説明

抵抗スポット溶接ガン

【課題】ガンアームを簡単な構造で部品交換することと,吊り金具の回転角度を任意に固定することで多種多様なワークのスポット溶接に対応すること。
【解決手段】一つの加圧用アクチュエータから既存のガンアームをワンタッチで部品交換を可能とするクランプ機構と,大ストロークの場合でもガンアームのふところ内に大きな可動側シャントを必要としないコンタクト給電機構と,スポット溶接ガンを回転させることが可能な吊り金具の回転角度を任意の位置で停止できるブレーキ装置とを組み合わせた抵抗スポット溶接ガンを実現した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抵抗溶接機の技術分野に属し,さらに限定していえばポータブル式抵抗スポット溶接ガンを吊り金具に吊るし溶接ガン自体を所定の打点位置に移動させてワークの溶接仕上げ分部などを手作業で溶接する場合に有用な抵抗スポット溶接ガンに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両又は自動車車体等の組み立てにおいて手作業部分を溶接する場合,ポータブル式スポット溶接ガンを吊り金具に吊るし,溶接ガンの重量バランスをとって溶接ガンを軽快に動かせるようにしてその手作業に負担がかからないようにしている。
【0003】
従来,この種の抵抗スポット溶接機に対し操作性,作業性の効率化を図る上で次のような改善が要求されている。
【0004】
(1)スポット溶接ガンにおいてガンアームのワンタッチ交換が可能な構造であること。
(2)スポット溶接ガンにおいて大きい電極開放ストロークの場合でも大きなシャントを必要としないコンタクト給電機構であること。
(3)スポット溶接ガンの吊り金具装置において溶接ガンの回転角度を任意の位置で停止できる位置きめ機構であること。
【0005】
従来の大方のスポット溶接ガンは被溶接物の形状,大きさに合わせたガンアームを一つの加圧用アクチュエータに取り付ける場合に,アクチュエータの加圧ロッド側に円筒状の装着溝を設け,その円筒状の装着溝にガンアームをクランプする軸受け部を装着したものが知られている。この軸受け部には上下に分割されたクランプ面が形成され,その上下のクランプ面には前記装着溝の外周面と適合する円弧状の溝が形成されている。前記装着溝を上下から挟み込むようにクランプして組み合わせた軸受け部を通常ボルトで堅固に締結するものである(特許文献1)。
【0006】
また従来のコンタクト給電機構を有する抵抗スポット溶接ガンは操作性の効率化を図るうえで軽量コンパクト化を実現したものが提案されている。この種のスポット溶接ガンは一方の電極チップを駆動するための第一アクチュエータと,前記アクチュエータを支持すると共に先端に前記電極チップと対応する他方の電極チップを有するガンアームと,前記ガンアーム側に固定された正負給電部とを有し,前記給電部の近傍に,流体圧又は電気的な第2のアクチュエータにより溶接トランスからの通電経路を接続するための正負給電用加圧接触子を開閉動作する給電ユニットを配置したものである(特許文献2)。
【0007】
またスポット溶接ガンの吊り金具装置において溶接ガンの回転角度を任意の位置で停止できる位置きめ機構に関しては,たとえば吊り金具に吊り下げたスポット溶接ガンのガンアームに揺動軸を支持すると共に,揺動軸を支持する吊り金具と揺動軸との間にモータを配置し,操作ハンドルの力の入れ具合によって変化する圧力センサの電流値に応じてモータトルクを変化させてスポット溶接ガンを所望の位置に停止させるというものである(特許文献3)
【0008】
しかしながら,従来のガンアームの交換装置(特許文献1)についていえば,分割されたクランプアームを前記アクチュエータと同一軸線上に締結する点では本発明に共通する点があるが,この場合,ガンアームの締結手段が通常のボルトとナットによるもので,大抵は一つの加圧用アクチュエータに対し一つのガンアームを固定して使用するいわば専用機として使用されるため,ワーク形状の変更に応じて数種類のガンアームを交換して使用する場合はボルトの取り外すや取り付けに時間を要し作業効率を低下させる要因となり実質的には対応できない。
【0009】
また従来のコンタクト給電機構を有する抵抗スポット溶接ガン(特許文献2)について言えば,可動側電極の給電はシャントでつながれていて,コンタクトタイプの軸給電方法であっても溶接用のアクチュエータとは別体の給電用のアクチェータが必要である。
【0010】
この種のコンタクト給電機構は構造上シャントで繋いであるためスポット溶接ガンの電極ストロークに大きな開放量を必要とする場合はこれに伴い大きな可動範囲を可能とするシャントが必要になる。その結果,ガンアームの内側(懐内)にシャントを配置するスペースを大きくとる必要があり設計上制約される。
【0011】
またシャントが大きいため重量が嵩みしかも消耗部品などのためランニングコストを上げる要因になっている。
【0012】
また従来のこの種の吊り金具では回転方向を止める力は作業者にかかる負担となり初期の目的を解決することには至らない。
【0013】
また吊り金具に配置した電動モータによって溶接ガンを補助駆動するもの(特許文献3)は操作ハンドルの力の入れ具合によって変化させる圧力センサや,そのセンサの電流値に応じてモータトルクを変化させる制御回路が必要となり,構造が複雑化する問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2001−105156号公報
【特許文献2】特開2002−45973号公報
【特許文献3】特開平9−314355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで,本発明が解決しようとする課題は固定側のガンアームを簡単に取り替えることのできる構造とすることで,複数の溶接ガンを持つことなく,多種多様な形状のワークの溶接に対応できるようにする点及び回転可能な吊り金具において身体的な負担をかけることなく,被吊り下げ物(溶接ガン)の位置きめを容易に行なうことができる簡易で安価な構造の抵抗スポット溶接ガンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は上記の目的を達成するために開発されたものである。請求項1の発明はガンアームの一方の端部に取り付けられたアームヘッドと,前記ガンアームの他方の端部に取り付けられたクランプアームと,該クランプアームに支持される加圧用アクチュエータと,該アクチュエータの加圧ロッド側と前記アームヘッド側に相対向して支持された一対の電極チップとからなる抵抗スポット溶接ガンにおいて,前記アクチュエータの本体ロッド側に細径の把持部が形成され,前記クランプアームは上アームと下アームとに分割して構成されかつその分割された面には前記把持部の外周面と適合する断面略凹形のクランプ面が形成され,しかも前記上下アームの片側を開閉自在に連結具を介して繋ぐと共に,前記連結具が取り付けてある面と反対の面には前記分割された上下アームの開閉を固定するための留め金具が取り付けられ,それによって前記ガンアームを部品交換する際に,前記クランプアームのクランプ乃至アンクランプ動作をワンタッチで行なうようにしたことを特徴とする。
【0017】
請求項2の発明は前記連結具には蝶番を,また前記留め金具にはスナップ錠が使用されていることを特徴とする。
【0018】
請求項3の発明は,前記ガンアームの他方の端部に近い位置にシャントが取り付けられ,そのシャントの先端には第1給電端子が連結されていて,前記第1給電端子と対応する位置には前記加圧アクチュエータの本体に取り付けられたサイドプレートに支持された溶接トランスの一方の端子側に直結された第2給電端子が取り付けられており,前記第1給電端子と前記第2給電端子はジョイント機構により締結され,前記溶接トランスのもう一方の端子側には可動側シャントの一方の端部が接続されると共に前記可動側シャントの他方の端部には可動側の第3給電端子が接続され,しかも前記第3給電端子側には常時これを押し上げる方向へ弾発力を作用させるフローティング機構が付与され,前記加圧アクチュエータには加圧ロッドが前進後退するモーションで前記ロッドと共に動作する給電ステーが接続され,それによって前記給電ステーと前記第3給電端子とが前記加圧アクチュエータの加圧・開放動作でコンタクトし又は離反するように構成されたことを特徴とする。
【0019】
請求項4の発明は前記可動側の第3給電端子と前記給電ステーの相互間はコンタクトする接触面が円すい形の凹凸による嵌め合い式に構成されたことを特徴とする。
【0020】
請求項5の発明は,前記フローティング機構は略U字形のシャントの内側に弾性材を装着し,これにより前記アクチュエータの加圧動作時のストローク変位量を吸収すると共に前記可動側の第3給電端子と給電ステーとの相互間に給電接触力を付勢するように構成されたことを特徴とする。
【0021】
請求項6の発明は,前記フローティング機構は一本の細長い絶縁ガイドロッドが前記第3給電端子先端に形成された円筒接触部の中心軸を貫通し,かつ前記略U字形のシャントの両端に形成された貫通穴を挿通し,しかも前記U字形のシャントの内側に挿入された前記絶縁ガイドロッドの外周上には圧縮ばねが取り巻かれて装着され,そして前記絶縁ガイドロッドの後端に位置する前記給電ステーが前記ガイドロッドと同一軸心線上で固着されていることを特徴とする。
【0022】
請求項7の発明は,前記第3給電端子の円筒接触部と前記給電ステーは前記アクチュエータのヘッドカバー側に突出して設けた棒状のガイド手段により移動中に案内されるように構成されたことを特徴とする。
【0023】
請求項8の発明は,当該溶接ガンはハンガーブラケットの先端に保持されると共に前記ハンガーブラケットは吊り金具のハンガーの先端に有する軸受けに組み込まれた回転軸に固定され,かつ前記軸受けの回転軸にはブレーキ板が固定されており,しかも前記ブレーキ板と対応する位置にブレーキパッドを押し付けて前記溶接ガンの回転角度を任意の位置で停止させるためのストッパ装置が前記ハンガーの所定位置に取り付けられたことを特徴とする。
【0024】
請求項9の発明は前記ストッパ装置のブレーキ板は円板状のもので前記ブレーキパッドを駆動する駆動軸線は前記ブレーキ板の円周上の曲面に対し法線方向であることを特徴とする。
【0025】
請求項10の発明は前記ストッパ装置の駆動源は流体圧シリンダ,電動モータ,ソレノイドとすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明は前記クランプアームが上アームと下アームとに分割して構成されかつその分割された前記上下アームの片側を開閉自在に連結具を介して繋ぐと共に,前記連結具の取り付け側の反対側には前記分割された上下アームの開閉を固定するための留め金具が取り付けられ,それによって溶接ガンのバリエーションに応じて前記ガンアームの部品組み替え交換する場合に,前記クランプアームのクランプ乃至アンクランプ動作をワンタッチで行なうようにしたから,ガンアームの交換作業を短時間でしかも確実に行なうことができる。したがってワーク形状にあわせた溶接用ガンをフルセットで持つ必要がなく,加圧用カクチュエータ1セットに対し複数のガンアーム部品を持つことで対応することができる。
【0027】
また本発明は前記ガンアームの他方の端部に近い位置に取り付けられたシャントと第1給電端子とが連結され,前記第1給電端子と溶接トランスの一方の端子側に直結された第2給電端子とが対応する位置に配置され,前記第1給電端子と前記第2給電端子はジョイント機構により締結され,前記溶接トランスのもう一方の端子側には可動側シャントの一方の端部が接続されると共に前記可動側シャントの他方の端部には可動側の第3給電端子が接続され前記第3給電端子側には常時これを押し上げる方向へ弾発力を作用させて前記加圧アクチュエータの加圧ロッドによる前進又は後退するモーションで給電ステーが前記第3給電端子とコンタクトし又は離反するようにしたから,抵抗スポット溶接ガンには大きな電極開放ストロークが必要とされる仕様に対してもそれに対応した大きな可動範囲をもったシャントは電極のふところ内に不要なので設計上コンパクトな形状になり,溶接作業性がよくなると共に,コスト低減にも寄与する。
【0028】
また本発明は当該溶接ガンとブレーキ板が前記ハンガーの先端に有する軸受けの回転軸と共に回転可能に支持されており,しかも前記ブレーキ板と対応する位置にブレーキパッドを押し付けるだけで,回転式吊り具の回転方向への保持位置が任意の位置で固定でき,更に人体への負担を軽減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は本発明にかかる抵抗スポット溶接ガンの構成例を三次元で示す説明図ある。
【図2】図2は本発明の抵抗スポット溶接ガン全体を示す組立図である。
【図3】図3は本発明の抵抗スポット溶接ガンに組み込まれるガンアームのワンタッチ交換機構の実施例を示す説明図である。
【図4】図4は本発明の抵抗スポット溶接ガンに含むワンタッチ交換機構の説明図であり,図4Aはクランプアームの下アームを開放した状態を示し,図4Bはガンアームを加圧用アクチュエータから外した状態を示す。
【図5】図5は本発明の抵抗スポット溶接ガンに含むコンタクト給電機構の実施例を示す説明図であり,図5Aは開放時の非接触状態を示し,図5Bは加圧時のコンタクト状態を示す。
【図6】図6は本発明の抵抗スポット溶接ガンの可動側シャントとそのフローティング機構の実施例を示す平面図である。
【図7】図7は本発明の抵抗スポット溶接ガンのブレーキ付回転式吊り金具の実施例を示す説明図である。
【図8】図8は本発明に含むブレーキ装置の他の実施例を示す説明図である。
【図9】図9は本発明のエアシーケンス回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は抵抗溶接機とりわけポータブルスポット溶接ガンを範例として示したもので,ガンアームのワンタッチ交換を可能な構造と,大ストロークの場合でもガンアームのふところ内に大きなシャントを必要としないコンタクト給電機構と,被吊り下げ物を回転させることが可能な吊り具において,回転角度を任意の位置で停止できるブレーキ機構とを有する抵抗スポット溶接ガンを実現した。
【実施例1】
【0031】
以下,本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0032】
図1,図2,図3,図4に示す抵抗スポット溶接ガン1において,C型のガンアーム2は導電性のよい軽量な材質,例えば一般的にアルミニウム又はアルミニウム系合金などの非鉄金属系素材から構成される。前記ガンアーム2の一方の端部にはアームヘッド3が取り付けられ,ここに電極チップ4が支持される。前記ガンアーム2の他方の端部にはクランプアーム5が取り付けられ,加圧用アクチュエータのエアシリンダ6はクランプアーム5によって支持される。
【0033】
前記エアシリンダ6の加圧ロッド7の先端にはもう一方の電極チップ8が支持され,前記アームヘッド側の電極チップ4と相対向して溶接に必要な加圧力と通電経路を形成するための開閉動作が行なわれる。加圧ロッド7は軸給電用として一般には真鍮や高力黄銅など導電性,強度の高い素材から作られるが,導電性めっき例えば銀めっきなどを表面処理に施される場合もある。
【0034】
なお,加圧用アクチュエータには前記流体圧シリンダ以外にボールねじとボールナットによるねじ・ナットシステムの一方の駆動を電動モータで行ない相対する電極チップ間に所望の加圧力を発生させることもできる。
【0035】
前記シリンダ6の本体ロッド側には先端に鍔部9を設けて中を細く円筒形に括れさせた把持部10が形成されている。
【0036】
前記クランプアーム5は図4に示すように上下に分割され上アーム5aと下アーム5bとに構成されている。その分割された側の面には前記括れた把持部10の外周面と適合する断面略凹形に形成された円弧状のクランプ面11が形成されている。
【0037】
前記クランプアーム5の片側は上アーム5aと下アーム5bが蝶番などの連結具12によって繋がった構造になっていて,蝶番の軸を中心に開閉できる構造になっている。
【0038】
前記連結具12が取り付けられた面と反対側には前記分割された上下アーム5a,5bの開閉を固定するための留め金具13,例えばスナップ錠が取り付けられた構造になっている。図では省略したがこのスナップ錠には間違って開いてしまわないように安全上の観点から鍵が付けられる構造にもできる。また止め金具には溶接ガンの加圧容量,ガンアームの大きさなどの変化に伴いボルト,ナットによる機械的に締結する手段を使用することもある。
【0039】
ガンアーム2とクランプアーム5は複数のボルトで機械的に締結されているが,前記ガンアーム2を交換する際は,このボルトを外す必要はない。いま止めてあるスナップ錠13を開き前記下アーム5bの片側を開くだけでアンクランプし現行のガンアーム2が外れ部品交換ができる構成になっている。
【0040】
前記ガンアーム2の他方の端部に近い背中に略L字形の固定側シャント14が取り付けられ,そしてその固定側シャント14のさらに先端にはガンアームの背面垂直方向に突出した第1給電端子15が連結されている。
【0041】
前記第1給電端子15は図2,図3に示すように先端がコーン状(円すい形のテーパ状)に突起した接触部になっていて,このコーン状の給電端子と対応する受け側には溶接トランスTの一方の端子側に二次導体(図省略)を介して締結された第2給電端子16が取り付けられている。そしてその受け側の第2給電端子16には受け入れ穴(未図示)が形成されていて,その受け入れ穴には前記第1給電端子15の外周面と適合するテーパ状の穴加工が施されていて,前記第1給電端子15と前記第2給電端子16はガンアーム2が装着されているときはジョイントナットNによりしっかりと固定されると共に着脱が容易なように前記第1給電端子15と前記第2給電端子16の相互間は凹凸による嵌め合い式のジョイント構造になっている。
【0042】
前記第2給電端子16は溶接トランスTの端子に接続されているのでガンアーム側の給電は前述したジョイント機構を介して電気が供給される。
【0043】
前記溶接トランスTはサイドプレート18で両側からエアシリンダ6を挟んで複数のボルトによりしっかり固定されている。サイドプレート18は前記エアシリンダ6の本体両側に複数のボルトによりしっかりと固定されている。
【0044】
ガンアーム2を交換する場合は,ジョイントナットNを外して前記第1給電端子15と第2給電端子16がフリーに外れる状態としておき,クランプアーム5のスナップ錠13を解除し蝶番の軸を中心に下アーム5bを開いてアンクランプにした状態でガンアーム2を抜くだけというシンプルな構造になっている。
【0045】
前記溶接トランスTのもう一方の端子側には図5,図6に示すように可動側シャント17の一方の端部が二次導体19を介して接続されている。前記可動側シャント17の他方の端部には可動側の第3給電端子20が接続され,しかも前記第3給電端子20側には常時これを押し上げる方向へ弾発力を作用させるフローティング機構21が付与されている。
【0046】
可動側への給電は前述した第1給電端子15と第2給電端子16の固定側の給電方法とは異なり,加圧動作を行なっているときのみ溶接トランス側の端子にコンタクトされる構造になっている。つまり前記エアシリンダ6には加圧ロッド7のモーションと連動させた給電ステー22が配置され,該給電ステー22と前記第3給電端子20とが前記エアシリンダ6の加圧・開放動作でコンタクトし又は離反するようになっている。
【0047】
この場合,給電ステー22はエアシリンダ6が加圧動作を行なったときに,その動作と連動して加圧方向に向かって摺動する加圧ロッド7側に固定されている。前記給電ステー22の先端にはコーン状の突起があり,加圧ロッド7の動きと一緒に固定側の電極チップ4方向に移動していき,やがて電極間で被溶接物を挟みつけて加圧に入る直前で前記給電ステー22が第3給電端子20の受け入れ穴に嵌り込むように,第3給電端子20にはコーン状の突起に適合するテーパ状の穴加工が施されている。
【0048】
前記可動側の第3給電端子20と前記給電ステー22の相互間にはコンタクトする接触面が円すい形の突起状接触部23と,その接触部23を受け入れるテーパ状の受け入れ穴24とによる嵌め合い式のジョイント構造になっている。この凹凸による嵌め合い式のジョイント構造によればテーパ状の給電接触面に働くくさび作用により隙間無く十分なクランプ力をもって嵌り込むことになる。
【0049】
前記第3給電端子20はフローティング機能が付与されており,エアシリンダ6の加圧動作に対し完全に固定された状態で受けるのではなく,このフローティング機構21によって電極が摩耗した場合の動作距離の延長を吸収している。
【0050】
前記フローティング機能の動作距離延長の吸収は可動側シャント17によって行なわれている。前記フローティング機構21は一本の細長い絶縁ガイドロッド25が前記第3給電端子20の先端に形成された円筒接触部26の中心軸を通し前記略U字形の可動側シャント17の両端に形成された貫通穴を貫通し,しかも前記U字形の可動側シャント17の内側には前記絶縁ガイドロッド25の外周上を取り巻いた圧縮ばね27が装着されていて前記絶縁ガイドロッド26の後端に位置する前記給電ステー22が前記ガイドロッド25と同一軸心線上に固着されている。
【0051】
該フローティング機構21は略U字形の可動側シャント19の内側に装着し圧縮ばね27によって前記アクチュエータ6の加圧動作時のストローク変位量を吸収すると共に前記可動側の第3給電端子20と給電ステー22との相互間に十分な接触力を付勢し,給電部の面圧を高く保持するようにしている。
【0052】
前記第3給電端子20の円筒接触部26は前記エアシリンダ6のヘッドカバー側に設けた円筒状の中をガイド手段28に案内され,また前記給電ステー22はヘッドカバー側に突出延長して設けた棒状のガイド手段29により移動中に案内されるようになっている。
【0053】
当該溶接ガン1は吊り金具によって吊られており,その回転方向への停止動作は人手による位置きめ操作ではなく,ブレーキ装置30によって保持される。
【0054】
ブレーキ装置30は具体的に図7,図8に示すように,固定側であるハンガー31の所定位置にブレーキ用アクチュエータとしてエアシリンダが取り付けられている。当該アクチュエータは前記エアシリンダ以外に電動モータ又はソレノイドでもよい。前記ハンガー31の先端には軸受け32が組み付けられており,その軸受け32には回転軸33を有するブレーキ板34が組み込まれており,固定側のハンガー31に対しブレーキ板34が回転するようになっている。
【0055】
ブレーキ板34はハンガーブラケット35に固定され,さらにハンガーブラケット35は当該溶接ガン1のサイドプレート18に組み付けられている。当該溶接ガン1はハンガー31の軸受け32の軸心に対して回転動作が可能になっている。
【0056】
ブレーキ装置30に含むエアシリンダの先端には材質がウレタン又はゴム若しくはその他の合成樹脂材からなるブレーキパッド36が組み付けられている。図7に示す前記ブレーキパッド36の場合は前記ブレーキ板34の円周状の曲面に対し法線方向に押し付けられる形態で,前記ブレーキ板34の先端円周面がブレーキパッド36に形成された断面略凹形の溝Uの内に押し込まれ,その摩擦抵抗を利用して前記溶接ガンの回転方向に対する動きが保持され,当該溶接ガン1の回転角度を任意の位置で停止させることができる。
【0057】
この場合,通常はブレーキ装置30のシリンダロッド30aの外周上に巻き付けてある圧縮ばね37によってブレーキパッド36がブレーキ板34に押し付けられており,当該溶接ガン1の回転方向の動きがロックされている。ブレーキ装置30のシリンダが戻し方向に移動したときブレーキパッド36が開放され,溶接ガンがフリー状態になり,加圧ロッド7の軸方向を中心として回転可能な状態になる。
【0058】
ブレーキ板34の円周面には板厚方向にローレット(図8の刻み目34a)が形成され,これによりブレーキ板34とブレーキパッド36との摩擦抵抗を高めブレーキ力を効果的に発生させることができる。
【0059】
図8はブレーキ装置30のブレーキパッド36の圧縮ばね37を省略し,ブレーキパッド36の構造をスペース的に簡素化した場合の実施例を示したものである。
【0060】
図1の符号38は両側のサイドプレート18にそれぞれ取り付けられた操作用ハンドルである。この操作用ハンドル38を設けたことで当該溶接ガン1の回転操作がし易くなる。
【0061】
39はエアシリンダ本体側に絶縁して固定された起動用ハンドルで,手元に起動用スイッチが取り付けられている。40はダミー用のハンドルで溶接トランスを挟んで固定された保護カバー41の上に絶縁材を介して固定されている。前記保護カバー41は溶接トランスTの下方に位置する可動側シャント19,第3給電端子20,フローティング機構21,給電ステー22等を上方からカバーし,スパッタ,煤塵,水などの異物が摺動部,給電部に降りかからないように保護するものである。
【0062】
次に,図9に基づき本発明のブレーキ機構を有する吊り金具の動作について説明する。
(メカバルブの場合)
S1.通常はブレーキ装置30の圧縮ばね37でブレーキパッド36がブレーキ板34に押し付けられており,当該溶接ガンの回転方向の動きがロックされている。
S2.メカバルブ42をONにするとシリンダが戻し方向に移動し,吊金具のブレーキパッド36が開放され,溶接ガン1がフリー状態になり,加圧ロッド7の軸方向を中心として回転することが可能になる。
S3.電極チップが溶接打点位置に対し直角に打てるよう当該溶接ガンをワークにあてがいメカバルブ42をOFFに切替える。
これでブレーキ装置30のシリンダ戻しのエアが供給されなくなり,圧縮ばね37のばね力(若しくはばねとエア)によってステップ1(S1)で言う通常の状態に戻る。これで当該溶接ガン1の回転がロックされ溶接ガンの回転角度(適正な姿勢)が任意の位置で固定される。
【0063】
(減圧弁の場合)
上記のメカバルブの代わりに未図示の減圧弁を配置した場合の例について説明する。
S1.通常は圧縮ばねでブレーキパッドが押し付けられており、回転がロックされている。
S2.減圧弁の調整でエア圧を徐々に上げて行くとシリンダが徐々に戻し方向に移動する。吊金具のブレーキパッドが開放され,当該溶接ガンがフリー状態となり,加圧ロッド軸方向を中心として回転する事が可能になる。
S3.当該溶接ガンをワークにあてがい減圧弁の調整でエア圧を徐々に下げて行く。それにともない戻しのエアが供給されなくなり,圧縮ばね力(若しくはばねとエア)で通常の状態に戻る。回転がロックされ溶接ガンの回転角度が固定される。
【0064】
次に本発明の加圧溶接時の動作について図3,図5,図9をもとに説明する。
S1.本発明の場合,加圧用アクチュエータ6は当該溶接ガン1を移動するときはワークや治具の干渉を避けるため電極チップ8を大きく開放し,また溶接作業中は溶接タクトを短縮するうえで電極を小さく開放する2段切替え式エアシリンダが使用されている。通常は電極チップの開放は小開放ストロークの状態である。
S2.メカバルブ43をONにすると電極チップ8の開放は大開放ストローク状態となる。またメカバルブ43はボタンを外すと小開放ストロークに戻る。
S3.起動用ハンドル39から起動スイッチが入れると溶接制御装置からの起動信号で電磁弁44が作動しシリンダの小ストロークの加圧室にポートノズル45からエアが供給され加圧ロッド7が前進し電極チップ8を電極チップ4によせて打点位置を挟み加圧する。
S4.本加圧に入ったとき溶接制御装置からの溶接開始信号で電子スィッチング回路を開閉動作し溶接電源から電極チップ間にタイマ部に設定された所定値の溶接電流が所定時間供給され,通電後所定の保持時間を経てスポット溶接が行なわれる。
S5.この場合の可動側の給電は加圧用のエアシリンダ6が加圧動作を行なったとき,その加圧動作と連動して給電ステー22の先端の突起状接触部23が第3給電端子20の円筒接触部26の受け入れ穴24にはまり込み,しかも凹凸のテーパ面のはめ合いによるくさび力により十分な接触圧をもって給電接触状態が維持される。
S6.溶接制御装置からの溶接完了信号により電磁弁44を動作しエアシリンダ6の加圧室のエア圧がポートノズル45から排出されると共に戻り室にエアが送られ電極チップ8が打点位置から小ストロークで開放され,次の溶接打点に備える。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明はガンアームのワンタッチ交換機構と加圧アクチュエータ併用型コンタクト給電機構とブレーキ付回転式吊り金具をポータブル溶接ガンに採用した実施例について説明したが,これに限定されるものではない。本発明は摩擦点接合分野に用いられる接合ガンについても本発明の技術的思想の範囲で容易に変化させて実施することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 抵抗スポット溶接ガン
2 ガンアーム
3 アームヘッド
4 電極チップ
5 クランプアーム
5a 上アーム
5b 下アーム
6 加圧用アクチュエータ(エアシリンダ)
7 加圧ロッド
8 電極チップ
9 鍔部
10 把持部
11 クランプ面
12 連結具(蝶番)
13 止め金具(スナップ錠)
14 固定側シャント
15 第1給電端子
16 第2給電端子
17 可動側シャント
18 サイドプレート
19 二次導体
20 第3給電端子
21 フローティング機構
22 給電ステー
23 突起状接触部
24 受け入れ穴
25 絶縁ガイドロッド
26 円筒接触部
27 圧縮ばね
28 円筒状ガイド手段
29 棒状ガイド手段
30 ブレーキ装置(エアシリンダ)
31 ハンガー
32 軸受け
33 回転軸
34 ブレーキ板
35 ハンガーブラケット
36 ブレーキパッド
37 圧縮ばね
38 操作用ハンドル
39 起動用ハンドル
40 ハンドル
41 保護カバー
42 メカバルブ
43 メカバルブ
44 電磁弁
45 ポートノズル
T 溶接トランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガンアームの一方の端部に取り付けられたアームヘッドと,前記ガンアームの他方の端部に取り付けられたクランプアームと,該クランプアームに支持される加圧用アクチュエータと,該アクチュエータの加圧ロッド側と前記アームヘッド側に相対向して支持された一対の電極チップとからなる抵抗スポット溶接ガンにおいて,前記アクチュエータの本体ロッド側に細径の把持部が形成され,前記クランプアームは上アームと下アームとに分割して構成されかつその分割された面には前記把持部の外周面と適合する断面略凹形のクランプ面が形成され,しかも前記上下アームの片側を開閉自在に連結具を介して繋ぐと共に,前記連結具が取り付けてある面と反対の面には前記分割された上下アームの開閉を固定するための留め金具が取り付けられ,それによって前記ガンアームを部品交換する際に,前記クランプアームのクランプ乃至アンクランプ動作をワンタッチで行なうようにしたことを特徴とする抵抗スポット溶接ガン。
【請求項2】
請求項1において,前記連結具には蝶番を,また前記留め金具にはスナップ錠が設置されていることを特徴とする抵抗スポット溶接ガン。
【請求項3】
請求項1又は2において,前記ガンアームの他方の端部に近い位置にシャントが取り付けられ,そのシャントの先端には第1給電端子が連結されていて,前記第1給電端子と対応する位置には前記加圧アクチュエータの本体に取り付けられたサイドプレートに支持された溶接トランスの一方の端子側に直結された第2給電端子が取り付けられており,前記第1給電端子と前記第2給電端子はジョイント機構により締結され,前記溶接トランスのもう一方の端子側には可動側シャントの一方の端部が接続されると共に前記可動側シャントの他方の端部には可動側の第3給電端子が接続され,しかも前記第3給電端子側には常時これを押し上げる方向へ弾発力を作用させるフローティング機構が付与され,前記加圧アクチュエータには加圧ロッドが前進後退するモーションで前記ロッドと共に動作する給電ステーが接続され,それによって前記給電ステーと前記第3給電端子とが前記加圧アクチュエータの加圧・開放動作でコンタクトし又は離反するように構成されたことを特徴とする抵抗スポット溶接ガン。
【請求項4】
請求項3において,前記可動側の第3給電端子と前記給電ステーの相互間はコンタクトする接触面が円すい形の凹凸による嵌め合い式に構成されたことを特徴とする抵抗スポット溶接ガン。
【請求項5】
請求項4において,前記フローティング機構は略U字形のシャントの内側に弾性材を装着し,これにより前記アクチュエータの加圧動作時のストローク変位量を吸収すると共に前記可動側の第3給電端子と給電ステーとの相互間に給電接触力を付勢するように構成されたことを特徴とする抵抗スポット溶接ガン。
【請求項6】
請求項5において,前記フローティング機構は一本の細長い絶縁ガイドロッドが前記第3給電端子先端に形成された円筒接触部の中心軸を貫通し,かつ前記略U字形のシャントの両端に形成された貫通穴を挿通し,しかも前記U字形のシャントの内側に挿入された前記絶縁ガイドロッドの外周上には圧縮ばねが取り巻かれて装着され,そして前記絶縁ガイドロッドの後端に位置する前記給電ステーが前記ガイドロッドと同一軸心線上で固着されていることを特徴とする抵抗スポット溶接ガン。
【請求項7】
請求項6において,前記第3給電端子の円筒接触部と前記給電ステーは前記アクチュエータのヘッドカバー側に突出して設けた棒状のガイド手段により移動中に案内されるように構成された抵抗スポット溶接ガン。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかにおいて,当該溶接ガンはハンガーブラケットの先端に保持されると共に前記ハンガーブラケットは吊り金具のハンガーの先端に有する軸受けに組み込まれた回転軸に固定され,かつ前記軸受けの回転軸にはブレーキ板が固定されており,しかも前記ブレーキ板と対応する位置にブレーキパッドを押し付けて前記溶接ガンの回転角度を任意の位置で停止させるためのストッパ装置が前記ハンガーの所定位置に取り付けられたことを特徴とする抵抗スポット溶接ガン。
【請求項9】
請求項8において,前記ストッパ装置に含むブレーキ板は円板状のもので前記ブレーキパッドを駆動する駆動軸線は前記ブレーキ板の円周状の曲面に対し法線方向であることを特徴とする抵抗スポット溶接ガン。
【請求項10】
請求項8において,前記ストッパ装置に含むブレーキパッドの駆動源は流体圧シリンダ,電動モータ,ソレノイドとする抵抗スポット溶接ガン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−172949(P2010−172949A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−19475(P2009−19475)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000151070)株式会社電元社製作所 (23)
【Fターム(参考)】