説明

担持型触媒の製造方法

【課題】サイズを制御したクラスター触媒を高分散で担持させることができる担持型触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】(a)触媒担体上に、配位可能官能基を有する化合物を結合させること、(b)1個の触媒金属原子又は複数個の同じ種類の触媒金属原子に配位子が配位してなる金属錯体を含有する溶液を、結合可能官能基を有する化合物を結合させた触媒担体に含浸させて、金属錯体に配位している配位子の少なくとも一部を、金属酸化物担体に結合している化合物の配位可能官能基で置換すること、及び(c)溶液を含浸させた触媒担体を乾燥及び焼成することを含む、担持型触媒の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒金属が触媒担体に担持されてなる担持型触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の研究によれば、制御されたサイズを有する金属クラスターは、触媒活性等の化学的性質及び磁性等の物理的性質に関して、バルクの金属とは異なる性質を有することが分かっている。
【0003】
このクラスターの特異な性質を利用するために、サイズを制御したクラスターを簡便に且つ大量に合成する方法が必要とされている。尚、サイズを制御したクラスターを得るために現在知られている方法としては、真空中において金属ターゲットを蒸散させて様々なサイズのクラスターを生成させ、このようにして得たクラスターを、マススペクトルの原理を用いてクラスターサイズを分離する方法がある。しかしながらこの方法では、サイズを制御したクラスターを簡便に且つ大量に合成することはできない。
【0004】
クラスターの特異な性質に関して、例えば非特許文献1では、この文献から転記して図1に示したように、気相中における白金触媒とメタン分子との反応性が、白金クラスターサイズに大きく影響されること、この反応のための最適なクラスターサイズがあることを報告している。
【0005】
貴金属による触媒性能を用いる例としては、自動車用エンジン等の内燃機関から排出される排ガスの浄化を挙げることができる。この排ガスの浄化では、排ガス中に含有される一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NO)等を、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)等の貴金属を主成分とする触媒成分によって、二酸化炭素、窒素、酸素に転化させている。この排ガス浄化の用途では一般に、貴金属である触媒成分をアルミナ等の酸化物担体に担持して、排ガスと触媒成分との大きい接触面積を与えるようにしている。
【0006】
触媒成分である貴金属の酸化物担体への担持は一般に、貴金属の硝酸塩又は単一の貴金属原子を有する貴金属錯体の溶液を酸化物担体に含浸させて酸化物担体の表面に貴金属化合物を分散させ、次いで溶液を含浸させた担体を乾燥及び焼成することによって行っている。このような方法では、意図したサイズ又は原子数を有する貴金属クラスターを得ることは困難である。
【0007】
こうした排ガス浄化用触媒においても、排ガス浄化性能をさらに向上させために、貴金属をクラスターの状態で担持させることが提案されている。例えば特許文献1では、カルボニル基を配位子とする金属クラスター錯体を用いると、触媒金属を超微粒子の状態で直接に担体に担持できるとしている。
【0008】
また、特許文献2では、カーボンナノチューブ等の中空の炭素材料の細孔中に貴金属を導入し、この貴金属が導入された炭素材料を酸化物担体に固定し、焼成することによって、クラスターサイズが制御された貴金属触媒を製造することを開示している。
【0009】
更に特許文献3では、ロジウムイオン及び白金イオンを含有する溶液に還元剤を添加し、ロジウムと白金とが固溶した合金からなる金属クラスターを得ることを開示している。
【0010】
【特許文献1】特開平11−285644号公報
【特許文献2】特開2003−181288号公報
【特許文献3】特開平9−253490号公報
【非特許文献1】”Adsorption and Reaction of Methanol Molecule on NickelCluster Ions, Nin+ (n=3−11).”, M. Ichihashi, T. Hanmura, R.T. Yadav andT. Kondow, J. Phys. Chem. A, 104, 11885 (2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
サイズを制御したクラスター触媒を高分散で担持させることができる担持型触媒の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
担持型触媒を製造する本発明の方法は、(a)触媒担体上に、配位可能官能基を有する化合物を結合させること、(b)1個の触媒金属原子又は複数個の同じ種類の触媒金属原子に配位子が配位してなる金属錯体を含有する溶液を、配位可能官能基を有する化合物を結合させた触媒担体に含浸させて、金属錯体に配位している配位子の少なくとも一部を、この化合物の配位可能官能基で置換すること、及び(c)溶液を含浸させた触媒担体を乾燥及び焼成することを含む。
【0013】
尚、本発明に関して触媒担体と配位可能官能基を有する化合物との「結合」は、明確な化学結合だけでなく、触媒担体と配位可能官能基を有する化合物との間の親和性によるいわゆる吸着も包含するものである。
【0014】
担持型触媒を製造する本発明の方法によれば、金属錯体に配位している配位子のうちの少なくとも一部を触媒担体に結合されている化合物の配位子で置換することによって、触媒担体上に金属錯体を固定して、担体表面での金属錯体の移動を抑制し、それによって触媒金属、特にクラスターの状態の触媒金属を高分散で担持している担持型触媒を得ることができる。
【0015】
本発明の方法の1つの態様では、金属錯体が多核錯体であってよい。
【0016】
本発明のこの態様によれば、金属錯体に含まれる数の金属原子を有するクラスターを得ることができる。
【0017】
本発明の方法の1つの態様では、触媒担体に結合された化合物が、2又はそれよりも多くの配位可能官能基を有し、それによって工程(b)において、この化合物1つについて2又はそれよりも多くの金属錯体が配位する。
【0018】
本発明のこの態様によれば、担体表面上の化合物が2又はそれよりも多くの金属錯体を有することによって、これらの金属錯体に含まれる金属の合計数を有するクラスターを得ることができる。
【0019】
本発明の方法の1つの態様では、化合物の配位可能官能基、及び配位子の触媒金属に配位している官能基をそれぞれ独立に、下記の群から選択することができる:
−COO、−CR−O、−NR1−、−NR、−CR=N−R、−CO−R、−PR、−P(=O)R、−P(OR)(OR)、−S(=O)、−S(−O)R、−SR、及び−CR−S(R及びRはそれぞれ独立に、水素、又は一価の有機基)。
【0020】
本発明の方法の1つの態様では、化合物の官能基と、配位子の触媒金属に配位している官能基とが、同じであってよい。
【0021】
本発明のこの態様によれば、金属錯体が比較的安定な状態で、金属錯体に配位している配位子の少なくとも一部を、触媒担体に結合している化合物の配位可能官能基で置換することができる。
【0022】
本発明の方法の1つの態様では、触媒担体が、金属酸化物触媒担体であってよい。
【0023】
本発明のこの態様によれば、配位可能官能基を有する化合物を、金属酸化物触媒担体の水酸基と反応させることによって、この化合物を金属酸化物触媒担体に結合させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
担持型触媒を製造する本発明の方法は、(a)触媒担体上に、配位可能官能基を有する化合物を結合させること、(b)1個の触媒金属原子又は複数個の同じ種類の触媒金属原子に配位子が配位してなる金属錯体を含有する溶液を、配位可能官能基を有する化合物を結合させた触媒担体に含浸させて、金属錯体に配位している配位子の少なくとも一部を、この化合物の配位可能官能基で置換すること、及び(c)溶液を含浸させた触媒担体を乾燥及び焼成することを含む。
【0025】
(金属錯体の核となる金属)
本発明で用いられる金属錯体の核となる触媒金属は、触媒として用いることができる任意の金属でよい。従ってこの触媒金属は、典型金属又は遷移金属のいずれでもよい。またこの触媒金属は、特に遷移金属、より特に4〜11族の遷移金属、例えばチタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金からなる群より選択される金属であってよい。一般的に使用される触媒金属としては、鉄族元素(鉄、コバルト、ニッケル)、銅、白金族元素(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、及び白金)、金、銀を挙げることができる。
【0026】
(金属錯体)
本発明の方法で用いられる金属錯体は、1個の触媒金属原子又は複数個の同じ種類の触媒金属原子に配位子が配位してなる任意の金属錯体でよい。すなわちこの金属錯体は、多核錯体、例えば2〜10、特に2〜5の金属原子を有する錯体であってよい。
【0027】
この金属錯体としては、任意の金属錯体を挙げることができる。具体的な金属錯体としては例えば、[Pt(CHCOO)]、[Pt(acac)](「acac」はアセチルアセトナト配位子)、[Pt(CHCHNH]Cl、[Rh(CCOO)]、[Rh(CHCOO)]、[Rh(OOCCCOO)]、[Pd(acac)]、[Ni(acac)]、[Cu(C1123COO)、[Cu(OOCCCOO)]、[Cu(OOCCCH]、[Mo(OOCCCOO)]、[Mo(CHCOO)]、[N(n−C][FeIIFeIII(ox)](「ox」はシュウ酸配位子)を挙げることができる。
【0028】
(金属錯体の配位子)
本発明の複数金属錯体含有化合物の金属錯体の配位子は、金属錯体の安定性、触媒担体上に結合させた化合物による配位子の置換の容易さ等を考慮して任意に選択することができ、単座配位子であっても、キレート配位子のような多座配位子であってもよい。
【0029】
この金属錯体の配位子は、下記の群より選択される1つの官能基が結合している水素基、又は下記の群より選択される1又は複数の官能基が結合している有機基、特に下記の群より選択される特に1又は複数の同じ官能基が結合している有機基であってよい:
−COO(カルボキシ基)、−CR−O(アルコキシ基)、−NR1−(アミド基)、−NR(アミン基)、−CR=N−R(イミン基)、−CO−R(カルボニル基)、−PR(ホスフィン基)、−P(=O)R(ホスフィンオキシド基)、−P(OR)(OR)(ホスファイト基)、−S(=O)(スルホン基)、−S(−O)R(スルホキシド基)、−SR(スルフィド基)、及び−CR−S(チオラト基);特に−COO(カルボキシ基)、−CR−O(アルコキシ基)、−NR1−(アミド基)、及び−NR(アミン基)(R及びRはそれぞれ独立に、水素、又は一価の有機基)。
【0030】
ここで官能基が結合している有機基は、ヘテロ原子、エーテル結合若しくはエステル結合を有していてもよい、置換若しくは無置換の炭化水素基、特にC〜C30(すなわち炭素原子数が1〜30(以下同様))の炭化水素基であってよい。特にこの有機基は、C〜C30、特にC〜C10のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、一価の脂環式基であってよい。より特にこの有機基は、C〜C、特にC〜Cのアルキル基、アルケニル基、アルキニル基であってよい。
【0031】
及びRはそれぞれ独立に、水素、又はヘテロ原子、エーテル結合若しくはエステル結合を有していてもよい、置換若しくは無置換の炭化水素基、特にC〜C30の炭化水素基であってよい。特にR及びRは、水素、又はC〜C30、特にC〜C10のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、一価の脂環式基であってよい。より特にR及びRは、水素、又はC〜C、特にC〜Cのアルキル基、アルケニル基、アルキニル基であってよい。
【0032】
すなわち金属錯体の配位子としては、カルボン酸配位子(R−COO)、アルコキシ配位子(R−CR−O)、アミド配位子(R−NR1−)、アミン配位子(R−NR)、イミン配位子(R−CR=N−R)、カルボニル配位子(R−CO−R)、ホスフィン配位子(R−PR)、ホスフィンオキシド配位子(R−P(=O)R)、ホスファイト配位子(R−P(OR)(OR))、スルホン配位子(R−S(=O))、スルホキシド配位子(R−S(−O)R)、スルフィド配位子(R−SR)、及びチオラト配位子(R−CR−S)(Rは水素又は有機基、R及びRは上記の通り)を挙げることができる。
【0033】
具体的なカルボン酸配位子としては、ギ酸(ホルマト)配位子、酢酸(アセタト)配位子、プロピオン酸(プロピオナト)配位子、エチレンジアミン四酢酸配位子を挙げることができる。
【0034】
具体的なアルコキシ配位子としては、メタノール(メトキシ)配位子、エタノール(エトキシ)配位子、プロパノール(プロポキシ)配位子、ブタノール(ブトキシ)配位子、ペンタノール(ペントキシ)配位子、ドデカノール(ドデシルオキシ)配位子、フェノール(フェノキシ)配位子を挙げることができる。
【0035】
具体的なアミド配位子としては、ジメチルアミド配位子、ジエチルアミド配位子、ジn−プロピルアミド配位子、ジイソプロピルアミド配位子、ジn−ブチルアミド配位子、ジt−ブチルアミド配位子、ニコチンアミドを挙げることができる。
【0036】
具体的なアミン配位子としては、メチルアミン、エチルアミン、メチルエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、トリブチルアミン、ヘキサメチレンジアミン、アニリン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、トリス(2−アミノエチル)アミン、エタノールアミン、トリエタノールアミン、エタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリメチレンジアミン、ピペリジン、トリエチレンテトラミン、トリエチレンジアミンを挙げることができる。
【0037】
具体的なイミン配位子としては、ジイミン、エチレンイミン、エチレンイミン、プロピレンイミン、ヘキサメチレンイミン、ベンゾフェノンイミン、メチルエチルケトンイミン、ピリジン、ピラゾール、イミダゾール、ベンゾイミダゾールを挙げることができる。
【0038】
具体的なカルボニル配位子としては、一酸化炭素、アセトン、べンゾフェノン、アセチルアセトン、アセナフトキノン、ヘキサフルオロアセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、トリフルオロアセチルアセトン、ジベンゾイルメタンを挙げることができる。
【0039】
具体的なホスフィン配位子としては、水素化リン、メチルホスフィン、ジメチルホスフィン、トリメチルホスフィン、ジホスフィンを挙げることができる。
【0040】
具体的なホスフィンオキシド配位子としては、トリブチルホスフィンオキシド、トリフェニルホスフィンオキシド、トリ−n−オクチルホスフィンオキシドを挙げることができる。
【0041】
具体的なホスファイト配位子としては、トリフェニルホスファイト、トリトリルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリエチルホスファイトを挙げることができる。
【0042】
具体的なスルホン配位子としては、硫化水素、ジメチルスルホン、ジブチルスルホンを挙げることができる。
【0043】
具体的なスルホキシド配位子としては、ジメチルスルホキシド配位子、ジブチルスルホキシド配位子を挙げることができる。
【0044】
具体的なスルフィド配位子としては、エチルスルフィド、ブチルスルフィド等を挙げることができる。
【0045】
具体的なチオラト配位子としては、メタンチオラト配位子、ベンゼンチオラト配位子を挙げることができる。
【0046】
(触媒担体上に結合される化合物)
触媒担体上に結合される化合物としては、金属錯体の配位子を置換可能な官能基とを有する任意の化合物を挙げることができる。
【0047】
この化合物は、この化合物を触媒担体に結合するための官能基を有することができ、この官能基としては、金属錯体の配位子に関して挙げた官能基を挙げることができる。特に触媒担体が金属酸化物担体である場合、結合可能な官能基としては特に、水酸基、カルボキシ基を挙げることができる。これら水酸基及びカルボキシ基は、金属酸化物担体の表面の水酸基と反応して、特に脱水縮合によって、配位可能官能基を有する化合物を、金属酸化物担体に結合させることができる。尚、この化合物を触媒担体に結合するための官能基は、この化合物の配位可能官能基と同じ官能基であってもよく、この場合には、この化合物が2又はそれよりも多くの同じ官能基を有し、それによってこの官能基の一部が、この化合物を触媒担体に結合するための官能基として機能し、他の官能基が、金属錯体の配位子を置換するための配位可能官能基として機能する。
【0048】
またこの化合物の配位可能官能基としては、金属錯体の配位子に関して挙げた官能基を挙げることができる。ここでこの配位可能官能基は、原料として用いる金属錯体に配位している配位子を置換することができるように選択する。従ってこの金属錯体の配位子を置換可能な官能基は一般に、原料として用いる金属錯体に配位している配位子よりも配位力が強い官能基、特に原料として用いる金属錯体に配位している配位子よりも配位力が強いこの配位子と同じ官能基を有する官能基である。尚、この化合物の配位可能官能基による金属錯体の配位子の置換を促進するためには、この化合物を比較的多量に用いることもできる。
【0049】
触媒担体上に結合される化合物が、2又はそれよりも多くの配位可能官能基を有する場合、この化合物の2又はそれよりも多くの配位可能は、金属錯体間の立体的障害を避けるために、ある程度の間隔をあけて配置されていることが好ましいと考えられる。但し、この間隔が大きすぎることは、これら2又はそれよりも多くの官能基に配位した2又はそれよりも多くの金属錯体から、単一のクラスターを得ることを困難にする可能性がある。
【0050】
触媒担体上に結合される化合物は、金属錯体の配位子に関して挙げた官能基のうちのいずれか1種、例えばカルボキシ基を2又はそれよりも多く有する化合物であってよい。上述のように、この場合、これらの官能基のうちの一部を、触媒担体との結合のために使用し、且つ他の官能基を配位可能官能基として使用することができる。従って例えば触媒担体上に結合される化合物は、C〜C30、特にC〜C10のジカルボン酸、トリカルボン酸及びテトラカルボン酸、並びにベンゼンジカルボン酸、ベンゼントリカルボン酸、ベンゼンテトラカルボン酸であってよい。
【0051】
より具体的なジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸を挙げることができる。またより具体的なトリカルボン酸としては、トリメシン酸(1,3,5−ベンゼントリカルボン酸)を挙げることができる。また更に具体的なテトラカルボン酸としては、1,2,3,5−ベンゼンテトラカルボン酸を挙げることができる。
【0052】
尚、触媒担体に結合したときに2又はそれよりも多くの配位可能官能基を有する化合物を用いる場合、この化合物の配位可能官能基に等しく金属錯体が配位するためには、結合させた化合物の結合可能官能基に等しい量又はそれよりも多い量の金属錯体を使用することが必要である。従って例えば、この化合物としてトリメシン酸(1,3,5−ベンゼントリカルボン酸)を用いる場合、トリメシン酸の1つのカルボキシ基が触媒担体に結合していると考えると、全てのトリメシン酸に対して2つの金属錯体を配位させるためには、トリメシン酸1molに対して2molの金属錯体が必要になる。
【0053】
(乾燥及び焼成条件)
金属錯体含有溶液を含浸させた触媒担体の乾燥及び焼成は、金属又は金属酸化物クラスターを得るのに十分な温度及び時間で行うことができ、例えば120〜250℃の温度での1〜2時間にわたる焼成を行い、その後で400〜600℃での1〜3時間にわたる焼成を行うことができる。またこの方法において使用する溶液の溶媒としては、本発明の複数金属錯体含有化合物を安定に維持できる任意の溶媒、例えば水性溶媒、又はジクロロエタン等の有機溶媒を用いることができる。
【0054】
(触媒担体)
本発明の方法で用いることができる触媒担体としては、金属酸化物担体、例えばアルミナ、セリア、ジルコニア、シリカ、チタニア及びそれらの組み合わせからなる群より選択される金属酸化物担体を用いることができる。これらの触媒担体は一般に、多孔質担体であることが好ましい。
【0055】
以下では実施例を用いて本発明を説明するが、これらの実施例は単に説明のためのものであり、本発明をいかようにも限定するものではない。
【実施例】
【0056】
実施例1
実施例1のスキームを下記に示す:
【0057】
【化1】

【0058】
[Pt(CHCOO)]の合成:
化合物の合成は、実験化学講座第4版17巻第452ページ(丸善1991年)に記載の手順で行った。すなわち、下記のようにして行った:
PtCl5gを20mlの温水に溶かし、氷酢酸150mlを加えた。このとき、KPtClが沈殿してくるが、かまわず酢酸銀8gを加えた。このスラリー状のものをスターラーでかき混ぜながら3〜4時間還流した。放冷後、黒色の沈殿をろ過して分離する。ロータリーエバポレーターを用い、褐色の沈殿をできるだけ濃縮することにより酢酸を除いた。この濃縮液にアセトニトリル50mlを加え放置した。生成してくる沈殿をろ過して分離し、再びろ液を濃縮した。この濃縮液に対して同様な操作を3回繰り返した。最後の濃縮液にジクロロメタン20mlを加え、シリカゲルカラムに吸着させた。ジクロロメタン−アセトニトリル(5:1)で溶離し、赤色の抽出液を集め、濃縮し結晶を得た。
【0059】
ジカルボン酸による担体の前処理:
酸化マグネシウム(MgO)10gを100gのエタノールに分散させ、このMgO分散溶液を撹拌しながら、ここにジカルボン酸であるコハク酸(HOOC−CHCH−COOH)100mgをエタノール50gに溶かした溶液を加えて30分撹拌して、MgOにコハク酸を吸着させた。その後、遠心分離によって、MgOと溶液とを分離した。このようにして得たMgOを、100gのエタノールで3回にわたって洗浄及び分離し、MgOと反応しなかったコハク酸を除去した。このようにして得たMgOを風乾して、コハク酸処理MgOを得た。
【0060】
[Pt(CHCOO)]の担持:
上記のようにして得たコハク酸処理MgO10gを200gのアセトンに分散させ、このMgO分散溶液を撹拌しながら、ここに16.1mgの[Pt(CHCOO)]をアセトン100gに溶かした溶液を加えて30分撹拌した。撹拌を止めるとやや赤みがかったMgOが沈殿し、上澄み液が透明になった(すなわち、[Pt(CHCOO)]はコハク酸処理MgOに吸着した)。
【0061】
比較例1
ジカルボン酸による担体の前処理を行わなかったことを除いて、実施例1と同様にして、[Pt(CHCOO)]をMgO担体に担持した。すなわち、ジカルボン酸による担体の前処理を行っていないMgO10gを200gのアセトンに分散させ、このMgO分散溶液を撹拌しながら、ここに16.1mgの[Pt(CHCOO)]をアセトン100gに溶かした溶液を加えて30分撹拌した。撹拌を止めるとMgOが沈殿し、上澄み液が薄赤色になった(すなわち、[Pt(CHCOO)]はMgOに吸着しなかった)。
【0062】
実施例2
[Pt(CHCOO){OC(CHCH=CH(CHCO}(CHCOO)Pt]の合成:
この化合物の合成は以下のスキームで行った。
【0063】
【化2】

【0064】
【化3】

【0065】
具体的には、下記のようにしてこの化合物を合成した:
実施例1でのようにして得た[Pt(CHCOO)](0.204g,0.163mmol)のCHCl溶液(10mL)に、CH=CH(CHCOH(19.4μL,18.6mg)を加えた。これによって溶液の色が橙色から赤橙色に変わった。2時間室温で撹拌後、減圧下で溶媒を留去し、ジエチルエーテル(8mL)で2回洗浄することによって、橙色の[Pt(CHCOO){OC(CHCH=CH}]の固体を得た。
【0066】
アルゴンで置換したシュレンク中に、上記のようにして合成した[Pt(CHCOO){OC(CHCH=CH}](362mg,0.277mmol)と、第一世代Grubbs触媒(6.7mg,8.1μmol,2.9mol%)とを入れて、CHCl(30mL)に溶解させた。このシュレンクに冷却管をつけて、油浴で加熱還流を行った。60時間還流後減圧下で溶媒を留去し、残留物をCHClに溶解させてグラスフィルターでろ過を行った。その後、ろ液を減圧下で濃縮することによって固体を得た。この固体をジエチルエーテル(10mL)で3回洗浄して、橙色の[Pt(CHCOO){OC(CHCH=CH(CHCO}(CHCOO)Pt]の固体をE/Ztypeの混合として得た。
【0067】
スペクトルデータ
[Pt(CHCOO){OC(CHCH=CH}]
H NMR(300MHz,CDCl,308K)δ:1.89(tt,HH=7.5,7.5Hz,2H,OCCH−),1.99(s,3H,axCC),2.00(s,3H,axCC),2.01(s,6H,axCC),2.10(q like,2H,−CCH=CH),2.44(s,6H,eqCC),2.45(s,3H,eqCC),2.70(t,HH=7.5Hz,2H,OCCCH−),4.96(ddt,HH=10.4Hz,HH=1.8Hz,HH=?Hz,1H,−CH=C(H)cis),5.01(ddt,HH=17.3Hz,HH=1.8Hz,HH=?Hz,1H,−CH=C(H)trans),5.81(ddt,HH=17.3,10.4,6.6Hz,1H,−C=CH)。
【0068】
13C{H} NMR(75MHz,CDCl,308K)δ:21.2,21.2(ax),22.0,22.0(eq),25.8(OCCH−),33.3(−CH=CH),35.5(OCH−),115.0(−CH=),137.9(−H=CH),187.5,193.0,193.1(OCH),189.9(OCHCH−)。
【0069】
MS(ESI+,CHCN solution)m/z:1347([M+sol.])。
【0070】
IR(KBr disk,ν/cm−1):2931,2855(νC−H),1562,1411(νCOO−),1039,917(ν−C=C−)。
【0071】
スペクトルデータ
[Pt(CHCOO){OC(CHCH=CH(CHCO}(CHCOO)Pt
Major(E type):
H NMR(300MHz,CDCl,308K)δ:1.83(like,J=7.7Hz,4H,OCCH−),2.00(s,6H,axCC),2.01(s,18H,axCC),2.02−2.10(m,4H,−CCH=CH−),2.44(s,18H,eqCC),2.67(t,H−H=7.2Hz,4H,OCCCH−),5.37−5.45(m,2H,−C=)。
【0072】
13C NMR(75MHz,CDCl,308K)δ:21.1(q,C−H=130.9Hz,ax),21.2(q,C−H=131.1Hz,ax),21.9(q,C−H=129.4Hz,eq),22.0(q,C−H=129.4Hz,eq),26.4(t,C−H=127.3Hz,OCCH−),32.0(t,C−H=127.3Hz,−CHH=CH−),35.5(t,C−H=130.2Hz,OCH−),130.1(d,C−H=148.6Hz,−H=),187.3,187.4,193.0(OCH),189.9(OCHCH−)。
【0073】
Minor(Z type):
H NMR(300MHz,CDCl,308K)δ:1.83(like,J=7.7Hz,4H,OCCH−),2.00(s,6H,axCC),2.01(s,18H,axCC),2.02−2.10(m,4H,−CCH=CH−),2.44(s,18H,eqCC),2.69(t,H−H=7.2Hz,4H,OCCCH−),5.37−5.45(m,2H,−C=)。
【0074】
13C NMR(75MHz,CDCl,308K)δ:21.1(q,C−H=130.9Hz,ax),21.2(q,C−H=131.1Hz,ax),21.9(q,C−H=129.4Hz,eq),22.0(q,C−H=129.4Hz,eq),26.5(t,C−H=127.3Hz,OCCH−),26.7(t,C−H=127.3Hz,−CH=CH−),35.5(t,C−H=130.2Hz,OCH−),129.5(d,C−H=154.3Hz,−H=),187.3,187.4,193.0(OCH),189.9(OCHCH−)。
【0075】
MS(ESI+,CHCN solution)m/z:2584([M])。
【0076】
ジカルボン酸による担体の前処理:
実施例1と同様にして、コハク酸処理MgOを得た。
【0077】
[Pt(CHCOO){OC(CHCH=CH(CHCO}(CHCOO)Pt]の担持:
上記のようにして得たコハク酸処理MgO10gを200gのアセトンに分散させ、このMgO分散溶液を撹拌しながら、ここに16.6mgの[Pt(CHCOO){OC(CHCH=CH(CHCO}(CHCOO)Pt]をアセトン100gに溶かした溶液を加えて30分撹拌した。撹拌を止めるとやや橙色がかったMgOが沈殿し、上澄み液が透明になった(すなわち、[Pt(CHCOO){OC(CHCH=CH(CHCO}(CHCOO)Pt]はコハク酸処理MgOに吸着した)。
【0078】
比較例2
ジカルボン酸による担体の前処理を行わなかったことを除いて、実施例2と同様にして、[Pt(CHCOO){OC(CHCH=CH(CHCO}(CHCOO)Pt]をMgO担体に担持した。すなわち、ジカルボン酸による担体の前処理を行っていないMgO10gを200gのアセトンに分散させ、このMgO分散溶液を撹拌しながら、ここに16.1mgの[Pt(CHCOO){OC(CHCH=CH(CHCO}(CHCOO)Pt]をアセトン100gに溶かした溶液を加えて30分撹拌した。撹拌を止めるとMgOが沈殿し、上澄み液が薄赤色になった(すなわち、[Pt(CHCOO){OC(CHCH=CH(CHCO}(CHCOO)Pt]はMgOに吸着しなかった)。
【0079】
クラスターのTEM観察:
上記の方法で調製したMgO上のPtの様子をTEMにて観察した。HitachiのHD−2000型電子顕微鏡を用い、加速電圧200kVでSTEM像を観察した。実施例2のSTEM像を図2に示す。この像中には、白金8原子クラスターの構造から推定されるスポット径0.9nmのPt粒子が確認でき、この手法で白金8原子クラスターを酸化物担体上に担持できる事が示された。すなわち、複数の金属錯体が配位子を介して結合されている化合物を焼成すると、この化合物に含まれる全ての金属原子を有するクラスターが得られることが示された。
【0080】
実施例3
[Pt(CHCOO)]の合成:
実施例1でのようにして[Pt(CHCOO)]を得た。
【0081】
ジカルボン酸による担体の前処理:
γ−アルミナ(γ−Al)3gを50gのエタノールに分散させ、このγ−Al分散溶液を撹拌しながら、ここにジカルボン酸であるアジピン酸(HOOC−(CH−COOH)67mgをエタノール50gに溶かした溶液を加えて30分撹拌して、γ−Alにアジピン酸を吸着させた。その後、遠心分離によって、γ−Alと溶液とを分離した。このようにして得たγ−Alを、50gのエタノールで3回にわたって洗浄及び分離し、γ−Alと反応しなかったアジピン酸を除去した。このようにして得たγ−Alを風乾して、アジピン酸処理γ−Alを得た。
【0082】
[Pt(CHCOO)]の担持:
上記のようにして得たアジピン酸処理γ−Al3gを50gのアセトンに分散させ、このγ−Al分散溶液を撹拌しながら、ここに48.3mgの[Pt(CHCOO)]をアセトン50gに溶かした溶液を加えて30分撹拌した。撹拌を止めるとやや赤みがかったγ−Alが沈殿し、上澄み液が透明になった(すなわち、[Pt(CHCOO)]はアジピン酸処理γ−Alに吸着した)。
【0083】
比較例3
ジカルボン酸による担体の前処理を行わなかったことを除いて、実施例3と同様にして、[Pt(CHCOO)]をγ−Al担体に担持した。すなわち、ジカルボン酸による担体の前処理を行っていないγ−Al3gを50gのアセトンに分散させ、このγ−Al分散溶液を撹拌しながら、ここに48.3mgの[Pt(CHCOO)]をアセトン50gに溶かした溶液を加えて30分撹拌した。撹拌を止めるとγ−Alが沈殿し、上澄み液が橙色になった(すなわち、[Pt(CHCOO)]はMgOに吸着しなかった)。
【0084】
実施例4
実施例4のスキームを下記に示す:
【0085】
【化4】

【0086】
[Pt(CHCOO)]の合成:
実施例1でのようにして[Pt(CHCOO)]を得た。
【0087】
トリカルボン酸による担体の前処理:
γ−アルミナ(γ−Al)10gを100gのエタノールに分散させ、このγ−Al分散溶液を撹拌しながら、ここにトリメシン酸(1,3,5−ベンゼントリカルボン酸)6.7mg(32μmol)をエタノール50gに溶かした溶液を加えて30分撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターを用いてこの溶液からエタノールを除去し、更に真空乾燥機を用いて乾燥させて、トリメシン酸処理γ−Alを得た。
【0088】
[Pt(CHCOO)]の担持:
上記のようにして得たトリメシン酸処理γ−Al3gを100gのアセトンに分散させ、このγ−Al分散溶液を撹拌しながら、ここに80.3mg(64μmol)の[Pt(CHCOO)]をアセトン100gに溶かした溶液を加えて、16時間にわたって撹拌した。撹拌を止めると、薄橙色のγ−Alが沈殿し、上澄み液が透明になった(すなわち、[Pt(CHCOO)]はトリメシン酸処理γ−Alに吸着した)。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】非特許文献1から抜粋したPtクラスターサイズと反応性の関係を示すグラフである。
【図2】実施例2の方法で調製したMgO上のPtの様子を観察したTEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)触媒担体上に、配位可能官能基を有する化合物を結合させること、
(b)1個の触媒金属原子又は複数個の同じ種類の触媒金属原子に配位子が配位してなる金属錯体を含有する溶液を、前記化合物を結合させた触媒担体に含浸させて、前記金属錯体に配位している配位子の少なくとも一部を、前記化合物の配位可能官能基で置換すること、及び
(c)前記溶液を含浸させた触媒担体を乾燥及び焼成すること、
を含む、担持型触媒の製造方法。
【請求項2】
前記金属錯体が多核錯体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記触媒担体に結合された前記化合物が、2又はそれよりも多くの配位可能官能基を有し、それによって工程(b)において、前記化合物1つについて2又はそれよりも多くの前記金属錯体が配位する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記化合物の配位可能官能基、及び前記配位子の前記触媒金属に配位している官能基がそれぞれ独立に、下記の群から選択される、請求項1〜3のいずれかに記載の方法:
−COO、−CR−O、−NR1−、−NR、−CR=N−R、−CO−R、−PR、−P(=O)R、−P(OR)(OR)、−S(=O)、−S(−O)R、−SR、及び−CR−S(R及びRはそれぞれ独立に、水素、又は一価の有機基)。
【請求項5】
前記化合物の配位可能官能基と、前記配位子の前記触媒金属に配位している官能基とが、同じである、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記触媒担体が、金属酸化物触媒担体である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−229642(P2007−229642A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−55602(P2006−55602)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】