説明

抗MRSA化合物

【課題】MRSAに対して優れた抗菌活性を有する新規化合物の提供。
【解決手段】ヒマワリなどの半身萎ちょう病の病原菌である土壌伝染性糸状菌に属するバーティシリウムダーリエ(Verticillium dahliae)の培養液から分離精製にて取得することができる、下記の一般式(1)で表される化合物(式中、Rはアルキル基または水素原子を示す)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MRSAに対して有効な新規化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
ペニシリン系抗生物質に属するメチシリンに対する薬剤耐性を獲得した黄色ブドウ球菌であるMRSA(Methicillin−Resistant Staphylococcus Aureus:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の出現は、臨床の現場に多くの問題を引き起こし、国内外を問わずその対策に苦慮していることは周知の通りである。そのため、MRSAへの感染の予防方法や治療方法に関する種々の研究開発が精力的に行われている。その1つにMRSAに対して抗菌活性を有する化合物の探索が挙げられ、例えば特許文献1には、海洋細菌が産生するシクロプロジギオシンがMRSAに対する抗菌活性を有することが記載されている。しかしながら、MRSAに対して優れた抗菌活性を有するとともに、毒性が低くて安全な化合物の探索は、今なお意義深い状況にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−120564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、MRSAに対して優れた抗菌活性を有するとともに、毒性が低くて安全な新規化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、ヒマワリなどの半身萎ちょう病の病原菌として知られている土壌伝染性糸状菌に属するバーティシリウム ダーリエ(Verticillium dahliae)の培養液に、MRSAに対して優れた抗菌活性を有するとともに、細胞毒性が低い化合物が含まれていることを知見した。
【0006】
上記の知見に基づいてなされた本発明は、請求項1記載の通り、下記の一般式(1)で表される化合物(式中、Rはアルキル基または水素原子を示す)である。
【化1】

また、本発明は、請求項2記載の通り、バーティシリウム ダーリエ(Verticillium dahliae)の培養液から分離精製することによる上記の一般式(1)で表される化合物(式中、Rはアルキル基または水素原子を示す)の取得方法である。
また、本発明は、請求項3記載の通り、上記の一般式(1)で表される化合物(式中、Rはアルキル基または水素原子を示す)またはその薬学的に許容される塩を有効成分とする抗MRSA剤である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、MRSAに対して優れた抗菌活性を有するとともに、毒性が低くて安全な新規化合物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の化合物は、下記の一般式(1)で表される(式中、Rはアルキル基または水素原子を示す)。本発明の化合物において、Rのアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基などの炭素数が1〜4の低級アルキル基が挙げられる。本発明の具体的な化合物としては、Rがメチル基である化合物(デオキシネオフサピロン)とRが水素原子である化合物(7−デスメチルデオキシネオフサピロン)が挙げられる。
【化2】

【0009】
本発明の化合物は、例えば、ヒマワリなどの半身萎ちょう病の病原菌として知られている土壌伝染性糸状菌に属するバーティシリウム ダーリエ(Verticillium dahliae)の培養液から分離精製することによって取得することができる。バーティシリウム ダーリエの培養は、糸状菌の一般的な培養方法に従って行えばよい。本発明の化合物の培養液からの分離精製は、一般的な微生物代謝産物の分離精製方法、例えば、アルコール(メタノールやエタノールなど)、酢酸エチル、アセトン、ヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタン、アセトニトリルなどの有機溶媒や水を用いた抽出操作、イオン交換樹脂、非イオン性吸着樹脂、ゲルろ過クロマトグラフィー、活性炭やアルミナやシリカゲルなどの吸着剤によるクロマトグラフィーおよび高速液体クロマトグラフィーを用いた分離操作の他、結晶化操作、減圧濃縮操作、凍結乾燥操作などの各種操作を単独または適宜組み合わせて行えばよい。なお、本発明の化合物は、有機合成化学的手法で合成されたものであってもよい。本発明の化合物には不斉炭素の存在に基づく全ての光学異性体が含まれる。
【0010】
本発明の化合物やその薬学的に許容される塩は、例えば、その優れたMRSAに対する抗菌活性に基づいて抗MRSA剤の有効成分として用いることができる。この場合、本発明の化合物やその薬学的に許容される塩は、高度に精製された形態で製剤化されてもよいし、例えば、バーティシリウム ダーリエ(Verticillium dahliae)の培養液からの粗分離精製物の形態で製剤化されてもよい。製剤形態としては、例えば、液状剤、注射剤、錠剤、散剤などが挙げられる。製剤化の方法は特段限定されるものではなく、自体公知の方法で行うことができる。その投与量は、適用対象者の年齢や性別、症状の程度などに基づいて適宜設定すればよい。なお、本発明の化合物の薬学的に許容される塩としては、ナトリウム塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩が挙げられる。
【実施例】
【0011】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0012】
実施例:
青森県(津軽地方)において半身萎ちょう病に感染したヒマワリから単離したバーティシリウム ダーリエ(Verticillium dahliae)の菌株を、ポテトスクロース培地(ポテト680g、スクロース68g、3.4L:200mL×17)を用い、バッフルフラスコ内で温度25℃にて23日間振とう培養(130rpm)した。各バッフルフラスコ内の培養液を200mLのメタノールで希釈した後、全てを合わせ、セライトパッドでろ過した後、得られた濾液を全量が約1Lになるまで35℃にてロータリーエバポレーターを用いて濃縮した。得られた水性溶液をアンバーライトXAD−7(800g)にロードし、20%メタノール/水と40%メタノール/水を流して洗浄した後、60%メタノール/水を流し、溶出した画分を集め、濃縮することで、300mgの固体を得た。次に、この固体を少量のメタノールに溶解し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(50%メタノール/酢酸エチル)とODS Sep−Pak(10g、90%メタノール/水)でさらに分画した後、HPLC(Waters μ−bondasphere C18、150×19mm I.D.、0.1%のTFAを含有する70:30のアセトニトリル:水、10mL/分flow)で精製することにより、保持時間が24分の物質1(10.4mg)と保持時間が20分の物質2(6.9mg)をそれぞれ無色の粘性オイル状物質として得た。
各種の機器分析の結果から、両者はいずれも4−ヒドロキシ−2−ピロン構造を有する新規化合物であり、物質1をデオキシネオフサピロン(deoxyneofusapyrone)、物質2を7−デスメチルデオキシネオフサピロン(7−desmethyldeoxyneofusapyrone)と命名した。両者のそれぞれの物性データを以下に示す。また、NMRスペクトルデータ(in CDOD)を表1に示す(炭素Noの帰属は下記の構造式を参照のこと)。
【0013】
(物質1:デオキシネオフサピロン)
[α]25:−16(c0.23,MeOH)、UV(8.4×10−5mol/L in MeOH)λmax:205(ε17000),237(ε12000),288(ε5000)nm、IR(neat):3379,2924,1678,1385cm−1、ESIMS(m/z=591.3925)、C3454
(物質2:7−デスメチルデオキシネオフサピロン)
[α]25:−29(c0.38,MeOH)、UV(8.6×10−5mol/L in MeOH)λmax:205(ε15000),238(ε16000),288(ε5000)nm、IR(neat):3382,2927,1682,1435cm−1、ESIMS(m/z=577.3750)、C3352
【0014】
【表1】

【0015】
【化3】

【0016】
デオキシネオフサピロンのMRSAに対する抗菌活性を、MRSA(国立大学法人弘前大学付属病院において分離同定された菌株)を混濁したトリプチックソイ寒天培地のスポットにデオキシネオフサピロンを含有する被検溶液10μLを添加することで評価したところ、デオキシネオフサピロンは10μgで鮮明な生育阻止円を形成した。また、デオキシネオフサピロンは1μg/mLの濃度でHeLa細胞とHepG2細胞に対して細胞毒性を示さなかった。以上の結果から、デオキシネオフサピロンは毒性が低くて安全な抗MRSA剤の有効成分になりうることがわかった。また、7−デスメチルデオキシネオフサピロンも同様の性質を有していた(別途の実験による)。
【0017】
製剤例(注射剤):
デオキシネオフサピロン100mgを適量のエタノールに溶解し、注射用水で希釈して全量を10mLとした後、ろ過滅菌してから5mLバイアルに分注することで、注射剤を製造した。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は、MRSAに対して優れた抗菌活性を有するとともに、毒性が低くて安全な新規化合物を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)で表される化合物(式中、Rはアルキル基または水素原子を示す)。
【化1】

【請求項2】
バーティシリウム ダーリエ(Verticillium dahliae)の培養液から分離精製することによる下記の一般式(1)で表される化合物(式中、Rはアルキル基または水素原子を示す)の取得方法。
【化2】

【請求項3】
下記の一般式(1)で表される化合物(式中、Rはアルキル基または水素原子を示す)またはその薬学的に許容される塩を有効成分とする抗MRSA剤。
【化3】


【公開番号】特開2011−93859(P2011−93859A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−251010(P2009−251010)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】