説明

押出法による軽金属素材からなる線材を製造するための方法

【課題】静水圧押出装置を用いる押出によって軽金属素材、特にマグネシウム素材、からなる線材を製造するための方法が開示される。
【解決手段】所望の線材(16)を形成することを目的として、素材体(15)が加圧され、所望の線材(16)の形状を有するダイス(14)を通過させる。微細化剤が、その軽金属素材に付加され、上記押出過程において使用される素材体(15)を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素材体に圧力をかけて、所望の線材の形状を決定し、その線材を形成するダイスを通過させる押出法により、軽金属素材、特にマグネシウム素材、からなる線材を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
押出法による軽金属または軽金属合金素材からなる線材の製造は、確立された技術であり、一般に産業上導入され、そして実施されている。例えば、従来から入手可能な、鋳造インゴットの形状の軽金属または軽金属鍛錬用合金が、従来の押出法を使用して線材形状へと加工され得ることは公知である。ここで、素材体によって後続の形状にぴったりとかつ即座に置き換わる、軽金属または軽金属合金インゴットは、300〜450℃の範囲の温度にて押出装置の受容体中に挿入され、押出装置のパンチによって素材体へ圧力がかけられ、ダイスを通過させそして所望の形状へ加工する。この素材体への圧力は、ここではこのパンチによって単軸上に加えられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この確立された方法の本質的な欠点は、その方法により実現され得る圧縮スピードが限定されていることであり、この欠点はその方法自体にのみではなく、その素材体を構成する軽金属または軽金属合金素材にもその原因がある。確立された押出装置または押出方法において、その素材体はパンチによって圧力をかけられ、形成ダイスを通過させる。これは、その素材体とその周囲の受容体との間の摩擦領域のもとになり、一方では、圧力の増加を引き起こすが、他方ではしかしながら、その表面の加熱を引き起こす。受容体中の金属体の一面に加えられた圧力に起因して、軽金属または軽金属合金素材の流れる態様が、ダイスによって決定される結果となる。このことは、線材表面が加熱され、この加熱は軽金属または軽金属合金素材がダイスを通過するスピードに依存しているという結果をもたらす。そして、これは、確立された方法を使用した圧縮スピードは、素材がダイスを離れるときに局所的な表面上の溶解が線材表面上に発生する程度に制限されるという事実に帰着する。そのような場合、本発明者らは、いわゆる凝固割れ感受性を検討した。
【0004】
本発明の課題は、既存のこの種類の方法と比較して、線材の製造のために押し出された軽金属および軽金属合金素材の製造がかなり簡略化され得る方法であって、製造される線材の特性が同時に改善され、非常により高い製造スピードが実現されるが、最新鋭の押出装置または押出方法に適用が可能な方法を創出することによる。すなわち、この方法の実施のために必要とされる機器の支出およびその方法自体の実施は、可能な限り、確立された技術自体を使用して履行可能なものでなければならない。
【0005】
上記課題は、押出過程のために使用され得る素材体の形成のための金属に、微細化剤を付加することにより、本発明に基づいて解決される。
【0006】
本発明によれば、微細鋳造素材からなる素材体の製造は、その素材の構成の多様性からもたらされ、上述の微細化剤を、証明された特性を有する従来の軽金属または軽金属合金素材に付加することによる。本発明の目標とされそして本発明によって達成される軽金属または軽金属合金(特に、軽金属または軽金属合金は、好ましくはマグネシウムまたはマグネシウム合金素材である)の微細組織は、結果として、機械的特性のかなりの改善を得られるような微細組織を得る。この機械的特性とは、特に、引張試験において延性降伏として測定される延性である。軽金属または軽金属合金素材の可塑性を改善することによって、押出過程の顕著な改善もまた得られ、それゆえ、押出装置の受容体内の素材体の非常に微細な組織が、かなりの低温にて加工され得る。その上、これは、軽金属または軽金属合金素材からなる線材自体が次いで非常に微細となる。そして、これは、線材の素材的特性および非常に速い圧縮スピードにおける改善をもたらす。なぜなら、本発明によれば、線材表面の凝固割れ感受性が回避されるからである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によって製造され得る線材の微細構造の微細組織もまた、素材中によく安定し、且つ、分散された偏析物をもたらし、機械的パラメーターの増強を引き起こし得る。総合的に、本発明による方法は、既存の方法よりもかなりの低温で実施され得る。
【0008】
特にマグネシウム素材またはマグネシウム合金素材が軽合金素材を構成するとき、適切な微細化剤が、金属(ジルコニウム、ストロンチウムおよびカルシウム)であることが有利である。
【0009】
本発明の別の好適な実施形態において、特に、マグネシウムまたはマグネシウム合金素材が軽金属素材を構成するときも、希土類金属もまた微細化剤として適している。
【0010】
押出過程が実行されるときは、望ましくは押出装置の受容体中の素材体の温度が150〜350℃の範囲であるとき、すなわち、従来の押出方法において必要とされる温度範囲(300〜450℃の範囲)より顕著に低いときに、本方法は実施される。押出過程のための温度は、軽金属または軽金属合金素材の構成と本質的には受容体の金属物へ加えられた圧力との両方に依存する。
【0011】
本方法は、押出のスピードが、既存の方法によって実現され得るスピードのほぼ2倍に相当する毎分250mまで増加することが特に望ましい。
【0012】
押出が静水圧法により達成されるように本発明による方法を開発することは、軽金属または軽金属合金素材、特にマグネシウム素材、の可塑性が静水圧押出の手段により本質的に増加され得るという特別な利点を有し、そして、その圧縮過程の間の温度がさらに減少され得る。なぜならば、全ての意図および目的において、素材体とその周囲の受容体との間の摩擦が、結果として存在せず、そして、加えられる圧力が、反対方向に働くいかなる摩擦力を打ち勝つ必要がないからである。それによって、静水圧法の場合、加えられるほとんど全ての形成圧力は、圧力を蓄積するために使用され得、そしてこの圧力は、金属体に圧力をかけダイスを通過させるのに必要とされる圧力のため加えられることになる。
【0013】
この手段によって、一方で、受容体中の金属体の温度が一旦再び減少され得、そして他方では、本発明による方法によって実現可能な圧縮スピードが一旦再び増加され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、ここで、実施形態の例に基づく以下の概略図を参照して詳細に記載される。これらの中で、
図1は、例えば、直接押出法が実行され得る、押出装置の概略的構造を示す。
図2は、例えば、間接押出法が実行され得る、押出装置の概略的構造を示す。
図3は、例えば、好ましくは本発明による方法において使用されるような、静水圧押出法が実行され得る、押出装置の概略的構造を示す。
図4は、光学顕微鏡による、AZ31の従来の押出された金属の体積(金属インゴット)の組織の画像を示す。
図5は、図4のような図を示すが、金属素材Me 10はジルコニウムで変形されているかまたは精錬されている。
【0015】
軽金属素材、特にマグネシウム素材、からなる線材を製造するための実際の方法についての詳細へ進む前に、まず、図1〜図3についての参照がなされる。ここで、概略形態において図示されるのは当該分野において原理として公知である3つの押出装置あるいは本発明による線材を製造するための押出方法が実行され得る押出装置10である。これらの押出装置10またはそのような装置10によって実行され得る方法が、当業者の間で原理として公知であるように、本発明の理解を容易にするために、これらは一旦再び簡潔にのみ概説される。
【0016】
いわゆる「直接」押出法が実行され得る手段によって図1に図示される押出装置10は、受容体12を含んでおり、この受容体12中へ、例えば、軽金属または軽金属合金素材(特にマグネシウム素材)の素材体15が導入される。図1および図3の右側に図示されている受容体12を仕切ることによって、ダイス14が考察される。このダイス14は、線材16から得られるように所望される断面に適合するために形成される。図1および図3の左側に図示されている本質的にダイス14の反対側には、加圧板13が考察され、これは図3に記載の押出装置のシール17に相当する。パンチ11によって受容体12に位置する素材体15に圧力板13を介して、圧力がかけられる(図1を参照のこと)。ここで分離して図示されていない計器を加熱することによって、受容体中に位置する素材体15が加熱され、そして圧縮過程の間に押出装置からダイス14を介して押出物としてかまたは線材16として押出される。
【0017】
図2に記載の押出装置10の場合、いわゆる「間接」押出法が実行され得る手段により、パンチ14によって受容体12中に位置する素材体15に接する加圧板13とダイス14との組み合わせを介して、圧力がかけられる。受容体12の片面は、係止片19により仕切られ、この係止片19は受容体12にほとんど固定されているように配置される。パンチ11を通じてかけられた圧力に起因して、素材体15に接する加圧板13およびダイス14を介して、押出物16またはその押出物から構成される線材は、パンチ11により外部に到達する。これは、圧力の方向に対して凹型の様式で行われる。図2に記載の押出装置10の場合もまた、受容体12が、適度に加熱され(図示せず)、それゆえ、その押出過程を実行するための適度な温度が素材体15にもたらされ得る。
【0018】
いわゆる「静水圧」押出法が実行され得ることにより、図3に記載の押出過程10は、具体的に図1に記載の押出装置10の構造とその構造について本質的に類似する。図3に記載の押出装置10は、しかし、図1に記載のものと以下の点で相違する。それは、固定されていない方の先端におけるパンチ11に、シール17が備わっており、このシール17は、受容体12中に位置する素材体15、ならびに、受容体12中の素材体15を囲む高圧液18が、この押出装置から漏れ得ないことを確実にしていることである。このため、ダイス14もまた、受容体12の反対側にシール20を備えている。パンチ11が受容体12中へ動くとき、高圧液18により全面から素材体15上にそれ自身の圧力がかかり受容体12中に蓄積する。したがって、この圧力が、全面から等しく素材体15上に蓄積し、結果として、押出物または線材16として押出装置10を放つ。
【0019】
押出手段による軽金属または軽金属合金素材(特にマグネジウム素材)からなる線材を製造するための方法が、言及された「静水圧」押出法が可能である手段により、図3に記載の押出装置10を用いて好ましくは実行される。ここで、軽金属または軽金属合金素材から構成される素材体25は、ダイス14を通過して所望の線材16の形状で加工される。例えば、ジルコニウム、ストロンチウムおよびカルシウムから構成され得る微細化剤が、軽金属または軽金属合金素材に付加され、押出過程のために使用され得る素材体を形成する。この手段によって、軽金属または軽金属合金素材の微細構造が精錬される。希土類金属もまた、微細化剤として使用され得る。
【0020】
本方法によって、毎分250mまでのより速い圧縮スピードだけでなく、そして/または、従来の押出方法と比較してかなり低く、例えば150〜350℃の範囲より低い素材体の圧縮温度が実現される。しかし、200〜500までの圧縮比を有する線材の形成は可能である(圧縮比とは、線材の断面積に対する初期の素材の断面積である)。
【0021】
本発明によって達成され得る目標の証拠として、図4および図5に対する参照がまたなされ、これらの図の中で、AZ31の素材体15からなる押し出された金属インゴットの微細構造が、ME10と称される素材と比較して図示される。この素材は、精錬素材としてジルコニウムで変形されている(図5を参照のこと)。両方の図の比較は、顕著な微細化の同定を可能にする。したがって、当業者は素材AZ31の粒子の大きさが400〜600μm、ならびに、変形された素材ME10もしくは精錬された素材ME10の粒子の大きさが100〜200μmであると見出される。
【0022】
例えば、静水圧押出法の実行に適している合金の範囲が、表1に編集されている。図3もまた参照のこと。基礎的合金(ME10、ZE10、AZ31−AZ61)の多様性とともに、合金濃度が示されている。
【0023】
表2は、実施例として研究されてきた合金の構成を示す。
【0024】
いくつかの伝統的な合金についての本質的な機械的パラメーターおよび変形されたかまたは精錬された典型合金が、表3に編集されている。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】例えば、直接押出法が実行され得る、押出装置の概略的構造を示す。
【図2】例えば、間接押出法が実行され得る、押出装置の概略的構造を示す。
【図3】例えば、好ましくは本発明による方法において使用されるような、静水圧押出法が実行され得る、押出装置の概略的構造を示す。
【図4】光学顕微鏡による、AZ31の従来の押出された金属の体積(金属インゴット)の組織の画像を示す。
【図5】図4のような図を示すが、金属素材Me 10はジルコニウムで変形されているかまたは精錬されている。
【符号の説明】
【0029】
10 押出装置
11 パンチ
12 受容体
13 加圧板
14 ダイス
15 素材体(軽金属または軽金属合成素材)
16 押出物(線材)
17 シール
18 高圧液
19 係止片
20 シール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素材体に加圧し、所望の線材の形態を決定するダイスを通過させて線材を形成する押出法により、軽合金素材、特にマグネシウム素材、からなる線材を製造するための方法であって、微細化剤が該金属に付加され、該押出過程のために使用され得る該素材体を形成することを特徴とする、方法。
【請求項2】
金属ジルコニウム、ストロンチウムおよびカルシウムが、微細化剤として使用されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
希土類金属が、微細化剤として使用されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記押出過程を実行する際の前記素材体の温度が300℃未満であることを特徴とする、請求項1,2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記押出過程を実行する際の前記素材体の温度が150〜350℃までの範囲であることを特徴とする、請求項1,2又は3に記載の方法。
【請求項6】
前記押出のスピードが毎分250mまでになることを特徴とする、請求項1,2,3,4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記押出が静水圧法によって達成されることを特徴とする、請求項1,2,3,4,5又は6に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−535408(P2007−535408A)
【公表日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−502242(P2007−502242)
【出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【国際出願番号】PCT/EP2005/002268
【国際公開番号】WO2005/087962
【国際公開日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(506308253)GKSS研究センター ゲーストハフト ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】