説明

抗酸菌に対する抗菌剤のスクリーニング

【課題】抗酸菌に有効な抗菌剤を得るための技術の提供。
【解決手段】抗酸菌のLM(Lipomannan)及び/又はLAM(Lipoarabinomannan)生合成を阻害する物質をスクリーニングするためのRv0051遺伝子及び/又はRv2181遺伝子あるいはその発現産物であるポリペプチドの提供、および当該発現産物である抗酸菌由来の酵素と被験物質を共存させ、該酵素活性を低下させる物質を選別する抗菌剤のスクリーニング方法の提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗酸菌に有効な薬剤を提供するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
Mycobacterium tuberculosis は、結核の病原体である。世界人口の3分の1が感染しており、年間2百万人が結核で死亡する。一方Mycobacterium aviumに代表される非定型抗酸菌は、免疫力の低下した人に日和見感染するが、最近では健康な中高年成人においても発症が増えてきている。結核菌や非定型抗酸菌などのマイコバクテリアによる感染を治療する薬剤は現在限られたものだけであり、薬剤耐性菌の出現をはじめとして問題も多い。
【0003】
マイコバクテリアの感染においては、その特異な構造をした細胞壁が、感染の成立に重要な役割を果たすと考えられている。その細胞壁の構成成分のうち宿主の免疫系から逃れる上で重要な働きをする分子として、リポアラビノマンナン(lipoarabinomannan; LAM)が知られている。LAMには、樹状細胞の成熟を抑制したり(非特許文献1)、樹状細胞によるサイトカインの産生を抑制したりする働きがある事が知られている(非特許文献2)。また、単球によるサイトカイン産生を抑制したり(非特許文献3)、マクロファージのアポトーシスを阻害する作用も知られている(非特許文献4)。従ってLAMの生合成を阻害する事ができれば宿主の免疫系が効果的に活性化され、マイコバクテリアの感染の成立を防ぐ事が期待される。すなわち、LAMの生合成に関与する酵素は薬剤開発の標的として有望であると考えられる。しかしながら、LAMの生合成に関与する酵素についてはほとんど同定されていない。
【0004】
我々はこれまでに、実験が容易である非感染性のMycobacterium smegmatisを用いて、LAMの前駆体であるホスファチジルイノシトールマンノシド(phosphatidylinositol mannosides; PIM)が、細胞膜構成リン脂質であるホスファチジルイノシトールから生合成される経路を詳細に解明した(非特許文献5,6)。PIMやLAMは、ホスファチジルイノシトールにマンノース鎖が結合した構造をとっているが、PIMに長いマンノース鎖が付加される事によってLAMの前駆体であるリポマンナン(lipomannan; LM)となり、これにアラビナン等が修飾される事によってLAMとなると考えられている。われわれの研究の結果、PIM生合成の初期の段階ではマンノース転移反応に寄与するマンノース供与体がGDP-マンノースであるのに対し、PIMの生合成の後半においては、ポリプレノールリン酸マンノース(PPM)である事を見いだした(非特許文献5)。その他の様々な状況証拠によって、LM/LAMの生合成に関与するマンノース供与体もPPMであると考えられている(非特許文献7)。
【非特許文献1】Geijtenbeek, T. B., Van Vliet, S. J., Koppel, E. A., Sanchez-Hernandez, M., Vandenbroucke-Grauls, C. M., Appelmelk, B., and Van Kooyk, Y. (2003) J Exp Med 197, 7-17
【非特許文献2】Nigou, J., Zelle-Rieser, C., Gilleron, M., Thurnher, M., and Puzo, G. (2001) J Immunol 166, 7477-7485
【非特許文献3】Knutson, K. L., Hmama, Z., Herrera-Velit, P., Rochford, R., and Reiner, N. E. (1998) J Biol Chem 273, 645-652
【非特許文献4】Rojas, M., Garcia, L. F., Nigou, J., Puzo, G., and Olivier, M. (2000) J Infect Dis 182, 240-251
【非特許文献5】Morita, Y. S., Patterson, J. H., Billman-Jacobe, H., and McConville, M. J. (2004) Biochem J 378, 589-597
【非特許文献6】Morita, Y. S., Velasquez, R., Taig, E., Waller, R. F., Patterson, J. H., Tull, D., Williams, S. J., Billman-Jacobe, H., and McConville, M. J. (2005) J Biol Chem 280, 21645-21652
【非特許文献7】Besra, G. S., Morehouse, C. B., Rittner, C. M., Waechter, C. J., and Brennan, P. J. (1997) J Biol Chem 272, 18460-18466
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、抗酸菌に有効な薬剤を提供するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題に鑑み研究を重ねた結果、PPM依存型のマンノース転移酵素を同定し、それがPIM、LMないしLAMの生合成に関与していることを明らかにし、該酵素の阻害物質をスクリーニングすることで抗酸菌に有効な抗菌剤が提供できることを見出した。
【0007】
本発明は、以下の発明に関する。
1. 抗酸菌のLM及び/又はLAM生合成を阻害する物質をスクリーニングするためのRv0051遺伝子及び/又はRv2181遺伝子あるいはその発現産物であるポリペプチドの使用。
2. Rv0051及び/又はRv2181遺伝子が、配列番号1〜6のいずれかの塩基配列を有する遺伝子である、項1に記載の使用。
3. 抗酸菌のPIM、LM及びLAMからなる群から選ばれる少なくとも1種の生合成を阻害する物質をスクリーニングするためのRv2673遺伝子あるいはその発現産物であるポリペプチドの使用。
4. Rv2673遺伝子が、配列番号7〜9のいずれかの塩基配列を有する遺伝子である、項3に記載の使用。
5. Rv0051遺伝子、Rv2181遺伝子およびRv2673遺伝子からなる群から選ばれるいずれかの発現産物である抗酸菌由来の酵素と被験物質を共存させ、該酵素活性を低下させる物質を選別することを特徴とする、抗酸菌に有効な抗菌剤のスクリーニング方法。
6. Rv0051遺伝子、Rv2181遺伝子およびRv2673遺伝子からなる群から選ばれるいずれかの遺伝子のプロモーターにレポーター遺伝子を連結し、該レポーター遺伝子を組み込んだ抗酸菌と被験物質を共存させ、該レポーター遺伝子の発現量を低下させる物質を選別することを特徴とする、抗酸菌に有効な抗菌剤のスクリーニング方法。
7. Rv0051遺伝子、Rv2181遺伝子およびRv2673遺伝子が、配列番号1〜9のいずれかの塩基配列を有する遺伝子である、項5または6に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、抗酸菌に対する抗菌剤を容易にスクリーニングすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において、Rv0051、Rv2181、Rv2673は、各々遺伝子を表し、その発現産物であるポリペプチドは、PIM、LM、LAMの生合成に関係する酵素活性、特にマンノース転移酵素活性を有するものが挙げられる。該マンノース転移酵素活性は、例えばPPM依存型のものが例示できる。PIM(Phosphatidylinositolmannoside)の生合成阻害物質は、抗酸菌に対し致死的である。LM(Lipomannan)、LAM(Lipoarabinomannan)の生合成阻害物質は、免疫系を抑制するLAMの作用を抑え、これにより宿主の免疫系が効果的に活性化され、マイコバクテリアの感染症を予防ないし治療することが可能になる。
【0010】
本明細書において、抗酸菌としては、Mycobacterium属の微生物が挙げられ、特に限定されないが、例えばMycobacterium tuberculosis(結核菌)、Mycobacterium avium(非定型抗酸菌)、Mycobacterium leprae(ハンセン菌)、Mycobacterium ulcerans、Mycobacterium smegmatisなどが挙げられる。M. smegmatisは非病原性の菌であり、培養が容易、増殖が速いなどの特徴を有し、非病原性ではあるが、抗酸菌に対する抗菌剤のスクリーニングに有用である。
【0011】
抗酸菌は、特異な構造の細胞壁を共通に有し、これが感染の成立に重要な役割を果たしている。従って、抗酸菌の対応するどの酵素を使用してスクリーニングを行っても、抗酸菌に対する抗菌剤を得ることが可能である。
【0012】
例えば、Rv0051遺伝子の発現産物は、PIM、LM、LAMなどの抗酸菌細胞壁の生合成に関係する酵素であり、配列番号1〜3は、各々M. smegmatis、M. avium、M. tuberculosisに由来するRv0051遺伝子およびポリペプチドを示しているが、これら以外の抗酸菌に由来し、かつ、Rv0051に対応する酵素の阻害物質は、結核菌、非定型抗酸菌などの任意の病原性抗酸菌に対する抗菌剤として作用する。従って、本明細書において、「Rv0051」とは、配列番号1〜3の特定の遺伝子に限定されず、抗酸菌のRv0051に対応する遺伝子、さらに酵素活性を保持する該遺伝子の変異体を広く包含する。同様に、Rv2181、Rv2673は、各々配列番号4〜6、配列番号7〜9の特定の遺伝子に限定されず、抗酸菌のRv2181、Rv2673に対応する遺伝子、さらに酵素活性を保持する該遺伝子の変異体を広く包含する。
【0013】
スクリーニングの対象となる好ましいRv0051遺伝子、Rv2181遺伝子、Rv2673遺伝子は、病原性抗酸菌であり、特に、Mycobacterium tuberculosis、Mycobacterium avium、Mycobacterium leprae、Mycobacterium ulceransに由来する遺伝子である。
【0014】
Rv0051がLM、LAMの生合成に関与することは、Rv0051の欠損株がPIMを生成し、かつ、LM、LAMをほとんどあるいは全く生成しないことから明らかである。
【0015】
Rv2181がLM、LAMの生合成に関与することは、Rv2181の欠損株においてLM、LAMのSDS-PAGEによる移動パターンを変化させることから明らかである。Rv2181酵素に対する阻害剤は、LAMの構造変化を起こすことで、宿主の免疫系を活性化し、抗酸菌の感染症を予防ないし治療することが期待される。
【0016】
Rv2673の欠損株は得られず、Rv2673の欠損は致死的であること、Rv2673はマンノース転移酵素であり、PIMが生存に必須であると予測されることから、Rv2673はPIMの生合成に関与し、その阻害剤は抗酸菌を死滅させ得ると予測される。
【0017】
Rv0051、Rv2181、Rv2673は互いにPIM、LM、LAMの生合成に関する異なる作用点を有し、これらに対する有効な阻害剤を互いに、あるいは公知の抗酸菌感染症治療薬と組み合わせることで、耐性菌に対しても有効であると考えられる。
【0018】
本発明のスクリーニング方法は、以下のようにして実施することができる。
【0019】
例えば、Rv0051、Rv2181、Rv2673の発現量を低下させる物質をスクリーニングすることで、抗酸菌の抗菌剤を得ることができる。具体的には、Rv0051、Rv2181、Rv2673のプロモーターにレポーター遺伝子(例えばβ−ガラクトシダーゼ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、アルカリホスファターゼ遺伝子、西洋ワサビペルオキシダーゼ遺伝子、またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子など)を連結し、これを抗酸菌に組み込んで変異株を作製し、該変異株と被験物質(抗菌剤の候補物質)を共存させ、レポーター遺伝子の発現を低下させる物質を選別することで、抗酸菌に対する抗菌剤をスクリーニングすることができる。
【0020】
より好ましい方法としては、Rv0051遺伝子、Rv2181遺伝子、Rv2673遺伝子の発現産物である酵素を、マンノース供与体であるPPM、およびマンノース受容体と共存させ、ここに被験物質を作用させて酵素活性を低下させる物質を選別することにより、抗酸菌の抗菌剤をスクリーニングすることができる。酵素の基質となるマンノース受容体はPIM/LAM生合成の中間体であると考えられ、これらの中間体は、欠損株において、当該酵素が欠損していることから蓄積することが予想される。欠損株のより詳細な解析によって、そのような蓄積する中間体の同定が可能である。蓄積の顕著な中間体であれば、これを欠損株から分離精製し、酵素反応の再構築に用いることが出来る。また、分離精製による大量調整が困難であっても、構造さえ同定されれば、その情報をもとに合成基質を作成し酵素反応の再構築に用いることも可能である。
【0021】
またハイスループット化するためにより適したストラテジーとしては、基板上に結合されたこれらの酵素のいずれかと被験物質との相互作用を表面プラズモン共鳴法によって解析する。これによって、当該酵素と相互作用する被験物質を絞り込み、上述の酵素反応を利用したアッセイ方法を二次スクリーニングとして利用することも考えられる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明する。
実施例1
方法
ホモログの検索:TubercuList World-Wide Web Server (http://genolist.pasteur.fr/TubercuList/)において、結核菌のゲノムに対して、ヒトやその他の真核生物のマンノース転移酵素PIG-Mのアミノ酸配列を用いて、BLASTまたはFASTA検索を行った。ビットスコアが30以上の遺伝子について、NCBIのnrデータベースを用いてPSI-BLAST検索を行い、PIG-M遺伝子がnrデータベースから正しく検索されるかを確認した。
【0023】
遺伝子欠損株の作成:既に報告されているストラテジーに則って行った(Patterson, J. H., Waller, R. F., Jeevarajah, D., Billman-Jacobe, H., and McConville, M. J. (2003) Biochem J 372, 77-86)。簡単に述べると、標的とする遺伝子の上流を含む5’側約1kbと下流を含む3’側約1kbをPCRによってゲノムDNAから増幅し、これら二つの断片に挟まれるようにカナマイシン耐性遺伝子が挿入されたプラスミドを作成した。これをMycobacterium smegmatisに導入し、相同的組み換えによって染色体上の野生型遺伝子を置換し、欠損株を作成した。標的遺伝子が置換されたマイコバクテリア細胞をカナマイシン耐性によって選択し、正しく相同的組み換えが起きているかどうかをPCR法またはサザンブロット法によって確認した。
【0024】
PIMとLAMの抽出と解析:PIMとLAMの抽出については、既に報告されている方法に準じた(Patterson, J. H., Waller, R. F., Jeevarajah, D., Billman-Jacobe, H., and McConville, M. J. (2003) Biochem J 372, 77-86)。抽出したPIMについては、薄層クロマトグラフィーによって展開し、オルシノール溶液を用いた糖染色によって発色させた。抽出したLAMについて、octyl-Sepharoseカラムクロマトグラフィーによって精製し、場合によっては(図2)Proteinase Kによるタンパク除去及び二度目のoctyl-Sepharoseカラムクロマトグラフィーを行ったのちに、SDS-PAGEで展開した。ゲルを固定したあと、ProQ-Emerald (Molecular Probes社)を用いて糖に特異的な蛍光色素染色を施し、フルオロアナライザー(FLA-5000, Fujifilm)で蛍光シグナルを読み取った。
【0025】
結果
バクテリアのPPMに相当するマンノースの供与体は、ほ乳類をはじめとする真核生物の多くでドリコールリン酸マンノース(DPM)として知られている。PPMやDPMに依存する酵素反応は、一般的に細胞質外で起きることが知られており、真核生物の場合は小胞体の内腔、バクテリアの場合はペリプラズムで反応が起きる。薬剤を開発する上でしばしば問題となるのは薬効を維持しつつ薬剤の細胞壁・細胞膜透過性をいかに高めるかである。活性部位がペリプラズムにある酵素反応の場合、薬剤が細胞膜を通過しなくてもその薬効を発揮することが出来ることを意味し、この点で有望な薬剤が発見される可能性が高いと予想される。
【0026】
そこでPPM依存型のマンノース転移酵素は薬剤開発の標的として適当であると考え、その同定を目指してマイコバクテリアのゲノムを検索した。この際にPIMやLAMの合成に関与するマンノース転移酵素の特徴としていかの二点に注目した。すなわち、第一にマンノース供与体がPPMであること、第二にマンノース受容体がホスファチジルイノシトールを膜アンカー部分として有する糖脂質であることである。これらの性質を兼ね備えた酵素はバクテリアでは知られていない。一方ほ乳類等の真核細胞においては、これらの性質を兼ね備えた酵素として、GPIアンカー生合成に関与するDPM依存型のマンノース転移酵素が知られている(Maeda Y, Watanabe R, Harris CL, Hong Y, Ohishi K, Kinoshita K, Kinoshita T. PIG-M transfers the first mannose to glycosylphosphatidylinositol on the lumenal side of the ER. EMBO J. 2001 20:250-61)。その中でもよく解析されているPIG-Mを用いて相同性検索を行ったところMycobacterium tuberculosisのゲノムからRv0051、Rv2181、Rv2673の三つの遺伝子が見いだされた。これらの遺伝子は、PIG-Mとの相同性を示すことからPPM依存性の酵素をコードすると考えるのが妥当である。実際にこれらの遺伝子の欠損株の解析の結果、PIM/LAM生合成のPPM依存型マンノース転移反応に異常を来している事を示唆する結果が得られたことも、PPM依存型であることを支持している(以下参照)。これら三つの遺伝子間のアミノ酸配列の相同性は21−23%と低く、それぞれ異なる機能を有すると考えられた。そこでその機能を調べるために、これらの遺伝子の欠損株を作成した。
【0027】
Rv0051については、そのM. smegmatisのホモログを、Helen Billman-Jacobeがクローニングしており、遺伝子欠損株についても作成済みであった(Billman-Jacobe, H., Haites, R. E., and Coppel, R. L. (1999) Antimicrob Agents Chemother 43, 3011-3013)。これは、Rv0051の上流に位置する遺伝子の解析の一部として行われたもので、LAMの生合成についてはこれまで調べられていなかった。そこで、LAMの有無について調べてみたところ、欠損株では、LAMの蓄積は極度に減少していた(図1)。一方PIMについては、生合成の欠損が観察されなかった。Ac2PIM2の蓄積が顕著であったが、このことの意義については現在明らかではない。これらの結果は、M. smegmatisにおいて、Rv0051遺伝子のホモログがLAMの生合成に関与している事を示唆している。M. tuberculosisのRv0051およびM. aviumのホモログも、高い相同性を示す事から、同様の機能を持つと予想される。よってRv0051とそのホモログは有効な薬剤開発のターゲットと考えられる。
【0028】
Rv2181については、欠損株を作成したところLAMおよびその前駆体LMのSDS-PAGEによる移動パターンに変化が見られた事から、LAMになんらかの構造変化が起きていると考えられた(図2)。すなわちこの遺伝子産物はLM/LAMの合成に何らかの形で関与していると考えられた。LAMに構造変化が起きる事によって、LAMの免疫抑制活性が失われる可能性が考えられる。よって、Rv2181とそのホモログは有効な薬剤開発のターゲットと考えられる。
【0029】
Rv2673については、これまでM. smegmatisを用いた遺伝子欠損株の作成を試みたが成功していない。全ゲノム的な解析によって、M. tuberculosisにおいては、この遺伝子の欠損が致死である可能性が示唆されている(Sassetti, C. M., Boyd, D. H., and Rubin, E. J. (2003) Mol Microbiol 48, 77-84)。イノシトールの生合成に関与する酵素を欠損した株の詳細な解析によって、PIMが生存に必須である事が示唆されているので(Haites, R. E., Morita, Y. S., McConville, M. J., and Billman-Jacobe, H. (2005) J Biol Chem 280, 10981-10987)、Rv2673については、LAMの生合成の前段階であるPIMの生合成に関与していると予想される。すなわちこの酵素の欠損によって、LAMのみならず、その前駆体であるLMやPIMをも合成できず、その結果として致死となっていると考えられる。別の可能性としては、この遺伝子産物はPIMではなくLM/LAMの合成に関与している糖転移酵素であるが、その特異的な欠損によって細胞壁の構造を保つことが出来ず致死となっている可能性も考えられる。いずれの可能性においても、Rv2673とそのホモログは、有効な薬剤開発のターゲットと考える事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】M. smegmatisの野生株とRv0051遺伝子欠損株についての電気泳動(左)及び薄層クロマトグラフィー(右)の結果を示す。
【図2】M. smegmatisの野生株とRv2181遺伝子欠損株についての電気泳動の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗酸菌のLM及び/又はLAM生合成を阻害する物質をスクリーニングするためのRv0051遺伝子及び/又はRv2181遺伝子あるいはその発現産物であるポリペプチドの使用。
【請求項2】
Rv0051及び/又はRv2181遺伝子が、配列番号1〜6のいずれかの塩基配列を有する遺伝子である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
抗酸菌のPIM、LM及びLAMからなる群から選ばれる少なくとも1種の生合成を阻害する物質をスクリーニングするためのRv2673遺伝子あるいはその発現産物であるポリペプチドの使用。
【請求項4】
Rv2673遺伝子が、配列番号7〜9のいずれかの塩基配列を有する遺伝子である、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
Rv0051遺伝子、Rv2181遺伝子およびRv2673遺伝子からなる群から選ばれるいずれかの発現産物である抗酸菌由来の酵素と被験物質を共存させ、該酵素活性を低下させる物質を選別することを特徴とする、抗酸菌に有効な抗菌剤のスクリーニング方法。
【請求項6】
Rv0051遺伝子、Rv2181遺伝子およびRv2673遺伝子からなる群から選ばれるいずれかの遺伝子のプロモーターにレポーター遺伝子を連結し、該レポーター遺伝子を組み込んだ抗酸菌と被験物質を共存させ、該レポーター遺伝子の発現量を低下させる物質を選別することを特徴とする、抗酸菌に有効な抗菌剤のスクリーニング方法。
【請求項7】
Rv0051遺伝子、Rv2181遺伝子およびRv2673遺伝子が、配列番号1〜9のいずれかの塩基配列を有する遺伝子である、請求項5または6に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−185163(P2007−185163A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−7299(P2006−7299)
【出願日】平成18年1月16日(2006.1.16)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】