説明

押出ダイスユニット

【課題】ダイスおよびバッカを内蔵したダイリングの予熱に長時間要さず、且つ押出加工中にて成形される押出形材の形状および寸法を安定させ得る押出ダイスユニットを提供する。
【解決手段】ダイリング2と、該ダイリング2の内側に挿入され、且つ互いの軸心が一致しているダイス11およびバッカ16とを備えた押出ダイスユニット1であって、上記ダイリング2の側面5には、該ダイリング2の内側6に挿入される上記ダイス11およびバッカ16の側面の少なくとも一方が露出する複数の切欠部8a,8bが上記ダイリング2の中心に対して対称に形成されている、押出ダイスユニット1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム(アルミニウム合金を含む、以下においても同じ)の押出形材を押出加工するための押出ダイスユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムからなるビレットを、ダイリングの内側にバッカ(バックダイ)と共に同軸で挿入されたダイスの成形孔を通過させ、該成形孔と相似形の断面を有する押出形材を加工するに際し、該押出形材の形状および寸法を安定させるため、上記押出ダイスおよびバッカと上記ダイリングとの間に、断熱用の空気層を設けた押出工具が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
上記特許文献1に記載された押出工具によれば、前記ダイスおよびバッカと、これらを内蔵するダイリングとの間に、断熱用の空気層を設けているので、押出加工において経時的にダイリングが徐々に冷却されても、ダイスの成型孔の付近は、加工熱によりほぼ一定の温度に保たれることによって、得られる押出形材の形状および寸法を安定させることが可能となる。
【0003】
しかし、押出加工に先立って、前記ダイスとバッカとを内側に内蔵したダイリングを加熱炉内などでアルミニウムの再結晶温度よりも高い温度帯に予め加熱(予熱)した後、ダイキャリア(ダイスライド)の内側に装填して前記押出加工を行うため、上記加熱に長時間を要する、という問題があった。特に、前記のような空気層をダイリングとダイスおよびバッカとの間に設けると、予熱した際に内側に位置するダイスおよびバッカの温度が一層上昇し難くなり、エネルギコストおよび加工コストが高くなる、という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−38718号公報(第1〜7頁、図1〜4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、背景技術で説明した問題点を解決し、ダイスとバッカとを内蔵したダイリングの予熱に長時間要さず、且つ押出加工で成形される押出形材の形状・寸法を安定させ得る押出ダイスユニットを提供する、ことを課題とする。
上記押出ダイスユニットは、ダイス、バッカ、およびダイリングからなる。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するため、ダイリングの側面にその内側に内蔵されるダイスおよびバッカの側面の少なくとも一方が露出する切欠部あるいは通し孔を形成する、ことに着想して成されたものである。
即ち、本発明の押出ダイスユニット(請求項1)は、ダイリングと、該ダイリングの内側に挿入され、且つ互いの軸心が一致しているダイスおよびバッカとを備えた押出ダイスユニットであって、上記ダイリングの側面には、該ダイリングの内側に挿入された上記ダイスおよびバッカの側面の少なくとも一方が露出する1つ以上の切欠部または通し孔が形成されている、ことを特徴とする。
【0007】
これによれば、ダイスおよびバッカと、これらを内側に挿入したダイリングとを加熱炉などで予熱する際に、該ダイリングの側面に形成された前記切欠部あるいは通し孔を通じて、熱輻射により熱エネルギが直にダイスおよびバッカの側面からこれらの内部に伝達される。従って、ダイス、バッカ、およびダイリングからなる押出ダイスユニットの予熱に要する時間を大幅に短縮できるので、予熱に用いる燃料などのエネルギコストおよび加工コストを各々低減することができる。
【0008】
尚、前記ダイス、バッカ、およびダイリングは、例えば、JIS:SKD61やCr−Mo−V鋼などの熱間工具鋼からなる。
また、前記ダイスとバッカは、押出方向に沿った外形が互いに同じ形状であり、両者は、押出方向に沿った複数のボルト・ナットにより固定されている。
更に、前記ダイスとバッカの押出方向と直交する方向の断面が円形で、且つこれらが挿入されるダイリングの内側の断面が円形である場合には、該ダイリング内でダイスとバッカが周(円周)方向に沿って不用意に回転しないように、回転阻止手段を設ける必要がある。例えば、ダイスまたはバッカの側面に径方向に延びたピンを突設し、ダイリングの内側面に押出方向に沿ったて上記ピンを受け入れる凹溝を形成する、という構成の回転阻止手段が挙げられる。
加えて、前記ダイスとバッカの側面は、これらの押出方向に沿った外形が円形である場合は、(円)周面であり、前記ダイリングの側面も、押出方向に沿った外形が円形である場合は、周面である。但し、ダイスとバッカの押出方向に沿った外形が長円形の場合は、前記側面は、平坦面と周面とからなる。
【0009】
また、本発明には、前記複数の切欠部または通し孔は、前記ダイリングの中心に対して対称あるいは非対称の位置に形成されている、押出ダイスユニット(請求項2)も含まれる。
これによれば、ダイリングと、その内側に挿入されたダイスおよびバッカとを予熱する際に、ヒーターやバーナーなどの加熱手段による熱エネルギを、複数の切欠部または通し孔を通じた輻射熱によって、比較的均一にダイリングの内側に挿入されたダイスとバッカに直接伝達することができる。従って、ダイリング、ダイス、およびバッカを熱効率良く加熱でき、前記コストの低減も確実となる。
【0010】
更に、本発明には、前記ダイスおよびバッカは、該ダイスおよびバッカの側面と前記ダイリングの内側面との間における複数の線接触により、該ダイリングに支持されており、上記複数の線接触は、上記ダイリング、ダイス、およびバッカの軸方向あるいはこれと直交する周方向に沿っている、押出ダイスユニット(請求項3)も含まれる。
これによれば、ダイリング内側面と、その内側に挿入されたダイスおよびバッカの側面とは、両者間に位置し、且つ軸方向あるいは周方向に沿った複数の線接触を介して接触している。その結果、押出加工をある程度行った際に、ダイリングが徐々に冷却されても、成形孔を有するダイスの温度を保つことができるので、成形される押出形材の形状・寸法を安定させることができる。即ち、本発明の押出ダイスユニットによれば、予熱時には、比較的短時間で効率良く加熱できると共に、押出加工時には、ダイスの加工温度をほぼ一定に容易に保つことができる。
尚、前記周方向とは、軸方向および押出方向と直交する方向であり、ダイスやバッカの外形やダイリングの内側面が円形の場合には、円周方向となる。
【0011】
また、本発明には、前記軸方向に沿った線接触は、前記ダイリングの内側面、あるいは、前記ダイスおよびバッカの側面において軸方向に沿って配設した丸棒、半丸棒、または断面円弧形状の凸条によって形成されている、押出ダイスユニット(請求項4)も含まれる。
これによれば、前記ダイリングの内側面、あるいは、前記ダイスおよびバッカの側面における軸方向に沿って配設した丸棒、半丸棒、または凸条によって前記軸方向に沿った線接触が形成されているため、ダイリングの内側へ互いに固定されたダイスとバッカを容易に挿入でき、且つ押出加工時におけるダイスの加工熱を確実に保つことができる。
尚、上記半丸棒は、断面がほぼ半円形、半長円形、あるいは半楕円形の金属棒である。また、上記丸棒や半丸棒や凸条は、ダイスおよびバッカの各側面、あるいはダイリングの内側面の軸方向における全長に沿って連続していなくても、上記軸方向における過半の長さに達するように配設すれば良い。更に、前記丸棒や半丸棒は、前記ダイスなどと同様の鋼種からなり、溶接によって配設される。
また、ダイリングの側面に複数の通し孔が形成される形態では、係る通し孔を横切り且つ軸方向に沿って丸棒または半丸棒を配設することもできる。加えて、前記凸条は、ダイスおよびバッカの側面の一部が直線状に外側に突出した部分、あるいはダイリングの内側面の一部が直線状に内側に突出した部分である。
【0012】
加えて、本発明には、前記周方向に沿った線接触は、前記ダイリングの内側面、あるいは、前記ダイスまたはバッカの側面における円周方向に沿って配設した断面円弧形状の凸条、丸棒、または半丸棒よって形成されている、押出ダイスユニット(請求項5)も含まれる。
これによれば、前記ダイリングの内側面、あるいは、前記ダイスおよびバッカの側面における周方向に沿って配設した凸条、丸棒、または半丸棒により、前記周方向に沿った複数の線接触が形成されているので、押出加工時におけるダイスの温度を確実に保つことができる。
尚、ダイスおよびバッカの断面の外形が例えば長円形状の形態であっても、本発明においては、軸(押出)方向に直交する方向を周方向と言うものとする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による一形態の押出ダイスユニットを示す正面図。
【図2】上記押出ダイスユニットを示し且つ一部に断面を含む側面図。
【図3】上記押出ダイスユニットを示す分解斜視図。
【図4】上記押出ダイスユニットを示す軸方向に沿った断面図。
【図5】上記押出ダイスユニットの使用状態を示す断面図。
【図6】異なる形態の押出ダイスユニットを示す図5と同様な断面図。
【図7】更に異なる形態の押出ダイスユニットを示す側面図。
【図8】本発明に用いられる応用形態のダイスを示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明による一形態の押出ダイスユニット1を示す正面図、図2は、一部に断面を含む前記ユニット1の側面図、図3は、該ユニット1の分解斜視図、図4は、該ユニット1の断面図である。
押出ダイスユニット1は、図1〜図4に示すように、全体がほぼリング形状のダイリング2と、該ダイリング2の内側(面)6に挿入され、互いの軸心が一致している円盤形状のダイス11およびバッカ(バックダイ)16とから構成されている。係るダイリング2、ダイス11、およびバッカ16は、例えば、Cr−Mo−V鋼などの熱間工具鋼からなる。尚、図1の前後方向、図2の左右方向、および図3,4の上下方向が押出方向で且つ軸方向である。
【0015】
ダイリング2は、図1〜図4に示すように、押出加工の方向で上流側となる円筒部3と、その下流側に隣接する大小一対の円弧部7,9とを備えている。円筒部3の内側には、押出方向の上流側に位置する小径部4と、押出方向の下流側に位置する大きな内径の内側(面)6と、これらの間に位置するリング形の段部6aとが同軸心で連続している。
上記一対の円弧部7,9は、円周方向に沿った(外側面)側面5,5とこれらの間の浅い凹部5aとを有している。係る円弧部7,9の内側面7a,9aは、前記内側6と連続している。円弧部9の内周面9cにおける左右一対の凹んだ内側面9aは、後述する丸棒10が挿入可能なであり、係る内側面9a,9a間に位置し、且つ前記ダイス11やバッカ16の側面(周面)に接近する内周面9cの中央部には、軸方向に沿った凹溝9bが形成されている。
【0016】
前記円弧部7,9の間には、図1,3に示すように、押出方向の下流側が開口している左右一対の切欠部8a,8bが形成され、該切欠部8a,8bは、例えば、前記側面5,5と凹部5aとからなる円筒形部を側面視で長方形の軌跡に沿って切除したものであり、左右で対称である。
図1,3に示すように、比較的幅の広い円弧部7の内側面7aと、これに連続する内側6の下辺とには、該ダイリング2の軸方向に沿って3本の丸棒10が互いに離れつつ平行に溶着されている。一方、比較的幅の狭い円弧部9における一対の内側面9aと、これらに連続する内側(面)6の上辺とには、軸方向に沿って2本の丸棒10が個別且つ平行に溶着されている。
上記円弧部7,9の各内側面7a,9aおよび円筒部3の内側面6に溶着された上記丸棒10の先端面は、図4に示すように、ダイリング2の段部6aに接触している。但し、係る接触がなく、若干離れている形態でも良い。
尚、上記丸棒10に替えて、図1中の一点鎖線部分Zに相当する部分図で例示するように、断面がほぼ半円形の半丸棒10aを前記同様に溶着しても良い。
【0017】
一方、ダイス11およびバッカ16は、図1〜図3に示すように、それぞれ同じ直径の円柱形を呈し、押出(軸)方向に沿った複数の貫通孔15,19を貫通するボルトBとこれに螺着するナットNとによって、同軸心で固定されている。ダイス11における上流側面12寄りの中心部には、例えば、建材の外装に用いるスパンドレルを成形するための扁平状の成形孔(ベアリング)14aが形成され、該成形孔14aと下流側面13との間には、断面が徐々に拡大する逃げ孔14bが形成されている。尚、上流側面12の下流側には、円環状の段部12aが隣接している。更に、バッカ16における両側面17a,17bの中心部間には、上記逃げ孔14bの最大部と同じ断面の通過孔18が貫通している。
図2,図3に示すように、バッカ16の側面(周面)の上辺には、径方向に沿って突出する鋼製のピン20が立設されている。該ピン20は、一体に固定されたダイス11とバッカ16をダイリング2の内側6に挿入した際に、該ダイス11とバッカ16とが不用意に回転する事態を予防するものである。
【0018】
図2,図3中の白抜きの矢印で示すように、ダイリング2の内側6内に向かって、予め一体に固定されたダイス11とバッカ16とを軸方向に沿って挿入する。
その結果、図1、図2の左側、および図4に示すように、ダイリング2の内側(面)6,内側面7a,9aに溶着された合計5本の丸棒10の内側に、ダイス11とバッカ16の側面が接触した状態で、係るダイス11とバッカ16の一部とがダイリング2の内側6に収容されると共に、ダイス11の一部とバッカ16の大半の側面とが、切欠部8a,8bから外部に露出している押出ダイスユニット1が形成される。この際、前記ピン20は、円弧部9の凹溝9b内に進入ている。また、ダイス11の上流側面12とダイリング2における円筒部3の先端面とが面一となり、バッカ16における下流側面17bとダイリング2における円弧部7,9の下流側面とが面一となっている。尚、上記丸棒10は、前記半丸棒10aに置換しても良い。
【0019】
次に、押出ダイスユニット1を図示しない加熱炉に挿入し、約400〜450℃の再結晶温度よりも高い温度帯に加熱する。この際、ダイリング2における下流側の側面5には、一対の切欠部8a,8bが形成され、係る切欠部8a,8bを介して、ダイス11の一部とバッカ16の大半の側面と露出しているため、当該ダイリング2、ダイス11、およびバッカ16を比較的短時間で均一に且つ効率良く加熱することができる。その結果、ヒーターやガスバーナーなどのエネルギ効率と、押出加工の生産性とを高めることが可能となる。
【0020】
次いで、図5に示すように、加熱された前記押出ユニット1を、押出機における上流側のコンテナ22と、下流側のボルスター25との間にセットする。
この際、予め前記同様の温度帯に加熱されたアルミニウムのビレットMを中心孔23に装填した上記コンテナ22の端面24がダイス11の上流側面12と面接触している。一方、ボルスター25は、その中心孔26がバッカ16の通過孔18の下流側に軸心が連続し且つ断面が拡がるように、該バッカ16の下流側面17bと面接触している。
尚、上記押出ダイスユニット1、コンテナ22、およびボルスター25の径方向における外周面側は、図示しないダイスライドに包囲されている。
【0021】
係る状態で、コンテナ22の中心孔23に装填された円柱形のビレットMに対し、油圧などにより軸方向に沿って進退する図示しないステム(ラム)を該ビレットMの軸方向に沿って徐々に押圧する。その結果、図5中の矢印で示すように、予め軟化していたビレットMのアルミニウムは、ダイス11の成形孔14a,逃げ孔14b,およびバッカ16の通過孔18を順次通過し、上記成形孔14aに倣った扁平な断面形状の押出形材Exに成形され、ボルスター25の中心孔26を経て、図示ないクーリングテーブル上に順次押し出される。
上記のような押出加工をある程度の時間連続して行っても、ダイス11およびバッカ16は、5本の丸棒10による線接触および円弧部6の内周面9cとの極く狭い面接触を介してダイリング2の内側面6,7a,9aに接触しているので、該ダイリング2が徐々に温度低下しても、これに影響して冷却されずに前記温度帯付近を保つことができる。この際、ダイリング2に形成した切欠部8a,8bは、内側のダイス11やバッカ16と、外側のダイキャリアに包囲されたほぼ閉塞した空間を形成しているので、ダイス11やバッカ16の保温に役立つ。また、複数の丸棒10,10間に位置する円環状の空間も、上記保温に役立つ。その結果、所要の断面形状および断面寸法を有する押出形材Exを安定且つ連続して押し出すことができる。尚、丸棒10は、前記半丸棒10aに置換しても良い。
【0022】
以上のような押出ダイスユニット1によれば、ダイリング2と、その内側6に挿入されたダイス11およびバッカ16とを予熱する際に、ヒーターなどの加熱手段による熱エネルギを、複数の切欠部8a,8bを通じた輻射熱によって、比較的均一にダイス11とバッカ16に伝達することができる。従って、ダイリング2、ダイス11、およびバッカ16を熱効率良く予熱でき、エネルギコストおよび加工コストの低減を確実に行える。
しかも、押出加工をある程度の時間連続して行った際にも、ダイス11やバッカ16は、主に複数の丸棒10あるいは半丸棒10aによる線接触でダイリング2に支持されているので、外部からの冷却作用を抑制して保温できるため、所要の断面形状および寸法の押出形材Exを安定且つ連続して押し出すことができる。
尚、丸棒10や半丸棒10aは、その軸方向で前後2本ずつに区分し、ダイス11とバッカ16の外側面にこれらの軸方向に沿って溶着した形態としても良い。また、丸棒10や半丸棒10aは、ダイリング2の内側面6,7a,9a、あるいはダイス11やバッカ16の外側面の円周方向に沿って溶着しても良い。これらによっても、前記ユニット1と同様の効果を奏することが可能である。
【0023】
図6は、異なる形態の押出ダイスユニット1aの使用状態を示す断面図である。
押出ダイスユニット1aは、図6に示すように、前記同様のダイス11およびバッカ16と、円筒部3および円弧部7,9との間に、一定の隙間27を形成し、これらの内側面6,7a,9aに円周方向に沿って断面円弧形状の凸条28を複数個突設したダイリング2aとからなる。上記凸条28は、円筒部3の内側面6では全体が円形を呈するが、円弧部7,9の内側面7a,9aでは短いカーブ形状となっている。更に、図6に示すように、ダイリング2aは、前記同様の切欠部8a,8bと、凹溝9bとを備え、バッカ16は、ピン20を有している。
以上のような押出ダイスユニット1aによっても、前記ユニット1と同様に熱効率良く予熱できると共に、ダイス11やバッカ16は、複数の凸条28による線接触でダイリング2に支持されているので、外部からの冷却作用を抑制でき、所要断面の押出形材Exを安定して押し出すことができる。
尚、前記複数の凸条28は、ダイス11やバッカ16の外側面の円周方向に沿って突設した形態としても良い。また、複数の凸条28は、ダイリング2の内側面6,7a,9a、またはダイス11やバッカ16の外側面の軸方向に沿って突設した形態としても良い。これらも、前記ユニット1aと同様の効果を奏する。
【0024】
図7は、更に異なる形態の押出ダイスユニット1bを示す一部に断面を含む側面図である。押出ダイスユニット1bは、図7に示すように、前記同様のダイス11およびバッカ16と、内・外径が異なる円筒部3および円筒形の側面5を有し、且つ該円筒部3および側面5に跨って左右一対ずつ合計4個の通し孔29が形成されたダイリング2bとからなる。上記通し孔29は、側面視で矩形(正方形または長方形)を呈するが、これらの内隅部ごとにアールを付けた形状、円形、長円形、楕円形、あるいは六角形や八角形などの多角形を呈する形態でも良い。
上記ダイリング2bには、ほぼ円柱形の内側(面)6が位置し、該内側6には、複数の丸棒10が軸方向に沿って溶着されている。このうち、一部の丸棒10は、上記通し孔29を横切っている。尚、係る丸棒10は、前記半丸棒10aに置換しても良い。更に、図7に示すように、ダイリング2bは、凹溝9bを、バッカ16は、ピン20を有している。
【0025】
以上のような押出ダイスユニット1bによっても、ダイリング2b、ダイス11、およびバッカ16とを予熱する際に、ヒーターなどの加熱手段による熱エネルギを、複数の通し孔29を通じた輻射熱によって、比較的均一にダイス11とバッカ16に伝達できるので、前記ユニット1と同様に熱効率良く予熱できる。
しかも、前記ユニット1bによれば、ダイス11やバッカ16は、複数の丸棒10などによる線接触でダイリング2bに支持されているので、外部からの冷却作用を抑制でき、所要断面の押出形材Exを安定して押し出すことができる。
尚、丸棒10や半丸棒10aは、複数の通し孔29が形成されたダイリング2bの内側面6において円周方向に沿って溶着したり、あるいは、ダイス11とバッカ16の外側面において、軸方向あるいは円周方向に沿って溶着しても良い。
また、丸棒10や半丸棒10aに替えて、複数の通し孔29が形成されたダイリング2bの内側面6における軸方向あるいは円周方向に沿って前記同様の凸条28を突設した形態や、更には、ダイス11およびバッカ16の外側面において、軸方向あるいは円周方向に沿って複数の凸条28を突設した形態としても良い。
【0026】
図8は、前記ダイス11の応用形態であるダイス11aを示す斜視図である。
ダイス11aは、図8に示すように、上流側面12の中心付近にほぼ角形の凹部12aが形成され、該凹部12bの底面と下流側面13との間に、断面がほぼ長方形の逃げ孔14cが貫通している。
図8に示すように、上記凹部12bには、側面視で相似形を成す挿入体30が挿入される。該挿入体30も、前記同様の熱間工具鋼からなり、その押出方向の上流側から下流側に沿って、前記同様の成形孔14aと逃げ孔14bとが貫通すると共に、正面視が水平で且つ押出方向に対し約5〜30度の傾斜角度に沿った分割面31によって、上下一対の挿入片32,33に分割されている。また、該挿入片32,33からなる挿入体30の外側面と、前記凹部12aの内側面とにも、上記同様の傾斜が付されている。
以上のようなダイス11aを前記押出ダイスユニット1,1a,1bに用いることによって、連続した押出加工による加工熱で仮に成形孔14aが変形しても、挿入体30を交換するか、あるいは挿入片32,33の一方のみを交換するだけで、所要断面の押出形材Exを一層安定して押し出すことが可能となる。
【0027】
本発明は、以上において説明した各形態に限定されるものではない。
例えば、前記ダイスは、平ダイスのほか、中空ダイス(ポートホールダイス)としたり、押出方向の下流側を看る正面視において、外形がほぼ長円形を呈する形態であっても良い。
また、前記切欠部は、側面視がほぼ半円形、半楕円形、あるいは半長円形を呈し、且つこれらの直径または長軸が開口部側に位置する形状としても良い。
更に、前記丸棒は、断面円形に限らず、楕円形や長円形の金属棒でも良く、前記半丸棒は、半楕円形や半長円形の金属棒でも良い。
【0028】
また、前記ピン20は、バッカ16の外側面ではなく、ダイス11などの外側面に突設したり、またはダイスとバッカとの双方に突設しても良い。あるいは、上記ピン20に替えて、押出方向に沿った凸条としても良い。
加えて、前記ピン20と凹溝9bとによる回転阻止手段は、ダイリング2の内側面にピンまたは凸条を突設し、且つダイスとバッカの何れかまたは双方の外側面に押出方向に沿った凹溝を形成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によれば、ダイリングにダイスとバッカとを内蔵した押出ダイスユニットの予熱に長時間要さず効率良く加熱でき、且つ押出加工中において成形される押出形材の形状・寸法を安定させ得る押出ダイスユニットを提供できる。
【符号の説明】
【0030】
1,1a,1b…押出ダイスユニット
2,2a,2b…ダイリング
5…………………側面(外側面)
6…………………内側(内側面)
8a,8b………切欠部
10………………丸棒
10a……………半丸棒
11,11a……ダイス
16………………バッカ
29………………通し孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイリングと、該ダイリングの内側に挿入され、且つ互いの軸心が一致しているダイスおよびバッカとを備えた押出ダイスユニットであって、
上記ダイリングの側面には、該ダイリングの内側に挿入された上記ダイスおよびバッカの側面の少なくとも一方が露出する1つ以上の切欠部または通し孔が形成されている、
ことを特徴とする押出ダイスユニット。
【請求項2】
前記複数の切欠部または通し孔は、前記ダイリングの中心に対して対称あるいは非対称の位置に形成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の押出ダイスユニット。
【請求項3】
前記ダイスおよびバッカは、該ダイスおよびバッカの側面と前記ダイリングの内側面との間における複数の線接触により、該ダイリングに支持されており、上記複数の線接触は、上記ダイリング、ダイス、およびバッカの軸方向あるいはこれと直交する周方向に沿っている、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の押出ダイスユニット。
【請求項4】
前記軸方向に沿った線接触は、前記ダイリングの内側面、あるいは、前記ダイスおよびバッカの側面において軸方向に沿って配設した丸棒、半丸棒、または断面円弧形状の凸条によって形成されている、
ことを特徴とする請求項3に記載の押出ダイスユニット。
【請求項5】
前記周方向に沿った線接触は、前記ダイリングの内側面、あるいは、前記ダイスまたはバッカの側面における周方向に沿って配設した断面円弧形状の凸条、丸棒、または半丸棒よって形成されている、
ことを特徴とする請求項3に記載の押出ダイスユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−52429(P2013−52429A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193440(P2011−193440)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000250432)理研軽金属工業株式会社 (89)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】