説明

拘束装置

【課題】乗員を拘束するベルトを巻き取るリトラクタを正確に動作させる。
【解決手段】モータとスプールとを機械的に接続するクラッチの動作に要する時間だけ、モータの駆動電流の値が大きくなり、クラッチが動作した後は、駆動電流の値が、ベルトの張力によるスプールの回転を阻止するために必要なだけの大きさとなるような制御を行う。これにより、クラッチを確実に動作させた後は、乗員を拘束するのに必要な電力だけが消費される。したがって、モータでの消費電力を削減し、モータからの発熱を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拘束装置に関し、更に詳しくは、乗員を拘束するための拘束装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に代表される乗り物には、急停止や衝突等の不測の事態から乗員を保護するために、シートベルトが装備されている。この種のシートベルトとしては、装着が容易であり、比較的高い拘束力を発揮する3点式シートベルトがよく用いられる。
【0003】
3点式シートベルトは、乗員を拘束するためのベルトを巻き取るリトラクタを備えている。このリトラクタには、乗員に作用する力に応じて、ベルトの張力を調整するための電動機構を備えているものがある(例えば特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載された装置は、車両が通常走行しているときには、ベルトの張力が第1の目標値となるように、リトラクタを制御する。そして、車両が急停止した場合や、旋回した場合等のように、乗員に大きな力が作用する危急時には、ベルトの張力が第1の目標値よりも大きい第2の目標値となるように、リトラクタを制御する。その際に、当該装置は、ベルトの張力を第1の目標値から第2の目標値まで緩やかに増加させる。これにより、乗員に不快感を与えることなく、当該乗員を適切な力で拘束することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−17765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された装置では、モータに流れる電流の値が、ベルトの張力に応じた目標値になるように、パワーの供給が制御される。このため、電流の目標値が低い場合には、電流の検出が困難となり、モータへ正確にパワーを供給することができなくなることがある。また、モータのトルクが不足して、クラッチが動作しなくなることも考え得る。一方、電流の目標値が高い場合には、モータからの発熱量が多くなってしまうという問題がある。
【0007】
リトラクタに用いられるモータ(例えば、ブラシによる接触点が存在するモータ)を駆動するためには、最低動作電圧以上の電圧を、モータに印加する必要がある。この最低動作電圧は、モータの劣化(例えば経年劣化等)にともない上昇する場合がある。したがって、モータの劣化がある程度進行すると、当該モータの動作が不安定になるおそれがある。
【0008】
本発明は、上述の事情の下になされたもので、リトラクタに用いられるモータへ、状況に応じた大きさのパワーを供給することで、リトラクタを正確に動作させるとともに、モータで消費される電力を削減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の拘束装置は、
シートに着座する乗員を拘束するための拘束装置であって、
乗員を拘束するためのベルトが巻き取られるスプールと、
前記スプールを回転させるモータと、
前記モータの出力を、前記スプールに伝達する伝達手段と、
前記モータの回転によって、前記モータと前記伝達手段とを機械的に接続する接続手段と、
前記接続手段によって、前記モータと前記伝達手段とが接続されるまでに供給する第1のパワーが、前記モータと前記伝達手段とが接続されてから供給する第2のパワーよりも大きくなるように、前記モータにパワーを供給する供給手段と、
を備える。
【0010】
前記供給手段は、前記モータと前記伝達手段とが接続されるまでの出力電圧の平均値が、前記モータと前記伝達手段とが接続されてからの出力電圧の平均値よりも大きくなるように、前記モータにパワーを供給することとしてもよい。
【0011】
前記供給手段は、前記モータと前記伝達手段とが接続されるまでに供給する電流が、前記モータと前記伝達手段とが接続されてから供給する電流よりも大きくなるように、前記モータにパワーを供給することとしてもよい。
【0012】
前記供給手段は、PWM制御を行うこととしてもよい。
【0013】
前記供給手段は、予め設定された時間だけ前記第1のパワーを供給することとしてもよい。
【0014】
本発明の拘束装置は、
前記接続手段による、前記モータと前記伝達手段との接続を検出する第1の検出手段を備え、
前記供給手段は、前記第1の検出手段が前記モータと前記伝達手段との接続を検出するまで、前記第1のパワーを供給することとしてもよい。
【0015】
本発明の拘束装置は、
前記モータと前記伝達手段とが接続されていないことを検出する第2の検出手段を備え、
前記供給手段は、前記第2の検出手段が前記モータと前記伝達手段とが接続されていないことを検出した場合に、前記モータと前記伝達手段とが接続されるまでに供給する第1のパワーが、前記モータと前記伝達手段とが接続されてから供給する第2のパワーよりも大きくなるように、前記モータにパワーを供給することとしてもよい。
【0016】
前記供給手段は、周期的に、前記モータと前記伝達手段とが接続されるまでに供給する第1のパワーが、前記モータと前記伝達手段とが接続されてから供給する第2のパワーよりも大きくなるように、前記モータにパワーを供給することとしてもよい。
【0017】
前記スプールは、前記シートの一側に配置されており、
本発明の拘束装置は、
前記シートの一側に配置され、前記リトラクタから引き出された前記ベルトの一端を固定する固定手段と、
前記スプールと、前記固定手段との間の前記ベルトを支持する支持手段と、
前記シートの他側に配置されたバックルと、
前記ベルトに設けられ、前記バックルに着脱自在なトングと、
を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ベルトを巻き取るスプールを駆動するためのモータに、まず第1のパワーが供給される。そして、モータと伝達手段が接続されると、第1のパワーよりも小さい第2のパワーが、モータへ供給される。このため、確実にモータとスプールとを機械的に接続することが可能となる。そして、モータとスプールが機械的に接続された後は、必要最小限のパワーでモータが駆動される。このため、モータで消費される電力を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態に係る拘束装置のブロック図である。
【図2】拘束ユニットを示す図である。
【図3】リトラクタの構成を模式的に示す図である。
【図4】ギアユニットを示す図である。
【図5】ギアユニットの一部を示す図である。
【図6】電圧信号を示す図である。
【図7】モータに流れる駆動電流の推移を示す図である。
【図8】拘束装置の変形例を説明するための図である。
【図9】電圧信号を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。図1は本実施形態に係る拘束装置10のブロック図である。この拘束装置10は、車両の進行方向及び進行方向に直交する方向の加速度に応じて、乗員を最適に拘束する装置である。以下、説明の便宜上、車両の進行方向をX軸方向とし、当該進行方向に直交する方向をY軸方向とする。
【0021】
図1に示されるように、拘束装置10は、乗員を拘束するための拘束ユニット30、車両通信ネットワーク11或いはバックルセンサ44aからの出力に基づいて車両の走行状態を検出する制御装置20、制御装置20の指示に基づいて、拘束ユニット30のリトラクタ50を駆動する駆動装置22を有している。
【0022】
車両通信ネットワーク11は、例えばCAN(Controller Area Network)、LIN(Local Interconnect Network)、或いはK−LINEなどの車載ネットワークである。この車両通信ネットワーク11と通信を行うことによって、例えば車両の速度、車両のX軸方向(進行方向)の加速度、車両のY軸方向(進行方向に垂直な方向)の加速度についての情報を取得することができる。
【0023】
図2は、シート100に着座する乗員120を拘束するための拘束ユニット30を示す図である。図2に示されるように、拘束ユニット30は、3点式シートベルトである。この拘束ユニット30は、乗員120を拘束するベルト40、シート100の右側方に配置され、ベルト40を巻き取って収容するリトラクタ50を有している。
【0024】
拘束ユニット30を構成するベルト40は、通常は大部分がリトラクタ50に巻き取られている。そして、リトラクタ50から引き出されたベルト40の先端は、車両のBピラーに固定されたガイド41を介して、シート100の座面右側まで引き回され、アンカー43に固定されている。ガイド41とアンカー43の間に位置するベルト40に設けられたタング42が、乗員120によってバックル44に装着されると、拘束ユニット30によって乗員120が拘束された状態となる。
【0025】
タング42がバックル44に装着されたか否かは、図1に示されるバックルセンサ44aによって検出される。バックルセンサ44aは、例えばバックル44にタング42が装着されるとオンとなる接点を有するリミットスイッチである。
【0026】
図3は、リトラクタ50の構成を模式的に示す図である。図3に示されるように、リトラクタ50は、ベルト40を巻き取るためのスプール53と、スプール53を回転させるためのモータ51と、モータ51の出力をスプール53へ伝達するギアユニット60を有している。
【0027】
スプール53は、円筒状の部材である。このスプール53は、ギアユニット60を介して、モータ51と機械的に接続される。
【0028】
モータ51は、例えば定格電圧が12Vの直流モータである。このモータ51は、制御装置20から電力が供給されると、ギアユニット60を構成するギアを回転させる。
【0029】
図4は、ギアユニット60を示す図である。この図4及び図3を参照するとわかるように、ギアユニット60は、サンギア72、3つの遊星ギア74、インターナルギア73、及びサンギア72に連結された従動ギア71からなるスプール駆動系(71〜74)と、モータ51の回転軸51aに固定された第1駆動ギア61と、第1中間ギア62、第2中間ギア63、第3中間ギア64、及び第3中間ギア64と回転軸65aを介して連結された第2駆動ギア65からなる伝達系(62〜65)と、駆動系と伝達系とを機械的に接続するためのクラッチ76と、上記各部を収容する不図示のケーシングから構成されている。
【0030】
第1駆動ギア61は、モータ51の回転軸51aに固定されている。第1駆動ギア61は、モータ51が正転すると、矢印に示される方向に回転する。
【0031】
第1中間ギア62は、第1駆動ギア61とかみ合う歯車である。この第1中間ギア62は、第1駆動ギア61の回転にともなって回転し、モータ51が正転すると、矢印に示される方向へ回転する。
【0032】
第2中間ギア63は、第1中間ギア62とかみ合う歯車である。この第2中間ギア63は、第1中間ギア62の回転にともなって回転し、モータ51が正転すると、矢印に示される方向へ回転する。
【0033】
第3中間ギア64は、第2中間ギア63とかみ合う歯車である。この第3中間ギア64は、第2中間ギア63の回転にともなって回転し、モータ51が正転すると、矢印に示される方向へ回転する。
【0034】
第2駆動ギア65は、回転軸65aによって第3中間ギア64と接続されることで、第3中間ギア64と一体化した歯車である。この第2駆動ギア65は、第3中間ギア64と一体となって、回転軸65aを中心に回転する。
【0035】
従動ギア71は、第2駆動ギア65とかみ合う歯車である。この従動ギア71は、第2駆動ギア65の回転にともなって回転し、モータ51が正転すると、矢印に示される方向へ回転する。
【0036】
図3を参照するとわかるように、サンギア72は、回転軸72aによって従動ギア71と接続されることで、従動ギア71と一体化した歯車である。このサンギア72は、従動ギア71と一体となって、回転軸72aを中心に回転し、図4に示されるように、モータ51が正転すると、矢印に示される方向へ回転する。
【0037】
3つの遊星ギア74,74,74は、サンギア72にかみ合う歯車である。これらの遊星ギア74は、モータ51が正転すると、サンギア72の周りを、白抜き矢印に示されるように、相対的に回転する。これらの3つの遊星ギア74は、図3を参照するとわかるように、キャリア75によって相互に接続されている。
【0038】
インターナルギア73は、内側に遊星ギア74とかみ合う内歯が形成された環状のギアである。このインターナルギア73の外縁には、図4における右回りの回転を抑止するためのラチェット歯が形成されている。
【0039】
クラッチ76は、パウル76a及びワイヤ76bから構成されている。パウル76aは、例えば不図示のケーシング或いは支持部材によって、一端が回転軸77を中心に回動可能に支持されている。
【0040】
ワイヤ76bは、一端が、第3中間ギア64と第2駆動ギア65の回転軸65aに巻き付けられている。そして、他端がパウル76aに設けられた長孔に挿入されている。このワイヤ76bは、モータ51が正転すると、回転軸65aを中心に右回りに回転し、パウル76aを左回りに回転させる。また、ワイヤ76bは、モータ51が逆転すると、回転軸65aを中心に左回りに回転し、パウル76aを右回りに回転させる。
【0041】
図3及び図4を参照するとわかるように、上述のように構成されたギアユニット60では、モータ51が正転すると、第1駆動ギア61が回転する。そして、モータ51の回転力が第1中間ギア62、第2中間ギア63、第3中間ギア64に順次伝わり、回転軸65aが矢印に示される方向へ回転する。これにより、図4に示されるように、パウル76aが、インターナルギア73のラチェット歯に係合し、インターナルギア73の右回りの回転が規制される。
【0042】
パウル76aがインターナルギア73のラチェット歯に係合した状態で、モータ51の正転が継続すると、遊星ギア74が、白抜き矢印に示される方向に回転する。これにより、図3を参照するとわかるように、キャリア75が回転して、スプール53が回転する。この結果、ベルト40がスプール53に巻き取られる。
【0043】
また、モータ51が逆転することによって、回転軸65aが矢印に示される方向とは反対の方向へ回転すると、図4に示されるように、インターナルギア73のラチェット歯に係合していたパウル76aが、図5に示される位置まで回転する。これにより、インターナルギア73の回転の規制が解錠され、インターナルギア73がリリースされた状態となる。
【0044】
インターナルギア73がリリースされた状態では、モータ51が回転しても、キャリア75に接続されたスプール53は回転せず、スプール53は、モータ51から独立して回転することが可能な状態となる。
【0045】
すなわち、クラッチ76のパウル76aが、インターナルギア73のラチェット歯に係合することで、モータ51とスプール53とが機械的に接続された状態となる。また、クラッチ76のパウル76aが、インターナルギア73のラチェット歯から離間し、インターナルギア73がリリースされると、モータ51とスプール53とが機械的に切り離された状態となる。
【0046】
以下、説明の便宜上、クラッチ76のパウル76aが、インターナルギア73のラチェット歯に係合した状態を、単に、クラッチ76がオンとなった状態というものとする。そして、クラッチ76のパウル76aが、インターナルギア73のラチェット歯から離間した状態を、単に、クラッチ76がオフとなった状態というものとする。
【0047】
制御装置20は、例えばCPU、CPUの作業領域として用いられる主記憶部、CPUが実行するプログラム及び各種パラメータを記憶する補助記憶部を有するコンピュータである。この制御装置20は、車両通信ネットワーク11と通信を行うことで、車両の速度、加速度等の車両情報を取得する。また、制御装置20は、バックルセンサ44aを介して、乗員120がベルト40によってシート100に拘束されているか否かを判断する。そして、制御装置20は、乗員120がベルト40に拘束された状態で、例えば車両の速度及びY軸方向の加速度が基準値以上となった場合に、駆動装置22へ、乗員120を弱い力で拘束するための動作の実行を指示する。
【0048】
駆動装置22は、モータ51のPWM(Pulse Width Modulation)制御を行うためのスイッチング素子を含んで構成されている。この駆動装置22は、制御装置20から通知される走行状態に応じたデューティー比の電圧信号Vを生成し、モータ51へ供給する。例えば、この電圧信号Vは、ベルト40のたるみをとる場合や、車両の挙動に起因して乗員120に作用する外力の影響を軽減するための動作を行う場合に、モータ51を駆動するための信号である。
【0049】
乗員120を弱い力で拘束するための動作を行う場合には、駆動装置22は、図6に示される波形の電圧信号Vを、モータ51へ供給する。この電圧信号Vは、最大電圧がVで、周期がTである。そして、リトラクタの動作が開始される時刻tから時間Tが経過した時刻tまでは、時間Tだけ周期的にハイレベルとなり、時刻t以降は、時間Tだけ周期的にハイレベルとなるように、デューティー比T/T,T/Tが調整される。具体的には、デューティー比T/Tは、最大電圧Vにディーティー比T/Tを乗じることにより算出される電圧がVAVG1となるように設定される。この電圧VAVG1は、モータ51の最低動作電圧よりも十分に大きい電圧である。また、デューティー比T/Tは、最大電圧Vにディーティー比T/Tを乗じることにより算出される電圧がVAVG2となるよう設定される。この電圧VAVG2は、モータ51の最低動作電圧よりも小さい電圧である。
【0050】
図7には、図6に示される電圧信号Vが供給されたときに、モータ51に流れる駆動電流Iの推移を示す曲線が示されている。駆動電流Iは、リトラクタの動作が開始される時刻tで立ち上がり始め、時刻tから時間Tが経過した時刻tまで、値がIに維持される。そして、時刻t以降は、その値が、値Iよりも小さな値Iとなる。
【0051】
上述の時間Tは、クラッチ76が動作することによって、モータ51とスプール53とが機械的に接続されるのに要する時間であり、例えば20ms程度である。また、値Iは、モータに最低動作電圧を印加したときに、モータ51に流れる電流よりも大きな値である。そして、値Iは、最低限駆動に必要な電圧(VAVG2)を印加した場合に流れる電流である。
【0052】
以上説明したように、本実施形態では、モータ51とスプール53とを機械的に接続するクラッチ76の動作に要する時間Tだけ、モータ51の駆動電流Iの値が大きくなる。そして、クラッチ76が動作した後は、駆動電流Iの値が、ベルト40の張力によってスプール53が回転するのを阻止するために必要なだけの大きさとなる。このため、クラッチ76を確実に動作させた後は、乗員120を拘束するのに必要な電力だけが消費されることになる。したがって、モータ51での消費電力を削減し、モータ51からの発熱を抑制することができる。
【0053】
また、クラッチ76が動作した後は、電圧信号Vの値が、スプール53の回転を阻止するために必要なだけの大きさとなる。このため、乗員120が感じる拘束感を低減することができる。
【0054】
本実施形態では、クラッチ76が動作している間は、モータ51に供給される電圧信号Vの平均値が、最低動作電圧よりも大きな値となる。このため、モータ51の劣化により、最低動作電圧の値が大きくなったとしても、クラッチ76を確実に動作させて、モータ51とスプール53とを機械的に接続することができる。その結果、確実に乗員120を拘束することが可能となる。
【0055】
本実施形態では、クラッチ76が動作している間は、電圧信号Vの平均値が、モータ51の最低動作電圧以上になるように、電圧信号VのPWM制御が行われる。このため、クラッチ76を確実に動作させて、モータ51とスプール53とを機械的に接続することができる。その結果、確実に乗員120を拘束することが可能となる。
【0056】
なお、電圧信号Vの最大電圧は車両の周囲環境、バッテリーの充電状況、劣化の程度、及び個体差等によって変動する。この場合、駆動装置22は、電圧信号Vの最大電圧の変動を考慮したPWM制御を行うこととしてもよい。具体的には、標準となる最大電圧Vと、現在の電圧Vとを比較する。そして、次式(1)を用いて電圧信号Vをハイレベルにする時間Tを求め、電圧信号Vのデューティー比がT/Tとなるような制御を行う。
【0057】
=T(V/V) …(1)
【0058】
これにより、バッテリーの電圧が低下したとしても、クラッチ76を確実に動作させて、モータ51とスプール53とを機械的に接続させることができる。その結果、確実に乗員120を拘束することが可能となる。
【0059】
本実施形態では、図7に示されるように、クラッチ76がオンになってからは、乗員120を拘束するのに必要最小限の値の駆動電流Iが供給されるように、電圧信号Vが制御される。しかしながら、車両の挙動の変化に起因して、乗員120に大きな外力が作用した場合等には、本実施形態に係る電圧信号Vの制御と合わせて、乗員120を強い力で拘束するために、例えば値がI以上の駆動電流Iがモータ51に供給されるように、電圧信号Vを制御することとしてもよい。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態によって限定されるものではない。例えば、クラッチ76は、パウル76aをインターナルギア73から離間するためのスプリングを有していてもよい。電圧信号Vの値が最低動作電圧よりも大きい場合には、パウル76aが確実にインターナルギア73のラチェット歯に係合する。その後は、スプール53が回転しない程度の値の駆動電流Iが供給されることよって、パウル76aがインターナルギア73のラチェット歯に係合した状態が維持される。このため、クラッチ76を確実に動作させて、モータ51とスプール53とを機械的に接続させることができる。その結果、確実に乗員120を拘束することが可能となる。
【0061】
上記実施形態では、図6を参照するとわかるように、時刻tから時間Tが経過するまでは、デューティー比がT/Tとなり、時間Tが経過してからは、デューティー比がT/Tとなるように、電圧信号Vのデューティー比を決定した。これに限らず、まず、パウル76aの位置を検出するセンサを用いて、パウル76aの位置の検出を行う。そして、パウル76aが、インターナルギア73と係合する位置まで回転し、クラッチ76がオンになったときに、デューティー比をT/TからT/Tへ変更することとしてもよい。パウル76aの位置は、リミットスイッチや近接スイッチを用いて検出することができる。
【0062】
また、パウル76aの位置を直接検出するのではなくて、モータ51の回転軸51aの回転角度、或いはスプール53の回転角度を監視することによっても、クラッチ76がオンになったことを検出することができる。
【0063】
図8には、モータ51を構成する回転軸51aの回転角を検出するエンコーダ56と、スプール53の回転角を検出するエンコーダ55とが示されている。エンコーダ56を用いて、回転軸51aの回転角度を監視することで、クラッチ76がオンになったことを検出することができる。例えば、リトラクタの動作が開始されてから回転軸51aの回転角度が一定量増加した場合には、パウル76aがインターナルギア73のラチェット歯に係合し、クラッチ76がオンになったと判断することができる。
【0064】
同様に、エンコーダ55を用いて、スプール53の回転角度を監視することで、クラッチ76がオンになったことを検出することができる。例えば、リトラクタの動作が開始されてからスプールの回転角度が一定量増加した場合には、パウル76aがインターナルギア73のラチェット歯に係合し、クラッチ76がオンになったと判断することができる。
【0065】
上述のようにクラッチ76がオンになったことを検出した場合には、時間Tの経過を待つことなく、電圧信号Vのデューティー比をT/TからT/Tへ変更することとしてもよい。
【0066】
上記実施形態では、クラッチ76をオンさせるために、図6に示されるように、モータ51の起動時刻tから時間Tが経過するまで、電圧信号Vのデューティー比がT/Tとなるように、電圧信号Vを制御した。これに限らず、クラッチ76がオフになったことを検出する毎に、電圧信号Vのデューティー比が一定時間だけT/Tとなるように、電圧信号Vの制御を行ってもよい。
【0067】
具体的には、図9を参照するとわかるように、モータ51の駆動を開始してから時間Tが経過するまで、電圧信号Vのデューティー比をT/Tにしてクラッチ76をオンにさせた後に、時刻tで、クラッチ76がオフになったことを検出したときは、再度電圧信号Vのデューティー比を、時間Tが経過するまでT/Tとして、クラッチをオンにさせる。これにより、走行中に確実に乗員120を拘束することが可能となる。
【0068】
図8に示されるエンコーダ56を用いて、回転軸51aの回転角度を監視することで、クラッチ76がオフになったことを検出することができる。例えば、リトラクタの動作中に、ベルト40が引き出されることによって、モータ51の回転角度が一定量以上増加した場合には、クラッチ76がオフになったと判断することができる。
【0069】
同様に、エンコーダ55を用いて、スプール53の回転角度を監視することで、クラッチ76がオフになったことを検出することができる。例えば、リトラクタの動作中に、ベルト40が引き出されることによって、スプール53の回転角度が一定量以上増加した場合には、クラッチ76がオフになったと判断することができる。
【0070】
上述のようにクラッチ76がオフになったことを検出した場合には、再度電圧信号Vのデューティー比を、時間Tが経過するまでT/Tとして、クラッチ76をオンにさせる。これにより、走行中に確実に乗員120を拘束することが可能となる。また、上述した近接スイッチやリミットスイッチを用いて、直接的にクラッチ76がオフになったことを検出することとしてもよい。
【0071】
上記実施形態では、クラッチ76をオンさせるために、図6に示されるように、モータ51の起動時刻tから時間Tが経過するまで、電圧信号Vのデューティー比がT/Tとなるように、電圧信号Vを制御した。これに限らず、クラッチ76の状態にかかわらず、周期的に電圧信号Vのデューティー比をT/TからT/Tへ変更することとしてもよい。これによれば、クラッチ76がオフになったとしても、1周期に相当する時間が経過するまでには、クラッチをオンにすることができる。したがって、走行中に確実に乗員120を拘束することが可能となる。
【0072】
上記実施形態に係る制御装置20は、ハードウエアによって構成されていてもよいし、コンピュータや、マイクロコンピュータであってもよい。
【0073】
なお、本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の拘束装置は、車両に代表される乗り物に搭乗する乗員を拘束するのに適している。
【符号の説明】
【0075】
10 拘束装置
11 車両通信ネットワーク
20 制御装置
22 駆動装置
30 拘束ユニット
40 ベルト
41 ガイド
42 タング
43 アンカー
44 バックル
44a バックルセンサ
50 リトラクタ
51 モータ
51a 回転軸
53 スプール
55,56 エンコーダ
60 ギアユニット
61 第1駆動ギア
62 第1中間ギア
63 第2中間ギア
64 第3中間ギア
65 第2駆動ギア
65a 回転軸
71 従動ギア
72 サンギア
72a 回転軸
73 インターナルギア
74 遊星ギア
75 キャリア
76 クラッチ
76a パウル
76b ワイヤ
77 回転軸
100 シート
120 乗員

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートに着座する乗員を拘束するための拘束装置であって、
乗員を拘束するためのベルトが巻き取られるスプールと、
前記スプールを回転させるモータと、
前記モータの出力を、前記スプールに伝達する伝達手段と、
前記モータの回転によって、前記モータと前記伝達手段とを機械的に接続する接続手段と、
前記接続手段によって、前記モータと前記伝達手段とが接続されるまでに供給する第1のパワーが、前記モータと前記伝達手段とが接続されてから供給する第2のパワーよりも大きくなるように、前記モータにパワーを供給する供給手段と、
を備える拘束装置。
【請求項2】
前記供給手段は、前記モータと前記伝達手段とが接続されるまでの出力電圧の平均値が、前記モータと前記伝達手段とが接続されてからの出力電圧の平均値よりも大きくなるように、前記モータにパワーを供給する請求項1に記載の拘束装置。
【請求項3】
前記供給手段は、前記モータと前記伝達手段とが接続されるまでに供給する電流が、前記モータと前記伝達手段とが接続されてから供給する電流よりも大きくなるように、前記モータにパワーを供給する請求項1又は2に記載の拘束装置。
【請求項4】
前記供給手段は、PWM制御を行う請求項1乃至3のいずれか一項に記載の拘束装置。
【請求項5】
前記供給手段は、予め設定された時間だけ前記第1のパワーを供給する請求項1乃至4のいずれか一項に記載の拘束装置。
【請求項6】
前記接続手段による、前記モータと前記伝達手段との接続を検出する第1の検出手段を備え、
前記供給手段は、前記第1の検出手段が前記モータと前記伝達手段との接続を検出するまで、前記第1のパワーを供給する請求項1乃至5のいずれか一項に記載の拘束装置。
【請求項7】
前記モータと前記伝達手段とが接続されていないことを検出する第2の検出手段を備え、
前記供給手段は、前記第2の検出手段が前記モータと前記伝達手段とが接続されていないことを検出した場合に、前記モータと前記伝達手段とが接続されるまでに供給する第1のパワーが、前記モータと前記伝達手段とが接続されてから供給する第2のパワーよりも大きくなるように、前記モータにパワーを供給する請求項1乃至6のいずれか一項に記載の拘束装置。
【請求項8】
前記供給手段は、周期的に、前記モータと前記伝達手段とが接続されるまでに供給する第1のパワーが、前記モータと前記伝達手段とが接続されてから供給する第2のパワーよりも大きくなるように、前記モータにパワーを供給する請求項1乃至6のいずれか一項に記載の拘束装置。
【請求項9】
前記スプールは、前記シートの一側に配置されており、
前記シートの一側に配置され、前記リトラクタから引き出された前記ベルトの一端を固定する固定手段と、
前記スプールと、前記固定手段との間の前記ベルトを支持する支持手段と、
前記シートの他側に配置されたバックルと、
前記ベルトに設けられ、前記バックルに着脱自在なトングと、
を備える請求項1乃至8のいずれか一項に記載の拘束装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−43585(P2013−43585A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183412(P2011−183412)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(306009581)タカタ株式会社 (812)
【Fターム(参考)】