説明

折板屋根に対する太陽光発電パネル取り付け用架台の固定方法

【課題】 薄鋼板からなる折板屋根に対して太陽光発電パネル取り付け用架台を固定するにあたり、前記折板屋根の上面側からのみの施工によって前記折板屋根の剛性を最大限に活用した、確実な固定を可能とする施工方法に関する。
【解決手段】 長尺ナット5を折板屋根1の上面側からし下面側へ挿入し、前記ナット5を前記折板屋根1の下面側へ吊り下げた状態で、ボルト6を挿入し完全に締めこまない状態で一時的に螺合させ、その後、前記ボルト6を更に締めこむことによって前記ナット5を一方向に前記ボルト6と共に回転させ、前記ナット5の外周面の一部が前記折板屋根1の下面側の周壁に当接することで前記ボルト6と前記ナット5の螺合が促進されて完全固定されることで、施工完了時における前記ナット5の方向を均一にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄鋼板からなる折板屋根への太陽光発電パネル取付用架台の固定方法、及びそれに使われるナットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、前記折板屋根への前記架台の固定において、特許文献1における<発明が解決しようとする課題>にも記載されているように、ボルトを屋根の下側から上方へ挿通して、屋根の上側でナット締めするため、屋根の下側と上側で一人ずつ作業者が必要で、一人では取り付け作業ができないという問題があった。
【0003】
そこで、特許文献1に記載の発明において、屋根材にしかるべき下穴を設けた後、ボルトに上金具、回り止め金具、パッキンを介在させ、ボルトがナットの締め込み時に共回りを発生させないようにした状態で、太陽電池モジュール取付け用ベースレール(本願でいうところの架台)のボルト挿通穴を介して屋根材の裏面までボルトを挿入させ、屋根上でのボルトの挿入作業終了後、屋根下から作業者がボルトにナットを締めこんでいくという固定方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の発明において、作業者は先ず屋根材の上面側にて施工を実施した後、屋根材の下面側に回りこんで作業を行わなければならず、非常に作業効率が悪いという問題があった。
【0005】
さらに、屋根材の下面側に回りこんで行う作業は、屋内に足場を設けなければならず、施工中は屋内に施工業者以外の人間が立ち入ることができないという問題があった。
【0006】
これは、前記折板屋根が主に用いられる工場施設において、施工期間中の業務運営が阻害されてしまい、施主においても非常に大きな問題を発生させるものであった。
【0007】
それらの問題を鑑み、特許文献2に記載の発明において、屋根材に下穴を設けた後、取付ボルトにワンサイド座金を係合させ、ボルトの頭部側を屋根材の上面側から架台を介して前記下穴に挿入し、前記ワンサイド座金を自重により該ボルトが同軸的に挿通する姿勢から該ボルトと同軸的な姿勢へ展開可能に設けられることによって、屋根材の下側面に該ボルトの抜け留め部を形成することができ、施工者が屋根材の上面側からのみの施工で工事を完了させることができる架台の固定方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載の発明は、取付ボルトを頭部側から挿入させる必要があり、その結果、従来の施工のようにボルトの頭部を挿入させない場合に比べて、屋根材に設ける下穴の径が大幅に大きくなってしまい防水性において従来の施工方法に比べて著しく劣ってしまうとういう問題があった。
【0009】
またさらに、ワンサイド座金は屋根材の下面側で展開した状態となり取付ボルトの抜け留め部を形成するが、特許文献2の請求項2にも記載されるように、ワンサイド座金は金属板を加工し成形されるものであり、尚且つ、ワンサイド座金は屋根材の下側面と当接する部分に切欠き部を形成するため、特許文献2のように、主に硬質木目セメント板からなる硬質で厚みのある野地板に対して用いられる場合は問題無いが、本願の目的とする薄鋼板からなる折板屋根に対して用いた場合、ワンサイド座金の切欠き部と屋根材の下面側の当接部において、ワンサイド座金を形成する金属板の切断面は屋根材の下側面と点接触、若しくは線接触することとなり、該ボルトに引上げ力が加わった場合、屋根材に対して局所的に負荷が加わってしまい、屋根材を変形破損させてしまうという問題があった。
【0010】
そのうえ、本願の発明において施工の対象としている薄鋼板からなる折板屋根は、薄鋼板を折り曲げ加工することによって加工硬化を発生させ、前記折板屋根の剛性を発揮させたものであるが、特許文献2に記載のワンサイド座金のような長尺ナットを前記折板屋根に用いた場合、従来の長尺ナットを完全固定した状態において、従来の長尺ナットは前記折板屋根に対して長手方向の固定される向きが調整できないため、従来の長尺ナットの長手方向が前記折板屋根の山部流れ方向と同一方向をなしてしまった場合、前記折板屋根は従来の長尺ナットとの固定位置において全く加工硬化による屋根材の剛性を発揮することができず、容易に変形破損を生じさせてしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3748445 号公報
【特許文献2】特開平8−312075 号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
解決しようとする問題点は、太陽光発電パネル取り付け用架台を薄鋼板からなる折板屋根に対して施工者が前記折板屋根の上面側からのみの施工によって、前記折板屋根の剛性を最大限に引き出した状態で前記架台の固定を完了させることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、薄鋼板からなる折板屋根へ太陽光発電パネル取り付け用架台を複数のボルトとナットを用いて取り付ける施工方法において、前記折板屋根の山頂部に下穴を穿孔し、前記架台等の取り付け部材に設けられたボルト貫通孔が前記下穴と重なるように配した後、紐状具によって連結された長尺ナットを前記紐状具を把持した状態で前記折板屋根の上面側より前記取り付け部材を挟み込むようにして前記貫通孔を介し挿入し、前記折板屋根の下面側へ吊り下げた状態で、ボルトを挿入し完全に締めこまない状態で一時的に螺合させ、その後、前記ボルトを更に締めこむことによって前記ナットを一方向に前記ボルトと共に回転させ、前記ナットの外周面の一部が前記折板屋根の下面側の周壁に当接することで螺合が促進されて完全固定されることで、施工完了時に、全ての前記長尺ナットが前記下面側周壁に同一方向を向いて当接固定されていることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の施工方法を採用することによって前記架台の取り付けを完了した際、下地となる前記折板屋根の剛性を最大限に引き出し、前記架台を確実に保持することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は本発明の施工方法によって取り付けられる架台の状態を示した説明図である。
【図2】図2は本発明の施工方法に用いられる長尺ナットを示した説明図である。
【図3】図3は本発明の施工方法に用いられる長尺ナットの参考斜視図である。
【図4】図4は従来の施工方法を示した説明図である。
【図5】図5は特許文献1に記載される従来の施工方法を示した説明図である。
【図6】図6は特許文献1に記載の共回り防止金具の取り付け状態を示した説明図である。
【図7】図7は特許文献2に記載される従来の施工方法を示した説明図である。
【図8】図8は特許文献2に記載のワンサイド座金の施工完了時における配置状態を示した説明図である。
【図9】図9は特許文献2に記載のワンサイド座金の形状を示す説明図である。
【図10】図10は本発明の施工状況を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の施工実施にあたり、図を用いて説明を行う。
【0017】
本願発明は、薄鋼板からなる折板屋根1へ太陽光発電パネル取り付け用架台2を複数のボルトとナットを用いて取り付ける施工方法において、前記折板屋根1の山頂部3に下穴を穿孔し、前記架台2等の取り付け部材に設けられたボルト貫通孔が前記下穴と重なるように配した後、紐状具4を具備した長尺ナット5を前記紐状具4を把持した状態で前記折板屋根1の上面側より前記取り付け部材を挟み込むようにして貫通孔を介し挿入し、前記折板屋根1の下面側へ吊り下げた状態で、ボルト6を挿入し完全に締めこまない状態で一時的に螺合させ、その後、前記ボルト6を更に締めこむことによって前記ナットを5一方向に回転させ、前記ナット5の外周面の一部が前記折板屋根1の下面側の周壁に当接することで前記ボルト6と前記ナット5の螺合が促進されて完全固定されることで、施工完了時に、全ての前記ナット5が前記下面側周壁に同一方向を向いて当接固定されている構成としたものである。
【0018】
またさらに、 上記施工方法に用いられる前記ナット5を、ボルト挿通孔を有さない少なくとも一対の側面が、ボルト挿通孔の軸線と直交する方向において前記折板屋根1の山頂部幅α以上の長さを有し、且つ、前記折板屋根1の山頂部3に設けられた下穴の下穴内周曲面に相似する曲面形状となる構成としたものである。
【実施例1】
【0019】
本願の施工方法について説明するにあたり、図10に基づいて説明を行う。
【0020】
先ず、図10(a)に示すように、前期折板屋根1の山頂部3に対してドリル8を用いて下穴の穿孔を行い、穿孔作業終了後、図10(b)に示すように前記ナット5を前記下穴に対して挿入し、図10(c)に示すように山頂部3の上面側から紐状具4を引っ張ることで前記ナット5を保持し、図10(d)に示すように前記ナット5に対して前記ボルト6が各種部材を介した状態で係合される。
【0021】
次に、図10(e)に示すように、前記ナット5と前記ボルト6を係合させ、ねじ込みを進めると、前記ナット5は前記ボルト6と共に共回りを生じさせ、図10(f)に示すように前記ナット5を前記山頂部3下側面の折り曲げ部9に当接させた後、さらに前記ボルト6を施工者が紐状具4を引っ張っても動かなくなるまでねじ込み施工を完了させる。
【0022】
図10(a)〜図10(f)に示す施工を完了させることによって、図10(g)に示すように全ての前記ナット5は施工完了時に同一方向を向くように配置され、その結果前記ナット5はそれぞれの固定強度が均一化されることとなり、前記折板屋根1の上面側へ負荷が加わった場合、負荷を各前記ナット5が均一に負担することとなり、より安定的に固着力を発揮することができるようになる。
【0023】
図1は、 本願請求項1に記載の工法において、前記折板屋根1に対して前記架台2を取り付けた状態を示した説明図であり、図1の(b)に示す説明図では、施工完了時に複数個の前記ナット5が全て同一の方向を向けて固定されている状況を示したものである。
【0024】
前記折板屋根1は、0.6〜1.2mm程度の非常に薄い鋼板により形成されているため非常に軽く、工場等の施工面積が広い建物に対し屋根の重量低減を期待できるが、原料材に剛性を期待することができないため、波型に加工を施し、折り曲げ部9に加工硬化を生じさせることによって屋根材として充分な剛性を発揮させている。
【0025】
前記折板屋根1の特性を生かすにあたり、本願請求項1に記載の発明における最も重要な構成要件は、固定完了時に前記ナット5の長手方向両端部を前記山頂部3の折り曲げ部9に当接させることにある。
【0026】
特に前記ナット5の長手方向両端部を前記山頂部3の折り曲げ部9に当接させる位置は、離れれば離れる程有利となるが、前記ナットの長さを盲目的に長くした場合、施工性を大幅に減じてしまうこととなる。
【0027】
しかるに、本願発明者が長手方向の寸法を適宜長さに設定した前記ナット5において実験を行った結果、前記ナット5の前記山頂部3の折り曲げ部9と当接する両端部12間の距離が、前記山頂部3の幅αに対して略2の平方根倍となる距離を超した時点で保持力の増加率が小さくなっていくことがわかっている。
【0028】
つまり、本願の請求項1に記載の施工方法に用いる前記ナット5は、前記ナット5が前記山頂部3の折り曲げ部9と当接する両端部12間の距離を、前記山頂部3の幅αに対して略2の平方根倍となる距離にすることが望ましい。
【0029】
さらに、図2(b)に示すように、前記ナット5の側面7を前記山頂部3に設けられた下穴に沿う曲面形状とすることによって、前記ナット5の下穴への挿入が容易となり、施工性が大幅に省力化されるばかりか、前記ナット5を前記ボルト6と一時的に螺合させて共回りを発生させ、前記山頂部3の折り曲げ部9下側面に当接させる際に、前記山頂部3を変形・破損させてしまうことを軽減することができる。
【0030】
また、本願発明の施工方法に用いられる前記ナット5の保持に用いられる紐状具4は、前記ナット5の保持に用いられるだけでなく、前記ナット5と前記ボルト6の締結完了を確認するためにも用いられる。
【0031】
具体的には、施工者又は施工監理者が施工完了時点で紐状具4を引っ張り、紐状具4が前記ボルト6の頭部下面と座金等に狭持されていることを確認することによって、前記ボルト6の締め込み不良の有無を簡便に確認することができる。
【0032】
尚、上述のように用いられる紐状具4は、伸びが少ないポリエチレン等の合成樹脂素材を用いることが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本願の発明における施工方法を用いることによって、薄鋼板からなる折板屋根に対して、充分かつ安定した固定強度を発揮させることができる。
【符号の説明】
【0034】
1 薄鋼板からなる折板屋根
2 太陽光発電パネル取り付け用架台
3 前記折板屋根1の山頂部
4 紐状具
5 長尺ナット
6 ボルト
7 前記ナット5の曲面形状となる側面
8 ドリル
9 折り曲げ部
10 室内に設けられた足場
11 作業員
11´室内側で作業をする作業員
12 折り曲げ部に当接する端部
α 前記山頂部3の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄鋼板からなる折板屋根へ太陽光発電パネル取り付け用架台を複数のボルトとナットを用いて取り付ける施工方法において、前記折板屋根の山頂部に下穴を穿孔し、前記架台等の取り付け部材に設けられたボルト貫通孔が前記下穴と重なるように配した後、紐状具を具備した長尺ナットを前記紐状具を把持した状態で、前記折板屋根の上面側より前記取り付け部材を挟み込むようにして貫通孔を介し挿入し、前記折板屋根の下面側へ吊り下げた状態で、ボルトを挿入し完全に締めこまない状態で一時的に螺合させ、その後、前記ボルトを更に締めこむことによって前記ナットを一方向に回転させ、前記ナットの外周面の一部が前記折板屋根の下面側の周壁に当接することで前記ボルトと前記ナットの螺合が促進されて完全固定されることで、施工完了時に、全ての前記ナットが前記下面側周壁に同一方向を向いて当接固定されていることを特徴とする折板屋根に対する太陽光発電パネル取り付け用架台の施工方法。
【請求項2】
請求項1に記載の施工方法に用いられる前記ナットにおいて、ボルト挿通孔を有さない少なくとも一対の側面が、ボルト挿通孔の軸線と直交する方向において前記折板屋根の山頂部幅以上の長さを有し、且つ、前記折板屋根の山頂部に設けられた下穴の下穴内周曲面に相似する曲面形状となることを特徴とする請求項1の施工方法に用いられるナット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−31672(P2012−31672A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173414(P2010−173414)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(510177382)株式会社オノダネイル (5)
【Fターム(参考)】