説明

抗CD16結合分子

本発明は、ナチュラルキラー(NK)細胞およびマクロファージの表面上に発現しているヒトFcガンマIII受容体(すなわち、FcγRIIIA)に特異的に結合する結合分子、特に、特異的にA型FcγRIIIに結合するがB型FcγRIIIに結合しない結合分子、ならびに診断の診断および治療におけるこのような結合分子の使用に関する。本発明は、更にこのような結合分子をコードするポリヌクレオチド、このようなポリヌクレオチドを含有する宿主細胞、およびこのような宿主細胞を用いる本発明の結合分子の製造方法まで拡張される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナチュラルキラー(NK)細胞およびマクロファージの表面上に発現しているヒトFcガンマIII受容体(すなわち、FcγRIIIA)に特異的に結合する結合分子、特に、特異的にA型FcγRIIIに結合するがB型FcγRIIIに結合しない結合分子、ならびに疾患の診断および治療におけるこのような結合分子の使用に関する。本発明は、更にこのような結合分子をコードするポリヌクレオチド、このようなポリヌクレオチドを含有する宿主細胞、およびこのような宿主細胞を用いる本発明の結合分子の製造方法まで拡張される。
【背景技術】
【0002】
抗体依存性細胞障害活性(ADCC)に関与することが知られているいくつかのIgGのFc部の低親和性受容体、CD16(FcγRIIIとしても知られる)は、NK細胞による標的細胞の溶解の誘発に関与する、最も特徴付けられた膜受容体である(Mandelboimら,1999,PNAS 96:5640−5644)。ヒトNK細胞は、全リンパ球の約15%を構成し、また、表現型上は、そのCD56の発現とCD3発現の欠如とにより特徴付けられる(RobertsonおよびRitz,1990,Blood 76:2421−2438)。ヒトNK細胞の多く(約90%)は、CD56を低密度で発現し(CD56dim)、FcγRIII(CD16)を高レベルで発現する(Cooperら,2001,Trends Immunol.22:633−640)。ヒトFcγRIIIは、2つのアイソフォーム、FcγRIIIAおよびFcγRIIIB、として存在し、これらは、その細胞外の免疫グロブリン結合領域において96%の配列同一性を有する(van de WinkelおよびCapel,1993,Immunol.Today 14(5):215−221)。
【0003】
FcγRIIIAは、マクロファージ、マスト細胞、およびNK細胞上で、膜貫通型受容体として発現する。NK細胞上では、FcγRIIIAのアルファー鎖は、FcεRIγ鎖および/またはT−細胞受容体(TCR)/CD3ζ鎖を含有する免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)に結合し、シグナル伝達を媒介する(Wirthmuellerら,1992,J.Exp.Med.175:1381−1390)。FcγRIIIAの、異なる組み合わせのγおよびζ鎖のホモおよびヘテロ−ダイマーとの相互作用が、NK細胞において観察され、NK細胞における、種々のFcγRIIIA複合体を介する異なるシグナル伝達経路の可能性が示されている(Andersonら,1990、PNAS 87(6):2274−2278;Ackerlyら,1992、Int.J.Cancer Suppl.7:11−14)。
【0004】
FcγRIIIBは、多型核顆粒球(PMN)上に、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー型受容体(FcγRIIIBアイソフォーム)として存在し、これは腫瘍細胞の殺滅を引き起こすことができない(van de WinkelおよびCapel,1993,上掲)。さらに、FcγRIIIBは血清中で可溶性受容体として存在し、抗体への結合に基づいて、生体内で免疫複合体の形成を介して副作用を引き起こす。
【0005】
FcγR発現エフェクター細胞は、ADCCを介して腫瘍細胞の破壊に関与することが示されている。このことは、FcγR活性の使用を含む、がんの治療への、いくつかの免疫治療のアプローチの開発を導いた。例えば、腫瘍特異的モノクローナル抗体はFcγRへの結合によって誘導されたADCCによる腫瘍細胞の破壊を介在し得、また、腫瘍細胞への一方の特異性と顆粒球上のFcγRIまたはNK細胞上のFcγRIIIのいずれかへの他方の特異性とを有する二特異性分子もまたエフェクター細胞動員を改善するために開発が行われている(van Sprielら,2000 Immunol.Today,21:391−397)。
【0006】
自然免疫の細胞性のメディエーターでとして、NK細胞は、専門の細胞キラーであり、T細胞とは異なり、恒常的に、付加的な(予備)刺激を必要としない活性化状態で存在する傾向がある。対照的に、静止している細胞傷害性のT−細胞は、抗原−MHC複合体の結合を介する活性化と、それに続くCD28を介する副刺激を必要とする。したがって、免疫エフェクター細胞の中で、NK細胞は、免疫治療における使用の、より魅力的な候補の一つであり、CD16(FcγRIII)とHER−2/neuとに、またはCD16とCD30とに特異的な二特異性抗体が開発されている(Arndtら,1999 Blood 94:2562−2568;McCallら,2001 J.Immunol.166:6112−6117)。
【0007】
今日まで生産されてきた抗−CD16抗体の多くは、2つのCD16アイソフォーム(FcγRIIIAおよびFcγRIIIB)を区別できず、例外は、モノクローナル抗体(MAb)1D3(これは好中球上で発現するフォームのCD16、すなわちFcγRIIIB、のみを認識する)、および異なるアロタイプの型のFcγRIIIBを認識するモノクローナル抗体である。(Oryら,1989、J.Clin.Invest.83:1676−81;Huizingaら,1990 Blood 75:213−7;Tamm&Schmidt 1996、J.Immunol.1996 157:1576−1581)。しかし、これまで、特異的に、NK細胞上で発現するFcγRIIIAには結合し、FcγRIIIBには結合しない分子の例は無かった。
【発明の開示】
【0008】
しかしながら,FcγRIIIAに特異的な抗体は、主にNK細胞を集め、循環する可溶性のFcγRIIIBには結合せず、好中球または活性化された好酸球への結合によってNK細胞結合からそれないので、疾患関連細胞に対する二または多特異性結合分子のコンポーネントとして、特に有用である。FcγRIIIA特異的抗体は、NK細胞に結合するだけでなく、結合によってそれらを活性化し、NK細胞の殺滅を効果的に媒介する。
【0009】
我々はいくつかの新たな抗CD16scFvを同定した。これらは、有用な性質を示す。すなわち、これらは、FcγRIIIAに特異的であり、FcγRIIIBに特異的に結合せず、またNK細胞を結合によって活性化できる。
FcγRIIIAは、特にIgG結合ドメインの48位および158位において、いくつかの対立遺伝子多型を示すことが知られている。前記の抗CD16抗体は、異なるFcγRIIIAの多型フォームに異なる親和性で結合することが示され、Koeneらの研究(1997、Blood 90:1109−1114)は、これらの抗体のうちのいくつかの結合の違いの原因は158位での多型であるとしている。FcγRIIIA158FアレルおよびFcγRIIIA158Vアレルの遺伝子頻度は、それぞれ約0.6および0.4であるので、任意のCD16A抗体について、両方のアレル型を認識することは、あらゆる患者において、抗CD16A 抗体がNK細胞集団に結合し活性化することを確実にする。
【0010】
本明細書中、抗CD16A scFvは、FcγRIIIA158VおよびFcγRIIIA158Fをほぼ同じ親和性で認識するが、FcγRIIIBには結合しない。
【0011】
本明細書に記載の新規なscFvは前記のように新規な結合分子を生産するために用いることができ、これは治療剤として用いることができる。本明細書中、「結合分子」なる語は、抗体およびその抗原結合断片(当該抗体およびその抗原結合断片は、FcγRIIIAに選択的または特異的に結合し、FcγRIIIBに特異的に結合しない)、並びにこのような抗体または抗原結合断片、およびこのような抗体または抗原結合断片を含有するタンパク質複合体を包含する。
【0012】
したがって、本発明の第一の態様によれば、少なくとも1つの抗原への特異性を有する結合分子(当該少なくとも1つの抗原はFcγRIIIAであり、当該結合分子は特異的にFcγRIIIBに結合しない)が提供される。
好ましい実施態様において、FcγRIIIAに対する特異性は、抗体またはその抗原結合断片によって与えられる。したがって、本発明の結合分子は、FcγRIIIAに特異性を有するが、FcγRIIIBに特異性を有さない、少なくとも一つの抗体(またはその抗原結合断片)を含有するか、ある実施態様においては、少なくとも一つの抗体(またはその抗原結合断片)からなる。
【0013】
FcγRIIIAへの特異性を与える抗体は、自然に存在する抗体であっても、組み換え抗体であってもよい。本発明の抗体は、いかなる免疫グロブリンクラスのものであってもよい(例えば、IgA、IgD、IgE、IgG、またはIgM抗体であってよい)。好ましくは、当該抗体は、IgG抗体である。本発明の使用に適当な抗原結合断片は、自然に存在するものでも組み替え体であってもよく、免疫グロブリン軽鎖、免疫グロブリン重鎖、Vドメイン、Vドメイン、Fv、一本鎖抗体(scFvを包含する)、Fab、di−Fab、Fab’、F(ab’)、およびCDRを包含する。当業者は、このような抗原結合断片およびその調製に精通しているであろう。疑義を避けるためであるが、本明細書中で用いられる一本鎖抗体なる用語は、軽鎖の可変領域および重鎖の可変領域を含有し、適当な柔軟性のあるポリペプチドリンカーが連結している、遺伝子操作された一本鎖分子をいう。
【0014】
ある実施態様においてはFcγRIIIAへの特異性を与える抗体または抗原結合断片は、少なくとも1つのヒトCDR(好ましくは下記の表1に記載のCDRから選択される)を含有する。
表1 選択的および特異的にFcγRIIIAに結合し、FcγRIIIBに選択的に結合しないscFvに由来するヒト軽鎖および重鎖のアミノ酸配列
【0015】
【表1】

【0016】
当業者は、単独CDRを例外として、前記抗体および抗原結合断片が、通常、3つの軽鎖CDRおよび/または3つの重鎖CDRを構成することを理解するであろう。更なる実施態様によれば、FcγRIIIAに対する特異性を有する前記抗体または抗原結合断片は、3つのヒトの軽鎖CDRおよび/または3つのヒト重鎖CDRを含有する。好ましくは、ヒト軽鎖CDR1は配列番号20、配列番号23、配列番号26、配列番号29、配列番号33および配列番号34から選択されるアミノ酸配列を有し、ヒト軽鎖CDR2は配列番号21、配列番号24、配列番号27、配列番号30、配列番号31および配列番号35から選択されるアミノ酸配列を有し、ならびにヒト軽鎖CDR3は、配列番号22、配列番号25、配列番号28および配列番号32から選択されるアミノ酸配列を有する。好ましくは、ヒト重鎖CDR1は配列番号17のアミノ酸配列を有し、ヒト重鎖CDR2は配列番号18のアミノ酸配列を有し、そしてヒト重鎖CDR3は配列番号19のアミノ酸配列を有する。
【0017】
前記抗体または前記抗原結合断片は、軽鎖の可変領域を含有するか、またはそれからなるが、下記のアミノ酸配列の1つを有していてよい。
【0018】
配列番号10:syelmqppsvsvssgqtasipcsgdkleekyvswyqqrpgqspvlviyqdnkrpsgiperfsgsnsgntatltisgtqamdeadyycqvwdnysvlfgggtkltvl;
【0019】
配列番号11:syeltqplsesvaqgqtaritcggnniesrnvhwyqqkpgqapvlviyrdnnrpsgiperfsgsnsgnmatltisraqagdaadyycqvwdnytvlfgggtkltvl;
【0020】
配列番号12:
syeltqppsvavapgktaritcggnnigsknvhwyqqkpgqapvlviyrdsnrpsgiperfsgsnsgntatltisraqagdeadfycqvwdnyivlfgggtkltvl;
【0021】
配列番号13:
qavltqppsvsvapgqtaripcegnnigsknvhwyrqkpgqvpvlvmyddsdrpsgiperfsgsnsgntatltisgtqamdeadyycqvwdnysvlfgggtkltvl;
【0022】
配列番号14:
qpvltqplsvsvapgqtaritcggnnigsknvhwyqqkpgqapvlviyrdssrpsgiperlsgsnsgdtatltisraqagdeadyycqvwddyivvfgggtkltvl;
【0023】
配列番号15:
syeltqppsvsvtpgqtatitcgandigkrnvhwyqqrpgqspvlviyqdnkrpsgiperfsgsnsgntatltisgtqamdeadyycqvwdnysvlfgggtkltvl;
【0024】
配列番号16:
qpvltqpssvsvapgqtatiscgghnigsknvhwyqqrpgqspvlviyqdnkrpsgiperfsgsnsgntatltisgtqamdeadyycqvwdnysvlfgggtkltvl.
【0025】
前記抗体または前記抗原結合断片は、重鎖の可変領域を含有するか、またはそれからなるが、下記のアミノ酸配列(配列番号9):evqlvqsgaevkkpgeslkvsckasgytftsyymhwvrqapgqglewmgiinpsggstsyaqkfqgrvtmtrdtststvymelsslrsedtavyycargsayyydfadywgqgtlvtvss
を有していてよい。
【0026】
好ましい実施態様においては、FcγRIIIAへの特異性を与える前記抗体または前記抗原結合断片は、完全ヒト型である。
【0027】
更なる好ましい実施態様においては、本発明の結合分子は、FcγRIIIAを発現しているヒト細胞を、このような細胞上に発現しているFcγRIIIAへの結合に基づいて、活性化できる。すなわち、結合分子は、FcγRIIIAへの結合に基づいて、生物学的応答(特に、シグナル応答)の誘発を可能にしている。好ましくは、結合分子は、このような細胞への結合によって 抗体依存性細胞障害作用(ADCC)と類似の方法で、細胞殺滅を引き起こすこともできる。
【0028】
本発明の結合分子がFcγRIIIAを発現しているヒト細胞を活性化することができるかどうかを試験するため、例えば本明細書の実施例に記載のように、末梢血NK細胞におけるカルシウム動因を誘発する能力を試験できる。NK細胞媒介細胞傷害性を引き起こす本発明の結合分子の能力は、また本明細書に記載の実施例のように、新たに単離されたNK細胞を用いた、リダイレクテッド細胞溶解(re-directed cell lysis)を検出するカルセイン放出分析を用いて試験できる。
【0029】
本発明はまた、FcγRIIIAに対する特異性を有し、FcγRIIIBに対する特異性を欠くだけでなく、1以上の更なる抗原への特異性も有する 、結合分子も提供する。したがって、本発明の結合分子は、多特異性である。本明細書で用いられる「多特異性」なる用語は、本発明の結合分子が、FcγRIIIBに対する特異性を欠く一方で、少なくとも2つの特異性を有し、その1つはFcγRIIIAに対するものであることを意味する。したがって、本発明の多特異性結合分子は、例えば、一本鎖のダイアボディ(diabody)、(scFv)2、タンデムの二特異性抗体(TandAb)、トリボディ(tri-body)(三特異性抗体)、テトラボディ(tetrabody)(四特異性抗体)およびフレクシボディ(flexibody)のような、二特異性、三特異性、および四特異性分子を少なくとも包含する(Le Gallら,1999、FEBS Letts 453:164−168およびWO03/025018を参照)。
【0030】
それらの多特異性によって、本発明のこの態様の結合分子は、マクロファージまたはNK細胞を、更なる抗原またはこのような抗原を有する細胞へ向けさせ、それによって当該抗原または抗原を有する細胞を貪食作用またはNK細胞媒介細胞殺滅によって絶滅させうる。例えば、本発明の結合分子は腫瘍特性抗原に対する更なる1以上の特異性を有しえ、これによってNK細胞を腫瘍細胞に向けうる。FcγRIIIAに結合している結合分子によって生じるNK細胞の活性化は腫瘍細胞の破壊を導く。この様式によって、本発明の結合分子を、その更なる特異性または特異性に依存して、罹患細胞および病原体(例、バクテリア、真菌類、マイコプラズマ、ウイルス、寄生体、プリオン)の治療および/または排除の目的で用いることができる。
【0031】
したがって、本発明の更なる態様において、前記のように本発明は、少なくとも1つの更なる抗原に対する特異性を有する結合分子を提供する。本発明のある実施態様では、少なくとも1つの更なる抗原は、細胞表面抗原である。本発明の実施態様によって結合分子が特異性を示す細胞表面抗体の例は、CD19、CD20、CD30、ラミニン受容体前駆体タンパク質(腫瘍胎児抗原未成熟ラミニン受容体OFA−iLRとしても知られる)、EGFR1(HER−1、ErbB1としても知られる)、EGFR2(HER−2、ErbB2、neuとしても知られる)、EGFR3(HER−3としても知られている)、Ep−CAM、PLAP(胎盤アルカリホスファターゼ)、トムセン−フリーデンライヒ(TF)抗原、MUC−1(ムチン)、IGFR、IL4−Rα、IL13−R、FcεRIおよびCD5である。
【0032】
更なる実施態様においては、前記「少なくとも1つの更なる抗原」は、例えば病原体由来の抗原であり、当該抗原は宿主細胞、感染細胞、細菌、真菌類、マイコプラズマ、寄生体もしくはウイルスから分泌されるか、またはそれらの外表面上に発現されたものでもよく、あるいはこのような病原体の溶解に基づいて放出されたものでもよい。例えば、本発明の結合分子は、CMV感染細胞表面上のgp34もしくはgp68のようなウイルスタンパク質、またはインフルエンザウィルスの存在に基づく赤血球凝集素に対して更なる特異性を有してもよく、それによってウイルス感染細胞を標的とするか、または直接的にウイルスを標的とすることができる。その代わりに、病原体がプリオンである場合、プリオンタンパク質自体が抗原となりうる。
【0033】
更なる実施態様においては、少なくとも1つの更なる抗原は、アレルゲンであるか、または循環IgEまたは(特に)肥満細胞上のFcεRI受容体のような、アレルゲンに対する身体の応答に関与する分子である。
【0034】
好ましくは、本発明の本態様の結合成分においては、前記少なくとも1つの更なる抗原に対する特異性は、抗体またはその抗原結合断片によって与えられる。前記のように、当業者は、抗体の型(IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM)、およびこのような抗体に由来する抗原結合断片(例えば、免疫グロブリンL鎖、免疫グロブリンH鎖、Vドメイン、Vドメイン、Fv、scFv、Fab、di−Fab、Fab、F(ab’)およびCDR)に精通しており、これらもまた、本発明の本態様で用いられうる。好適な実施態様において、前記抗体はIgG抗体である。
【0035】
したがって、本発明の、多特異性の、特に二特異性の結合分子は下記のフォーマットのいずれかを有する:二特異性IgG、IgG−scFv、(scFv)−IgG、(Fab’)、(scFv)、(dsFv)、Fab−scFv融合タンパク質、(Fab−scFv)、(scFv)−Fab、(scFv−C2−C3−scFv)、バイボディ(bibody)、トリボディ(tribody)、二特異性ダイアボディ、ジスフィルド安定化(ds)ダイアボディ、ノブ・イントゥ・ホール ダイアボディ(‘knob−into−whole’ diabody)、一本鎖ダイアボディ(scDb)、タンデムダイアボディ(TandAb)、フレクシボディ、DiBi ミニ抗体(miniantibody)、[(scFv)−Fc]、(scDb−C3)、(scDb−Fc)、ジ−ダイアボディ(Di−diabody)、Tandemab(KipriyanovおよびLe Gall,2004,Curr.Opin.Drug Discov.Devel.,7:233−242、ならびにMarvinおよびZhu,2005,Acta Pharmacol.Sin.,26:649−658でレビューされている)。好適な実施態様においては、結合分子はTandAbまたはフレクシボディである。他の多くの二特異性抗体フォーマットとは異なり、TandAbは抗体可変領域のみを含有するホモダイマーであり、そのフォーメーションは異なるポリペプチド鎖上に位置するs相補的VおよびV領域の会合によって決定される。TandAbはダイアボディおよび(scFv)の2倍のサイズであり、二価的にエフェクターと標的細胞との両方に結合でき、例えばダイアボディーおよび(scFv)に対して、改善された薬物動態学的特徴を有し、例えば、インビトロおよびインビボの両方において、より高い安定性および促進された生物学的活性を有する(Kipriyanovら.,1999,J.Mol.Biol.,293:41−56;Cochloviusら,2000,Cancer Res.,60:4336−4341;Reuschら,2004,Int.J.Cancer,112:509−518)。同じ特異性を有する同属のVおよびV領域の分子間鎖の対合は、二特異性scFv−ダイアボディ−scFvタンデム分子(いわゆる、“フレクシボディ”)(AおよびBは、同一または異なる特異性を有してよい)の形成にも用いられうる。分子間鎖の対合に関係する相補領域の会合の厳格さおよびそれらを分けるリンカーの長さに依存して、二特異性一本鎖分子の2量体、3量体、および更に4量体が形成されうる。
本発明の本実施態様で用いられ、CD19、CD20、CD30、ラミニン受容体前駆タンパク質、EGFR1、EGFR2、EGFR3、Ep−CAM、PLAP、トムセン−フリーデンライヒ(TF)抗原、MUC−1(ムチン)、IGFR、CD5、IL4−Rアルファー、IL13−R、FcεRIおよびIgEに対する特異性を示す抗体および抗体結合断片の例は、病原体に対する抗体として、公知文献に記載されている(例えば、EP−A−1314741、Reffら,1994 Blood 83:435−445、EP−A−1005870、WO01/92340、US6,033,876、WO86/03223、Butoら,1997 Int.J.Biol.Markers 12:1−5、US6,699,473、WO98/50433、US5,770195、EP−A−0502812、Carterら,1992 PNAS 89:4285−4289、US 5,968,511、WO 04/106383、Nouriら,2000 BJU Int.86:894−900、EP−A−0429242、Ravnら,2004 J.Mol.Biol.343:985−996、Dahlenborgら,1997 Int.J.Cancer 70:63−71、WO88/05054、WO02/053596、WO04/071529、Studnickaら,1994 Protein Eng.7:805−814、Prestaら,1993 J.Immunol.151:2623−2632を参照)。これらの引用文献は、このような抗体または抗原結合断片のアミノ酸配列またはそれらをコードする核酸配列を提供するところ、当業者は本発明の結合分子の生産に直接的にこのような配列を直接利用することができる。これらの引用文献は、このような抗体または抗原結合断片を産生するハイブリドーマまたはセルラインを開示するところ、当業者は、標準的な分子生物学の技術を用いて、適当なハイブリドーマまたはセルラインから,所望する抗体または抗原結合断片をコードする核酸配列を得ることができ、いったん得られた核酸配列は、本発明の結合分子の構築に用いることができる。
本発明の更なる態様は、FcγRIIIA158FアレルおよびFcγRIIIA158Vアレルにほぼ同じ親和性で結合可能な、前記の態様のいずれか1つ記載の結合分子を提供する。すなわち、FcγRIIIAの2つの158アレルに対する前記結合因子の親和性の違いは2倍以下である。本発明の本態様にしたがった好適な具体例において、FcγRIIIAに対する特異性は、本明細書に記載の4−LS21 scFv由来の抗体または抗原結合断片によって与えられる。本発明のこの態様に従った好ましい実施態様では、FcγRIIIAに対する特異性は、本明細書中に記載の、4−LS21 scFvに由来する抗体または抗原結合断片によって与えられる。特に好ましい実施態様においては、本発明の当該態様に従った結合分子は、TandAb型であり、本明細書中に記載の4−LS21 scFvに由来する抗原結合断片およびCD19またはCD30に対する特異性を有する抗原結合断片を含有する。
【0036】
当業者は、本発明の結合分子が人の治療で使われることが意図されるところにおいて、結合分子の潜在的な免疫原性は最小にされるべきであることを理解するであろう。したがって、FcγRIIIAおよび/または更なる抗原に対する特異性は、抗体または抗原結合断片によって与えられるところ、抗体または抗原結合断片は、キメラ、CDR移植ヒト化、または完全ヒト型であることが好ましい。より好ましくは、抗体または抗原結合断片は、ヒト化または完全ヒト型である。抗体のヒト化を実行する標準的な分子生物学的技術の使用は、現在では、当該技術分野においてはルーチン的なものであり、非ヒト抗体配列を用いて提供され、当業者が容易にこのような抗体のヒト化変種を製造することができる。本明細書で用いられる「完全ヒト型」なる用語は、それが抗体または抗原結合断片に関する限りにおいて、抗体または抗原結合断片のアミノ酸配列がヒトから得られる(すなわち、ヒトに由来するか、またはヒトの中に見いだされうる)ことを意味する。
上記の方法に代えて、または加えて、免疫原性を減らすために用いられうるもう1つの技術が、デイムニゼーション(deimmunisation)の技術である。デイムニゼーション技術は、抗体および他のタンパク質生物学治療剤からの、Tヘルパー(Th)細胞エピトープの同定と分離を伴う。Th細胞エピトープは、MHCクラスII抗原に結合する能力を有する、タンパク質の中の短いペプチド配列を含有する。ペプチド−MHCクラスII複合剤はT細胞によって識別されることができ、そしてTh細胞の賦活化と分化も引き起こすことができ、これは、B細胞との相互作用を介する免疫原性の獲得と維持に必要とされ、投与された生物学的治療剤に特異的に結合する抗体の分泌物をもたらす。抗体デイムニゼーションの目的で、Th−細胞エピトープは、例えばペプチドのヒトMHCクラスII抗原への結合を予測するコンピューターに基づく方法によって抗体配列の中で識別される(Altuviaら,1995,J.Mol.Biol.,249:244−2450,およびSchueler−Furmanら,2000,Protein Sci.,9:1838−1846を参照)。T細胞による認識を避けるために、このようにして同定されたTh細胞エピトープは、アミノ酸置換によってタンパク配列から排除される。これは、例えば、治療用タンパク質におけるTh細胞エピトープをコードする核酸配列を改変する部位特異的突然変異誘発法のような標準的な分子生物学テクニックの使用を通じて達成できる。このようにして、HAMA(ヒトの抗マウス抗原性)および/または抗イディオタイプ応答が抑制または回避されるように、抗体または抗原結合断片を修飾できる(Banderら,2003,Semin.Oncol.,30:667−676;Nanusら,2003,J.Urol.,170:S84−S89)。このように、更なる実施態様では、本発明の結合分子は、修飾されて、それらの配列に存在しているTh細胞エピトープが除去されている。本明細書中、このような結合分子を、デイムナイズされた結合分子と称する。
【0037】
更なる態様においては、本発明の結合分子は、更なる機能的領域を含有する。この機能的領域が結合分子にエフェクター特性を与えることができる。例えば、機能的領域は、FcR結合ペプチドまたは抗体のFc領域であってもよく、それらは、それらのFc受容体結合能を通じて、結合分子にエフェクター特性を与える。代わりに、当該機能的領域はプロドラッグを活性薬物に変換できる酵素であってもよい。このようにして、本発明の結合分子を、抗体依存性酵素プロドラッグ療法(ADEPT)に用いることができる。更なる実施態様では、機能的領域は、結合分子の血清半減期を増加させるタンパク質またはペプチドである。このようなタンパク質の例は、FcγRn(新生児のFc受容体)への結合能によって、結合分子の血清半減期を増加させられる結成アルブミンまたはIgGのFc部である。更なる実施態様では、機能的領域はサイトカインであってもよい。
更なる態様では、本発明の結合分子を、標識分子、あるいは毒素に結合させることができる。標識分子または毒素がタンパク質である場合、結合分子への結合は、ペプチド結合または化学的結合によって生じさせうる。したがって、本発明の当該態様によれば、結合分子は、標識分子または毒素が、ペプチド結合、好ましくはペプチドリンカーによって結合分子に連結された融合タンパク質の形態であるか、または化学的複合体の形態であってもよい。疑義の回避のためであるが、本明細書中、複合体なる用語は、2つのコンポーネントが、ペプチド結合(したがって、複合体は融合タンパク質を包含する)、化学結合、エステル結合、またはジスルフィド架橋によって物理的に連結されていることを意味するために用いられる。
放射能標識または螢光もしくは発光標識(化学発光を含む)のような標識分子への本発明の結合分子の結合は、当該結合分子が免疫学的染色試薬として使われることを可能にする。このような試薬は、例えば、FcγRIIIAを発現している組織潜入NK細胞、マクロファージ、またはマスト細胞の検出に、あるいは当該結合分子が更なる抗原に特異性を示す場合は、NK細胞−結合分子−更なる抗原の複合体の検出に用いられうる。後者の検出は、疾患の診断、または疾患の進行もしくは寛解のモニタリングにおいて、特に有用たりうる。
【0038】
本発明の結合分子が、リボシル転移酵素、セリンプロテアーゼ、グアニルシクラーゼアクティベーター、カルモジュリン依存アデニルシクラーゼ、リボ核酸酵素、DNAアルキル化剤または有糸分裂抑制剤(例えばドキソルビシン)等のような毒素分子に連結されている場合、当該結合分子は、NK細胞と大型食細胞をターゲットにして、破壊させるために用いることができる。従って、このような結合分子は免疫抑制薬として使用できる。当業者は、本発明の当該態様において、結合分子がただ1つの抗原、すなわちFcγRIIIAのみに対して特異性を示すことが好ましいことを理解するであろう。免疫系の抑制は、選択的および特異的にFcγRIIIAに結合する一価抗原結合断片を含有するか、またはそれからなる結合分子の使用によっても達成されうる。このような一価の結合分子は、FcγRIIIA受容体をブロックする分子として作用し、架橋されず、これによってNK細胞またはマクロファージを活性化しないので、好ましい。好ましい一価の抗FcγRIIIA抗体フラグメントは、scFv、Fab、V、VおよびCDRを包含する。
【0039】
当業者は、化学的連結を介する標識分子または毒素の付加の代わりに、ペプチド標識またはペプチド毒度もまた用いることができることを理解するであろう。例えば、本発明の結合分子は、テトラ−、ペンタ−、もしくはヘキサ−ヒスチジン・タグ、またはc−mycタグ等のようなN−またはC−末ペプチド・タグとの融合タンパク質として発現してもよい。
本発明の結合分子は、任意の適当なタンパク質発現系における、それらをコードする核酸の発現によって生産されてもよい。したがって、更なる態様においては、本発明は、本発明の結合分子をコードするポリヌクレオチドを提供する。本発明の当該態様における使用に特に適当なポリヌクレオチドは、前記表1に記載のCDRをコードする。特に、表1の軽鎖および重鎖CDRのアミノ酸配列を手に入れた当業者は、下記の核酸配列から,様々な軽鎖および重鎖CDRをコードするポリヌクレオチド配列を得ることができるだろう。
【0040】
配列番号1:
gaggtccagctggtacagtctggagcagaggtgaaaaagcccggggagtctctgaaggtttcctgcaaggcatctggatacaccttcaccagctactatatgcactgggtgcgacaggcccctggacaagggcttgagtggatgggaataatcaaccctagtggtggtagcacaagctacgcacagaagttccagggcagagtcaccatgacccgggacacgtccacgagcacagtctacatggagcttagcagcctgagatctgaggacacggccgtgtattactgtgctagaggtagtgcttattactacgattttgctgactactggggccagggaaccctggtcaccgtctcctca;
【0041】
配列番号2:
tcctatgagctgatgcagccaccctcagtgtccgtgtcctcaggacagacagccagcatcccctgctctggagataaattggaggaaaaatatgtttcctggtatcaacagaggccaggccagtcccctgtgttggtcatttatcaggataataagcggccctcagggatccctgagcgattctctggctccaactctgggaacacagccactctgaccatcagcgggacccaggcgatggatgaggctgactactattgtcaggtgtgggacaattacagtgtgctattcggcggagggaccaagctgaccgtccta
【0042】
配列番号3:
tcctatgagctgacacagccactctcagagtcagtggcccagggacagacggccaggattacctgtgggggaaacaacattgaaagtagaaatgttcactggtaccagcagaagccaggccaggcccctgtgttggtcatctatagggataacaaccggccctctgggatccctgagcgattctctggctccaattcggggaacatggccaccctgaccatcagcagagcccaagccggggatgcagctgactattactgtcaggtgtgggacaactacactgtgctattcggcggagggaccaagctgaccgtccta
【0043】
配列番号4:
tcctatgagctgacacagccaccctcagtggcagtggccccaggaaagacggccaggattacctgtgggggaaacaacattggaagtaaaaatgtgcactggtaccagcagaagccaggccaggcccctgtgctggtcatctatagggatagcaaccggccctctgggatccctgagcgattctctggctccaactcggggaacacggccaccctgaccatcagcagagcccaagccggggatgaggctgacttttattgtcaggtgtgggacaactatattgtgctgttcggcggagggaccaagctgaccgtcctg
【0044】
配列番号5:
caggctgtgctgactcagccgccctcagtgtcagtggccccaggacagacggccaggattccctgtgagggaaacaacattggaagtaaaaatgtccactggtatcggcagaagccaggccaggtccctgtcctggtcatgtatgatgatagcgaccggccctcagggatccctgagcgattctctggctccaactctgggaacacagccactctgaccatcagcgggacccaggcgatggatgaggctgactactattgtcaggtgtgggacaattacagtgtgctattcggcggagggaccaagctgaccgtccta
【0045】
配列番号6:
cagcctgtgctgactcagccactctcagtgtcagtggccccgggacagacggccaggattacctgtgggggaaacaacattggaagtaaaaatgtgcactggtaccagcagaagccaggccaggcccctgtactggtcatctatagggacagcagccggccctctgggatccctgagcgactctctggctccaactcgggggacacggccaccctgaccatcagcagagcccaggccggggatgaggctgactattactgtcaggtgtgggacgactacattgtggtcttcggcggagggaccaagctgaccgtccta
【0046】
配列番号7:
tcctatgagctgacacagccaccctcggtgtcagtgaccccaggacagacggccacgattacctgcggggcaaacgacattggaaaaagaaatgtccactggtaccaacagaggccaggccagtcccctgtgttggtcatttatcaggataataagcggccctcagggatccctgagcgattctctggctccaactctgggaacacagccactctgaccatcagcgggacccaggcgatggatgaggctgactactattgtcaggtgtgggacaattacagtgtgctattcggcggagggaccaagctgaccgtccta
【0047】
配列番号8:
cagcctgtgctgactcagccatcctcggtgtcagtggccccaggacagacggccacgatctcctgtgggggacacaacattgggagtaaaaatgtgcactggtaccagcagaggccaggccagtcccctgtgttggtcatttatcaggataataagcggccctcagggatccctgagcgattctctggctccaactctgggaacacagccactctgaccatcagcgggacccaggcgatggatgaggctgactactattgtcaggtgtgggacaattacagtgtgctattcggcggagggaccaagctgaccgtccta
【0048】
配列番号1は、FcγRIIIAに選択的および特異的に結合するがFcγRIIIBに特異的に結合しないヒトscFvに由来する重鎖可変領域をコードする。配列番号2〜8は、FcγRIIIAに選択的および特異的に結合するがFcγRIIIBに特異的に結合しないヒトscFvに由来する軽鎖可変領域をコードする。したがって、配列番号1〜8は、また本発明のポリヌクレオチドの例であり、本発明の更なる結合分子の生産に用いることができる。
【0049】
本発明の、多特性結合分子、特に二特異性結合分子、をコードするポリヌクレオチドは、FcγRIIIAに選択的および特異的に結合するがFcγRIIIBに特異的に結合しない抗体のVおよびV領域をコードする核酸配列を、更なる抗原に対する特異性を有する抗体のVおよびV領域をコードする核酸配列と組み合わせて用いて、WO03/025018に記載の方法で構築することができる。
【0050】
適当なタンパク質発現系で結合分子を発現させるため、当該結合分子をコードするポリヌクレオチドを適当なプロモーター、および所望による適当な転写ターミネーターに、作動可能に連結する。これは、本発明のポリヌクレオチドを宿主のゲノムに導入し、ゲノムに存在するプロモーターを利用して当該ポリヌクレオチドの発現を促進することによって、達成できる。別法として、本発明のポリヌクレオチドを、作動可能にプロモーターおよび所望によるターミネーター領域に連結したベクター上で、宿主細胞に導入してもよい。
【0051】
一般に、結合分子をコードするポリヌクレオチドを作動可能に連結するベクター中のプロモーターは、当該ポリヌクレオチドおよびベクターを導入する宿主細胞中で結合分子の発現の促進を可能にする任意のプロモーターである。したがって、結合分子が細菌細胞で発現することを所望する場合は、プロモーターは細菌細胞中で作動可能である。同様に、結合分子を真菌発現系で発現させることを所望する場合は、プロモーターは真菌細胞で作動可能であり、構築物が哺乳類細胞培養系、昆虫細胞発現系、または植物細胞発現系に導入される場合、同様のロジックが適用される。本発明のポリヌクレオチドが作動可能に適当な転写ターミネーター領域に連結される場合、これは本発明の結合分子が発言される宿主細胞における転写終結を媒介するものである。この目的に適した転写ターミネーター領域は、技術文献に開示されている。
【0052】
好ましい態様において、本発明のポリヌクレオチドはまた、作動可能にシグナル配列に連結されてもよい。これは、当該結合分子の発現を、所望する細胞の、または細胞外の部位に向けることを可能にするものである。例えば、いくつかの態様においては、結合分子は、それが発現する細胞から分泌されることが望まれうる。この場合、シグナル配列は分泌シグナルをコードする。
適当な細菌の分泌シグナルは技術文献に記載されており、そのような一例は、PelBリーダー配列である。他の態様では、例えば、真核生物での発現に関連して、結合分子の発現が小胞体(ER)で保持されることが望まれうる。この場合、シグナル配列は“KDEL”(配列番号54)モチーフ、特に“SEKDEL”(配列番号55)コードする配列をコードするER保留シグナルを含有する。
本発明のポリヌクレオチドはまた、選択された特定の発現宿主に適合するように変更されたコドンバイアスを用いて、当該技術分野で容易に利用可能な方法に従って最適化された、コドンであってもよい。
【0053】
本発明のポリヌクレオチドおよびベクターは、適当な方法論を用いて宿主細胞に導入することができる。真核細胞では、このような技術としては、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン、エレクトロポレーション法、微粒子銃、リポソーム媒介トランスフェクション、またはレトロウイルス、アデノウイルスまたはその他のウイルス(例えば、小痘瘡、または昆虫細胞についてはバキュロウィルス)を用いた形質導入が挙げられる。
細菌細胞では、適当な技術としては、塩化カルシウム形質転換、エレクトロポレーション法、またはバクテリオファージを使ったトランスフェクションが挙げられる。植物細胞では、形質転換される特定の植物種に依存して、アグロバクテリア媒介形質転換、エレクトロポレーション法、植物細胞およびプロトプラストの微量注射、微粒子銃、細菌ボンバートメント(特に、「ファイバー」法または「ウィスカー」法)が挙げられる。したがって、更なる態様では、本発明は、本発明のポリヌクレオチドまたはベクターを含有する宿主細胞を提供する。したがって、下記の生物体に由来し、本発明のポリヌクレオチドまたはベクターを含有する宿主細胞は、当該態様の具体例であると考えられる。
【0054】
本発明の結合分子の発現のための適当な発現系としては、微生物発現系(例、イー・コリ(E.coli)、バシラス(Bacillus)発現系)、および例えば酵母(例、(サッカロマイセス・セレビッシェ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、ピシア・スピーシーズ(Pichia species)、ハンゼヌラ・スピーシーズ(Hanensula species))および他の真菌発現系(例、アスパージーラス・スピーシーズ(Aspergillus species)、トリコデルマ・レーセイ(Trichoderma reesei)、およびニューロスポーラ・クラッサ(Neurospora crassa)のような糸状菌発現系、哺乳類発現系(例、CHO細胞、NS0細胞、HEK293細胞)、昆虫細胞発現系、ならびに植物発現系が挙げられる。ベニバナが植物発現系として特に好ましい。当業者は、技術文献に記載されている、これらの発現系に精通しているであろう。
【0055】
本発明はまた、本発明の結合分子の生産方法も提供する。したがって、更なる態様においては、本明細書に記載の結合分子の生産のための方法が提供される。当該方法は、本発明のポリヌクレオチドまたはベクターの宿主細胞への導入、および当該結合分子が発現する条件下での当該宿主細胞の培養を含む。宿主細胞の生育および維持、ならびにこのような宿主細胞からの本発明の結合分子の発現の媒介の条件は、技術文献に完全に記載されている。ある実施態様では、当該方法は、更に結合分子の単離、および所望により更に精製を含む。
【0056】
本発明の結合分子が、当該結合分子に化学的に結合している標識分子または毒素分子を含有する場合、当該複合化された結合分子は、本発明のポリヌクレオチドまたはベクターの宿主細胞への導入、本発明の結合分子が発現する条件下での宿主細胞の培養、結合分子の単離および単離された結合分子の適当な標識または毒素との結合によって生産できる。一般に、複合化工程は、技術文献で記述されているように、ジスルフィドまたはチオエーテル架橋をもたらすヘテロ2価架橋試薬の使用を伴う(架橋試薬の使用に関連した標準的な方法論のために、例えば、Hermanson,G.T.“BioconjugateTechniques” AcademicPress,London,1996を参照)。
【0057】
当業者は、本発明のいくつかの実施態様によって、体内の結合分子の循環半減期を増加させることが望ましい可能性があることを理解するであろう。前述のように、これは、様々な方法、例えば、アルブミン等との融合タンパク質としての結合分子の構築を通じて、達成することができる。分子の血清半減期を増加させる更なる方法は周知であり、例えば、PEG化、シアリル化、およびグリコシル化が挙げられる。したがって、本発明は、本明細書に記載の結合分子が、PEG化、シアリル化またはグリコシル化されているものを包含する。
本発明はまた、結合分子および少なくとも1つの追加成分を含有する組成物を含む。例えば、当業者は、発現後の宿主細胞からの結合分子の単離において、実質的に精製された結合分子を含有するが、不純物、希釈分、または緩衝剤等も含んでいる組成物が得られうることを理解するであろう。このような中間的組成物は、更なる使用に直接適している場合もあり、または、それから結合分子をさらに精製してもよい。
【0058】
本発明の組成物はまた、本発明の結合分子を、任意の適当な薬学的に受容できる担体、賦形剤、希釈剤および/または安定剤との組み合わせにおいて含有してもよい。このような成分は、技術文献に記載されており、当業者はそれに精通しているであろう。好ましくはこのような組成物は、対象への投与に適した任意の形態、特に、例えば注射または点滴等の適当な非経口投与に適した形態である。
【0059】
組成物が注射あるいは点滴用である場合、油性または水性のビヒクル中の懸濁液、溶液、またはエマルジョンの形態であってよく、懸濁化剤、防腐剤、安定化剤および/または分散剤のような製剤成分を含んでいてもよい。これにかえて、結合分子または組成物が適当な無菌液を用いて使用前に再形成する、乾燥形態であってもよい。
【0060】
本発明の結合分子および組成物、特に多特異性結合分子およびそれを含有する組成物は、例えば、自己免疫疾患、炎症疾患、感染症(移植片対宿主病を含む)、アレルギーおよびがん(例えば非ホジキンリンパ腫;慢性リンパ性白血病;ホジキンリンパ腫/疾病;固形腫瘍(例えば、乳がん、卵巣がん、大腸がん、腎臓のがん腫、または胆管がんで生じているもの);微小残存病変;転移性腫瘍(例えば、肺、骨、肝臓または脳内で転移しているもの)等の疾患の診断および/または治療に用いることができる。
【0061】
少なくとも1つの更なる特異性がCD19またはCD20への特異性である本発明の多特異性結合分子は、特に非ホジキンリンパ腫の治療に有用である。
少なくとも1つの更なる特異性がEGFR1に対するものである多特異性結合分子は、EGFR1発現が上昇または変化しているがん(例えば、乳、膀胱、頭頚部、前立腺、腎臓のがん、非小細胞肺がん、結腸直腸がん腫、および膠腫)の治療に有用である。
少なくとも1つの更なる特異性がTF−抗原に向けられたものである多特異性結合分子は、特に乳がんもしくは大腸がんおよび/または肝転移の治療に有用である。
少なくとも1つの更なる特異性がCD30に対するものである多特異性結合分子は、特にホジキン病の治療に有用である。
少なくとも1つの更なる特異性がIL4受容体のα鎖(IL4Rα)に対するものである多特異性結合分子は、固形腫瘍、特に乳房、卵巣、腎臓系、および頭頚部のがん腫、悪性黒色腫ならびにAIDS関連のカポジ肉腫の治療に有用である。
【0062】
少なくとも1つの更なる特異性がEGFR3/HER3および/またはEGFR2/neuに対するものである多特異性結合分子は、特に乳がんの治療に有用である。
少なくとも1つの更なる特異性がIGFRに対するものである多特異性結合分子は、特に前立腺がん、結腸直腸がん腫、卵巣がんまたは乳がんの治療に有用である。
【0063】
少なくとも1つの更なる特異性がCD5に対するものである多特異性結合分子は、特に慢性リンパ性白血病の治療に有用である。
【0064】
少なくとも1つの更なる特異性がMUC−1に対するものである多特異性結合分子は、特に胃がんと卵巣がんの治療に有用である。
【0065】
少なくとも1つの更なる特異性がEpCAMに対するものである多特異性結合分子は、特に結腸、腎臓および乳房のがん腫の治療に有用である。
【0066】
少なくとも1つの更なる特異性がPLAPに対するものである多特異性結合分子は、特に卵巣または睾丸がんの治療に有用である。
【0067】
少なくとも1つの更なる特異性がOFA−iLRに対するものである多特異性結合分子は、特に転移性腫瘍の治療に有用である。
【0068】
本発明の更なる態様においては、自己免疫疾患、炎症疾患、感染症、アレルギーまたはがん腫(例、非ホジキンリンパ腫;慢性リンパ性白血病;ホジキンリンパ腫;固形腫瘍(例えば、乳がん、卵巣がん、大腸がん、腎臓のがん腫、または胆管がんで生じているもの);微小残存病変;転移性腫瘍(例えば、肺、骨、肝臓または脳内で転移しているもの)の治療用の医薬の製造における前記の結合分子の使用が提供される。具体的な多特異性結合分子が、前記で具体的な疾患の治療における特定の有用性を有するものとして記載されている場合、これらの結合分子は、具体的な疾患用の薬剤の製造においても使用できる。
【0069】
更なる態様では、本発明の結合分子はFcγRIIIAを発現する細胞を染色する試薬として用いることができる。当該結合分子が少なくとも1つの更なる抗原に対する特異性を有する場合、これを、FcγRIIIA発現細胞−結合分子−抗原複合体を同定できる試薬として用いることができる。本発明の結合分子は、バイオマーカーとして、患者の生体外試料の分析および型の決定、および生体外治療のためのNK細胞の単離に用いることができる。
【0070】
したがって、更なる態様では、前記の結合分子、および、FcγRIIIAに結合したとき当該結合分子を検出する手段を含有するキットが提供される。当該結合分子が放射能標識または化学発光標識で標識される場合、前記検出手段は、放射線または化学発光標識に感受性を有するフィルムを含有する。前記結合分子がヒスチジンまたはc−mycタグを付加される場合、当該キットはこのタグを認識する抗体を含有してもよい。
【0071】
本発明の種々の態様を、実施例によって、より詳細に説明する。本発明の範囲を逸脱しない範囲で細部の変更がなされることが理解されよう、また当業者は、本発明における使用のための更なる抗体と抗原結合断片が本明細書の実施例2に記載のように得られ、FcγRIIIの異なるアイソフォームおよびFcγRIIIの異なる対立遺伝子型への結合に関するそれらの性質は、本明細書の実施例のように試験できることを理解するであろう。
【0072】
疑義の回避の目的であるが、本明細書中、“FcγRIII”、“FcγRIIIA”、および“FcγRIIIB”なる用語は、“CD16”、“CD16A”(CD16のAアイソフォームを意味する)および“CD16B”(CD16のBアイソフォームを意味する)なる用語とそれぞれ相互に交換して用いることができる。
【実施例1】
【0073】
ヒトCD16A−Fc融合タンパク質のトランジェントな発現および精製
分泌・可溶型のCD16A−Fc融合タンパク質を、ヒトIgG1のFc部に融合したヒトCD16AをコードするプラスミドpCDM−CD16−Fc(Mandelboimら,1999、上掲)のトランジェントな形質転換の後、HEK−293細胞中で生産した。
【0074】
HEK−293細胞(ATCC受託番号CRL−1573)を、完全DMEM培地(10%の熱不活性化ウシ胎児血清(FCS)、2mM L−グルタミン、100U/mL ペニシリンGナトリウム、および100μg/mL 硫酸ストレプトマイシンを添加したDMEM培地(全てInvitrogen社(カールスルーエ、ドイツから入手))中、37℃、5% COの加湿大気中で培養した。これらの細胞のリン酸カルシウム媒介形質転換は、下記のように行った。
【0075】
形質転換の1日前に、1.5x10のHEK−293細胞を用いて、直径10cmの細胞培養プレート中の10mLの完全DMEM培地に播種した。10μgのプラスミドDNAを500μlの250mM CaClと混合し、ついで、これを500μlの2×HEBS緩衝液(280mM NaCl、1.5mM NaHPO、50mM HEPES、pH7.05)に滴下し、および室温で15分間インキュベーションした。9mLの完全DMEM培地をこの形質転換カクテルに添加、混合し、および培養培地を除去したHEK−293細胞の1つの皿に移した。翌日、形質転換培地を無血清DMEM培地(2mM L−グルタミン、100U/mL ペニシリンGナトリウムおよび100μg/mL 硫酸ストレプトマイシンおよび1×インシュリン−トランスフェリン−セレン−A サプリメント(全てInvitrogen社から入手)を添加したDMEM培地と交換した。分泌CD16A−Fc 融合タンパク質を含有する上静を、細胞の生育性に依存して、形質転換後2〜6日の期間内に2回回収した。各回収の後、新鮮な無血清培地を当該細胞に添加した。回収した上静を遠心分離して細胞または細胞破片を除去し、融合タンパク質の精製のための使用まで−80℃で保存した。CD16A−Fc融合タンパク質を含有する約1.2Lの上静を得るまで、形質転換を繰り返した。
【0076】
組換えCD16A−Fc融合タンパク質の精製を、2mL プロテインAカラム上で実施した(Protein A Sepharose(商品名)Fast Flow、Amersham Pharmacia社)。カラムを10容量のDMEM pH7(Invitrogen社;100μg/mL ストレプトマイシン、100U/ml ペニシリン、1×インシュリン−トランスフェリン−セレン−Aおよび2mM L−グルタミン添加)を用いて平衡化した。細胞培養上静(1200ml)のカラムへのロード前に、0.2μm無菌フィルターを通過させ、および0.1Mグリシン/HCl(pH2.7)の添加によりpH7に調整した。カラムは、4℃で、重力流下で動作させた。次いで、カラムを10容量のDMEM pH7で洗浄した。溶出は、6容量の0.1M グリシン/HCl(pH2.7)を用いて実施した。1mlフラクションを直接55μlの1M Tris−HCl(pH8.8)に集めた。
【0077】
12% PAAゲルにおけるフラクション番号1〜10分析は、融合タンパク質の圧倒的多数がフラクション2〜7にあることを示した。これらのフラクションを集め、5LのPBS(pH7.0)に対して2回透析した。Bradford(Bradford社、1976、Anal.Biochem.72:248−254)によるタンパク質濃度の測定により、培養上静のリットルあたり、合計収量21mgのCD16A Fc−融合タンパク質(すなわち、17.5mgの融合タンパク質が生産されたことが明らかになった。
【実施例2】
【0078】
CD16−A特異的抗体の同定および単離
CD16A−Fc融合タンパク質を用いて、大分子ヒトIgM由来scFv ファージディスプレイライブラリーのスクリーニングを行った。これは、前記と同様の方法を用いて生産した(Doersamら,1997 FEBS Letts 414:7−13、Littleら,1999 J.Immunol.Methods 231:3−9、Schwarzら,FASEB J.18:1704−6)。当該ライブラリー中のクローンは、M13ファージのpIII遺伝子とscFvコード配列との間のヌクレオチド配列を含んだ。これは、ヘキサヒスチジンタブ、アンバー終止コドン、およびc−mycエピトープをコードする。
【0079】
500μg CD16A Fc−融合タンパク質を、ECLタンパク質ビオチン化モジュール(Amersham Pharmacia Biotech社、Uppsala、スウェーデン)を用いてビオチン化し、およびファージディスプレィライブラリーに対して3回の選択に用いた。ライブラリーの選択の前に、これらのタンパク質への潜在的な吸着物を除去するために、連続的にライブラリーをストレプトアビジンでコートしたポリスチレンおよびヒトIgG(シグマ−アルドリッヒ社、タウフキルヒェン、ドイツ)に予備吸着させた。当該ライブラリーからの約1012ファージを、PBS、0.1% tween,2% スキムミルク中に再懸濁し、可溶ビオチン化CD16A Fc−融合体とともにインキュベーションした。磁気分離器(Dynal社、オスロ、ノルウェー)を用いて、ファージ抗原複合体を、ストレプトアビジンでコートした磁気ビーズによって捕らえた。標的抗原に特異的に結合しなかったファージを、PBS、0.1% tweenを用いた10回の洗浄工程によって除去した。結合物は、グリシン−HCl、pH2.2を用いて溶出させ、2M Tris−HCl、pH8.0による中和後、溶出物を、対数期中期の新しく生育したE.coli XL1 Blue細胞の感染に用いた(OD6000.2−0.5)。ヒトscFvをコードするファージミドの形質転換が成功した細胞を、アンピシリン耐性によって選択し、次いでM13K07ヘルパーファージを感染させて、続くインビトロの選択のために、scFvを提示する後代ファージを生じさせた。3回目の選択後、個々のコロニーを、PP−Masterblock 2mL(Greiner社、Frickenhausen、ドイツ)内で、100μg/mL アンピシリンおよび20μg/mLテトラサイクリンを含有するLB培地で、30℃で生育させた。細胞を遠心分離によって回収し、200μLの 200mM Tris−HCl,pH7.5,20% スクロース,1mM EDTAに再懸濁した。氷上の1時間のインキュベーションの間に、外膜を破壊され、scFvを含有する可溶性ペリプラズムタンパク質が培養培地中に放出した。遠心分離によるスフェロプラストおよび細胞砕片の除去後、ELISAで、粗精製のペリプラズム抽出物を試験した。1個のクローン(50NI)が3回の別々の機会で見出された。
【0080】
ファージディスプレイライブラリーからのこのクローンの親和性選択をヒトFc−融合タンパク質において実施したので、クローン50NIがこの分子のCD16部分に対して特異性を示すことは必然であった。
クローン50NI由来のペリプラズマ抽出物を前記のように調製し、CD16A−Fc 融合タンパク質およびヒトIgGへの結合能を試験した。抗−CD16マウスモノクローナル抗体A9(Hombachら,1993 Int.J.Cancer 55:830−836)を対照として用いた。Maxisorb(商品名)ELISAプレートを、ウェルあたり、100mM NaHCO,pH8.6中、500ngのストレプトアビジンおよび300ngのヒトIgG(Sigma−Aldrich社,Taufkirchen,ドイツ)でプレコートした。次いで、300ngのビオチン化CD16A−Fcを30分間、室温、PBS中で捕捉した。
【0081】
ストレプトアビジン捕捉CD16A−Fc、ストレプトアビジンおよびヒトIgGを、1μg/mLのMAb A9または50μlのクローン50NI由来粗精製ペリプラズム抽出物とともにインキュベーションした。MAb A9の結合をヤギ抗−マウス−HRP複合体(0.5μg/mL,Dianova社,Hamburg,ドイツ)で検出し、一方scFv 50NIの結合を抗−ペンタ His HRP−複合体(1μg/mL,Qiagen社,Hilden,ドイツ)によって検出した。50μLのTMB(KPL社,Maryland,USA)をHRP−基質および発色可能な色素として用いた。反応を50μLの0.5M HSOで停止させ、吸収を450nmで測定した。
結果を図1に示した。MAb A9およびscFv 50NIは明らかにビオチン化ストレプトアビジン捕捉CD16A−Fc融合タンパク質を認識した。scFv 50NIは、ヒトIgG上のシグナルもストレプトアビジン単独のシグナルもどちらも示さなかった。2次試薬として用いた抗−ペンタHis HRP−複合体は、抗原への非特異的結合を示さなかった。しかし、MAb A9 検出用の2次試薬として用いたヤギ抗−マウス−HRP複合体は、CD16融合タンパク質のヒトFc部およびネガティブコントロールとして用いたヒトIgGとの交差反応性によるバックグラウンド染色を起こした。これらの結果は、scFv 50NIが当該融合タンパク質のCD16A部に特異性を示し、Fc部に特異性を示さないことを強く示している。
【実施例3】
【0082】
CD16アイソフォームを安定発現している異なったFACSセルライン、ヒトPBMC、および顆粒球における、scFv 50NIの試験
50NI scFvが細胞表面上のネイティブCD16Aタンパク質への結合を示すかどうかを確かめるため、scFvの粗精製ペリプラズム抽出物を、それぞれCD16AまたはCD16Bを発現する2つの異なるセルラインにおけるフローサイトメトリーによって試験した。この目的のため、CD16Aを発現するセルラインBW/CD16A(Mandelboimら,2001,Nature 409:1055−1060)およびセルライン293−CD16(ヒトCD16BアイソフォームのNA−2対立形質をコードするプラスミドで安定に形質転換されたHEK−293細胞)を用いた。50NI scFvがナチュラルキラー(NK)細胞の表面上で発現するCD16Aおよび/または好中球顆粒球の表面上に存在するCD16Bへの結合能を有するかどうかを評価するため(van de WinkelおよびCapel,1993,上掲;van Sprielら,2000,Immunol.Today 21(8):391−397)、新たに単離した10−20%のNK細胞を含む末梢血単核球細胞(PBMC)、および95%以上のCD16Bポジティブの好中球顆粒球を表す多形核細胞(PMN)への結合を、フローサイトメトリーを用いて試験した。マウスMAb A9およびマウスクローンscFv18 A9(MAb A9から得られたscFv)由来のペリプラズム抽出物をコントロールとして用いた。
【0083】
3.1 セルラインの生育ならびにPBMCおよびPMNの単離
BW/CD16A細胞を、10%の熱不活性化ウシ胎児血清(FCS)、2mMのL−グルタミン、100U/mLのペニシリンGナトリウム、および100μg/mLの硫酸ストレプトマイシン、1%の非必須アミノ酸、および5mg/mLのG418を添加したDMEM培地中で培養した。293/CD16B細胞を、10%の熱不活性化ウシ胎児血清(FCS)、2mMのL−グルタミン、100U/mLのペニシリンGナトリウム、100μg/mLの硫酸ストレプトマイシン、および5mg/mLのG418を添加したDMEM培地中で培養した。非形質転換の親セルラインBWおよび293を、G418を欠く培地である以外は、安定形質転換体についての前記のように培養した。
【0084】
健常ドナーのヘパリン化末梢血から密度匂配遠心によってPBMCおよびPMNを単離した。この血液をPBSで2倍希釈し、12mL Histopaque−1119(商品名)(Sigma−Aldrich)および上部クッションの12mL Histopaque−1077からなる2重クッション上に重層した。遠心分離を25分間、800gで実行した。上部のHistopaque−1077(商品名)(Sigma−Aldrich)のクッション上に位置するPBMC、およびHistopaque−1119(商品名)クッション上に位置するPMNを回収し、使用前にPBSで3回洗浄した。
【0085】
3.2 scFv 50NIおよびscFv18 A9を含有するペリプラズム抽出物の単離
粗精製のscFv含有ペリプラズム抽出物を5mLの細菌培養物から単離した。新たに接種した細菌を、50mMのグルコース、100μg/mLのアンピシリンおよび20μg/mLのテトラサイクリンを含有するLB培地中、37度で一晩生育させた。一晩培養した培養物をアンピシリンおよびテトラサイクリンを含有するLB培地でOD600nm=0.1まで希釈し、更に37℃でOD600nm=0.8まで生育させた。この細菌を遠心分離によって回収し、0.1mM イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)、100μg/mL アンピシリン、および20μg/mL テトラサイクリンを含有するLB培地に再懸濁した。形質導入細菌の21℃での一晩のインキュベーション後、300μLのペリプラズム抽出物をELISA用に前記のように単離した。FACS分析での使用の前に、ペリプラズム抽出物をPBSに対して一晩透析した。
【0086】
3.3 フローサイトメトリー
フローサイトメトリー分析用に、1x10細胞のBW、BW/CD16A、HEK−293、293/CD16B、PBMCおよびPMNを、モノクローナル抗体A9、またはscFv18A9および50NIを含有するペリプラズム抽出物で染色した。1x10個の細胞を100μLの透析した抽出物またはMAb A9(10μg/mL)とともに45分間、氷上でインキュベーションした。PBMCおよびPMNとの抗体/scFvインキュベーションに、1mg/mLのポリクローナルのヒトIgGを添加し、PBMCおよびPMNのサブ集団の表面上のFc受容体をブロックした。FACS緩衝液(2%の熱失活FCSおよび0.1%のアジドナトリウムを添加したPBS)での洗浄の後、細胞を氷上で45分間、0.1mLの0.01mg/mL 抗−(His)マウスMAb 13/45/31−2(Dianova社,Hamburg,ドイツ)を用いて、同じ緩衝液中で、インキュベーションした。第2の洗浄サイクル後、細胞を同じ条件下で、0.1mLの0.015mg/mL FITC−複合ヤギ抗−マウスIgG抗体(Dianova社,Hamburg,ドイツ)を用いてインキュベーションした。次いで、この細胞を再び洗浄し、0.5 mLの2μg/mL ヨウ化プロピジウム(Sigma−Aldrich社)含有FACS緩衝液に懸濁して、死細胞を除去した。1×10個の染色細胞の蛍光をBeckman−Coulter EpicsXLフローサイトメーターを用いて測定した。平均蛍光強度をSystem−IIおよびExpo32ソフトウェア(Beckman−Coulter社,Krefeld,Germany)を用いて計算した。第2試薬のみの細胞のバックグラウンド染色によって生じる蛍光を結果および分析の補助のためにプロットしたヒストグラム(図示せず)から差し引いた。
【0087】
3.4 結果
マウスモノクローナル抗−CD16抗体A9およびポジティブコントロールとして用いたA9誘導抗−CD16 scFv18は、非形質転換親細胞(BW)との比較においてBW/CD16Aへの明らかな結合を示した。scFv 50NIは、A9に匹敵するレベルでBW/CD16A細胞の明確な染色も示した。
【0088】
モノクローナル抗体A9およびscFv18 A9の両方が、表面上にCD16Bアイソフォームを発現する293/CD16B形質転換体への強い結合を示したが、50NIはこのセルラインに結合しなかった。
【0089】
モノクローナル抗体A9およびscFv18 A9は、NK細胞フラクションを示すPBMCの小さなサブ集団の明確な染色を示した。scFv 50NIも同様にこのサブ集団への結合を示した。
【0090】
精製した顆粒球上に強いシグナルを示したA9およびA9由来のscFvとは対照的に、50NI scFvはPMNに結合しなかった。
【0091】
このデータは50NI scFvが特異的にCD16Aアイソフォームに結合し、CD16B アイソフォームに結合しないことを示す。scFv 50NIは、組換CD16AだけでなくNK細胞表面上に発現したままのネイティブ抗原も認識する。
【実施例4】
【0092】
ヒト抗−CD16A scFv 50NIの高濃度化NK細胞への結合
実施例3に示すように50NIによって認識されるPBMCサブ集団がナチュラルキラー(NK)細胞を含有することを示すため、NK細胞の高濃度化集団PBMCから単離し、フローサイトメトリーによってscFv 50NIへの結合を分析した。健常ドナーのヘパリン化末梢血から密度匂配遠心によってPBMC類を単離した。血液サンプルをPBSで2回洗浄し、Histopaque−1077(Sigma−Aldrich社)のクッション上に重層し、800gで25分間、遠心分離した。界面中に位置するPMBCを回収し、PBSで3回洗浄した。NK細胞の単離のため、PBMCを2%のFCS/PBS中に再懸濁し、製造者の説明書に従い、EasySEP(商品名)ネガティブNK細胞濃縮キット(CellSystems社)を用いた1回のネガティブ選択に付した。PBMCおよびNK細胞の染色ならびにサイトメトリー分析を本質的に前記実施例3の記載と同様に行った:1×10個の細胞を10μg/mLのMAb A9または抗−CD56モノクローナル抗体MAb B159(BD Biosciences/Pharmingen社)、ついで15μL FITC−複合化ヤギ抗−マウスIgGで染色した。マウスscFv18 A9およびヒトscFv 50NIを50μg/mLの濃度で染色に用い、細胞に結合したscFvを10μg/mL MAb 抗−(His)、ついで15μL FITC−複合化ヤギ抗−マウスIgGで検出した。全ての染色は、1mg/mLのポリクローナル ヒトIgGの存在下で実施した。死細胞を前記のようにヨウ化プロピジウム染色によって除外した。データ分析は、前記の実施例3に記載のように実施した。
【0093】
4.1 結果
抗−CD56抗体および抗−CD16抗体によるPBMCの染色は、NK細胞フラクションを示す小さなサブ集団を明確に同定した。scFv 50NIは、NK細胞への結合を示す類似した小さな細胞集団もまた認識した。
NK細胞のネガティブな高濃度化の後、全ての4つの抗体/scFvは明確な染色を示した。抗CD56 MAbが完全なNK細胞集団への結合をしめした一方で、細胞の小さなフラクションは、CD16に対する抗体を用いて染色されなかった。これは、CD16−ネガティブの表現型を有するいくらかの細胞の存在を反映している可能性がある。
【実施例5】
【0094】
scFv 50NI結合後のCa2+フラックス測定
IgGに対する低親和性受容体であるCD16Aは、FcεRI由来のγ鎖またはTCR/CD3由来のζ鎖を含有する免疫受容体チロシンベース活性化モチーフ(ITAM)に関連して、多数のヒト末梢血NK細胞上で発現する。抗体または免疫複合体へのCD16Aの結合は、NK細胞傷害性およびサイトカイン分泌のきっかけとなる。この活性化は、γ鎖またはζ鎖の各々のリン酸化、およびこれに続く細胞内のシグナル変換(例、Ca2+動員)のきっかけとなる。
【0095】
ヒト抗−CD16 scFv 50NIがNKを活性化する性質を有するかどうかを試験するため、表面受容体の抗−CD16 モノクローナル抗体またはscFvwとの連結後に、新たに単離したNK細胞を用い、Ca2+フラックス測定を実施した。いくつかの抗−CD16抗体は、細胞内カルシウムの明確な増加の誘起のために、2次試薬による架橋を必要とするので、抗−mycおよび抗−(His)を抗−マウスIgGと組み合わせて、細胞−結合抗−CD16抗体の架橋に用いた。
【0096】
NK調製のため、健常ドナーのヘパリン化末梢血から密度匂配遠心によってPBMC類を単離した。血液サンプルをPBSで2回洗浄し、Histopaque−1077(商品名)のクッション上に重層し、800gで25分間、遠心分離した。界面中に位置するPMBCを回収し、PBSで3回洗浄した。NK細胞の単離のため、PBMCを2%のFCS/PBS中に再懸濁し、製造者の説明書に従い、EasySEP(商品名)ネガティブNK細胞濃縮キット(CellSystems社)を用いた1回のネガティブ選択に付した。NK細胞をHBSSで1回洗浄し、その後カルシウムインジケーターであるフルオ−4−アセトキシメチル(AM)エステル(Molecular Probes社、Leiden、オランダ)を2μMの濃度で、30分間、室温、暗環境で標識した。HBSS洗浄後、この細胞を更に20分間HBSS中でインキュベーションし、完全に細胞内AMエステルを脱エステル化させ、再度HBSSで洗浄した。細胞内カルシウム変化のフローサイトメトリー分析のため、一定量の標識化NK細胞を最初に抗体無しでBeckman−Coulter Epics XLサイトメーター上で測定し、バックグラウンド蛍光を決定した。約60秒後、抗−CD16抗体(2μg MAb A9または5μg scFv18 A9または5μg 50NI scFv)を添加し、測定を続けた。開始180秒後、20μgのポリクローン性ヤギ抗−マウスIgG抗体(GAM)をMAb A9サンプルに添加し、NK細胞表面上のCD6に結合しているA9を架橋した。scFvの架橋のため、2.5μg 抗−(His)マウスMAb 13/45/31−2および2.5μg 抗−c−myc MAb 9E10を、継続する測定の前にアプライした。scFvを有するサンプルの場合、20μgのポリクローン性ヤギ抗−マウスIgG 抗体をより遅い時点で添加し、抗−(His)および/または抗−c−myc MAbsをscFvに更に架橋させた。短時間の間隔からの平均蛍光強度をExpo32ソフトウェア(Beckman−Coulter社,Krefeld,ドイツ)を用いて決定し、時間に対してプロットした(図示せず)。
新たに単離したNK細胞で得られた蛍光トレーシングは、明確に、MAb A9が、抗−マウスIgG抗体との架橋において細胞内カルシウム濃度の強い増加を誘起することを示した。これは、より高い蛍光シグナルによって反映される。MAb A9と対照的に、A9由来のscFv(scFv18 A9)は、抗−(His)、抗−c−mycおよび抗−マウスIgG抗体との架橋後も、ほとんどまたは全く細胞内カルシウムの増加を誘導しなかった。しかし、ヒトscFv 50NIは、細胞表面に結合したscFvの、架橋抗体への連結の後に、明確な(しかし若干弱い)蛍光シグナルを誘導した。このことは、ヒトscFv 50NIが、CD16Aを介するNK細胞活性の作動のために適当な結合特性を有することを示す。
【実施例6】
【0097】
軽鎖シャッフリングによる50NI scFvの親和性変異
親和性が増加している抗−CD16 scFvを得るため、50NI V 鎖のV遺伝子レパートリーとの再編成により、クローン50NIに基づくチェーン・シャッフルド・ライブラリー(chain shuffled library)を生産した。VκおよびVλ遺伝子レパートリーを、前記の巨大なヒト・ナイーブscFvライブラリー(Schwarzら,上掲、2004)を由来とするpEXHAM1 DNAから切り出した。このレパートリーは、それぞれ約10の個々のVκおよびVλ鎖を反映する。pEXHAMのMluIおよびNotI部位へのクローニングによる50NI重鎖を用いた再編成と、1μgのE.coli XL1 blueへの形質転換(1.8kV,0.1cmギャップキュベット、25μF、200Ω)により、2.6×10(Vκ)および2.2×10(Vλ)の数のライブラリーを得た。
形質転換後にランダムに選択した32クローンの配列分析は、各クローンが個々の軽鎖を含有することを示し、および24クローンが、抗−His抗体を用いたウェスタン・ブロット(Qiagen社,Hilden,ドイツ)において、検出可能な完全長のscFvの発現を示した。
【0098】
実施例2に記載のビオチン化CD16A−Fc融合タンパク質において、4回の選択を実施した。高親和性結合体に有利に働く選択圧は、抗体濃度の連続的な制限(第1回20nM、第2回1nM、第3回0.1nM、第4回0.01nM)によって作り出した。κおよびλの再編成ライブラリーは、別々に保存した。
【0099】
PBS/0.1% TWEEN/2%スキムミルク中に再懸濁したライブラリーからの約10個のファージをビオチン化CD16A−Fc融合体とともにインキュベーションした。ファージ抗原複合体を、ストレプトアビジンをコートした磁気ビーズの添加によってレスキューし、ファージに結合している非特異的抗原を、PBS/0.1% TWEENを用いた10回の洗浄工程によって除去した。第1段階では、結合体は、グリシン−HCl、pH2.2によって溶出させた。2M Tris−HCl pH8による中和後、低pHで除去できないファージの回復のために、新たに生育させたE.coli XL1 Blue(対数期中期OD6000.2−0.5)を添加した。酸性溶出液によって溶出した細胞もまた、対数増殖中のXL1 blue宿主細胞と混合した。
【0100】
ヒトscFvをコードするファージミドによる形質導入が成功した細胞を、アンピシリン耐性で選択し、ついでM13K07ヘルパーファージで形質転換して、次のインビトロでの選択のためのscFvを示すファージを生じさせた。次の回の選択では、酸性溶出液によって回収されたファージおよびXL1 blueの形質転換を別々に取り扱った。第3および第4の回の親和性選択の後、個々のコロニーを実施例2に記載のELISAで試験した。
【0101】
再編成κ−ライブラリー由来の試験したクローンは、同じマスターブロックで参照として生育させた親クローン50NI超える、優位なシグナルを示さなかった。しかし、いくつかのクローンを配列決定し、親クローンと同一であることを証明し、結合特性を改良する適当なκ−鎖が見出されなったことが示された。
【0102】
対照的に、再編成λ−ライブラリー由来のクローンの分析は、参照の5倍までのシグナルを生じる多くのクローンを明らかにした。30クローンを第3回のバイオパンニング後の配列決定用に、34クローンを第4回のバイオパンニング後の配列決定用に、選択した。配列決定は、製造者のガイドラインに従って、Deaza Kit(Visible Genetics社,Toronto,カナダ)を用いたLong Read Tower(Visible Genetics社,Toronto,カナダ)で実施した。結合ファージ粒子の酸性溶出液または宿主細胞の直接形質転換は、クローンの後の分布に明確な影響を有さなかった。5つの異なるグループの高濃度化したクローンおよび数個の個体を同定した。表2は、これらの異なるグループの概要を示す。
表2:下記の例のあるグループを示すクローンの記号を太字でハイライトしている。
【0103】
【表2】

【0104】
グループAを形成するクローンは、親ベクターの再連結および非切断、またはライブラリー構築中の再編成が原因で、シャッフルド・ライブラリーにも存在する。この知見は、このグループのクローンが最も弱いELISAシグナルを生じた事実と相関する。
他の全てのグループは、親クローンに比べて増強したELISAシグナルを示す新たに編成された軽鎖を含有する。グループCおよびDからのクローンは、第3回および第4回の選択後、同程度の数が見出された。
V−ベース・アラインメント・ソフトウエア(http://vbase.mrc−cpe.cam.ac.uk)を用いた配列の分析により、全ての新たなVλ鎖が、親クローンのVL鎖と同様に、VL3ファミリーに属することが明らかになった。
全てのクローンが持つ共通のV鎖のアミノ酸配列は、本明細書中で、配列番号9として、ならびにクローン50NI,3−LB3,3−LB5,3−LB6,3−LS49,4−LS14および4−LS21の特異的V鎖は、本明細書中で、それぞれ配列番号10〜16として与えられる。共通のV鎖をコードする核酸配列は、本明細書中で、配列番号1として、ならびにクローン50NI,3−LB3,3−LB5,3−LB6,3−LS49,4−LS14および4−LS21の個々のV鎖は、本明細書中で、それぞれ配列番号2〜8として与えられる。個々の重鎖および軽鎖CDRは表1に与えられ、共通の重鎖CDRは、この上の最初の項目として示され、ついでクローン50NI,3−LB3,3−LB5,3−LB6,3−LS49,4−LS14および4−LS21の軽鎖CDRが示されている(それぞれ、項目2〜8として示される)。
【実施例7】
【0105】
CD16AおよびCD16Bで形質転換されたセルラインにおける親和性成熟scFvのFACS分析
全ての個体クローン由来の粗精製のペリプラズム抽出物を用いた予備的なFACS分析は、全てのチェーン・シャッフルドscFvがCD16A結合能を保持していることを示した。この試験には、CD16Aでトランジェントに形質転換したHEK−293細胞を用いた(データは示さず)。この試験に基づき、更なる性質評価のために、クローン3−LB3,3−LB5,3−LB6,3−LS49,4−LS14および4−LS21を選択した。
【0106】
これらのscFvをコードする核酸配列を、N−末PelBリーダー配列、およびC−待つヘキサ−ヒスチジンおよびc−mycタグとインフレームで、発現ベクターpSKK2にサブクローンした。これらのサブクローンの核酸配列は、下記の通りである:
【0107】
pSKK2-50NI (配列番号36)
atgaaatacctattgcctacggcagccgctggcttgctgctgctggcagctcagccggccatggcggaggtccagctggtacagtctggagcagaggtgaaaaagcccggggagtctctgaaggtttcctgcaaggcatctggatacaccttcaccagctactatatgcactgggtgcgacaggcccctggacaagggcttgagtggatgggaataatcaaccctagtggtggtagcacaagctacgcacagaagttccagggcagagtcaccatgacccgggacacgtccacgagcacagtctacatggagcttagcagcctgagatctgaggacacggccgtgtattactgtgctagaggtagtgcttattactacgattttgctgactactggggccagggaaccctggtcaccgtctcctcagggagtgcatccgccccaacccttaagcttgaagaaggtgaattttcagaagcacgcgtatcctatgagctgatgcagccaccctcagtgtccgtgtcctcaggacagacagccagcatcccctgctctggagataaattggaggaaaaatatgtttcctggtatcaacagaggccaggccagtcccctgtgttggtcatttatcaggataataagcggccctcagggatccctgagcgattctctggctccaactctgggaacacagccactctgaccatcagcgggacccaggcgatggatgaggctgactactattgtcaggtgtgggacaattacagtgtgctattcggcggagggaccaagctgaccgtcctaggtcagcccaaggctgccccctcggtcactctgttcccgccgtccgcggccgctggatccgaacaaaagctgatctcagaagaagacctaaactcacatcaccatcaccatcactaa
【0108】
pSKK2-3-LB3 (配列番号37)
atgaaatacctattgcctacggcagccgctggcttgctgctgctggcagctcagccggccatggcggaggtccagctggtacagtctggagcagaggtgaaaaagcccggggagtctctgaaggtttcctgcaaggcatctggatacaccttcaccagctactatatgcactgggtgcgacaggcccctggacaagggcttgagtggatgggaataatcaaccctagtggtggtagcacaagctacgcacagaagttccagggcagagtcaccatgacccgggacacgtccacgagcacagtctacatggagcttagcagcctgagatctgaggacacggccgtgtattactgtgctagaggtagtgcttattactacgattttgctgactactggggccagggaaccctggtcaccgtctcctcagggagtgcatccgccccaacccttaagcttgaagaaggtgaattttcagaagcacgcgtatcctatgagctgacacagccactctcagagtcagtggcccagggacagacggccaggattacctgtgggggaaacaacattgaaagtagaaatgttcactggtaccagcagaagccaggccaggcccctgtgttggtcatctatagggataacaaccggccctctgggatccctgagcgattctctggctccaattcggggaacatggccaccctgaccatcagcagagcccaagccggggatgcagctgactattactgtcaggtgtgggacaactacactgtgctattcggcggagggaccaagctgaccgtcctaggtcagcccaaggctgccccctcggtcactctgttcccgccgtccgcggccgctggatccgaacaaaagctgatctcagaagaagacctaaactcacatcaccatcaccatcactaa
【0109】
pSKK2-3-LB5 (配列番号38)
atgaaatacctattgcctacggcagccgctggcttgctgctgctggcagctcagccggccatggcggaggtccagctggtacagtctggagcagaggtgaaaaagcccggggagtctctgaaggtttcctgcaaggcatctggatacaccttcaccagctactatatgcactgggtgcgacaggcccctggacaagggcttgagtggatgggaataatcaaccctagtggtggtagcacaagctacgcacagaagttccagggcagagtcaccatgacccgggacacgtccacgagcacagtctacatggagcttagcagcctgagatctgaggacacggccgtgtattactgtgctagaggtagtgcttattactacgattttgctgactactggggccagggaaccctggtcaccgtctcctcagggagtgcatccgccccaacccttaagcttgaagaaggtgaattttcagaagcacgcgtatcctatgagctgacacagccaccctcagtggcagtggccccaggaaagacggccaggattacctgtgggggaaacaacattggaagtaaaaatgtgcactggtaccagcagaagccaggccaggcccctgtgctggtcatctatagggatagcaaccggccctctgggatccctgagcgattctctggctccaactcggggaacacggccaccctgaccatcagcagagcccaagccggggatgaggctgacttttattgtcaggtgtgggacaactatattgtgctgttcggcggagggaccaagctgaccgtcctgggtcagcccaaggctgccccctcggtcactctgttcccgccgtccgcggccgctggatccgaacaaaagctgatctcagaagaagacctaaactcacatcaccatcaccatcactaa
【0110】
pSKK2-3-LB6 (配列番号39)
atgaaatacctattgcctacggcagccgctggcttgctgctgctggcagctcagccggccatggcggaggtccagctggtacagtctggagcagaggtgaaaaagcccggggagtctctgaaggtttcctgcaaggcatctggatacaccttcaccagctactatatgcactgggtgcgacaggcccctggacaagggcttgagtggatgggaataatcaaccctagtggtggtagcacaagctacgcacagaagttccagggcagagtcaccatgacccgggacacgtccacgagcacagtctacatggagcttagcagcctgagatctgaggacacggccgtgtattactgtgctagaggtagtgcttattactacgattttgctgactactggggccagggaaccctggtcaccgtctcctcagggagtgcatccgccccaacccttaagcttgaagaaggtgaattttcagaagcacgcgtacaggctgtgctgactcagccgccctcagtgtcagtggccccaggacagacggccaggattccctgtgagggaaacaacattggaagtaaaaatgtccactggtatcggcagaagccaggccaggtccctgtcctggtcatgtatgatgatagcgaccggccctcagggatccctgagcgattctctggctccaactctgggaacacagccactctgaccatcagcgggacccaggcgatggatgaggctgactactattgtcaggtgtgggacaattacagtgtgctattcggcggagggaccaagctgaccgtcctaggtcagcccaaggctgccccctcggtcactctgttcccgccgtccgcggccgctggatccgaacaaaagctgatctcagaagaagacctaaactcacatcaccatcaccatcactaa
【0111】
pSKK2-3-LS49 (配列番号40)
atgaaatacctattgcctacggcagccgctggcttgctgctgctggcagctcagccggccatggcggaggtccagctggtacagtctggagcagaggtgaaaaagcccggggagtctctgaaggtttcctgcaaggcatctggatacaccttcaccagctactatatgcactgggtgcgacaggcccctggacaagggcttgagtggatgggaataatcaaccctagtggtggtagcacaagctacgcacagaagttccagggcagagtcaccatgacccgggacacgtccacgagcacagtctacatggagcttagcagcctgagatctgaggacacggccgtgtattactgtgctagaggtagtgcttattactacgattttgctgactactggggccagggaaccctggtcaccgtctcctcagggagtgcatccgccccaacccttaagcttgaagaaggtgaattttcagaagcacgcgtacagcctgtgctgactcagccactctcagtgtcagtggccccgggacagacggccaggattacctgtgggggaaacaacattggaagtaaaaatgtgcactggtaccagcagaagccaggccaggcccctgtactggtcatctatagggacagcagccggccctctgggatccctgagcgactctctggctccaactcgggggacacggccaccctgaccatcagcagagcccaggccggggatgaggctgactattactgtcaggtgtgggacgactacattgtggtcttcggcggagggaccaagctgaccgtcctaggtcagcccaaggctgcccccccggtcactctgttcccgccgtccgcggccgctggatccgaacaaaagctgatctcagaagaagacctaaactcacatcaccatcaccatcactaa
【0112】
pSKK2-4-LS14 (配列番号41)
atgaaatacctattgcctacggcagccgctggcttgctgctgctggcagctcagccggccatggcggaggtccagctggtacagtctggagcagaggtgaaaaagcccggggagtctctgaaggtttcctgcaaggcatctggatacaccttcaccagctactatatgcactgggtgcgacaggcccctggacaagggcttgagtggatgggaataatcaaccctagtggtggtagcacaagctacgcacagaagttccagggcagagtcaccatgacccgggacacgtccacgagcacagtctacatggagcttagcagcctgagatctgaggacacggccgtgtattactgtgctagaggtagtgcttattactacgattttgctgactactggggccagggaaccctggtcaccgtctcctcagggagtgcatccgccccaacccttaagcttgaagaaggtgaattttcagaagcacgcgtatcctatgagctgacacagccaccctcggtgtcagtgaccccaggacagacggccacgattacctgcggggcaaacgacattggaaaaagaaatgtccactggtaccaacagaggccaggccagtcccctgtgttggtcatttatcaggataataagcggccctcagggatccctgagcgattctctggctccaactctgggaacacagccactctgaccatcagcgggacccaggcgatggatgaggctgactactattgtcaggtgtgggacaattacagtgtgctattcggcggagggaccaagctgaccgtcctaggtcagcccaaggctgccccctcggtcactctgttcccgccgtccgcggccgctggatccgaacaaaagctgatctcagaagaagacctaaactcacatcaccatcaccatcactaa
【0113】
pSKK2-4-LS21 (配列番号42)
atgaaatacctattgcctacggcagccgctggcttgctgctgctggcagctcagccggccatggcggaggtccagctggtacagtctggagcagaggtgaaaaagcccggggagtctctgaaggtttcctgcaaggcatctggatacaccttcaccagctactatatgcactgggtgcgacaggcccctggacaagggcttgagtggatgggaataatcaaccctagtggtggtagcacaagctacgcacagaagttccagggcagagtcaccatgacccgggacacgtccacgagcacagtctacatggagcttagcagcctgagatctgaggacacggccgtgtattactgtgctagaggtagtgcttattactacgattttgctgactactggggccagggaaccctggtcaccgtctcctcagggagtgcatccgccccaacccttaagcttgaagaaggtgaattttcagaagcacgcgtacagcctgtgctgactcagccatcctcggtgtcagtggccccaggacagacggccacgatctcctgtgggggacacaacattgggagtaaaaatgtgcactggtaccagcagaggccaggccagtcccctgtgttggtcatttatcaggataataagcggccctcagggatccctgagcgattctctggctccaactctgggaacacagccactctgaccatcagcgggacccaggcgatggatgaggctgactactattgtcaggtgtgggacaattacagtgtgctattcggcggagggaccaagctgaccgtcctaggtcagcccaaggctgccccctcggtcactctgttcccgccgtccgcggccgctggatccgaacaaaagctgatctcagaagaagacctaaactcacatcaccatcaccatcactaa
【0114】
PelBリーダー配列をコードするヌクレオチド配列は、atgaaatacctattgcctacggcagccgctggcttgctgctgctggcagctcagccggccatggcg(配列番号43)である。
【0115】
各scFvの軽鎖可変領域および重鎖可変領域の間のリンカー領域をコードするヌクレオチド配列は、gaagaaggtgaattttcagaagca(配列番号44)である。
【0116】
c−mycタグおよびヘキサ−ヒスチジンタグは、それぞれ、gaacaaaagctgatctcagaagaagaccta(配列番号45)、およびcatcaccatcaccatcac(配列番号46)である。
サブクローンを含有するベクターを、E.coli RV308に形質転換し、2L振とうフラスコ培養で発現させ、Le Gallら(2004,J.Immunol.Methods 285:111−127)に従い、固定化金属イオン親和性クロマトグラフィーによって精製した。
【0117】
チェーン・シャッフルドscFvが、実施例3で50NIについて示されているようにCD16Aへの特異性を保持しているかどうか評価するため、CD16AまたはCD16Bを発現する形質転換セルラインをIMAC精製scFvを用いて試験した。フローサイトメトリー分析のため、下記のセルラインを用いた:BWおよびBW/CD16A形質転換体を前記のように培養した。293細胞および293−CD16B形質転換体を前記のように取り扱った。それぞれ,ヒトCD3ζ鎖の細胞膜貫通および細胞質内領域に融合したCD16AまたはNKp46の細胞外領域をコードするプラスミド(pcDNA3−CD16A−ゼータおよびpcDNA3−NKp46−ゼータ,Dr.O.Mandelboim,Jerusalem大学,Israelから入手)を用いた、293細胞のトランジェントの形質転換によって,293−CD16Aおよび293−NKp46を作成した。実施例1に記載のリン酸カルシウム法を用いてトランジェントの形質転換を行い、トランジェントの形質転換の2日後、フローサイトメトリー染色および分析に用いた。フローサイトメトリー染色および分析は、基本的に前記のように行った。1×10個の指示細胞を、50μg/mLの精製scFv、次いで10μg/mLのMAb 13/45/31−2(抗−ヘキサHis)および15μg/mLのFITC−複合ヤギ抗−マウスIgGで染色した。
【0118】
形質転換細胞が細胞表面上に対応する抗原を発現することを示すために、細胞を、10μg/mLのMAb A9および抗−NKp46 モノクローナル,MAb 195314(R&D Systems社,Wiesbaden,ドイツ)のパラレルで染色した。MAbs A9および195314を15μg/mLのFITC−複合ヤギ抗−マウスIgGで検出した。フローサイトメトリー分析で得られた平均蛍光強度を2次試薬のみによる着色からの蛍光値を差し引いて補正し、結果を図2に示した。
【0119】
ポジティブコントロール染色として用いたMAb A9は、予想通り、アイソフォームと関係なく、CD16で形質転換した全てのセルラインに結合した。NKp46−形質転換体への結合は観察されず、一方、NKp46に対するMAb 195314での染色は、明らかに、コントロールプラスミドを用いたこの細胞の形質転換が成功したことを示した。
【0120】
参照として用いた親ヒト抗−CD16 scFv 50NIは、表面上にCD16Aを発現する2つのセルライン(BW/CD16Aおよび293/CD16A細胞)の弱い染色を示した。対照的に、新たに単離した、再編成軽鎖を有するscFvは、これらの細胞への高度に改良された結合を示した。CD16Bで安定に形質転換した293細胞に結合した新たな変種は無く、CD16のアイソフォームAへの特異性を示した。
【実施例8】
【0121】
新たに単離したPMNおよび高濃度化NK−細胞における親和性成熟scFvフラグメントの試験
改良scFvが、真核細胞で発現したCD16Aへの特異的結合能を保持しているかどうか評価するため、ドナー血液から新たに単離したPMNおよび強化NK細胞を前記のようにIMAC−精製scFvを用いて染色した。NK細胞の濃縮は、前記のネガティブ選択によって実施した。フローサイトメトリー分析で得られた平均蛍光強度を図5に示した。
【0122】
抗−CD16 MAb A9および抗−CD56 MAb B159を用いた濃縮した真核細胞集団の染色は、この集団がCD16+/CD56+CD16+/CD56+末梢血NK細胞からなることを明らかに示した。MAb A9およびA9由来のマウスscFvは、CD16A−陽性NK細胞フラクションを染色し、CD16B−陽性顆粒球において更に強いシグナルを示した。
【0123】
MAb A9はCD16−陽性NK細胞に対応するPBMCのサブ集団(18.5%)を認識した。強化NKおよび単離顆粒球で強い結合が観察された(データ示さず)。
【0124】
親クローン50NIは、弱いが明らかな、強化NK−細胞への結合を示した。一方、顆粒球の染色は見られなかった。親和性成熟変種3−LB3,3−LB5,3−LB6,3−LS49,4−LS14および4−LS21は、50NIと似た染色パターンを示したが、結合シグナルが改善されていた。このデータは、親和性成熟scFvがCD16の2つのアイソフォームを区別し、CD16Aに特異的に結合できる事実に対してさらなるサポートを与える。
【実施例9】
【0125】
組換CD16A−FcおよびCD16BにおけるELISA
scFvのCD16A特異性に関する更なるサポートデータを得るため、CD16A−Fc融合タンパク質(実施例1)および市販の組換CD16B−Fc(対立遺伝子NA−2;BSAフリー;RD Systems)を用いて、ELISAを行った。gp34−Fc融合タンパク質をネガティブコントロールとして用いた。この組換タンパク質を、pH8.8で、100mM NaHCO3中、80 nMの濃度で一晩、コートした。
【0126】
抗−c−myc−HRP複合体(10μg/ml)を用いて、組換タンパク質に結合したscFvの検出を、実施した。ポジティブコントロールは、MAb A9(1μg/mL)、次いでヤギ抗−マウスIgG HRP−複合体(0.5μ/mL)を含んだ。組換CD16Bへの結合を抗−His−HRP(1μg/mL)を用いた直接染色によって試験し、およびFc−融合タンパク質への結合を抗−ヒトIgG−HRP複合体(0.15μg/mL)によって試験した。全てのscFvがCD16A−Fcへの強い結合を示し、一方、CD16Bへの結合は観察されなかった(図3)。gp34−Fcで、わずかに増加したバックグラウンド結合が見られた。単独で試験された全ての2次抗体もまたgp34−Fcにおいてわずかに増加したバックグラウンドシグナルを示したので、おそらく、これはgp34−Fcへの少量の非特異的結合によるものだろう。予想通り、A9はCD16A−Fcを強く認識した。しかし、2次ヤギ抗−マウスHRP−融合タンパク質は、ヒトFc融合体との有意な交差反応性を示すと考えるべきである(ヤギ抗マウス−HRPのみでのコントロールを参照)。ヒトIgGへの最小の交差反応性を有する(データは示さず)予備吸着ヤギ抗−マウスIgG−HRP 複合体を用いたこの分析の再現性は、有意なバックグラウンド結合の減少を示さなかった。MAb A9は、CD16Bにおいて明らかなシグナルを示した。これは、2次試薬によって影響されなかった。
【実施例10】
【0127】
還元および非還元条件下での組換CD16A−Fcにおけるウェスタン・ブロット
更なる性質決定のため、組換CD16A−FcおよびNKp46−Fcにおけるウェスタン・ブロットでの結合について、全ての抗−CD16A scFvを試験した。CD16A−FcおよびネガティブコントロールとしてのNKp46−Fcを、還元条件下の12% SDS−ゲルおよび非還元条件下の8%ゲルによって分離した。これらのタンパク質を、エレクトロブロッティングによって、ニトロセルロース膜に移した。ポンソーS染色後、この膜を5mm幅片に切断した。各ニトロセルロース片をPBS、0.1% tween、2%スキムミルク中のscFv(4μg/ml)とともに個々にインキュベーションした。検出は、抗−ペンタHis HRP−複合体(1μg/mL)を用い、ジアミノベンジジン(DAB)ペルオキシダーゼを基質として用いて行った。コントロール片をA9(1μg/mL)または抗−NKp46 195314、ついでヤギ抗−マウスIgG HRP−複合体(0.2μg/mL,最小交叉反応性)と共にインキュベーションした。更なるポジティブコントロールとして、ヤギ抗−ヒトIgG HRP−複合体(0.16μg/mL)を、融合タンパク質のFc部の検出に用いた。モノクローナル抗体A9および195314は、非還元条件下と同様に還元条件下で、それらの抗原を認識した。
【0128】
MAb A9に対する2次試薬として用いたヤギ抗−マウス−HRP複合体は、わずかにCD16A−Fc融合タンパク質のFc部と交叉反応性を示した。対照的に、抗−CD16 scFvの結合は、非還元条件下で観察されただけであり、ジスルフィド架橋によって安定化された2次構造が認識に必要とされることを示した。親クローン50NIは、親和性成熟scFvに比べて、より弱いシグナルを示した。scFv 3−LB6の結合は検出されず、NKp46−Fc対照タンパク質との交叉反応性を示すscFvは無く、CD16への特異性が確認された。
【実施例11】
【0129】
スーパーデックス(Superdex)200カラムにおけるサイズ排除クロマトグラフィーによるscFvの分析
scFv変種のより高い親和性が主に改良された一価結合によるかどうかを決定するため、タンパク質調製物を、そのオリゴマー組成物について、スーパーデックス200ゲルろ過カラムにおいて分析した。LMWゲルろ過キャリブレーションキット(Amersham・Pharmacia Biosciences社、Freiburg、ドイツ)をスタンダードに用いた。表3は、個々のタンパク質調製物に存在する分子形式の概要を示す。
【0130】
表3:個々のタンパク質調製物において存在するscFvの分子形式。3−LB5は、低タンパク質濃度のため、分析されなかった。
【0131】
【表3】

【0132】
サイズ排除クロマトグラフィーは、明らかに、scFv 3−LB6および4−LS21がもっぱらモノマーであることを示した。
【0133】
対照的に、3−LS49、3−LB3および4−LS14は、ダイマー分子の有意な比率を示した。これらの分子の改良された結合特性は、3−LB6および4−LS21へのより高い親和性だけでなく、2量体形成による結合活性効果も反映しうる。
【実施例12】
【0134】
表面プラズモン共鳴(SPR)によるscFv親和性の測定
scFvの親和性定数(K値)を、BIAcore2000バイオセンサーシステム(Amersham−Pharmacia社)を用いたSPRによって測定した。CD16A−Fc融合タンパク質およびネガティブコントロールとして用いたBSAをアミンカップリング法のための慣用のNHS/EDC化学を用いてカルボキシメチルデキストランでコートしたセンサーチップCM5(BIAcore社)上に固定化した。精製scFvをHBS−EP緩衝液(BIAcore社、Uppsala、スウェーデン)で希釈した。固定化抗原に対して、scFv抗体の変動濃度(100nM、200nM、400nM、800nMおよび1600nM)の経過により、結合データを生じさせた。ポジティブコントロールとして抗−CD16 MAb A9を用いた。全てのSPR測定は、20μl/minの一定の流速で、HBS−EP緩衝液中、25℃で行った。各注入試料(100μl)は、抗原に5分間接触した。ついで、解離は30分間であった。各サイクルの後、センサーチップ表面をHBS−EP緩衝液でフラッシングした。BSAでコートされたコントロールチャネルからのシグナルを自動的に差し引いた。速度定数を、1/1 ラングミュア結合モデルにしたがってBIAevaluation バージョン3.0ソフトウェア(BIAcore社)を用い、計算した。計算されたオフーおよびオン−速度定数、および各K値を表3にまとめた。MAb A9について、コントロールとして用いて、1.75×10−9MのKを、文献記載の1.55×10−9Mの値(Rennerら,2001 Cancer Immunol.Immunother.50:102−108)と関連付けて計算した。更に、scFv 50NI、4−LS21および3−LB6のSPRデータについての定常状態分析から,平衡解離定数を推論した。
【0135】

表4 個々のscFvへの結合動態データ
【0136】
【表4】

【0137】
これらの2つの方法によって独立して計算された速度定数はよく相関し、親クローン50NIとの直接の比較は、軽鎖シャッフリングによる20倍以上の親和性の改善を示した。全ての3つのscFv型はもっぱら単量体タンパク質集団を形成し(表3、実施例11と比較)、改善した結合特性が結合力効果ではなく、抗原scFv接合面の最適化に基づく、より高い親和性によることを示した。scFv 3−LS49、3−LB−3および3−LS14は、同等のK値を示したが、有意なパーセンテージの2量体分子を含有する不均質分子集団(表2、実施例13との比較)を示した。したがって、これらの抗体の改善された親和性は、少なくとも部分的に多価結合による。
【実施例13】
【0138】
親和性成熟抗−CD16 scFvの結合による、NK細胞におけるCa2+流の誘導
親抗−CD16 scFv 50NIについて示されている親和性成熟scFvが末梢血NK細胞におけるCa2+動員を誘発する能力を保持しているかどうかを評価するために、末梢血からNK細胞を単離および濃縮し、および実施例5に前記記載のフローサイトメトリーによるCa2+流量測定に用いた。
【0139】
この結果は、明らかに、MAb抗−(His)、ついでポリクローナルヤギ抗−マウスIgG抗体(GAM)のみの添加は、新たに単離したNK細胞における細胞内カルシウム濃度の優位な変化を誘導しなかったことを示す。しかし、すでに実施例5で示したように、scFv 50NIが添加され、およびMAb抗−(His)、ついでGAMによる架橋が形成されたとき、蛍光シグナルの明らかな増加が観察された。
親和性成熟抗−CD16 scFv(3−LS49または4−LS21、参照例として用いられる)が適用された場合、抗−(His)ついでGAMによる架橋後に誘導されたシグナルの増加は50NIによって引き起こされたシグナルと少なくとも同じ強さであった。したがって、鎖−シャッフリングによってヒトscFv 50NIから導かれた全てのscFvがNK細胞を活性化し、およびCD16Aへの結合による細胞内カルシウムカルシウム動員のきっかけとなる能力を保持することが結論付けられる。
【実施例14】
【0140】
新たに単離したNK細胞における細胞溶解活性のトリガリング
CD16AはNK細胞に媒介される抗体依存細胞傷害性(ADCC)に関与する。インビトロでは、CD16に特異的なIgGアイソタイプのモノクローナル抗体の活性化が、FcR−ポジティブ標的セルラインの殺滅を引き起こせることが示された。NK細胞においてカルシウム動員を誘導する親和性成熟抗−CD16A scFvがNK細胞傷害性も媒介できるかどうかを確認するため、これらのscFvを、マウスFcR−ポジティブP815細胞に対して新たに単離したNK細胞を用いたリダイレクトされた殺細胞アッセイにおいて試験した。scFvは、IgGのFc部を欠くので、抗−(His)マウスモノクローナル抗体と一緒に用いた。このリダイレクトされた細胞溶解を、カルセイン−放出アッセイで測定した。
【0141】
NK細胞を、健常なドナーのPBMCから単離および濃縮した。フローサイトメトリー分析は、NK集団が81%のCD16−ポジティブ細胞および94%のCD56−ポジティブ細胞からなることを示した;CD3−ポジティブまたはCD19−ポジティブ細胞は、有意な量で検出されなかった(データを示さず)。マウスP815セルライン(Dr.G.Moldenhauer、DKFZ、Heidelberg、ドイツから親切に提供を受けた)を、10% 熱不活性化ウシ胎児血清(FCS)、2mM L−グルタミン、100U/mL ペニシリンGナトリウム、100μg/mL 硫酸ストレプトマイシン、および50μM β−メルカプトエタノールを添加したRPMI 1640培地中で培養した。分析用に、P815標的細胞を、RPMI1640培地中(FCS無し、30分間、37℃)で、10μM カルセインAM(Molecular Probes)を用いて標識した。RPMI1640培地で2回洗浄した後、標識化P815細胞を、10% 熱不活性化FCS、2mM L−グルタミン、100U/mL ペニシリンGナトリウム、100μg/mL 硫酸ストレプトマイシンを含有するRPMI1640培地に1x10/mLの濃度まで再懸濁した。この懸濁液から,1x10細胞に相当する50μlを96ウエルの丸底マイクロタイタープレートの個々のウエルに播種した。1x10の新たに単離したNK細胞を50μlでウエルに加え、10:1のエフェクター対標的比にした。抗−CD16抗体およびコントロール抗体をウエルに加えて、1μg/mLの最終濃度にし、ここで指示1μg/mL 抗−(His)マウスMAb13/45/31−2をアプライした。モノクローナル抗体OKT3(抗−CD3 MAb)、A9および13/45/31−2 抗−(His)はDr.G.Moldenhauer、DKFZ、Heidelberg、ドイツからの親切な贈り物である。抗体 B159抗−CD56は、BD Biosciences/Pharmingen社(Heidelberg、ドイツ)か購入し、および195314 抗−NKp46はR&D Systems社(Wiesbaden、ドイツ)から購入した。プレートを、5% COの湿雰囲気中で、3時間、37℃でインキュベーションした。いくつかウエルに対して、1% TritonX100を添加して(Roth社、カールスルーエ、ドイツ)、標的細胞の最大溶解を得た。エフェクター細胞無し、および抗体無しで、標的細胞をインキュベートすることにより、自然発生的なカルセイン放出を測定した。インキュベーション後、マイクロタイタープレートを500gで5分間遠心分離し、100μlの上静を回収して、放出されたカルセインの蛍光(F)、520nmでマルチラベル・リーダー(Victor3、Perkin Elmer、Rodgau、ドイツ)を用いて測定した。溶解のパーセンテージを式:[F(試料)−F(自然発生的)]/[F(最大)−F(自然発生的)]x100%に従って計算した。平均値および標準偏差を3回のサンプルから決定し、図4にプロットした。
【0142】
予測したとおり、コントロール抗体として用いたOKT3 抗−CD3、B159 抗−CD56および抗−(His) MAbsは、抗体無しの試料と類似のバックグラウンド殺滅のみを誘導した。
【0143】
このことは、CD56のような非活性化受容体への抗体の結合が、NK細胞の細胞傷害性の誘導に十分でないことを示す。さらに、コントロール抗体は、 P815標的細胞上のFc受容体に結合しているがNK細胞上のエフェクター分子に結合していないIgGの細胞傷害性効果を除外する。対照的に、MAb 195314(抗−NKp46)およびA9(抗−CD16)は両方とも、NK受容体活性化を標的とし、それぞれ35%および65%の範囲で、P815標的の強い溶解のきっかけとなった。抗−CD16 scFvの存在下、標的細胞の溶解は、1.8%および11.5%の間であり、scFvのみではNK細胞を活性化できなかった。しかし、架橋およびFcR−ポジティブP815 標的細胞への結合を促進するMAb 抗−(His)の添加は、全てのサンプルで、強い溶解を引き起こした。親和性成熟scFv 4−LS21の場合、ほぼ60%の標的細胞が溶解した。相対的に、親抗−CD16 scFv 50NIのMAb 抗−(His)との組み合わせは、細胞によるP815標的のリダイレクトされた殺滅のわずかな促進のみを誘導した。
【0144】
親和性成熟抗−CD16 scFvを用いたリダイレクトされた細胞傷害性アッセイの結果は、抗−CD16A scFvがNK細胞におけるカルシウム動員を促進するだけでなく、NK細胞傷害性も引き起こすことを明らかに示した。
【実施例15】
【0145】
ヒトCD16A−Fc48R/158F変種および3つの異なるヒトCD16B−Fc対立遺伝子変種をコードする核酸配列の作出
ヒトFcγRIIIは、2つのアイソフォーム、FcγRIIIA(膜貫通タンパク質)およびFcγRIIIB(GPI−アンカー型)、として存在し、これらは、その細胞外の免疫グロブリン結合領域において96%の配列同一性を有する(van de WinkelおよびCapel,1993,Immunol.Today 14(5):215−221)。これらの2つのアイソフォームの異なる対立遺伝子変種は開示されている(Koeneら,1997 Blood 90:1109−1114;Koeneら,1998 Blood 91:673−679)。図6は、AアイソフォームおよびBアイソフォームの対立遺伝子変種のアミノ酸配列アラインメントを示す。
【0146】
実施例1に記載の、プラスミドpCDM−CD16−Fcによるトランジェント形質転換後のHEK−293細胞において産生された、可溶性CD16A−Fc融合タンパク質は、ヒトCD16A−Fc48R/158V(Mandelboimら,1999、上掲)である。ヒトにおいて、このアイソフォームの158位に2対立遺伝子多形性(FcγRIII−A 158Val/Phe)が生じ、これはナチュラルキラー細胞上のFcγRIII−A 受容体のIgGに対する親和性に影響する。FcγRIII−A 158Valについては、IgGへのより高い親和性が対立遺伝子158Phe型と比較して報告されている(Koeneら,1997 上掲)。
【0147】
scFv 4−LS21のPhe変種への結合を示すために、pCDM−CD16A−Fc48R/158Vの部位特異的突然変異精製を実施して、pCDM−CD16A−Fc48R/158Fを作出した。10ngのpCDM−CD16A−Fc48R/158Vプラスミドを、125ngのプライマーP41、5’ CTGCAGGGGGCTTTTTGGGAGTAAAAATGTG 3’(配列番号47)およびP42、5' CACATTTTTACTCCCAAAAAGCCCCCTGCAG 3'(配列番号48)、25mMの各dNTPおよび2.5単位のPfuUltra HF DNAポリメラーゼ(Stratagene)とともにインキュベーションした。反応を、95℃で30秒間実施し、ついで95℃で30秒間、66℃で60秒間、および68℃で318秒間の16サイクルを行った。生産物をDpnI制限酵素で3時間消化し、および反応を最終的に80℃、20分間のインキュベーションで停止させた。2μlの反応混合物で、ケモコンピテントTOP10/P3細胞(Invitrogen社)を形質転換し、150μlを、10μg/mlのテトラサイクリンおよび25μg/mlのアンピシリンを含有するLBプレート上に広げた。pCDM−CD16A−Fc48R/158Fをコードする核酸配列を配列決定によって確認した。実施例1に記載のように、CD16A−Fc48R/158Fを発現させ、および精製した。
【0148】
それぞれNA1、NA2およびSHで示される3つの異なる対立遺伝子変種(Koeneら,1997 上掲;Koeneら,1998 上掲)としてFcγRIIIB受容体をヒトで発現させた。CD16B対立遺伝子型のヒト細胞外領域をコードする3つの合成遺伝子は、Geneart社(Regensburg、ドイツ)によって合成された。核酸配列を、HindIII/BamHI断片として、受容体のFc領域の核酸配列を含有するpSECプラスミドにクローニングした。実施例1に記載のように、CD16B−FcNA1、CD16B−FcNA2およびCD16B−FcSHを発現させ、および精製した。
【実施例16】
【0149】
ヒトCD16の異なる対立遺伝子変種におけるウェスタン・ブロット
CD16Aアイソフォームに対するscFv 4−LS21の特異性を示すため、異なる対立遺伝子変種のCD16AおよびCD16Bにおいてウエスタンブロット分析を実施した。それぞれ750ngのCD16A−Fc48R/158V、CD16A−Fc48R/158F、CD16B−FcSH、CD16B−FcNA1、CD16B−FcNA2およびNKp46−Fc(ネガティブコントロール)を非還元条件下で8%SDSゲル上にロードし、および膜上へブロッティングした。
【0150】
抗−CD16 scFv A9、抗−CD16A scFv 4−LS21および抗−NKp46 scFv(ネガティブコントロール)をこのブロットを用いて4μg/mlでインキュベーションした。組換タンパク質に結合したscFvの検出は、抗−His−HRP複合体(1μg/mL)を用いて実施した。コントロールとして、HRP 複合化抗−ヒトIgGおよび抗−His−HRP複合体(1μg/mL)を用いた。
【0151】
4−LS21 scFvは、対立遺伝子型のCD16Aのみへの強い結合を示し、CD16B対立遺伝子への結合は観察されなかった。このことは、CD16のAアイソフォームに対するヒト4−LS21 scFvの特異性と、4−LS21が両方の対立遺伝子変種CD16Aを認識することとを示す。対照的に、マウス抗−CD16 scFv A9は、CD16AおよびCD16Bの両方の全ての対立遺伝子変種への均一な結合を示した。
【実施例17】
【0152】
ヒトCD16の異なる対立遺伝子変種におけるELISA
更にCD16Aアイソフォームに対するscFv 4−LS21の特異性を示すため、異なる対立遺伝子変種を用いてELISAを実施した。Maxisorp(商品名)プレートのウエルをそれぞれ200ngのCD16A−Fc48R/158V、CD16A−Fc48R/158F、CD16B−FcSH、CD16B−FcNA1、CD16B−FcNA2またはNKp46−Fc(ネガティブコントロール)を含有する100mM NaHCOでコーティングした。
【0153】
4μg/mlの濃度で抗−CD16A 4−LS21 scFvおよび抗−NKp46 scFvをプレートとともにインキュベーションした。抗−His−HRP複合体(1μg/ml)を用いて、scFvに結合した組換タンパク質の検出を実施した。scFv 4−LS21は、強いCD16Aの両方の対立遺伝子型への強い結合を示したが、CD16B対立遺伝子への結合は観察されず(図7A)、その結果、4−LS21 scFvのCD16Aアイソフォームへの明確な特異性を示した。
【0154】
パラレルのアッセイ(図7B)で、抗−CD16 MAb A9(1μg/ml)を同様にコーティングしたプレートに対してアッセイした。MAb A9(1μg/mL)のインキュベーションの後、ヤギ抗−マウス IgG HRP−複合体を0.5μg/ml(ヒトFcへの最小交叉反応性)で用いた。MAb A9は全ての対立遺伝子変種(両方のCD16AおよびCD16B)に強く結合した。
【実施例18】
【0155】
表面プラスモン共鳴(SPR)による、ヒトCD16の異なる対立遺伝子型に対するscFv 4−LS21およびモノクローナルAb A9の親和性の比較
実施例12に記載のプロトコールに従い、BIAcore2000バイオセンサーシステム(Amersham−Pharmacia社)を用いて、対立遺伝子変種CD16A−Fc48R/158V、CD16A−Fc48R/158F、CD16B−FcSH、CD16B−FcNA1およびCD16B−FcNA2についてのSPRにより、scFv 4−LS21およびMAb A9の親和性定数(K値)を測定した。計算したオフ−およびオン−速度定数および各K値を、表5にまとめた。
【0156】
MAb A9(コントロールとして使用)について予測したように、4−6×10−9Mの範囲のKを全ての対立遺伝子変種について計算したところ、全ての対立遺伝子変種の全ての型へのMAb A9の乱交雑結合を示した。対照的に、scFv 4−LS21は、CD16Aアイソフォームに高度に特異的であることが再び証明された。4−LS21 scFvは、CD16A−Fc48R/158Vに対し、6×10−8Mの範囲のKを示し、CD16A−Fc48R/158Fは4×10−8Mの範囲を示して、CD16Aの両方の対立遺伝子型へ4−LS21 scFvがほぼ等しい親和性で結合することを示した。対照的に、4−LS21は、CD16Bの対立遺伝子型にも結合を示さなかった。
表5 CD16AおよびCD16Bアイソフォームの対立遺伝子変種へのscFv 4−LS21およびMAb A9の結合の反応速度のデータ
【0157】
【表5】

【実施例19】
【0158】
バクテリアにおけるTandAb分子の発現用のプラスミドpSKK3 CD30xCD16LS21 TandAb/(GS)の構築
抗−CD30および抗−CD16A抗体のVおよびV可変領域をコードする遺伝子を、ハイブリドーマHRS−3またはヒトscFvライブラリーから,それぞれ、プラスミドpHOG_scFv(G2S)3 αCD30(HRS−3)およびpSKK2_scFv αCD16A(LS21)を用いて取り出した。
【0159】
プライマーP34、5’CATCACGATATCAGAACCACCGGAGCCGCCGCTACCACCTGAGGACACGGTGACCAGGGTTCCC 3’(配列番号49)、およびP36、5’ CCGGCCATGGCGCAGGTC CAGCTGGTACAGTCTGG 3’(配列番号50)を用いたポリメラーゼ鎖反応により、VH αCD16LS21を増幅させ、PCR産物の3’末端に9アミノ酸リンカー(GlyGlySer)(配列番号51)をコードする核酸配列を生じさせた。得られたPCR断片を、制限酵素NcoI/EcoRVで消化し、NcoI/EcoRV pHOG_scFv(G2S)3αCD30(HRS−3)にクローニングして、ハイブリッドプラスミドpHOG_VHαCD16LS21(G2S)3VLαCD30(G2S)3VHαCD30を作成した。
【0160】
プライマーP35、5’ GGTCACCGTCTCCTCAGGTGGTAGCGGCGGCTC CGGTGGTTCTTCCTATGTGCTGACTCAGCCATCCTC 3’(配列番号52)、およびP37、5’CCTCTAGATTAGTGATGGTGATGGTGATGGGATCCTAGGACGGTCAG CTTGGTCCC 3’(配列番号53)を用いたポリメラーゼ鎖反応によって、抗−CD16A抗体4−LS21のVを増幅させ、PCR産物の5’末端に9アミノ酸リンカー(GlyGlySer)(配列番号52)をコードする核酸配列を生じさせた。得られたPCR断片を制限酵素BsmBI/XbaIで消化し、直線化されたBsmBI/XbaI消化ハイブリッドプラスミドpHOG_VHαCD16LS21(G2S)3VLαCD30(G2S)3VHαCD30にクローニングし、プラスミドpHOG CD30xCD16LS21 TandAb/(GS)を得た。このプラスミドをNcoI/XbaIで切断し、NcoI/XbaI直線化プラスミドpSKK3にライゲーションした。
【実施例20】
【0161】
バクテリアでの TandAb分子の発現のためのプラスミドpSKK3 CD19×CD16LS21 Tandab/(GS)の構築
抗CD19抗体のVHおよびVL可変領域をコードする遺伝子を、プラスミド pSKK3_scFv(G2S)3α CD19を使ったハイブリドーマ HD37(HD37)から得た。プラスミドpSKK3_scFv(G2S)3α CD19(HD37)を、NcoI/BsmBIによって切断し、挿入断片をアガロースゲルにおいて精製した。ついで、精製した断片を、制限酵素 EcoRVで消化した。EcoRV/BsmBI消化断片を直線化EcoRV/BsmBIプラスミド pHOG CD30xCD16 LS21 TandAb/(GS)にクローニングし、プラスミド pHOG CD19xCD16 LS21 TandAb/(GS)を得た。プラスミド pHOG CD19xCD16 LS21 TandAb/(GS) をNcoI/XbaIで切断し、NcoI/XbaI 線形化プラスミド pSKK3にライゲーションした。得られたプラスミドは、抗CD19×抗CD16A TandAbをコードするpSKK3 CD19xCD16ALS21 TandAb/(GS)である。
【実施例21】
【0162】
バクテリアにおけるCD30xCD16 LS21 TandAb/(GS)およびCD19xCD16 LS21 TandAb/(GS) 分子の発現および精製
発現プラスミド pSKK3 CD30xCD16 LS21 TandAb/(GS)およびpSKK3 CD19xCD16 LS21 TandAb/(GS)で形質転換したE.coli K12株RV308(Maurerら,1980、J.Mol.Biol.139:147−161)のサンプルを、50μg/mlアンピシリンおよび100mM グルコース(2×YTGA)を含有する2×YT培地中、28℃で、一晩生育させた。2xYTGA中の一晩培養物の希釈物(1:50)を、28℃、200rpm振とうでフラスコ培養として生育させた。培養物が、OD6000.8に達した時点で、細菌を9500g、15分間、20℃の遠心で沈降させ、同容量の新しい、50μg/mlアンピシリンを添加したYTBS培地(1M ソルビトールおよび2.5mM グリシンベタインを含有する2×YT;Blacwell & Horgan、1991、FEBS Letters 295:10−12)に再懸濁した。IPTGを最終濃度0.2mMで添加して、培養を21℃、18−20時間継続した。細胞を、14000g、20分間、4℃の遠心分離で回収した。可溶性周辺質タンパク質を単離するため、沈降した細菌を5%の初期容量の氷冷200mM Tris−HClTris−HCl、20% スクロース、1mM EDTA、pH8.0に再懸濁した。随時攪拌しながら氷上で1時間インキュベーションした後、スフェロプラストを14000g、60分間、4℃で遠心分離し、可溶性ペリプラズム抽出物を上清中に残し、このスフェロプラストにペレット中の不溶性ペリプラズム物質を加えた。ペリプラズム画分を開始緩衝液(50mM Tris−HClTris−HCl、1M NaCl、50mM イミダゾール pH7.0)に対して、4℃で透析した。組換え産物を含有する透析溶液を、14000g、30分間、4℃で遠心分離した。Cu2+で荷電し、50mM Tris−HCl、1M NaCl、pH7.0(開始緩衝液)で平衡化した、Chelating Sepharose Fast Flow(GE Healthcare Biosciences社、Freiburg、ドイツ)の1mlカラムを用いて、固定化した金属親和性クロマトグラフィー(IMAC)を4℃で、実施した。試料を、カラムを通過させることによって、ロードした。ついで、これを20カラム容量の開始緩衝液、ついで溶出液の吸収(280nm)が最小(約30カラム容量)になるまで50mMイミダゾールを含有する開始緩衝液で洗浄した。吸収された物質を、50mM Tris−HCl、1M NaCl、300mM イミダゾール、pH7.0で溶出させた。このTandAb分子を含有する溶出画分を、ペンタHis(商品名)抗体 BSA不含有(Qiagen、Hilden、ドイツ)、ついで西洋ワサビペルオキシダーゼで標識したヤギ抗−マウスIgG(Dianova社、Hamburg、ドイツ)を用いて、ウエスタンブロット分析で同定した。
【0163】
ポジティブの画分を蓄積し、プレパックされたPD−10(GE Healthcare Biosciences社、Freiburg、ドイツ)(それぞれ、CD30xCD16 LS21 TandAb/(GS)およびCD19xCD16LS21 TandAb/(GS))を用いた、50mM イミダゾール、50mM NaCl(pH6.0)または50mM MES、50mM NaCl(pH5.5)で緩衝液交換を行った。タンパク質溶液の濁りを遠心分離によって清澄にした。最終の精製は、0−1M NaCl直線勾配を用いた50mM イミダゾール、50mM NaCl(pH6.0)または50mM MES、50mM NaCl(pH5.5)(それぞれCD30xCD16 LS21 TandAb/(GS)およびCD19xCD16 LS21 TandAb/(GS))での、MonoS HR5/5カラム(GE Healthcare Biosciences、Freiburg、ドイツ)におけるイオン交換クロマトグラフィーで行った。TandAb分子を含有する溶出画分を、還元15% SDS−PAGE、ついでクマシー染色によって。ポジティブ画分を集め、プレパックされたPD−10(GE Healthcare Biosciences社、Freiburg、ドイツ)を用いて、50mM イミダゾールおよび10mM トレハロースを含有するPBS(pH 6.0または7.0)(それぞれCD30xCD16LS21 TandAb/(GS)およびCD19xCD16LS21 TandAb/(GS))で緩衝液交換を行った。
【実施例22】
【0164】
フローサイトメトリーによる、CD30xCD16LS21 Tandab/(GS)およびCD19xCD16LS21 TandAb/(GS)分子の性質決定
CD16Aへの結合を測定するため、実施例7に記載したように、HEK−293 細胞をpcDNA3−CD16A−ゼータ プラスミド(Dr.O.Mandelboim、Jerusalem大学、イスラエル)を用いてリン酸カルシウム法でトランジェントに形質転換し、フローサイトメトリーのため形質転換の40時間後に回収した。有毛状細胞性白血病セルラインJOK−1(Schwartz−Albiez R,Dorken B,Monner DA、Moldenhauer G、(1991) Int Immunol 3:623、Dr.G.Moldenhauer、DKFZ、Heidelbergの親切なる贈り物)を用いて、CD19への結合を測定した。CD30での反応性を試験するため、染色をヒト・ホジキン・セルラインL540CY(V.Diehl博士、Cologne大学、ドイツから親切に提供を受けた;Kapp U、Wolf J、von Kalle C、Tawadros S、Rottgen A、Engert A、Fonatsch C、Stein H、Diehl V.(1992) Ann Oncol. Sep;3 Suppl 4:21−3)を用いて行った。細胞の染色および分析を、基本的に上記のように行った。全ての組換え抗体を10μg/mL MAb 抗−ヘキサ His 13/45/31−2 (Dianova、Hamburg、ドイツ)、ついで15μg/mL FITC−複合化ヤギ 抗−マウスIgG(Dianova)で検出した。
フローサイトメトリー分析は、CD30xCD16LS21 TandAbおよびCD19xCD16LS21 TandAb抗体の両方の、対応抗原を発現する細胞への強い結合を示した。TandAb抗体の両方は、CD16A−発現細胞に、ほぼ等しい親和性で結合した。
【実施例23】
【0165】
親和性測定
対立遺伝子変種、48R/158Vおよび48R/158F、におけるscFv 4−LS21のK値の測定により、表面プラスモン共鳴で測定されたように、同等の約5×10−8MのK値が示され、両方の対立遺伝子変種は、ほぼ同じ親和性(実施例12を参照)で認識されることを示した。この知見は、TandAb CD30xCD16LS21由来の4−LS21で確認され、これもまたCD16Aの両方の対立遺伝子変種にほとんど同一の親和性での結合を示した。4−LS21 scFvと比較して、結合性の増加による、ファクター10以上の親和性における改良が、TandAb抗体で観察された。
【実施例24】
【0166】
細胞障害性分析によるCD30xCD16LS21 TandAb/(GS)および CD19xCD16LS21 TandAb/(GS)分子の性質決定
NK細胞を標的細胞に集めること、および受容体の架橋によるNK細胞の活性化によって、CD30xCD16LS21およびCD19xCD16LS21 TandAb抗体が、インビトロの細胞傷害性を活性化するかどうかを確認するため、非−放射活性細胞傷害性アッセイを、基本的にT.Dreierら(2002、Int J Cancer 100:690−697)に従って、実施した。前記のようにエフェクター細胞として用いたNK細胞を、PBMCから濃縮した。それぞれのケースで濃縮したNK細胞の純度および抗原発現をフローサイトメトリーでチェックした(データは示していない)。
【0167】
CD30 L540CY標的細胞またはCD19 JOK−1またはRaji標的細胞を、10% FCS、2mM L−グルタミン、ならびに100 IU/mL ペニシリンGナトリウムおよび100μg/mL 硫酸ストレプトマイシンを添加したRPMI1640培地(以下、本明細書中、RPMI培地と称する場合がある;全ての成分はInvitrogen社から入手した。)中で培養した。細胞傷害性アッセイのため、10μM カルセインAM(Molecular Probes/Invitrogen社)を用いて、30分間、RPMI培地中、37℃で細胞を標識した。緩やかに洗浄した後、標識細胞をRPMI培地に1x10/mLの濃度に再懸濁した。ついで、1x10の標的細胞を、CD30xCD16LS21 TandAbまたはCD19xCD16ALS21のいずれかを有する、1x10の濃縮NK細胞とともに、丸底の96−ウエル・マイクロタイタープレートの個々のウエル中に、総量200μl/ウエルで播種した。2分間、200gの遠心後、アッセイ物を3時間、37℃、5% COの湿雰囲気下でインキュベーションした。インキュベーション終了の15分前に、RPMI培地中10% Triton X−100 20μlを、標的細胞のみを含むウエルに加えた。他の全てのウエルには、20μlのRPMI培地を加えた。100μlの細胞培養上静を、5分間、500gの更なる遠心後に各ウエルから回収し、放出されたカルセインの蛍光を蛍光プレートリーダーを用いて520nmで測定した(Victor 3、Perkin Elmer)。測定されたカウントに基づき、特異的細胞溶解を次式に従って計算した:[蛍光(試料)−蛍光(自然発生)]/[蛍光(最大)−蛍光(自然発生)]×100%。蛍光(自然発生)は、エフェクター細胞および抗体不存在下での標的細胞由来の蛍光カウントを表し、および蛍光(最大)は、Triton X−100の添加によって誘導された細胞溶解の合計を示す。Prismソフトウエア(GraphPad Software)を用いてシグモイド投与応答カーブをプロットした(図8参照)
この結果は、TandAb−活性化NK細胞による標的細胞の特異的溶解を示す。対照的に、CD19xCD16LS21 TandAbは、CD19−L540CY標的細胞の溶解を誘導せず、逆もまた同様であり、CD30xCD16LS21TandAbは、NK細胞のCD30 JOK−1細胞の殺滅を誘導しなった。NK細胞の不存在下では、CD30xCD16LS21 TandAbもCD19xCD16LS21 TandAbも標的細胞細胞傷害性活性を示さなかった。
【図面の簡単な説明】
【0168】
【図1】scFv50NIのストレプトアビジン捕捉CD16−Fcへの結合を示すELISAの結果 ELISAプレートを、ウエルあたり、100mM NaHCO、pH8.6中、500ngのストレプトアビジンおよび300ngのヒトIgG(Sigma−Aldrich社、Taufkirchen、ドイツ)でコートした。ついで、300ngのビオチン化CD16A−FcをPBS中、室温で、30分間、吸収させた。ストレプトアビジン捕捉CD16A−Fc、ストレプトアビジンおよびヒトIgGを、PBS/TWEEN 0.1%/2% スキムミルク粉末中、1μg/mLのマウスMAb A9または50μlのクローン50NI由来粗精製ペリプラズム抽出物とともに、インキュベーションした。MAb A9の結合を、ヤギ抗−マウス抗体−HRP複合体を用いて検出した。scFv 50NIの結合を、抗−ペンタHis 抗体−HRP−複合体を用いて検出した。HRP−基質 テトラメチルベンジジン(TMB)の450nmでの吸収を、50μlの0.5M 硫酸での反応終結後に測定した。
【図2】CD16Aを発現する細胞形質転換体に結合するが、CD16Bを発現する細胞に結合しない親和性成熟ヒト抗−CD16 scFv マウスBW細胞およびCD16A(BW/CD16A)で安定に形質転換したBW細胞、HEK−293細胞およびCD16B(293/CD16B)、CD16A(293/CD16A)またはNKp46(293/NKp46)で形質転換したHEK−293細胞を、10μg/mLのMAb A9(抗−CD16)またはMAb195314(抗−NKp46)で、ついで15μg/mLのFITC−複合化ヤギ抗−マウスIgGで染色した。抗−CD16 scFvを50μg/mLの濃度で用い、10μg/mL MAb 13/45/31−2(抗−ヘキサHis)、ついでFITC−複合化ヤギ抗−マウスIgGを用いて検出した。フローサイトメトリー分析で得られた平均蛍光強度を、2次試薬のみを用いた細胞からの染色蛍光値を差し引いて訂正し、図にプロットした。
【図3】組換えCD16A−FcおよびCD16BにおけるELISA 組換えCD16A−FcおよびCD16Bタンパク質を、0.1M NaHCO、pH8.8中、80nMでコートした。ウエルを、PBS、2% スキムミルクでブロックした。組換えタンパク質およびgp34−Fc(ネガティブコントロール)へのscFvの結合を、抗−c−Myc−HRP複合体(10μg/ml)を用いて検出した。抗−CD16 MAb A9(1μg/mL)、ついでヤギ抗−マウスIgG HRP−複合体(0.5μg/mL)とインキュベーションした。コートされた組換えCD16Bを、抗−His−HRP(1μg/mL)を用いた染色により直接検出しし、Fc−融合タンパク質のコーティングを、抗−ヒトIgG−HRP複合体(0.5μg/mL)によって試験した。HRP−基質として、50μLのTMBを用いた。50μLの0.5M HSOを用いた反応終結後、吸収を450nmで測定した。
【図4】新たに単離したNK細胞における、ヒト親和性成熟抗−CD16 scFvによってリダイレクトされた細胞傷害性のトリガリング 健常ドナーの末梢血由来のNK細胞を単離、濃縮し、標的細胞としてカルセイン標識化P815を用いた細胞傷害性アッセイにおけるエフェクター細胞として用いた。エフェクター(E)および標的(T)細胞を、1μg/mLの指示抗体の存在下、10:1のE:T比で3時間インキュベーションした。特異的溶解のパーセンテージを、上清中に放出されたカルセインの測定された蛍光カウントから計算した。3回の平均値および標準偏差をプロットした.
【図5】PMNおよびNK細胞における親和性成熟抗−CD16 scFvのフローサイトメトリー分析 多形核細胞(PMN)およびナチュラルキラー(NK)細胞を健常ドナー由来の末梢血から単離し、フローサイトメトリー染色および分析に用いた。細胞を10μg/mLの抗−CD16 MAb A9および抗−CD56 MAb B159、ついで15μg/mL FITC−複合化ヤギ抗−マウスIgGで染色した。全てのscFvを50μg/mLの濃度で用い、10μg/mLの抗−(His)、ついで15μg/mLのFITC−複合化ヤギ抗−マウスIgGで検出した。フローサイトメトリー分析から得られた平均蛍光強度を、2次試薬のみを用いた細胞染色からの蛍光値を差し引いて訂正し、図にプロットした。
【図6】CD16AおよびCD16Bアイソフォームの対立遺伝子変種のアミノ酸配列アラインメント シグナルペプチドを影付きで示す。アスタリスクと斜体テキストは、CD16B対立遺伝子変種の間での相違を示す。CD16AおよびCD16Bアイソフォームの相違を太字および下線で示す。CD16A 158Val/Phe多形性の位置をボックスで示す。
【図7】異なるCD16アイソフォームにおけるELISA Maxisorp(商品名)プレートのウエルを、200ngのCD16A−Fc48R/158V、CD16A−Fc48R/158F、CD16B−FcSH、CD16B−FcNA1、CD16B−FcNA2およびNKp46−Fcを含有する100mM NaHCOでコートした。全ての抗原を、[A]scFv 4−LS21、ついでHRP複合化抗−His抗体、または[B]MAb A9、ついでヤギ抗−マウスHRP複合体(ヒトIgGとの最小交叉反応性)とインキュベーションした。一次抗体として用いた抗−NKp46 scFvは、ネガティブコントロールとして作用した。
【図8】TandAb−活性化NK細胞による標的特異的殺滅。1×10の指示カルセイン標識L540CY(結果をパネル[A]に示す)またはJOK−1標的細胞(結果をパネル[B]に示す)を、1×10のNK細胞とともに、指示濃度のCD30×CD16 TandAb(黒い菱形)またはCD19xCD16 TandAb(白い菱形)の存在下で3時間インキュベーションした。特異的溶解の割合は、測定された放出カルセインの蛍光カウントから計算し、GraphPadPrismソフトウェアを用いて非線形回帰分析で分析した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの抗原に対する特異性を有する結合分子であって、当該少なくとも1つの抗原がFcγRIIIAであり、かつ特異的にFcγRIIIBに結合しない結合分子。
【請求項2】
FcγRIIIAに対する特異性が抗体またはその抗原結合断片によって与えられる請求項1記載の結合分子。
【請求項3】
FcγRIIIAに対する特異性が抗原結合断片によって与えられる請求項2記載の結合分子。
【請求項4】
抗原結合断片が、免疫グロブリン軽鎖、免疫グロブリン重鎖、Vドメイン、Vドメイン、Fv、Fab、di−Fab、Fab’、F(ab’)、scFv、およびCDRからなる群から選択される、請求項3記載の結合分子。
【請求項5】
抗体または抗原結合断片が、少なくとも1つのヒトCDRを含有する、請求項2〜4のいずれか1項記載の結合分子。
【請求項6】
CDRが、配列番号20、23、26、29、33、34、21、24、27、30、31、35、22、25、28、32、17、18、および19からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項5記載の結合分子。
【請求項7】
抗原結合断片の抗体が、3つのヒト軽鎖CDRを含有する、請求項2〜6のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項8】
ヒト軽鎖CDR1の配列が、配列番号20、23、26、29、33、および34からなる群から選択され、ヒト軽鎖CDR2の配列が、配列番号21、24、27、30、31、および35からなる群から選択され、ならびにヒト軽鎖CDR3の配列は配列番号22、25、28、および32からなる群から選択される、請求項7に記載の結合分子。
【請求項9】
抗原結合断片または抗体が、3つのヒト重鎖CDRを含有する、請求項2〜8のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項10】
ヒト重鎖CDR2の配列が配列番号18であり、ヒト重鎖CDR1の配列が配列番号17であり、およびヒト重鎖CDR3の配列が配列番号19である、請求項9に記載の結合分子。
【請求項11】
抗体または抗原結合断片がヒト軽鎖可変部を含有する、請求項2〜8のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項12】
ヒト軽鎖可変部が配列番号10〜16からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項11記載の結合分子。
【請求項13】
抗体または抗原結合断片がヒト重鎖可変部を含有する、請求項2〜12のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項14】
ヒト重鎖可変部が配列番号9のアミノ酸配列を有する、請求項13記載の結合分子。
【請求項15】
抗体または抗原結合断片が完全ヒト型である、請求項2〜14のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項16】
FcγRIIIAを発現しているヒト細胞を活性化できる、先行する請求項のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項17】
NK細胞媒介細胞殺滅を誘導可能な請求項16記載の結合分子。
【請求項18】
FcγRIIIAを発現しているヒト細胞の活性化を阻害する請求項15記載の結合分子。
【請求項19】
結合分子が少なくとも1つの更なる抗原に対する特異性を有する、先行する請求項のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項20】
少なくとも1つの更なる抗原が細胞表面抗原である請求項19記載の結合分子。
【請求項21】
細胞表面抗原がCD19、CD20、CD30、ラミニン受容体前駆体、EGFR1、EGFR2、EGFR3、Ep−CAM、PLAP、トムセン−フリーデンライヒ抗原、MUC−1、IL4−Rアルファー、IL13−R、IGFR、FcεRIおよびCD5から選択される、請求項20記載の結合分子。
【請求項22】
細胞表面抗原がCD19またはCD30である請求項20または請求項21記載の結合分子。
【請求項23】
少なくとも1つの更なる抗原が病原体由来である請求項19または請求項20記載の結合分子。
【請求項24】
病原体がウイルス、細菌、真菌、マイコプラズマ、寄生体またはプリオンである請求項23記載の結合分子。
【請求項25】
更なる抗原に対する特異性が抗体またはその抗原結合断片によって与えられる請求項19〜24のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項26】
抗体が、キメラ抗体、CDR移植抗体、ヒト化抗体、および完全ヒト抗体から選択される請求項25記載の結合分子。
【請求項27】
少なくとも1つの更なる抗原に対する特性が抗原結合断片によって与えられる請求項25または請求項26記載の結合分子。
【請求項28】
抗原結合断片が免疫グロブリン軽鎖、免疫グロブリン重鎖、Vドメイン、Vドメイン、Fv、Fab、di−Fab、Fab’、F(ab’)、scFv、およびCDRから選択される請求項26記載の結合分子。
【請求項29】
ダイアボディまたはTandAbである請求項27または請求項28記載の結合分子。
【請求項30】
前記結合分子が更に機能ドメインを含有する、先行する請求項のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項31】
機能ドメインが、抗体Fcドメイン、抗体依存酵素プロドラッグ治療における使用のための酵素、Fc受容体に結合可能なペプチド、結合分子の血中半減期を増加させるためのタンパク質またはペプチドから選択される、請求項30記載の結合分子。
【請求項32】
前記結合分子が、FcγRIIIA158V対立形質変種に結合する親和性とほぼ同じ親和性で、FcγRIIIA158F対立形質変種に結合可能である、先行する請求項のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項33】
結合分子が標識分子または毒素に結合している、先行する請求項のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項34】
標識分子が放射能標識、蛍光標識、または発光標識である請求項33記載の結合分子。
【請求項35】
先行する請求項のいずれか1項に記載の結合分子、および少なくとも1つの更なる成分を含有する組成物
【請求項36】
適当な薬学的担体、賦形剤、希釈剤および/または安定剤を含有する請求項35記載の組成物。
【請求項37】
請求項1〜34のいずれか1項に記載の結合分子をコードするポリヌクレオチド。
【請求項38】
FcγRIIIAに対する特異性を有する抗体または抗原結合断片が
a)配列番号2〜8からなる群から選択される核酸配列によってコードされるヒト軽鎖可変領域および/または;
b)配列番号1の核酸配列によってコードされるヒト重鎖可変領域
を含有する請求項37記載のポリヌクレオチド。
【請求項39】
配列番号2〜8からなる群から選択される核酸配列によってコードされる第1の軽鎖可変領域、配列番号1の核酸配列によってコードされる第1の重鎖可変領域、第2の軽鎖可変領域、および第2の重鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドであって、当該第2の軽鎖および重鎖の可変領域がCD19に対する親和性を有する、請求項37または請求項38記載のポリヌクレオチド。
【請求項40】
配列番号2〜8からなる群から選択される核酸配列によってコードされる第1の軽鎖可変領域、配列番号1の核酸配列によってコードされる第1の重鎖可変領域、第2の軽鎖可変領域、および第2の重鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドであって、当該第2の軽鎖および重鎖の可変領域がCD30に対する親和性を有する、請求項37または請求項38記載のポリヌクレオチド。
【請求項41】
作動可能にプロモーター領域および所望により転写終結領域に連結された請求項37〜40のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
【請求項42】
ポリヌクレオチドが作動可能にプロモーター領域およびシグナル配列に連結された請求項41記載のベクター。
【請求項43】
請求項37〜40のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド、または請求項41記載もしくは請求項42のベクターを含有する宿主細胞。
【請求項44】
細菌細胞、真菌細胞、昆虫細胞、哺乳類細胞、または植物細胞から選択される、請求項43記載の宿主細胞。
【請求項45】
請求項37〜40のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド、または請求項41記載もしくは請求項42のベクターを宿主細胞へ導入することと、結合分子が発現される条件下で宿主細胞を培養培養することとを含有する、結合分子の製造方法。
【請求項46】
更に結合分子の単離および所望による精製を含有する請求項45記載の方法。
【請求項47】
(a)請求項37〜40のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド、または請求項41記載もしくは請求項42のベクターを宿主細胞へ導入すること、
(b)請求項1〜32のいずれか1項に記載の結合分子が発現される条件下で宿主細胞を培養すること、
(c)工程(b)で発現した結合分子を単離すること、および
(d)工程(c)で単離した結合分子を標識または毒素と複合化すること
を含有する、請求項33記載の結合分子の製造方法。
【請求項48】
自己免疫疾患、炎症疾患、感染症、アレルギーまたはがんの診断または治療における使用のための、請求項1〜34のいずれか1項に記載の結合分子、または請求項35または請求項36記載の組成物。
【請求項49】
がんが、非ホジキンリンパ腫、慢性リンパ性白血病、悪性リンパ肉芽腫症、固形腫瘍、微小残存病変、および転移性腫瘍からなる群から選択される、請求項48記載の結合分子又は組成物。
【請求項50】
非ホジキンリンパ腫、慢性リンパ性白血病、悪性リンパ肉芽腫症、固形腫瘍、微小残存病変、または転移性腫瘍の治療のための医薬の製造における、請求項1〜34のいずれか1項に記載の結合分子、または請求項35もしくは請求項36に記載の組成物の使用。
【請求項51】
FcγRIIIAを発現する細胞の染色、生体外での患者細胞プロファイルの分析、または生体外治療のためのNK細胞の単離のための試薬としての請求項33または請求項34記載の結合分子の使用。
【請求項52】
請求項1〜34のいずれか1項に記載の結合分子およびFcγRIIIAへの結合時の結合分子を検出する手段を含有するキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−541714(P2008−541714A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−512781(P2008−512781)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【国際出願番号】PCT/EP2006/005057
【国際公開番号】WO2006/125668
【国際公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(505084642)アフィメート テラポイティクス アーゲー (2)
【Fターム(参考)】