振動型アクチュエータの制御装置
【課題】振動型アクチュエータの状態量の周期的な変動を抑制することが可能となる振動型アクチュエータの制御装置を提供する。
【解決手段】振動波により振動体と接触する移動体を相対移動させる振動型アクチュエータの制御装置であって、
振動型アクチュエータの状態量を計測する計測手段と、
振動型アクチュエータに印加する交流電圧の周波数、振幅、位相を操作するそれぞれの操作パラメータの内の、少なくとも一つの操作パラメータを含む第1の操作パラメータに、移動体の位置又は時間に応じた変動周期で変動を付与する変動付与手段と、
第1の操作パラメータに含まれる操作パラメータ以外の少なくとも一つの操作パラメータを含む第2の操作パラメータを操作し、第1の操作パラメータの周期的変動に起因する振動型アクチュエータの状態量の周期的な変動を抑制する制御手段と、を有する。
【解決手段】振動波により振動体と接触する移動体を相対移動させる振動型アクチュエータの制御装置であって、
振動型アクチュエータの状態量を計測する計測手段と、
振動型アクチュエータに印加する交流電圧の周波数、振幅、位相を操作するそれぞれの操作パラメータの内の、少なくとも一つの操作パラメータを含む第1の操作パラメータに、移動体の位置又は時間に応じた変動周期で変動を付与する変動付与手段と、
第1の操作パラメータに含まれる操作パラメータ以外の少なくとも一つの操作パラメータを含む第2の操作パラメータを操作し、第1の操作パラメータの周期的変動に起因する振動型アクチュエータの状態量の周期的な変動を抑制する制御手段と、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動型アクチュエータの制御装置に関し、特に電気−機械エネルギー変換素子に交流電圧を印加して振動波を励起する際、該交流電圧のパラメータに周期的な変化を重畳する交流電圧生成手段を備えた振動型アクチュエータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
振動型アクチュエータは、電気−機械エネルギー変換素子に交流電圧を印加して振動体に振動波を励起し、その振動波によって移動体を駆動する装置として知られている。
このような振動型アクチュエータにおいては、振動体と移動体が加圧接触しており、移動体を移動させるには振動体を一定の振幅以上の振幅で振動させる必要がある。
この一定の振幅は不感帯と呼ばれ低速で移動体を安定して駆動する妨げとなっている。
移動体の移動速度は、振動体の振動振幅にほぼ比例するため不感帯の振動振幅近傍では速度変化が大きい。
また、不感帯の幅は振動体と移動体の接触状態に大きく左右され、移動体の移動に伴って変化する。
【0003】
これらの課題を改善するために、不感帯の幅より大きな振動振幅で振動体を振動させつつ移動体を低速で移動させる技術がこれまでにいくつか提案されている。
例えば、特許文献1には複数の駆動電圧で進行性の振動波を振動体上に励起することで、振動体に加圧接触する移動体を移動させる振動型アクチュエータに於いて、複数の駆動信号の振幅と位相を異なる時間的位相をもって周期的に制御する例が示されている。
これらのパラメータを所望の軌跡で周期的に変動させることで振動体上に励起される進行性の振動波の振幅及び移動速度を周期的に変化させている。
この移動する振動波は振幅が増減しながら移動し、その振幅が極大になる位置は時間と共に移動していく。
また、振動波と移動体とはこの振幅が極大となる期間に接触するため、振幅極大時の振動波の移動速度に比例した速度で移動体が移動する。
このような手法で発生する進行性の振動波の移動速度は振幅が大きいほど遅い。そのため不感帯より大きな振幅で移動速度の遅い振動波を生成することが出来、移動体を低速で安定に駆動することが出来る。
また、移動体と振動体間の面圧に相対的な位置関係に応じたムラがあっても上記説明のように振幅の極大になる位置が時間と共に移動していくため面圧ムラが平均化され、速度が平均化される効果も有している。
【0004】
また、振動型アクチュエータの速度は振動体に励起される振動振幅に応じて変化するため、振動体に設けられた電気−機械エネルギー変換素子に印加する交流電圧の振幅や周波数で制御する。
温度による共振周波数変動や個体差の影響を少なくするために周波数で制御する方式が一般的である。
周波数の発生方式に着目すると、アナログ的な発振器や水晶発振器とプログラマブルな分周器によるディジタル的な手法、D/A変換器と組み合わせた半ディジタル的な手法等があり、ディジタル的な手法では周波数の高分解能化が課題であった。
特許文献2では、分周率を周期的に変化させ平均的な分周率によって擬似的に周波数の分解能を上げる手法が提案されている。
また、周期的変動が可聴域の振動を発生させる時には周期的変化の速度を速くして可聴域からずらす方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4208627号公報
【特許文献2】特許第3140615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では、面圧ムラ等による速度変動が平均化される一方で、複数の駆動信号の振幅と位相を周期的に変動させることで周期的な速度変動が発生する。
すなわち、面圧ムラ等に起因する速度変動は、駆動信号の振幅と位相の周期的変動とは無関係であるが、駆動信号を周期的に変動させて速度変動を平均化する過程で周期的な速度変動に変化し、上記周期的な速度変動を発生させてしまうこととなる。
また、特許文献2のように交流電圧の周波数をディジタル的な分周手段を用いて生成する手法においても、周期的に分周率を変化させることにより、上記特許文献1と同様に周期的な速度変動を発生させてしまうこととなる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、振動型アクチュエータの状態量の周期的な変動を抑制することが可能となる振動型アクチュエータの制御装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の振動型アクチュエータの制御装置は、
電気−機械エネルギー変換素子に交流電圧を印加することによって振動体に振動波を発生させ、前記振動波により前記振動体と接触する移動体を相対移動させる振動型アクチュエータの制御装置であって、
前記振動型アクチュエータの状態量を計測する計測手段と、
前記振動型アクチュエータに印加する交流電圧の周波数、振幅、位相を操作するそれぞれの操作パラメータの内の、少なくとも一つの操作パラメータを含む第1の操作パラメータに、前記移動体の位置又は時間に応じた変動周期で変動を付与する変動付与手段と、
前記第1の操作パラメータに含まれる操作パラメータ以外の少なくとも一つの操作パラメータを含む第2の操作パラメータを操作し、前記第1の操作パラメータの周期的変動に起因する前記振動型アクチュエータの状態量の周期的な変動を抑制する制御手段と、
を有することを特徴とする。
また、本発明の振動型アクチュエータの制御装置は、
電気−機械エネルギー変換素子に交流電圧を印加することによって振動体に振動波を発生させ、前記振動波により前記振動体と接触する移動体を相対移動させる振動型アクチュエータの制御装置であって、
前記振動型アクチュエータに印加する交流電圧の周波数、振幅、位相を操作するそれぞれの操作パラメータの内の、少なくとも一つの操作パラメータを含む第1の操作パラメータに、前記移動体の位置又は時間に応じた変動周期で変動を付与する変動付与手段と、
前記付与された変動周期の変動によって前記振動型アクチュエータの状態量がどのように変化するのか予め計測した結果を記憶し、
前記記憶した記憶内容と前記変動付与手段の出力に応じて、前記第1の操作パラメータに含まれる操作パラメータ以外の少なくとも一つの操作パラメータを含む第2の操作パラメータを操作し、
前記第1の操作パラメータの周期的変動に起因する前記振動型アクチュエータの状態量の周期的な変動を抑制する記憶内容に基づく制御手段と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上記第1の操作パラメータの周期的な変動によって振動型アクチュエータの状態量の平均化効果を得つつ上記第2の操作パラメータによって第1の操作パラメータの周期的変動に起因する振動型アクチュエータの状態量の周期的な変動を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例1における制御システムの構成例を示すブロック図。
【図2】本発明の実施例1における振動型アクチュエータの構成例を示す図。
【図3】本発明の実施例1における振動型アクチュエータの振動の様子を説明する図。
【図4】本発明の実施例1における振動型アクチュエータの圧電素子の電極配置を示す図。
【図5】本発明の実施例1における振動型アクチュエータの振動振幅特性を示す図。
【図6】本発明の実施例1における振動型アクチュエータの低速駆動の原理を説明する図。
【図7】本発明の実施例1における低速駆動時の振動体の振動軌跡を示す図。
【図8】本発明の実施例1における低速駆動時の交流電圧のパラメータの変化を示す図。
【図9】本発明の実施例1における繰り返し制御手段の構成例を示すブロック図。
【図10】本発明の実施例1における繰り返し制御手段の伝達特性例を示す図。
【図11】本発明の実施例1における第2の構成例を示すブロック図。
【図12】本発明の実施例1におけるピークフィルタの構成例を示す回路図。
【図13】本発明の実施例1における記憶手段を用いた構成を示すブロック図。
【図14】本発明の実施例1における第2の構成例に記憶手段を付加した構成を示すブロック図。
【図15】本発明の実施例2における振動型アクチュエータの構成を示す図。
【図16】本発明の実施例2における振動型アクチュエータの振動の様子を説明する図。
【図17】本発明の実施例2における制御システムの構成を示すブロック図。
【図18】本発明の実施例2における第2の構成例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を実施するための形態を、以下の実施例により説明する。
【実施例】
【0012】
[実施例1]
実施例1として、本発明を適用した振動型アクチュエータの制御装置の構成例について説明する。
本実施例の振動型アクチュエータは、電気−機械エネルギー変換素子に交流電圧を印加することによって振動体に振動波を発生させ、前記振動波により前記振動体と接触する移動体を相対移動させるように構成される。
図2はこのような振動型アクチュエータの構成例を示す図である。
また、図3は振動型アクチュエータの振動の様子を示す図である。
図2、3において、1は圧電素子、2−a、2−bは弾性体であり、この弾性体2−a、2−bによって圧電素子1を挟持している。
そして、圧電素子1と弾性体2−a、2−bは一体となって振動体2を構成している。
3は圧電素子1に給電するためのフレキシブル基板、4は振動体2の上面に形成される楕円振動との間に生ずる摩擦力によって回転するロータである。
振動体2には、直交する2つの方向の曲げ振動の固有振動モードがある。
この2つの固有振動モードの振動を時間的に位相を90°ずらして発生させると図3のように振動体2の上部構造がくびれ部分を支点として振れ回るように回転振動する。
この振動の力を不図示の加圧手段によって振動体2の上部に押し付けられたロータ4に摩擦力を介して伝達し、回転出力を取り出すように構成される。
【0013】
図4は、圧電素子1上に形成された給電用の電極パターンを示している。
電極は4つの区画に分割されており、各電極にはφA又はφBの交流電圧がフレキシブル基板3を介して供給されている。圧電素子1の電極1−a(+)、1−a(−)、 1−b(+)、1−b(−)の符号は圧電素子1の分極方向を示しており、対向する電極は極性が逆方向に分極されている。
そして、対向する電極には同じ駆動電圧を印加することによって対向する圧電素子に逆方向の加振力を発生し、φA、及びφBに対応して夫々一つの曲げ振動を励振する。
【0014】
図5は、上記振動型アクチュエータの振動体2に励起された振動の周波数と振動体2の振動振幅との関係を示す図である。
Frは振動体2の共振周波数を示しており、共振周波数Frでは振動体2の振動振幅はVmaxとなっている。
また、周波数が共振周波数Frより高い領域から共振周波数Frに近付くと序々に振動体2の振動振幅は増加してVmaxに近付いてゆく。
振動体2のロータ4との接触部での振動振幅は数ミクロン程度であり、特に振動振幅が小さい領域では振動体2とロータ4間の加圧力に打ち勝ってロータ4を回転させる力を発生出来ない。
そのため、振動振幅が一定値以上にならないとロータ4を回転させることが出来ない。このような振動振幅の小さな領域を不感帯と呼ぶ。
そこで、これに対処する方法として振動体2とロータ4の接触面に垂直な方向の振動振幅を不感帯より大きな状態に保ちつつロータ4の回転方向に沿った振動振幅を減少させる方法がこれまでに提案されている。
【0015】
図6を用いて不感帯を避けて低速で駆動する原理について説明する。
図6の円及び楕円の軌跡は振動体2の上面の接線方向の振動をロータ4側から見た軌跡を示している。
振動の軌跡が中心から離れるほど振動体2が大きく変形していることを示しており、振動体2がロータ4を突き上げる振動も大きくなっている。
図中に点線で示した円は不感帯の大きさを示しており、これ以上の振動でないとロータ4が回転しない。
ロータ4の回転速度は不感帯より十分大きな振動振幅では振動体2の振動振幅に概ね比例して変化する。
そこで、ロータ4の回転速度が振動体2の振動振幅に比例すると仮定して不感帯に相当する振動振幅より小さい振動振幅の円軌跡である振動1に相当する速度でロータ4を回転させることを考える。
【0016】
しかし、振動1では振幅が不感帯より小さいためロータ4は回転しない。
そこで、振動1の円軌道とは別の振動を重畳して振動軌跡の一定期間だけ不感帯の大きさより大きな振動とすることを考える。
円軌道の直径を単純に大きくすると円軌道の接線速度が増加してロータ4の回転速度が増加してしまうので、一方向にのみ振動する振動成分を重畳する。
そこで、交流電圧φAのみ大きな電圧振幅とすることで電極1−a(+)、1−a(−)の中心を結ぶ方向の振動成分を重畳する。
こうすることで、電極1−a(+)、1−a(−)の中心を結ぶ方向の振動成分が不感帯の大きさを超える振動振幅となり、楕円軌跡の長軸の頂点近傍でのみ振動体2とロータ4が接触する振動2が形成される。
電極1−a(+)、1−a(−)の中心を結ぶ方向の振動はロータ4の回転方向の振動成分を含まないからロータ4の回転方向の振動成分は振動1の円軌道の振動によるもののみとなる。このようにして不感帯を避けて低速で駆動することが出来る。
【0017】
しかし、楕円振動の長軸方向が一定で常に同じ位置で接触する構成では常に振動体2の同じ位置で駆動力を発生するため偏摩耗が発生し、耐久性能を低下させる問題がある。
また振動体2とロータ4の間の接触面の平面精度やロータ4と振動体4の中心のずれ、あるいは加圧力の不均一等の影響でロータ4と振動体2間の相対的な位置に関連した振動条件の変化に起因するロータ4の速度変動があった。
そこで、特許文献1では図6のような楕円振動の長軸の方向を周期的に回転させることで偏摩耗を防ぎつつ、ロータ4の振動体2の相対的な位置関係を周期的に回転させることで速度変動を平均化している。
図7(a)は複数の楕円軌跡を切り換えていく様子を示した図である。8つの楕円軌跡が角度θ=22.5°ずつ順番に回転している例を示している。
また、図7(b)のように連続的に回転させても良い。
【0018】
図8は、上記交流電圧φA及びφBの電圧振幅及び交流電圧φAとφB間の位相差の指令信号の時間変化を示しており、図8の(a)が交流電圧φAの振幅指令、(b)が交流電圧φBの振幅指令、(c)が交流電圧φAとφB間の位相差の指令である。
このような指令によって図7(b)に示すように連続的に楕円軌跡の長軸を回転している。
しかしながら、交流電圧の振幅や位相差を周期的に変動させることに起因して、平均化では取りきれない変動周期に同期した速度変動やトルク変動等が残ってしまうこととなる。
本実施例は、以上のような速度変動やトルク変動等によるアクチュエータの状態量の周期的な変動を抑制する制御手段を構成するものである。
【0019】
以上で説明したように、駆動電圧のパラメータに変動を与える事は低速での速度安定性を高める事を目的としている。
そのため、変動を与えている電圧振幅や位相差の全てに対して周期的な速度変動を抑制する制御を行ってしまうと与えた変動を無くす方向にパラメータを変更してしまう。これではパラメータを変動させる意味が無い。
そこで、本実施例では変動を与えているパラメータの内少なくとも一つのパラメータには変動のみを与え、それ以外のパラメータを操作して周期的な速度変動を抑制する制御を行うこととした。
具体的には、前記振動型アクチュエータに印加する交流電圧の周波数、振幅、位相を操作するそれぞれの操作パラメータの内の、少なくとも一つの操作パラメータを含む第1の操作パラメータに、前記移動体の位置又は時間に応じた変動周期で変動を付与する。
そして、前記第1の操作パラメータに含まれる操作パラメータ以外の少なくとも一つの操作パラメータを含む第2の操作パラメータを操作し、前記第1の操作パラメータの周期的変動に起因する前記振動型アクチュエータの状態量の周期的な変動を抑制する。
これによって、周期的変動による低速安定性と周期的変動に伴う周期的速度変動の抑制を同時に実現した。
【0020】
図1は本実施例の制御システムの構成を示すブロック図である。
図1において上記説明と同じ番号については説明を省略する。5は周波数指令手段であり、交流電圧φA及びφBの周波数を指令する周波数指令を出力している。
図5の説明のように、この周波数指令を振動体2の共振周波数Frに近付けると振動体2の振動振幅が大きくなり不図示のロータ4の回転速度も増加する。6は後述する周期的な変動を抑制する繰り返し制御手段11の出力を前記周波数指令に加算する加算手段である。
7は加算手段6の出力に応じた周波数で且つ後述する変調指令手段9からの振幅変調指令及び位相変調指令に応じた交流電圧φA及びφBを出力する交流電圧生成手段である。
交流電圧生成手段7に入力される振幅変調指令及び位相変調指令は、図8の様に時間に応じて変化する指令となっている。
【0021】
8は変動付与手段を構成するタイミング生成手段であって、変調指令手段9に対して図8の様な変調波形を生成する為の時間に応じたタイミング信号を出力している。
10は、振動型アクチュエータの状態量を計測する手段を構成する、不図示のロータ4の回転速度を検出するための速度計測手段である。
本実施例における振動型アクチュエータの状態量の変動を抑制する制御手段は、つぎのような繰り返し制御手段によって構成することができる。
この繰り返し制御手段11は、タイミング生成手段8の出力するタイミング信号に同期して変調指令手段9の出力する振幅変調指令及び位相変調指令の周期的な変動と同じ周期の速度変動成分を所定の増幅率で増幅し、加算手段6に出力している。
このようにして交流電圧生成手段7の出力する交流電圧の周波数を制御し、振幅変調指令及び位相変調指令の周期的な変動と同じ周期の速度変動を抑制している。
【0022】
図9に繰り返し制御御手段の構成例、図10に繰り返し制御手段の伝達特性の例を示す。
図9の12は不図示の速度計測手段からの速度信号を不図示のタイミング生成手段8からのタイミング信号に同期してサンプリングするサンプラであり、後述するフィルタ14及び遅延手段15もこのタイミング信号に同期して動作する。
13はサンプラ12のサンプリングした速度信号と後述する遅延手段15の出力の差を求める減算手段である。
フィルタ14は変調指令手段9の出力する振幅変調指令及び位相変調指令の変動周期の信号を少なくとも通過させるように高域遮断特性を有すると共に、タイミング信号に同期して動作する公知のFIRフィルタで構成されている。
遅延手段15はフィルタ14の遅延時間と合わせた遅延時間が上記振幅変調指令及び位相変調指令の変動周期の半分の時間となるようにフィルタ14の出力信号を遅延している。
【0023】
つまり、速度信号をフィルタ14と遅延手段15で上記変動周期の半周期分だけ遅延させてこの変動周期成分の信号を反転させて速度信号から減算することで、上記変動周期の信号に対してループ利得が0dB未満の正帰還ループを構成している。
これによって図10に示すように上記変動周期の奇数分の1の周期の変動周期に対して高いゲインの制御特性を実現している。
また、フィルタ14の特性によって高い周波数ほどゲインを低くしているため、くし型のフィルタ特性で且つ高域ほどゲインが減少する特性となっている。
図10において最も高いゲイン特性を示している周波数は180Hzであり、その3倍の540Hz、5倍の900Hzとゲインが減少している。
高周波数域でゲインを下げているのは、ノイズによる誤動作や騒音の原因とならないようにするためである。
【0024】
上記例では交流電圧φAとφBのそれぞれの電圧振幅及び交流電圧φAとφB間の位相差に周期的な変動を付与しつつ、この周期的変動によって発生するロータ4の回転速度の周期的変動を交流電圧φAとφBの周波数を制御することで抑制した。
周波数以外の操作パラメータを用いてもこの周期的変動を抑制することが可能であり、図11を用いて説明する。
【0025】
図11は実施例1の他の構成例を示すブロック図である。同じ符号の要素の説明は省略して以下に動作を説明する。
図1の例では繰り返し制御手段11を用いて交流電圧φA及びφBの周波数を制御することで周期的変動を抑制したが、図11では振幅変調指令を繰り返し制御手段11の出力に応じて調整して制御している。
16は繰り返し制御手段11の出力に応じて変調指令手段9の出力する振幅変調指令を調整する振幅調整手段である。本実施例におけるロータ4の回転速度は交流電圧φA及びφBの振幅が大きいほど高速になる。
そのため、振幅調整手段16では繰り返し制御手段11からの入力信号を振幅変調指令に乗算し、更に振幅変調指令を加算して出力している。
【0026】
また、上記説明ではロータ4の回転速度の周期的変動を抑制するように繰り返し制御手段を用いて特定の周期的変動に対して制御ゲインを高くして周期的変動を抑制する実施例について説明した。
特定の周期的変動を抑制する方法としてはその他にも公知のピークフィルタを用いる方法や、予め周期的変動を測定して記憶しておき、記憶情報に基づいて調整する方法がある。
ピークフィルタとは特定の周波数のみゲインを高くしたフィルタで繰り返し制御手段11が複数のピークを持つのに対して一般には1つのピーク特性を持っている。
図12にオペアンプを用いて構成したピークフィルタの構成例を示す。
また、記憶内容に基づく制御として、つぎのような構成を採ることができる。
まず、前記付与された変動周期の変動によって前記振動型アクチュエータの状態量がどのように変化するのか予め計測した結果を記憶する。
このように記憶した記憶内容と前記変動付与手段の出力に応じて、前述した第1の操作パラメータに含まれる操作パラメータ以外の少なくとも一つの操作パラメータを含む第2の操作パラメータを操作し、
第1の操作パラメータの周期的変動に起因する振動型アクチュエータの状態量の周期的な変動を抑制するように構成する。
このような、上記記憶情報を決定する具体的な方法として、例えば、図11に示した方法で制御を行い十分安定した後に振幅調整手段16の出力値をタイミング信号に応じて振幅変調指令として記憶すれば、振幅変調指令を生成するための記憶情報を得る事が出来る。
図13にこの記憶情報を用いた構成例のブロック図を示す。
17はタイミング生成手段8の出力するタイミング信号に応じて交流電圧φAとφB間の位相差を指令する位相変調指令を出力する変調指令手段、18は予め交流電圧φAとφBのそれぞれの電圧振幅を上記方法にて計測した結果を記憶した記憶手段である。
記憶手段18はタイミング生成手段8の出力するタイミング信号に応じて交流電圧φAとφBのそれぞれの振幅変調指令を出力している。
【0027】
また、以上の記憶内容に基づく制御と、図11で説明した制御を併用し、
図14は図11と図13の機能を併用した例を示すブロック図である。
記憶手段18に記憶された記憶情報に基づく振幅変調指令に対し、繰り返し制御手段11による実際の速度変動に基づく調整を付加している。
そうすることで、繰り返し制御手段11が安定するまでは記憶情報に基づいて制御を行いつつ、繰り返し制御手段11が安定してからは速度変動の変化に追従するように動作する。
また、図14の例では繰り返し制御手段11を用いて振幅変調指令を調整したが、図1の例の様に周波数指令を調整するように構成しても良い。
また、上記例では記憶手段18に記憶する情報を繰り返し制御手段11で求める例を示したが、速度変動が少なくなるように手動で調整した結果を用いても良い。
また、上記例ではロータ4の周期的な速度変動を抑制する例を示したが、トルクを計測してその周期的変動を抑制しても良い。
また、上記タイミング信号は所定の時間周期の信号であったが、回転角度(位置)に応じた変調周期でも良い。
例えば、10mSecの周期の変調の代わりに45°の回転角度毎に周期的な変動を振幅指令や位相指令等に与える構成としても良い。
図8の横軸は時間軸であるが、これを回転角度とすれば変調の基準を時間から回転角度に切り換えることが出来る。
以上の構成によれば、上記した第1の操作パラメータの周期的な変動によって振動型アクチュエータの状態量の平均化効果を得つつ、上記した第2の操作パラメータによって該第1の操作パラメータの周期的変動に起因する振動型アクチュエータの状態量の周期的な変動を抑制することが出来る。
【0028】
[実施例2]
図15は実施例2の振動型アクチュエータの構成を示す構成図である。
図16はその動作原理を説明する図で振動体20の振動の時間的経過を示している。
19は圧電素子で突起形状20−aを有する振動体20に接着されており、圧電素子19に所定の周波数の交流電圧を印加することで図16に示す振動を振動体20に発生させることが出来る。
21は不図示の支持部材によって回転自由に支持された回転体で、振動体20と回転体21は不図示の加圧部材によって加圧接触している。振動体20は図16のように振動する事で回転体21に推力を与え、回転体21を回転させる構成となっている。
【0029】
図17はこの様に構成した振動型アクチュエータの回転体21の回転速度を制御する制御システムの構成を示すブロック図である。
速度計測手段10は回転体21の回転速度を計測しこれに応じた速度信号を出力している。
22は不図示の指令手段からの速度指令と速度信号を比較する減算手段であり、減算結果に応じて圧電素子19に印加する交流電圧の周波数を制御している。
これによって振動体20の振動振幅が変化し回転体21の回転速度が制御される。
23は公知のPI制御器であり、速度信号が速度指令より小さい場合には圧電素子19に印加する交流電圧の周波数を振動体20の共振周波数に近付けて行き、大きい場合には共振周波数から離すように動作する。
圧電素子19に印加される交流電圧の周波数が共振周波数に近いほど振動体20の振動振幅が増加し回転体21の回転速度が速くなり回転体21の回転速度が所望の速度に制御される。
【0030】
24はPI制御器23からの入力に応じて後述する交流電圧生成手段25が出力する交流電圧の周波数を設定する周期指令を出力する変調指令手段である。
変調指令手段24は交流電圧生成手段25が設定可能なパルス信号の周期の最小分解能単位で周期指令を小刻みに周期的に変動させることで最小分解能以上の周期分解能を実現する機能を有している。
この周期指令はタイミング生成手段26の出力するタイミング信号に応じて周期的に変化させている。
交流電圧生成手段25は圧電素子19に印加する単相のパルス状の交流電圧を発生しており、変調指令手段24の出力する周期指令に応じた周期で且つ後述する繰り返し制御手段27からのパルス幅指令に応じたパルス幅のパルス信号を出力している。
パルス信号のパルス幅を変えることで振動型アクチュエータに印加する交流電圧の周波数の基本波成分の電圧振幅を操作することが可能である。
【0031】
タイミング生成手段26は所定の固定された周期のタイミング信号を出力している。
ここで、例えばPI制御器23が交流電圧生成手段25の出力可能なパルス信号の周期の最小分解能の半分の分解能の周期T(n+0.5)を設定する信号を出力している場合を考える。
この場合変調指令手段24はタイミング信号の周期の半分の時間は周期T(n)を出力し後の半分の時間は周期T(n+1)を出力する。
ここでT(n)とは周期の最小分解能をTminとするとTminをn倍した周期を示す。
同様にT(n+0.5)は最小分解能Tminを(n+0.5)倍した周期を示す。
変調指令手段24はTmin×nの周期とTmin×(n+1)の周期のパルス信号をタイミング信号の1周期の間に同じ割合で発生させることで平均周期をTmin×(n+0.5)としている。
【0032】
このような周期的変動は、周期的な小さな速度変動を発生させる。印刷装置の画像形成手段の感光ドラム等のように速度変動によって画像の劣化が発生する用途では小さな速度変動でも周期的な速度変動は目につき易い。
そこで、本実施例では繰り返し制御手段27を用いて圧電素子19に印加するパルス信号のパルス幅を制御することでパルス信号の周期の周期的変動に起因する回転体21の周期的な速度変動を抑制する構成とした。
繰り返し制御手段27はタイミング信号に応じて速度信号の上記タイミング信号の変動周期の整数倍の周波数成分のみ増幅しパルス幅指令を出力している。
圧電素子19に印加するパルス信号のパルス幅が大きいほど回転体21の回転速度が速くなる事を利用して速度制御がなされる。
本実施例の交流電圧生成手段25は不図示の水晶発振器等の高周波のパルス信号を分周することでパルス信号の周期やパルス幅を設定しており、パルス信号の周期の時間分解能とパルス幅の時間分解能は同じである。
このような場合、通常振動型アクチュエータの周波数(周期)による速度変化の感度はパルス幅に対する速度変化の感度より高いため、感度の高い周期指令の最小分解能での周期的変動に起因する速度変動を感度の低いパルス幅を用いて制御している。
【0033】
図18は本実施例の第2の構成例を示すブロック図である。
図15の振動型アクチュエータの代わりに図2の振動型アクチュエータを用いた例を示している。図15の振動型アクチュエータが単相駆動であったのに対し、図2の振動型アクチュエータは2相駆動であることが異なっている。
単相駆動の上記例では繰り返し制御手段27によってパルス幅指令を生成して制御しているが図18では交流電圧φAとφB間の位相差を設定する位相指令を生成して制御している。
図2に示す振動型アクチュエータは交流電圧φAとφB間の位相差が90°の時にロータ4の回転速度が最も高速であり、0°でほぼ停止状態となる。
この特性を用いて上記例と同様に交流電圧φAとφB間の位相差によって周期指令に重畳された周期的変動によるロータ4の回転速度の周期的変動を抑制している。
【0034】
本実施例においても上記例と同様に交流電圧の振幅指令としても良い事は当然である。
また、本実施例のように複数の交流電圧を出力する場合には例えばφAのみ振幅を制御しても速度を制御可能なので、全ての相の電圧振幅を制御する必要はない。
また、本実施例では周期指令が可能な最小分解能で周期的変動を与えたが、最小分解能より大きな値でも良い。
上記実施例では交流電圧生成手段25で不図示の水晶発振器を用いてパルス信号を生成した例を説明したが、公知のVCO(電圧制御型発振器)とD/A変換手段を用いてパルス信号を生成しても良い。
この場合D/A変換手段の出力分解能での周波数変化が周波数の最終分解能となる。
【0035】
また上記実施例ではパルス信号の周波数に周期的変調を付与し、周期的な速度変動をパルス信号のパルス幅を制御して抑制する構成としたが、逆にパルス幅に周期的変調を付与し周波数で周期的速度変動を抑制する構成としても良い。
また振動型アクチュエータは本実施例に用いたものに限るものではない。
上記実施例では圧電素子を用いて振動体に振動を励起したが、磁歪素子や電歪素子等他の加振手段を用いても良い。
また、振動体は圧電素子のみで構成しても良いことは当然である。また駆動電圧の相数は3相以上でも良い。
また、上記実施例では曲げ振動を用いた例を示したがねじり振動や縦振動を用いた振動型アクチュエータも提案されており、これら振動型アクチュエータにおいても同様である。
【符号の説明】
【0036】
1:圧電素子
2:振動体
4:ロータ
5:周波数指令手段
7:交流電圧生成手段
8:タイミング生成手段
9:変調指令手段
10:速度計測手段
11:繰り返し制御手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動型アクチュエータの制御装置に関し、特に電気−機械エネルギー変換素子に交流電圧を印加して振動波を励起する際、該交流電圧のパラメータに周期的な変化を重畳する交流電圧生成手段を備えた振動型アクチュエータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
振動型アクチュエータは、電気−機械エネルギー変換素子に交流電圧を印加して振動体に振動波を励起し、その振動波によって移動体を駆動する装置として知られている。
このような振動型アクチュエータにおいては、振動体と移動体が加圧接触しており、移動体を移動させるには振動体を一定の振幅以上の振幅で振動させる必要がある。
この一定の振幅は不感帯と呼ばれ低速で移動体を安定して駆動する妨げとなっている。
移動体の移動速度は、振動体の振動振幅にほぼ比例するため不感帯の振動振幅近傍では速度変化が大きい。
また、不感帯の幅は振動体と移動体の接触状態に大きく左右され、移動体の移動に伴って変化する。
【0003】
これらの課題を改善するために、不感帯の幅より大きな振動振幅で振動体を振動させつつ移動体を低速で移動させる技術がこれまでにいくつか提案されている。
例えば、特許文献1には複数の駆動電圧で進行性の振動波を振動体上に励起することで、振動体に加圧接触する移動体を移動させる振動型アクチュエータに於いて、複数の駆動信号の振幅と位相を異なる時間的位相をもって周期的に制御する例が示されている。
これらのパラメータを所望の軌跡で周期的に変動させることで振動体上に励起される進行性の振動波の振幅及び移動速度を周期的に変化させている。
この移動する振動波は振幅が増減しながら移動し、その振幅が極大になる位置は時間と共に移動していく。
また、振動波と移動体とはこの振幅が極大となる期間に接触するため、振幅極大時の振動波の移動速度に比例した速度で移動体が移動する。
このような手法で発生する進行性の振動波の移動速度は振幅が大きいほど遅い。そのため不感帯より大きな振幅で移動速度の遅い振動波を生成することが出来、移動体を低速で安定に駆動することが出来る。
また、移動体と振動体間の面圧に相対的な位置関係に応じたムラがあっても上記説明のように振幅の極大になる位置が時間と共に移動していくため面圧ムラが平均化され、速度が平均化される効果も有している。
【0004】
また、振動型アクチュエータの速度は振動体に励起される振動振幅に応じて変化するため、振動体に設けられた電気−機械エネルギー変換素子に印加する交流電圧の振幅や周波数で制御する。
温度による共振周波数変動や個体差の影響を少なくするために周波数で制御する方式が一般的である。
周波数の発生方式に着目すると、アナログ的な発振器や水晶発振器とプログラマブルな分周器によるディジタル的な手法、D/A変換器と組み合わせた半ディジタル的な手法等があり、ディジタル的な手法では周波数の高分解能化が課題であった。
特許文献2では、分周率を周期的に変化させ平均的な分周率によって擬似的に周波数の分解能を上げる手法が提案されている。
また、周期的変動が可聴域の振動を発生させる時には周期的変化の速度を速くして可聴域からずらす方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4208627号公報
【特許文献2】特許第3140615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では、面圧ムラ等による速度変動が平均化される一方で、複数の駆動信号の振幅と位相を周期的に変動させることで周期的な速度変動が発生する。
すなわち、面圧ムラ等に起因する速度変動は、駆動信号の振幅と位相の周期的変動とは無関係であるが、駆動信号を周期的に変動させて速度変動を平均化する過程で周期的な速度変動に変化し、上記周期的な速度変動を発生させてしまうこととなる。
また、特許文献2のように交流電圧の周波数をディジタル的な分周手段を用いて生成する手法においても、周期的に分周率を変化させることにより、上記特許文献1と同様に周期的な速度変動を発生させてしまうこととなる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、振動型アクチュエータの状態量の周期的な変動を抑制することが可能となる振動型アクチュエータの制御装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の振動型アクチュエータの制御装置は、
電気−機械エネルギー変換素子に交流電圧を印加することによって振動体に振動波を発生させ、前記振動波により前記振動体と接触する移動体を相対移動させる振動型アクチュエータの制御装置であって、
前記振動型アクチュエータの状態量を計測する計測手段と、
前記振動型アクチュエータに印加する交流電圧の周波数、振幅、位相を操作するそれぞれの操作パラメータの内の、少なくとも一つの操作パラメータを含む第1の操作パラメータに、前記移動体の位置又は時間に応じた変動周期で変動を付与する変動付与手段と、
前記第1の操作パラメータに含まれる操作パラメータ以外の少なくとも一つの操作パラメータを含む第2の操作パラメータを操作し、前記第1の操作パラメータの周期的変動に起因する前記振動型アクチュエータの状態量の周期的な変動を抑制する制御手段と、
を有することを特徴とする。
また、本発明の振動型アクチュエータの制御装置は、
電気−機械エネルギー変換素子に交流電圧を印加することによって振動体に振動波を発生させ、前記振動波により前記振動体と接触する移動体を相対移動させる振動型アクチュエータの制御装置であって、
前記振動型アクチュエータに印加する交流電圧の周波数、振幅、位相を操作するそれぞれの操作パラメータの内の、少なくとも一つの操作パラメータを含む第1の操作パラメータに、前記移動体の位置又は時間に応じた変動周期で変動を付与する変動付与手段と、
前記付与された変動周期の変動によって前記振動型アクチュエータの状態量がどのように変化するのか予め計測した結果を記憶し、
前記記憶した記憶内容と前記変動付与手段の出力に応じて、前記第1の操作パラメータに含まれる操作パラメータ以外の少なくとも一つの操作パラメータを含む第2の操作パラメータを操作し、
前記第1の操作パラメータの周期的変動に起因する前記振動型アクチュエータの状態量の周期的な変動を抑制する記憶内容に基づく制御手段と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上記第1の操作パラメータの周期的な変動によって振動型アクチュエータの状態量の平均化効果を得つつ上記第2の操作パラメータによって第1の操作パラメータの周期的変動に起因する振動型アクチュエータの状態量の周期的な変動を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例1における制御システムの構成例を示すブロック図。
【図2】本発明の実施例1における振動型アクチュエータの構成例を示す図。
【図3】本発明の実施例1における振動型アクチュエータの振動の様子を説明する図。
【図4】本発明の実施例1における振動型アクチュエータの圧電素子の電極配置を示す図。
【図5】本発明の実施例1における振動型アクチュエータの振動振幅特性を示す図。
【図6】本発明の実施例1における振動型アクチュエータの低速駆動の原理を説明する図。
【図7】本発明の実施例1における低速駆動時の振動体の振動軌跡を示す図。
【図8】本発明の実施例1における低速駆動時の交流電圧のパラメータの変化を示す図。
【図9】本発明の実施例1における繰り返し制御手段の構成例を示すブロック図。
【図10】本発明の実施例1における繰り返し制御手段の伝達特性例を示す図。
【図11】本発明の実施例1における第2の構成例を示すブロック図。
【図12】本発明の実施例1におけるピークフィルタの構成例を示す回路図。
【図13】本発明の実施例1における記憶手段を用いた構成を示すブロック図。
【図14】本発明の実施例1における第2の構成例に記憶手段を付加した構成を示すブロック図。
【図15】本発明の実施例2における振動型アクチュエータの構成を示す図。
【図16】本発明の実施例2における振動型アクチュエータの振動の様子を説明する図。
【図17】本発明の実施例2における制御システムの構成を示すブロック図。
【図18】本発明の実施例2における第2の構成例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を実施するための形態を、以下の実施例により説明する。
【実施例】
【0012】
[実施例1]
実施例1として、本発明を適用した振動型アクチュエータの制御装置の構成例について説明する。
本実施例の振動型アクチュエータは、電気−機械エネルギー変換素子に交流電圧を印加することによって振動体に振動波を発生させ、前記振動波により前記振動体と接触する移動体を相対移動させるように構成される。
図2はこのような振動型アクチュエータの構成例を示す図である。
また、図3は振動型アクチュエータの振動の様子を示す図である。
図2、3において、1は圧電素子、2−a、2−bは弾性体であり、この弾性体2−a、2−bによって圧電素子1を挟持している。
そして、圧電素子1と弾性体2−a、2−bは一体となって振動体2を構成している。
3は圧電素子1に給電するためのフレキシブル基板、4は振動体2の上面に形成される楕円振動との間に生ずる摩擦力によって回転するロータである。
振動体2には、直交する2つの方向の曲げ振動の固有振動モードがある。
この2つの固有振動モードの振動を時間的に位相を90°ずらして発生させると図3のように振動体2の上部構造がくびれ部分を支点として振れ回るように回転振動する。
この振動の力を不図示の加圧手段によって振動体2の上部に押し付けられたロータ4に摩擦力を介して伝達し、回転出力を取り出すように構成される。
【0013】
図4は、圧電素子1上に形成された給電用の電極パターンを示している。
電極は4つの区画に分割されており、各電極にはφA又はφBの交流電圧がフレキシブル基板3を介して供給されている。圧電素子1の電極1−a(+)、1−a(−)、 1−b(+)、1−b(−)の符号は圧電素子1の分極方向を示しており、対向する電極は極性が逆方向に分極されている。
そして、対向する電極には同じ駆動電圧を印加することによって対向する圧電素子に逆方向の加振力を発生し、φA、及びφBに対応して夫々一つの曲げ振動を励振する。
【0014】
図5は、上記振動型アクチュエータの振動体2に励起された振動の周波数と振動体2の振動振幅との関係を示す図である。
Frは振動体2の共振周波数を示しており、共振周波数Frでは振動体2の振動振幅はVmaxとなっている。
また、周波数が共振周波数Frより高い領域から共振周波数Frに近付くと序々に振動体2の振動振幅は増加してVmaxに近付いてゆく。
振動体2のロータ4との接触部での振動振幅は数ミクロン程度であり、特に振動振幅が小さい領域では振動体2とロータ4間の加圧力に打ち勝ってロータ4を回転させる力を発生出来ない。
そのため、振動振幅が一定値以上にならないとロータ4を回転させることが出来ない。このような振動振幅の小さな領域を不感帯と呼ぶ。
そこで、これに対処する方法として振動体2とロータ4の接触面に垂直な方向の振動振幅を不感帯より大きな状態に保ちつつロータ4の回転方向に沿った振動振幅を減少させる方法がこれまでに提案されている。
【0015】
図6を用いて不感帯を避けて低速で駆動する原理について説明する。
図6の円及び楕円の軌跡は振動体2の上面の接線方向の振動をロータ4側から見た軌跡を示している。
振動の軌跡が中心から離れるほど振動体2が大きく変形していることを示しており、振動体2がロータ4を突き上げる振動も大きくなっている。
図中に点線で示した円は不感帯の大きさを示しており、これ以上の振動でないとロータ4が回転しない。
ロータ4の回転速度は不感帯より十分大きな振動振幅では振動体2の振動振幅に概ね比例して変化する。
そこで、ロータ4の回転速度が振動体2の振動振幅に比例すると仮定して不感帯に相当する振動振幅より小さい振動振幅の円軌跡である振動1に相当する速度でロータ4を回転させることを考える。
【0016】
しかし、振動1では振幅が不感帯より小さいためロータ4は回転しない。
そこで、振動1の円軌道とは別の振動を重畳して振動軌跡の一定期間だけ不感帯の大きさより大きな振動とすることを考える。
円軌道の直径を単純に大きくすると円軌道の接線速度が増加してロータ4の回転速度が増加してしまうので、一方向にのみ振動する振動成分を重畳する。
そこで、交流電圧φAのみ大きな電圧振幅とすることで電極1−a(+)、1−a(−)の中心を結ぶ方向の振動成分を重畳する。
こうすることで、電極1−a(+)、1−a(−)の中心を結ぶ方向の振動成分が不感帯の大きさを超える振動振幅となり、楕円軌跡の長軸の頂点近傍でのみ振動体2とロータ4が接触する振動2が形成される。
電極1−a(+)、1−a(−)の中心を結ぶ方向の振動はロータ4の回転方向の振動成分を含まないからロータ4の回転方向の振動成分は振動1の円軌道の振動によるもののみとなる。このようにして不感帯を避けて低速で駆動することが出来る。
【0017】
しかし、楕円振動の長軸方向が一定で常に同じ位置で接触する構成では常に振動体2の同じ位置で駆動力を発生するため偏摩耗が発生し、耐久性能を低下させる問題がある。
また振動体2とロータ4の間の接触面の平面精度やロータ4と振動体4の中心のずれ、あるいは加圧力の不均一等の影響でロータ4と振動体2間の相対的な位置に関連した振動条件の変化に起因するロータ4の速度変動があった。
そこで、特許文献1では図6のような楕円振動の長軸の方向を周期的に回転させることで偏摩耗を防ぎつつ、ロータ4の振動体2の相対的な位置関係を周期的に回転させることで速度変動を平均化している。
図7(a)は複数の楕円軌跡を切り換えていく様子を示した図である。8つの楕円軌跡が角度θ=22.5°ずつ順番に回転している例を示している。
また、図7(b)のように連続的に回転させても良い。
【0018】
図8は、上記交流電圧φA及びφBの電圧振幅及び交流電圧φAとφB間の位相差の指令信号の時間変化を示しており、図8の(a)が交流電圧φAの振幅指令、(b)が交流電圧φBの振幅指令、(c)が交流電圧φAとφB間の位相差の指令である。
このような指令によって図7(b)に示すように連続的に楕円軌跡の長軸を回転している。
しかしながら、交流電圧の振幅や位相差を周期的に変動させることに起因して、平均化では取りきれない変動周期に同期した速度変動やトルク変動等が残ってしまうこととなる。
本実施例は、以上のような速度変動やトルク変動等によるアクチュエータの状態量の周期的な変動を抑制する制御手段を構成するものである。
【0019】
以上で説明したように、駆動電圧のパラメータに変動を与える事は低速での速度安定性を高める事を目的としている。
そのため、変動を与えている電圧振幅や位相差の全てに対して周期的な速度変動を抑制する制御を行ってしまうと与えた変動を無くす方向にパラメータを変更してしまう。これではパラメータを変動させる意味が無い。
そこで、本実施例では変動を与えているパラメータの内少なくとも一つのパラメータには変動のみを与え、それ以外のパラメータを操作して周期的な速度変動を抑制する制御を行うこととした。
具体的には、前記振動型アクチュエータに印加する交流電圧の周波数、振幅、位相を操作するそれぞれの操作パラメータの内の、少なくとも一つの操作パラメータを含む第1の操作パラメータに、前記移動体の位置又は時間に応じた変動周期で変動を付与する。
そして、前記第1の操作パラメータに含まれる操作パラメータ以外の少なくとも一つの操作パラメータを含む第2の操作パラメータを操作し、前記第1の操作パラメータの周期的変動に起因する前記振動型アクチュエータの状態量の周期的な変動を抑制する。
これによって、周期的変動による低速安定性と周期的変動に伴う周期的速度変動の抑制を同時に実現した。
【0020】
図1は本実施例の制御システムの構成を示すブロック図である。
図1において上記説明と同じ番号については説明を省略する。5は周波数指令手段であり、交流電圧φA及びφBの周波数を指令する周波数指令を出力している。
図5の説明のように、この周波数指令を振動体2の共振周波数Frに近付けると振動体2の振動振幅が大きくなり不図示のロータ4の回転速度も増加する。6は後述する周期的な変動を抑制する繰り返し制御手段11の出力を前記周波数指令に加算する加算手段である。
7は加算手段6の出力に応じた周波数で且つ後述する変調指令手段9からの振幅変調指令及び位相変調指令に応じた交流電圧φA及びφBを出力する交流電圧生成手段である。
交流電圧生成手段7に入力される振幅変調指令及び位相変調指令は、図8の様に時間に応じて変化する指令となっている。
【0021】
8は変動付与手段を構成するタイミング生成手段であって、変調指令手段9に対して図8の様な変調波形を生成する為の時間に応じたタイミング信号を出力している。
10は、振動型アクチュエータの状態量を計測する手段を構成する、不図示のロータ4の回転速度を検出するための速度計測手段である。
本実施例における振動型アクチュエータの状態量の変動を抑制する制御手段は、つぎのような繰り返し制御手段によって構成することができる。
この繰り返し制御手段11は、タイミング生成手段8の出力するタイミング信号に同期して変調指令手段9の出力する振幅変調指令及び位相変調指令の周期的な変動と同じ周期の速度変動成分を所定の増幅率で増幅し、加算手段6に出力している。
このようにして交流電圧生成手段7の出力する交流電圧の周波数を制御し、振幅変調指令及び位相変調指令の周期的な変動と同じ周期の速度変動を抑制している。
【0022】
図9に繰り返し制御御手段の構成例、図10に繰り返し制御手段の伝達特性の例を示す。
図9の12は不図示の速度計測手段からの速度信号を不図示のタイミング生成手段8からのタイミング信号に同期してサンプリングするサンプラであり、後述するフィルタ14及び遅延手段15もこのタイミング信号に同期して動作する。
13はサンプラ12のサンプリングした速度信号と後述する遅延手段15の出力の差を求める減算手段である。
フィルタ14は変調指令手段9の出力する振幅変調指令及び位相変調指令の変動周期の信号を少なくとも通過させるように高域遮断特性を有すると共に、タイミング信号に同期して動作する公知のFIRフィルタで構成されている。
遅延手段15はフィルタ14の遅延時間と合わせた遅延時間が上記振幅変調指令及び位相変調指令の変動周期の半分の時間となるようにフィルタ14の出力信号を遅延している。
【0023】
つまり、速度信号をフィルタ14と遅延手段15で上記変動周期の半周期分だけ遅延させてこの変動周期成分の信号を反転させて速度信号から減算することで、上記変動周期の信号に対してループ利得が0dB未満の正帰還ループを構成している。
これによって図10に示すように上記変動周期の奇数分の1の周期の変動周期に対して高いゲインの制御特性を実現している。
また、フィルタ14の特性によって高い周波数ほどゲインを低くしているため、くし型のフィルタ特性で且つ高域ほどゲインが減少する特性となっている。
図10において最も高いゲイン特性を示している周波数は180Hzであり、その3倍の540Hz、5倍の900Hzとゲインが減少している。
高周波数域でゲインを下げているのは、ノイズによる誤動作や騒音の原因とならないようにするためである。
【0024】
上記例では交流電圧φAとφBのそれぞれの電圧振幅及び交流電圧φAとφB間の位相差に周期的な変動を付与しつつ、この周期的変動によって発生するロータ4の回転速度の周期的変動を交流電圧φAとφBの周波数を制御することで抑制した。
周波数以外の操作パラメータを用いてもこの周期的変動を抑制することが可能であり、図11を用いて説明する。
【0025】
図11は実施例1の他の構成例を示すブロック図である。同じ符号の要素の説明は省略して以下に動作を説明する。
図1の例では繰り返し制御手段11を用いて交流電圧φA及びφBの周波数を制御することで周期的変動を抑制したが、図11では振幅変調指令を繰り返し制御手段11の出力に応じて調整して制御している。
16は繰り返し制御手段11の出力に応じて変調指令手段9の出力する振幅変調指令を調整する振幅調整手段である。本実施例におけるロータ4の回転速度は交流電圧φA及びφBの振幅が大きいほど高速になる。
そのため、振幅調整手段16では繰り返し制御手段11からの入力信号を振幅変調指令に乗算し、更に振幅変調指令を加算して出力している。
【0026】
また、上記説明ではロータ4の回転速度の周期的変動を抑制するように繰り返し制御手段を用いて特定の周期的変動に対して制御ゲインを高くして周期的変動を抑制する実施例について説明した。
特定の周期的変動を抑制する方法としてはその他にも公知のピークフィルタを用いる方法や、予め周期的変動を測定して記憶しておき、記憶情報に基づいて調整する方法がある。
ピークフィルタとは特定の周波数のみゲインを高くしたフィルタで繰り返し制御手段11が複数のピークを持つのに対して一般には1つのピーク特性を持っている。
図12にオペアンプを用いて構成したピークフィルタの構成例を示す。
また、記憶内容に基づく制御として、つぎのような構成を採ることができる。
まず、前記付与された変動周期の変動によって前記振動型アクチュエータの状態量がどのように変化するのか予め計測した結果を記憶する。
このように記憶した記憶内容と前記変動付与手段の出力に応じて、前述した第1の操作パラメータに含まれる操作パラメータ以外の少なくとも一つの操作パラメータを含む第2の操作パラメータを操作し、
第1の操作パラメータの周期的変動に起因する振動型アクチュエータの状態量の周期的な変動を抑制するように構成する。
このような、上記記憶情報を決定する具体的な方法として、例えば、図11に示した方法で制御を行い十分安定した後に振幅調整手段16の出力値をタイミング信号に応じて振幅変調指令として記憶すれば、振幅変調指令を生成するための記憶情報を得る事が出来る。
図13にこの記憶情報を用いた構成例のブロック図を示す。
17はタイミング生成手段8の出力するタイミング信号に応じて交流電圧φAとφB間の位相差を指令する位相変調指令を出力する変調指令手段、18は予め交流電圧φAとφBのそれぞれの電圧振幅を上記方法にて計測した結果を記憶した記憶手段である。
記憶手段18はタイミング生成手段8の出力するタイミング信号に応じて交流電圧φAとφBのそれぞれの振幅変調指令を出力している。
【0027】
また、以上の記憶内容に基づく制御と、図11で説明した制御を併用し、
図14は図11と図13の機能を併用した例を示すブロック図である。
記憶手段18に記憶された記憶情報に基づく振幅変調指令に対し、繰り返し制御手段11による実際の速度変動に基づく調整を付加している。
そうすることで、繰り返し制御手段11が安定するまでは記憶情報に基づいて制御を行いつつ、繰り返し制御手段11が安定してからは速度変動の変化に追従するように動作する。
また、図14の例では繰り返し制御手段11を用いて振幅変調指令を調整したが、図1の例の様に周波数指令を調整するように構成しても良い。
また、上記例では記憶手段18に記憶する情報を繰り返し制御手段11で求める例を示したが、速度変動が少なくなるように手動で調整した結果を用いても良い。
また、上記例ではロータ4の周期的な速度変動を抑制する例を示したが、トルクを計測してその周期的変動を抑制しても良い。
また、上記タイミング信号は所定の時間周期の信号であったが、回転角度(位置)に応じた変調周期でも良い。
例えば、10mSecの周期の変調の代わりに45°の回転角度毎に周期的な変動を振幅指令や位相指令等に与える構成としても良い。
図8の横軸は時間軸であるが、これを回転角度とすれば変調の基準を時間から回転角度に切り換えることが出来る。
以上の構成によれば、上記した第1の操作パラメータの周期的な変動によって振動型アクチュエータの状態量の平均化効果を得つつ、上記した第2の操作パラメータによって該第1の操作パラメータの周期的変動に起因する振動型アクチュエータの状態量の周期的な変動を抑制することが出来る。
【0028】
[実施例2]
図15は実施例2の振動型アクチュエータの構成を示す構成図である。
図16はその動作原理を説明する図で振動体20の振動の時間的経過を示している。
19は圧電素子で突起形状20−aを有する振動体20に接着されており、圧電素子19に所定の周波数の交流電圧を印加することで図16に示す振動を振動体20に発生させることが出来る。
21は不図示の支持部材によって回転自由に支持された回転体で、振動体20と回転体21は不図示の加圧部材によって加圧接触している。振動体20は図16のように振動する事で回転体21に推力を与え、回転体21を回転させる構成となっている。
【0029】
図17はこの様に構成した振動型アクチュエータの回転体21の回転速度を制御する制御システムの構成を示すブロック図である。
速度計測手段10は回転体21の回転速度を計測しこれに応じた速度信号を出力している。
22は不図示の指令手段からの速度指令と速度信号を比較する減算手段であり、減算結果に応じて圧電素子19に印加する交流電圧の周波数を制御している。
これによって振動体20の振動振幅が変化し回転体21の回転速度が制御される。
23は公知のPI制御器であり、速度信号が速度指令より小さい場合には圧電素子19に印加する交流電圧の周波数を振動体20の共振周波数に近付けて行き、大きい場合には共振周波数から離すように動作する。
圧電素子19に印加される交流電圧の周波数が共振周波数に近いほど振動体20の振動振幅が増加し回転体21の回転速度が速くなり回転体21の回転速度が所望の速度に制御される。
【0030】
24はPI制御器23からの入力に応じて後述する交流電圧生成手段25が出力する交流電圧の周波数を設定する周期指令を出力する変調指令手段である。
変調指令手段24は交流電圧生成手段25が設定可能なパルス信号の周期の最小分解能単位で周期指令を小刻みに周期的に変動させることで最小分解能以上の周期分解能を実現する機能を有している。
この周期指令はタイミング生成手段26の出力するタイミング信号に応じて周期的に変化させている。
交流電圧生成手段25は圧電素子19に印加する単相のパルス状の交流電圧を発生しており、変調指令手段24の出力する周期指令に応じた周期で且つ後述する繰り返し制御手段27からのパルス幅指令に応じたパルス幅のパルス信号を出力している。
パルス信号のパルス幅を変えることで振動型アクチュエータに印加する交流電圧の周波数の基本波成分の電圧振幅を操作することが可能である。
【0031】
タイミング生成手段26は所定の固定された周期のタイミング信号を出力している。
ここで、例えばPI制御器23が交流電圧生成手段25の出力可能なパルス信号の周期の最小分解能の半分の分解能の周期T(n+0.5)を設定する信号を出力している場合を考える。
この場合変調指令手段24はタイミング信号の周期の半分の時間は周期T(n)を出力し後の半分の時間は周期T(n+1)を出力する。
ここでT(n)とは周期の最小分解能をTminとするとTminをn倍した周期を示す。
同様にT(n+0.5)は最小分解能Tminを(n+0.5)倍した周期を示す。
変調指令手段24はTmin×nの周期とTmin×(n+1)の周期のパルス信号をタイミング信号の1周期の間に同じ割合で発生させることで平均周期をTmin×(n+0.5)としている。
【0032】
このような周期的変動は、周期的な小さな速度変動を発生させる。印刷装置の画像形成手段の感光ドラム等のように速度変動によって画像の劣化が発生する用途では小さな速度変動でも周期的な速度変動は目につき易い。
そこで、本実施例では繰り返し制御手段27を用いて圧電素子19に印加するパルス信号のパルス幅を制御することでパルス信号の周期の周期的変動に起因する回転体21の周期的な速度変動を抑制する構成とした。
繰り返し制御手段27はタイミング信号に応じて速度信号の上記タイミング信号の変動周期の整数倍の周波数成分のみ増幅しパルス幅指令を出力している。
圧電素子19に印加するパルス信号のパルス幅が大きいほど回転体21の回転速度が速くなる事を利用して速度制御がなされる。
本実施例の交流電圧生成手段25は不図示の水晶発振器等の高周波のパルス信号を分周することでパルス信号の周期やパルス幅を設定しており、パルス信号の周期の時間分解能とパルス幅の時間分解能は同じである。
このような場合、通常振動型アクチュエータの周波数(周期)による速度変化の感度はパルス幅に対する速度変化の感度より高いため、感度の高い周期指令の最小分解能での周期的変動に起因する速度変動を感度の低いパルス幅を用いて制御している。
【0033】
図18は本実施例の第2の構成例を示すブロック図である。
図15の振動型アクチュエータの代わりに図2の振動型アクチュエータを用いた例を示している。図15の振動型アクチュエータが単相駆動であったのに対し、図2の振動型アクチュエータは2相駆動であることが異なっている。
単相駆動の上記例では繰り返し制御手段27によってパルス幅指令を生成して制御しているが図18では交流電圧φAとφB間の位相差を設定する位相指令を生成して制御している。
図2に示す振動型アクチュエータは交流電圧φAとφB間の位相差が90°の時にロータ4の回転速度が最も高速であり、0°でほぼ停止状態となる。
この特性を用いて上記例と同様に交流電圧φAとφB間の位相差によって周期指令に重畳された周期的変動によるロータ4の回転速度の周期的変動を抑制している。
【0034】
本実施例においても上記例と同様に交流電圧の振幅指令としても良い事は当然である。
また、本実施例のように複数の交流電圧を出力する場合には例えばφAのみ振幅を制御しても速度を制御可能なので、全ての相の電圧振幅を制御する必要はない。
また、本実施例では周期指令が可能な最小分解能で周期的変動を与えたが、最小分解能より大きな値でも良い。
上記実施例では交流電圧生成手段25で不図示の水晶発振器を用いてパルス信号を生成した例を説明したが、公知のVCO(電圧制御型発振器)とD/A変換手段を用いてパルス信号を生成しても良い。
この場合D/A変換手段の出力分解能での周波数変化が周波数の最終分解能となる。
【0035】
また上記実施例ではパルス信号の周波数に周期的変調を付与し、周期的な速度変動をパルス信号のパルス幅を制御して抑制する構成としたが、逆にパルス幅に周期的変調を付与し周波数で周期的速度変動を抑制する構成としても良い。
また振動型アクチュエータは本実施例に用いたものに限るものではない。
上記実施例では圧電素子を用いて振動体に振動を励起したが、磁歪素子や電歪素子等他の加振手段を用いても良い。
また、振動体は圧電素子のみで構成しても良いことは当然である。また駆動電圧の相数は3相以上でも良い。
また、上記実施例では曲げ振動を用いた例を示したがねじり振動や縦振動を用いた振動型アクチュエータも提案されており、これら振動型アクチュエータにおいても同様である。
【符号の説明】
【0036】
1:圧電素子
2:振動体
4:ロータ
5:周波数指令手段
7:交流電圧生成手段
8:タイミング生成手段
9:変調指令手段
10:速度計測手段
11:繰り返し制御手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気−機械エネルギー変換素子に交流電圧を印加することによって振動体に振動波を発生させ、前記振動波により前記振動体と接触する移動体を相対移動させる振動型アクチュエータの制御装置であって、
前記振動型アクチュエータの状態量を計測する計測手段と、
前記振動型アクチュエータに印加する交流電圧の周波数、振幅、位相を操作するそれぞれの操作パラメータの内の、少なくとも一つの操作パラメータを含む第1の操作パラメータに、前記移動体の位置又は時間に応じた変動周期で変動を付与する変動付与手段と、
前記第1の操作パラメータに含まれる操作パラメータ以外の少なくとも一つの操作パラメータを含む第2の操作パラメータを操作し、前記第1の操作パラメータの周期的変動に起因する前記振動型アクチュエータの状態量の周期的な変動を抑制する制御手段と、
を有することを特徴とする振動型アクチュエータの制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、繰り返し制御器で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の振動型アクチュエータの制御装置。
【請求項3】
電気−機械エネルギー変換素子に交流電圧を印加することによって振動体に振動波を発生させ、前記振動波により前記振動体と接触する移動体を相対移動させる振動型アクチュエータの制御装置であって、
前記振動型アクチュエータに印加する交流電圧の周波数、振幅、位相を操作するそれぞれの操作パラメータの内の、少なくとも一つの操作パラメータを含む第1の操作パラメータに、前記移動体の位置又は時間に応じた変動周期で変動を付与する変動付与手段と、
前記付与された変動周期の変動によって前記振動型アクチュエータの状態量がどのように変化するのか予め計測した結果を記憶し、
前記記憶した記憶内容と前記変動付与手段の出力に応じて、前記第1の操作パラメータに含まれる操作パラメータ以外の少なくとも一つの操作パラメータを含む第2の操作パラメータを操作し、
前記第1の操作パラメータの周期的変動に起因する前記振動型アクチュエータの状態量の周期的な変動を抑制する記憶内容に基づく制御手段と、
を有することを特徴とする振動型アクチュエータの制御装置。
【請求項4】
前記振動型アクチュエータの状態量を計測する計測手段と、
前記第1の操作パラメータに含まれる操作パラメータ以外の少なくとも一つの操作パラメータを含む第2の操作パラメータを操作し、前記第1の操作パラメータの周期的変動に起因する前記振動型アクチュエータの状態量の周期的な変動を抑制する制御手段と、
を更に備え、前記振動型アクチュエータの状態量の周期的な変動を抑制する制御手段によって、前記記憶内容に基づく制御手段の制御に付加された制御が可能に構成されていることを特徴とする請求項3に記載の振動型アクチュエータの制御装置。
【請求項1】
電気−機械エネルギー変換素子に交流電圧を印加することによって振動体に振動波を発生させ、前記振動波により前記振動体と接触する移動体を相対移動させる振動型アクチュエータの制御装置であって、
前記振動型アクチュエータの状態量を計測する計測手段と、
前記振動型アクチュエータに印加する交流電圧の周波数、振幅、位相を操作するそれぞれの操作パラメータの内の、少なくとも一つの操作パラメータを含む第1の操作パラメータに、前記移動体の位置又は時間に応じた変動周期で変動を付与する変動付与手段と、
前記第1の操作パラメータに含まれる操作パラメータ以外の少なくとも一つの操作パラメータを含む第2の操作パラメータを操作し、前記第1の操作パラメータの周期的変動に起因する前記振動型アクチュエータの状態量の周期的な変動を抑制する制御手段と、
を有することを特徴とする振動型アクチュエータの制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、繰り返し制御器で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の振動型アクチュエータの制御装置。
【請求項3】
電気−機械エネルギー変換素子に交流電圧を印加することによって振動体に振動波を発生させ、前記振動波により前記振動体と接触する移動体を相対移動させる振動型アクチュエータの制御装置であって、
前記振動型アクチュエータに印加する交流電圧の周波数、振幅、位相を操作するそれぞれの操作パラメータの内の、少なくとも一つの操作パラメータを含む第1の操作パラメータに、前記移動体の位置又は時間に応じた変動周期で変動を付与する変動付与手段と、
前記付与された変動周期の変動によって前記振動型アクチュエータの状態量がどのように変化するのか予め計測した結果を記憶し、
前記記憶した記憶内容と前記変動付与手段の出力に応じて、前記第1の操作パラメータに含まれる操作パラメータ以外の少なくとも一つの操作パラメータを含む第2の操作パラメータを操作し、
前記第1の操作パラメータの周期的変動に起因する前記振動型アクチュエータの状態量の周期的な変動を抑制する記憶内容に基づく制御手段と、
を有することを特徴とする振動型アクチュエータの制御装置。
【請求項4】
前記振動型アクチュエータの状態量を計測する計測手段と、
前記第1の操作パラメータに含まれる操作パラメータ以外の少なくとも一つの操作パラメータを含む第2の操作パラメータを操作し、前記第1の操作パラメータの周期的変動に起因する前記振動型アクチュエータの状態量の周期的な変動を抑制する制御手段と、
を更に備え、前記振動型アクチュエータの状態量の周期的な変動を抑制する制御手段によって、前記記憶内容に基づく制御手段の制御に付加された制御が可能に構成されていることを特徴とする請求項3に記載の振動型アクチュエータの制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2013−90554(P2013−90554A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232175(P2011−232175)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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