説明

押釦スイッチ用弾性部材

【課題】キートップを押圧操作して接点をONした後もさらに軽い荷重で押込み続けることが可能であり、高級感を感じさせる触感を付与することができる技術を提供すること。
【解決手段】ベース部12と、ベース部12から上方に延びるスカート部13と、スカート部13によって支持される押圧部14と、回路基板に設けた接点を押圧する突出部15とを備える押釦スイッチ用弾性部材11について、押圧部14の中央に位置する内側中空部17と、押圧部14の内周を形成する内壁部18と、押圧部14の外周を形成する外壁部16と、内壁部18と外壁部16との境界位置にある外側中空部19と、を押圧部14に設けて、薄肉の内壁部18と外壁部16とを形成し、押圧部14への押込み操作によって、スカート部13が変形し突出部15が接点を押圧した後も内壁部18と外壁部16を撓み変形可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器等の入力操作を行う押釦スイッチ用弾性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器等の入力操作を行う押釦スイッチは、ゴム弾性体でなるベースシートの上に樹脂製のキートップ(押釦)が設けられおり、このキートップを押圧操作することでゴム弾性体が撓み変形し、回路基板に設けた接点が導通してスイッチが入るようになっている。ここでゴム弾性体でなる弾性部材は、キートップを押圧する際に操作者に対して弾性抵抗力を与え、さらにキートップが一定ストローク量だけ変位した際にクリック感を生じさせている。
【0003】
こうした弾性部材1の従来からある構成は、図17で示すように、回路基板(図示せず)等に載置されるベース部2と、ベース部2から上方に傾斜して延びるスカート部3と、スカート部3によって支持されキートップ(図示せず)を載置する押圧部4とを備えている。そして、押圧部4から下方に突出し回路基板に設けた接点(スイッチ要素)に接触する押し子として機能する突出部5が形成されている。なお、押圧部4と突出部5との境界は、本明細書や特許請求の範囲等において、スカート部3の上端を基準にするものとし、スカート部3の上端から上側(操作面側)部分を押圧部、下側(回路基板側)部分を突出部と定めるものとする。
【0004】
弾性部材の弾性変形を利用した押釦スイッチにおいて、操作者が押釦スイッチを押下した際に感じる触感は、キートップ押圧時に押釦スイッチに加える荷重(=操作者が押釦スイッチから受ける荷重)と、キートップが押し下げられる距離、すなわちストローク量との関係によって特徴付けられる。図18には、横軸に上記弾性部材を利用した押釦スイッチのストローク量を示し、縦軸に荷重を示し、荷重(L(N))vsストローク量(S(mm))の関係を表示する。
【0005】
キートップの押圧が開始されると、実線Aで示されるように、ストローク量が増大するにつれ、弾性部材が撓み、弾性部材に加わる荷重も増大する。そしてストローク量S1で荷重は最大値に達する。その時点で弾性部材のスカート部が座屈し始めるため、その後は、実線Bで示されるように、荷重は減少し始め、ストローク量S2で荷重は最小となる。通常は、この実線Bで示される状態の間において、操作者は押下したことを感知できる感触、所謂「クリック感」を得ることができる。また、荷重が最小になった時点において、弾性部材に形成された突出部が、回路基板に設けた接点を導通させてスイッチ回路の開閉が行なわれる。その後、操作者はより確実なボタン操作を行うために、若干の間、さらにキートップを押し下げようとするため、実線Cで示すように、荷重は増大する。
【0006】
このような押釦スイッチにおいては、操作時における様々な触感が求められるが、例えば、突出部4が接点を押圧した後、さらに押圧を加えた場合において、反発荷重の上昇が緩やかであること、換言すればスイッチをオンした後も軽く押込みを続行できる感触が得られると操作時の触感が柔らかくなり、高級感を演出することが可能となる。先述の荷重−ストローク量特性においてみると、実線Cと比べて点線Dのように傾きが緩やかであることが要求される。
【0007】
この要求を実現する方法として、例えば、特開平11−306908号公報(特許文献1)は、図19で示すようなゴム弾性体で一体的に形成された弾性部材を開示している。この弾性部材1aは、回路基板に載置されるベース部2と、ベース部2から上方に傾斜して延びるのスカート部3と、スカート部3によって支持され、キートップ(図示せず)を載置する押圧部4とを備え、押圧部4から下方に突出した突出部5を有しているが、特徴的な構造として、押圧部4が環状凸部4aとその内側に薄肉押圧部4bとを備える凹状に形成されている点が挙げられる。
この弾性部材によれば、接点接続後にさらなる押圧を受けると薄肉な環状凸部4aが弾性変形するため、反発荷重の過剰な上昇を抑えることができる。
【0008】
また、国際公開WO2007/049527号公報(特許文献2)は、図20で示すようなゴム弾性体で一体的に形成された弾性部材1bを開示している。前記例と同様に、回路基板に載置されるベース部2と、ベース部2から上方に傾斜して延びるのスカート部3と、スカート部3によって支持され、キートップを載置する押圧部4とを備え、押圧部4から下方に突出した突出部5を有しているが、特徴的な構造として、突出部5の内部には中空部5aが形成されており、押圧部4には中空部5aから連続する開口が形成されている。
【0009】
この弾性部材によれば、接点接続後にさらなる押圧を受けると突出部5の内部が中空であるため、突出部5の外周壁が屈曲し、反発荷重の過剰な上昇を抑えることができる。
そして、これらの弾性部材1a,1bによれば、図18における点線Dのように実線Cの傾きを緩やかにすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−306908号公報
【特許文献2】国際公開WO2007/049527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
押釦スイッチが使われる電子機器は、薄型化、小型化が求められており、押釦スイッチ用弾性部材にも薄型化、小型化が要求されている。しかしながら、上記公報記載の弾性部材1a,1bでは薄型化、小型化に対応し難いことがわかってきた。
弾性部材を薄型化するためには、まずスカート部の高さや角度を変えることが考えられるが、これを変えると図18で示される荷重―ストローク量特性が変化してしまい、操作時の触感が変わってしまうという弊害がある。このため、荷重−ストローク量特性を変化させないで弾性部材を薄型化するためには、スカート部以外の部分での改良が求められる。
【0012】
次に、ベース部の厚みを薄くすることが考えられる。ベース部の厚みを薄くする場合は、突出部にある押し子が回路基板と近くなってしまい操作感が変わるので併せて突出部の突出量を減少させる必要がある。しかしながら突出部の突出量が減少すると、突出部に十分な中空部を設けることができなくなり、やはり操作感が相違してしまう。あるいはまた、キートップを載置する押圧部を薄くしようとすれば、押圧部に十分な環状凸部を設けることができなくなり、この場合にも操作感が相違してしまう。即ち、何れの場合にも、薄型化してしまうと満足する操作感を得ることはできなかった。
【0013】
そこで、本発明はキートップを押圧操作して接点をONした後もさらに軽い荷重で押込み続けることが可能であり、高級感を感じさせる触感を付与することができる押釦スイッチ用弾性部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、ベース部と、ベース部から上方に延びるスカート部と、スカート部の上端から上側にあってスカート部によって支持される押圧部と、押圧部から下方に突出し回路基板に設けた接点を押圧する突出部とを備える押釦スイッチ用弾性部材について、押圧部の上面または下面に開口し中央に位置する内側中空部と、一方側で内側中空部に露出して押圧部の内周を形成し、他方側で外側中空部に隣接する内壁部と、一方側でスカート部から連続して押圧部の外周を形成し、他方側で前記外側中空部に隣接する外壁部と、内壁部と外壁部との境界位置で押圧部の上面または下面に開口する前記外側中空部と、を押圧部に設けて、薄肉の内壁部と外壁部とを形成し、押圧部への押込み操作によって、スカート部が変形し突出部が接点を押圧した後も前記内壁部と外壁部を撓み変形可能としたことを特徴とする押釦スイッチ用弾性部材を提供する。
【0015】
ベース部と、ベース部から上方に延びるスカート部と、スカート部の上端から上側にあってスカート部によって支持される押圧部と、押圧部から下方に突出し回路基板に設けた接点を押圧する突出部とを備える押釦スイッチ用弾性部材について、押圧部の上面または下面に開口し中央に位置する内側中空部を押圧部に設けたため、押圧部自体のボリュームを減らすことができる。そのため、薄型化・小型化に対応する軽量の弾性部材とすることができる。
【0016】
一方側で内側中空部に露出して押圧部の内周を形成し、他方側で外側中空部に隣接する内壁部と、一方側でスカート部から連続して押圧部の外周を形成し、他方側で外側中空部に隣接する外壁部と、内壁部と外壁部との境界位置で押圧部の上面または下面に開口する前記外側中空部とを押圧部に設けたため、押圧部を薄肉の内壁部と薄肉の外壁部として形成することができる。これにより、キートップへの押圧操作時に、撓みが容易な部分を内壁部と外壁部との2か所に設けることができる。そして、スカート部が変形し突出部が接点を押圧した後も前記内壁部と外壁部とを撓み変形可能とすることができる。
【0017】
内側中空部と外側中空部は、上下方向の高さ位置の少なくとも一部が重なっているものとしている。
内側中空部と外側中空部は、上下方向の高さ位置の少なくとも一部が重なっているため、スカート部とは別に薄肉の部分として、押圧部に外壁部が得られるだけでなく内壁部も得ることができる。そのため、キートップの押圧操作時に外壁部と内壁部とがともに撓むことができ、突出部に中空部が形成されていなくても接点との接触後の反発荷重の上昇を緩やかにすることができる。そして、高級な操作感を操作者に伝えることが可能となる。
また、突出部に中空部を設けていないため、突出部の突出量を少なくすることができる。そのため、ベース部の厚みを減少させることが可能となって、弾性部材全体の高さを低くすることができる。
【0018】
また、上記外壁部と内壁部とを備えているため、押圧部の外周面から内周面に至るまでの幅を大きくすることができる。換言すれば、図19で示される環状凸部よりも、押圧部の上面の幅(厚み)を大きくすること可能となる。これにより、キートップを安定的に載置することができる。
特に、弾性部材に載置されるキートップの底面が平坦ではなく、部分的に突出した部位が設けられているような場合には、この突出した部分と弾性部材の上面の位置ずれがあると正しくキートップを載置できないおそれがある。しかしながら、押圧部の上面を幅広にできるため、多少の位置ずれがあってもキートップを安定的に載置することができる。そして、キートップを水平に押圧操作することが可能となり、クリック感の悪化を防ぐことができる。
【0019】
内壁部の厚みを外壁部より厚く、外壁部の厚みをスカート部よりも厚く形成することができる。
外壁部の厚みをスカート部よりも厚く形成したため、押圧操作の際にスカート部よりも外壁部を撓み難くすることができる。そのため、クリック感に変化を与えないような外壁部を形成することができる。
また、内壁部の厚みを外壁部より厚く形成したため、クリック感を変化させることなく、接点との接触後の軽い押圧ストロークを実現することができる。さらに、回路基板上に設けられた接点に押し子として機能する突出部が接触した際、接圧力を安定させることができるため、接点間に発生する抵抗値を安定させることができる。
【0020】
内側中空部が押圧部の上面に開口を有する片穴であり、外側中空部が押圧部の下面に開口を有する片穴であって、内側中空部の穴底が外側中空部の穴底よりも低い位置にある弾性部材とすることができる。
内側中空部が押圧部の上面に開口を有する片穴であり、外側中空部が押圧部の下面に開口を有する片穴であるとしたため、スカート部から一連に連なる外壁部を形成することができる。そのため、スカート部の変形の後に連続して外壁部が変形し易く、接点接触後の軽い押圧ストロークを実現することができる。
また、内側中空部の穴底が外側中空部の穴底よりも低い位置にあるものとしたため、内側中空部と外側中空部の間に薄肉の内壁部を形成することができる。薄肉の内壁部を形成すれば、接点接触後に外壁部とともにこの内壁部も撓み変形することが可能で、押圧部の高さを低くしても高級な操作感を感じさせることができる。
【0021】
内側中空部が、押圧部の上下両面に開口し押圧部を貫通する貫通孔として形成することができる。内側中空部が、押圧部の上下両面に開口し押圧部を貫通する貫通孔として形成したため、押圧部の上下方向に亘って一連の薄肉部分を形成することができる。このため、押圧操作に対する耐久性の高い弾性部材を得ることができる。
また、押圧部内において、内側中空部と外側中空部の重なる部分の長さを長くすることができるため、弾性部材の突出部が電気接点と接触した後、さらに押圧を加えた場合において、反発荷重の上昇をより緩やかにすることが可能となる。
【0022】
外側中空部を外壁部と内壁部とを分かつ環状の境界とすることができる。外側中空部が外壁部と内壁部とを分かつ環状の境界となっていれば、外壁部と内壁部とを外側中空部で明確に仕切ることができる。外壁部と内壁部とを明確に仕切ることで外壁部と内壁部のそれぞれの厚みを容易に調整できるため、所望の操作感を有する弾性部材を得ることができる。
また、こうした構造とすることで、内側中空部の外周全周に亘って外側中空部が形成されるため、内側中空部と外側中空部との間の内壁部の厚みを内側中空部の外周全周に亘って均一とすることができる。よって、内壁部が均一に撓むため、一部に無理な力がかかり、極所的に変形することを防止することができる。
【0023】
外側中空部を外壁部と内壁部との間に部分的に複数形成することができる。外側中空部が外壁部と内壁部との間に部分的に複数形成されているため、外側中空部が形成された部分では外壁部と内壁部との境界が明確である一方で、外側中空部が形成されていない外壁部と内壁部との間では、外壁部と内壁部との境界が無く外壁部と内壁部とが連続するように構成することができる。そのため、外壁部と内壁部とのつながりが強固で繰り返し押圧操作による耐久性の高い弾性部材を得ることができる。
【0024】
押圧部に形成する内側中空部は突出部にも連通して形成することができる。内側中空部を突出部にも連通させたため、突出部の接点との接触後に押圧部だけでなく突出部も撓ませることができるため、接点接触後の押込みストロークをより長く取ることができる。そのため、高級感のある優れた触感を発生させる弾性部材とすることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の押釦スイッチ用弾性部材によれば、キートップを押圧操作して接点をONした後もさらに軽い荷重で押込み続けることが可能であり、高級感を感じさせる触感を付与することができる。
また、押釦スイッチを押し込んだときに感じるクリック感を変化させずに、その前後の操作感が異なる押釦スイッチ用弾性部材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1実施形態の弾性部材の図2におけるSA−SA断面図である。
【図2】図1の弾性部材の平面図である。
【図3】図1の弾性部材の部分拡大断面図である。
【図4】第2実施形態の弾性部材の図5におけるSB−SB断面図である。
【図5】図4の弾性部材の平面図である。
【図6】第3実施形態の弾性部材の図7におけるSC−SC断面図である。
【図7】図6の弾性部材の平面図である。
【図8】第4実施形態の弾性部材の図9におけるSD−SD断面図である。
【図9】図8の弾性部材の平面図である。
【図10】第5実施形態の弾性部材の図11におけるSE−SE断面図である。
【図11】図10の弾性部材の平面図である。
【図12】第6実施形態の弾性部材の図13におけるSF−SF断面図である。
【図13】図12の弾性部材の平面図である。
【図14】第7実施形態の弾性部材の図15におけるSG−SG断面図である。
【図15】図14の弾性部材の平面図である。
【図16】試料1〜試料4の説明図である。
【図17】従来の一般的な弾性部材の断面図である。
【図18】図17の弾性部材の荷重−ストローク関係を示すグラフ図である。
【図19】従来の特許文献1記載の弾性部材の概略断面図である。
【図20】従来の特許文献2記載の弾性部材の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
押釦スイッチ用弾性部材(以下「弾性部材」ともいう)について種々の実施形態に基づいて図面を参照しつつ説明する。但し、各実施形態において同一の構成、作用効果等については重複説明を省略する。
【0028】
第1実施形態(図1〜図3)
弾性部材11は、図1および図2で示すように、回路基板P等に載置されるベース部12と、ベース部12から上方に傾斜して延びるスカート部13と、スカート部13の上端から上側にあってスカート部13によって支持される押圧部14と、押圧部14から下方に突出した突出部15とを備えており、さらに押圧部14には、スカート部13より肉厚で押圧部14の外周を形成する外壁部16と、押圧部14の中央でその上面に開口を有する内側中空部17と、内側中空部17に露出して押圧部14の内周を形成する内壁部18と、外壁部16と内壁部18の間で押圧部14の下面に開口を有する外側中空部19と、が形成されている。
【0029】
より詳細には、内側中空部17は押圧部14の中央で上面に開口する片穴であり、外側中空部19が押圧部14の下面に開口する片穴であって、図2に示すように上から見ると(平面視で)内側中空部17は円状であり、外側中空部19は環状であって外壁部16と内壁部18とを分かつ境界となっている。また、図1に示すように横から見ると(正面視で)内側中空部17の穴底が外側中空部19の穴底よりも低い位置に形成されている。それにより、内側中空部17と外側中空部19は、上下方向の高さ位置の少なくとも一部が重なって、薄肉の外壁部16と薄肉の内壁部18とを形成している。
こうした各部を備える弾性部材11はゴム弾正体で一体に形成されている。
【0030】
図3の部分拡大断面図で示すように、外壁部16の厚みt2は、スカート部13の厚みt1よりも厚く、また内壁部18の厚みt3は外壁部16の厚みt2よりも厚く形成されている。そして、押圧部14の外周14aから内周14bまでの厚さt4を、図17で示す従来の弾性部材の環状凸部4aの厚みより厚くすることが可能となる。これにより、キートップ9を押圧部14の上面に安定的に載置することができ、弾性部材11を水平に押圧し易くクリック感の悪化を防ぐことができる。また、クリック感を変化させることなく、接点との接触後の軽い押圧ストロークを実現することができる。さらに、回路基板上に設けられた接点に押し子として機能する突出部が接触した際、接圧力を安定させることができるため、接点間に発生する抵抗値を安定させることができる。
【0031】
スカート部13はベース部12から押圧部14に連続する縦断面で山形に形成された部位であって、略垂直に設けられる押圧部14の外壁部16に対してゆるやかに傾斜が変わる部位である。肉厚が他の部位よりも薄く、傾斜も他の部位よりもゆるやかに形成されているため、キートップ9への押圧時に最も変形し易い部位である。
スカート部13の上端である図1で示すラインBより下方に突出する突出部15には、その下面に例えば導電インキ等から得られる導電部15aを設けることができる。また、弾性部材11の押圧部14の上面にはキートップ8が載置されて、押釦スイッチ用キーパッド9が形成されている。
弾性部材11を載置する回路基板Pには、電気回路を開閉するためのスイッチ要素として、櫛目状の接点Cが設けられている。弾性部材11の導電部15aと回路基板Pの接点Cとは、互いに対向するように配置されている。
【0032】
弾性部材11は、ゴム弾性を有する材料(ゴム状弾性体)から形成される。そのような材料としては、例えば、シリコーンゴム、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴムなどの合成ゴムのほか、スチレン系、オレフィン系、ポリエステル系、ウレタン系等の熱可塑性エラストマーを用いることができる。上記の材料の中でも、圧縮永久ひずみが小さく耐久性に優れることから、シリコーンゴムが好ましい。ゴム弾性を得るための材料の硬度は、30〜70(JIS−K6253(ISO7619−1に対応)、タイプAデュロメータによる測定値)であることが好ましい。さらに弾性部材11の下方に光源を設けて押釦スイッチを照光する場合には、弾性部材11は透光性を有することが好ましい。弾性部材11の製造は射出成形等の型成形によって行うことができる。
【0033】
接点Cを有する回路基板Pに押釦スイッチ用キーパッドを配置した押釦スイッチ構造においては、キートップ8が押下されると、弾性部材11の押圧部14が押圧され、まず最初にスカート部13が弾性変形し、やがて、スカート部13は座屈する。それに伴って、突出部15が下方に変位し、導電部15aが回路基板Pに設けた接点Cに接触することで接点Cが導通される。その後さらにキートップ8が押し下げられると、外壁部16と内壁部18が弾性変形してやや潰されることになる。
ここで、突出部15が容易に変形してしまうと、導電部15aと接点Cの接圧が安定しなくなり、接点C間の抵抗値も安定しなくなる。内壁部18を外壁部16より厚くすることで、突出部15が回路基板P上に設けた接点Cに接した際、接圧を安定させることが可能となり、接点C間に発生する抵抗値を安定させることができる。
【0034】
弾性部材11は、こうした構成により押圧部14に外壁部16と内壁部18を薄肉に形成したため、押釦スイッチを薄型化する場合においても外壁部16の変形と内壁部18の変形を行いうるため、クリック感を変えずに、接点Cの押圧後の押込み荷重を減らしながらさらに押込むことが可能となる優れた操作感を与えることができる。
即ち、外壁部16と内壁部18が撓むことにより、突出部15の内部に中空部が形成されていなくても、反発荷重の上昇を緩やかにすることが可能となる。そして、押した感触の後にさらに押込むことができるという高級な操作感を操作者に伝えることが可能となる。
【0035】
また、突出部15に中空部を設けていないため、突出部15の突出量を少なくすることができる。これにより、ベース部12の厚みを減少させることが可能となるため、スカート部13の長さ、角度、厚みといった形状を変更することなく、弾性部材11全体の高さを低くすることができ、押込みストローク量やクリック感を変化させることなく、電子機器の薄型化が可能となる。
【0036】
第2実施形態(図4、図5)
本実施形態の弾性部材21を図4、図5に示す。図4、図5はそれぞれ図1、図2に対応するが、図4からはキートップ8と回路基板Pは省略している。
弾性部材21では内側中空部27を貫通孔として形成することを特徴としている。内側中空部27を押圧部24の上面だけでなく下面にも開口し押圧部24を貫通する貫通孔としたことで、突出部25にも中空部が形成されるとともに、突出部25に壁部25bが形成される。
弾性部材21によれば、正面視で内側中空部27と外部中空部29が、その高さ方向で重なっている。そして、外壁部26と内壁部28が撓むだけでなく、押圧部24の内壁部28に連なる突出部25の壁部25bも撓むことが可能となる。これにより、弾性部材21の突出部25が接点Cを押圧した後、さらに押圧を加えた場合において、反発荷重の上昇をより緩やかにすることが可能となる。
【0037】
第3実施形態(図6、図7)
本実施形態の弾性部材31を図6、図7に示す。
弾性部材31では、内側中空部37を押圧部34の上面に開口する穴ではなく、下面に開口する片穴としている。
第2実施形態で示した弾性部材21との比較では、弾性部材21が内側中空部27を貫通孔にしていたのに対し、本実施形態の弾性部材31によれば、押圧部34の下面に開口する内側中空部37とした点で弾性部材21と相違する。
このような構造とすれば、押圧部34の上面には穴が設けられていないため、キートップ8を確実に弾性部材31に載置することができる。また、キートップ8を弾性部材31に接着剤にて固着する場合においても、接着面積が大きく取れることができるため固着力を大きくすることができる。
【0038】
第4実施形態(図8、図9)
本実施形態の弾性部材41を図8、図9に示す。
本実施形態の弾性部材41が第1実施形態の弾性部材11と異なる点は、図9で示すように、外側中空部49が環状ではなく円柱状に形成されており、外壁部46と内壁部48との間に8個の外側中空部49が環状に配置されている点である。
なお、図9では、8個の外側中空部49が形成されているが、適宜その数を増減させても良い。外側中空部49の数を調整することにより、突出部45が接点Cと接触した後の反発荷重の上昇程度を調整することが可能となる。
【0039】
第5実施形態(図10、図11)
本実施形態の弾性部材51を図10、図11に示す。
本実施形態の弾性部材51は第2実施形態の弾性部材21における外側中空部29の形状を変えたものであって、内側中空部57を第2実施形態の弾性部材21と同様に貫通孔として形成し、外側中空部49を第4実施形態の弾性部材41と同様に円柱状に複数形成している。
弾性部材51においても、突出部55が接点Cを押圧した後、さらに押圧を加えた場合において、反発荷重の上昇を緩やかにすることが可能となる。
【0040】
第6実施形態(図12、図13)
本実施形態の弾性部材61を図12、図13に示す。
弾性部材61では、外側中空部69を円柱状に複数形成している点では第4実施形態の弾性部材41や第5実施形態の弾性部材51と同じであるが、片孔ではなく貫通孔としてこの外側中空部69を形成した点が異なる。
このような構造とすることで、押圧部64内において、正面視で外壁部66と内壁部68の重なり部分を長くすることができる。そのため、突出部64が接点Cと接触した後、さらに押圧を加えた場合において、反発荷重の上昇をより緩やかにすることが可能となる。
【0041】
第7実施形態(図14、図15)
本実施形態の弾性部材71を図14、図15に示す。
本実施形態で示す弾性部材71では、内側中空部77も外側中空部79も共に押圧部74の上面に開口を有し、下側が閉塞された片穴形状に形成されている。
このような構造とすれば、突出部74の下面に凹凸が無いため、突出部74の下面に形成される導電部75aの形成が容易であり、また、より均一な膜厚に形成することが可能となる。従って、確実な導通を図ることができる。
【0042】
その他の実施形態
突出部には、内側中空部を設けても設けなくても良いが、内側中空部を設ける場合には、その深さを適宜変更することで、突出部が接点Cと接触した後の反発荷重の上昇の程度を調整することが可能となる。
【0043】
なお、上記実施形態での説明はその一例であり、こうした形態に限定されるものではなく、本願発明の趣旨に反しない任意の変更形態を含むものである。即ち、上記実施形態で示した一部の構成を含まなかったり、別の公知の構成を含んだり、実施形態のある構成要素を他の実施形態の別の構成要素に代替したりしている場合も本願発明の範囲に含まれる。
【実施例】
【0044】
次に示す試料1〜試料4の弾性部材を同一の合成ゴムで製造した。また、こうした試料の形状説明図を図16に示す。図16は試料1〜試料4の右半分断面図を示す。
・試料1(図16(A)):外壁部と内壁部を有する(外側中空部と内側中空部を有する)
・試料2(図16(B)):内側中空部と内壁部が無い。
・試料3(図16(C)):外側中空部と外壁部が無い。
・試料4(図16(D)):内側中空部も外側中空部も無い。
各試料の大きさについては、図16のA1、A2、B、Cの長さにつき表1に示す。また、各試料について、荷重vsストローク量の関係についてのシミュレーション結果を表2に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
なお、表2で示す各評価値について、図18で示した荷重−ストローク特性に基づいて説明すると、「最大荷重」はLmaxの値(N)を、「ピークストローク」はS1の長さ(mm)を、「ON荷重」はS2の場合のL値(N)を、「ONストローク」はS2の長さ(mm)をそれぞれ表す。
また、「クリック率」は最大荷重Lmaxと、突出部が回路基板に設けた接点と接触するメーク荷重P2(ストロークがS2の時の押圧荷重)の割合であり、
(Lmax−P2)/Lmax・・・式(1)
上記式(1)で形成される数値である。このクリック率が高いほど、鋭いクリック感として鋭い感触が得られる。このため、クリック率が変化すると、クリック感が大きく変わることになる。
「フルストローク」は上記試料1〜試料4において、最大荷重(Lmax(N))の1.5倍の荷重となるまでのストロークを表す。このフルストロークとONストロークの差をL(mm)とする。
【0048】
表2の結果から、外壁部、内壁部、内側中空部、外側中空部の全てを備える試料1は、外側中空部を有するが内側中空部を有しない試料2や、内側中空部を有するが外側中空部を有しない試料3、さらに外側中空部も内側中空部も有しない試料4と比較して、「L」値が0.2mm以上と大きくなっている。この「L」値は、接点をONした後、最大荷重の1.5倍の荷重になるまでのストロークを表しているので、「L」値が大きいことは、接点をONした後も緩やかに押し込める操作感を得ることができ、高級感を演出できる押釦スイッチ用弾性部材であることがわかる。
【符号の説明】
【0049】
1, 1a, 1b, 11, 21, 31, 41, 51, 61, 71 弾性部材
2, 12, 22, 32, 42, 52, 62, 72 ベース部
3, 13, 23, 33, 43, 53, 63, 73 スカート部
4, 14, 24, 34, 44, 54, 64, 74 押圧部
4a 環状凸部
4b 薄肉押圧部
14a 外周
14b 内周
5, 15, 25, 35, 45, 55, 65, 75 突出部
5a 中空部
15a, 75a 導電部
25b, 35b 壁部
8 キートップ
9 押釦スイッチ用キーパッド
16, 26, 36, 46, 56, 66, 76 外壁部
17, 27, 37, 47, 57, 67, 77 内側中空部
18, 28, 38, 48, 58, 68, 78 内壁部
19, 29, 39, 49, 59, 69, 79 外側中空部
P 回路基板
C 接点
B ライン
t1, t2, t3, t4 厚み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース部と、ベース部から上方に延びるスカート部と、スカート部の上端から上側にあってスカート部によって支持される押圧部と、押圧部から下方に突出し回路基板に設けた接点を押圧する突出部とを備える押釦スイッチ用弾性部材において、
押圧部の上面または下面に開口し中央に位置する内側中空部と、
一方側で内側中空部に露出して押圧部の内周を形成し、他方側で外側中空部に隣接する内壁部と、
一方側でスカート部から連続して押圧部の外周を形成し、他方側で前記外側中空部に隣接する外壁部と、
内壁部と外壁部との境界位置で押圧部の上面または下面に開口する前記外側中空部と、を押圧部に設けて、薄肉の内壁部と外壁部とを形成し、
押圧部への押込み操作によって、スカート部が変形し突出部が接点を押圧した後も前記内壁部と外壁部を撓み変形可能としたことを特徴とする押釦スイッチ用弾性部材。
【請求項2】
前記内側中空部と外側中空部は、上下方向の高さ位置の少なくとも一部が重なっている請求項1記載の押釦スイッチ用弾性部材。
【請求項3】
内壁部の厚みが外壁部より厚く、外壁部の厚みがスカート部よりも厚く形成されている請求項1または請求項2記載の押釦スイッチ用弾性部材。
【請求項4】
内側中空部が押圧部の上面に開口を有する片穴であり、外側中空部が押圧部の下面に開口を有する片穴であって、内側中空部の穴底が外側中空部の穴底よりも低い位置にある請求項1〜請求項3何れか1項記載の押釦スイッチ用弾性部材。
【請求項5】
内側中空部が、押圧部の上下両面に開口し押圧部を貫通する貫通孔として形成されている請求項1〜請求項3何れか1項記載の押釦スイッチ用弾性部材。
【請求項6】
外側中空部が、外壁部と内壁部とを分かつ環状の境界となっている請求項1〜請求項5何れか1項記載の押釦スイッチ用弾性部材。
【請求項7】
外側中空部が、外壁部と内壁部との間に部分的に複数形成されている請求項1〜請求項5何れか1項記載の押釦スイッチ用弾性部材。
【請求項8】
内側中空部が突出部にも連通して形成されている請求項1〜請求項7何れか1項記載の押釦スイッチ用弾性部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−226894(P2012−226894A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91832(P2011−91832)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000237020)ポリマテック株式会社 (234)
【Fターム(参考)】