説明

振動装置

【課題】従来と同程度以上のキャビテーションを発生可能な、小容量の水の浄化にも適するより小型の振動装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る振動装置は、水の中にキャビテーションを発生させる振動装置100であって、複数の柱状の磁歪素子120と、前記複数の磁歪素子120を固定している非磁性体の固定治具130と、前記複数の磁歪素子120に対して、交流磁場をかける励磁装置150とを備えており、前記磁歪素子120は前記水の中に設置され、前記励磁装置150は前記水の外に設置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁歪素子を用いた振動装置に関し、特に、複数の磁歪素子を用いた振動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波現象は産業上、幅広く利用されているが、その一例として、キャビテーションを用いた大腸菌の滅菌、ウイルスの不活性化等を行う装置が知られている。
【0003】
キャビテーションとは、水を短時間に断熱膨張させた場合に、飽和水蒸気圧以下の圧力状態で無数の小さな気泡が発生・崩壊する現象である。この無数の微小気泡が崩壊したとき、微小空間に大きな圧力衝撃波や、これに相当する熱が生じる。これは、微小気泡が崩壊することによってできた水中の空洞に、気泡周囲の水が殺到し、衝突・分散するためである。このとき発生する圧力衝撃波は、平均圧力1GPa、温度10000Kに達するパルスパワーである。この圧力衝撃波により、細菌を滅菌し、ウイルスを不活性化する効果が生じる。
【0004】
また、光触媒である二酸化チタン(TiO2)粒子を水媒質に添加すると、キャビテーション崩壊時のパルスパワーによって、TiO2が励起し、強力な酸化分解力を示すラジカルが発生する。これは、光触媒に紫外線を照射した場合と同じ現象である。
【0005】
このラジカルは、有機物を高効率で分解でき、その反応性の高さから、細菌の滅菌をはじめとした、環境浄化分野における応用が進んでいる。
【0006】
こうしたキャビテーションを発生させる装置として、従来、超磁歪素子を備える超磁歪アクチュエータを用いた振動装置が知られている(例えば、非特許文献1)。
【0007】
図10は、従来の超磁歪アクチュエータを用いた振動装置の概要を示す図である。
図10に示されるように、従来技術に係る振動装置900は、超磁歪アクチュエータ910と、ピストン913と、シリンダー914とを備える。
【0008】
超磁歪アクチュエータ910は、周囲にコイルが巻き付けられた超磁歪材料(Terfenol−D)である。超磁歪材料(Terfenol−D)は、Tb−Dy−Fe系合金であり、磁場を受けると、長さが伸び、磁場が消えると元の長さに戻るという性質を有する材料である。超磁歪アクチュエータ910が備えるコイルに交流電流が流されることにより、超磁歪材料を貫く交流磁場が発生する。この交流磁場により励磁された超磁歪材料は、交流電流の周期に応じて伸縮を繰り返す。その結果、超磁歪アクチュエータ910は、軸方向に強力な振動をうむ。
【0009】
ピストン913は、超磁歪アクチュエータ910と直接機械的に接合されており、超磁歪アクチュエータ910の振動に応じて、上下に移動する。
【0010】
シリンダー914は、内部に水が満たされたシリンダーであり、ピストン913が上下に移動することにより、シリンダー914内部の水に対して、連続的に断熱膨張及び断熱圧縮が繰り返される。その結果、キャビテーションが発生する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】鈴木 峻, 山田 外史, 上野 敏幸, 柿川 真紀子,“Journal of the Magnetics Society of Japan”,2010年、第34巻、p.131−135
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来技術に係る振動装置900は、大規模な装置を必要とする用途(風呂、クーリングタワーの水)への適用には適しているが、小容量の水の滅菌・不活性効果を目的とするキャビテーションを発生させる場合には構造的に適当とはいえない。
【0013】
振動装置900では、十分な量のキャビテーションを発生させるために、長さ20cm程度の大型の超磁歪アクチュエータ910を使用する。また、大型の超磁歪アクチュエータ910による振動に耐えうるように、ピストン913やシリンダー914の強度を確保する必要がある。そのため、装置自体が重く、大きなものとせざるを得ない。
【0014】
その結果、装置の取り付け場所が限られ、使用の態様に制約が生じるという課題があった。
【0015】
そこで、本発明は、従来と同程度以上のキャビテーションを発生可能な、小容量の水の浄化にも適するより小型の振動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のある局面に係る振動装置は、水の中にキャビテーションを発生させる振動装置であって、複数の柱状の磁歪素子と、前記複数の磁歪素子を固定している非磁性体の固定治具と、前記複数の磁歪素子に対して、交流磁場をかけることで前記磁歪素子を振動させる励磁装置とを備えており、前記磁歪素子は前記水の中に設置され、前記励磁装置は前記水の外に設置される。
【0017】
この構成によると、従来は超磁歪素子による超磁歪アクチュエータ910によりピストンを振動させピストン−シリンダー空間内にキャビテーションを発生させていたのに対し、複数の磁歪素子の両端でキャビテーションを発生させることができる。また、励磁による渦電流の発生を抑制し、より高い周波数で効率よくキャビテーションを発生させることができる。従来と同程度以上のキャビテーションを発生可能な、より小型の振動装置を提供することができる。これに加え、従来技術のようにキャビテーションを発生させる対象となる水を装置内に密閉する必要がなく、滅菌等を行う対象内部に磁歪素子を入れ、外部から励磁するという、従来では不可能な態様で使用できるという効果も生じる。
【0018】
本発明の他の局面に係る振動装置は、前記複数の磁歪素子の各々が、長手方向に同一の向きに固定されている。
【0019】
この構成によると、磁歪素子の長手方向と同一の向きに対して、特に強いキャビテーションを発生させるができる。よって、例えばパイプ内を流れる水流を浄化する場合において、水流の流れに沿ってキャビテーションを発生させることで、浄化効果を高めることができる。さらに、底面積が小さいために、水の流れに対する抵抗が小さく、水の流れ(層流)を乱しにくいという効果も生じる。
【0020】
本発明の他の局面に係る振動装置は、前記複数の磁歪素子の各々が、長手方向に不規則な向きに固定され、前記交流磁場は、回転磁場である。
【0021】
この構成によると、磁歪素子は、全方位に対してキャビテーションを発生させることができる。よって、例えば体内の患部に磁歪素子を埋め込み、又は、カテーテル等で患部へ誘導し、病巣に対して治療を施すような場合において、事前にキャビテーションを発生させるべき向きが不明である場合にも、効率よく細菌の滅菌及びウイルス不活性化の処置を施すことができる。
【0022】
本発明の他の局面に係る振動装置は、前記複数の磁歪素子の各々は、長手方向に放射状に固定されている。
【0023】
この構成によると、放射状に並べられた磁歪素子から生じるキャビテーションが集中する中心付近の滅菌及び不活性化の効果を高めることができる。よって、小型の対象物を殺菌するような用途では、励磁装置の出力をさらに低出力とし、また、磁歪素子の大きさをさらに小型にすることで、振動装置の大きさをより小さくすることができる。
【0024】
本発明のある局面に係る浄化システムは、上記に記載の局面に係る振動装置のうち、少なくとも1つの局面に係る振動装置を複数備えた物としてもよい。
【0025】
この構成によると、特徴の異なる複数の振動装置を、滅菌・不活性化対象の特徴に応じて組み合わせることで、より効率よく滅菌・不活性化の効果を奏することができる。例えば、パイプ内の水流の浄化において、パイプが太くまっすぐな箇所には、流れの抵抗が大きくともキャビテーションの発生効率が高い振動装置を使用し、パイプが細く、折れ曲がる箇所には、水流に対する抵抗の小さな振動装置を使用し、貯水槽のように一定方向の流れが想定できない箇所には、全方位に対してキャビテーションを発生させる振動装置を使用することで、浄化システム全体として、浄化効率と水流の安定とのトレードオフを解消することなどができる。
【発明の効果】
【0026】
従来と同程度以上のキャビテーションを発生可能な、小容量の水の浄化にも適するより小型の振動装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施の形態1〜4に係る、水中にキャビテーションを発生させる振動装置の構成を示す概念図である。
【図2】実施の形態1〜4に係る、磁歪素子の具体例を示す外観図である。
【図3】実施の形態1の変形例に係る、振動装置の構成を示す図である。
【図4】実施の形態1の変形例に係る振動装置を用いて、水流の滅菌を行う利用場面を示す概念図である。
【図5】実施の形態2に係る振動装置の構成を示す図である。
【図6】実施の形態3に係る振動装置の構成を示す図である。
【図7】実施の形態3に係る振動装置の他の構成を示す図である。
【図8】実施の形態4に係る浄化システムの構成を示す図である。
【図9】実施の形態1の他の変形例に係る固定治具の形状を示す図である。
【図10】従来の超磁歪アクチュエータを用いた振動装置の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る振動装置の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0029】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態に係る、水中にキャビテーションを発生させる振動装置の構成を示す概念図である。
【0030】
図1に示されるように、振動装置100は、複数の柱状の磁歪素子120と、複数の磁歪素子に対して交流磁場をかける励磁装置150と、複数の磁歪素子を固定している非磁性体の固定治具130とを備える。
【0031】
磁歪素子120は、柱状(円柱、角柱、その他の柱状形状)をしており、磁歪材料で作られている。磁歪素子120は、長手方向に磁場を受けることで、その長さが伸びる。よって、交流磁場を受けることで、長手方向に伸縮・振動する。
【0032】
なお、磁歪材料としては、具体的には、鉄ガリウム合金(Galfenol)、鉄コバルト合金、鉄アルミニウム合金等、鉄と希土類以外の合金が考えられる。これらは、延性材料としての性質を有するため、(1)割れにくく加工が容易であり、(2)従来の超磁歪材料(鉄と希土類の合金)よりも透磁率が高い(よって、非接触により従来よりも弱い磁場で励磁できる)、という利点がある。なお、磁歪素子120として、従来の超磁歪材料(例えば、Tb−Dy−Fe系合金)を使用してもよく、以後、磁歪材料と超磁歪材料との双方を、磁歪材料と呼ぶ。
【0033】
励磁装置150は、水を入れた容器(図示なし)に沈められた複数の磁歪素子120に対して、水の外から非接触で、同一の交流磁場をかける。
【0034】
ここで、同一の交流磁場とは、1台の励磁装置150から出力される磁場である。具体的には、周期及び位相が一致し、磁場の向きも一致した交流磁場となる。
【0035】
なお、励磁装置150は、複数のコイル151を備えてもよい。例えば、コイルの巻方向がそろった複数のコイル151を並行に並べ、これらに、交流電源152を並列に接続することにより、交流磁場を発生させてもよい。
【0036】
励磁装置150は、コイル151と、交流電源152とを備える。
コイル151は、例えばヨーク(図示なし)を備えることで、発生する磁場を効率的に磁歪素子120へ向けてもよい。
【0037】
交流電源152は、コイル151に交流電流を流すことで、交流磁場を発生させる。
交流電源152が出力する交流電流の周波数は、磁歪素子120の形状等にも依存するが、例えば数十kHz〜数百kHz程度である。キャビテーションを発生させるには、水中で磁歪素子120を振動させることにより、水中で圧力分布を生じさせ、圧力が負圧となる箇所をつくりだす必要がある。よって、磁歪素子120は、ある限界値以上の周期で水を振動させる必要がある。
【0038】
固定治具130は、複数の磁歪素子120を、特定の向きに固定するための治具である。固定治具130の材質は非磁性体であればよく、塑性体であるか、弾性体であるかを問わない。例えば、ゴムや、硬化性樹脂、FRP(Fiber Reinforced Plastics)等が考えられる。
【0039】
本実施の形態において、固定治具130には、複数の磁歪素子120の各々が、長手方向に同一の向きに固定されている。その際には、磁歪素子120の振動効率を低下させることがないように、磁歪素子120を固定治具130に固定することが望ましい。例えば、磁歪素子120の長手方向の中点で、固定治具130にビス留めし、又は、磁歪素子120の振動を妨げない、弾性材料を固定治具130に用いること等が考えられる。
【0040】
図2は、磁歪素子120の具体例を示す外観図である。
図2(a)は、底面が1mm四方、長さが10mmの角柱状の磁歪素子120aを示す。また、図2(b)は、底面が直径1mm、長さが10mmの円柱状の磁歪素子120bを示す。
【0041】
図2(a)及び図2(b)に示されるように、本実施の形態に係る振動装置100が備える磁歪素子120は、従来の振動装置900が備える超磁歪材料と比較して非常に小型である。すなわち、本実施の形態に係る振動装置100は、長さ数十cm程度の大型の柱状の磁歪素子を1つ使用する代わりに、数ミリ〜数センチ程度の小型の柱状の磁歪素子120を複数備えることが特徴となる。その理由は以下のとおりである。
【0042】
従来の振動装置900は、シリンダー914内部に閉じ込められた水中でキャビテーションを発生させる閉空間型の振動装置である。よって、超磁歪アクチュエータ910はピストンを駆動することでピストン・シリンダー閉空間にキャビテーションを発生させる。一方、本実施の形態に係る振動装置100は、磁歪素子120を水中に沈め、水の外から非接触で励磁することにより、磁歪素子120の両端からキャビテーションを発生させる開空間型の振動装置となる。その結果、同じ底面積で比較すると、キャビテーションの発生効率が格段に向上する。よって、水中に沈めた複数の磁歪素子120を同一の交流磁場で同時に励磁することにより、従来と同程度以上のキャビテーションを発生可能な、より小型の振動装置を提供することができる。
【0043】
そのためには、滅菌・不活性化の対象である水中に磁歪素子120を沈める必要があり、磁歪素子120は十分に小さくなければならない。
【0044】
また、閉空間型の振動装置に必要な振動周波数(数十〜数百Hz)と比較し、開空間型では、水中で負圧を発生させるために必要な振動周波数(数十kHz〜数百kHz)が格段に高くなる。ここで、磁歪素子120が交流磁場に応じて振動可能な振動周波数の上限は、細い磁歪素子120の方が高くすることができる。
【0045】
さらに、一般に、磁性体にかかる磁場の大きさを急激に変化させた際には、電磁誘導効果により磁性体内に渦電流と呼ばれる渦状の電流が生じる。渦電流は周囲の磁場の変化を打ち消す向きに磁場を発生させるため、磁歪素子の振動効率を低下させる要因となる。この渦電流の大きさは、板厚(例えば、磁歪素子120の直径)の2乗に比例して大きくなるため、磁歪素子120の底面積を小さく(磁歪素子120を細く)することで、振動効率の低下を抑えることができる。
【0046】
こうして、開空間型の振動装置として構成することにより、対象となる水を密閉する必要がなく、滅菌・不活性化の対象としたい水中に磁歪素子120を沈め、水の外から非接触に励磁することが可能となるため、キャビテーションの適用場面が広がるという利点も生じる。また、水中では、任意の方向に向けた複数の磁歪素子120を固定治具130に対して固定することができる。よって、例えば3次元的に全方向へ同時にキャビテーションを発生させることができる等、キャビテーションによって細菌の滅菌等を行う際の作業効率及び滅菌等の効果を向上させることができる。
【0047】
なお、振動装置100によりキャビテーションを発生させるためには、少なくとも1〜10μm程度の幅で振動を発生させる必要があるため、磁歪素子120の長さは、少なくとも数mm〜10mm程度のオーダーが必要である。
【0048】
以上述べたように、本実施の形態に係る振動装置100は、水中にキャビテーションを発生させる振動装置100であり、複数の柱状の磁歪素子120と、複数の磁歪素子120を固定している非磁性体の固定治具130と、複数の磁歪素子120に対して、交流磁場をかける励磁装置150とを備えている。ここで、磁歪素子120は水中に設置され、励磁装置150は水の外に設置される。また、複数の磁歪素子120の各々は、長手方向に同一の向きに固定されている。
【0049】
このように、本実施の形態に係る振動装置100は、図2に示されるような小型の磁歪素子120を複数使用することにより、キャビテーションの発生効率を向上させることができる。
【0050】
(実施の形態1の変形例)
なお、実施の形態1に係る振動装置100では、複数の磁歪素子120の向きが同一であればよい。よって、固定治具への固定方法には、例えば以下に述べる変形例も考えられる。
【0051】
図3は、本変形例における、複数の磁歪素子120の固定方法を示す図である。なお、実施の形態1と同一の構成要素については、同一の符号を付け、詳細な説明を省略する。
【0052】
固定治具210は、格子状に貫通孔が空けられた非磁性体(例えば、ゴム、合成樹脂、FRPなど)である。
【0053】
図3に示されるように、複数の磁歪素子120が、長手方向に同一の向きに、かつ、固定治具210の面に対して垂直となるように、複数の貫通孔の少なくとも一部に通され、固定されている。
【0054】
図4は、本変形例に係る固定治具210を備えた振動装置100を用いて、キャビテーションによる水流の滅菌を行う利用場面を示す概念図である。
【0055】
パイプ320には、一方向に水が流されており、その水流の向きに対して垂直となるように(すなわち、磁歪素子120の長手方向が水流の向きと一致するように)固定治具210がパイプ320内に固定されている。水は、固定治具210の貫通孔を通過し、固定治具210の左から右へ流れることができる。
【0056】
ここで、励磁装置150から固定治具210を長手方向に貫くように交流磁場をかけると、固定治具210に固定された複数の磁歪素子120は一斉に振動し、その両端点を中心に、水中にキャビテーションが発生する。その結果、パイプ320を流れる水流に対して、滅菌及びウイルスの不活性化処理を施すことができる。
【0057】
なお、本変形例では、パイプ320を挟んで2つのコイル151を備えた励磁装置150を使用しているが、上記のとおり、この2つのコイル151が出力する交流磁場の周期及び位相が一致するよう、2つのコイル151には、周期及び位相が一致する交流電流が流される。例えば、2つのコイル151の各々は、共通の交流電源152(図示なし)により駆動される。
【0058】
この方式によると、パイプを流れる水中に直接キャビテーションを発生させることができるため、水の流れを止める必要がなく、大量の水に対して効率的に細菌の滅菌及びウイルスの不活性化を行うことができるという利点がある。
【0059】
さらに、磁歪素子の長手方向と同一の向きに対して、特に強いキャビテーションを発生させることができる。よって、例えばパイプ内を流れる水流を浄化する場合において、水流の流れに沿ってキャビテーションを発生させることで、浄化効果を高めることができる。さらに、底面積が小さいために、水の流れに対する抵抗が小さく、水の流れ(層流)を乱しにくいという効果も生じる。
【0060】
(実施の形態2)
実施の形態1及びその変形例に係る振動装置100は、特定の向きに対してキャビテーションを発生させる。一方、本実施の形態に係る振動装置100は、全周囲へ均等にキャビテーションを発生させる。
【0061】
図5は、本実施の形態に係る振動装置100の構成を示す図である。なお、実施の形態1と同一の構成要素については、同一の符号を付け、詳細な説明を省略する。
【0062】
図5に示されるように、本実施の形態に係る振動装置100は、固定治具330でランダム方向に固定された複数の磁歪素子120と、複数のコイル151a〜コイル151dを有する励磁装置150とを備える。複数の磁歪素子120は、キャビテーションを発生させる対象である水中に浸されている。
【0063】
固定治具330は、非磁性体の素材であって、水を通す形状であり、複数の磁歪素子120をランダム方向に固定可能な治具である。たとえば、固定治具330を非磁性体の素材でつくられたメッシュ状のかごとすることが考えられる。その場合、各かごの中に、ランダムな方向に磁歪素子120を詰めることで、磁歪素子120を固定することができる。また、固定治具330を非磁性体の金属ワイヤーメッシュ(例えば、金属たわしのようなもの)として、これに突き刺すようにして、複数の磁歪素子120を固定してもよい。
【0064】
なお、ここでいう「ランダム」とは、厳密に数学的意味での乱数により決定された方向でなくとも、各々の磁歪素子120が不規則な方向に固定されていればよい。
【0065】
図5に示されるように、本実施の形態に係る励磁装置150は、固定治具330を取り囲むように、4つのコイル151a〜コイル151dを90度ずつずらして配置する。このとき、コイルの各々は、磁歪素子120及び固定治具330に対して、コイルの底面が相対するように配置される。
【0066】
これらコイル151a〜コイル151dを備える励磁装置150は、水中に固定された複数の磁歪素子120に対して、同一周期、同一位相であり、かつ、対面位置にあるコイル同士で磁場の向きが同一となる交流磁場を発生させる。また、より好ましくは、コイル151a〜コイル151dは、異なる周波数、位相をもつ交流磁場によりランダムな方向に磁界を発生させてもよい。ランダムな方向の磁界を発生させることにより、ランダムな方向に固定された複数の磁歪素子120をより効率よく振動させ、磁歪素子120の両端からキャビテーションを発生させることができるためである。
【0067】
これにより、全方向に対して1度にキャビテーションを発生させることができるため、滅菌・不活性化の時間を短縮し、また消費する電力をより省電力化することができる。また、固定治具330に封入された複数の磁歪素子120を、例えばカテーテルの先端に取り付け人体内に挿入し、又は、外科手術により患部に埋め込んだのち、外部から励磁する場合のように、キャビテーションを発生させるべき方向が事前に不明である場合にも、効率よく、人体へ負担を掛けずに治療することが可能となる。
【0068】
なお、前述のとおり、本実施の形態に係るコイル151a〜コイル151dが発生させる磁場は、必ずしもすべて同位相でなくともよく、位相及び周波数が異なっていてもよい。
【0069】
例えば、4つのコイルのうち、対面に位置する2つのコイルが発生させる磁場が同位相であり、かつ、一方のコイルの組が発生させる磁場と、他方のコイルの組が発生させる磁場とは、位相が90度ずれていてもよい。より具体的には、例えばコイル151a〜コイル151dを同一の交流電源152(図示なし)に接続し、コイル151bとコイル151dには、さらに、交流電源152との間に位相が90度ずれるようにコンデンサを挿入することなどが考えられる。これにより、固定治具330の周囲に回転磁場である交流磁場を発生させることができる。その結果、ランダムな向きに固定されている複数の磁歪素子120に対して、その各々を貫く向きに磁場をかけることができ、より効率的に磁歪素子120を振動させることができる。
【0070】
また、コイル151a〜コイル151dが配置された平面に対して直交する平面上であって、固定治具330を取り囲む位置に、さらに4つのコイルを90度ずつずらして配置してもよい。これにより、さらに正確に、磁歪素子120各々を貫く向きに磁場を発生させることができ、より効率的に磁歪素子120を振動させることができる。
【0071】
なお、固定治具330は、図5では立方体として示されているが、球状や表面に凹凸のある形状等、複数の磁歪素子120を不規則な方向に固定でき、かつ、磁歪素子120の振動を妨げない形状であれば、他の任意の立体形状であってもよい。
【0072】
(実施の形態3)
実施の形態2に係る振動装置100は、複数の磁歪素子の各々を、長手方向に不規則な向きに固定することにより、多様な方向に対して同時にキャビテーションを発生させることを目的とした。一方、本実施の形態に係る振動装置100は、1箇所にキャビテーションを集中させることで、滅菌・不活性化の能力を高めることを目的とする。
【0073】
図6は、本実施の形態に係る振動装置100の構成を示す図である。なお、実施の形態1と同一の構成要素については、同一の符号を付け、詳細な説明を省略する。
【0074】
図6に示されるように、本実施の形態に係る振動装置100は、環状の固定治具220と、複数の磁歪素子120と、コイル151a〜コイル151dを有する励磁装置150とを備える。
【0075】
複数の磁歪素子120の各々は、一方の端が固定治具220による環の中心方向を向くように、長手方向に放射状に、固定治具220へ固定されている。
【0076】
これら複数の磁歪素子120が固定された固定治具220に対して、4つのコイル151a〜コイル151dは、同一の交流磁場を発生させることで、複数の磁歪素子120の各々を振動させる。その結果、磁歪素子120の両端を中心にキャビテーションが発生する。本実施の形態に係る振動装置100では、磁歪素子120が放射状に配置されていることから、固定治具220による環の中心に、最も強い滅菌・不活性化作用が生じる。
【0077】
このように、複数のキャビテーションを1箇所に集めることで、より強い滅菌・不活性化作用を生じる振動装置100を実現できる。また、小型の対象物を殺菌するような用途では、励磁装置の出力をさらに低出力とし、また、磁歪素子の大きさをさらに小型にすることで、振動装置の大きさをより小さくすることができる。
【0078】
なお、実施の形態3と同様に、本実施の形態に係る励磁装置150も、回転磁場を発生させることで、より効率よく、複数の磁歪素子120を振動させることができる。すなわち、コイル151a及びコイル151cからなるコイルの組と、コイル151b及びコイル151dからなるコイルの組とで、90度位相の異なる交流電流を加えることにより、図6に示されるような回転磁界を発生させることが好ましい。これにより、すべての方向の磁歪素子120を、より効率よく励磁し、振動させることができる。その結果、同程度のキャビテーションをより小型の振動装置100によって発生させることができる。
【0079】
また、本実施の形態に係る振動装置100は、例えば図7に示されるような構成であってもよい。
【0080】
図7は、実施の形態3に係る振動装置の他の構成を示す図である。
図7(a)に示されるように、磁歪素子120が、その長手軸が中心へ向かうよう環状に分散し配置される。ここで、図7(b)にA−A’の断面を示す。
【0081】
図7(b)に示されるように、異なる半径をもつ複数の同心円状のヨークを備えたコイルを上下から挟むように、上下2つの磁歪素子120が固定治具220に固定されている。コイルに交流電流を流すことで、例えば矢印で示されるように、磁歪素子120を長手方向に貫く向きに交流磁場が発生する。
【0082】
ここで、上下の磁歪素子120では、磁界の向きが異なるが、同じ正の伸びが発生する。よって,振動子全部が中心へ向かうような音波を発生する。これにより、これよりキャビテーションの効果を中心に集中させることができる。よって、固定治具220の内側に入れられた水を、効率よく浄化することができる。
【0083】
なお、固定治具220の外部においては,同心円に広がる音波を発生する。よって、固定治具220の外側に水がある場合(たとえば、振動装置100が水に浸されている場合など)には、外側の水を浄化することもできる。よって、例えば、より浄化の必要性が高い水を固定治具220の内側に流し、浄化の必要性は劣るが量が大量の水を固定治具220の外側に流すことにより、1つの振動装置100で、浄化の必要性が異なる2つの水流に対して浄化処理を施すことができる。
【0084】
(実施の形態4)
次に、実施の形態1〜3で述べた振動装置100を複数使用する浄化システムについて述べる。
【0085】
図8は、本実施の形態に係る振動装置100を備えた浄化システムの構成を示す図である。なお、実施の形態1と同一の構成要素については、同一の符号を付け、詳細な説明を省略する。
【0086】
図8に示されるように、浄化システム800は、複数の振動装置100と、タンク410と、パイプ411と、ポンプ412とを備える。タンク410に蓄えられた水は、ポンプ412によってパイプ411の中を循環する。また、複数の振動装置100は、パイプ411の途中に設置される。
【0087】
振動装置100は、複数の磁歪素子120と、固定治具と、励磁装置150とを備える。
【0088】
各々の振動装置100は、例えば、実施の形態1〜3に係る振動装置100のうちの、いずれかを使用してもよく、他の任意の振動装置を使用してもよい。
【0089】
複数の振動装置100を並べて使用することにより、パイプ411の形状や大きさにかかわらず、タンク410に蓄えられる水を浄化するために必要十分なキャビテーションを発生させることができる。すなわち、浄化システム800のスケーラビリティを容易に確保することができる。
【0090】
また、異なる配置の磁歪素子120を備える振動装置100を組み合わせることにより、水流中に乱流を発生させにくい構造の浄化システム800とすること等も考えられる。
【0091】
一般に、パイプ411中に磁歪素子120を備えた固定治具を設置することで、水の流れが乱され、層流から乱流に変化することが考えられる。乱流の発生は、パイプ411の破損等につながるおそれがある。よって、例えば、パイプ411の直径が太い箇所や、一定方向への流れのないタンク410等では、浄化効率を優先して、磁歪素子120がランダムに突き出した、いびつな形状の振動装置100(例えば実施の形態2)を設置し、パイプ411が細くなる、又は、折れ曲がる箇所に近づくにつれ、磁歪素子120が水流を乱しにくいように配置された振動装置100(例えば実施の形態1)を設置することで浄化システム800を構成してもよい。
【0092】
なお、実施の形態1〜4及びその変形例に係る振動装置100が備える励磁装置150の数は、例示であり、1以上の任意の数の励磁装置150を備えてよい。ただし、2台の励磁装置150によって発生する磁場の向きが、磁歪素子120が固定される位置において、各々逆向きとなることがないように、励磁装置150を配置する必要がある。磁場が弱まり、磁歪素子120が発生させるキャビテーションが減少することを防ぐためである。
【0093】
また、実施の形態1〜4及びその変形例に係る固定治具の形状は例示である。例えば、実施の形態1の変形例に係る固定治具は、図3に平面形状として示されるが、必ずしも平面形状でなくともよい。例えば、図9に示される球体のように、厚みのある固定治具を用いてもよい。その場合、固定治具は、磁歪素子120の振動を妨げない、弾性体であることが望ましい。
【0094】
また、実施の形態1〜4及びその変形例において、コイル151を複数使用する場合には、各々のコイル151が必ずしも別々の交流電源152に接続されずともよく、2つ以上のコイル151が1台の交流電源152を共有してもよい。
【0095】
なお、実施の形態1〜4及びその変形例において、複数の磁歪素子120の少なくとも一部を、励磁装置150が備えるコイルの内側に配置してもよい。例えば、図4を参照して、励磁装置150は、複数の磁歪素子120が内部に設置されたパイプ320の外側に巻回されたコイル151を備えるとしてもよい。また、図8を参照して、複数の振動装置100の各々が備える励磁装置150は、パイプ411の外側に巻回されたコイル151を備えるとしてもよい。一般にコイル内側に発生する磁界は、コイル外部に発生する磁界より、より強力であるため、より効率よく磁歪素子120を振動させることができる。
【0096】
また、実施の形態1〜4及びその変形例に係る振動装置100を、主に水の浄化(細菌の滅菌・ウイルスの不活性化)を目的とした装置として記載したが、本願発明は、その他にも超音波現象を利用する一般的な装置の代用として、広く利用可能である。たとえば、コンタクトレンズ及び眼鏡等の日用品の洗浄、機械部品の研磨・洗浄、非破壊検査装置、内視鏡やカテーテルの先端に取り付け患部の治療等を行うための医療器具等に適用してもよい。
【0097】
また、上記図1〜図8において、各構成要素の角部及び辺を直線的に記載しているが、製造上の理由により、角部及び辺が丸みをおびたものも本発明に含まれる。
【0098】
また、上記実施の形態1〜4及びその変形例に係る、振動装置100の機能のうち少なくとも一部を組み合わせてもよい。
【0099】
さらに、本発明の主旨を逸脱しない限り、本実施の形態1〜4及びその変形例に対して当業者が思いつく範囲内の変更を施した各種変形例も本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、複数の磁歪素子を用いてキャビテーションを発生させる振動装置に適用できる。
【符号の説明】
【0101】
100、900 振動装置
120、120a、120b 磁歪素子
130、210、220、330 固定治具
150 励磁装置
151、151a、151b、151c、151d コイル
152 交流電源
320、411 パイプ
410 タンク
412 ポンプ
800 浄化システム
910 超磁歪アクチュエータ
913 ピストン
914 シリンダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水の中にキャビテーションを発生させる振動装置であって、
複数の柱状の磁歪素子と、
前記複数の磁歪素子を固定している非磁性体の固定治具と、
前記複数の磁歪素子に対して、交流磁場をかけることで前記磁歪素子を振動させる励磁装置とを備えており、
前記磁歪素子は前記水の中に設置され、
前記励磁装置は前記水の外に設置される
振動装置。
【請求項2】
前記複数の磁歪素子の各々は、長手方向に同一の向きに固定されている
請求項1に記載の振動装置。
【請求項3】
前記複数の磁歪素子の各々は、長手方向に不規則な向きに固定され、
前記交流磁場は、回転磁場である
請求項1に記載の振動装置。
【請求項4】
前記複数の磁歪素子の各々は、長手方向に放射状に固定されている
請求項1に記載の振動装置。
【請求項5】
請求項1〜4の少なくとも1項に記載の振動装置を複数備える
浄化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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