説明

押切プレス

【課題】切断刃を駆動する油圧シリンダやその給油配管から油が漏れても、テーブルに載せられたスポンジチタンに油が滴下し難いようにすることである。
【解決手段】左右一対の油圧シリンダ8を、スポンジチタンSが載せられたテーブル2よりも左右外側に配置することにより、切断刃7を駆動する油圧シリンダ8やその給油配管から油が漏れても、テーブル2に載せられたスポンジチタンSに油が滴下しないようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン鉱石を還元して製造される塊状のスポンジチタンを切断する押切プレスに関する。
【背景技術】
【0002】
金属チタンを製造する際には、まず、チタン鉱石を還元して多孔質のスポンジチタンを製造している。スポンジチタンは、5トン、10トンという大きな塊状のものとされ、通常、略円柱状とされており、大きなものでは断面の直径寸法が2mを超える。製造された塊状のスポンジチタンは、押切プレスでスライスするように切断された後、さらに切断機等で細かく切断破砕され、溶解炉で溶解されてインゴットとされる。
【0003】
このような大きな塊状のスポンジチタンを切断する押切プレスは、ベッド上でテーブルに載せられたスポンジチタンを、左右一対のシリンダによって降下するように駆動される切断刃で切断するようになっている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
特許文献1、2に記載されたものは、いずれも切断刃を駆動する左右一対のシリンダを、スポンジチタンが載せられたテーブルの上方でフレームに取り付けている。これらのシリンダは、大断面のスポンジチタンを切断する大きな切断力が得られるように、油圧シリンダとされている。なお、特許文献1に記載されたものは、テーブルに載せられたスポンジチタンを上方から押圧固定する押さえシリンダも設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平4−47912号公報
【特許文献2】特開2002−301618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に記載された従来の押切プレスは、切断刃を駆動する左右一対の油圧シリンダを、スポンジチタンが載せられたテーブルの上方に取り付けているので、大きな切断負荷が負荷される油圧シリンダやその給油配管から多量の油が漏れ、下方のスポンジチタンに滴下する問題がある。このように滴下した油は、多孔質のスポンジチタンの内部に滲み込み、除去することができないので、油が滲み込んだスポンジチタンの製品は不良品となる。
【0007】
そこで、本発明の課題は、切断刃を駆動する油圧シリンダやその給油配管から油が漏れても、テーブルに載せられたスポンジチタンに油が滴下し難いようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、ベッド上でテーブルに載せられたスポンジチタンを、左右一対の油圧シリンダによって降下するように駆動される切断刃で切断する押切プレスにおいて、前記左右一対の油圧シリンダを、前記スポンジチタンが載せられた前記テーブルよりも左右外側に配置した構成を採用した。
【0009】
すなわち、左右一対の油圧シリンダを、スポンジチタンが載せられたテーブルよりも左右外側に配置することにより、切断刃を駆動する油圧シリンダやその給油配管から油が漏れても、テーブルに載せられたスポンジチタンに油が滴下し難いようにした。
【0010】
前記左右一対の油圧シリンダを、前記ベッドの左右両側に設けられる各サイドフレームと同じ左右方向位置に配置することにより、大きな切断負荷が負荷される油圧シリンダをサイドフレームに強固に支持することができるとともに、スポンジチタンへ油が滴下する危険性をさらに低減することができる。
【0011】
前記左右一対の油圧シリンダへの切断負荷の偏りによる油圧シリンダ間の変位のずれを修正する手段を設けることにより、テーブルに載せられたスポンジチタンが左右中心からずれても、切断刃を水平に降下させて、切断刃が斜めになることによる不具合を防止することができる。また、この押切プレスは、左右一対の油圧シリンダ間のスパンが広くなるので、テーブルに載せられたスポンジチタンが左右方向にずれたときに、各油圧シリンダに負荷される切断負荷の偏差が小さくなり、バランスよくスポンジチタンを切断することができる。
【0012】
前記油圧シリンダ間の変位のずれを修正する手段を、前記左右一対の各油圧シリンダの変位を検出し、これらの検出された変位同士のずれをなくすように、前記各油圧シリンダの駆動を制御するものとすることにより、簡単な制御で油圧シリンダ間の変位のずれを修正することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る押切プレスは、左右一対の油圧シリンダを、スポンジチタンが載せられたテーブルよりも左右外側に配置したので、切断刃を駆動する油圧シリンダやその給油配管から油が漏れても、スポンジチタンの製品が不良品となる危険性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】押切プレスの実施形態を示す切欠き正面図
【図2】図1の側面図
【図3】図2のIII−III線に沿った断面図
【図4】(a)、(b)は、それぞれ実施例と比較例における左右一対のシリンダの配置を説明する正面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。この押切プレスは、図1乃至図3に示すように、ベッド1上でスポンジチタンSを載せたテーブル2の左右両側に、スポンジチタンSの左右への脱落を防止する枠2aが設けられ、ベッド1の左右両側には、テーブル2の外側でサイドフレーム3が立設されて、これらの左右のサイドフレーム3の上に、ベッド1の上方を覆う上部フレーム4が取り付けられている。各サイドフレーム3は、前後方向の中央部に窓5が設けられ、プレス内方側で窓5内へ左右両側と下側から張り出す張り出し部5aが設けられている。また、上部フレーム4は、各サイドフレーム3の中空部に通された複数のタイロッド6でベッド1と連結されている。図示は省略するが、テーブル2に載せられたスポンジチタンSは、プッシャ等によってプレスの後側からベッド1上に送り込まれる。
【0016】
前記各サイドフレーム3の窓5の上側と上部フレーム4の左右両端部には、上下方向に貫通する取り付け孔3a、4aが設けられ、これらの各取り付け孔3a、4aに、テーブル2に載せられたスポンジチタンSを切断する切断刃7を駆動する左右一対のシリンダ8が取り付けられている。各シリンダ8は、各サイドフレーム3と同じ左右方向位置で取り付けられている。また、上部フレーム4の後側中央部には、スポンジチタンSを切断部の後側で、押さえ工具9によって押圧固定する押さえシリンダ10が取り付けられている。
【0017】
前記切断刃7は、上面の左右両側を各シリンダ8のロッド8aに取り付けられ、降下したときにテーブル2の枠2aと干渉しないように、下面の左右に前後方向に延びる抉り部7aが設けられている。なお、スポンジチタンSの脱落を他の手段で防止する場合は、枠2aを設ける必要はなく、抉り部7aも設ける必要はない。
【0018】
前記左右一対のシリンダ8は、切断刃7を昇降駆動する複動式の油圧シリンダとされている。後述するように、これらの各シリンダ8には、数百トン以上の切断負荷が負荷され、シリンダ8やその給油配管から多量の油が漏れることがあるが、各シリンダ8は、スポンジチタンSが載せられたテーブル2よりも外側に配置され、その下部が前後両側を遮られた各サイドフレーム3の窓5の内側にあり、さらに、この実施形態では、窓5のプレス内方側に張り出し部5aが張り出しているので、漏れた多量の油がスポンジチタンSに滴下することをより効果的に防止することができる。なお、この実施形態では、押さえシリンダ10も複動式の油圧シリンダとされているが、押さえシリンダ10の負荷は各シリンダ8の1/5程度以下であるので、テーブル2の内側に配置されていても、多量の油が漏れることはなく、スポンジチタンSの製品が不良品となる心配はない。
【0019】
また、前記左右一対のシリンダ8には、ロッド8aの変位を検出する変位センサ(図示省略)が設けられている。これらの変位センサの出力はシーケンサに入力され、シーケンサは入力された変位同士のずれをなくすように、各シリンダ8の駆動を制御する。したがって、テーブル2に載せられたスポンジチタンSが左右中心からずれ、各シリンダ8への切断刃7からの切断負荷に偏りが生じても、切断刃7を水平に降下させて、切断刃7が斜めになることによる不具合を防止して、スポンジチタンSを安定して切断することができる。
【実施例】
【0020】
実施例として、図4(a)に示すように、左右一対のシリンダ8をテーブル2よりも外側に広いスパンL(=4200mm)で配置し、スポンジチタンSの切断荷重Pを1500ton、スポンジチタンSのテーブル2の左右中心からの右方へのずれ量eを200mmとしたときの、切断刃7から各シリンダ8に負荷される左右の切断負荷P、Pを、次の(1)、(2)式から算出した。比較例として、図4(b)に示すように、左右一対のシリンダ8をテーブル2の内側に狭いスパンL(=2200mm)で配置し、同様に、切断荷重Pを1500ton、ずれ量eを200mmとしたときの、各シリンダ8に負荷される左右の切断負荷P、Pも、(1)、(2)式から算出した。
(L/2+e)P=(L/2−e)P (1)
+P=P (2)
【0021】
【表1】

【0022】
表1に、上記実施例と比較例についての左右の切断負荷P、Pの算出結果を示す。表中には、左右の切断負荷P、Pの偏差ΔP(=P−P)も併せて示す。これらの算出結果より、スパンLを4200mmと広くした実施例では、スパンLを2200mmと狭くした比較例に対して、左右の切断負荷P、Pの偏差ΔPがほぼ半減しており、本発明に係る押切プレスは、切断されるスポンジチタンSが左右方向にずれても、バランスよく切断できることが分かる。
【0023】
上述した実施形態では、左右一対のシリンダをサイドフレームと同じ左右方向位置に配置したが、これらのシリンダの配置位置は、スポンジチタンが載せられたテーブルよりも外側であれば、サイドフレームの内側でもよく、勿論、サイドフレームの外側でもよい。
【0024】
また、左右一対のシリンダを、切断刃を昇降駆動する複動式の油圧シリンダとしたが、切断刃を下降駆動のみする単動式の油圧シリンダとし、別のシリンダで切断刃を上昇させるようにしてもよい。切断刃を上昇させる別のシリンダの負荷は小さいので、テーブルの内側に配置してもよい。
【0025】
さらに、上述した実施形態では、左右一対のシリンダをベッドの上方に配置して、切断刃を上方から押し付けるようにしたが、左右一対のシリンダをベッドの下方に配置し、切断刃を下方へ引っ張るようにすることもできる。
【符号の説明】
【0026】
S スポンジチタン
1 ベッド
2 テーブル
2a 枠
3 サイドフレーム
4 上部フレーム
3a、4a 取り付け孔
5 窓
5a 張り出し部
6 タイロッド
7 切断刃
7a 抉り部
8 シリンダ
8a ロッド
9 押さえ工具
10 押さえシリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベッド上でテーブルに載せられたスポンジチタンを、左右一対の油圧シリンダによって降下するように駆動される切断刃で切断する押切プレスにおいて、前記左右一対の油圧シリンダを、前記スポンジチタンが載せられた前記テーブルよりも左右外側に配置したことを特徴とする押切プレス。
【請求項2】
前記左右一対の油圧シリンダを、前記ベッドの左右両側に設けられる各サイドフレームと同じ左右方向位置に配置した請求項1に記載の押切プレス。
【請求項3】
前記左右一対の油圧シリンダへの切断負荷の偏りによる油圧シリンダ間の変位のずれを修正する手段を設けた請求項1または2に記載の押切プレス。
【請求項4】
前記油圧シリンダ間の変位のずれを修正する手段が、前記左右一対の各油圧シリンダの変位を検出し、これらの検出された変位同士のずれをなくすように、前記各油圧シリンダの駆動を制御するものである請求項3に記載の押切プレス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−88235(P2011−88235A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−242109(P2009−242109)
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】