説明

押付けロールの速度制御方法および押付けロール用速度制御装置

【課題】金属帯に押し付けて使用するライニング材としてゴムなどの弾性素材を用いた押付けロールを有する設備において、押付けロールを精度よく且つ速い応答により速度制御する。
【解決手段】この押付けロールの速度制御装置は、圧下量算出手段22が、検出距離D等から押付けロールの圧下量Lを計測し、搬送距離変化量算出手段24が、計測した圧下量Lに基づいてロールの変形による押付けロールの回転角あたりの金属帯の搬送距離の変化量Yをモデル式等の変化量設定情報により求め、回転数指令補正手段26は、求められた搬送距離の変化量Yに基づいて基準となる回転数指令Nを補正(N’)する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼冷延プロセスにおける連続焼鈍設備や鍍金設備など、複数のロールに金属帯を巻きかけて通板する設備において、金属帯の液絞り、保持、搬送などをするために金属帯に押し付けて使用するリンガーロール、スナバーロール、ピンチロールなどの押付けロールを精度よく速度制御する場合に好適な押付けロールの速度制御方法および押付けロール用速度制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、押付けロールの速度制御においては、ライニング材としてゴムなどの弾性素材を用いた場合でも、速度指令と非圧下時のロール径を基にして演算したロール回転数を駆動装置に回転数指令として与える方法が実施されている。
制御性を向上させるための方法としては、例えば、特許文献1に開示されるように、押付け時の制御ゲインを指令と検出値との偏差によって可変とする方法や、特許文献2に開示されるように、定常電流値の記憶値と電流検出値を比較することによりすべりを防止する方法などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−82561号公報
【特許文献2】特開平5−154532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、図1に示すように、ライニング材として弾性素材を用いた押付けロール1を圧下した場合、押付け力Fによる押付けロール1の変形により、圧下時のロール断面形状3は、非圧下時のロール断面形状2と比較して、ロール1の回転角あたりの金属帯Kの搬送距離が増加する。つまり、同図において、非圧下時の接触角度4よりも圧下時の接触角度5が大きくなるため、非圧下時の接触部ロール周長6よりも圧下時の接触部ロール周長7も大きくなる。これにより、圧下時のロールの回転角あたりの金属帯の搬送距離8も非圧下時に比べて大きくなる。
【0005】
ところが、従来から一般的に実施されている非圧下時のロール径を基にして演算したロール回転数を駆動装置に指令として与える制御方法においては、この押付け力によるロールの変化量を考慮していないものである。そのため、同じ回転数指令を与えた場合、圧下量の増加とともに金属帯の搬送量が増加することになり、それにより、駆動モータの過負荷、あるいはロールと金属帯とのスリップを引き起こす要因となっていた。また、前述した特許文献1や特許文献2に開示される方法を適用した場合でも、速度偏差あるいは電流偏差をもとにしたフィードバック制御なので、応答が遅いという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、リンガーロール、スナバーロール、ピンチロールなど、金属帯に押し付けて使用するライニング材としてゴムなどの弾性素材を用いた押付けロールを有する設備において、押付けロールを精度よく且つ速い応答により速度制御することのできる、押付けロールの速度制御方法および押付けロール用速度制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のうち第一の発明は、金属帯に押し付けて使用するライニング材として弾性素材を用いた押付けロールを有する設備における前記押付けロールの速度制御方法であって、前記押付けロールの圧下量を計測し、その計測した圧下量に基づいて当該ロールの変形による押付けロールの回転角あたりの金属帯の搬送距離の変化量を予め設定した変化量設定情報(例えば、モデル式や実測によるテーブル値)により求め、その求めた搬送距離の変化量に基づいて基準となる回転数指令を補正することを特徴とする。
【0008】
また、本発明のうち第二の発明は、金属帯に押し付けて使用するライニング材として弾性素材を用いた押付けロールを有する設備に用いられる前記押付けロールの速度制御装置であって、前記押付けロールの圧下量を計測する圧下量計測手段と、該圧下量計測手段で計測した圧下量に基づいて当該ロールの変形による押付けロールの回転角あたりの金属帯の搬送距離の変化量を予め設定した変化量設定情報(例えば、モデル式や実測によるテーブル値)により求める搬送距離変化量算出手段と、該搬送距離変化量算出手段により求めた搬送距離の変化量に基づいて基準となる回転数指令を補正する回転数指令補正手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、押付けロールの回転角あたりの金属帯の搬送距離の変化量を用いて、基準となる回転数指令を補正するようにしたので、金属帯の搬送速度と押付けロール周速の差異がなくなり、過負荷によるトリップや押付けロールと金属帯とのスリップを防止することができる。また、ロールの圧下量を計測し、その計測した圧下量に基づいて当該ロールの変形による押付けロールの回転角あたりの金属帯の搬送距離の変化量を予め設定した変化量設定情報(例えば、モデル式や実測によるテーブル値)により求めるので、押付け駆動源の圧力の変化や圧下位置の調整による圧下位置の変化が生じた場合でも、適正な補正量を精度よく且つ速い応答により与えることができる。したがって、リンガーロール、スナバーロール、ピンチロールなど、金属帯に押し付けて使用するライニング材としてゴムなどの弾性素材を用いた押付けロールを有する設備において、押付けロールを精度よく且つ速い応答により速度制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】押付けロールの圧下に伴う押付けロールの変形のイメージを示す図である。
【図2】本発明に係る押付けロール用速度制御装置の構成、および押付けロールの圧下量の計測(算出)方法の一例を説明する図である。
【図3】本発明に係る押付けロールの速度制御処理を説明する制御ブロック図である。
【図4】ロール圧下量と搬送距離増加量との関係を示すグラフである。
【図5】ロール圧下量と補正関数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。
本発明に係る押付けロール用速度制御装置は、圧下量計測手段を有するが、この例では、図2において、符号10が圧下量計測手段を構成する距離検出器である。本実施形態の例ではレーザー式の距離検出器を用いた。この距離検出器10は、押付けロール1の構成材のうち、例えばチョック1cの上面など、押付けによりロール中心位置Oとの相対位置が変化しない点を検出可能に設置する。この例では、このような相対位置が変化しない点(位置)としてチョック1cの上面に検出点Pを設定した。
【0012】
ここで、距離検出器10と金属帯Kとの対向距離A0、距離検出器10の検出点Pとロール中心位置Oとの距離B0、実装された押付けロール1の半径Rが与えられれば、押付けロール1と金属帯Kが点接触(符号2’)しているときの検出距離D0は以下の(式1)で求められるので、距離検出器10の検出距離がDの時の、ロール圧下量Lは以下の(式2)で求められる。
D0=A0−B0−R (式1)
L=D−D0=D−(A0−B0−R) (式2)
【0013】
ここで、本実施形態においては、ロール圧下量Lとロール回転角あたりの金属帯Kの搬送量の関係式については、表1にしめす実測値に基づいて近似したモデル式(図4参照)による関数を用いた。本実施形態では、ロール半径R=100mm、圧下量Lは、0.0mm、1.0mm、2.0mmの3つの実測データから図4に示す近似式を得た。
【0014】
【表1】

【0015】
図3において破線で囲った符号20の部分が、本発明に係る押付けロール用速度制御装置の、押付けロールの速度制御処理を実行する押付けロールの速度制御部である。つまり、同図に示すように、この速度制御部20は、圧下量算出手段22、搬送距離変化量算出手段24および回転数指令補正手段26を有して構成される。ここで、圧下量算出手段22は、上記距離検出器10の検出距離D、および実装された押付けロール1の半径R、および上記の距離A0、B0が与えられると、(式2)からロール圧下量Lを算出する。つまり、本実施形態の例では、上記距離検出器10および圧下量算出手段22によって、「課題を解決するための手段」に記載の「圧下量計測手段」が構成されている。
【0016】
そして、搬送距離変化量算出手段24は、圧下量算出手段22により求められたロール圧下量Lから、図4に示す近似式に対応する関数f(L)の値として搬送距離変化量Yを求める。そして、回転数指令補正手段26は、搬送距離変化量算出手段24で求められた搬送距離変化量Yの値に上位コンピュータからの金属帯Kの搬送速度指令Sとロール半径Rから求められる基準回転数指令Nを乗ずることにより補正回転数指令N'を求め、この補正回転数指令N'を駆動装置に与えるようになっている。
【0017】
次に、この押付けロール用速度制御装置、およびこれを用いた押付けロールの速度制御方法の作用・効果について説明する。
上述のように、この押付けロール用速度制御装置は、上記距離検出器10および制御部20を備え、制御部20は、距離検出器10で計測した検出距離D等に基づいて、圧下量Lを算出する圧下量算出手段22と、この圧下量算出手段22で算出された圧下量Lに基づいて当該ロールの変形による押付けロールの回転角あたりの金属帯Kの搬送距離の変化量Yを予め設定した変化量設定情報である図4に示す近似式(モデル式)から求める搬送距離変化量算出手段24と、この搬送距離変化量算出手段24により求めた搬送距離変化量Yに基づいて基準となる回転数指令Nを補正して補正回転数指令N'を駆動装置に与える回転数指令補正手段26とを有しており、また、これを用いた押付けロールの速度制御方法は、押付けロール1の回転角あたりの金属帯Kの搬送距離の変化量Yを用いて、基準となる基準回転数指令Nを補正回転数指令N'に補正するようにしているので、金属帯Kの搬送速度と押付けロール周速の差異がなくなり、過負荷によるトリップや押付けロール1と金属帯Kとのスリップを防止することができる。
【0018】
また、押付けロール1の圧下量Lを距離検出器10の計測値および圧下量算出手段22による算出から測定し、この圧下量Lに基づいて当該ロール1の変形による押付けロールの回転角あたりの金属帯Kの搬送距離の変化量Yを図4に示す近似式により求めるので、押付け駆動源の圧力の変化や圧下位置の調整による圧下位置の変化が生じた場合でも、適正な補正量を精度よく且つ速い応答により与えることができる。したがって、リンガーロール、スナバーロール、ピンチロールなど、金属帯Kに押し付けて使用するライニング材としてゴムなどの弾性素材を用いた押付けロール1を有する設備において、押付けロール1を精度よく且つ速い応答により速度制御することができる。
【0019】
なお、本発明に係る押付けロールの速度制御方法および押付けロール用速度制御装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能である。
例えば、上記実施形態では、押付けロール1の位置を計測する距離検出器10を設けて検出距離Dを求め、実装されたロール径R等が与えられれば、押付けロール1の圧下量Lを圧下量算出手段22で求めることができる例を説明したが、圧下量計測手段はこれに限らず、押付けロール1の圧下量Lを求めることができる構成であれば、種々の構成を採用することができる。例えば、押付けロール1を実際に押し付けたときのロール変形量の実測値を求めてもよい。
【0020】
また、例えば上記実施形態では、圧下量Lとロール回転角あたりの金属帯Kの搬送量の関係式について、圧下状態で実際に金属帯Kを搬送した距離を計測し、これに基づく近似式(モデル式)による関数を変化量設定情報として用いた例で説明したが、変化量設定情報はこれに限定されるものではない。
例えば、表2および図5に示すように、例えば押付けロール1を実際に金属帯Kに押し付けたときのロール変形量から求めたテーブル値を変化量設定情報とし、これに基づき補正してもよい。
【0021】
【表2】

【0022】
また、例えば押付けロール1の圧下状態で実際に金属帯Kを搬送した実搬送距離より実験的に変化量設定情報を求めてもよいし、ロール圧下量Lの関数として、以下の(式3)などに基づいて搬送距離の変化量Yを表してもよい。
Y=S0/S=f(L) (式3)
但し、S:ロール圧下量Lの時のロール単位回転角あたりの金属帯Kの搬送距離、S0:ロール圧下量0の時のロール単位回転角あたりの金属帯Kの搬送距離である。
上記のいずれを変化量設定情報とした場合でも、計測した圧下量Lによりロール回転角あたりの金属帯Kの搬送距離の変化量Yを算出することが可能である。
【符号の説明】
【0023】
1 押付けロール
2 ロール断面形状(非圧下時)
3 ロール断面形状(圧下時)
4 接触角度(非圧下時)
5 接触角度(圧下時)
6 接触部ロール周長(非圧下時)
7 接触部ロール周長(圧下時)
8 ロールの回転角あたりの金属帯の搬送距離(圧下時)
10 距離検出器
20 速度制御部
22 圧下量算出手段
24 搬送距離変化量算出手段
26 回転数指令補正手段
K 金属帯
P 距離検出器の検出点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属帯に押し付けて使用するライニング材として弾性素材を用いた押付けロールを有する設備における前記押付けロールの速度制御方法であって、
前記押付けロールの圧下量を計測し、その計測した圧下量に基づいて当該ロールの変形による押付けロールの回転角あたりの金属帯の搬送距離の変化量を予め設定した変化量設定情報により求め、その求めた搬送距離の変化量に基づいて基準となる回転数指令を補正することを特徴とする押付けロールの速度制御方法。
【請求項2】
金属帯に押し付けて使用するライニング材として弾性素材を用いた押付けロールを有する設備に用いられる前記押付けロールの速度制御装置であって、
前記押付けロールの圧下量を計測する圧下量計測手段と、該圧下量計測手段で計測した圧下量に基づいて当該ロールの変形による押付けロールの回転角あたりの金属帯の搬送距離の変化量を予め設定した変化量設定情報により求める搬送距離変化量算出手段と、該搬送距離変化量算出手段により求めた搬送距離の変化量に基づいて基準となる回転数指令を補正する回転数指令補正手段とを有することを特徴とする押付けロール用速度制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−39994(P2013−39994A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176888(P2011−176888)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】