説明

抵抗率計の電極

【課題】半導体基板の洗浄に使用される洗浄装置に付設される抵抗率計の電極において、気泡が発生し難く、仮に気泡が存在してもその気泡が滞留することを無くし、高い計測精度と安定性を得る。
【解決手段】円管状の外電極1内に棒状の内電極2を配置し、絶縁ホルダ3を介在させて本体4で保持する。本体4のネジ山41により洗浄装置の測定配管内にネジ止めする。外電極1の先端は開口部11とし、外電極1の基部1aに流出孔12を形成する。絶縁ホルダ3の流出孔12に対応する位置の形状を、内電極2から流出孔12にかけて傾斜する傾斜面3Aを有する形状とする。内電極2の先端を円錐台部21とし、その側面により傾斜面21Aを形成する。内電極2の基部2aを円錐台部22とし、その側面により傾斜面22Aを形成する。傾斜面21A、22A、3Aにより流水の流れをスムースにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定流体を外電極と内電極の間に流して、被測定流体の抵抗率を測定する抵抗率計の電極に関し、特に半導体基板(ウエハ)の洗浄に使用される超純水の純水性能を確認するために洗浄装置に付設され、該超純水の抵抗率を測定するのに適した抵抗率計の電極に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハの製造工程においては、微細な埃や汚れも許されないので、極めて厳密な洗浄が要求されており、その洗浄方法としては薬液による洗浄、及び超純水による洗浄が一般的に使用されている。例えば、洗浄工程では、まず半導体ウエハの表面を希塩酸と過酸化水素水の混合液や希フッ酸等の種々の薬液で洗浄した後に、最後に超純水を用いてウエハ表面に付着した薬液を洗い流す方式が使われている。
【0003】
前記の洗浄方式では、洗浄使用後の超純水の抵抗率を測定して、前記薬液が洗い流されているか否かを判断する方法が一般的である。一方、最近では、超純水における洗浄力を向上させるために、窒素ガス等を外部より導入して溶存させたり、洗浄水の温度を上げたりする方法も使われている。その結果、溶存した窒素ガス等が気泡として成長し、気泡を含んだ超純水で前記半導体ウエハの洗浄を行っている。このような技術は例えば特許第3341206号公報(特許文献1)に開示されている。
【0004】
また、上記のような超純水の抵抗率(比抵抗)を測定する抵抗率計、あるいは導電率(電導度)を測定する導電率計として、例えば特許第3820130号公報(特許文献2)、特許第3863677号公報(特許文献3)に開示されたものがある。なお、抵抗率計と導電率計とでは、最終的な計測値としての物理量の単位が異なるだけで、両者とも構造と測定原理は同じであり、以下、抵抗率計の電極として説明する。
【特許文献1】特許第3341206号公報
【特許文献2】特許第3820130号公報
【特許文献3】特許第3863677号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献2及び3の抵抗率計は、純水や電解質の抵抗率を測定する抵抗率計の電極部が、円管状の外電極と、この外電極の内側に設けられた円形棒状の内電極で構成され、前記外電極の一方より被測定液体を導入し、前記外電極の他方に形成された流出孔から外部に流出する状態で被測定液体の抵抗率を計測するようになっている。
【0006】
しかしながら、特許文献2及び3のものでは、内電極と外電極との基部に配設した絶縁ホルダ(シール部材、スペーサ)が内電極の軸方向すなわち被測定液体の流れの流線方向に対して、略直角状の段差を形成している。例えば、特許文献2のものではシール部材の面が流線に対して直角面となり、特許文献3のものではスペーサと内電極の基部が流線に対して直角方向に重なった段を形成している。
【0007】
図7はこのような従来の抵抗率計の電極の一例を示す縦断面図であり、抵抗率計の電極90は外電極91と棒状の内電極92と絶縁ホルダ93とを有し、外電極91、内電極92及び絶縁ホルダ93は本体94によって一体に保持されている。本体94の周囲にはネジ山94aが形成され、図9に示すように、このネジ山94aにより洗浄槽の測定配管110内にネジ止めして固定される。流水(超純水)は外電極91の開口部91aから流入し、外電極91内に流入し、この流水は外電極91の流出孔91bを介して測定配管110の流出管110aに排出される。
【0008】
そして、図8に示すように、内電極92の先端(すなわち流水の上流側先端)の面92Aが流線に直角な面となっており、その角のA部に発生する渦が起因して、気泡が発生しやすくなる。また、外電極91の流出孔91bから流れ出る直前に、絶縁ホルダ93の面93Aが流線に対して直角になっているので、このB部(段差)に発生する渦が起因して、気泡が発生しやすくなる。
【0009】
したがって、従来の抵抗率計の電極では、このような段差の部分に発生する渦が起因して、気泡が発生し、滞留することがあった。また、抵抗率計の電極を取り付けた円管内に導入された被測定液体中に気泡がすでに存在する場合においても、この段差部に気泡が滞留することがあった。これらの気泡は、内電極表面あるいは外電極内表面に付着すると、抵抗率計の電極条件に悪影響を与えることになり、抵抗率計の電極の精度、結果的には抵抗率計の精度の安定性を低下させることになる。したがって、抵抗率計の電極にとって気泡が発生し難く、かつ気泡が滞留することのない構造とすることで、高い計測精度と安定性を得る抵抗率計の電極が要求される。
【0010】
なお、半導体ウエハの洗浄処理槽では、アップフロー時には、約50〜60L/minの高流量で超純水が流水されるが、抵抗率計の電極は、洗浄処理槽の上部淵の一部に付設されているため、実際の流量は0.5〜3L/min程度の低流量となり、気泡を含んだ超純水が流れ込んできた場合には、この気泡が滞留しやすい状況にある。また、超純水の抵抗率は、18.2MΩ・cm(理論値)近傍であるが、外電極及び内電極に気泡が付着した場合は、抵抗率は高めに出る傾向にあり、状況によっては(大量の気泡が付着した場合等)、20MΩ・cm以上といった、理論上あり得ない測定値を示す場合もある。
【0011】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、気泡が発生し難く、仮に気泡が存在してもその気泡が滞留することなく流出し、高い計測精度と安定性を有する抵抗率計の電極を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の抵抗率計の電極は、円管状の外電極と、該外電極内に同軸に配置された棒状の内電極とを備えるとともに、該外電極と内電極の基部に絶縁ホルダを介在させて該外電極と内電極とを本体に保持し、該外電極の円管先端から流入する被測定流体を該外電極と該内電極との間を通して、該外電極の前記基部に形成された流出孔から流出させ、該外電極と該内電極の間の被測定液体の抵抗率を測定する抵抗率計の電極であって、前記内電極の前記被測定流体の上流側先端の形状が円錐台の形状であり、前記絶縁ホルダの形状は、少なくとも前記流出孔に対応する部分が、前記内電極から前記流出孔にかけて傾斜する傾斜面を有する形状であることを特徴とする。
【0013】
請求項2の抵抗率計の電極は、請求項1に記載の抵抗率計の電極であって、前記内電極の前記基部の形状が、前記絶縁ホルダの前記傾斜面にかけて傾斜する傾斜面を有する形状であることを特徴とする。
【0014】
なお、請求項1または2における絶縁ホルダの傾斜面、請求項2における内電極の傾斜面は、絶縁ホルダや内電極の全周に形成されていてもよいし、絶縁ホルダや内電極の周上で前記流出孔に対応する箇所にのみ形成されていてもよい。
【0015】
本発明の他の技術例を示す。形成された前記傾斜面は、直線状のテーパ加工であってもよいし、前記流出孔側に膨出した円弧状に、または流出孔と反対側に窪んだ円弧状に加工されたものでもよい。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の抵抗率計の電極によれば、内電極の先端の傾斜面と、絶縁ホルダの傾斜面により、流水がスムースに流れ、気泡が発生し難く、仮に気泡が存在してもその気泡が滞留することなく流出し、高い計測精度と安定性が得られる。
【0017】
請求項2の抵抗率計の電極によれば、請求項1の効果に加えて、内電極の基部側の傾斜面から絶縁ホルダの傾斜面に沿って流水が流れ、この外電極と内電極の間の流水が流出孔側に流れ方向を変える場所が、内電極だけとなるのでさらに流れがスムースになる。したがって、気泡が発生し難く、仮に気泡が存在してもその気泡が滞留することなく流出し、高い計測精度と安定性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の抵抗率計の電極の実施形態を図面を参照して説明する。図1は実施形態の抵抗率計の電極の縦断面図、図2は実施形態の抵抗率計の電極の作用説明図、図3は実施形態の抵抗率計の電極の付設状態の拡大図、図4は実施形態の抵抗率計の電極が付設される半導体基板(ウエハ)の洗浄処理層の概略図である。
【0019】
図4に示すように、洗浄処理槽100内には洗浄槽100の下方の図示しない配管から超純水W、あるいは窒素ガス等が溶存した超純水Wがアップフローにより供給される。これにより、超純水Wは洗浄処理槽100の上部からオーバーフローするとともに、その一部が測定配管110に流れる。この測定配管110には実施形態の抵抗率計の電極10が付設されており、洗浄処理槽100側から抵抗率計の電極10に向けて測定配管110内を前記超純水Wが流れる。
【0020】
図1に示すように、抵抗率計の電極10は、円管状の外電極1と、外電極1内に同軸に配置された棒状の内電極2と、外電極1の基部1aと内電極2の基部2aに介在された樹脂製の絶縁ホルダ3とを有し、この外電極1、内電極2及び絶縁ホルダ3は樹脂製の本体4によって一体に保持されている。本体4の外電極1側の周囲にはネジ山41が形成され、図3に示すように、このネジ山41により前記測定配管110内にネジ止めして固定される。なお、内電極2の中にはサーミスタ等からなる温度補償素子5が配設されている。また、本体4には、図示しない抵抗率計のコントローラに接続される検出信号用のリード線6が取り付けられている。
【0021】
外電極1の円管先端は開口部11とされるとともに、外電極1の基部1aには周囲4カ所に流出孔12が形成されている。そして、絶縁ホルダ3は、外電極1の流出孔12に対応する位置の形状が、内電極2から流出孔12にかけて傾斜する傾斜面3Aを有する形状となっている。もちろん絶縁ホルダ3の形状は、前記傾斜面3Aが流出孔12に対応する位置だけでなく、傾斜面が全周に亘って形成されている形状でもよいことは、いうまでもない。
【0022】
内電極2の先端は円錐台の形状をした円錐台部21とされ、この円錐台部21の円錐の側面により傾斜面21Aが形成されている。また、内電極2の基部2aも円錐台の形状をした円錐台部22とされ、この円錐台部22の円錐の側面には傾斜面22Aが形成されている。そして、この傾斜面22Aは、絶縁ホルダ3の前記傾斜面3Aにかけて傾斜するように構成されている。
【0023】
次に実施形態の抵抗率計の電極10の作用を説明する。図2、図3において矢印は流水(超純水W、あるいは窒素ガス等が溶存した超純水W:以下同様)の流線を示す。図3に示すように、流水の全体的な流れは、測定配管110内に流入され、そのほとんどは抵抗率計の電極10の外電極1の開口部11内に流入し、一部は外電極1と測定配管110の内壁との隙間を流れる。また、この流水は外電極1の流出孔12を介して測定配管110の流出管110aに排出される。
【0024】
図2に示すように、外電極1の内側に流入する流水は、内電極2の先端(すなわち流水の上流側先端)の円錐台部21の傾斜面21Aに沿ってスムースに流れる(A部)。また、外電極1と内電極2の間を流れる流水は、内電極2の基部2aの円錐台部22の傾斜面22Aと絶縁ホルダ3の傾斜面3Aに沿ってスムースに流れ、流出孔12から流出する(B部)。したがって、渦の発生を抑え、気泡が発生しないようにし、気泡が滞留し難くなっている。これにより、計測精度が安定化する。
【0025】
上記の実施形態では、内電極2の基部2aに形成した傾斜面22Aと絶縁ホルダ3の傾斜面3Aとにより、流水の流れをスムースにしているが、例えば、図5のように絶縁ホルダ3′の傾斜面3A′を内電極2′の外周面まで延長するようにしてもよい。
【0026】
なお、内電極の先端部の形状に関しては、前記特許文献3のように先端部形状を曲面にすることでも、この先端部での気泡の発生を抑えることができる。しかしながら、曲面にすると、内電極の加工に手間がかかり、直角面やテーパ形状に比べるとコストも高くなる。また、例えば、図6(B) に示すように、内電極2′の先端部を曲面状とした場合には、R形状や曲線寸法を厳密に管理しなければ内電極2′の寸法L′の精度を出し難く、外電極との比率にバラツキが生じやすい。この電極の寸法比のバラツキに関しては、図示しない抵抗率計のコントローラとの初期のマッチングの際に補正して調整することは可能であるが、バラツキが少ない方が特性的に安定する。また、バラツキが大きいと、調整範囲外に外れる恐れもある。これに対して、本発明の抵抗率計の電極においては、内電極2の先端が円錐台部21となっているので、図6(A) に示すように内電極2の寸法Lの精度を出しやすく上記のような問題もない。
【0027】
なお、外電極1の内周面と、内電極2の表面とに表面処理を施すことにより、気泡の付着等をさらに防止するようにしてもよい。この表面処理は、電極形状、電極材料、流速、被測定液体の種類等により、適宜選択する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態の抵抗率計の電極の縦断面図である。
【図2】本発明の実施形態の抵抗率計の電極の作用説明図である。
【図3】本発明の実施形態の抵抗率計の電極の付設状態の拡大図である。
【図4】本発明の実施形態の抵抗率計の電極が付設される半導体基板の洗浄処理層の概略図である。
【図5】本発明の実施形態の抵抗率計の電極の傾斜面の他の例を示す図である。
【図6】本発明の実施形態の抵抗率計の電極の内電極の寸法の精度を説明する図である。
【図7】従来の抵抗率計の電極の一例を示す縦断面図である。
【図8】従来の抵抗率計の電極の作用及び問題点の説明図である。
【図9】従来の抵抗率計の電極の付設状態の拡大図である。
【符号の説明】
【0029】
1 外電極
2 内電極
3 絶縁ホルダ
3A 傾斜面
10 抵抗率計の電極
11 開口部
12 流出孔
21 円錐台部
21A 傾斜面
22 円錐台部
22A 傾斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円管状の外電極と、該外電極内に同軸に配置された棒状の内電極とを備えるとともに、該外電極と内電極の基部に絶縁ホルダを介在させて該外電極と内電極とを本体に保持し、該外電極の円管先端から流入する被測定流体を該外電極と該内電極との間を通して、該外電極の前記基部に形成された流出孔から流出させ、該外電極と該内電極の間の被測定液体の抵抗率を測定する抵抗率計の電極であって、
前記内電極の前記被測定流体の上流側先端の形状が円錐台の形状であり、前記絶縁ホルダの形状は、少なくとも前記流出孔に対応する部分が、前記内電極から前記流出孔にかけて傾斜する傾斜面を有する形状であることを特徴とする抵抗率計の電極。
【請求項2】
前記内電極の前記基部の形状が、前記絶縁ホルダの前記傾斜面にかけて傾斜する傾斜面を有する形状であることを特徴とする請求項1に記載の抵抗率計の電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−20063(P2009−20063A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−184709(P2007−184709)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(000143949)株式会社鷺宮製作所 (253)
【Fターム(参考)】