説明

持続型顆粒球コロニー刺激因子結合体の液剤

本発明は、生体内の持続性及び安定性が向上した持続型ヒト顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)結合体が長期間保存時に安定して維持される液剤に関する。前記液剤は、緩衝溶液及びマンニトールを特徴とする安定化剤を含む。前記液剤は、ヒト血清アルブミン及び他の人体に潜在的に有害な因子を含まないので、ウイルス感染の恐れなく持続型G−CSF結合体の優れた保存安定性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顆粒球コロニー刺激因子(Granulocyte-Colony Stimulating Factor,G−CSF)、非ペプチドポリマー及び免疫グロブリンFcフラグメントが共有結合し、かつ野生型に比べて増加した作用持続期間を示す持続型顆粒球コロニー刺激因子結合体が長期間安定して維持される持続型顆粒球コロニー刺激因子結合体の液状製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)とは、骨髄幹細胞と白血球を刺激してそれらの分裂と分化を促進するサイトカインである。これは、等電点(pI)が6.1(グリコシル化の程度によってpI値が5.5〜6.1)、分子量が18,000〜19,000ダルトンの範囲の糖タンパク質である(Nomuraら, EMBO J. 5(5):871-876, 1986)。
【0003】
組換えDNA技術によりG−CSFの分子的及び遺伝的性質が解明された(Clark及びKamen, Science, 236:1229-1237, 1987)。CHU−2細胞とヒト膀胱癌細胞5637からmRNAを分離して構築したcDNAライブラリーでヒトG−CSF遺伝子がクローニングされて以来(Nagataら, Nature, 319: 415-418, 1986; Nagataら, EMBO J., 5(3): 575-581, 1986; Souzaら, Science, 232: 61-65, 1986)、哺乳動物細胞と原核細胞でG−CSFを産生できるようになった。また、本発明者らは、hG−CSFの少なくとも1つのアミノ酸残基、特に17番目のシステイン残基を他のアミノ酸残基に置換し、野生型とは異なる、変異したhG−CSFを、N−末端にメチオニン残基が付加されない形態で分泌することができ、hG−CSFをペリプラズムで大量に産生できることを見出した(韓国特許登録第10−356140号)。
【0004】
ポリペプチドは一般に安定性が低いため変性しやすく、血液内のタンパク質加水分解酵素により分解されて腎臓や肝臓から容易に通過するので、薬効成分としてポリペプチドを含むタンパク質医薬品は、好ましい血中濃度及び力価を維持するためにタンパク質薬物を患者に頻繁に投与する必要がある。しかし、このようなタンパク質医薬品の投与、特に注射剤形態は、患者に苦痛をもたらす。
【0005】
このような問題を解決するために、タンパク質薬物の血清安定性を増加させて血中薬物濃度を高い濃度に長期間持続するための多くの努力がなされ、こうして薬物の薬効を最大化しようとした。持続性製剤の使用のために、タンパク質薬物は、患者に免疫反応を誘発することなく高い安定性を有し、薬物自体の力価が十分に高く維持されなければならない。
【0006】
タンパク質を安定化して腎臓による酵素的分解及びクリアランスを防止するために、従来はポリエチレングリコール(polyethylene glycol,PEG)などの溶解度の高いポリマーにタンパク質薬物の表面を化学的に変形させる方法が利用されていた。標的タンパク質の特定部位又は各種部位に結合することにより、PEGは特に副作用を起こすことなくタンパク質を安定化し、加水分解を防止する(Sadaら, J.Fermentation Bioengineering, 71: 137-139, 1991)。しかし、タンパク質安定性を増加させる能力はあるものの、PEG化には生理活性タンパク質の力価を大きく減少させるという問題がある。また、PEGの分子量の増加による収率の減少はタンパク質の反応性を減少させる原因となる。
【0007】
生理活性タンパク質の生体内の安定性を向上させる代案的な一方法においては、遺伝子組換えにより血清安定性の高いタンパク質をコードする遺伝子に生理活性タンパク質遺伝子を連結し、前記組換え遺伝子に形質転換された細胞を培養して融合タンパク質を産生する。例えば、融合タンパク質は、タンパク質の安定性を増加させる上で最も効果的であることが知られているタンパク質であるアルブミン又はそのフラグメントを、遺伝子組換えにより標的生理活性タンパク質に結合することにより製作することができる(国際特許公開WO93/15199号及びWO93/15200号,欧州特許公開EP413,622号)。
【0008】
他の方法は、免疫グロブリンを利用するものである。米国特許第5,045,312号に記載されているように、ヒト成長ホルモンに架橋剤を利用してウシ血清アルブミン(bovine serum albumin:BSA)又はマウス免疫グロブリンを結合する。前記結合体は変形していない成長ホルモンに比べて増加した活性を有する。架橋剤としてはカルボジイミド(carbodiimide)又はグルタルアルデヒド(glutaraldehyde)が使用される。しかし、タンパク質に対する非特異的な結合は、そのような低分子量の架橋剤が均質な結合体の形成を不可能にすると共に生体内で毒性がある。また、前記特許は成長ホルモンの化学的カップリングによりその活性を増加させることができることを示すにすぎない。上記特許の方法は様々な種類のポリペプチド薬物に対しては活性増加効果を保証できないので、上記特許は持続時間や血中半減期などのタンパク質の安定性との関連性については認識さえしていない。
【0009】
近年、生体内で持続時間と安定性の両方を向上させた持続性タンパク質薬物製剤が提案されている。前記持続型薬物製剤の使用のために、タンパク質結合体は生理活性ポリペプチド、非ペプチドポリマー及び免疫グロブリンFcフラグメントを共有結合することにより製造される(韓国特許登録第10−0567902号及び第10−0725315号)。
【0010】
この方法において、G−CSFは、生理活性ポリペプチドとして使用され、持続型G−CSF結合体を提供することができる。持続型G−CSF結合体を薬物製品として適用するために、保存及び運送過程において光、熱又は添加剤による変性、凝集、吸着、加水分解などの物理化学的な変化を抑制しつつ生体内の薬効を維持することが必須である。持続型G−CSF結合体は体積が大きく、分子量が増加しているので、G−CSFポリペプチド自体より安定化するのは困難である。
【0011】
一般に、タンパク質はその半減期が非常に短く、不適当な温度、水−空気の界面、高圧、物理的/機械的ストレス、有機溶媒、微生物による汚染などに露出すると、単量体の凝集、凝集による沈殿、容器表面への吸着などの変性現象が現れる。変性すると、タンパク質は本来の物理化学的特性及び生理活性を失う。一度変性すると、変性が非可逆的であるので、タンパク質はそれらの物理化学的特性及び本来の特性をほとんど回復することができない。特に、G−CSFのように注射1本当たり数百マイクログラムの微量で投与されるタンパク質の場合は、安定性を失い、容器の表面に吸着すると比較的大きな損失をもたらす。また、吸着したタンパク質は変性過程で凝集しやすく、変性したタンパク質の凝集体は、身体に投与されると、生体内で合成されたタンパク質とは異なり、抗原のように作用する。従って、タンパク質は安定した状態で投与しなければならない。溶液中のタンパク質の変性を防止する様々な方法が研究されている(John Geigert, J.Parenteral Sci. Tech., 43(5): 220-224, 1989; David Wong, Pharm. Tech., 34-48, 1997; Wei Wang., Int. J. Pharm., 185: 129-188, 1999; Willem Norde, Adv. Colloid Interface Sci., 25: 267-340, 1986; Michelleら, Int. J. Pharm. 120: 179-188, 1995)。
【0012】
一部のタンパク質薬物は凍結乾燥方法で安定性問題を解決している。しかし、凍結乾燥製品は使用する際に再び注射用水に溶解しなければならないという不便がある。また、凍結乾燥過程が生産工程に含まれ、大容量の凍結乾燥器を使用しなければならないなど、大規模な投資を必要とする。噴霧乾燥器を使用してタンパク質を粉末化する方法も提案されている。しかし、この方法は、収率が低いので経済的に好ましくない。また、噴霧乾燥段階でタンパク質が高温に露出するので、タンパク質の安定性に悪影響を及ぼす。
【0013】
このような限界を解決する代案として、溶液状態のタンパク質に安定化剤を添加し、タンパク質薬物の物理化学的変化を抑制しつつ長期間保存を行った後も生体内で薬効を維持する研究を行った。このような安定化剤には、炭水化物、アミノ酸、タンパク質、界面活性剤、ポリマー及び塩がある。このうち、ヒト血清アルブミンは様々なタンパク質薬物の安定化剤として幅広く使用されており、その性能が立証されている(Edward Tarelliら, Biologicals, 26: 331-346, 1998)。
【0014】
ヒト血清アルブミンは、典型的な精製工程において、マイコプラズマ、プリオン、バクテリア、ウイルスなどの生物学的汚染物を不活性化する過程、又は少なくとも1つの生物学的汚染物もしくは病原体をスクリーニングもしくは検査する過程を行う。しかし、生物学的汚染物が完全に除去又は不活性化されるわけではないので、患者が生物学的汚染物に露出する危険性が常に存在する。例えば、提供者からのヒト血液は特定ウイルスを含むか否かの検査のためにスクリーニングされる。しかし、これらの過程が常に信頼できるわけではない。特に、非常に少数で存在する特定ウイルスを検出することはできない。
【0015】
近年、組換えアルブミン(韓国公開特許第10−2004−0111351号)及びアルブミンフリーのG−CSF(韓国特許登録第10−0560697号及び第10−0596610号)を含むヒト血清アルブミンの代案が提示されている。
【0016】
アルブミンを含有しない安定化剤を使用するとしても、異なるタンパク質はそれらの化学的相違点により、保存期間中に異なる比率及び異なる条件下で注入されるので、徐々に不活性化される。タンパク質の保存期間による安定化剤の効果はタンパク質に応じて異なる。すなわち、各種安定化剤が標的タンパク質の物理化学的特性に応じて異なる割合で使用される。
【0017】
さらに、異なる安定化剤を併用すると、それらの競争及び副作用により逆効果をもたらすことがある。タンパク質は保存中に本質が変化したり、濃度が変化するので、異なる安定化剤の組み合わせが異なる効果を引き起こすこともある。それぞれの安定化剤は特定の範囲の濃度で好適にその安定性を示すので、異なる安定化剤の種類及び濃度を組み合わせるのに多くの努力と注意を要する。
【0018】
特に、生体内の持続性及び安定性を向上させた持続型G−CSF結合体の場合、生理活性ペプチドG−CSFと免疫グロブリンFcフラグメントとからなるので、それらの分子量及び体積が一般的なG−CSF化合物と大きく異なる。また、免疫グロブリンFcフラグメントの安定性はpHに影響を大きく受けるので様々である。従って、G−CSFの通常の安定化剤をそのままでは使用することができない。よって、G−CSFの通常の安定化剤とは異なる、特別な組成を有する持続型G−CSF結合体が求められる。
【0019】
本発明は、ウイルス感染の恐れなく長期間薬効を維持できる、持続型G−CSF結合体の安定した液剤を開発するために、集中的かつ詳細な研究の結果、特定のpH範囲の緩衝溶液及び高濃度のマンニトールを含む安定化剤が持続型G−CSF結合体の安定性を増大させ、かつ持続型G−CSF結合体の経済的で安定した液剤を形成できることを見出した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
よって、本発明は、G−CSF、非ペプチドポリマー及び免疫グロブリンFcフラグメントが共有結合した持続型G−CSF結合体と、緩衝溶液及びマンニトールを含むアルブミンフリー安定化剤とを含む液剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
一実施形態によれば、本発明は、G−CSF、非ペプチドポリマー及び免疫グロブリンFcフラグメントが共有結合した持続型G−CSF結合体と、緩衝溶液及びマンニトールを含むアルブミンフリー安定化剤とを含む液剤を提供する。
【0022】
本発明で使用された「持続型G−CSF結合体」又は「持続型G−CSF結合体」という用語は、生理活性の顆粒球コロニー刺激因子、少なくとも1つの非ペプチドポリマー、及び少なくとも1つの免疫グロブリンFcフラグメントが共有結合した形態のタンパク質であって、野生型G−CSFに比べて作用持続期間が増加したものを意味する。
【0023】
本発明で使用された「持続型」という用語は、作用持続期間が野生型に比べて増加したものを意味する。「結合体」という用語は、顆粒球コロニー刺激因子、非ペプチドポリマー及び免疫グロブリンFcフラグメントが共有結合した構成を意味する。
【0024】
本発明で使用されるG−CSFは、ヒトG−CSF又はこれに密接に関連する類似体のアミノ酸配列を有する。本発明に有用なG−CSFは、天然に存在するタンパク質でもよく、組換えタンパク質でもよい。また、G−CSFは、本来の生物学的活性に大きく影響を及ぼさない範囲で変異したアミノ酸の置換、除去又は挿入による変異体でもよい。
【0025】
本発明に有用なヒトG−CSF又はその類似体は、脊椎動物から抽出されてもよく、化学的に合成されてもよい。あるいは、G−CSF又はその類似体は、遺伝子組換え手法を用いてG−CSF又はその類似体をコードする遺伝子に形質転換された原核又は真核生物から得てもよい。これに関連して、大腸菌(例えば、E.coli)、酵母(例えば、S. cerevisiae)又は哺乳動物細胞(例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞、サル細胞)を宿主として使用してもよい。使用した宿主に応じて、組換えG−CSF又はその類似体は、哺乳動物又は真核生物の炭水化物とグリコシル化されてもよく、グリコシル化されなくてもよい。発現される場合、組換えG−CSF又はその類似体は初期のメチオニン残基を含んでもよい(位置−1)。組換えヒトG−CSF(HuG−CSF)は、CHO細胞を宿主として利用して製造されることが好ましい。本発明においては、大腸菌を宿主細胞として利用して製造した組換えヒトG−CSF(HuG−CSF)が好ましい。本発明の好適な実施形態においては、野生型の17番目のシステイン残基がセリンに置換された組換えヒトG−CSFの変異体(17Ser−G−CSF)を韓国特許登録第10−356140号に記載された方法により発現させることができた。
【0026】
本発明で使用される免疫グロブリンFcフラグメントは、ヒト免疫グロブリンFcフラグメント又はこれに密接に関連する類似体のアミノ酸配列を有する。Fcフラグメントは、ウシ、ヤギ、ブタ、マウス、ウサギ、ハムスター、ラット及びモルモットが含まれる動物から分離した天然形態でもよい。また、免疫グロブリンFcフラグメントは、IgG、IgA、IgD、IgE及びIgM由来のもの又はそれらの組み合わせもしくはハイブリッド(hybrid)によるFcフラグメントでもよい。ヒト血液に最も豊富なタンパク質であるIgG又はIgM由来のものが好ましく、リガンド結合タンパク質の半減期を向上させることが知られているIgG由来のものが最も好ましい。ここで、免疫グロブリンFcは、ヒト又は動物の有機体から全免疫グロブリンを分離することにより天然の免疫グロブリンから得てタンパク質分解酵素で処理して製造したものでもよく、形質転換された動物細胞又は微生物から得られた組換え体又はその誘導体でもよい。大腸菌(E.coli)形質転換体から製造した組換えヒト免疫グロブリンFcであることが好ましい。
【0027】
一方、IgGもIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4サブクラスに分けられ、本発明にはこれらの組み合わせ又はハイブリッドも含まれる。IgG2及びIgG4サブクラスが好ましく、補体依存性細胞傷害(CDC,Complementdependent cytotoxicity)などのエフェクター機能(effector function)のほとんどないIgG4のFcフラグメントが最も好ましい。すなわち、最も好ましい本発明の薬物キャリア用免疫グロブリンFcフラグメントは、ヒトIgG4由来のグリコシル化されていないFcフラグメントである。ヒト生体で抗原として作用し、抗原に対して新たな抗体を生成するなどの好ましくない免疫反応を起こし得る非ヒト由来のFcフラグメントに比べて、ヒト由来のFcフラグメントが好ましい。
【0028】
本発明に有用な持続型G−CSF結合体は、G−CSFと免疫グロブリンFcフラグメントを共に結合して製造する。これに関連して、G−CSFと免疫グロブリンFcフラグメントは、非ペプチドポリマーにより架橋してもよく、組換え技術を用いて融合タンパク質を形成してもよい。
【0029】
架橋の際に使用される非ペプチドポリマーは、生分解性ポリマー、脂質ポリマー、キチン類、ヒアルロン酸及びそれらの組み合わせからなる群から選択されてもよい。生分解性ポリマーは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、PLA(ポリ乳酸)、PLGA(ポリ乳酸グリコール酸)及びそれらの組み合わせからなる群から選択されてもよい。ポリエチレングリコールが好ましく、ポリ(エチレングリコール)(PEG)が最も好ましい。また、当該分野で既に知られているこれらの誘導体や、当該分野の技術水準で容易に製造できる誘導体なども本発明の範囲に含まれる。
【0030】
本発明に有用な持続型G−CSF結合体は、韓国特許登録第10−0725315号に記載されているように、遺伝工学的方法を用いて製造することができる。
【0031】
本発明による液剤は、治療学的有効量の持続型G−CSF結合体を含む。一般に、G−CSFの治療学的有効量は、単回使用バイアル(single-use vial)1本当たり約300mcgの量である。本発明で使用される持続型G−CSF結合体の濃度は7mg/ml〜22mg/ml、好ましくは11mg/ml〜22mg/mlである。
【0032】
本発明で使用された「安定化剤」という用語は、持続型G−CSF結合体が安定して保存されるようにする物質を意味する。「安定化」という用語は、所定時間の間、保存条件下で、活性成分の損失が特定量未満、一般に10%未満であることを意味する。10℃で2年間、25℃で6カ月間又は40℃で1〜2週間の保存後にG−CSFが90%以上、好ましくは95%以上の初期活性を維持する場合、このような製剤は安定しているものと解される。G−CSFなどのタンパク質において、保存安定性は正確な投与量を保証するためだけでなく、G−CSF型の抗原性物質の潜在的な生成を抑制するためにも重要である。保存期間の間、G−CSF活性が約10%の損失を示すが、これはG−CSFが組成物内で凝集体やフラグメントになって抗原性物質を形成しない限り、投与の際に許容されるものと解される。
【0033】
本発明における好ましい前記安定化剤は、持続型G−CSF結合体に安定性を付与するために考案された緩衝溶液及びマンニトールを含む。
【0034】
また、本発明による安定化剤は、アルブミンを含有しないことが好ましい。タンパク質の安定化剤として利用されるヒト血清アルブミンは、人体の血液から製造されるので、ヒト由来の病原性ウイルスによる汚染可能性がある。ゼラチンやウシ血清アルブミンは、疾患を引き起こしたり、一部の患者にアレルギー反応を引き起こす可能性がある。本発明のアルブミンフリー安定化剤は、ヒト又は動物由来の血清アルブミンや精製されたゼラチンなどの異種タンパク質を含有しないので、ウイルス感染の恐れがない。
【0035】
前記安定化剤に含まれる緩衝溶液は、液剤のpHが急激に変化しないように溶液のpHを維持し、持続型G−CSF結合体を安定化する役割を果たす。本発明の緩衝溶液は、アルカリ塩(リン酸ナトリウムもしくはリン酸カリウム又はそれらの水素塩もしくは二水素塩)、クエン酸ナトリウム/クエン酸、酢酸ナトリウム/酢酸及びそれらの組み合わせが含まれる薬学的に許容可能なpH緩衝剤を含んでもよい。本発明に好適な緩衝溶液としては、クエン酸緩衝溶液、リン酸緩衝溶液、酒石酸緩衝溶液、炭酸緩衝溶液、コハク酸緩衝溶液、酢酸緩衝溶液があり、そのうちリン酸緩衝溶液(phosphate buffer)及びクエン酸緩衝溶液(citrate buffer)が好ましく、リン酸緩衝溶液がより好ましい。リン酸緩衝溶液において、リン酸塩は、好ましくは5〜100mM、より好ましくは10〜50mMの濃度である。緩衝溶液は、好ましくは4.0〜8.0、より好ましくは5.0〜7.0、最も好ましくは5.0〜6.0のpHを有する。
【0036】
一実施形態によれば、使用された緩衝溶液のpH範囲による持続型G−CSF結合体の安定性を評価した。pH5.5において、pH5.5のクエン酸がpH6.0より持続型G−CSF結合体の安定性が増大したことを確認した(表2及び表4参照)。これらの結果から、本発明の持続型G−CSF結合体は緩衝液のpHにより安定化する程度が異なり、特定のpH範囲でより大きな安定性を示すことが分かる。特に、中性のpHで安定性を示すFcが結合した持続型G−CSF結合体の場合、低いpHの緩衝溶液を含む液剤を使用すると、むしろタンパク質の保存安定性が低下することを確認した。市販されているニューラスタ(Neulasta)は、PEGが融合されたG−CSF薬物であり、pH4の酢酸緩衝溶液を含む安定化剤を使用している。しかし、本発明の持続型G−CSF結合体は野生型G−CSFより分子量及び体積が増加しているだけでなく、中性のpH範囲で免疫グロブリンFcが安定化するので、G−CSFの従来の安定化剤の組成及びpHをそのまま適用することは好ましくない。
【0037】
糖アルコールの一種であるマンニトールは、持続型G−CSF結合体の安定性を増大させる役割を果たすので、本発明の安定化剤として使用された。マンニトールは、好ましくは液剤の総体積比で1〜20%(w/v)、より好ましくは3〜10%(w/v)、最も好ましくは5〜7%(w/v)の濃度で使用される。
【0038】
本発明の一実施形態によれば、クエン酸緩衝溶液の存在下でマンニトールを安定化剤として使用すると、持続型G−CSF結合体の保存安定性がソルビトール(sorbitol)を使用する場合より増加するという結果が確認された(表6参照)。これらの結果は、他の安定化物質と比較して持続型G−CSF結合体の安定化剤としてのマンニトールの特異性を明らかにし、安定化の対象に応じて異なる安定化剤を適用しなければならないことを示す。
【0039】
前記安定化剤には、マンニトール及び緩衝溶液の組み合わせが持続型G−CSF結合体の安定化効果を低減しなければ、他の種類の糖アルコールをさらに含んでもよい。
【0040】
本発明の他の実施形態において、本発明に有用な安定化剤は、緩衝溶液及びマンニトールに加えて、等張化剤、多価アルコール、糖類、非イオン性界面活性剤及び中性アミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つの成分をさらに含んでもよい。
【0041】
等張化剤は、持続型G−CSF結合体を溶液状で体内に投与すると浸透圧を適切に維持するだけでなく、持続型G−CSF結合体を溶液状でより安定化する役割を果たす。前記等張化剤としては水溶性無機塩が挙げられる。それらは、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、塩化カルシウム及びそれらの組み合わせである。塩化ナトリウムが最も好ましい。
【0042】
等張化剤の濃度は5〜200mMであることが好ましい。この範囲内であれば、等張化剤の濃度は液剤が等張液になるように剤形に含まれる成分の種類及び量に応じて調節することができる。
【0043】
持続型G−CSF結合体の保存安定性を増大させるためにさらに含まれる糖類の好ましい例としては、マンノース、グルコース、フルクトース、キシロースなどの単糖類と、ラクトース、マルトース、スクロース、ラフィノース、デキストランなどの多糖類がある。液剤において、前記糖類は、好ましくは1〜20%(w/v)、より好ましくは5〜20%(w/v)の量で使用される。本発明に有用な多価アルコールの例としては、プロピレングリコール、低分子量のポリエチレングリコール、グリセロール、及び低分子量のポリプロピレングリコールが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。また、前記液剤において、これらの濃度は、好ましくは1〜15%(w/v)、より好ましくは5〜15%(w/v)である。
【0044】
非イオン性界面活性剤は、タンパク質溶液の表面張力を低減し、疎水性表面へのタンパク質の吸着や凝集を防止する。本発明に好適な非イオン性界面活性剤としては、ポリソルベート系非イオン性界面活性剤及びポロキサマー系非イオン性界面活性剤が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。ポリソルベート系非イオン性界面活性剤がより好ましい。そのうち、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60及びポリソルベート80が好ましく、ポリソルベート80がより好ましい。
【0045】
前記非イオン性界面活性剤を液剤に高濃度で使用することは好ましくない。非イオン性界面活性剤が高濃度で存在すると、UV分光法や等焦点法などに干渉を誘発し、タンパク質の濃度や安定性の正確な評価が困難になるからである。従って、本発明の液剤には、前記非イオン性界面活性剤が好ましくは0.1%(w/v)又はそれ未満、より好ましくは0.001〜0.05%(w/v)の濃度で含まれる。
【0046】
持続型G−CSFの保存安定性について、ポリソルベート20をポリソルベート80と比較した。持続型G−CSF結合体は、ポリソルベート20と比較すると、ポリソルベート80の存在下で安定性が増加することを確認することができる(表8参照)。PEGが結合したG−CSFの薬物製剤であるニューラスタは、ポリソルベート20を使用する。しかし、本発明の液剤は、ポリソルベート20よりもポリソルベート80を使用したときに持続型G−CSF結合体の保存安定性がより増大した。これらの結果から、安定化対象薬物に応じて異なる界面活性剤を適用しなければならないことが分かる。
【0047】
本発明の一実施形態によれば、持続型G−CSF結合体は、非イオン性界面活性剤として0.01%(w/v)ポリソルベート80を含む液剤より、0.005%(w/v)ポリソルベート80を含む液剤において、40℃、4週間の保存期間の間、より安定して維持されることを確認した(表10参照)。
【0048】
前記液剤の安定化剤として使用できるアミノ酸は、溶液状態でG−CSFの周辺により多くの水分子を引き寄せ、G−CSFの最外部の親水性アミノ酸分子をより安定化する(Wang, Int. J. Pharm. 185: 129-188, 1999)。これに関連して、電荷を有するアミノ酸は、G−CSFとの静電気的結合を誘導することができ、G−CSFの凝集を促進することができる。従って、一般にグリシン、アラニン、ロイシン、イソロイシンなどの中性アミノ酸を安定化剤として添加して使用する。液剤において、中性アミノ酸は、好ましくは0.1〜10%(w/v)の濃度である。
【0049】
本発明の一実施形態によれば、液剤の総体積比で3〜12%(w/v)の濃度のマンニトールを含む安定化剤は、大きな分子量のFcを有する持続型G−CSFを、中性アミノ酸を添加していない4週間の保存においても安定させた(表12参照)。従って、持続型G−CSF結合体に高い安定性を付与する液剤は、中性アミノ酸を添加しなくても、高濃度のマンニトールを利用することにより製作することができる。しかし、20%(w/v)以上のマンニトール濃度は等張範囲を超える。従って、液剤において、マンニトールは1〜20%(w/v)、好ましくは3〜10%(w/v)、より好ましくは5〜7%(w/v)の濃度で使用される。
【0050】
緩衝溶液、等張化剤、糖アルコール、中性アミノ酸及び非イオン性界面活性剤が含まれる前述した成分以外にも、本発明の液剤には、本発明の効果を失わない範囲内で当業界で公知の他の成分が選択的にさらに含まれてもよい。
【0051】
本発明の好ましい一実施形態において、液剤は、アルブミンを含有せず、緩衝溶液、マンニトール、等張化剤及び非イオン性界面活性剤を含む。
【0052】
より具体的には、本発明は、持続型G−CSF結合体及び安定化剤を含む液剤を提供するが、前記安定化剤はリン酸又はクエン酸緩衝溶液、マンニトール、等張化剤及びポリソルベート80を含み、前記等張化剤は塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0053】
前記液剤は、5〜100mMの濃度でpH5〜7のリン酸又はクエン酸緩衝溶液、1〜20%(w/v)の濃度のマンニトール、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム及びそれらの組み合わせからなる群から選択される5〜200mMの濃度の等張化剤、並びに0.001〜0.05%(w/v)の濃度のポリソルベート80を含むことが好ましい。前記液剤は、5〜100mMの濃度でpH5〜6のクエン酸緩衝溶液、1〜10%(w/v)の濃度のマンニトール、100〜200mMの濃度の塩化ナトリウム、及び0.001〜0.05%(w/v)の濃度のポリソルベート80を含むことがより好ましい。前記液剤は、20mMの濃度のクエン酸緩衝溶液(pH5.2〜5.8)、3〜7%(w/v)の濃度のマンニトール、100〜200mMの濃度のナトリウム、及び0.001〜0.05%(w/v)の濃度のポリソルベート80を含み、中性アミノ酸を含まないことが最も好ましい。
【0054】
本発明の一実施形態によれば、クエン酸ナトリウム(Na-Citrate)緩衝溶液(pH5.5)、5%(w/v)のマンニトール、150mMの塩化ナトリウム、及び0.005%(w/v)のポリソルベート80を含む持続型G−CSF結合体の液剤におけるG−CSFの保存安定性を、公知のG−CSF製剤であるアムジェン社のニューラスタ(Neulasta)と比較した。G−CSFは、pH4のクエン酸ナトリウム緩衝溶液を含む商業的に利用可能な製剤より、本発明の液剤のほうが安定していることを確認した(表14参照)。
【0055】
本発明の他の実施形態によれば、本発明によるpH5.5のクエン酸緩衝溶液、マンニトール、塩化ナトリウム及びポリソルベート80を含む持続型G−CSF結合体の液剤の長期保存安定性を分析し、その結果、持続型G−CSF結合体が6カ月間安定して維持され、加速条件下の6カ月後ですら、少なくとも96.6%の活性を有することを確認した(表16参照)。
【0056】
これらの結果から、pH5〜6の緩衝溶液及び1〜20%(w/v)の濃度のマンニトールを含む液剤は、持続型G−CSF結合体を前記製剤内で12カ月以上安定して保存できることが分かる。
【発明の効果】
【0057】
前述したように、本発明による緩衝溶液及びマンニトールを含む安定化剤は、持続型G−CSF結合体に特異的である。ヒト血清アルブミン及び他の人体に潜在的に有害な因子を含まないので、本発明による持続型G−CSF結合体の液剤はウイルス感染の恐れがなく、G−CSFと免疫グロブリンFcフラグメントの結合からなり、G−CSFの野生型に比べて分子量が大きく、作用持続期間が増加した持続型G−CSF結合体の優れた保存安定性を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】緩衝溶液のpH値を変えた持続型G−CSF結合体の液剤と、PEG融合G−CSFの液剤であるニューラスタ(Neulasta)を40℃で2週間保存し、1週間間隔でG−CSFの安定性をSE−HPLCにより分析したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下、下記実施例により本発明をより詳細に説明するが、下記実施例は本発明を例示するものにすぎず、本発明の範囲がこれらに限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
持続型G−CSF結合体の製造
<1−1>免疫グロブリンを利用した免疫グロブリンFcフラグメントの製造
本実施例に有用な免疫グロブリンFcフラグメントは、ヒト非グリコシル化IgG4Fcフラグメントであり、韓国特許登録第725314号に記載された方法により大腸菌形質転換体から発現されたものである。
【0061】
<1−2>組換えヒト顆粒球コロニー刺激因子の製造
本実施例に使用された組換えヒトG−CSFは、野生型G−CSFの17番目のシステイン残基がセリンに置換された形態(17Ser−G−CSF)であり、韓国特許登録第356140号に記載された方法により大腸菌形質転換体から発現されたものである。
【0062】
<1−3>免疫グロブリンFcフラグメントを利用した持続型G−CSF結合体の製造
本実施例における持続型G−CSF結合体は、ヒト顆粒球コロニー刺激因子と免疫グロブリンFcフラグメントを非ペプチドポリマーで共有結合して製造した。また、前記結合体は、韓国登録特許第725314号及び第775343号に記載された方法により得られた。
【0063】
(実施例2)
緩衝液のpHによる持続型G−CSF結合体の安定性評価
実施例1で製造された前記G−CSF結合体の安定化のための液剤を製造するために、各種pHの緩衝溶液が持続型G−CSF結合体の安定性に及ぼす影響を試験した。
【0064】
分析のために、表1の持続型G−CSF結合体の液剤は、安定化剤としてマンニトール、界面活性剤としてポリソルベート80を使用し、緩衝溶液としてpH5.0、pH5.5又はpH6.0のクエン酸ナトリウム溶液を含む安定化剤組成で製造した。これらを40℃で2週間保存し、その後サイズ排除クロマトグラフィーで分析した。結果を下記表2に示す。SE−HPLC(%)は初期値に対する持続型G−CSF結合体の残存率を示す。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
表2に示すように、クエン酸ナトリウム緩衝溶液のpHが5.0の場合は1週間後にタンパク質の沈殿が発生した反面、pH5.5やpH6.0のクエン酸ナトリウム緩衝溶液を使用した場合は沈殿が検出されなかった。pH6.0よりpH5.5のクエン酸ナトリウム緩衝溶液下で持続型G−CSF結合体の安定性がより増大したことも確認された。
【0068】
緩衝溶液のpH値を細分化して下記実験を行った。下記表3の安定化剤組成で持続型G−CSF結合体の液剤を製造して40℃で2週間保存し、その後逆相クロマトグラフィーとサイズ排除クロマトグラフィー(Size exclusion chromatography,SE−HPLC)で分析した。結果を下記表4に示す。表4のSE−HPLC(%)は初期値に対する持続型G−CSF結合体の残存率を示す。
【0069】
【表3】

【0070】
【表4】

【0071】
表4に示すように、pH5.2〜5.5のクエン酸ナトリウム緩衝溶液下で2週間の保存後に、持続型G−CSF結合体は初期活性が約90%又はそれ以上維持されることを確認した。
【0072】
これらの結果から、本発明による持続型G−CSF結合体は使用される緩衝液のpH値により安定化する程度が異なり、特定のpH範囲で大きな安定性を示すことが分かる。特に、中性のpHで安定したFcがG−CSFと結合した持続型G−CSF結合体の保存安定性は、低いpHの緩衝溶液を含む液剤において減少することを確認した。
【0073】
(実施例3)
糖アルコールによる持続型G−CSF結合体の安定性評価
ソルビトールやマンニトールなどの糖アルコールが持続型G−CSF結合体の安定性に及ぼす影響を試験するために下記実験を行った。
【0074】
糖アルコールとしてマンニトール又はソルビトールを、等張化剤として塩化ナトリウムを、界面活性剤としてポリソルベートを含む下記表5の安定化剤組成で持続型G−CSF結合体の液剤を製造して40℃で4週間保存し、その後サイズ排除クロマトグラフィーで分析した。結果を下記表6に示す。SE−HPLC(%)(面積%/初期面積%)は初期値に対する持続型G−CSF結合体の残存率を示す。
【0075】
【表5】

【0076】
【表6】

【0077】
表6に示すように、安定化剤としてソルビトールに代えてマンニトールを使用すると、持続型G−CSF結合体がより安定して維持されることを確認した。
【0078】
(実施例4)
非イオン性界面活性剤の種類による持続型G−CSF結合体の安定性評価
クエン酸ナトリウム緩衝溶液の存在下で、各種非イオン性界面活性剤が持続型G−CSF結合体の安定性に及ぼす影響を試験するために下記実験を行った。
【0079】
分析のために、2種類の非イオン性界面活性剤であるポリソルベート80及びポリソルベート20を比較したが、後者は市販されているPEG融合G−CSFの液剤であるニューラスタ(Neulasta)に含まれるものである。実施例2及び3において持続型G−CSF結合体に安定性を付与することが確認されたpH5.5のクエン酸ナトリウム緩衝溶液及びマンニトールを含む他の製剤を適宜組み合わせて使用した。ポリソルベートの種類を変えて下記表7の安定化剤組成で持続型G−CSF結合体の液剤を製造して40℃で4週間保存し、その後サイズ排除クロマトグラフィーで分析した。結果を下記表8に示す。SE−HPLC(%)は初期値に対する持続型G−CSF結合体の残存率を示す。
【0080】
【表7】

【0081】
【表8】

【0082】
表8に示すように、同一条件では、ポリソルベート80がポリソルベート20より持続型G−CSF結合体の保存安定性をさらに増加させることを確認した。40℃で2週間の保存期間までは、両者の持続型G−CSF結合体の保存安定性に有意差はなかった。しかし、4週間後には、非イオン性界面活性剤は、その構造が非常に類似するにもかかわらず、保存安定性に有意差を示した。
【0083】
(実施例5)
非イオン性界面活性剤の濃度による持続型G−CSF結合体の安定性評価
実施例4において、ポリソルベート80がポリソルベート20より持続型G−CSFを安定化する上で優れることが確認された。本実施例においては、ポリソルベート80の濃度が持続型G−CSF結合体の安定性に及ぼす影響を試験した。このために、下記表9の安定化剤組成で持続型G−CSF結合体の液剤を製造して40℃で4週間保存し、その後サイズ排除クロマトグラフィーで分析した。結果を下記表10に示す。SE−HPLC(%)は初期値に対する持続型G−CSF結合体の残存率を示す。
【0084】
【表9】

【0085】
【表10】

【0086】
表10に示すように、40℃で4週間保存した場合、0.01%ポリソルベート80を含む液剤より0.005%ポリソルベート80を含む液剤において、持続型G−CSF結合体がより安定することが確認された。
【0087】
(実施例6)
アミノ酸による持続型G−CSF結合体の安定性評価
安定化剤としてアミノ酸を使用する場合に、持続型G−CSF結合体の保存安定性にいかなる影響を及ぼすか試験した。クエン酸ナトリウム緩衝溶液(pH6.0)、マンニトール及び中性アミノ酸グリシンを含む安定化剤を用いて持続型G−CSF結合体の保存安定性を評価する実験を行った。
【0088】
下記表11の安定化剤組成で持続型G−CSF結合体の液剤を製造して40℃で4週間保存し、その後サイズ排除クロマトグラフィーで分析した。結果を下記表12に示す。SE−HPLC(%)(面積%/初期面積%)は初期値に対する持続型G−CSF結合体の残存率を示す。
【0089】
【表11】

【0090】
【表12】

【0091】
表12に示すように、中性アミノ酸であるグリシンを添加していない場合も、高濃度(5%(w/v))のマンニトールを含む液剤は、中性アミノ酸を添加した場合と同程度に持続型G−CSF結合体に保存安定性を付与することが分かる。
【0092】
(実施例7)
持続型G−CSF結合体の液剤間の保存安定性の比較
保存安定性について、実施例2〜6で安定化能力を有することが証明された、クエン酸ナトリウム緩衝溶液(pH5.5)、塩化ナトリウム、マンニトール及びポリソルベート80を含む安定化剤組成からなる液剤を、市販されているアムジェン社のG−CSF液剤であるニューラスタと比較した。本発明の液剤とニューラスタの組成を下記表13に示す。持続型G−CSF結合体の液剤を40℃で2週間保存し、1週間毎に逆相クロマトグラフィーとサイズ排除クロマトグラフィーで分析した。結果を下記表14に示す。RP−HPLC(%)とSE−HPLC(%)は初期値に対する持続型G−CSF結合体の残存率を示す。
【0093】
【表13】

【0094】
【表14】

【0095】
表14に示すように、長期保存後の本発明による持続型G−CSF結合体の液剤は、ニューラスタと同等又はより優れた保存安定性を示すことを確認した。これらの結果から、本発明の液剤は、持続型G−CSF結合体に特異的に優れた保存安定性を提供し得ることが分かる。
【0096】
(実施例8)
持続型G−CSF結合体の液剤の長期保存及び加速安定性試験
実施例2〜6において最も保存安定性があると証明された、クエン酸ナトリウム緩衝溶液(pH5.5)、塩化ナトリウム、マンニトール及びポリソルベート80を含む安定化剤組成からなる持続型G−CSF結合体の液剤の長期保存及びその加速安定性を分析するために、前記液剤を4℃で12カ月間、続いて25℃で6カ月間保存し、試料の保存安定性を分析した。結果を下記表15及び表16に示す。表15及び16のRP−HPLC(%)、SE−HPLC(%)、タンパク質含有量(%)及び生物学的不活性試験(%)は初期値に対する持続型G−CSF結合体の残存率を示す。
【0097】
【表15】

【0098】
【表16】

【0099】
表15及び表16に示すように、持続型G−CSF結合体は、本発明による安定化剤組成を含む液剤において6カ月間高い安定性を維持し、加速条件で6カ月間保存しても初期活性の92.5%を有することが確認された。従って、本発明による持続型G−CSF結合体の液剤の効果的な保存安定性が確認された。
【0100】
本発明の好ましい実施例が例示的な目的で記載されたとしても、当業者であれば添付の請求の範囲に記載された本発明の範囲及び精神から逸脱することなく、様々な変更、追加又は置換が可能であることを理解するであろう。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明により持続型G−CSF結合体に特異的に保存安定性を提供する液剤は、ヒト血清アルブミンフリーであると共に、ウイルス感染の恐れがない。前記製剤は簡単な剤形であるので、他の安定化剤や凍結乾燥製剤に比べて経済的な提供が可能であるという利点がある。また、前記液剤は、野生型に比べて作用持続期間が延長された持続型G−CSF結合体を含み、かつタンパク質活性を長期間維持できるので、効率的な薬物システムとして利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、非ペプチドポリマー及び免疫グロブリンFcフラグメントが共有結合した治療学的有効量の持続型顆粒球コロニー刺激因子結合体と、緩衝溶液及びマンニトールを含むアルブミンフリー安定化剤とを含む持続型顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)結合体の液剤。
【請求項2】
前記マンニトールが、液剤の総体積比で1〜20%(w/v)の濃度を有するものである請求項1に記載の液剤。
【請求項3】
前記緩衝溶液が、クエン酸、リン酸、酒石酸、炭酸、コハク酸、乳酸及び酢酸緩衝溶液からなる群から選択されるものである請求項1に記載の液剤。
【請求項4】
前記緩衝溶液が、5〜100mMの濃度を有するものである請求項1に記載の液剤。
【請求項5】
前記緩衝溶液が、4〜8のpHを有するものである請求項1に記載の液剤。
【請求項6】
前記アルブミンフリー安定化剤が、等張化剤、多価アルコール、糖類、非イオン性界面活性剤、中性アミノ酸及びそれらの組み合わせからなる群から選択された成分をさらに含むものである請求項1に記載の液剤。
【請求項7】
前記等張化剤が、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム及びそれらの組み合わせからなる群から選択された塩である請求項6に記載の液剤。
【請求項8】
前記等張化剤が、5〜200mMの濃度を有するものである請求項6に記載の液剤。
【請求項9】
前記非イオン性界面活性剤が、ポリソルベート系又はポロキサマー系非イオン性界面活性剤である請求項6に記載の液剤。
【請求項10】
前記ポリソルベート系非イオン性界面活性剤が、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60及びポリソルベート80からなる群から選択されるものである請求項9に記載の液剤。
【請求項11】
前記非イオン性界面活性剤が、液剤の総体積比で0.001〜0.05%(w/v)の濃度を有するものである請求項6に記載の液剤。
【請求項12】
前記糖類が、マンノース、グルコース、フコース(fucose)、キシロース(xylose)、ラクトース、マルトース、スクロース、ラフィノース、デキストラン及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるものである請求項6に記載の液剤。
【請求項13】
前記糖類が、液剤の総体積比で1〜20%(w/v)の濃度を有するものである請求項6に記載の液剤。
【請求項14】
前記多価アルコールが、プロピレングリコール、低分子量ポリエチレングリコール、グリセロール、低分子量ポリプロピレン及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるものである請求項6に記載の液剤。
【請求項15】
前記多価アルコールが、液剤において1〜15%(w/v)の濃度を有するものである請求項6に記載の液剤。
【請求項16】
前記中性アミノ酸が、グリシン、アラニン、ロイシン、イソロイシン及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるものである請求項6に記載の液剤。
【請求項17】
前記中性アミノ酸が、液剤において0.1〜10%(w/v)の濃度を有するものである請求項6に記載の液剤。
【請求項18】
前記アルブミンフリー安定化剤が、pH5〜8で5〜100の濃度のクエン酸緩衝溶液、1〜20%(w/v)の濃度のマンニトール、5〜200mMの濃度の塩化ナトリウム、及び0.001〜0.05%(w/v)の濃度のポリソルベート80を含むものである請求項1に記載の液剤。
【請求項19】
前記G−CSFが、野生型G−CSFから1つもしくは複数のアミノ酸が置換、除去もしくは挿入されることにより変異した変異体G−CSFタンパク質、又は野生型G−CSFと同程度の活性を示すペプチド類似体である請求項1に記載の液剤。
【請求項20】
前記G−CSF誘導体が、野生型G−CSFの17番目の位置でシステイン残基がセリンに置換された形態(17Ser−G−CSF)である請求項19に記載の液剤。
【請求項21】
前記持続型G−CSF結合体が、7〜22μg/mlの濃度を有するものである請求項1に記載の液剤。
【請求項22】
前記免疫グロブリンFcフラグメントが、IgG、IgA、IgD、IgE、IgM及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるものである請求項1に記載の液剤。
【請求項23】
前記免疫グロブリンFcフラグメントが、IgG、IgA、IgD、IgE及びIgMからなる群からの異種由来のドメインからなるハイブリッド(hybrid)フラグメントである請求項22に記載の液剤。
【請求項24】
前記免疫グロブリンFcフラグメントが、同種由来のドメインからなる一本鎖免疫グロブリンで構成される二量体又は多量体形態である請求項22に記載の液剤。
【請求項25】
前記免疫グロブリンFcフラグメントがIgG4Fcフラグメントである請求項22に記載の液剤。
【請求項26】
前記免疫グロブリンFcフラグメントがヒト非グリコシル化IgG4Fcフラグメントである請求項25に記載の液剤。
【請求項27】
前記非ペプチドポリマーが、生分解性ポリマー、脂質ポリマー、キチン類、ヒアルロン酸及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるものである請求項1に記載の液剤。
【請求項28】
前記生分解性ポリマーが、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、PLA(ポリ乳酸,polylactic acid)及びPLGA(ポリ乳酸グリコール酸,polylactic-glycolic acid)からなる群から選択されるものである請求項27に記載の液剤。

【図1】
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【公表番号】特表2013−517324(P2013−517324A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−549939(P2012−549939)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【国際出願番号】PCT/KR2011/000369
【国際公開番号】WO2011/090305
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(512188720)ハンミ サイエンス カンパニー リミテッド (7)
【氏名又は名称原語表記】HANMI SCIENCE CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】550,Dongtangiheung−ro,Dongtan−myeon,Hwaseong−si,Gyeonggi−do 445−813,Republic of Korea
【Fターム(参考)】