説明

抗酸化能を有する調味液、その製造方法、および当該調味液を含む飲食品

【課題】抗酸化成分を含有するハーブ系植物の抽出物から、その特徴香気を低減させて、高い抗酸化能を有する調味液を安全な方法で提供する。飲食品の脂質劣化抑制方法及び脂質劣化抑制効果を有する飲食品を提供する。
【解決手段】(1)抗酸化成分を含むハーブ系植物を水またはエチルアルコール濃度水溶液を用いて抽出する工程、(2)得られた抽出液を蒸留して蒸留残渣を得る工程、(3)得られた蒸留残渣に糖類を含む原料および微生物を加えて発酵させる工程、を含む抗酸化能を有し、かつハーブ特徴香が低減された調味液の製造方法。抗酸化能成分をTroloxの量に換算して50μmol/g(ml)以上含有し、かつエチルアルコール濃度は2〜30%の範囲であり、ハーブの特徴香を有さないエチルアルコール含有調味液。脂質を含有する飲食品に、上記調味液を添加する、飲食品に含まれる脂質の劣化を抑制する方法。上記調味液が添加された、脂質の劣化が抑制された飲食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗酸化成分を含有するオレガノ、セージ、タイム、ローズマリーなどのシソ科のハーブ系植物またはそれらの混合物より得た抽出液を原料とする、ハーブの強い特徴香気を軽減させ、かつ高い抗酸化能を有する調味液の製造方法に関する。さらに本発明は、上記製造方法で得られるエタノール含有調味液、さらには本発明の調味液を用いる飲食品の脂質劣化抑制方法、並びに本発明の調味液を用いる脂質の劣化を抑制した飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
ハーブ系の植物が、抗酸化成分、抗菌成分を含有していることは知られており、ハーブ系の植物からの抽出物が飲食品用の保存剤として用いられることがある。しかし、これらのハーブ系植物は、それぞれに特有でかつ強烈な香気を有する。そのため、抗酸化の目的で、ハーブ系の植物を飲食品に添加すると飲食品の香味を変えてしまう場合があり、添加する場合には、飲食品の種類に応じて、その含有量は制限される。そこで、上記抽出物からハーブ系植物の香気を低減することが検討されている。
【0003】
例えば、ハーブ系植物由来の抗酸化能を有する抽出画分から、吸着剤を用いて特徴香気を低減する方法が提案されている。例えば、活性炭、珪藻土、酸性白色土などの吸着剤を用いて抗酸化成分を含有する抽出液を精製することが知られている(特許文献1、特許文献2参照)。特許文献1に記載の方法では、95%エタノールを用いて得た抽出液を、吸着剤を用いて精製し、特許文献2に記載の方法では、n−ヘキサンやエチルエーテルを用いて得た抽出液を、吸着剤を用いて精製している。また、各種合成樹脂からなる合成吸着剤を用いて抗酸化成分を含有する抽出液を処理して香気を低減することも知られている(特許文献3参照)。特許文献3に記載の方法では50%エタノール水溶液を用いて得た抽出液を、吸着剤を用いて精製している。
【0004】
また、抽出法と水蒸気蒸留を組み合わせた方法(特許文献4参照)により、特徴香気の含有量を低減することも試みられている。抽出法では、n−ヘキサンやエチルエーテルなどの有機溶媒を使用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭55−102508号公報
【特許文献2】特開昭57−203445号公報
【特許文献3】特許第4051890号公報
【特許文献4】特開昭59−56483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1、特許文献2に記載の方法では、ハーブ香気の影響を排除できるレベルにまで香気を低減するには至っていない。また、特許文献3に記載の方法では、目的とする抗酸化成分まで吸着され、その回収、濃縮に手間取るという問題が生じる。特許文献4に記載の方法では、抽出で人体に影響を及ぼす可能性が有るn−ヘキサンやエチルエーテルなどの有機溶媒が使用され、安全性について危惧される。特許文献2に記載の方法でも同様の有機溶媒が用いられており、同様に安全性について危惧される。
【0007】
そこで本発明の目的は、抗酸化成分を含有するハーブ系植物の抽出物から、その特徴香気を低減させて、高い抗酸化能を有する新たな調味液を安全な方法で提供することにある。さらに本発明は、この調味液を用いた飲食品の脂質劣化抑制方法及び脂質劣化抑制効果を有する飲食品を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するべく鋭意検討した。その結果、水またはエチルアルコール水溶液を用いてハーブ系植物から抽出した抽出液を蒸留し、得られる蒸留残渣に微生物を加え発酵させて得られる発酵液が、高い抗酸化能を有し、かつハーブ系植物の特徴香気が著しく低減された調味液として有用であることを見いだして、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、抗酸化成分を含む植物を水またはエチルアルコール水溶液にて抽出し、得られた抽出液を蒸留して得た蒸留残渣に果汁などの糖類を含む原料および微生物を加えて発酵させることで、高い抗酸化能を有する調味液を得る調味液の製造方法である。さらに本発明は、アルコール含有調味液、本発明の製造方法で得られる調味液を用いた食品に含まれる脂質の劣化抑制方法、および本発明の製造方法で得られる調味液を含有する脂質の劣化が抑制された食品に関する。
【0010】
本発明は以下のとおりである。
[1]
(1)抗酸化成分を含むハーブ系植物を水またはエチルアルコール濃度水溶液を用いて抽出する工程、(2)得られた抽出液を蒸留して蒸留残渣を得る工程、(3)得られた蒸留残渣に糖類を含む原料および微生物を加えて発酵させる工程、を含む抗酸化能を有し、かつハーブ特徴香が低減された調味液の製造方法。
[2]
抗酸化成分を含むハーブ系植物がシソ科ハーブ系植物である[1]記載の製造方法。
[3]
蒸留が減圧下で行われる[1]または[2]記載の製造方法。
[4]
微生物が酵母であり、発酵がアルコール発酵である[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]
ハーブ特徴香がテルペン類化合物由来である[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]
抗酸化能成分をTroloxの量に換算して50μmol/g(ml)以上含有し、かつエチルアルコール濃度は2〜30%の範囲であり、ハーブの特徴香を有さないエチルアルコール含有調味液。
[7]
枯葉香気を有さない、[6]記載のエチルアルコール含有調味液。
[8]
脂質を含有する飲食品に、[6]に記載のアルコール含有調味液または[1]〜[5]のいずれかに記載の方法で製造された調味液を、調味液に含まれる抗酸化能成分がTroloxの量に換算して0.1〜5μmol/g(ml)となる量で添加することを特徴とする、飲食品に含まれる脂質の劣化を抑制する方法。
[9]
脂質を含有する飲食品であって、[6]に記載のアルコール含有調味液または[1]〜[5のいずれかに記載の方法で製造された調味液を、調味液に含まれる抗酸化能成分がTroloxの量に換算して0.1〜5μmol/g(ml)となる量で添加されたことを特徴とする、脂質の劣化が抑制された飲食品。
[10]
加熱後のヘキサナールの発生量が抑制された、[9]に記載の飲食品。
【発明の効果】
【0011】
本発明の調味液は、食品等に使用した場合、食品素材の香味に悪影響を与えず、かつ脂質の劣化を抑制できるほどの高い抗酸化能を有する。本発明においては、抽出溶媒は水、または酒類に含まれるエチルアルコールを用いるため、本発明の調味液は極めて安全である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】肉から揮発するヘキサナール濃度の測定結果(実施例2)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を具体的に説明する。
まずは本発明の調味液の製造方法について説明する。
本発明の調味液の製造方法は、(1)抗酸化成分を含むハーブ系植物を水またはエチルアルコール濃度水溶液を用いて抽出する工程、(2)得られた抽出液を蒸留して蒸留残渣を得る工程、(3)得られた蒸留残渣に糖類を含む原料および微生物を加えて発酵させる工程、を含む。
【0014】
工程(1):抽出
本発明の製造方法では、抗酸化成分を含むハーブ系植物を原料として用い、この植物から抗酸化成分を含有する抽出液を得る。抗酸化成分を含むハーブ系植物は、一般に抗酸化成分を含有することに加えて、強い特徴香を有する。そのようなハーブ系植物原料は、特に限定されるものではないが、一般に調理に利用されるハーブ系香辛料植物であることが好ましい。例えば、オレガノ、バジル、セージ、タイム、ローズマリー、シソ、マジョラム、オールスパイス、ガーリック、カルダモン、クミン、クローブ、コリアンダー、スターアニス、ターメリック、ユーカリ、ナツメグ、フェンネル、タラゴン、パセリ、ペパーミント、ローレル、ガラムマサラ、ウーシャンフェン、シナモン、ペッパー、ジンジャー、山椒、フェヌグリーク、わさび等の植物があげられる。中でも、オレガノ、バジル、セージ、タイム、ローズマリー、シソ、マジョラム等のシソ科植物がよく、特にオレガノが好ましい。
【0015】
上述した「抗酸化成分」とは、飲食品等が酸化して劣化することを防止する成分であり、脂質の酸化劣化、色素の退色などを抑制する効果を有する。具体的には、活性酸素種、例えば、スーパーオキシド(・O2-)、ヒドロキシルラジカル(HO・)、ヒドロペルオキシルラジカル(HOO・)、アルコキシルラジカル(LO・)、アルキルペルオキシルラジカル(LOO・)等のラジカルを消去する効果を有する成分である。
【0016】
抽出に用いられる植物原料の形態としては、葉、茎、種、実のいずれかの形で用いられ、生、または乾燥された状態で用いられる。原料の大きさとしては、特に限定されないが抽出効率が良いように細かく刻まれたもの、または粉末状のものが適している。
【0017】
抽出に用いる溶媒としては、水またはエチルアルコール水溶液(エチルアルコールと水の混合物)を用いる。短時間で抗酸化成分を効率よく得るためには、エチルアルコール水溶液がよい。また、エチルアルコールの濃度は、例えば、5〜50%(v/v)の範囲とすることができ、好ましくは10〜30%(v/v)の範囲である。この濃度範囲であれば、短時間で抗酸化成分を効率よく得ることができる。抽出の温度としては、原料植物の種類にもよるが、例えば、10℃〜エチルアルコール水溶液の沸点の範囲、抽出効率を考慮すると、好ましくは50℃〜エチルアルコール水溶液の沸点の範囲である。抽出に使用する液量は、通常、原料植物乾燥重量の5〜100倍量、好ましくは10〜50倍量である。この時の抽出方法は撹拌がよいが静置でもよく、容器形態としては、開放系でも閉鎖系でもよい。抽出に要する時間は、10℃〜30℃の温度域では例えば、12時間、50℃〜エチルアルコール水溶液の沸点の範囲では、例えば、2時間以上であれば十分であるが、特に限定するものではない。
【0018】
抽出処理の後に固液を分離することができ、その場合は、フィルターなどを用いたろ過などの方法がとられる。また、抽出処理後の植物原料残渣に対し、さらに抽出操作を1、2回行い、最初の抽出液と合わせてもよい。また、固液を分離することなくそのまま蒸留に供することもできる。
【0019】
工程(2):蒸留
工程(1)で得られた抽出液を蒸留して、抗酸化成分を濃縮し、かつハーブ植物特徴香を除去する。蒸留方法としては、常圧、または減圧下にて加熱し、沸騰させて蒸留処理を行うことができるが、特にその形式は問わない。このとき、蒸留の濃縮度の目安は、抽出液重量の1/2〜1/10であり、抗酸化性値がビタミンE様物質であるTroloxの量に換算して50μmol/g(ml)以上となるように行うのが好ましい。ここでいう抗酸化性値とは、通常、抗酸化能の測定に用いられるORAC法、ABTS法、DPPH法、SOD法、FRAP法、TRAP法、βカロテン退色法などで測定される値であるが、簡便に測定できる方法としてABTS法が挙げられる。
【0020】
ABTS法による抗酸化能の測定は、以下の方法で実施できる。
(i)2,2'−アジノ−ビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)二アンモニウム(ABTS)とペルオキソニ硫酸カリウム(K2S2O8)で調製したストック溶液(7mM ABTS、2.45mM K2S2O8、0.2Mリン酸緩衝液(pH7))を波長734nm等の光源を用いて吸光度を測定し、吸光度で0.9前後になるように水で薄めABTS・+溶液とする。
(ii)測定試料75μlをABTS・+溶液4mlに添加し、よく撹拌後、5min以上放置し、その吸光度734nmの変化から、ABTS・+消去能を測定することができる。標準試薬としては、1.5mM Troloxを用い、結果は試料1ml(またはg)あたりTrolox相当量(μmol)として算出することができる。
【0021】
上述の様にして得られたハーブ抽出液蒸留残渣物は、もとの強いハーブの特徴香が著しく軽減され、かつ抗酸化性値がもとの抽出液よりも、例えば、数倍高い値をとる。ここでいう強いハーブ特徴香とは、例えば、カンファー、シネオール、リモネン、ピネン、チモール、カルバクロールなどのテルペン類が主である。蒸留残渣物のハーブ特徴香は、抽出液におけるハーブ特徴香の50分の1以下であり、蒸留残渣物のハーブ特徴香は、臭気としてはほとんど感知できないレベルのものである。
【0022】
しかし、得られた蒸留残渣物では、加熱香気が新たに発生し、感じられる。この加熱香気は、植物種に関係なく発生し、その香気の特徴としては、枯葉様、ムレた香気である(以下、枯葉香気と呼ぶ)。この枯葉香気は、飲食品に対してはふさわしくなく、飲食品に混合した場合、飲食品の種類によっては支障をきたす場合がある。そこで、本発明では、さらにこの枯葉香気を低減化させるために、次いで蒸留残渣物はアルコール発酵に供される。
【0023】
工程(3):発酵
発酵は、上記蒸留残渣物に糖、または糖を含む天然原料を適宜添加し、乳酸菌、酵母、麹菌等の微生物を接種することにより行われる。ここで、糖は通常、果糖、ブドウ糖、ショ糖などが利用され、糖を含む天然原料としては各種天然果汁、または濃縮果汁などが利用されるが微生物が資化できるものであればよい。天然果汁または濃縮果汁として、例えば、ブドウ果汁を用いることができる。糖の添加量としては、微生物が生育しやすい環境を考慮して調整できるが、最終濃度として5〜30%となるように添加するのがよく、好ましくは15〜22%である。接種する微生物は、発酵後の発酵生産物の飲食品への適用を考慮し、乳酸菌、酵母、麹菌等から一種類、または数種類摂取できる。但し、調理における素材との親和性、調味料の食材への浸透性等を考慮すると、エチルアルコールを生成する酵母を用いて、エチルアルコールを含有する調味液を得ることが好ましい。
【0024】
酵母としては、例えばワイン酵母、清酒酵母が利用できる。但し、これらの制限される意図ではない。発酵温度は通常10℃〜30℃で行われ、好ましくは15℃〜25℃である。発酵は撹拌しながらでもよいが、静置で十分である。発酵期間は、通常、残存する糖がなくなり次第終了させるが、糖を残したまま終了させてもよく、例えば、4日〜14日の範囲ですることが望ましい。酵母による発酵条件は、枯葉香気の低減の程度とエチルアルコールの生成量等を考慮して適宜決定できる。また、発酵中、発酵終了後にエチルアルコールを別途添加してエチルアルコールの濃度を調整することもできる。発酵により生成するエチルアルコール濃度は、例えば、2〜20%の範囲であることができる。但し、この範囲に限定されるものではない。また、糖を含む天然原料としてブドウ果汁を用いると、抗酸化能を有するワイン様の調味液を得ることができる。発酵後は、遠心分離等により微生物を分離して、本発明の調味液を得る。
【0025】
微生物として酵母を用いる場合も、酵母以外の麹菌や乳酸菌等を用いる場合も、発酵期間等の発酵条件は、蒸留残渣物に新たに加わった枯葉香気が十分に低減しているかまたは消失しているかを基準に適宜設定される。発酵によって枯葉香気が低減する理由は必ずしも明らかではないし、理論に拘泥するものではないが、枯葉香気の元となる物質が微生物により資化されるためであると考えられる。
【0026】
上述の様に得られた調味液は、優れた抗酸化能を有し、かつ、ハーブの強い特徴香および枯葉香気が著しく低減しており、臭気としてほとんど感知できないレベルのものであり、そのまま飲食品に添加して使用できる。
【0027】
本発明は、上記製造方法で製造された優れた抗酸化能を有し、かつ、ハーブの強い特徴香を有さず、かつ製造中に発生し感じられる枯葉香気が著しく低減した、調味液を包含し、特に、酵母による発酵で得られた、エチルアルコールを含有する調味液を包含する。このエチルアルコール含有調味液は、抗酸化能成分をビタミンE様物質であるTroloxの量に換算して50μmol/g(ml)以上含有し、かつエチルアルコール濃度は2〜30%の範囲であり、ハーブの強い特徴香を有さず、製造中に新たに生成する枯葉香気もないものである。抗酸化能成分の含有量は、抽出条件、蒸留条件、発酵条件により変化するが、各条件を、Troloxの量に換算して50μmol/g(ml)以上の抗酸化能成分を含有するように適宜選択することができる。
【0028】
本発明は、脂質を含有する飲食品に、本発明のアルコール含有調味液または本発明の方法で製造された調味液を、調味液に含まれる抗酸化能成分がTroloxの量に換算して0.1〜5μmol/g(ml)となる量で添加することを特徴とする、飲食品に含まれる脂質の劣化を抑制する方法を包含する。さらに本発明は、脂質を含有する飲食品であった、本発明のアルコール含有調味液または本発明の方法で製造された調味液を、調味液に含まれる抗酸化能成分がTroloxの量に換算して0.1〜5μmol/g(ml)となる量で添加されたことを特徴とする、脂質の劣化が抑制された飲食品を包含する。
【0029】
本発明の調味液または本発明の製造方法で製造された調味液を飲食品等へ利用する場合は、通常の味付け調味液、下処理に用いる調味液、またはアスコルビン酸(V.C)、トコフェロール(V.E)等の酸化防止剤と同様な方法で用いることができる。例えば、食用肉への利用においては、生肉に対して当該調味液を適当時間接触させ、もしくは細片化した肉には適宜混合し、未加熱のまま冷凍保存、または接触後、焼成、ボイル、蒸す等の加熱工程がとられる。このようにして得られた当該調味液を接触させた食品は加熱直後、未加熱状態での冷凍保存中、加熱後保存中の時間の経過に伴う酸化反応が抑制され、非含有飲食品に比べ品質が維持される。
【0030】
上述した食用肉とは牛、豚、羊、鶏等の陸上動物、または魚類などの肉で食用に適している肉類であれば特に制限はなく、酸化が問題とされる脂質等を多く含有するものほど、品質維持効果は発揮される。また、食用肉に限らず、酸化が進み、品質が悪くなりやすい食材に対しては、本発明の調味液は有効に利用できる。
【0031】
酸化による食材の品質劣化の要因の一つには脂質の酸化臭が挙げられる。その酸化臭の主な原因物質はリノール酸等の不飽和脂肪酸が酸化されることによって生じる、ヘキサナール、2(3)−ヘキセナール、2,4−ヘプタジエナール等のアルデヒド類、1−ペンテン−3−オール、1−オクテン−3−オール等のアルコール類等である。特に、畜肉の場合は、加熱時、および加熱後保存中にはヘキサナールが顕著に増加し、酸化臭として感じられる。一方、本発明である当該調味料を接触処理せしめた畜肉は、加熱後のヘキサナールの発生量が著しく抑制される。
【実施例】
【0032】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。尚、下記実施例、比較例における抗酸化、および官能による評価は次のように行った。
【0033】
「抗酸化能評価」
抗酸化能はラジカル消去能を測定することにより評価するABTS法によって行った。具体的には、まず、2,2'−アジノ−ビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)二アンモニウム(ABTS)とペルオキソニ硫酸カリウム(K2S2O8)で調製したストック溶液(7mM ABTS、2.45mM K2S2O8、0.2Mリン酸緩衝液 pH7)を調製し、波長734nm等の光源を用いて吸光度を測定し、吸光度で0.9前後になるように水で薄めABTS・+溶液とした。測定試料75μl、およびABTS・+溶液4mlを試験管にて混合し、よく撹拌後、15分間放置し、添加前の吸光度734nm、および15分後の吸光度の734nmを測定した。検量線は、測定試料として、試薬Trolox 0mM、0.15mM、1.5mMを用いたときの吸光度より求めた。この検量線を用い、測定試料の抗酸化性値を1ml(またはg)あたりのTrolox相当量(μmol)として算出した。また、測定試料の吸光度が、検量線内になければ適宜、水で希釈し測定しなおし、測定後希釈倍率をかけて算出した。尚、この数値が高ければ高いほど、抗酸化能(ラジカル消去能)が高いという指標となる。
【0034】
「官能評価」
官能評価は、グラスに評価試料を20mlそそぎ、試料の臭いを嗅ぐことで評価し、香気が感じられない場合「-」、少しある場合「+」、強い場合「++」、非常に強い場合「+++」で評価し、研究所員専門パネル4名で行った。
【0035】
実施例1
4Lの10%(v/v)エチルアルコール水に、市販のオレガノ乾燥葉200gを添加し、55℃で2時間静置し、抽出を行った。抽出後、固液をろ紙で分離し液部をさらに遠心分離(9000rpm、20分)して、その上清を抽出液として得た(対照区1)。得られた抽出液、約4Lを、ロータリーエバポレーター(EYELA社製)を用いて減圧蒸留し、約800mlの蒸留残渣を得た(対照区2)。蒸留残渣60ml、および(糖濃度20%となるように)赤ブドウ濃縮果汁30gを混合し、水で100mlとした。さらに、酵母(Saccharomyces cerevisiae:VIN13(Anchor社製))を0.05g添加し、20℃で静置発酵した。10日間の発酵で、糖を消費し、発酵が終了したので、遠心分離(9000rpm、20分)を行い、菌体を含む固形物を分離し、本発明赤ワインタイプの調味液(本発明1)を得た。
【0036】
上述と同様に蒸留残渣を得、蒸留残渣60ml、および(糖濃度20%となるように)白ブドウ濃縮果汁30g、またはブドウ糖20gを混合し、水で100mlとした。さらに、それぞれ酵母(Saccharomyces cerevisiae:VIN13(Anchor社製))を0.05g添加し、20℃で静置発酵した。10日間の発酵で、糖を消費し、発酵が終了したので、遠心分離(9000rpm、20分)を行い、菌体を含む固形物を分離し、本発明白ワインタイプの調味液(本発明2)および糖添加発酵物(本発明3)を得た。
【0037】
比較例1
糖濃度20%となるように本発明1と同じ赤ブドウ濃縮果汁30gを使用し、水で100mlとした。さらに、酵母(Saccharomyces cerevisiae:VIN13(Anchor社製))を0.05g、および栄養源補足のためリン酸水素ニアンモニウムを0.05g添加し、20℃で静置発酵した。10日間の発酵で、糖を消費し、発酵が終了したので、遠心分離(9000rpm、20分)を行い、菌体を含む固形物を分離し、赤ワインを得た。
【0038】
比較例2
糖濃度20%となるように本発明2と同じ白ブドウ濃縮果汁30gを使用し、水で100mlとした。さらに、酵母(Saccharomyces cerevisiae:VIN13(Anchor社製))を0.05g、および栄養源補足のためリン酸水素ニアンモニウムを0.05g添加し、20℃で静置発酵した。10日間の発酵で、糖を消費し、発酵が終了したので、遠心分離(9000rpm、20分)を行い、菌体を含む固形物を分離し、白ワインを得た。
【0039】
比較例3
オルガノ株式会社アンバーライトXAD2樹脂をエタノールで浸漬させ、その後イオン交換水をエタノール等量加えて一晩以上冷蔵庫にて放置し水和させた。水和させた樹脂および液(エタノール水溶液)をメスシリンダーへ移し樹脂量が20mlとなるように測りとり、液ごとカラムへ移した。カラムへ移した樹脂をイオン交換水で数回洗い、カラム上部の水をできるだけ樹脂近くまで抜いた。その上から実施例1対照区2で得たオレガノ葉蒸留残渣を加え、初液20ml(A)、後液20ml(B)を得た。通液速度はSV=約3で行った。
【0040】
比較例4
オレガノ乾燥葉20g、酵母(Saccharomyces cerevisiae:VIN13(Anchor社製))を1g、水4g、グルコース1gをよく混合し、20℃で7日間静置発酵した。また、1日1回の割合で、混合撹拌を行った。その後オレガノ葉重量15gに、50%(v/v)エチルアルコール水75gを添加し、トリオサイエンス社トリオブレンダーにてホモジナイズ後、液を搾り、遠心分離(9000rpm, 20分)を行い、その上清を試料とした。
【0041】
得られた各試験液の抗酸化能および官能評価を行い、表1に示した。また、参考としてハーブを浸漬させてつくられる酒類であるベルモットもあわせて比較した。
【0042】
【表1】

-香気が感じられない、+少しある、++強い、+++非常に強い
*60%(v/v)に水で希釈したサンプルを評価
【0043】
実施例2
ハンバーグにおける酸化臭抑制
市販の豚挽肉を購入し、100gをボールへ入れ、次に片栗粉5g、食塩1gを加え、さらに表2記載の試料1〜4をそれぞれ加えた。その後、5分間よくこね合わせ、小判状に整えてオーブンで焼き(180℃、20分)、ハンバーグを作製した。
【0044】
【表2】

【0045】
次に上記方法で試作したハンバーグを、ホモジナイザーにて細かく砕き、肉片をバイアル瓶にいれ、肉から揮発する酸化臭物質の一つであるヘキサナールの濃度をGC/MSヘッドスペースにより測定した。その結果を図1に示す。図1において、縦軸の数値は各試験区で検出されたヘキサナールの濃度(ppm)である。なお、ヘキサナールの濃度が低い試験区ほど豚肉の脂質の酸化が抑制され、酸化臭が感じにくくなっている。
【0046】
図1から明らかなように、試料1(全量水)と比較して、本発明を含む全ての試験区(試料3〜5)においてヘキサナールの発生が抑制されており、本発明の酸化抑制効果が確認された。また、赤ワインを添加した試料2に比べて本発明の添加量は1/10程度(試料3)で十分な効果が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は調味液の製造方法分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)抗酸化成分を含むハーブ系植物を水またはエチルアルコール濃度水溶液を用いて抽出する工程、(2)得られた抽出液を蒸留して蒸留残渣を得る工程、(3)得られた蒸留残渣に糖類を含む原料および微生物を加えて発酵させる工程、を含む抗酸化能を有し、かつハーブ特徴香が低減された調味液の製造方法。
【請求項2】
抗酸化成分を含むハーブ系植物がシソ科ハーブ系植物である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
蒸留が減圧下で行われる請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
微生物が酵母であり、発酵がアルコール発酵である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
ハーブ特徴香がテルペン類化合物由来である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
抗酸化能成分をTroloxの量に換算して50μmol/g(ml)以上含有し、かつエチルアルコール濃度は2〜30%の範囲であり、ハーブの特徴香を有さないエチルアルコール含有調味液。
【請求項7】
枯葉香気を有さない、請求項6記載のエチルアルコール含有調味液。
【請求項8】
脂質を含有する飲食品に、請求項6に記載のアルコール含有調味液または請求項1〜5のいずれかに記載の方法で製造された調味液を、調味液に含まれる抗酸化能成分がTroloxの量に換算して0.1〜5μmol/g(ml)となる量で添加することを特徴とする、飲食品に含まれる脂質の劣化を抑制する方法。
【請求項9】
脂質を含有する飲食品であって、請求項6に記載のアルコール含有調味液または請求項1〜5のいずれかに記載の方法で製造された調味液を、調味液に含まれる抗酸化能成分がTroloxの量に換算して0.1〜5μmol/g(ml)となる量で添加されたことを特徴とする、脂質の劣化が抑制された飲食品。
【請求項10】
加熱後のヘキサナールの発生量が抑制された、請求項9に記載の飲食品。

【図1】
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【公開番号】特開2011−130689(P2011−130689A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291666(P2009−291666)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(505144588)キリン協和フーズ株式会社 (50)
【Fターム(参考)】