説明

抵抗溶接方法

【課題】焼き戻しができない様態の抵抗溶接において、溶接対象物が焼き入れ状態にならない溶接方法を提供するものである。
【解決手段】本溶接を行う前に、溶接対象物(上部棒鋼1、下部棒鋼2)は、前余熱を用いて、予め所定の温度まで上昇することによって、溶接対象物(上部棒鋼1、下部棒鋼2)全体の熱量が増加し、冷めにくくなり、「焼き入れ状態」が少ない溶接方法となる。
また、径の異なる鋼棒(熱し易く冷めやすい鋼棒と、熱しにくく冷めにくい鋼棒)であると、前余熱によって双方の温度がほぼ同程度となり(均熱が取れ)、高強度の溶接が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は鉄筋、金網、条鋼、棒鋼等の溶接対象物の接合に用いられている抵抗溶接に関するものである。
【背景技術】
【0002】
抵抗溶接は急激に溶接対象物の温度が上昇し、下降することから、対象物に焼きが入り、対象物の硬度は向上するものの、靭性が悪化するため、対象物が脆弱になるという問題があった。
【0003】
この問題を解決するため、溶接後に「焼き戻し」を行う技術(例えば非特許文献1)が開示されている。
【非特許文献1】産報出版株式会社 「やさしい抵抗溶接」84頁、85頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の「焼き戻し」の技術は溶接後に加熱を行う為、時間がかかるものであり、短時間で行うスポット溶接においては焼き戻し工程が行えないという問題があった。
【0005】
また、径の異なる溶接対象物を溶接する場合、径の小さい溶接対象物は熱しやすく冷めやすいという特性を持ち、径の大きい溶接対象物は熱しにくく冷めにくいという特性を持つことから、径の異なる溶接対象物を同径の溶接対象物のように溶接することは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の溶接方法は、抵抗溶接において、本溶接を行う前に溶接対象物を加熱することを特徴とする。この発明の溶接方法は、上記発明に関し、本溶接を行う前に行う対象物への加熱が、本溶接の70%〜75%の電流を用い、本溶接の時間とほぼ等しい時間であることを特徴とする。この発明の溶接方法は、上記発明に関し、本溶接後、一定の時間間隔で本溶接の70%〜75%の電流を用いて、後熱をかけることを特徴とする。この発明の溶接方法は、上記発明に関し、溶接対象物の径が異なることを特徴とする。
【0007】
(請求項1記載の発明)
請求項1記載の発明の溶接方法は、前余熱(A1)と、本溶接(A2)までの休止と、本溶接(A2)と、後溶接(A3)までの休止と、後溶接(A3)とを行なう溶接方法であって、前余熱(A1)は、本溶接(A2)の70%〜75%の電流を用いるものであり、後溶接(A3)は、本溶接(A2)の70%〜75%の電流を用いるものであり、前余熱(A1)を行う時間をCy、本溶接(A2)までの休止時間をCy、本溶接(A2)を行う時間をCy、後溶接(A3)までの休止時間をCy、後溶接(A3)を行う時間をCyとすると、Cy時間の±5%がCyあり、 Cy時間の±5%がCyあり、Cy時間の±5%がCyあり、Cy時間の±5%がCyあることを特徴とする。
【0008】
(請求項2記載の発明)
請求項2記載の発明の溶接方法は、請求項1記載の溶接方法において、上部棒鋼(1)と下部棒鋼(2)とは径が異なるものであって、上部棒鋼(1)の温度と下部棒鋼(2)の温度とをほぼ同じとし、焼きが入らないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明の溶接方法では、予め溶接対象物を加熱しておくので、本溶接のみであっても対象物に「焼き」が入りにくく、脆弱性の少ないものとすることが可能となる。
【0010】
また、径の異なる溶接対象物であったとしても、同径の溶接対象物と同等の強度を有する溶接を可能とする、
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、この発明の溶接方法を実施するための最良の形態として、実施例について詳しく説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は上部棒鋼1、下部棒鋼2の組み立て図、図2は上部棒鋼1、下部棒鋼2をクロスさせた斜視図、図3はクロスさせた棒鋼を上部電極3、下部電極4に挟み込んだ斜視図、図4は溶接を行う時の正面図、図5は溶接時の電流と時間の関係を示している。
【0013】
〔棒鋼の準備〕
先ず、図1に示すように溶接対象物である、上部棒鋼1と下部棒鋼2をクロスさせ、上部棒鋼1の上部溶接部10と下部棒鋼2の下部溶接部20とを接触させる。
【0014】
棒鋼の接触は、図2に示すように十文字にクロスさせるだけでなく、当業者が適宜なし得る事項である。
【0015】
〔溶接の方法〕
上部棒鋼1と下部棒鋼2の溶接は、図3に示すように上部電極3と下部電極4に棒鋼を挟んだ後、図4に示すように、上側工具5と下側工具6を用いて棒鋼に加圧を行いつつ、電極間に通電する。
【0016】
電極間に行う通電の電流は、図5のグラフに示すように、前余熱Aを本溶接Aの70%〜75%の電流を用いて行い、本溶接を行った後、後溶接(焼き戻し)Aを本溶接の70〜75%の電流を用いて行うものである。
【0017】
前余熱Aを行う時間をCy、本溶接Aまでの休止時間をCy、本溶接Aを行う時間をCy、後溶接Aまでの休止時間をCy、後溶接Aを行う時間をCyとし、Cy≒Cy≒Cy≒Cy≒Cyとするのが好ましい。
【0018】
〔前余熱の効果〕
表1にこの発明の前溶接の試験結果を記載する。
【0019】
試験はD10(JIS)鋼棒(直径10mmの鋼棒)とD13(JIS)鋼棒(直径13mmの鋼棒)を試験体として用い、5.9KNで加圧し、表1の条件に基づき、一般的な抵抗溶接機(D溶接機φ25)を用いて、クロス溶接を行った。
【0020】
表1に記載された単位は以下に示す通りである。
KA:(キロアンペア)電流。
CY:(サイクル)60Hzにおける周波数。15CY=15/60秒=0.25秒
E :(ジュール)エネルギー。E=A×Cy
KN:(キロニュートン)引っ張り強度。
【0021】
【表1】

【0022】
表1に記載した通り、試験結果は、本溶接を行う前に行う対象物への加熱が、本溶接の72%の電流を用いたもの(KA比を72%としたもの)の引っ張り強度が36.3KNという最も大きい値を示した。
【0023】
この、36.3KNを溶接の最大強度とし、100%とすると、表1に記載の通り、KA比70%のものは36.1KNであるから、強度比は99%であり、KA比75%のものは35.7KNであるから、強度比は98%である。
強度比が90%代後半のものが好ましいことから、本溶接を行う前に行う対象物への加熱が、本溶接の70%〜75%の電流を用いたものが好ましい。
【0024】
この溶接方法は、前余熱を行うことによって、Cy(本溶接の時間)が小さく、急激に冷却されてしまう抵抗溶接(例えばスポット溶接)であっても、棒鋼(溶接対象物)全体の熱量を増加させることから、溶接部(上部溶接部10、下部溶接部20)の温度を予め所定の温度まで上げることが可能であり、溶接対象物が冷めにくくなり、溶接対象物に「焼き」が入ること無く溶接することが可能となる。
【0025】
本溶接の70%〜75%の電流を用いる本溶接を行う前に行う対象物への加熱は、D10鋼棒とD13鋼棒のように径の異なる鋼棒(熱し易く冷めやすいD10鋼棒と、熱しにくく冷めにくいD13鋼棒)であると、前余熱によって双方の温度がほぼ同程度となり(均熱が取れ)、高強度の溶接が可能となる。
【0026】
また、図5に示すように、本溶接後も前余熱と同じ条件で本溶接後、後熱をかけ、温度を下げると、さらに溶接対象物の「焼き入れ状態」が少ない溶接が可能となる。
【0027】
溶接対象物は鉄筋、金網、条鋼、棒鋼のみにあらず、「焼き入れ状態」となる金属であれば、何でも良く、当業者が適宜なし得る事項である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】上部棒鋼1、下部棒鋼2を示す組み立て図である。
【図2】上部棒鋼1、下部棒鋼2をクロスさせた状態を示す斜視図である。
【図3】クロスさせた棒鋼を上部電極3、下部電極4に挟み込んだ状態を示す斜視図である。
【図4】溶接を行う状態を示す正面図である。
【図5】溶接地の電流と時間を示すグラフである。
【符号の説明】
【0029】
1 上部棒鋼
10 上部溶接部
2 下部棒鋼
20 下部溶接部
3 上部電極
4 下部電極
5 上側工具
6 下側工具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前余熱(A1)と、本溶接(A2)までの休止と、本溶接(A2)と、
後溶接(A3)までの休止と、後溶接(A3)とを行なう溶接方法であって、
前余熱(A1)は、本溶接(A2)の70%〜75%の電流を用いるものであり、
後溶接(A3)は、本溶接(A2)の70%〜75%の電流を用いるものであり、
前余熱(A1)を行う時間をCy、本溶接(A2)までの休止時間をCy
本溶接(A2)を行う時間をCy、後溶接(A3)までの休止時間をCy
後溶接(A3)を行う時間をCyとすると、
Cy時間の±5%がCyあり、 Cy時間の±5%がCyあり、
Cy時間の±5%がCyあり、 Cy時間の±5%がCyある
ことを特徴とする溶接方法。
【請求項2】
上部棒鋼(1)と下部棒鋼(2)とは径が異なるものであって、
上部棒鋼(1)の温度と下部棒鋼(2)の温度とをほぼ同じとし、
焼きが入らないことを特徴とする請求項1記載の溶接方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−177794(P2011−177794A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110919(P2011−110919)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【分割の表示】特願2006−151708(P2006−151708)の分割
【原出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(000121729)奥地建産株式会社 (20)
【Fターム(参考)】