説明

抗酸化作用を呈するベンゾピランペプチド誘導体及びその製造方法

【課題】 副作用が弱く、優れた抗酸化作用を呈するベンゾピランペプチド誘導体を提供する。また、このベンゾピランペプチド誘導体の製造方法を提供する。
【解決手段】 副作用が弱く、優れた抗酸化作用を呈するベンゾピランペプチド誘導体とは、ベンゾピランとL型トレオニンとL型システインからなるペプチドに結合している。この誘導体はトレオニンの水酸基とパラ−クマル酸が結合し、さらに、カプリル酸をエステル結合している。そのため、脂溶性と抗酸化性に優れている。また、過剰に摂取された場合、エステラーゼにより分解されることから安全性も高い。その製造方法は、沙棘及び大豆粉末に、紅麹菌を添加して発酵させた発酵液をアルカリ還元する工程を特徴としており、主たる工程としては発酵工程及び還元工程である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、抗酸化作用を呈するベンゾピランペプチド誘導体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現代人は酸化物質や酸化ストレスに常にさらされており、酸化物質は細胞や身体の老化を引き起こすことから、加齢の一因であると考えられている。
【0003】
酸化物質の代表例がダイオキシン、ベンツピレン、Trp−P−1や紫外線であり、これらの酸化物質は細胞膜や遺伝子に障害を与え、細胞の癌化や炎症を引き起こす。
【0004】
酸化物質を除去したり、酸化障害を防御する目的で、抗酸化物質が適切であると考えられ、例えば、抗酸化ビタミン類や植物エキスなど種々の製品が開発されている。
【0005】
また、抗酸化に関する発明は多数存在し、化学物質、ビタミン、植物エキスが報告されている。このうち、抗酸化作用を呈するペプチドとしては、カテキン結合ペプチドの発明があり、ラミニン・レセプターのアミノ酸配列の一部にカテキンが結合した物質が示されている。(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
しかし、具体的なペプチド配列やカテキンとの結合体については、報告されておられず、産業上の利用には問題がある。
【0007】
また、ローヤルゼリー由来の抗酸化性ペプチドの発明があり、ローヤルゼリーを酵素分解して得られ、その配列としては、チロシルチロシルセリルプロリルロイシン、アスパルギルチロシルプロリルフェニルアラニルアスパルテニルバニルアスパルテニルグルタミン及びセリルロイシルプロリルイソロイシルロイシルヒスチジニルグタミニルトリプトファンである。(例えば、特許文献2参照。)。しかし、ペプチドのみによる抗酸化作用には、分解されやすく、持続性に乏しいという問題がある。
【0008】
さらに、抗酸化剤、老化防止剤および/または抗ガン剤の発明があり、ここでは、畜産物または畜産副産物を粉砕し、抽出し、分離してなるペプチドであり、カルノシン、アンセリンおよび/またはグルタチオンを含有するものである(例えば、特許文献3参照。)。しかし、畜産物由来の成分は感染症の恐れがある。
【0009】
一方、植物を発酵して得られる抗酸化作用を示すベンゾピランペプチド誘導体は、ジペプチド、ベンゾピラン、脂肪酸とパラ−クマル酸との結合が構造的な特徴であり、かつ、発酵と還元処理を製造上の特徴とする製造方法について今回、発明したので、以下に説明する。
【特許文献1】特開2007−63234
【特許文献2】特開2005−263782
【特許文献3】特開2003−267992
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記したように、抗酸化作用を呈する物質は多数認められるものの、その効果は明瞭ではなく、かつ、化学合成されたものは安全性に問題がある。特に、植物由来の抗酸化物質は安全性が高いものの、その作用は限定的であるという問題がある。また、ペプチド由来の抗酸化物質は分解されやすく、持続性に乏しいという問題がある。
【0011】
この発明は上記のような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、副作用が弱く、優れた抗酸化作用を呈するベンゾピランペプチド誘導体を提供することである。
【0012】
また、沙棘(サージ)及び大豆粉末に、紅麹菌を添加し、発酵させた発酵液をアルカリ還元する工程を特徴とする請求項1に記載の抗酸化作用を呈するベンゾピランペプチド誘導体の効率的な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、下記の式(1)で示される抗酸化作用を呈するベンゾピランペプチド誘導体に関するものである。
【0014】
【化1】

【0015】
請求項2に記載の発明は、沙棘(サージ)及び大豆粉末に、紅麹菌を添加し、混合発酵させた発酵液をアルカリ還元する工程を特徴とする請求項1に記載の抗酸化作用を呈するベンゾピランペプチド誘導体の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0016】
この発明は、以上のように構成されているため、次のような効果を奏する。
【0017】
請求項1に記載のベンゾピランペプチド誘導体によれば、副作用が弱く、優れた抗酸化作用が発揮される。
【0018】
請求項2に記載の製造方法によれば、効率良くベンゾピランペプチド誘導体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明を具体化した実施形態について詳細に説明する。
【0020】
まず、下記の式(1)で示される抗酸化作用を呈するベンゾピランペプチド誘導体について説明する。
【0021】
【化2】

【0022】
ここでいうベンゾピランペプチド誘導体とは、N末端のトレオニンとシステインからなるジペプチドに、ベンゾピラン及びカプリル酸結合型パラ−クマル酸が結合している。トレオニンとシステインは、いずれもL型である。
【0023】
ベンゾピランは、6位の水酸基を有し、システインのカルボン酸部分とエステル結合により結合している。カプリル酸は、パラ−クマル酸とエステル結合しており、カプリル酸のカルボン酸とパラ−クマル酸のベンゼン環の水酸基とがエステル結合している。
【0024】
カプリル酸が結合したパラ−クマル酸のカルボン酸部分は、トレオニンの水酸基とエステル結合している。
【0025】
また、前記の式(1)で示されるベンゾピランペプチド誘導体は、トリペプチド内の1つのシステインに起因するSH基を有する。
【0026】
このベンゾピランペプチド誘導体は、システインのSH基が還元型に存在しているため、抗酸化作用を呈し、また、ベンゾピランも還元力を示すことから、強い抗酸化作用が発揮される。
【0027】
また、パラ−クマル酸の共役2重結合がラジカル消去作用を呈し、抗酸化作用に寄与している。
【0028】
このベンゾピランペプチド誘導体は、カプリル酸を含有することにより、脂溶性が高まり、水溶液と脂質の両者で、抗酸化作用を示すことから好ましい。
【0029】
また、ベンゾピランペプチド誘導体は脂溶性が高まることから、腸管や皮膚からの吸収性が高まり、かつ、細胞膜やミトコンドリア膜にも浸透しやすい。
【0030】
さらに、このベンゾピランペプチド誘導体のベンゾピランが、ペプチド分解酵素によるペプチドの分解を阻害することから、単なるペプチドの比し、分解されにくく。抗酸化作用が持続的に維持されることから好ましい。
【0031】
また、このベンゾピランペプチド誘導体は、過剰に摂取した場合、消化管、肺、血中や臓器内エステラーゼにより分解されてジペプチド、脂肪酸、パラ−クマル酸、ベンビピランに分解されることから安全性が高い。また、ジペプチドはアミノ酸になり、さらに、二酸化イオウと炭酸ガスに分解されて腎臓から排泄されることから、安全性が高い。
【0032】
全身の様々な炎症に対して、このベンゾピランペプチド誘導体は、抗炎症作用を呈することから、酸化物質による炎症も抑制されることから好ましい。
【0033】
また、このベンゾピランペプチド誘導体は、皮膚細胞の角質細胞に対して皮膚からの剥離を促進することにより、肌の再生力を高め、さらに、抗炎症作用を介して酸化物質によるアトピーや接触性アレルギーを改善することから好ましい。
【0034】
さらに、このベンゾピランペプチド誘導体は、抗酸化作用を呈し、ビタミンCの働きを補助して酸化生成物であるメラニンを分解し、シミの原因物質を消去し、コラーゲン産生を促進する。
【0035】
このベンゾピランペプチド誘導体は、植物細胞、動物細胞、酵母や微生物による発酵で得られ、生合成させて、得ることができる。
【0036】
このベンゾピランペプチド誘導体は、液体または粉末の形状で、医薬品素材、食品素材、化粧料素材や日用品として利用できる。
【0037】
医薬品素材として利用する場合、目的とするベンゾピランペプチド誘導体を分離精製することは、目的とするベンゾピランペプチド誘導体の純度が高まり、不純物を除去できる点から好ましい。
【0038】
医薬品として、注射剤または経口剤または塗布剤などの非経口剤として利用され、医薬部外品としては、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤、石鹸、塗布剤、ゲル剤、歯磨き粉等に配合されて利用される。
【0039】
経口剤としては、錠剤、カプセル剤、散剤、シロップ剤、ドリンク剤等が挙げられる。前記の錠剤及びカプセル剤に混和される場合には、結合剤、賦形剤、膨化剤、滑沢剤、甘味剤、香味剤等とともに用いることができる。前記の錠剤は、シェラックまたは砂糖で被覆することもできる。
【0040】
また、前記のカプセル剤の場合には、上記の材料にさらに油脂等の液体担体を含有させることができる。前記のシロップ剤及びドリンク剤の場合には、甘味剤、防腐剤、色素香味剤等を含有させることができる。
【0041】
非経口剤としては、軟膏剤、クリーム剤、水剤等の外用剤の他に、注射剤が挙げられる。外用剤の基材としては、ワセリン、パラフィン、油脂類、ラノリン、マクロゴールド等が用いられ、通常の方法によって軟膏剤やクリーム剤等とすることができる。
【0042】
注射剤には、液剤があり、その他、凍結乾燥剤がある。これは使用時、注射用蒸留水や生理食塩液等に無菌的に溶解して用いられる。
【0043】
食品製剤は、酸化物質の除去を目的として原料加工や食品製造の原材料として、さらに、食品工場の衛生管理の目的で、噴霧剤としても利用される。また、保健機能食品として、栄養機能食品や特定保健用食品に利用することは好ましい。
【0044】
得られた食品製剤をイヌやネコなどのペットや家畜動物に利用する場合、飼料中の酸化物質除去、糞便臭の吸収作用や抗菌作用を目的として、洗剤や飼料として利用される。
【0045】
化粧料として常法に従って界面活性化剤、溶剤、増粘剤、賦形剤等とともに用いることができる。例えば、油溶性クリーム、毛髪用ジェル、洗顔剤、美容液、化粧水等の形態とすることができる。化粧料の形態は任意であり、溶液状、クリーム状、ペースト状、ゲル状、ジェル状、固形状または粉末状として用いることができる。
【0046】
得られた化粧料は、過敏症の原因となる酸化ストレスを除去することから、アトピー患者の角質改善と皮膚再生を促進する。また、抗酸化作用を呈することから、美白用化粧料や医薬部外品としても利用される。
【0047】
次に、沙棘(サージ)及び大豆粉末に、紅麹菌を添加し、発酵させた発酵液をアルカリ還元する工程を特徴とする請求項1に記載のベンゾピランペプチド誘導体の製造方法について説明する。
【0048】
ここでいう抗酸化作用を呈するベンゾピランペプチド誘導体とは、前記のベンゾピランペプチド誘導体である。
【0049】
原料として用いる沙棘(サージ)とは、学名Hippophae rhamnoidesであり、英名Sea Buckthornである。沙棘は、中国、日本やアジアで栽培される樹木である。沙棘の実は小さく、黄色を呈する。沙棘の実にはビタミンやミネラルが含有されており、ビタミンやミネラルの供給源として古くから食用に用いられてきた。
【0050】
ここでは、沙棘の実を洗浄後、用いることは、食経験が豊富であり、安全性が確認されていることから好ましい。
【0051】
ここで用いる沙棘は、いずれの産地でも利用できるものの、トレーサビリティーが確実であり、生産者が明確である日本産が好ましい。このうち、有機栽培された米や無農薬で栽培された米から得られる米糠が有害な農薬や金属を含有しないことから、好ましい。
【0052】
原料となる大豆粉末は、日本産、中国産、アメリカ産、ロシア産などいずれの産地の大豆でも利用できるが、トレーサビリティーが確実であり、生産者が明確である日本産が好ましい。このうち、有機栽培や無農薬で栽培された大豆が有害な農薬や金属を含有しないことから、さらに好ましい。
【0053】
大豆と沙棘は使用に際して、株式会社奈良機械製作所製の自由ミル、スーパー自由ミル、サンプルミル、ゴブリン、スーパークリーンミル、マイクロス、減圧乾燥機として東洋理工製の小型減圧乾燥機、株式会社マツイ製の小型減圧伝熱式乾燥機DPTH−40、エーキューエム九州テクノス株式会社製のクリーンドライVD−7、VD−20、中山技術研究所製DM−6などの粉砕機で粉砕されることにより、発酵が効率的に進行しやすいことから好ましい。
【0054】
さらに、大豆と沙棘は粉砕後、オートクレーブなどにより滅菌されることは雑菌の繁殖を防御できることから好ましい。
【0055】
用いる紅麹菌としては、有用な食用菌であり、沖縄や鹿児島などの日本産、中国や台湾の東南アジア原産の菌種が用いられる。このうち、紅麹本舗の製造である中国原産で学名Monascaceaeである紅麹菌が高い反応性を呈することから好ましい。この紅麹菌により、米糠の成分と大豆成分の両成分を同時に発酵させる条件が整えられる。
【0056】
前記の発酵に関するそれぞれの添加量は、沙棘1重量に対し、大豆粉末は0.5〜3重量、紅麹菌は0.001〜0.02重量が好ましい。
【0057】
紅麹菌は発酵される前に、前培養することは、発酵の初発時間を短縮し、発酵時間が短縮されることから好ましい。
【0058】
前記の発酵は清浄な培養用タンクで実施され、滅菌された水道水により前記の材料を混合することは好ましい。
【0059】
また、この発酵は、30〜53℃に加温され、発酵は、2日間から14日間行われる。発酵の工程管理は、目的とするベンゾピランペプチド誘導体をHPLCやTLCにより定量すること、ならびに、菌体の増殖性を確認することにより、実施する。
【0060】
発酵後に、抽出を効率良く実施するために、滅菌した水道水で希釈される。
【0061】
この発酵の工程によって、ベンゾピラン、パラ−クマル酸がジペプチドにエステル結合するものの、その結合は不安定でエステラーゼにより分解されやすいため、以下の示すアルカリ還元を実施することが必要である。
【0062】
前記の発酵により生成された発酵物は35〜60℃の含水エタノールで抽出されることは、生成物を効率良く回収でき、次の工程が実施しやすいことから、好ましい。
【0063】
得られた発酵物を超音波処理することは、生成物が分離しやすいことから、好ましい。また、凍結乾燥などにより、濃縮することは、以下の工程が短時間に実施できることから好ましい。
【0064】
この発酵物はアルカリ還元される。アルカリ還元は、アルカリ還元装置やアルカリ還元整水器により実施されることが好ましい。たとえば、ゼマイティス製のアルカリ還元水・強酸化水連続生成器「プロテックATX−501」、エヌアイシー製のアルカリ還元水製造装置「テクノスーパー502」、マルタカ製「ミネリア・CE−212」、クレッセント製「アキュラブルー」、株式会社日本鉱泉研究所製「ミネラル還元整水器「元気の水」」などの装置を用いることが好ましい。
【0065】
アルカリ還元を実施する際の溶媒としては、アルカリ還元を効率的に実施させることから、30%から80%のエタノールを含有する含水エタノール溶液が好ましい。
【0066】
このアルカリ還元の工程により、発酵液は還元状態に維持され、抗酸化力が保たれる、さらに、エステル結合が強固に維持されることから好ましい。
【0067】
前記の還元反応物から、目的とするベンゾピランペプチド誘導体を分離し、精製することは純度の高い物質として摂取量を減少させることができる点から好ましい。この精製の方法としては、分離用の樹脂などの精製操作を利用することが好ましい。
【0068】
分離用担体または樹脂により分離され、分取されることにより目的とするベンゾピランペプチド誘導体が得られる。分離用担体または樹脂としては、表面が後述のようにコーティングされた、多孔性の多糖類、酸化珪素化合物、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリプロピレン、スチレン−ビニルベンゼン共重合体等が用いられる。0.1〜300μmの粒度を有するものが好ましく、粒度が細かい程、精度の高い分離が行なわれるが、分離時間が長い欠点がある。
【0069】
例えば、逆相担体または樹脂として表面が疎水性化合物でコーティングされたものは、疎水性の高い物質の分離に利用される。陽イオン物質でコーティングされたものは陰イオン性に荷電した物質の分離に適している。また、陰イオン物質でコーティングされたものは陽イオン性に荷電した物質の分離に適している。特異的な抗体をコーティングした場合には、特異的な物質のみを分離するアフィニティ担体または樹脂として利用される。
【0070】
アフィニティ担体または樹脂は、抗原抗体反応を利用して抗原の特異的な調製に利用される。分配性担体または樹脂は、シリカゲル(メルク社製)等のように、物質と分離用溶媒の間の分配係数に差異がある場合、それらの物質の単離に利用される。
【0071】
これらのうち、製造コストを低減することができる点から、吸着性担体または樹脂、分配性担体または樹脂、分子篩用担体または樹脂及びイオン交換担体または樹脂が好ましい。さらに、分離用溶媒に対して分配係数の差異が大きい点から、逆相担体または樹脂及び分配性担体または樹脂はより好ましい。
【0072】
分離用溶媒として有機溶媒を用いる場合には、有機溶媒に耐性を有する担体または樹脂が用いられる。また、医薬品製造または食品製造に利用される担体または樹脂は好ましい。
【0073】
これらの点から吸着性担体としてダイヤイオン(三菱化学(株)社製)及びXAD−2またはXAD−4(ロームアンドハース社製)、分子篩用担体としてセファデックスLH−20(アマシャムファルマシア社製)、分配用担体としてシリカゲル、イオン交換担体としてIRA−410(ロームアンドハース社製)、逆相担体としてDM1020T(富士シリシア社製)がより好ましい。これらのうち、ダイヤイオン、セファデックスLH−20及びDM1020Tはさらに好ましい。
【0074】
得られた抽出物は、分離前に分離用担体または樹脂を膨潤化させるための溶媒に溶解される。その量は、分離効率の点から抽出物の重量に対して1〜30倍量が好ましく、3〜20倍量がより好ましい。分離の温度としては物質の安定性の点から4〜35℃が好ましく、10〜25℃がより好ましい。
【0075】
分離用溶媒には、水、または、水を含有する低級アルコール、親水性溶媒、親油性溶媒が用いられる。低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールが用いられるが、食用として利用されているエタノールが好ましい。
【0076】
セファデックスLH−20を用いる場合、分離用溶媒には低級アルコールが好ましい。シリカゲルを用いる場合、分離用溶媒にはクロロホルム、メタノール、酢酸またはそれらの混合液が好ましい。
【0077】
ダイヤイオン及びDM1020Tを用いる場合、分離用溶媒はメタノール、エタノール等の低級アルコールまたは低級アルコールと水の混合液が好ましい。
【0078】
ベンゾピランペプチド誘導体を含む画分を採取して乾燥または真空乾燥により溶媒を除去し、目的とするベンゾピランペプチド誘導体を粉末または濃縮液として得ることは溶媒による影響を除外できることから、好ましい。
【0079】
このようにして得られたベンゾピランペプチド誘導体は、液体または粉末として得られる。
【0080】
以下、前記実施形態を実施例及び試験例を用いて具体的に説明する。
【実施例1】
【0081】
岐阜県で無農薬、有機条件で栽培された沙棘を用いた。これを水洗後、粉砕機(株式会社奈良機械製作所製のスーパー自由ミル)にて粉砕し、沙棘粉砕物1kgを得た。
【0082】
北海道産の大豆をミキサー(クイジナート)に供し、大豆の粉砕物1kgを得た。これらをオートクレーブに供し、121℃20分間、滅菌した。これらを清浄な発酵タンク(滅菌された発酵用丸形40リットルタンク)に、それぞれの1kgずつを入れてさらに、滅菌された水道水10kgを添加し、攪拌した。
【0083】
これとは別に、粉末紅麹菌(紅麹本舗製)10gを小型発酵タンクに供し、滅菌した大豆粉末と前培養させた培養液を用意した。
【0084】
前記の前培養した紅麹菌の溶液を前記の沙棘と大豆を入れた発酵タンクに添加し、攪拌後、42〜56℃の温度範囲で加温し、発酵させた。
【0085】
発酵過程では、通気によりバブリングと攪拌を行いつつ、発酵液のサンプリングを行い、目的とするベンゾピランペプチド誘導体の生成を測定した。
【0086】
その方法は、質量分析器付き高速液体クロマトグラフィ(HPLC、島津製作所)に発酵液を供して分析し、目的とする物質の生成を確認した。
【0087】
その結果、発酵10日後に、目的とするベンゾピランペプチド誘導体が十分量生成されたため、発酵を終了させた。発酵を停止後、発酵液に30℃のエタノール5kgを添加した。
【0088】
この発酵液を珪藻土を敷いたろ過器に供し、ろ過した。得られたろ過液をセルラキッス(株式会社ゼノン製)に供した。
【0089】
得られたろ液をアルカリ還元装置(ゼマイティス製のアルカリ還元水・強酸化水連続生成器「プロテックATX−501」)に供してアルカリ還元化させた。
【0090】
こうしてアルカリ還元することにより、ベンゾピランペプチド誘導体は水溶液または水に懸濁した場合、酸化還元電位がマイナス1mV〜マイナス500mVを呈した。
【0091】
こうして得られたアルカリ還元物を日本エフディ製の凍結乾燥機に供し、目的とするベンゾピランペプチド誘導体を粉末として103g得た。これを検体1として以下の試験に供した。
【0092】
以下に、ベンゾピランペプチド誘導体の構造解析に関する試験方法及び結果について説明する。
(試験例1)
上記のように得られた検体1を抽出媒体に溶解し、質量分析器付き高速液体クロマトグラフィ(HPLC、島津製作所)で分析し、さらに、核磁気共鳴装置(NMR、ブルカー製、AC−250)で解析した。構造解析の結果、検体1から目的とするジペプチドと結合したベンゾピランペプチド誘導体を同定した。
【0093】
以下に、抗酸化作用の確認試験について述べる。
(試験例2)
【0094】
DPPH(1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル)ラジカル消去活性及びスーパーオキシド消去活性を指標として抗酸化作用を測定した。DPPHラジカル消去活性は篠原らの方法に準じて測定した。このDPPHラジカル消去活性及びスーパーオキシド消去活性は、抗酸化作用を調べる方法として確立されており、試験成績が豊富である。
【0095】
DPPH(50%エタノール)の0.1M溶液に検体1または対照物質としたビタミンC(Sigma製)を溶解した溶液と混合し、DPPHラジカルの消去活性を520nmの吸光度を測定した。トロックス(Sigma製)を標準物質として1マイクロモルに対する活性を1DPPH単位とした。
【0096】
スーパーオキシド消去活性は、ヒポキサンチン/キサンチンオキシダーゼ(SOD)系でスーパーオキシドを発生させて、検体1または対照物質としたビタミンCの溶液を添加して電子スピン共鳴(ESR)で測定した。スーパーオキシド消去酵素(SOD)を標準として活性を測定した。
【0097】
その結果、DPPHラジカル消去活性については、検体1の活性は、20,000単位/gであった。一方、ビタミンCの活性は、6000単位/gとなり、検体1はビタミンCより3倍以上の強い活性を示した。
【0098】
また、スーパーオキシド消去活性については、検体1の活性は、200万SOD単位/gとなり、ビタミンCは40万単位/gとなった。検体1はビタミンCに比して5倍の強い活性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明で得られるベンゾピランペプチド誘導体は酸化物質による障害に対して、優れた抗酸化作用を呈し、酸化に対する改善作用が認められたことから、種々の患者に寄与する。
【0100】
本発明で得られるベンゾピランペプチド誘導体は、喘息患者やアトピー患者に対して優れた抗酸化作用による治療効果と予防作用が認められ、生活環境の質の向上に寄与する。
【0101】
原料として用いる沙棘は栽培される場合に、二酸化炭素ガスを吸収することから、二酸化炭素の削減にも利用されており、その実を有効利用することにより、沙棘が植林されて砂漠化防止にも寄与できる。
【0102】
本製造方法は、高度な発酵技術を利用するものであり、新しい発酵技術の向上と発酵産業の進展に貢献するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)で示される抗酸化作用を呈するベンゾピランペプチド誘導体。
【化1】

【請求項2】
沙棘及び大豆粉末に、紅麹菌を添加し、発酵させた発酵液をアルカリ還元する工程を特徴とする請求項1に記載のベンゾピランペプチド誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2009−161484(P2009−161484A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−1178(P2008−1178)
【出願日】平成20年1月8日(2008.1.8)
【出願人】(504447198)
【Fターム(参考)】