説明

挿入器具の湾曲操作装置

【課題】簡便で操作性に優れた挿入器具の湾曲操作装置を得る。
【解決手段】挿入器具の操作部に設けた固定部材;この固定部材に対してジョイント部を介して傾動可能に支持された操作桿部材;ジョイント部の周囲に配設されて操作桿部材に接続し、該操作桿部材の正逆方向の傾動により、一方が牽引され他方が弛緩して上記湾曲部を湾曲させる少なくとも一対の湾曲操作ワイヤ;及び、固定部材に対し、操作桿部材に接離する方向へ位置調整可能に支持され、該操作桿部材に当接して傾動を規制し、その位置変化により操作桿部材の最大傾動角を変化させる角度制御部材;を備えたことを特徴とする湾曲操作装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡や処置具などの挿入器具において、挿入部を構成する湾曲部の湾曲操作を行わせる操作装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の挿入器具の湾曲操作装置として、回動操作可能な2つのダイヤルを組み合わせて操作して湾曲部を任意の方向に曲げるタイプが知られている。しかし、湾曲させようとする方向が各ダイヤルによる湾曲操作方向の中間(斜め方向)である場合に直感的に操作することが難しい、湾曲部の向きを迅速に変えることが難しい、といった点で操作性の向上が望まれていた。これを解決するものとして、特許文献1では、ジョイステック型の操作桿の傾動によって湾曲操作を行うタイプの湾曲(首振り)操作装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−341258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
湾曲操作装置では、湾曲量の微妙な操作が要求される場合が多く、また用途に応じて操作量も異なるため、上記のような操作桿タイプの湾曲操作部材において、その可動量を簡易な構成で調整できることが望まれていた。
【0005】
そこで本発明は、操作桿タイプの湾曲操作部材の可動量を簡単かつ高精度に調整することができ、簡便で操作性に優れた湾曲操作装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、操作部と、該操作部から延設され可撓性を有する挿入部と、該挿入部の一部を構成し湾曲操作可能な湾曲部とを備えた挿入器具の湾曲操作装置において、操作部に設けた固定部材;この固定部材に対してジョイント部を介して傾動可能に支持された操作桿部材;ジョイント部の周囲に配設されて操作桿部材に接続し、該操作桿部材の正逆方向の傾動により、一方が牽引され他方が弛緩して上記湾曲部を湾曲させる少なくとも一対の湾曲操作ワイヤ;及び、固定部材に対し、操作桿部材に接離する方向へ位置調整可能に支持され、該操作桿部材に当接して傾動を規制し、その位置変化により操作桿部材の最大傾動角を変化させる角度制御部材;を備えたことを特徴としている。
【0007】
角度制御部材の位置調整機構は、例えば次のように構成することができる。まず固定部材に対して固定され、ジョイント部を囲む内面ネジ部を有する環状支持部材を設ける。角度制御部材は、該環状支持部材の内面ネジ部に対して螺合される外面ネジ部を備える。そして、角度制御部材は、この内面ネジ部と外面ネジ部の螺合関係によって、回転しながら円筒部の軸方向へ位置変化される。この態様の角度制御部材を採用した場合、操作桿部材の基部に、角度制御部材の軸方向端面に対向する円筒部を有し、該円筒部の端面と角度制御部材の軸方向端面の当接によって操作桿部材の傾動を規制させることが好ましい。また、環状支持部材には、湾曲操作ワイヤを挿通させるワイヤガイド溝を形成することが好ましい。
【0008】
角度制御部材の位置調整機構の異なる態様として、次のような構成にすることもできる。角度制御部材は、ジョイント部を囲み固定部材に対して固定される環状固定部と、該環状固定部の軸方向端部に支持された弾性変形可能な環状当接部と、環状固定部の軸方向端部からの突出量を変化させて環状当接部を押圧変形させる、環状固定部の周方向に位置を異ならせて設けた複数の突出調整部材とを備える。突出調整部材の突出量を変化させることで、当該部分で押圧変形された環状当接部の軸方向位置が変位され、その結果として操作桿部材の最大傾動角を変化させることができる。この態様の角度制御部材を採用した場合、操作桿部材の基部に、角度制御部材の環状当接部に対向する円筒部を有し、該円筒部の端面と環状当接部の当接によって操作桿部材の傾動が規制されるように構成するとよい。さらに、固定部材に対して固定され、角度制御部材の環状固定部を囲んで支持する環状支持部材を備え、該環状支持部材に、湾曲操作ワイヤを挿通させるワイヤガイド溝を形成することが好ましい。
【0009】
また、一対の湾曲操作ワイヤの牽引量が均等である角度位置に操作桿部材を付勢して保持させる復帰手段を備えることが好ましい。具体的には、内部にそれぞれ湾曲操作ワイヤが挿通され、固定部材と操作桿部材に一端部と他端部が固定された少なくとも一対のコイルバネによって復帰手段を構成することができる。このコイルバネによると、湾曲操作ワイヤの座屈や遊びを防ぐ効果も得られる。
【0010】
さらに、湾曲操作ワイヤのうち、固定部材と操作桿部材の間の少なくとも一部の領域を座屈防止チューブで覆うと、より好ましい。
【0011】
操作部には、湾曲操作ワイヤを挟着してその進退に抵抗を与えるブレーキ状態と、該湾曲操作ワイヤの挟着を解除したブレーキ解除状態とに操作可能なブレーキ機構を備えるとよい。
【0012】
ジョイント部は、直交関係にある2軸で操作桿部材を支持することで、操作桿部材を任意の方向へ傾動させることが可能になる。その場合、このジョイント部を中心として略等角度間隔で4本(2対)の湾曲操作ワイヤが配設するとよい。
【発明の効果】
【0013】
以上の本発明によれば、操作桿部材の採用により操作性を向上させつつ、その可動量を簡単な構成で高精度に制御することができ、簡便で操作性に優れた挿入器具の湾曲操作装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による湾曲操作装置を備えた内視鏡の全体構造を示す図である。
【図2】内視鏡の操作部においてベローズを取り外して湾曲操作機構部を示した斜視図である。
【図3】湾曲操作機構部の軸方向断面図である。
【図4】湾曲操作ワイヤに対するブレーキ機構の作用を示す、湾曲操作機構部の軸方向断面図である。
【図5】スティックが中立位置にあるときの湾曲操作機構部の要部の状態を示す断面図である。
【図6】スティックを傾動させて湾曲部の湾曲操作を行ったときの湾曲操作機構部の要部の状態を示す断面図である。
【図7】湾曲操作機構部においてスティックの傾動角を規制する角度制御部材と、該角度制御部材がネジ螺合される環状支持部材を組み合わせた状態の斜視図である。
【図8】環状支持部材から角度制御部材を取り外した状態を示す斜視図である。
【図9】スティックが中立位置にあるときの角度制御部材との関係を示す、湾曲操作機構部の要部の側面図である。
【図10】角度制御部材によるスティックの傾動規制が機能している状態を示す、湾曲操作機構部の要部の側面図である。
【図11】角度制御部材の軸方向位置変化によりスティックの最大傾動角が変化した状態を示す、湾曲操作機構部の要部の側面図である。
【図12】角度制御部材の異なる実施形態を示す、スティックが中立位置にあるときの湾曲操作機構部の要部の側面図である。
【図13】図12の角度制御部材において調整ネジの位置調整によりスティックの最大傾動角を変化させた状態を示す、湾曲操作機構部の要部の側面図である。
【図14】湾曲操作ワイヤの外側に座屈防止チューブを備えないタイプの湾曲操作機構部の要部を示す断面図である。
【図15】湾曲操作ワイヤの外側に座屈防止チューブと復帰バネを備えないタイプの湾曲操作機構部の要部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明を適用した挿入器具の一例である医療用内視鏡10の全体構造を示している。内視鏡10は、操作部11と、操作部11から延びる可撓挿入部12と、可撓挿入部12の先端に位置する湾曲部13を有している。湾曲部13の先端には、対物光学系などを有する先端部19が設けられている。操作部11は、筒状のグリップ14、ブレーキグリップ15、湾曲操作機構部16を有し、湾曲操作機構部16から操作部11の中心軸11x方向に湾曲操作用のスティック(操作桿部材)17が突出している。湾曲操作機構部16の外側は蛇腹状のベローズ18で覆われている。可撓挿入部12は可撓性を有して自在な形状をとることができ、湾曲部13はさらに、スティック17の操作によって湾曲操作機構部16を介して湾曲操作を行うことが可能になっている。以下、その湾曲操作機構の詳細を説明する。
【0016】
図2はベローズ18を取り外した状態の湾曲操作機構部16を示し、図3は湾曲操作機構部16の内部構造を示している。湾曲操作機構部16は、グリップ14の本体部に対して固定された下部ベース(固定部材)20と、スティック17の基端部が固定された上部ベース(操作桿部材の基部)21を中心軸11x方向に離間させて備えており、下部ベース20と上部ベース21がユニバーサルジョイント(ジョイント部)22を介して接続されている。ユニバーサルジョイント22は、下部ベース20の円筒部20a内に固定された下部パーツ22aと、上部ベース21の下方突出円筒部21a内に固定された上部パーツ22bを、互いに直交する関係にある第1傾動軸22x1と第2傾動軸22x2(図5及び図6に一点鎖線で示す)を中心として傾動可能に接続した構造になっている。
【0017】
上部ベース21と下部ベース20の間には、4本の湾曲操作ワイヤ23が通されている。上部ベース21には、各湾曲操作ワイヤ23を挿通させる貫通穴21bが形成され、貫通穴21bを通された各湾曲操作ワイヤ23の端部が、ワイヤ留め部材24によって固定されている。上部ベース21と下部ベース20の間において、4本の湾曲操作ワイヤ23は、ユニバーサルジョイント22の周りに、操作部11の中心軸11xを中心として周方向に等角度間隔で設けられており、下部ベース20に形成した貫通穴20bを通ってグリップ14内に延びている。より詳細には、ユニバーサルジョイント22の第1傾動軸22x1を挟む位置(第2傾動軸22x2の延長上)に一対の湾曲操作ワイヤ23が配され、第2傾動軸22x2を挟んで(第1傾動軸22x1の延長上に)残る一対の湾曲操作ワイヤ23が配されている。各湾曲操作ワイヤ23はさらに、可撓挿入部12内を通されて、先端部19内に設けたワイヤ接続部材(不図示)に接続している。湾曲部13内には、回転軸で接続された複数の節輪(不図示)が長手方向に連続して設けられており、ワイヤ接続部材に対して湾曲操作ワイヤ23の牽引力が作用すると、複数の節輪が回転軸回りに揺動し、湾曲部13が湾曲される。このような湾曲部内での湾曲機構は周知のものであり、詳細な説明は省略する。
【0018】
図3や図5に示すように、下部ベース20の貫通穴20bと上部ベース21の貫通穴21bにはそれぞれバネ留め部材25、26が固定されており、バネ留め部材25とバネ留め部材26により復帰バネ(復帰手段)27の両端部が支持固定されている。復帰バネ27は引張コイルバネであり、その内部に湾曲操作ワイヤ23が挿通されている。つまり、計4本の湾曲操作ワイヤ23に対応する4つの復帰バネ27が設けられている。また、下部ベース20の貫通穴20bとバネ留め部材25の間には座屈防止チューブ28の端部が挿入され、座屈防止チューブ28は、各復帰バネ27のうち、下部ベース20から突出して上部ベース21に向かう一部領域を覆っている。
【0019】
湾曲部13が湾曲されていないとき、湾曲操作機構部16は図5及び図9の中立状態にあって、上部ベース21が下部ベース20に対して略平行になっており、スティック17の軸線の方向が操作部11の中心軸11xと略一致している。このとき、4本の湾曲操作ワイヤ23には均等なテンションがかかっている。この中立位置からスティック17を図6及び図10に示す矢印F1方向に倒すと、ユニバーサルジョイント22の第1傾動軸22x1を中心に、上部ベース21が図中の右下がり方向へ傾動される。すると、第1傾動軸22x1を挟む対称位置にある一対の湾曲操作ワイヤ23のうち一方の湾曲操作ワイヤ23Aは、該湾曲操作ワイヤ23Aの端部が固定されるワイヤ留め部材24が下部ベース20に対して接近することにより、弛緩される。他方の湾曲操作ワイヤ23Bは、該湾曲操作ワイヤ23Bの端部が固定されるワイヤ留め部材24が下部ベース20に対して離間するため、図6及び図10に矢印F2で示す方向に牽引される。その結果、この湾曲操作ワイヤ23Bにおけるワイヤ牽引力が湾曲部13側の前述した湾曲機構に伝えられ、湾曲部13の湾曲動作が生じる。図6及び図10の矢印F1とは反対方向F1′にスティック17を倒すと、反対側の湾曲操作ワイヤ23Aが牽引され、湾曲部13が、湾曲操作ワイヤ23Bの牽引時とは逆方向に湾曲する。例えば、第1傾動軸22x1を中心として、図1に示す矢印F1、F1′方向にスティック17を傾動させると、湾曲部13が矢印G1、G1′方向に湾曲される。
【0020】
スティック17はさらに第1傾動軸22x1に直交する第2傾動軸22x2を中心とした傾動動作を行わせることも可能である。スティック17を介して第2傾動軸22x2を中心とする正逆方向の傾動を上部ベース21に与えると、図5や図6に示す一対の湾曲操作ワイヤ23A、湾曲操作ワイヤ23Bとは別の(第1傾動軸22x1の延長上に位置する)一対の湾曲操作ワイヤ23の一方と他方が牽引され、湾曲操作ワイヤ23A、湾曲操作ワイヤ23Bの牽引操作時とは略直交する方向(平面内)で、正逆に湾曲部13が湾曲される。例えば、第2傾動軸22x2を中心として、図1に示す矢印M1、M1′方向にスティック17を傾動させると、湾曲部13がN1、N1′方向に湾曲される。
【0021】
よって、スティック17を任意の方向に傾ける操作を行うことによって、上記の湾曲操作方向G1、G1′、N1、N1′はもちろん、これらの中間の方向も含めた任意の方向へ湾曲部13を曲げることができる。その際、スティック17の傾動角の大きさによって湾曲部13の湾曲量(湾曲角)の大小を調整することができる。このように、操作部11の中心軸11xに対するスティック17の傾動操作によって湾曲部13を湾曲させる構造としたことで、スティック17の傾動の方向と傾動の大きさが湾曲部13の湾曲方向や湾曲量を直接的に示すようになり、湾曲方向や湾曲量を感覚的に把握しやすくなる。また、複数の回転ダイヤルを組み合わせて操作するタイプの湾曲操作装置に比べて、意図する方向へ迅速に湾曲させることが容易になる。
【0022】
各湾曲操作ワイヤ23が挿通される4本の復帰バネ27は、スティック17と上部ベース21の結合体を図5及び図9の中立位置に付勢する復帰手段を構成している。各復帰バネ27は、その自由状態での長さ(初期長)が、スティック17が最大限倒されたときに最も接近するバネ留め部材25、26の間隔よりも若干短く設定されており、常にスティック17側の上部ベース21を下部ベース20側に引きつけさせる圧縮方向への力が作用している。例えば、図6及び図10におけるスティック17のF1方向への傾動操作状態では、牽引された湾曲操作ワイヤ23Bを囲む復帰バネ27と、弛緩された湾曲操作ワイヤ23Aを囲む復帰バネ27のいずれも初期長よりも伸ばされており、それぞれ図6に矢印F3、F4で示すバネ圧縮方向(バネ復元方向)の力が働いている。但し、牽引側の湾曲操作ワイヤ23Bを囲む復帰バネ27の方が初期長からの変位量が大きいので、バネ復元力F3はバネ復元力F4よりも大きい。よって、スティック17から手を離すと、それぞれの復帰バネ27が初期長に復元しようとする力によって、上部ベース21及びスティック17が傾動操作前の中立位置(図5、図9)に復帰し、各湾曲操作ワイヤ23に作用するテンションが均等になり、その結果、湾曲部13の湾曲状態が解除される。図示しないが、第2傾動軸22x2を中心とするスティック17の傾動方向に関しても同様に、第2傾動軸22x2を挟んで位置する一対の復帰バネ27によって、スティック17が中立位置に向けて付勢され、スティック17から手を離した状態では該中立位置に保持され、第2傾動軸22x2を挟んで位置する一対の湾曲操作ワイヤ23に作用するテンションが均等になる。そして、再びスティック17を操作するまでは、計4本の復帰バネ27による力のバランスが維持され、スティック17はその軸線を中心軸11xと略一致させる中立位置に保持される。
【0023】
また、座屈防止チューブ28は、その内部に挿通される湾曲操作ワイヤ23の座屈防止手段として機能する。特に、対をなす湾曲操作ワイヤ23で一方が牽引され他方が弛緩されるとき、弛緩される側の湾曲操作ワイヤ23における座屈や遊び(弛み)を座屈防止チューブ28によって効果的に防ぐことができる。例えば、図6において、弛緩される側の湾曲操作ワイヤ23Aが座屈してしまうと、該湾曲操作ワイヤ23Aを可撓挿入部12や湾曲部13内へスムーズに送り出すことができず、湾曲操作の妨げになるおそれがあるが、座屈防止チューブ28で覆うことによって、このような座屈を効果的に防ぐことができる。また、復帰バネ27にも同様に湾曲操作ワイヤ23の座屈や遊びを防ぐ効果がある。
【0024】
湾曲操作機構部16はさらに、スティック17による湾曲部13の湾曲操作量を制御するための角度制御部材30を備えている。図7及び図8に示すように、角度制御部材30は、外周面にネジが形成された円筒状の外面ネジ部30aと、外面ネジ部の上部に位置する上端環部30bを有しており、上端環部30bの軸方向端面として、操作部11の中心軸11xに対して略直交する環状平面からなる傾動規制面34が形成されている。角度制御部材30の外面ネジ部30aは、ユニバーサルジョイント22を囲む円筒状をなし、その外周面に形成したネジ(外面ネジ)が、環状支持部材32の内面ネジ部32aに形成したネジ(内面ネジ)に対して螺合している。環状支持部材32は、角度制御部材30を囲む環状体であり、内面ネジ部32aから外径方向に突出する4つの扇状の鍔部32bを周方向に略等間隔で有し、それぞれの鍔部32bが、下部ベース20との間に挿入した計4つの支持脚35によって支持されている。支持脚35の内部にはネジ穴が形成されており、鍔部32に形成したネジ挿通穴37を通して支持脚35のネジ穴に固定ネジ36(図3)を螺合させることで、環状支持部材32と支持脚35が固定される、支持脚35はさらに下部ベース20に対してネジ留めされる。これにより、環状支持部材32が支持脚35を介して下部ベース20に対して固定される。4つの支持脚35に外接する態様で円環状のガイドリング31が支持され、このガイドリング31に対して、角度制御部材30の外面ネジ部30aが相対回転及び軸方向移動可能に挿入されている。つまり、環状支持部材32とガイドリング31が下部ベース20側に固定された部材であるのに対し、角度制御部材30は、操作部11の中心軸11xを中心とする回転を与えると、外面ネジ部30aと内面ネジ部32aの螺合関係によって、図3に実線と一点鎖線で示すように該中心軸11xに沿う方向(スティック17と上部ベース21の結合体に対して接離する方向)へ昇降移動される。なお、角度制御部材30の上端環部30bは、環状支持部材32の内面ネジ部32aよりも大径であるため、この上端環部30bが環状支持部材32の上端部に当接する位置(図3の実線位置、図7及び図9の位置)よりも下方(下部ベース20への接近方向)への、角度制御部材30の移動は規制される。
【0025】
環状支持部材32の4つの鍔部32bの間には、外径側から内径側に近付くにつれて徐々に幅を狭くするV字状のワイヤガイド溝33が形成されている。4箇所設けられたワイヤガイド溝33には、それぞれ湾曲操作ワイヤ23が通されており、湾曲操作ワイヤ23の捩れや倒れなどを防止して正しい軌跡でのワイヤ配置に寄与している。なお、図2や図9に示すように、座屈防止チューブ28は、このワイヤガイド溝33の高さ位置に達する長さを有しており、実際には、湾曲操作ワイヤ23が直接にワイヤガイド溝33に接触するのではなく、座屈防止チューブ28がワイヤガイド溝33に係合している。これにより湾曲操作ワイヤ23が摩耗などから保護されている。
【0026】
図10に示すように、スティック17を中立位置から最大傾動角θ1まで傾動させたとき、上部ベース21の下方突出円筒部21aが角度制御部材30の傾動規制面34に当接し、それ以上の傾動が規制される。下方突出円筒部21aにおける傾動規制面34との当接部分は、下方突出円筒部21aの先端側に進むにつれて外径サイズを小さくする円錐面部21cとなっている。そして、図11のように、外面ネジ部30aと内面ネジ部32aのネジ螺合関係に従って角度制御部材30を上部ベース21への接近方向へ移動させると、下方突出円筒部21aの円錐面部21cが傾動規制面34に当接するまでのスティック17の最大傾動角θ2(可動量)が小さくなる。図示しないが、逆に角度制御部材30を下部ベース20への接近方向へ移動させると、下方突出円筒部21aの円錐面部21cが傾動規制面34に当接するまでのスティック17の最大傾動角(可動量)が大きくなる。なお、傾動規制面34と下方突出円筒部21aは操作部11の中心軸11xを中心とする同心の関係にあるから、図10や図11に示す方向に限らず、スティック17をいずれの方向に傾動させたときでも必ず下方突出円筒部21aの円錐面部21cが傾動規制面34に当接される。また、角度制御部材30が軸方向位置を変化させても、下方突出円筒部21aの円錐面部21cが傾動規制面34に確実に当接するように、傾動規制面34の径方向サイズ(径方向幅)などが設定されている。
【0027】
このように、円環状の角度制御部材30によってスティック17の最大傾動角(可動量)を定めることで、簡単な構成によって湾曲部13の最大湾曲量を制限することができる。そして、角度制御部材30を回転操作して操作部11の中心軸11xに沿って位置変化させることで、スティック17の最大傾動角(可動量)を任意の大きさに容易に微調整することができるので、内視鏡の用途や使用条件に応じて、好ましい大きさの湾曲部13の最大湾曲量を容易に設定することができる。これにより、湾曲部13の湾曲操作とその可動量調整が容易になり、内視鏡10を扱う術者や患者の負担が軽減される。
【0028】
湾曲操作機構部16はさらに、スティック17の傾動に抵抗を与えるブレーキ機構を備えている。図3及び図4に示すように、下部ベース20の下部にはワイヤガイドブロック40が固定されており、ワイヤガイドブロック40には、操作部11の中心軸11xを中心とする円錐面40aが形成されている。円錐面40aは、可撓挿入部12側に接近するにつれて徐々にその外径を小さくする面であり、4本の湾曲操作ワイヤ23がそれぞれ円錐面40aに沿ってグリップ14内に延出されている。
【0029】
このワイヤガイドブロック40に対して、ネジ部41を介してブレーキ部材42が螺合支持されている。ブレーキ部材42はブレーキグリップ15の内側に固定されており、ブレーキグリップ15を回転操作すると、ネジ部41の螺合関係によってブレーキ部材42が中心軸11xに沿う方向へ昇降移動される。ブレーキ部材42はワイヤガイドブロック40の円錐面40aに対向する円錐面43aを有するブレーキリング43を有しており、ブレーキグリップ15の回転操作に応じてブレーキ部材42が昇降移動すると、ブレーキリング43の円錐面43aが円錐面40aとの間隔を変化させる。
【0030】
図3及び図4に実線で示す下方位置にブレーキグリップ15とブレーキ部材42が位置しているとき、ワイヤガイドブロック40側の円錐面40aとブレーキリング43側の円錐面43aの間には適度な隙間があり、この隙間に通された湾曲操作ワイヤ23の進退移動が妨げられない。よって、スティック17の傾動操作に対する抵抗がなく、スティック17から手を放したときは、復帰バネ27によって中立位置に復帰する。
【0031】
ブレーキグリップ15とブレーキ部材42を回転させて、図3及び図4に一点鎖線で示す上方位置へ移動させると、ワイヤガイドブロック40に対するブレーキリング43の間隔が狭まり、円錐面40aと円錐面43aの間に湾曲操作ワイヤ23が挟み込まれる摩擦係合状態となる。すると、摩擦力によって湾曲操作ワイヤ23の進退が制限されるため、スティック17から手を放したとき、スティック17が中立位置へ自動的に復帰しない状態になる。つまり、湾曲部13が所定の湾曲角度に維持される。このときの円錐面40aと円錐面43aによる湾曲操作ワイヤ23に対する挟着力(摩擦係合力)は、手動でスティック17を傾動させることが可能な程度に設定されており、所定の抵抗に抗してスティック17を操作すれば、湾曲操作ワイヤ23を進退させて湾曲部13の湾曲角度を変化させることができる。
【0032】
以上のように、本実施形態の内視鏡10では、スティック17の傾動によって湾曲部13の湾曲操作を行うため、操作性に優れている。そして、スティック17の最大傾動角(可動量)を規制する角度制御部材30を設けたことで、意図しない過大な湾曲操作を防ぐことができ、安全性にも優れている。また、角度制御部材30は、回転によって軸線方向へ位置を微調整可能に支持されているため、スティック17の最大傾動角(可動量)を容易かつ高精度に調整することができる。
【0033】
図12及び図13は、スティック17の最大傾動角を制限する角度制御部材の異なる形態を示している。図12及び図13においては、先の実施形態と共通する部分については同じ符号を付しており、重複部分の説明は省略する。この実施形態の角度制御部材130は、下部ベース20から突出する円筒部120aを囲む環状固定部130aを有し、この環状固定部130aは、環状支持部材132の内側に固定されている。環状支持部材132は、先の実施形態の環状支持部材32と同様に、支持脚(図12及び図13には表れていない)を介して下部ベース20に対して固定されており、湾曲操作ワイヤ23(厳密には座屈防止チューブ28)をガイドするワイヤガイド溝133が形成されている。つまり、角度制御部材130のうち環状固定部130aは、下部ベース20に対して相対的に固定されている。この環状固定部130aの上面に、弾性変形可能な環状当接部134が設けられている。先の実施形態の傾動規制面34と同様に、この環状当接部134に対して、上部ベース21の下方突出円筒部21aの円錐面部21cが当接することによって、スティック17の傾動が規制される。
【0034】
環状固定部130aには軸線方向に貫通するネジ穴が形成されていて、このネジ穴に対して調整ネジ(突出調整部材)150が螺合している。調整ネジ150は、操作部11の中心軸11xを中心として等角度間隔で4つ設けられていて、より詳しくは、ユニバーサルジョイント22の第1傾動軸22x1を挟む位置関係(第2傾動軸22x2の延長上)で一対の調整ネジ150が設けられ、第2傾動軸22x1を挟む位置関係(第1傾動軸22x1の延長上)で残る一対の調整ネジ150が設けられている。それぞれの調整ネジ150は、回転操作することによって環状固定部131の上面から出没させることができる。図13に示すように、調整ネジ150が環状固定部131の上面から突出すると、環状固定部131の上面に支持された環状当接部134の一部が撓んで押し上げられる。すると、当該押し上げ部分においては、下方突出円筒部21aの円錐面部21cに対する環状当接部134の間隔が狭くなるため、角度制御部材130による傾動規制を受けるまでのスティック17の最大傾動角が小さくなる。4つの調整ネジ150の突出量を任意に調整することによって、第1傾動軸22x1を中心とする正逆方向と、第2傾動軸22x2を中心とする正逆方向の、合わせて4方向におけるスティック17の最大傾動角を、個別に任意の大きさに設定することができる。なお、調整ネジ150は、このような第1傾動軸22x1と第2傾動軸22x2の延長上に位置する4等分配置以外にも、任意の個数で任意の位置に配置することができる。
【0035】
以上の各実施形態では、スティック17を中立位置に保持させる復帰バネ27と、湾曲操作ワイヤ23を囲む座屈防止チューブ28を備えており、これらは湾曲操作時における湾曲操作ワイヤ23の座屈防止や操作性の向上に寄与しているが、環状支持部材32、132のワイヤガイド溝33、133などによって十分な座屈防止効果が得られる場合には、これらを備えない構成にすることも可能である。図14は、湾曲操作機構部16において座屈防止チューブ28を省いた形態を示し、図15はさらに復帰バネ27も省いた形態を示している。図14及び図15では図示されていないが、先の実施形態における角度制御部材30、130に相当する角度制御部材を備えているものとする。
【0036】
以上、図示実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は図示実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない限りにおいて改良、改変を加えることができる。例えば、実施形態は内視鏡への適用例であるが、湾曲操作装置を有するものであれば、処置具など異なる器具への適用も可能である。また、内視鏡については光学内視鏡、電子内視鏡のいずれにも適用可能である。
【符号の説明】
【0037】
10 内視鏡(挿入器具)
11 操作部
11x 操作部の中心軸
12 可撓挿入部
13 湾曲部
14 グリップ
15 ブレーキグリップ(ブレーキ機構)
16 湾曲操作機構部
17 スティック(操作桿部材)
20 下部ベース(固定部材)
20a 円筒部
20b 貫通穴
21 上部ベース(操作桿部材の基部)
21a 円筒部
21b 貫通穴
22 ユニバーサルジョイント(ジョイント部)
22a 下部パーツ
22b 上部パーツ
22x1 第1傾動軸
22x2 第2傾動軸
23 湾曲操作ワイヤ
24 ワイヤ留め部材
25 26 バネ留め部材
27 復帰バネ(復帰手段)
28 座屈防止チューブ
30 角度制御部材
30a 外面ネジ部
30b 上端環部
31 ガイドリング
32 環状支持部材
32a 内面ネジ部
32b 鍔部
33 ワイヤガイド溝
34 傾動規制面(角度制御部材の軸方向端面)
35 支持脚
36 固定ネジ
40 ワイヤガイドブロック(ブレーキ機構)
40a 円錐面
41 ネジ部
42 ブレーキ部材(ブレーキ機構)
43 ブレーキリング(ブレーキ機構)
43a 円錐面
130 角度制御部材
130a 環状固定部
132 環状支持部材
133 ワイヤガイド溝
134 環状当接部
150 調整ネジ(突出調整部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作部と、該操作部から延設され可撓性を有する挿入部と、該挿入部の一部を構成し湾曲操作可能な湾曲部とを備えた挿入器具の湾曲操作装置において、
操作部に設けた固定部材;
上記固定部材に対してジョイント部を介して傾動可能に支持された操作桿部材;
上記ジョイント部の周囲に配設されて上記操作桿部材に接続し、該操作桿部材の正逆方向の傾動により、一方が牽引され他方が弛緩して上記湾曲部を湾曲させる少なくとも一対の湾曲操作ワイヤ;及び
上記固定部材に対し、上記操作桿部材に接離する方向へ位置調整可能に支持され、該操作桿部材に当接して傾動を規制し、その位置変化により操作桿部材の最大傾動角を変化させる角度制御部材;
を備えたことを特徴とする挿入器具の湾曲操作装置。
【請求項2】
請求項1記載の挿入器具の湾曲操作装置において、上記固定部材に対して固定され、上記ジョイント部を囲む内面ネジ部を有する環状支持部材を有し、
上記角度制御部材は、該環状支持部材の内面ネジ部に対して螺合される外面ネジ部を有し、該内面ネジ部と外面ネジ部の螺合関係によって、回転しながら環状支持部材の軸方向へ位置変化されることを特徴とする挿入器具の湾曲操作装置。
【請求項3】
請求項2記載の挿入器具の湾曲操作装置において、上記操作桿部材の基部に、上記角度制御部材の軸方向端面に対向する円筒部を有し、該円筒部の端面と角度制御部材の軸方向端面の当接によって操作桿部材の傾動が規制されることを特徴とする挿入器具の湾曲操作装置。
【請求項4】
請求項2または3記載の挿入器具の湾曲操作装置において、上記環状支持部材は上記湾曲操作ワイヤを挿通させるワイヤガイド溝を有していることを特徴とする挿入器具の湾曲操作装置。
【請求項5】
請求項1記載の挿入器具の湾曲操作装置において、上記角度制御部材は、
上記ジョイント部を囲み上記固定部材に対して固定される環状固定部;
該環状固定部の軸方向端部に支持された弾性変形可能な環状当接部;及び
上記環状固定部の軸方向端部からの突出量を変化させて上記環状当接部を押圧変形させる、環状固定部の周方向に位置を異ならせて設けた複数の突出調整部材;
を有していることを特徴とする挿入器具の湾曲操作装置。
【請求項6】
請求項5記載の挿入器具の湾曲操作装置において、上記操作桿部材の基部に、上記角度制御部材の環状当接部に対向する円筒部を有し、該円筒部の端面と環状当接部の当接によって操作桿部材の傾動が規制されることを特徴とする挿入器具の湾曲操作装置。
【請求項7】
請求項5または6記載の挿入器具の湾曲操作装置において、上記固定部材に対して固定され上記環状固定部を囲んで支持する環状支持部材を有し、該環状支持部材が、上記湾曲操作ワイヤを挿通させるワイヤガイド溝を有していることを特徴とする挿入器具の湾曲操作装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項記載の挿入器具の湾曲操作装置において、上記一対の湾曲操作ワイヤの牽引量が均等である角度位置に上記操作桿部材を付勢して保持させる復帰手段を備えていることを特徴とする挿入器具の湾曲操作装置。
【請求項9】
請求項8記載の挿入器具の湾曲操作装置において、上記復帰手段は、内部にそれぞれ上記湾曲操作ワイヤが挿通され、上記固定部材と操作桿部材に一端部と他端部が固定された少なくとも一対のコイルバネからなることを特徴とする挿入器具の湾曲操作装置。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項記載の挿入器具の湾曲操作装置において、上記湾曲操作ワイヤのうち、上記固定部材と操作桿部材の間の少なくとも一部の領域が座屈防止チューブで覆われていることを特徴とする挿入器具の湾曲操作装置。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項記載の挿入器具の湾曲操作装置において、上記操作部に、上記湾曲操作ワイヤを挟着してその進退に抵抗を与えるブレーキ状態と、該湾曲操作ワイヤの挟着を解除したブレーキ解除状態とに操作可能なブレーキ機構を備えていることを特徴とする挿入器具の湾曲操作装置。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1項記載の挿入器具の湾曲操作装置において、上記ジョイント部は互いに直交関係にある2つの軸をそれぞれ中心として傾動可能に上記操作桿部材を支持しており、
該ジョイント部を中心として略等角度間隔で4本の上記湾曲操作ワイヤが配設されていることを特徴とする挿入器具の湾曲操作装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−214043(P2010−214043A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67449(P2009−67449)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(510097747)独立行政法人国立がん研究センター (35)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100083286
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 邦夫
【Fターム(参考)】