説明

拡張された焦点深度を有する眼内レンズ

眼科用レンズが開示され、一つの実施形態では、眼科用レンズは、光軸の回りに配置された前面及び後面を有する光学部を具備し、前面及び後面のうちの少なくとも一方は、基本輪郭と補助輪郭との重ね合わせによって特徴付けられる輪郭を有し、補助輪郭は基本輪郭からの表面の偏差の連続的なパターンを含む。補助輪郭は、正弦波形の輪郭であり、且つ、振幅が変調され、周波数が変調され、又は振幅及び周波数の両方が変調されうる。眼科用レンズはIOLであってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して眼科用レンズに関し、特に、高められた焦点深度を提供する眼科用レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
眼科用レンズは白内障の手術中に患者の眼内に日常的に移植されて生来の水晶体に置き換わる。様々な眼科用レンズは、白内障、近視、遠視、又は乱視のような視力障害を矯正するのに用いられる。例えば、眼内レンズ(IOL)は、取り除かれた水晶体の失われた屈折力を補うべく、白内障の手術中に患者の眼内に移植されうる。しかしながら、多くの場合、移植されたレンズは、対象とされる物体距離において最適な焦点を提供することができない。
【0003】
従来の最新のIOLの光学部デザインでは、主に二つの成果、すなわち明瞭な遠方視力を提供すべく収差補正を提供する光学部、又は、近方視力を提供しつつ遠方視力も提供できる多焦点の光学部に重点が置かれている。典型的には、これらデザインは、別の重要な患者の要求、すなわち、最も高齢の患者についての、所定の中間距離の周辺に焦点が合わせられるという主要な視力要求に対処していない。生来の水晶体に置き換わるIOLを受容する患者の大きな割合を占めるこれら高齢の患者は、日常の仕事を行うのに遠距離から中距離までの拡張された機能的な視力を必要とする。現在のIOLのデザインでは、この拡張された機能的な視力が十分に提供されていない。
【0004】
したがって、改良された眼科用レンズについての要求、特に、従来技術のIOLと比較して高められた焦点深度を提供することができる改良されたIOLについての要求が存在する。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、デフォーカス距離の選択された範囲に亘って画像の解像度について十分なコントラストを提供しつつ、拡張された被写界深度を示す眼科用レンズを提供する。本発明の実施形態は、人間の眼内において拡張された焦点深度を提供すべく、正弦波形の、IOLにおける光学部デザインを含む。古典的な正弦波技術(sinusoidal technique)に基づいて、本発明の実施形態は、高められた焦点深度を提供すべく、振幅変調技術及び周波数変調技術を含む。一つの実施形態では、瞳中心からレンズの外周にかけて正弦波の振幅が減衰せしめられ、単一の焦平面により多くの光エネルギーが集められうる。別の実施形態では、有効なレンズの付加屈折力(add-power)を瞳半径の関数として変化させるべく、IOLの正弦波の周期性が変調されうる。正弦波曲線において振幅変調と周波数変調とを組み合わせる一つの実施形態では、IOLのスルー・フォーカス(through-focus)特性を更に高め、且つ、従来のデザインで経験された所定の光現象(photic phenomenon)が生じない所望の焦点深度の輪郭を生成することができる。本発明の実施形態の光学部デザインを、単焦点IOLの光学部、多焦点IOLの光学部、及び/又は調節性IOLの光学部に適用することができる。
【0006】
本発明のレンズを製造する方法だけでなく、屈折異常を矯正する方法、又は様々な距離に亘って視力を高める方法も開示される。本発明の眼科用レンズは、限定されるものではないが、偽水晶体及び有水晶体の両方の用途について使用されうるIOL等の様々な視力矯正用途において使用されうる。また、本発明は、コンタクトレンズ、基質内インプラント(intrastromal implant)、及び他の屈折矯正装置との関連においても有用である。
【0007】
レンズ/IOLの文脈における「被写界深度」及び「焦点深度」の用語は、公知であり、且つ、許容可能な像が解像されうる、物空間及び像空間における距離を意味することが当業者によって容易に理解される。本発明を説明するのに定量的な測定が必要であれば、本明細書において使用されるような「被写界深度」又は「焦点深度」の用語は、より具体的には、3mmのアパーチャ及び緑色の光(例えば約550nmの波長を有する光)を用いて測定されたレンズのスルー・フォーカス変調伝達関数(MTF)が、このレンズに関連付けられた回折限界の空間周波数の約1/3に等しい空間周波数で少なくとも約15%のコントラストを示す点における、レンズに関連付けられたデフォーカスの量によって測定されうる。他の定義も適用されうるが、被写界深度が、例えばアパーチャのサイズ、像からの光の色含有量(chromatic content)、及びレンズそれ自体の基本屈折力等の多くの要因によって影響されることを明確にしておくべきである。
【0008】
本発明の教示に係るIOLが、特定の用途に適切な任意の基準屈折力(nominal power)を有することができる。特に白内障の患者についてのIOL用途に適切な一つの実施形態では、本発明の眼科用レンズは約17〜約25ディオプターの範囲内の基準屈折力を示しうる。他の用途では、負の基準屈折力を有する有水晶体レンズが本発明の教示に従って形成されうる。
【0009】
本発明の教示に係るレンズのレンズ本体は任意の適切な生体適合性材料から形成されうる。例えば、レンズ本体は、テキサス州フォートワースのアルコンラボラトリーズインコーポレイティドによって製造されるアクリソフ(登録商標)材料のような柔らかいアクリル材料、ハイドロゲル材料、又はシリコーン材料から形成されうる。例えば、レンズ本体はポリメチルメタクリレート(PMMA)から形成されうる。いくつかの実施形態では、特に折畳み可能なIOLレンズが望まれるとき、レンズはアクリレートとメタクリレートとの共重合体から形成されうる。斯かる共重合体組成物の理解を助ける例として、例えば、1999年7月13日にLebouef等に発行された、発明の名称が「眼科用レンズの重合体(Ophthalmic Lens Polymers)」の米国特許第5922821号明細書と、2002年5月5日にFreeman等に発行された、発明の名称が「眼科用装置の高屈折率材料(High Refractive Index Ophthalmic Device Materials)の米国特許第6353069号明細書とを参照されたい。これら両方の教示は参照によって本明細書の一部を構成する。
【0010】
以下の詳細な説明と、以下に簡潔に記述される関連図面とを参照することによって、本発明を更に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の教示に係るレンズを概略的に描写する。
【図1A】図1Aは、正弦波形の光学部デザインの表面輪郭のプロットを示す。
【図1B】図1Bは、正弦波形の光学部デザインの表面輪郭のプロットを示す。
【図2A】図2Aは、一つの瞳サイズについて、正弦波形のレンズデザインのスルー・フォーカス特性を示す。
【図2B】図2Bは、一つの瞳サイズについて、正弦波形のレンズデザインのスルー・フォーカス特性を示す。
【図2C】図2Cは、一つの瞳サイズについて、正弦波形のレンズデザインのスルー・フォーカス特性を示す。
【図2D】図2Dは、一つの瞳サイズについて、正弦波形のレンズデザインのスルー・フォーカス特性を示す。
【図3A】図3Aは、正弦波形の光学部デザインについて、人間の眼内におけるスルー・フォーカス特性を示す。
【図3B】図3Bは、正弦波形の光学部デザインについて、人間の眼内におけるスルー・フォーカス特性を示す。
【図3C】図3Cは、正弦波形の光学部デザインについて、人間の眼内におけるスルー・フォーカス特性を示す。
【図3D】図3Dは、球面のレンズデザインについて、人間の眼内におけるスルー・フォーカス特性を示す。
【図3E】図3Eは、球面のレンズデザインについて、人間の眼内におけるスルー・フォーカス特性を示す。
【図3F】図3Fは、球面のレンズデザインについて、人間の眼内におけるスルー・フォーカス特性を示す。
【図3G】図3Gは、非球面のレンズデザインについて、人間の眼内におけるスルー・フォーカス特性を示す。
【図3H】図3Hは、非球面のレンズデザインについて、人間の眼内におけるスルー・フォーカス特性を示す。
【図3I】図3Iは、非球面のレンズデザインについて、人間の眼内におけるスルー・フォーカス特性を示す。
【図4A】図4Aは、振幅が変調された正弦波形の光学部デザインの表面輪郭のプロットを示す。
【図4B】図4Bは、振幅が変調された正弦波形の光学部デザインの表面輪郭のプロットを示す。
【図5A】図5Aは、周波数が変調された正弦波形の光学部デザインの表面輪郭のプロットを示す。
【図5B】図5Bは、周波数が変調された正弦波形の光学部デザインの表面輪郭のプロットを示す。
【図6A】図6Aは、本発明の、振幅及び周波数が変調された正弦波形の光学部デザインの一つの実施形態の表面輪郭のプロットを示す。
【図6B】図6Bは、本発明の、振幅及び周波数が変調された正弦波形の光学部デザインの一つの実施形態の表面輪郭のプロットを示す。
【図7A】図7Aは、正弦波形の光学部デザインについて、人間の眼内におけるスルー・フォーカス特性を示す。
【図7B】図7Bは、正弦波形の光学部デザインについて、人間の眼内におけるスルー・フォーカス特性を示す。
【図7C】図7Cは、正弦波形の光学部デザインについて、人間の眼内におけるスルー・フォーカス特性を示す。
【図7D】図7Dは、振幅が変調された正弦波形の光学部デザインについて、人間の眼内におけるスルー・フォーカス特性を示す。
【図7E】図7Eは、振幅が変調された正弦波形の光学部デザインについて、人間の眼内におけるスルー・フォーカス特性を示す。
【図7F】図7Fは、振幅が変調された正弦波形の光学部デザインについて、人間の眼内におけるスルー・フォーカス特性を示す。
【図7G】図7Gは、本発明の、振幅及び周波数が変調された正弦波形の光学部デザインの一つの実施形態について、人間の眼内におけるスルー・フォーカス特性を示す。
【図7H】図7Hは、本発明の、振幅及び周波数が変調された正弦波形の光学部デザインの一つの実施形態について、人間の眼内におけるスルー・フォーカス特性を示す。
【図7I】図7Iは、本発明の、振幅及び周波数が変調された正弦波形の光学部デザインの一つの実施形態について、人間の眼内におけるスルー・フォーカス特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明では、正弦曲線において振幅変調と周波数変調とを組み合わせることによって、拡張された被写界深度を示す眼科用レンズが提供される。したがって、本発明のレンズは、屈折異常を矯正し、又は、レンズによって示される高められた被写界深度に相応するデフォーカス距離の選択された範囲に亘って画像の解像度について十分なコントラストを提供することによって視力を高めることができる。
【0013】
図1は、本発明の教示に係る例示的なレンズ10を概略的に示し、レンズ10は、二つの屈折面14及び16を有するレンズ光学部12を含む。屈折面が概して凸面として描写されているが、いずれかの表面は概して凹面形状を有しうる。代替的に、表面14及び16は平凹レンズ又は平凸レンズを生成するように選択されうる。したがって、本発明の教示に係るレンズは正又は負の基準屈折率を有することができる。
【0014】
レンズ光学部12は様々な柔らかい生体適合性材料から形成されうる。例えば、レンズ光学部12は、アクリル材料(例えばアクリレートとメタクリレートとの共重合体)、ハイドロゲル、又はシリコーンから形成されうる。レンズの特定の用途について必要な屈折率を示す、任意の柔らかい生体適合性材料が上記の例示的なレンズ10のような本発明のレンズを生み出すために実際に用いられうることが当業者によって理解されるであろう。
【0015】
屈折面16は、波状のトポグラフィーを示す。例示の目的で、表面の変調が誇張されている。より具体的には、屈折面16は、破線によって描写される基本曲線又は基本輪郭18であって、当該基本曲線又は基本輪郭18上に表面の偏差の連続的なパターン20が重ね合わせられる基本曲線又は基本輪郭18によって特徴付けられうる。例示的な基本輪郭18は概して球面であり且つレンズの本体/光学部12の光軸22の周りで径方向に対称である。同様に、この例示的な実施形態では、表面の偏差の連続的なパターンも光軸22の周りで径方向に対称である。この実施形態における基本輪郭18は球面であるが、他の実施形態では、非球面の基本輪郭が本発明の実施において使用されうる。
【0016】
本発明の、振幅及び/又は周波数が変調された正弦波形の光学部デザインの実施形態では、高められた所望の焦点深度の光学部デザインが提供されうる。古典的な正弦波技術に基づいて、振幅変調に基づくデザイン及び周波数変調に基づくデザインの二つのデザインが開示される。第1のデザインでは、単一の焦平面により多くの光エネルギーを集めるべく、瞳中心から光学部の外周にかけて光学部の正弦波形の振幅が減衰せしめられる。第2のデザインでは、有効な付加屈折力(add-power)を瞳半径の関数として変化させるべく、光学部の正弦波の周期性が変調される。本発明の実施形態では、光学部のスルー・フォーカス特性を更に高めて所望の焦点深度の輪郭を生成すべく、二つのデザインタイプが組み合わせられる。本発明の実施形態は、単焦点眼内レンズ、調節性眼内レンズ、及び/又は多焦点眼内レンズとして実施されうる。
【0017】
本発明の実施形態をモデリングするのに使用された数値計算は、マットラボプログラム(Matlab program)を使用して行われた。波動光学的手法が、光学部の正弦波構造をモデリングするのに選択され、特性評価では主に50(20/40VA)及び100lp/mm(20/20VA)におけるスルー・フォーカス変調伝達関数について焦点が当てられた。
【0018】
古典的な正弦波形のデザインは、IOLの光学部のような光学部における、鋭い回折ステップ(diffractive step)の不都合な光効果を生じることなく三焦点作用(trifocal behavior)を生成するための代替的な態様として提案された。式1によって正弦波曲線を記述することができる。
y=acos(2πr2/b) (1)
ここで、aは正弦波曲線の振幅及びを種々の焦点における回折効率を決定するパラメータであり、bは周期性及び付加屈折力を特定するパラメータである。
【0019】
研究では、パラメータの値として、±0.5Dの付加屈折力を生むa=0.5877及びb=2.2が使用された。本明細書において記述されるように、パラメータaは、空気から房水に及ぶデザイン環境の変化を考慮するように調整されうる。正弦波形の光学部デザインの光学部の表面輪郭が図1A及び図1Bにおいて示される。図1Aは一次元の表面輪郭のプロットであり、図1Bは表面高さのマップである。正弦波曲線は、典型的な多焦点レンズの態様と同様な態様で、光学部/瞳の中心から光学部の外周にかけて次第に密集するようになる。このデザインを有するレンズのスルー・フォーカス特性は、高次収差がないという仮定の下、従来の濡れた細胞(wet-cell)内における、3.0mm、4.5mm、及び5.0mmの瞳について計算された。図2A、図2C、及び図2Dは、それぞれこれらの結果を示す。
【0020】
計算結果は正弦波形の光学部デザインのユニークな特性を忠実に反映する。小さい瞳(例えば約3mm)について、露出された中心部分では、周期性構造間で干渉が生じる前の屈折効果(+0.5Dの付加)が支配的である。この効果は、スルー・フォーカスMTFが−0.57Dのデフォーカス(+0.57Dの付加屈折力に対応する)においてピークとなることから明らかにされる。図2Bにおいて示されるように、このMTFはこのデフォーカスレベルにおいて良好な光学的品質を実証する。100lp/mmにおける三つの特有なスルー・フォーカスのピークによって示されるように、大きい瞳(4.5mm及び5.0mm)において、回折効果が次第に明らかになった。評価波長は550nmである。
【0021】
上述された正弦波形のデザインのスルー・フォーカス特性は、実在するIOLの球面の光学部デザイン及び非球面の光学部デザインと比較された。結果が図3A〜図3Iにおいて示される。人間の眼(0.28μmの球面収差を有する角膜)内におけるスルー・フォーカス特性が、正弦波形のデザイン(図3A〜図3C)、球面のレンズデザイン(図3D〜図3F)、及び非球面のレンズデザイン(図3G〜図3I)について計算された。三つの異なる瞳サイズ、すなわち3.5mmの瞳(図3A、図3D、図3G)、4.5mmの瞳(図3B、図3E、図3H)、及び6.0mmの瞳(図3C、図3F、図3I)における特性が評価された。四つの典型的な空間周波数、すなわち25lp/mm、50lp/mm、75lp/mm、及び100lp/mmが評価のために使用された。
【0022】
正弦波形のデザインは、概して、従来技術のIOLの球面の光学部デザイン及び非球面の光学部デザインと比較して焦点深度を拡張する。球面の光学部デザインにおける大きな量の球面収差は大きな瞳について変調を急激に低下させる。IOLの非球面の光学部デザインは全ての瞳について良好なピーク光学特性を維持する。しかしながら、非球面のレンズデザインは、限定された焦点深度を有する。
【0023】
大きな瞳について、古典的な正弦波形のデザインの回折効果は、三つの異なる焦点に光が分けられるせいで、非常に低い変調伝達関数がもたらされる。典型的には、小さい変調伝達は小さなコントラスト感度をもたらし且つ夜間の運転特性を悪化させる。従来、多焦点IOLのデザインにおける低い変調伝達の効果は、アポダイゼーション法(apodization scheme)を用いて対処された。同様に、正弦波形の光学部の正弦波振幅は、余弦関数を用いて変調されることができ、余弦関数は、瞳サイズが増加するとき(例えば、暗い状況において)、選択された回折次数(例えば0次回折)により多くの光を移すことができる。
【0024】
振幅が変調された(AM)、正弦波形の光学部デザインが図4A及び図4Bにおいて示される。図4Aは一次元の表面輪郭のプロットを示し、図4Bは二次元の表面高さのマップを示す。変調余弦関数は瞳(光学部)中心における1.0から始まって5.0mmの瞳径における0まで徐々に減少する。振幅変調の分析的記述(analytical description)が式2によって提供される。
y=acos(πr/2r0)cos(2πr2/b) (2)
ここで、r0は余弦変調の終端の瞳半径である。
【0025】
以下に更に記述されるように、図7D〜図7Fは、振幅が変調された正弦波形のデザインのスルー・フォーカス特性を示す。図7Fにおいて示されるように、6.0mmの入射瞳についての100lp/mmのピーク特性が正弦波形のデザインの0.28から0.40(〜40%増加)に改善された。
【0026】
高められた焦点深度は大きな瞳(夜間運転の状況)について利点が少ないことがあり、このため、大きな瞳についての小さな焦点深度は、遠距離の焦点により多くのエネルギーを集めることを補助しうる。斬新な技術である周波数変調が、瞳サイズが増加せしめられたとき、正弦波形のデザインの付加屈折力を減少させることを補助する。周波数が変調された正弦波形の光学部デザインの表面輪郭が図5A及び図5Bにおいて示される。図5Aは一次元の表面輪郭のプロットを示し、図5Bは二次元の表面高さのマップを示す。図5Aは、比較のために、変調されていない正弦波形の光学部デザインも示す。付加屈折力が減少する性質によって、ピーク間の間隔がレンズ/瞳の中心からレンズの外周にかけてよりまばらになり、このことは式3によって以下に分析的に表される。
y=acos(2πr2/bf(r)) (3)
ここで、f(r)は瞳半径の平方根である。
【0027】
大きい瞳サイズにおける光学特性を更に高めるために、本発明の実施形態では、正弦波形の光学部デザインにおいて振幅変調と周波数変調とが組み合わせられて、光エネルギーが単一の焦平面に集められるようになる。本発明の、振幅及び周波数が変調された正弦波形の光学部デザインの一つの実施形態の表面輪郭は式(4)によって記述されることができ且つ図6A及び図6Bにおいて示される。
y=acos(πr/2r0)cos(2πr2/bf(r)) (4)
【0028】
図6Aは、本発明の、振幅及び周波数が変調された正弦波形の光学部デザインの一つの実施形態の一次元の表面輪郭のプロットを示し、図6Bは、その表面高さのマップを示す。振幅変調と周波数変調とを組み合わせることによって、光学部のスルー・フォーカス特性が著しく改善される。ピークの変調伝達は、主として周波数の変調の効果によって、小さい瞳(3.5mm)及び中間の瞳(4.5mm)について、再度中心が正視の状態に合わせられる。ピークのMTF特性は、3.5mm、4.5mm、及び6.0mmそれぞれについて、おおよそ0.30、0.40、及び0.50に到達した。
【0029】
図7A〜図7Iは、正弦波形の光学部デザイン(図7A〜図7C)と、振幅が変調された正弦波形の光学部デザイン(図7D〜図7F)と、本発明の、振幅及び周波数が変調された正弦波形の光学部デザインの一つの実施形態(図7G〜図7I)とについて、人間の眼(0.28μmの球面収差を有する角膜)内におけるスルー・フォーカス特性を示す。三つの異なる瞳サイズ、すなわち3.5mmの瞳(図7A、図7D、図7G)、4.5mmの瞳(図7B、図7E、図7H)、及び6.0mmの瞳(図7C、図7F、図7I)における特性が評価された。四つの典型的な空間周波数、すなわち25lp/mm、50lp/mm、75lp/mm、及び100lp/mmが評価のために使用された。
【0030】
本発明の教示に係る眼科用レンズを様々な視力矯正用途において用いることができる。斯かる用途は、眼内レンズ(IOL)、白内障レンズ、基質内インプラント、及び他の屈折矯正装置を含むが、これらに限定されない。例えば、本発明のレンズは、改良されたIOLとして用いられることができ、改良されたIOLは、典型的には白内障の手術後に現れる残余屈折異常を改善する。白内障手術の実施において、手術器具の精度、IOL製品の精度、術前の生体データ、外科医のスキルレベル、及び水晶体嚢の個人間の差のような要因が手術後に所望の屈折異常における変動をもたらしうることが公知である。屈折異常の斯かる変動の標準的な一つの偏差は大きさが0.5ディオプターでありうる。長期間に及ぶことがある斯かる残余屈折異常は患者の視力を低下させうる。結果的に、多くの患者が、術後の視力を高めるために眼鏡を必要とする。
【0031】
本発明の教示に従って形成されたIOLは、白内障手術の結果をより予測可能なものとするのに使用されることができ、このため、白内障の手術後の眼鏡への依存を低下させることができる。特に、本発明のIOLは、IOLの被写界深度を高める表面の偏差を有する屈折面を含むことができ、ひいては、上述された屈折異常に対するIOLの感度を低くすることができる。言い換えれば、患者の眼内に移植される本発明のIOLは、大きな焦点深度を示し、ひいては、より広い範囲のデフォーカスにおいて改善された視力特性を提供する。したがって、手術後の屈折異常における変動が患者の視力特性に対して与える影響は低下する。
【0032】
様々な修正が本発明の範囲から逸脱することなく上記の実施形態に対してなされうることが当業者によって理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光軸の回りに配置された前面及び後面を有する光学部を具備する眼科用レンズであって、
前記前面及び後面のうちの少なくとも一方が、基本輪郭と補助輪郭との重ね合わせによって特徴付けられる輪郭を有し、該補助輪郭が該基本輪郭からの表面の偏差の連続的なパターンを含む、眼科用レンズ。
【請求項2】
前記前面及び後面が凸面である、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項3】
前記前面及び後面が凹面である、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項4】
前記基本輪郭が概して球面である、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項5】
前記基本輪郭が前記眼科用レンズの光軸の周りで対称である、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項6】
前記基本輪郭が概して非球面である、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項7】
前記補助輪郭が前記眼科用レンズの光軸の周りで対称である、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項8】
前記補助輪郭が正弦波形の輪郭である、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項9】
前記補助輪郭を有する面の輪郭が以下の関係式
y=acos(2πr2/b)
によって定義され、ここで、
aが、正弦波曲線の振幅と、種々の焦点における回折効率とを表し、
bが周期性及び付加屈折力を表す、請求項8に記載の眼科用レンズ。
【請求項10】
前記正弦波形の輪郭が、選択された回折次数に光を移すのに使用可能な余弦関数を用いて振幅が変調され、前記補助輪郭を有する面の、振幅が変調された輪郭が以下の関係式
y=acos(πr/2r0)cos(2πr2/b)
によって定義され、ここで、
aが、正弦波曲線の振幅と、種々の焦点における回折効率とを表し、
bが周期性及び付加屈折力を表し、
rが前記レンズの光軸からの半径距離を表し、
0が余弦変調の終端の瞳半径である、請求項8に記載の眼科用レンズ。
【請求項11】
前記正弦波形の輪郭が、前記光学部の有効な付加屈折力を瞳半径の関数として変化させるのに使用可能な余弦関数を用いて周波数が変調され、前記補助輪郭を有する面の、周波数が変調された輪郭が以下の関係式
y=acos(2πr2/bf(r))
によって定義され、ここで、
aが、正弦波曲線の振幅と、種々の焦点における回折効率とを表し、
bが周期性及び付加屈折力を表し、
rが前記レンズの光軸からの半径距離を表し、
f(r)が前記瞳半径の平方根である、請求項8に記載の眼科用レンズ。
【請求項12】
前記正弦波形の輪郭が、選択された焦平面に光を移すのに使用可能な余弦関数を用いて振幅及び周波数が変調され、前記補助輪郭を有する面の、振幅及び周波数が変調された輪郭が以下の関係式
y=acos(πr/2r0)cos(2πr2/bf(r))
によって定義され、ここで、
aが、正弦波曲線の振幅と、種々の焦点における回折効率とを表し、
bが周期性及び付加屈折力を表し、
rが前記レンズの光軸からの半径距離を表し、
0が余弦変調の終端の瞳半径であり、
f(r)が前記瞳半径の平方根である、請求項8に記載の眼科用レンズ。
【請求項13】
前記眼科用レンズがIOLを含む、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項14】
前記IOLが単焦点IOLである、請求項13に記載の眼科用レンズ。
【請求項15】
前記IOLが調節性IOLである、請求項13に記載の眼科用レンズ。
【請求項16】
前記IOLが多焦点IOLである、請求項13に記載の眼科用レンズ。
【請求項17】
前記前面及び後面が屈折面である、請求項1に記載の眼科用レンズ。

【図1】
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【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図3G】
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【図3H】
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【図3I】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図7E】
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【図7F】
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【図7G】
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【図7H】
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【図7I】
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【公表番号】特表2012−512709(P2012−512709A)
【公表日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542250(P2011−542250)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【国際出願番号】PCT/US2009/067287
【国際公開番号】WO2010/071751
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(501449322)アルコン,インコーポレイティド (140)
【Fターム(参考)】