Drugs 9:1271-79)。それゆえ、内皮特異的インテグリンは、抗新生物治療計画における、および非悪性の血管形成障害の治療における抗血管形成アプローチの有望な標的となっている(Kumar CCら、2001, Cancer Res 61:2232-2338; Kumar CCら、Adv Exp Med Biol 476:169-80; Klotz Oら、2000, Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol 238:88-93; Storgard CMら、1999, J Clin Invest 103:47-54)。
【0035】
本発明は、好ましい態様として特定の抗血管形成化合物に焦点を合わせるものである。この化合物は、上記のようにATN−161と称するものであって、実際は誘導体化(キャッピングされた)インテグリンアンタゴニストペンタペプチドPHSCN (SEQ ID NO:1)であり、それを選択したのは、他の理由の中でも、それが本発明者の一人(A. Mazar)と他の研究者(Stoeltzing, Oら、2003, Int. J. Cancer: 104:496-503)により行った研究において活性を示したからである。大抵のインテグリンアンタゴニストとは対照的に、ATN−161は、RGD配列に基づいておらず、細胞接着に影響を及ぼさない点でユニークである。このペプチドの配列は、フィブロネクチンのα5β1への結合を増強する「相乗領域(synergy region)」として知られるフィブロネクチンの5残基配列(PHSRN, SEQ ID NO:2)に由来するものである。ATN−161は、SEQ ID NO:2のArgからCysへ置換された配列である。ATN−161は、このインテグリン相互作用を妨害することによって作用することができる。PHSCN (SEQ ID NO:1)および他の有用な置換変異体は、Livantの特許(上掲)およびLivantら、2001(上掲)に記載されている。Whiteら、2001, J Immunol 167:5362-66は、PHSCNペプチドがフィブロネクチン上にプレーティングされた単球による血管形成増強性(pro-angiogenic)CXCケモカインの発現を抑制することを示した。Mazarとその共同研究者による他の研究は、ATN−161がインテグリンα5β1のβ1ドメインのN末端と相互作用する(このことが、このインテグリンを不活性なコンホメーションに固定する)ことを示した。腫瘍増殖または生存の様々な局面に対するATN−161の抑制作用は、少なくとも部分的には、腫瘍細胞に対してではなく内皮細胞に対して指向された作用によって媒介されると考えられる、なぜならインテグリンα5β1を発現しない異種移植したヒト直腸癌細胞(HT29)のインビボ増殖をATN−161は有意に低減させたからである(Stoeltzing Oら、2001, Clin Cancer Res 7:3656S)。また、以下の刊行物のアブストラクトをも参照:Plunkett, MLら、2002, “A novel anti-angiogenic/anti-metastatic peptide, ATN-161 (Ac-PHSCN-NH2), which targets multiple fully activated integrins including α5β1 and αvβ3, leads to increased anti-tumor activity and increased survival in multiple tumor models when combined with chemotherapy.” Europ J Canc 38 (補遺7):79; Plunkett MLら、2002, “Dose and schedule optimization of a novel anti-angiogenic/anti-metastatic peptide, ATN-161 (Ac PHSCN NH2), which targets multiple fully activated integrins including α5β1 and αvβ3.” Europ J Canc 38 (補遺7):82; Donate, Fら、2003, “ATN-161 (Ac PHSCN-NH2) has potent anti-angiogenic activity through multiple mechanisms of action and localizes to newly formed blood vessels in vivo.” Proc. Amer Asoc Canc Res #44:63。
【0036】
ATN−161のさらに最近の研究において、本発明者の一人(Mazar)およびその共同研究者は、このペンタペプチド誘導体が、(1)腫瘍の血管形成を抑制したこと、および(2)古典的な化学療法剤である5−フルオロウラシルの効能を高めることを見出した(Stoeltzingら、2003上掲)。
【0037】
フィブロネクチンのPHSRN(SEQ ID NO:2)に基づくペプチド
好ましい態様において、本発明の方法は、配列PHSCN (SEQ ID NO:1)およびSEQ ID NO:1の置換または付加変異体を含む、本質的に配列PHSCN (SEQ ID NO:1)およびSEQ ID NO:1の置換または付加変異体からなる、または配列PHSCN (SEQ ID NO:1)およびSEQ ID NO:1の置換または付加変異体からなるペプチドを用いる。このペプチドは、5アミノ酸よりも長くてもよいが(すなわち、付加変異体)、約30アミノ酸よりも長くはないのが好ましい。本発明において使用するのに最も好ましいペプチド組成物はペンタペプチドである。
【0038】
本明細書に記載するアミノ酸は、特にD−アミノ酸であると断らない限りすべてL−アミノ酸である。本発明は1またはそれ以上のL−アミノ酸がD−アミノ酸で置換された態様をも包含することが理解されなければならない。
【0039】
配列PHSCN (SEQ ID NO:1)を含み、IBD、例えばIL−10KOマウスのIBDに対して治療的または他の有利な作用を呈する抗血管形成ペプチドの非制限的例を以下に列記する(これらは、C末端、N末端または両末端でのSEQ ID NO:1の付加変異体を包含する)。
PHSCN (SEQ ID NO:2)
PHSCNS (SEQ ID NO:3)
PHSCNSI (SEQ ID NO:4)
PHSCNSIT (SEQ ID NO:5)
PHSCNSITL (SEQ ID NO:6)
PHSCNSITLT (SEQ ID NO:7)
PHSCNSITLTN (SEQ ID NO:8)
PHSCNSITLTNL (SEQ ID NO:9)
PHSCNSITLTNLT (SEQ ID NO:10)
PHSCNSITLTNLTP (SEQ ID NO:11)
PHSCNSITLTNLTPG (SEQ ID NO:12)
EHFSGRPREDRVPHSCN (SEQ ID NO:13)
PEHFSGRPREDRVPHSCN (SEQ ID NO:14)
HFSGRPREDRVPHSCN (SEQ ID NO:15)
FSGRPREDRVPHSCN (SEQ ID NO:16)
SGRPREDRVPHSCN (SEQ ID NO:17)
GRPREDRVPHSCN (SEQ ID NO:18)
RPREDRVPHSCN (SEQ ID NO:19)
PREDRVPHSCN (SEQ ID NO:20)
REDRVPHSCN (SEQ ID NO:21)
EDRVPHSCN (SEQ ID NO:22)
DRVPHSCN (SEQ ID NO:23)
RVPHSCN (SEQ ID NO:24)
VPHSCN (SEQ ID NO:25)
PPSCN (SEQ ID NO:26)
PEHFSGRPREDRVPHSCNSITLTNLTPG (SEQ ID NO:27)。
【0040】
ペンタペプチドとして、またはより長いペプチド中に含まれて用いることのできる本発明において有用な上記ペンタペプチド配列の置換変異体の例は以下のとおりである:
HHSCN (SEQ ID NO:28)
HPSCN (SEQ ID NO:29)
PHTCN (SEQ ID NO:30)
HHTCN (SEQ ID NO:31)
HPTCN (SEQ ID NO:32)
PHSNN (SEQ ID NO:33)
HHSNN (SEQ ID NO:34)
HPSNN (SEQ ID NO:35)
PHTNN (SEQ ID NO:36)
HHTNN (SEQ ID NO:37)
HPTNN (SEQ ID NO:38)
PHSKN (SEQ ID NO:39)
HHSKN (SEQ ID NO:40)
HPSKN (SEQ ID NO:41)
PHTKN (SEQ ID NO:42)
HHTKN (SEQ ID NO:43)
HPTKN (SEQ ID NO:44)
PHSCR (SEQ ID NO:45)
HHSCR (SEQ ID NO:46)
HPSCR (SEQ ID NO:47)
PHTCR (SEQ ID NO:48)
HHTCR (SEQ ID NO:49)
HPTCR (SEQ ID NO:50)
PHSNR (SEQ ID NO:51)
HHSNR (SEQ ID NO:52)
HPSNR (SEQ ID NO:53)
PHTNR (SEQ ID NO:54)
HHTNR (SEQ ID NO:55)
HPTNR (SEQ ID NO:56)
PHSKR (SEQ ID NO:57)
HHSKR (SEQ ID NO:58)
HPSKR (SEQ ID NO:59)
PHTKR (SEQ ID NO:60)
HHTKR (SEQ ID NO:61)
HPTKR (SEQ ID NO:62)
PHSCK (SEQ ID NO:63)
HHSCK (SEQ ID NO:64)
HPSCK (SEQ ID NO:65)
PHTCK (SEQ ID NO:66)
HHTCK (SEQ ID NO:67)
HPTCK (SEQ ID NO:68)
PHSNK (SEQ ID NO:69)
HHSNK (SEQ ID NO:70)
HPSNK (SEQ ID NO:71)
PHTNK (SEQ ID NO:72)
HHTNK (SEQ ID NO:73)
HPTNK (SEQ ID NO:74)
PHSKK (SEQ ID NO:75)
HHSKK (SEQ ID NO:76)
HPSKK (SEQ ID NO:77)
PHTKK (SEQ ID NO:78)
HHTKK (SEQ ID NO:79)
HPTKK (SEQ ID NO:80)
【0041】
本発明の方法の他の好ましい態様において、抗血管形成ペプチドは、配列:
X1-X2-X3-X4-X5 (SEQ ID NO:81)
(式中、X1は、プロリン、グリシン、バリン、ヒスチジン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンよりなる群から選ばれたアミノ酸、そしてX2は、ヒスチジン、プロリン、チロシン、アスパラギン、グルタミン、アルギニン、リシン、フェニルアラニン、およびトリプトファンよりなる群から選ばれたアミノ酸、そしてX3は、セリン、トレオニン、アラニン、チロシン、ロイシン、ヒスチジン、アスパラギン、およびグルタミンよりなる群から選ばれたアミノ酸、そしてX4は、アルギニン、リシン、およびヒスチジンよりなる群から選ばれたアミノ酸、そしてX5は、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、ヒスチジン、およびチロシンよりなる群から選ばれたアミノ酸)を含み、好ましくは該配列からなる。
【0042】
他の態様において、抗血管形成ペプチドは、SEQ ID NO:2の位置の一つがCys基で置換されていてよい。その場合も好ましい置換はPHSCN (SEQ ID NO:1)である。他の変異体は、上記のようにペンタペプチドまたは付加変異体であるが、以下のコア配列の一つを有するものである:CHSRN (SEQ ID NO:82), PCSRN (SEQ ID NO:83), PHCRN (SEQ ID NO:84), およびPHSRC (SEQ ID NO:85)。これらのペプチド中のL−Cysは、いかなるスルフヒドリル含有アミノ酸で置換されていてよい。好ましい例は、D-Cys, L-もしくはD-ホモシステイン(Hcy)またはD-もしくはL-ペニシラミンである。ペニシラミンはまた、3-ジメチルシステイン-3-メルカプトバリン; H-Pen-OH; 3,3-ジメチルシステイン;および2-アミノ-3-メルカプト-3-メチルブタン酸としても知られる。
【0043】
さらに他の態様において、抗血管形成組成物は、配列:
X1-H-S-X2-N (SEQ ID NO:86)
(式中、X1は、プロリン、ヒスチジンのいずれかであるか、またはアミノ酸ではない、そしてX2は、L-システイン、D-システイン、ホモシステイン(Hcy)、ヒスチジン、ペニシラミンまたは他のスルフヒドリル含有アミノ酸)
を含み、本質的に該配列からなり、または該配列からなる。
【0044】
SEQ ID NO:86を有するペプチドの好ましい態様は、配列:PHSXN (SEQ ID NO:87)(式中、Xは、L-もしくはD-システイン、L-もしくはD-ホモシステイン、L-もしくはD-ペニシラミン、スルフヒドリル基を有する他のアミノ酸、またはL-もしくはD-ヒスチジンである)を有するものである。
【0045】
本発明の方法は、以下の4残基配列の少なくとも1の範囲を含む、ペプチド、好ましくはペンタペプチドだが、約30残基までのより長いペプチドを用いる:
PSCN (SEQ ID NO:88)
HSCN (SEQ ID NO:89)
HTCN (SEQ ID NO:90)
PTCN (SEQ ID NO:91)
HSCR (SEQ ID NO:92)
PSCR (SEQ ID NO:93)
HTCR (SEQ ID NO:94)
PTCR (SEQ ID NO:95)
HSCK (SEQ ID NO:96)
PSCK (SEQ ID NO:97)
HTCK (SEQ ID NO:98)
PTCK (SEQ ID NO:99)。
【0046】
対照ペプチド誘導体ATN−163は比較試験のための負の対照として有用であり、このものはATN−161と同じアミノ酸組成を有するが、その配列はHis-Ser-Pro-Asn-Cysとなるように並べ変えてある(scrambled)。ATN−163はキャッピングした形態である:Ac-HSPNC-NH2)。
【0047】
上記のように、本発明は、PHSCN (SEQ ID NO:1)の「基本」配列と比べて、少なくとも1のアミノ酸残基、好ましくは1のみのアミノ酸残基が除去され、その場所に別の残基を挿入したペプチドの使用を包含する。タンパク質の化学および構造の詳細な記載については、Schulz, G.E.ら、Principles of Protein Structure, Springer-Verlag、ニューヨーク、1979、およびCreighton, T.E., Proteins: Structure and Molecular Principles, W.H. Freeman & Co.、サンフランシスコ、1984(参照のため本明細書に引用する)を参照。好ましい置換の一つのタイプは、当該技術分野でよく知られているように保存的な置換であり、一般に以下のグループの一つの範囲内での変化であると考えられる:
1.小さな脂肪族で非極性またはわずかに極性の残基:例えば、Ala, Ser, Thr, Gly;
2.極性で負に荷電した残基およびそのアミド:例えば、Asp, Asn, Glu, Gln;
3.極性で正に荷電した残基:例えば、His, Arg, Lys;
Proは、その通常とは異なる結合構造により、鎖を堅固に拘束する。
【0048】
機能特性における実質的な変化は、例えば上記グループ(あるいは上記に示していない他の2つのアミノ酸グループ)の範囲内ではなくグループ相互間での置換のように、より保存的でない置換によって行われ、かかる置換は、(a)置換の領域でのペプチド骨格の構造、(b)標的部位での分子の荷電または疎水性、または(c)側鎖の嵩張りを維持するうえでの作用を一層有意に異ならしめるであろう。本発明による大抵の置換は、ペプチド分子の特性に劇的な変化をもたらさないようなものである。置換を行う前に置換の正確な効果を予測するのが困難な場合でも、当業者であれば、かかる効果を日常的なスクリーニングアッセイ、好ましくは本明細書に記載の生物学的アッセイや血管形成研究の技術分野でよく知られた他のアッセイにより評価しうることを認識するであろう。ペプチド特性(酸化還元もしくは熱的安定性、疎水性、タンパク質分解に対する感受性または担体と凝集もしくは多量体に凝集する傾向性を含む)の修飾は、当業者によく知られた方法により十分に(fare)アッセイされる。
【0049】
ペプチドの末端キャッピング
本明細書において使用するペプチドは、そのN末端およびC末端においてアシル(「Ac」と略す)基およびアミド(「Am」と略す)基でそれぞれキャッピングするのが好ましく、例えば、N末端をアセチル(CH3CO-)で、C末端をアミド(-NH2)でキャッピングする(アセチルもまた、C末端の-NH2キャップとともに用いる場合は「Ac」とも略す)。好ましくは末端アミノ基への結合における広範なN末端官能基としては、例えば以下のものが想起される:
ホルミル;
1〜10炭素原子を有するアルカノイル、例えば、アセチル、プロピオニル、ブチリル;
1〜10炭素原子を有するアルケノイル、例えば、ヘキサ−3−エノイル;
1〜10炭素原子を有するアルキノイル、例えば、ヘキサ−3−イノイル;
アロイル、例えば、ベンゾイルまたは1−ナフトイル;
へテロアロイル、例えば、3−ピロイル4−キノロイル;
アルキルスルホニル、例えば、メタンスルホニル;
アリールスルホニル、例えば、ベンゼンスルホニルまたはスルファニリル;
へテロアリールスルホニル、例えば、ピリジン−4−スルホニル;
1〜10炭素原子を有する置換アルカノイル、例えば、4−アミノブチリル;
1〜10炭素原子を有する置換アルケノイル、例えば、6−ヒドロキシ−ヘキサ−3−エノイル;
1〜10炭素原子を有する置換アルキノイル、例えば、3−ヒドロキシ−ヘキサ−3−イノイル;
置換アロイル、例えば、4−クロロベンゾイルまたは8−ヒドロキシ−ナフト−1−オイル;
置換へテロアロイル、例えば、2,4−ジオキソ−1,2,3,4−テトラヒドロ−3−メチル−キナゾリン−6−オイル;
置換アルキルスルホニル、例えば、2−アミノエタンスルホニル;
置換アリールスルホニル、例えば、5−ジメチルアミノ−1−ナフタレンスルホニル;
置換へテロアリールスルホニル、例えば、1−メトキシ−6−イソキノリンスルホニル;
カルバモイルまたはチオカルバモイル;
置換カルバモイル(R'-NH-CO)または置換チオカルバモイル(R'-NH-CS)(式中、R'は、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、置換アルキル、置換アルケニル、置換アルキニル、置換アリール、または置換ヘテロアリール);
置換カルバモイル(R'-NH-CO)または置換チオカルバモイル(R'-NH-CS)(式中、R'は、アルカノイル、アルケノイル、アルキノイル、アロイル、ヘテロアロイル、置換アルカノイル、置換アルケノイル、置換アルキノイル、置換アロイル、または置換ヘテロアロイル)。
【0050】
C末端キャッピング官能基は、末端カルボキシルとのアミド結合かまたはエステル結合のいずれかであってよい。アミド結合を提供するキャッピング官能基はNR1R2として示され、ここでR1およびR2はそれぞれ独立に以下の群から選択される:
水素原子;
好ましくは1〜10炭素原子を有するアルキル、例えば、メチル、エチル、イソプロピル;
好ましくは1〜10炭素原子を有するアルケニル、例えば、プロパ−2−エニル;
好ましくは1〜10炭素原子を有するアルキニル、例えば、プロパ−2−イニル;
1〜10炭素原子を有する置換アルキル、例えば、ヒドロキシアルキル、アルコキシアルキル、メルカプトアルキル、アルキルチオアルキル、ハロゲン化アルキル、シアノアルキル、アミノアルキル、アルキルアミノアルキル、ジアルキルアミノアルキル、アルカノイルアルキル、カルボキシルアルキル、カルバモイルアルキル;
1〜10炭素原子を有する置換アルケニル、例えば、ヒドロキシアルケニル、アルコキシアルケニル、メルカプトアルケニル、アルキルチオアルケニル、ハロゲン化アルケニル、シアノアルケニル、アミノアルケニル、アルキルアミノアルケニル、ジアルキルアミノアルケニル、アルカノイルアルケニル、カルボキシアルケニル、カルバモイルアルケニル;
1〜10炭素原子を有する置換アルキニル、例えば、ヒドロキシアルキニル、アルコキシアルキニル、メルカプトアルキニル、アルキルチオアルキニル、ハロゲン化アルキニル、シアノアルキニル、アミノアルキニル、アルキルアミノアルキニル、ジアルキルアミノアルキニル、アルカノイルアルキニル、カルボキシアルキニル、カルバモイルアルキニル;
10までの炭素原子を有するアロイルアルキル、例えば、フェナシルまたは2−ベンゾイルエチル;
アリール、例えば、フェニルまたは1−ナフチル;
へテロアリール、例えば、4−キノリル;
1〜10炭素原子を有するアルカノイル、例えば、アセチルまたはブチリル;
アロイル、例えば、ベンゾイル;
へテロアロイル、例えば、3−キノロイル;
OR'またはNR'R''(式中、R'およびR''はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル、アリール、へテロアリール、アシル、アロイル、スルホニル、スルフィニル、またはSO2R'''またはSOR'''(式中、R'''は、置換されたまたは置換されていないアルキル、アリール、へテロアリール、アルケニル、またはアルキニル)。
【0051】
エステル結合を提供するキャッピング官能基はORとして示され、ここでRは、アルコキシ;アリールオキシ;ヘテロアリールオキシ;アラルキルオキシ;ヘテロアラルキルオキシ;置換アルコキシ;置換アリールオキシ;置換ヘテロアリールオキシ;置換アラルキルオキシ;または置換ヘテロアラルキルオキシであってよい。
【0052】
N末端またはC末端キャッピング官能基のいずれか、または両者は、キャッピングした分子が、プロドラッグ(活性な医薬を放出するように生体内において自発的または酵素的変換を受け、親医薬分子よりも改善された放出特性を有する)として機能するような構造であってよい(Bundgaard H編: Design of Prodrugs、エルセビエ、アムステルダム、1985)。
【0053】
キャッピング基の賢明な選択は、ペプチドに他の活性を付加することを可能にする。例えば、N末端またはC末端キャップに結合したスルフヒドリル基の存在は、該誘導体化ペプチドの他の分子への結合を可能にするであろう。
【0054】
ペプチドのペプチドミメチックおよび化学誘導体
本明細書に記載するペプチドの化学誘導体の好ましいタイプは、PHSCN (SEQ ID NO:1)の生物学的作用を擬態した(mimics)ペプチドミメチック化合物である。ペプチドミメチック剤は、もとのペプチドの結合活性や生物学的活性を有するように、それが擬態するペプチドの結合要素の立体空間的な特性を再生する非天然ペプチドまたは非ペプチド剤である。生物学的に活性なペプチドと同様に、ペプチドミメチックは結合表面(天然ペプチドが結合するリガンドと相互作用する)と非結合表面とを有する。ペプチドミメチックの非結合表面は、該ペプチドミメチックの結合表面を修飾することなく様々な治療残基で修飾することのできる官能基を含むであろう。ペプチドミメチックの一つの態様は、該分子の非結合表面にアニリンを含む。アニリンのNH2基のpKaは〜4.5であり、それゆえペプチドミメチックの結合表面上のNH2官能基を修飾することなくNH2選択的な試薬により修飾することができるであろう。他のペプチドミメチックはその結合表面上にNH2官能基を有しておらず、それゆえpKaの如何にかかわらず、あらゆるNH2を結合部位として非結合表面上に提示することができるであろう。さらに、-SHや-COOHなどの他の修飾しうる官能基を結合部位としてペプチドミメチックの非結合表面に導入することができるであろう。治療残基はまたペプチドミメチックの合成の際に直接導入することもでき、該分子の非結合表面上優先的に提示することができるであろう。
【0055】
本発明はまた、部分的なペプチド特性を保持した化合物をも包含する。例えば、本発明のペプチド内のタンパク質分解的に不安定な結合を、該分子の残りはそのペプチド特性を保持しながら、等量式(isosutere)(N−メチル化;D−アミノ酸)などの非ペプチド要素または還元したペプチド結合で選択的に置換することができるであろう。
【0056】
ペプチドミメチック化合物は、アゴニスト、基質またはインヒビターのいずれにせよ、オピオイドペプチド、VIP、トロンビン、HIVプロテアーゼなどの多くの生物学的に活性なペプチドについて記載されている。ペプチドミメチック化合物をデザインおよび製造する方法は当該技術分野で知られている(Hruby, V.J., Biopolymers 33:1073-1082 (1993); Wiley, R.A.ら、Med. Res. Rev. 13:327-384 (1993); Mooreら、Adv. in Pharmacol 33:91-141 (1995); Giannisら、Adv. in Drug Res. 29:1-78 (1997);これらを参照のためその全体を本明細書に引用する)。これら方法は、PHSCN (SEQ ID NO:1)の少なくとも結合能および特異性を有し、好ましくはその生物学的活性をも有するペプチドミメチックを製造するのに用いる。そのような化合物をデザインおよび合成するには、本明細書の開示に照らして、当業者に利用できるペプチド化学および一般有機化学の知識で十分である。
【0057】
例えば、そのようなペプチドミメチックは、インテグリンなどのリガンドと複合体として結合しているかまたは遊離の本発明のペプチドの結晶学的に得られた三次元構造の考察により同定できる。あるいは、そのリガンドに結合した本発明の天然ペプチドの構造は、核磁気共鳴分光測光の技術により得ることができる。そのリガンドまたはレセプターとのペプチドの相互作用の立体化学に関するより良好な知見は、そのようなペプチドミメチックの合理的なデザインを可能とするであろう。リガンドの不在下での本発明のペプチドまたはタンパク質の構造はまた、ミメチック分子のデザインのための足場を提供することができるであろう。
【0058】
上記に記載したペプチドの好ましい化学誘導体および/またはミメチックは、同じアミノ酸残基の幾つかまたは殆どを有するが非ペプチド結合によってさらに安定化された環状ペプチドである。そのような化合物を製造および使用する方法は、例えば、Loblらの米国特許第5,192,746号、Burke, Jr.らの米国特許第5,169,862号、Bischoffらの米国特許第5,539,085号、Aversaらの米国特許第5,576,423号、Shashouaの米国特許第5,051,448号、およびGaetaらの米国特許第5,559,103号(これらすべてを参照のためその全体を本明細書に引用する)に記載されている。ペプチドを擬態する非ペプチド化合物の合成もまた当該技術分野で知られている。Eldredら、1994, J. Med. Chem. 37:3882は、配列:Arg-Gly-Asp (RGD)を擬態する非ペプチドアンタゴニストを記載している。Kuら、1995, J. Med. Chem. 38:9はさらに、一連のそのような化合物の合成を解明している。
【0059】
ペプチドおよび誘導体の製造
本発明のペプチドは、組換えDNA法を用いて製造することができる。しかしながら、その長さを考慮すれば、Merrifield, J. Amer. Chem. Soc., 85:2149-54 (1963)によって一般に記載されているような固相合成法を用いて製造するのが好ましいが、当該技術分野で知られた他の同等の化学合成も有用ではある。固相ペプチド合成は、保護したα−アミノ酸を適当な樹脂にカップリングすることによりペプチドのC末端から開始することができる。そのような出発物質は、α−アミノ保護したアミノ酸を、エステル結合によりクロロメチル化樹脂またはヒドロキシメチル樹脂に、またはアミド結合によりBHA樹脂またはMBHA樹脂に結合させることによって調製することができる。そのような方法は当該技術分野でよく知られており、例えば米国特許第5,994,309号(参照のためその全体を本明細書に引用する)に開示されている。
【0060】
組成物のインビトロ試験
血管形成の研究に用いる方法(インビトロ、イクスビボ、インビボ)の一般的記載は、Vermeulen PBら、1996, Eur J Cancer 32A:2474-84およびVermeulen PBら、2002, Eur J Cancer 38:1564-79に見出すことができる(腫瘍に焦点を合わせているが、一般に適用可能である)。
【0061】
組成物のインビトロまたはイクスビボ試験
A.微小血管密度(MVD)分析
これは、下記実施例に記載したよく知られた組織学的方法である。一般的記載については、例えば、Gasparini, Gら、1994, J. Clin. Oncol. 12:454-466; Axelsson Kら、1995, J Natl Cancer Inst. 87::997-1008; Hansen, S.ら、2003, Brit J Cancer 88:102-108; Offersen BVら、2003, Eur J Cancer 39:881-90; Amis, SJら、2005, Int J Gynecol Cancer. 15:58-65を参照。
【0062】
組織試料のパラフィン切片中のMVDを凍結切片からの微小血管数と相関付けることができる。あらゆる受け入れられた内皮細胞マーカー(典型的にはmAb)(抗CD31、汎内皮細胞マーカー、CD105(TGFβのリガンド)またはヒトフォンビルブラント因子を含む)を用いることができる。MVDは、例えばQuantimet 500+ Image Analyzerを用い、典型的に血管新生のホットスポットで行う。所望の数の視野(例えば、3つ)の最高の血管密度(HVD)および平均血管密度(AVD)を記録する。上記Amisら(卵巣腫瘍および卵巣嚢胞を研究)は、固定化および凍結した組織を比較して、試験した倍率(×200および×400)でHVDとAVDとの間の強い相関関係を見出した。固定化および凍結した切片でのMVDの間の良好な相関関係は、そのような観察が生理状態および病理状態の両者での血管形成の真の反映を表していることを示唆している。固定化組織では、HVDおよびAVDは、機能的な卵巣嚢胞を含む群(腫瘍におけるよりも進展した微小循環を示した)において有意に大きかった。
【0063】
Chantrain CFら、2003, J Histochem Cytochem. 51:151-58は、主観的な要素を含むMVDの免疫組織化学法を用いて組織の血管形成を評価することの強みおよび弱みを記載している。主観的基準は、マウスまたは異種移植したヒト腫瘍の全切片中のCD31−免疫染色した「内皮領域」の測定のための影像分析ソフトウエアおよび高解像度スライドスキャナーで導入された。スライドスキャナーで得られた全(腫瘍)切片の影像での基準の使用は、血管形成を定量するための迅速な方法を構成する。「ホットスポット」および「ランダム視野」法に比べて、「全切片スキャニング」法で得られる内皮領域測定は、再現性が高い。他のコンピューター処理影像分析システムが、最近Barbareschi, Mらによって開発された(1995、印刷中)。
【0064】
B.内皮細胞移動のアッセイ
EC移動のため、トランスウエル当たり200μLのコラーゲン溶液を加え、ついで37℃で一夜インキュベートすることによってトランスウエルをI型コラーゲン(50μg/mL)でコーティングする。トランスウエルを24ウエルプレートに並べ、化学誘引物質(例えば、FGF−2)を全容量0.8mL培地にてボトムチャンバに加える。ヒト臍帯血内皮細胞(HUVEC)(単層培養からトリプシンを用いて剥がしておいたもの)などのECを血清不含培地で約106細胞/mLの最終濃度まで希釈し、この細胞浮遊液の0.2mLを各トランスウエルのアッパーチャンバに加える。試験すべきインヒビターをアッパーチャンバおよびロウアーチャンバの両者に加え、加湿雰囲気下、37℃で5時間、移動を進行させる。トランスウエルをDiffQuikRを用いて染色したプレートから取り出す。移動しなかった細胞を綿棒でこすり取ることによりアッパーチャンバから取り出し、メンブレンを外し、スライド上に置き、高倍率の視野(×400)でカウントして移動した細胞数を決定する。
【0065】
C.抗血管形成活性の管形成(Tube-Fomation)アッセイ
本発明の化合物の抗血管形成活性を、インビトロでの2つの異なるアッセイ系の一つで試験した。
内皮細胞、例えば、ヒト臍帯血内皮細胞(HUVEC)またはヒト微小血管内皮細胞(HMVEC)(これらは市販の方法により調製でき、または市販されている)を、リン酸緩衝食塩水(PBS)中、2×105細胞/mLの濃度でフィブリノゲン(5mg/mL)と1:1(v/v)比で混合する。トロンビンを加え(最終濃度5単位/mL)、混合物を直ちに24ウエルプレートに移す(ウエル当たり0.5mL)。フィブリンゲルを生成させ、ついでVEGFおよびbFGF(それぞれ最終濃度5ng/mLにて)を被験化合物とともにウエルに加える。細胞を5%CO2中、37℃で4日間インキュベートし、この時点で各ウエル中の細胞をカウントし、丸いか、分枝なしで細長いか、1の分枝を有して細長いか、または2またはそれ以上の分枝を有して細長いかで分類する。結果は、各濃度の化合物について5つの異なるウエルの平均として表す。典型的に、抗血管形成インヒビターの存在下では、細胞は丸いままか未分化の管(例えば、0または1の分枝)を形成する。このアッセイは、当該技術分野において、インビボでの血管形成(または抗血管形成)効能を予測するものとして認識されている(Min, HYら、Cancer Res. 56: 2428-2433 (1996))。
【0066】
別のアッセイでは、内皮細胞の管形成を内皮細胞をMatrigelRで培養したときに観察する(Schnaperら、J. Cell. Physiol. 165:107-118, 1995)。内皮細胞(1×104細胞/ウエル)をMatrigelRでコーティングした24ウエルプレートに移し、48時間後に管形成を定量する。インヒビターを内皮細胞と同時かまたはその後の種々の時点で加えることにより試験する。管形成はまた、(a)bFGFやVEGFなどの血管形成増殖因子、(b)分化刺激剤(例えば、PMA)または(c)これらの組み合わせを加えることによっても刺激することができる
【0067】
このアッセイは、特定のタイプの基底膜、すなわち移動し分化する内皮細胞が最初に出会うと想定されるマトリックスの層を内皮細胞に提示することにより血管形成をモデル化したものである。結合した増殖因子に加え、MatrigelR中(およびインシトゥでは基底膜中)に見出されるマトリックス因子またはそのタンパク質分解産物もまた内皮細胞の管形成に刺激的であり、これにより、このモデルは先に記載したフィブリンゲル血管形成モデルを補完するものである(Bloodら、Biochim. Biophys. Acta 1032:89-118, 1990; Odedraら、Pharmac. Ther. 49:111-124, 1991)。本発明の化合物は両アッセイにおいて内皮細胞の管形成を抑制するが、これは本発明の化合物もまた抗血管形成活性を有するであろうことを示唆するものである。
【0068】
ペプチドのインビボ試験
血管形成を評価するための幾つかの一般的方法が当該技術分野でよく知られており、以下に簡単に記載する。
A.角膜血管形成モデル
使用したプロトコールは、本質的にVolpertらにより記載されたものと同じである(J. Clin. Invest. 98:671-679 (1996))。簡単に説明すると、雌のFischerラット(120-140gm)を麻酔し、HydronR、bFGF(150nM)、および試験すべき化合物からなるペレット(5μl)を角膜縁から1.0-1.5mmの角膜内に施した小さな切り込みに埋め込む。埋め込み後の5日目および7日目に血管新生を評価する。7日目に動物を麻酔し、コロイド状カーボンなどの染料を注入して血管を染色する。ついで、動物を安楽死させ、角膜をホルマリンで固定し、角膜を平らにして写真を撮って血管新生の程度を評価する。新生血管の定量は、全血管の面積または長さを造影することにより、あるいは簡単に血管をカウントすることにより行うことができる。
【0069】
B.MatrigelRプラグアッセイ
このアッセイは、本質的にPassanitiらの記載に従って行う(Lab Invest. 67:519-528 (1992))。氷冷したMatrigelR(例えば、500μL)(Collaborative Biomedical Products, Inc.、ベッドフォード、マサチューセッツ)を、ヘパリン(例えば、50μg/ml)、FGF−2(例えば、400ng/ml)および試験すべき化合物と混合する。幾つかのアッセイにおいては、bFGFを血管形成刺激として腫瘍細胞と置き換えてもよい。このMatrigelR混合物を4-8週齢の無胸腺ヌードマウスに腹部の中線の近傍の部位に、好ましくはマウス当たり3箇所、皮下注射する。注射したMatrigelRは触知できる固形ゲルを形成する。注射部位は、各動物が、正の対照プラグ(FGF−2+ヘパリン)、負の対照プラグ(例えば、緩衝液+ヘパリン)および血管形成に対するその作用を試験すべき化合物を含むプラグ(例えば、FGF−2+ヘパリン+化合物)を受け取るように選択する。処置はすべて3つずつ行うのが好ましい。注射後約7日または血管形成を観察するのに最適な他の時点で動物を頸部脱臼により屠殺する。マウスの皮膚を腹部の中線に沿って剥がし、MatrigelRのプラグを回収し、直ちに高解像度でスキャニングする。ついで、プラグを水中に分散させ、37℃で一夜インキュベートする。ヘモグロビン(Hb)レベルを、Drabkin溶液(例えば、Sigmaから得たもの)を用いて製造業者の指示に従い決定する。プラグ中のHbの量は、それが試料中の血液量を反映するので血管形成の間接的な測定手段である。さらに、あるいは別法として、動物を屠殺する前に、蛍光団を結合した高分子量デキストランを含む0.1mlの緩衝液(好ましくはPBS)を注射してもよい。プラグ中に分散した蛍光の量(蛍光測光的に決定される)もまた、プラグ中の血管形成の測定手段となる。mAb抗CD31(CD31は、「血小板−内皮細胞接着分子またはPECAM」である)を用いた染色もまた、プラグ中の新生血管の形成および微小血管密度を確認するのに用いることができる。
【0070】
C.ニワトリ漿尿脈(CAM)血管形成アッセイ
このアッセイは、本質的にNguyenらの記載に従って行う(Microvascular Res. 47:31-40 (1994))。血管形成因子(bFGF)かまたは腫瘍細胞のいずれかプラスインヒビターを含有するメッシュを8日齢のニワトリ胚のCAMに置き、試料の移植後3〜9日間CAMを観察する。血管形成の定量は、血管を含むメッシュの面積のパーセントを決定することにより行う。
【0071】
クローン病のマウスモデル
試験用に好ましく広く用いられているのは、IL−10欠損(KO)マウス(C57BL/10株のバックグラウンド上)である。実施例に記載するように、C57BL/10 IL−10KOマウスを飼育し、用いる。これらマウスは、超障壁設備(ultra-barrier facility)から通常の飼育箱に移したときに、10〜12週で大腸炎を一貫して発症する。これらマウスを用い、確立された疾患の病因および処置に対する候補の抗血管形成剤の効果を試験する。
【0072】
医薬組成物および治療方法
本発明の好ましい動物患者は哺乳動物である。本発明は、ヒトの治療において特に有用である。「治療」とは、本明細書に記載するペプチドを含む医薬組成物の患者への投与を意味している。
【0073】
「全身投与」とは、静脈内(i.v.)注射または注入など、患者の循環系への組成物の導入という結果となるかまたはいずれにしても組成物の体内の拡散を可能とする仕方での本明細書に記載のペプチドまたは誘導体の投与をいう。「領域(regional)」投与とは、腹腔内、くも膜下、硬膜下、または特定の器官へなど、特定の、若干限られた解剖学的空間への投与をいう。例としては、膣内、陰茎内、鼻内、気管支内(または肺点滴)、頭蓋内、耳内または眼内が挙げられる。「局所投与」とは、腫瘍塊への腫瘍内注射、皮下(s.c.)注射、筋肉内(i.m.)注射など、限られた、または範囲を定めた解剖学的空間への組成物または医薬の投与をいう。当業者であれば、局所投与または領域投与が屡々、組成物の循環系への投入という結果ともなり、s.c.またはi.m.が全身投与ともなることを理解するであろう。
【0074】
注射剤または注入剤は、通常の剤型にて、液剤または懸濁剤として、注射または注入前に液体の溶液または懸濁液とするに適した固形剤として、またはエマルジョン剤として調製することができる。好ましい投与経路はi.v.などの全身投与ではあるが、医薬組成物は局所または経皮的に例えば軟膏、クリーム剤またはゲル剤として、経口により、直腸経由で例えば坐剤により投与してもよい。
【0075】
局所投与のためには、化合物を膏薬や軟膏などの局所投与用ビヒクル中に配合することができる。活性成分の担体は、噴霧可能な形態または噴霧できない形態のいずれであってもよい。噴霧できない形態は、局所投与固有の担体を含み、粘性係数が好ましくは水よりも大きい半固体または固体であってよい。
【0076】
ペプチド組成物のための他の薬理学的に許容しうる担体は、リポソーム、すなわち脂質層に付着した水性の同心層からなる小球中に活性タンパク質が分散または様々な形で存在して含まれる医薬組成物である。活性なポリペプチドまたはタンパク質、または核酸は、水性層中または脂質層中に、内部または外部にて、またはいずれにしてもリポソーム懸濁液として一般に知られている非均一系で存在するのが好ましい。疎水性の層、すなわち脂質層は、一般に、しかしこれらのみではないが、レシチンやスフィンゴミエリンなどのリン脂質、コレステロールなどのステロイド、ジセチルホスフェート、ステアリルアミンまたはホスファチジン酸などの多かれ少なかれ表面活性な物質、および/または他の疎水性性の物質を含む。当業者であれば本発明のリポソーム製剤の他の適当な態様を認識するであろう。
【0077】
投与する治療用投与量は、当業者に知られたまたは当業者により容易に確認できる治療学的に有効な量である。投与量はまた、投与される者の年齢、健康、および体重、もしあるなら同時に行っている処置の種類、処置の頻度、および所望の効果の性質、例えば抗炎症作用かまたは抗菌作用かに依存する。
【0078】
ペプチドが薬理学的に許容しうる賦形剤または担体とともに配合された本発明の医薬組成物は、意図する目的を達成することのできるいかなる手段によっても投与することができる。投与する量および投与計画は、いずれかの特定の疾患を治療する臨床分野の当業者により容易に決定することができる。好ましい量を以下に記載する。
【0079】
本発明の範囲に含まれる医薬組成物は、それが意図する目的を達成するのに有効な量でペプチドが含まれる全ての組成物を包含する。各個人の必要性は様々であろうが、各成分の有効量の最適範囲の決定は当業者に自明の範囲である。先に注記したように、典型的な投与量は、約1μg/kg/体重〜約100mg/kg/体重を含むが、さらに好ましい投与量は以下のように所定の特定の使用について記載する。
【0080】
先に記載したように、薬理学的に活性なペプチドに加えて、医薬組成物は、当該技術分野でよく知られているように医薬として用いることのできる製剤に活性化合物をプロセシングするのを容易にする賦形剤や添加剤を含む適当な薬理学的に許容しうる担体を含む。注射または経口により投与するのに適した液剤は、賦形剤とともに約0.01〜99%の活性化合物を含んでいてよい。
【0081】
本発明の医薬組成物は、それ自体公知の方法で、例えば通常の混合、顆粒化、溶解、または凍結乾燥プロセスにより製造する。適当な賦形剤としては、充填剤、結合剤、崩壊剤、添加剤および安定化剤が挙げられ、これらはすべて当該技術分野で知られている。非経口投与に適した調合物は、水溶性の形態、例えば水溶性の塩の形態のタンパク質の水溶液を含む。さらに、適当な油状注射懸濁剤としての活性化合物の懸濁剤を投与してよい。適当な親油溶媒またはビヒクルとしては、脂肪油、例えばゴマ油、または合成の脂肪酸エステル、例えばオレイン酸エチルまたはトリグリセリドが挙げられる。水性の注射懸濁剤は、該懸濁剤の粘度を増大させる物質を含んでいてよい。
【0082】
本発明による全身投与のための医薬製剤は、腸内、非経口または局所投与用に調合されてよく、活性成分の全身投与を達成するためにこれら3つのタイプの製剤を同時に使用することができる。
【0083】
炎症性腸疾患および関連状態の治療/改善
本発明の医薬組成物の用量は、有効量のペプチドを含有する医薬投与単位を含む。単位剤型は、単位用量として哺乳動物に適した物理的に区別された単位をいう;各単位は、所望の治療効果を奏するように計算された活性物質の前もって決められた量を必要な医薬担体とともに含有する。本発明の単位剤型の仕様は、(a)活性物質の特性および達成すべき特定の治療効果、および(b)個々の患者のためにそのような活性化合物を配合するうえでの技術的に内在する制限および個々の患者の感受性により規定され、直接依存する。
【0084】
有効量とは、疾患のあらゆる関連するパラメーターの測定可能な低減という結果となるインビボでの定常状態濃度を達成するに十分な量を意味し(当該技術分野でよく知られている)、CrDの動物モデルについては、以下に例示する。上掲のScheininらおよびそれに引用された文献をも参照のこと。これには、炎症反応性のあらゆる受け入れられた指標、または疾患に罹患していない期間または生存の測定可能な延長が挙げられる。
【0085】
一つの態様において、有効投与量は、本明細書に記載のインビボアッセイにおける化合物の50%有効投与量(ED50)よりも10倍高いのが好ましく、100倍高いのがさらに好ましい。
【0086】
投与すべき活性化合物の量は、選択したペプチドまたは誘導体、投与経路、受領者の健康および体重、他の同時処置の存在(もしあれば)、処置の頻度、所望の効果の性質、腫瘍転移の抑制、および熟練技術者の判断に依存する。
【0087】
患者、好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトのCrDまたは他のIBDを治療するのに好ましい投与量は、体重1kg当たり約10mgまでの活性ペプチドベースの化合物の量である。ペプチドまたはペプチドミメチックの典型的な単回投与量は、約1μg〜約100mg/kg体重である。約0.1mg〜約7gの範囲の1日当たりの総投与量が静脈内投与には好ましい。しかしながら、上記範囲は示唆に留まるものである、なぜなら個々の処置の治療計画における変数の数は大きく、これら好ましい数値からの相当の変位が予測されるからである。
【0088】
有効投与量および最適投与量の範囲は、本明細書に記載する方法を用いたインビトロまたは動物実験に基づいて決定することができる。
【0089】
IBD、とりわけCrDを治療するための治療組成物は、本発明のペプチドに加えて、1またはそれ以上の抗炎症剤または標的患者がリスクにあるさらなる徴候を治療するための他の医薬を含んでいてよい。
【0090】
以上、本発明を一般的に説明したが、本発明は下記実施例を参照することにより一層容易に理解されるであろう。これら実施例は、特に断らない限り、例示により提供するものであって、本発明を限定することを意図するものではない。
【0091】
実施例I
ATN−151は確立された炎症性腸疾患を罹患するIL−10欠損マウスにおいて大腸炎を低減させた
早期および後期大腸炎の研究のため、C57BL/10 IL−10欠損マウスのコロニーを常法によりCase Western Reserve University Animal Research Centerで飼育した。これらマウスは、超障壁設備から通常の飼育箱に移したときに、10〜12週で大腸炎を一貫して発症する。これらマウスを用い、確立された疾患の発症および処置の両者に対するATN−161(Ac-PHSCN-NH2)の効果を試験した。
【0092】
ATN−161は、マウスを通常の飼育箱に移した時点で処置を開始したときには、本モデルにおいて大腸炎の発症に対し効果はなかった。しかしながら、ATN−161は、確立された疾患を罹患したマウスにおいて大腸炎を一貫して低減させ(図1)、これは処置の約4週後に観察された効果であった。ATN−161のスクランブルド(scrambled)ペプチド態様(ATN−163;Ac-HSPNC-NH2)は対照として用い、本モデルにおいて確立された大腸炎に対して効果はなかった。ATN−163対照とビヒクル対照とは、これら研究において区別できなかった(データは示していない)。
【0093】
実施例II
ATN−161処理した動物はより低い組織学的スコアを現し器官培養においてより少ないIL−6およびIL−12を産生した
6週目の終わりに動物を安楽死させ、組織分析のために直腸を取り出した。ATN−161処置群は、ATN−163処置群よりも有意に低い組織学的スコアを有していた(図2)。
【0094】
また、生検を培養し、以前に記載されたようにしてIL−6およびIL−12発現について上澄み液を分析した(Spencer DMら、2002, Gastroenterology 122:94-105)。IL−6およびIL−12は、大腸炎の病因と相関付けられている炎症性サイトカインである(Mahida YR, 2000, Inflamm Bowel Dis 6:21-33)。ATN−161処置した動物からの直腸断片は、ATN−163処置した対照よりも器官培養においてより低いレベルのIL−6およびIL−12を発現した(図3)。
【0095】
IL−6およびIL−12発現に対するATN−161の作用を粘膜固有層単核細胞(LPMC)抽出物および脾細胞でも評価した。ATN−161はこれら細胞においてIL−6およびIL−12産生に対する効果はなく、ATN−161の作用がLPMCに対する直接作用のゆえではなく、腸の微小血管構造の一般的な減少によるものであることが示唆された。
【0096】
実施例III
ATN−161処置マウスにおける低減した血管形成
血管形成の測定手段としての微小血管密度を、亜鉛固定した直腸切片で決定した。ATN−161処置したマウスからの直腸断片は、ATN−163処置した対照よりも微小血管が約40%少なく、本モデルにおける血管形成の抑制が証明された(図4)。
【0097】
CrDのIL−10ノックアウトマウスモデルにおいて、ATN−161は疾患活性指標および直腸組織の組織学的等級付けにより測定される活性を示す。この活性は、培養直腸組織によるIL−6およびIL−12産生の低減および微小血管密度の低減と関係している。これら知見は、抗血管形成剤であるATN−161(キャッピングしたペンタペプチド)がヒトCrDの治療に有用であることを示している。
【0098】
検討
本発明者らは、血管形成を直接抑制することのIBDにおける治療的利益を初めて示したものである。いかなる機構的説明に拘束または制限されることを意図するものではないが、慢性炎症の他の分野で知られている知見に照らして(Griffioen AWら、2000, Pharmacol Rev 52:237-268)、IBDの抗血管形成療法から所定の利点が得られうることは本発明者らには明らかである。第一に、血管増殖の抑制は、炎症組織における代謝的に活性な細胞への栄養補給を減少させる。第二に、血管形成を防ぐことにより、炎症性細胞の組織への進入が弱められる。第三に、血管形成の抑制はECの活性化およびサイトカイン、ケモカインおよびマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の産生を阻止する。血管形成は、ECの増殖、接着および移動を妨害すること、およびMMPの活性を抑制することを含む幾つかの「レベル」で介入しうる(Griffioenら、上掲)。動物モデルでのかなりの実験的証拠が、血管形成の阻止が炎症を改善することを示唆している。TNF−α阻止はVEGFおよびbFGFの産生を抑制するが、CrD患者において緩解を誘発する(Di Sabatino Aら、2004, Aliment. Pharmacol. Ther. 19:1019-24)。CrDに有効な他の医薬であるサリドマイドは、TNF−α産生の直接抑制により作用するが(Ehrenpreis EDら、1999, Gastroenterology 117:1271-77)、血管形成を抑制することもできる。最近の報告は、腸内出血を伴う活動性のCrDを罹患する患者へのサリドマイドの投与が臨床改善を促進し、出血を停止させたことを示している(Bauditz Jら、2004, Gut 53:609-12)。
【0099】
これらの臨床的観察は本発明者らの発見を支持するものであり、本明細書に記載した結果に照らして、炎症、増大した消化管血流、および過度の粘膜血管形成を抑制することの治療的利益を連結する機構的説明を組み立てる手助けとなる。
【0100】
上記で引用した全ての文献、およびこれら文献中で引用される文献は、参照のためその全体を本明細書に引用する(上記で明示的に引用されるか否かに拘わらず)。
【0101】
以上、本発明を十分に記載したが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、また不当な実験を行うことなく、等価なパラメーター、濃度、および条件の広範囲内で本発明を実施できることが当業者により認識されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】図1は、疾患活性指標(DAI)により測定してATN−161が確立された大腸炎を低減させることを示すグラフである。DAIは、以下のいずれかの出現について1ポイントをスコアリングすることにより計算した:しわくちゃな毛皮(ruffled fur)、Hemoccult SensaRカード(Smith Kline Diagnostics、サンホセ、カリフォルニア)によって決定されるように、肉眼で見えない糞便血、直腸脱(rectal prolapse)<1mm、および軟便。下痢または重度の直腸脱>1mmについて、さらにポイントをマウスにスコアリングした。DAIの平均を標準誤差とともに、処置前ついで処置の各週の終わりについてプロットした(各群n=12)。
【0103】
【図2】図2は、6週目の大腸炎の組織学的等級付けを要約したグラフである。腸炎症の等級付けは、3人の読み手により盲検的に決定した:炎症なし(0);固有粘膜層における中くらいの数の浸潤性細胞(1);陰窩の分離に導く単核細胞の浸潤および穏やかな粘膜過形成(2);破壊された粘膜構造を伴う炎症性細胞の大量の浸潤、杯細胞の喪失、および顕著な粘膜過形成(3);上記の全てに加えて陰窩の膿瘍または潰瘍(4)。
【0104】
【図3】図3Aおよび図3Bは、ATN−161処置したマウスからの直腸断片はより低レベルのIL−12およびIL−16を発現したことを示すグラフである。ATN−161またはATN−163で処置したマウスからの直腸の断片を、RPMI培地+2%ウシ胎仔血清および2.5%PSF(抗生物質−抗真菌)中で培養した。48時間後、上澄み液を回収し、−80℃で凍結した。図3A:プレートにモノクローナル抗体C15.6をコーティングしたELISAを用いてIL−12(p40)を分析した。図3B:マウスIL−6に特異的な市販のELISAキット(R&D Systems、ミネアポリス、ミネソタ)を用いてIL−6を分析した。
【0105】
【図4】図4は、抗CD31免疫染色を用いた微小血管密度の分析を示すグラフである。免疫染色は、マウスCD31特異的なmAbMEC13.3(Becton-Dickinson、サンジエゴ、カリフォルニア)を用いて行った。形態計測分析は、血管形成の定量についての国際的なコンセンサス(Vermeulen PBら、Eur J Cancer 32A:2474-84; Eur J Cancer 38:1564-15)を用いて行った。とりわけ、染色コロニー切片を低出力(×40)でスキャニングして最も血管形成された領域を検出し、その後、粘膜中および粘膜下組織中で少なくとも5枚の顕微鏡写真を200×の倍率で撮った。血管/視野の数(平均血管密度)は、Image Pro Plus Software(Media Cybernetics、シルバースプリング、メリーランド)を用いて行った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症性腸疾患を罹患する患者の腸組織における腸炎症または炎症浸潤の大きさを低減する方法であって、そのような処置を必要とする患者に
(a)血管形成を抑制する化合物;および
(b)薬理学的に許容しうる担体または賦形剤
を含む医薬組成物の有効量を投与し、それによって炎症または浸潤を低減させることを含む方法。
【請求項2】
患者における炎症誘導性サイトカインの全身レベルまたは消化管関連レベルを低下させる方法であって、そのような低下を必要とする患者に
(a)血管形成を抑制する化合物;および
(b)薬理学的に許容しうる担体または賦形剤
を含む抗血管形成医薬組成物の有効量を投与し、それによって炎症誘導性サイトカインのレベルを低下させることを含む方法。
【請求項3】
固定化腸組織の切片で決定されるように、炎症性腸疾患を罹患する患者から得た生検から微小血管密度を低減させる方法であって、
(a)そのような処置を必要とする患者に
(i)血管形成を抑制する化合物;および
(ii)薬理学的に許容しうる担体または賦形剤
を含む医薬組成物の有効量を投与し、
(b)該患者から腸生検を得、ついで
(c)該生検で微小血管密度を決定する
ことを含み、その際、該化合物の投与が、該患者による該化合物の受領前の微小血管密度と比べて低い微小血管密度という結果となる、方法。
【請求項4】
患者において炎症性腸疾患を治療する方法であって、そのような処置を必要とする患者に
(a)血管形成を抑制する化合物;および
(b)薬理学的に許容しうる担体または賦形剤
を含む医薬組成物の有効量を投与し、それによって該疾患を治療することを含む方法。
【請求項5】
該化合物が、アミノ酸配列:
Xaa1-Xaa2-Xaa3-Xaa4-Xaa5 (SEQ ID NO:81)
(式中、
Xaa1は、Pro, Gly, Val, His, Iso, Phe, Tyr, またはTrp;
Xaa2は、His, Pro, Tyr, Asn, Glu, Arg, Lys, Phe, またはTrp;
Xaa3は、Ser, Thr, Ala, Tyr, Leu, His, Asn, またはGlu;
Xaa4は、L-もしくはD-Cys, L-もしくはD-Hcy, L-もしくはD-ペニシラミン, -SH基を有する他のアミノ酸、またはL-もしくはD-His;および
Xaa5は、Asn, Glu, Ser, Thr, His, またはTyr)
を含む5ないし約30アミノ酸残基のペプチド、または該ペプチドのN末端またはC末端がキャッピングされた誘導体である、請求項1ないし4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
該ペプチドが、アミノ酸配列:
Xaa1-His-Ser-Xaa2-Asn (SEQ ID NO:86)
(式中、Xaa1は、Pro, Hisであるか, またはアミノ酸ではなく、およびXaa2は、L-もしくはD-Cys, L-もしくはD-Hcy, L-もしくはD-ペニシラミン、またはL-もしくはD-His)を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
該ペプチドが、アミノ酸配列:
Pro-His-Ser-Xaa-Asn (SEQ ID NO:87)
(式中、Xは、L-もしくはD-Cys, L-もしくはD-Hcy、ペニシラミン, -SH基を有する他のアミノ酸、またはL-もしくはD-His)を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
該ペプチドが、アミノ酸配列:
Pro-His-Ser-Cys-Asn (SEQ ID NO:1)
を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
抗血管形成化合物が、アミノ酸配列:
Pro-His-Ser-Cys-Asn (SEQ ID NO:1)
を有するペンタペプチドである、請求項1ないし8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
該ペプチドが、N末端が好ましくはアセチル基でキャッピングされ、C末端がアミノ基でキャッピングされている、請求項5ないし9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
患者がヒトである、請求項1ないし10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
炎症性腸疾患がクローン病である、請求項1ないし11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
以下の目的を達成するための抗血管形成化合物の使用:
(a)炎症性腸疾患を罹患する患者の腸組織における腸炎症または炎症浸潤の大きさを低減させる;および/または
(b)患者における炎症誘導性サイトカインの全身レベルまたは消化管関連レベルを低下させる;および/または
(c)固定化腸組織の切片で決定されるように、炎症性腸疾患を罹患する患者から得た生検において微小血管密度を低減させる;および/または
(d)患者における炎症性腸疾患を治療する。
【請求項14】
該化合物が、アミノ酸配列:
Xaa1-Xaa2-Xaa3-Xaa4-Xaa5 (SEQ ID NO:81)
(式中、
Xaa1は、Pro, Gly, Val, His, Iso, Phe, Tyr, またはTrp;
Xaa2は、His, Pro, Tyr, Asn, Glu, Arg, Lys, Phe, またはTrp;
Xaa3は、Ser, Thr, Ala, Tyr, Leu, His, Asn, またはGlu;
Xaa4は、L-もしくはD-Cys, L-もしくはD-Hcy, L-もしくはD-ペニシラミン, -SH基を有する他のアミノ酸、またはL-もしくはD-His;および
Xaa5は、Asn, Glu, Ser, Thr, His, またはTyr)
を含む5ないし約30アミノ酸残基のペプチド、または該ペプチドのN末端またはC末端がキャッピングされた誘導体である、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
該ペプチドが、アミノ酸配列:
Xaa1-His-Ser-Xaa2-Asn (SEQ ID NO:86)
(式中、Xaa1は、Pro, Hisであるか, またはアミノ酸ではなく、およびXaa2は、L-もしくはD-Cys, L-もしくはD-Hcy, L-もしくはD-ペニシラミン, -SH基を有する他のアミノ酸、またはL-もしくはD-His)を有する、請求項13または14に記載の使用。
【請求項16】
該ペプチドが、アミノ酸配列:
Pro-His-Ser-Xaa-Asn (SEQ ID NO:87)
(式中、Xは、L-もしくはD-Cys, L-もしくはD-Hcy、ペニシラミン, -SH基を有する他のアミノ酸、またはL-もしくはD-His)を有する、請求項13ないし15のいずれかに記載の使用。
【請求項17】
該ペプチドが、アミノ酸配列:
Pro-His-Ser-Cys-Asn (SEQ ID NO:1)
を有する、請求項13ないし16のいずれかに記載の使用。
【請求項18】
該ペプチドが、N末端が好ましくはアセチル基でキャッピングされ、C末端がアミノ基でキャッピングされている、請求項13ないし17のいずれかに記載の使用。
【請求項19】
患者がヒトである、請求項13ないし18のいずれかに記載の使用。
【請求項20】
該炎症性腸疾患がクローン病である、請求項13ないし19のいずれかに記載の使用。
【請求項21】
以下の目的を達成するための医薬の製造のための抗血管形成化合物の使用:
(a)炎症性腸疾患を罹患する患者の腸組織における腸炎症または炎症浸潤の大きさを低減させる;および/または
(b)患者における炎症誘導性サイトカインの全身レベルまたは消化管関連レベルを低下させる;および/または
(c)固定化腸組織の切片で決定されるように、炎症性腸疾患を罹患する患者から得た生検において微小血管密度を低減させる;および/または
(d)患者における炎症性腸疾患を治療する。
【請求項22】
該化合物が、アミノ酸配列:
Xaa1-Xaa2-Xaa3-Xaa4-Xaa5 (SEQ ID NO:81)
(式中、
Xaa1は、Pro, Gly, Val, His, Iso, Phe, Tyr, またはTrp;
Xaa2は、His, Pro, Tyr, Asn, Glu, Arg, Lys, Phe, またはTrp;
Xaa3は、Ser, Thr, Ala, Tyr, Leu, His, Asn, またはGlu;
Xaa4は、L-もしくはD-Cys, L-もしくはD-Hcy, L-もしくはD-ペニシラミン, -SH基を有する他のアミノ酸、またはL-もしくはD-His;および
Xaa5は、Asn, Glu, Ser, Thr, His, またはTyr)
を含む5ないし約30アミノ酸残基のペプチド、または該ペプチドのN末端またはC末端がキャッピングされた誘導体である、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
該ペプチドが、アミノ酸配列:
Xaa1-His-Ser-Xaa2-Asn (SEQ ID NO:86)
(式中、Xaa1は、Pro, Hisであるか, またはアミノ酸ではなく、およびXaa2は、L-もしくはD-Cys, L-もしくはD-Hcy, L-もしくはD-ペニシラミン, -SH基を有する他のアミノ酸、またはL-もしくはD-His)を有する、請求項21または22に記載の使用。
【請求項24】
該ペプチドが、アミノ酸配列:
Pro-His-Ser-Xaa-Asn (SEQ ID NO:87)
(式中、Xは、L-もしくはD-Cys, L-もしくはD-Hcy、ペニシラミン, -SH基を有する他のアミノ酸、またはL-もしくはD-His)を有する、請求項21ないし23のいずれかに記載の使用。
【請求項25】
該ペプチドが、アミノ酸配列:
Pro-His-Ser-Cys-Asn (SEQ ID NO:1)
を有する、請求項21ないし24のいずれかに記載の使用。
【請求項26】
該ペプチドが、N末端が好ましくはアセチル基でキャッピングされ、C末端がアミノ基でキャッピングされている、請求項21ないし25のいずれかに記載の使用。
【請求項27】
患者がヒトである、請求項21ないし26のいずれかに記載の使用。
【請求項28】
該炎症性腸疾患がクローン病である、請求項21ないし27のいずれかに記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−540568(P2008−540568A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−511414(P2008−511414)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【国際出願番号】PCT/US2006/018463
【国際公開番号】WO2006/124611
【国際公開日】平成18年11月23日(2006.11.23)
【出願人】(507374088)アテヌオン・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (1)
【氏名又は名称原語表記】ATTENUON, LLC
【Fターム(参考)】