説明

捩りダンパ付クラッチ

【課題】フライホイールの固定具が緩むことなく、ドライブシャフトの捩り振動を抑制できる捩りダンパ付クラッチを提供する。
【解決手段】ドライブシャフト6を介して刈刃3に連結されたクラッチドラム32と、エンジンEのクランク軸16に連結されて遠心力によりクラッチドラム32に接続されるクラッチシュー34とを備えたクラッチ20であって、クランク軸16にナット19で固定されたフライホイール18に、圧縮コイルスプリング50を介してホルダ36が周方向に相対移動可能に連結され、クラッチシュー34がホルダ36に支持され、フライホイール18とホルダ36との間に、エンジンEの回動力をホルダ36に伝達するストッパ構造56が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として刈払機のような作業機を駆動する小型エンジンの遠心式のクラッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の遠心クラッチ式の小型エンジンでは、例えば、エンジンの回転数が3800rpmに達したあたりでクラッチが入り始め、回転数が7000rpm前後に達するとクラッチが完全に入る。ところが、クラッチが入り始めてから完全に入るまでの半クラッチの過程で、エンジンと刈刃のような負荷との間を接続するクラッチドラム、ドライブシャフト等に捩り振動が発生する。このような捩り振動は、例えば、以下のようにして起こる。
【0003】
エンジンの回転数が上昇してクラッチが入り始めると、刈刃の負荷がかかってエンジンの回転数が低下するので、クラッチが切れようとする。この状態でも、刈刃は慣性力により回転を続ける。クラッチが切れると、刈刃の回転は徐々に低下するが、エンジンの回転数が再上昇して再びクラッチが入り始める。すると、刈刃の負荷がかかってエンジンの回転数が低下し、再度クラッチが切れる。半クラッチの回転数領域(3800〜7000rpm程度)で刈払機を使用すると、上記のように、クラッチが断続(オン・オフ)を繰り返すことが原因で、エンジンの回転数変化およびトルク変動によりドライブシャフトに捩り振動が発生して、ドライブシャフトを支持するメインパイプが胴ぶれする。
【0004】
このような捩り振動の発生を抑えるために、エンジンとクラッチとの間に捩りコイルばねを配置したものがある(特許文献1)。特許文献1では、エンジンの出力軸の端部にねじ込んで連結された連結用シャフトに、捩りコイルばねを介してクラッチシューが支持されている。連結用シャフトは、エンジンの出力軸に、フライホイール(ロータ)を固定する固定具としての機能も有している。特許文献1では、捩りコイルばねにより、捩り運動が吸収され、ドライブシャフトの捩り振動を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−228756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1では、エンジンの出力軸の端部に連結シャフトをねじ連結し、この連結シャフトにクラッチシューが支持されているので、遠心式クラッチのクラッチシューの全重量が連結シャフトにかかった状態で、この連結シャフトに捩りばねのばね力が回動力として作用する。これにより、エンジンの出力軸にねじ込まれた連結シャフトが緩むことがある。連結シャフトは、エンジンの出力軸にフライホイールを固定する固定具としても機能しているから、連結シャフトが緩むとねじ部にガタが発生するので、フライホイールが振動して異音を発生することがある。また、クラッチが不安定となり振動を増大させることがある。
【0007】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたもので、フライホイールの固定具が緩むことなく、ドライブシャフトの捩り振動を抑制できる捩りダンパ付クラッチを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明にかかる捩りダンパ付クラッチは、ドライブシャフトを介して負荷に連結されたクラッチドラムと、エンジンの回転軸に連結されて遠心力により前記クラッチドラムに接続されるクラッチシューとを備えたクラッチであって、前記回転軸に固定具で固定されたフライホイールに、弾性部材を介してホルダが周方向に相対移動可能に連結され、前記クラッチシューが前記ホルダに支持され、前記フライホイールと前記ホルダとの間に、前記エンジンの回動力を前記ホルダに伝達するストッパ構造が設けられている。
【0009】
この構成によれば、フライホイールに対して弾性部材を介して周方向に相対移動可能なホルダに、クラッチシューが支持されているので、負荷を駆動するドライブシャフトとエンジンの回転軸との間に作用する捩り方向の力が弾性部材により吸収され、ドライブシャフトの捩り振動を抑制することができる。さらに、クラッチシューが、フライホイールの固定具ではなく、フライホイールに取り付けられたホルダに支持されているから、前記捩り方向の力によりフライホイールの固定具が緩むことがない。
【0010】
本発明において、前記ホルダに収納凹所が設けられ、前記弾性部材が前記収納凹所に収納され、さらに、前記フライホイールに固定されて前記弾性部材を前記収納凹所の内面に周方向に押し付ける押圧部材を備えることが好ましい。この構成によれば、ホルダの収納凹所内に弾性部材が納まるから、簡単な構造で、弾性部材を配置することができる。
【0011】
前記収納凹所に前記弾性部材を収納する場合、さらに、前記弾性部材の前記収納凹所からの離脱を阻止するカバー体を有することが好ましい。この構成によれば、エンジンの回転による振動や外部からの振動により弾性部材が収納凹所から離脱するのを防止できる。
【0012】
前記カバー体を備える場合、前記押圧部材が前記フライホイールにねじ連結された段付きボルトであり、この段付きボルトの頭部によって前記ホルダが支持され、この頭部とホルダとの間で前記カバー体が保持されていることが好ましい。この構成によれば、段付きボルトによりホルダとカバー体の両方が支持されるから、簡単な構造でカバー体を保持することができる。
【0013】
前記段付きボルトを用いる場合、前記カバー体が、前記段付きボルトの頭部と前記ホルダとの間で、段付きボルトの軸方向に圧縮された弾性体からなることが好ましい。この構成によれば、カバー体が、ホルダに接触することで、ホルダと、段付きボルトを介したフライホイールとの間で、周方向の相対移動に対する摩擦ダンパとして作用するので、上記捩り振動をさらに抑制できる。
【0014】
また、前記カバー体を備える場合、前記押圧部材が前記フライホイールにねじ連結された段付きボルトであり、この段付きボルトの頭部によって前記ホルダが支持され、さらに、前記段付きボルトの頭部と前記ホルダとの間に、前記段付きボルトの軸方向に圧縮されるウェーブワッシャが配置され、前記カバー体が前記ホルダに締結部材により取り付けられてもよい。この構成によれば、弾性部材の保守・点検を行う際に、段付きボルトを取り外すことなく、締結部材を取り外すことによってカバー体をホルダから取り外して弾性部材を取り出すことができるので、弾性部材の保守・点検が容易になる。
【0015】
本発明において、前記ホルダの外周面が、前記フライホイールに設けた径方向内方を向く保持面に、径方向に相対移動不能に嵌合していることが好ましい。この構成によれば、エンジン回転による振動や外部からの振動によりホルダが径方向に移動することを防止できるうえに、組立時のホルダの芯合せも容易になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の捩りダンパ付クラッチによれば、フライホイールに、弾性部材を介して周方向に相対移動可能にホルダが連結され、このホルダにクラッチシューが支持されているので、負荷とエンジンの回転軸との間に発生した捩り方向の力が弾性部材により吸収され、クラッチドラムの捩り振動を抑制することができる。さらに、クラッチシューがフライホイールに取り付けられたホルダに支持されているから、前記捩り方向の力によりフライホイールの固定具が緩むことがない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る捩りダンパ付クラッチを備えたエンジンを搭載した刈払機を示す斜視図である。
【図2】同上のエンジンの縦断面図である。
【図3】図2のクラッチ周辺の拡大縦断面図である。
【図4】同クラッチを負荷側からみた背面図である。
【図5】図4のV-V断面図である。
【図6】第2実施形態に係る捩りダンパ付クラッチを示す拡大縦断面図である。
【図7】同クラッチを負荷側からみた背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るダンパ付クラッチを備えた小型エンジンEを搭載した携帯型作業機の一種である刈払機1を示し、アルミニウム合金のような金属製の長いメインパイプ2の基端部にエンジンEが取り付けられ、先端部に作業工具としての回転式刈刃3が取り付けられている。メインパイプ2の内部に、図3に示す鉄系のドライブシャフト6が挿通され、ドライブシャフト6の基端部が、後述するクラッチ20を介してエンジンEに連結され、先端部が図1の回転式刈刃3に連結されている。メインパイプ2には、エンジンE(図2)の近傍箇所に肩掛け用ベルト4とU字状のハンドル7とが取り付けられている。作業者はベルト4を肩に掛けることによって刈払機1を保持し、ハンドル7の両端部のグリップ8を握って操作することにより、エンジンEによって駆動される刈刃3で雑草などを刈り取る。刈刃3の回転数は、ハンドルの一端部近傍に設けられたスロットルレバー9の操作により調節される。
【0019】
このエンジンEは、例えば2サイクルエンンジンであり、図2に示すように、シリンダ10aとシリンダヘッド10bとが一体形成されたシリンダブロック10を有し、このシリンダブロック10がクランクケース11に連結されてエンジン本体を形成している。シリンダとシリンダヘッドは別体であってもよい。クランクケース11の下部に燃料タンク12が取り付けられている。なお、エンジンEは4サイクルエンジンであってもよい。
【0020】
シリンダブロック10のシリンダ10aのボアにピストン14が摺動自在に収納され、このピストン14がクランクケース11に支持されたクランク軸16に連結されている。クランク軸16はエンジンEの回転軸であり、その両端に雄ねじが形成されている。クランク軸16の一端部16a(前端部)に冷却ファンを兼ねるフライホイ−ル18が挿通され、固定具であるナット19で締付けることで、クランク軸16に相対回転不能に固定されている。このフライホイール18に、エンジンEの出力を刈払機1(図1)のドライブシャフト6(図3)に伝達するための捩りダンパ付クラッチ20が取り付けられている。
【0021】
図2に示すように、冷却ファンを兼ねるフライホイール18はクランクケース11に取り付けられたファンハウジング22により覆われており、このファンハウジング22がクラッチハウジング24を介してメインパイプ2(図1)の基端部(後端部)に取り付けられている。クランク軸16の他端部16b(後端部)にはナットのような締結部材21によりスタータプーリー26が取り付けられ、その外方に、スタート時にスタータプーリー26を介してクランク軸16を回転させるリコイルスタータ28が配置されている。シリンダブロック10を含むエンジンEの上半部を覆う樹脂製のシュラウド30が、ファンハウジング22とクランクケース11にボルト(図示せず)で固定されている。
【0022】
本実施形態の捩りダンパ付クラッチ20について説明する。図3に示すように、捩りダンパ付クラッチ20は、ドライブシャフト6を介して刈刃3(図1)に連結されたクラッチドラム32と、クランク軸16に連結されて遠心力によりクラッチドラム32に接続されて摩擦により動力を伝える一対のクラッチシュー34とを備えた遠心クラッチである。一対のクラッチシュー34はクランク軸16の回転軸心Cを挟んで、相対向するように配置されている。
【0023】
クラッチドラム32は、軸方向後方(図3の右方)に開口した椀形状で、その前端部である底部に、ドライブシャフト6の連結軸31が相対回転不能に連結されている。連結軸31はクラッチハウジング24に軸受33を介して相対回転自在に支持されており、この連結軸31の内側にドライブシャフト6の基端部6aがスプライン嵌合によって相対回転不能に連結されている。クラッチハウジング24の内側にはメインパイプ2(図1)の振動を抑制するためのゴム製のダンパ25が装着されている。クランク軸16、捩りダンパ付クラッチ20、連結軸31およびドライブシャフト6は、共通の回転軸心Cを有するようにほぼ同心上に配置されている。
【0024】
各クラッチシュー34は、後述する構造によってフライホイール18に支持される脚部34a、遠心力により径方向外方に進出してクラッチドラム32に接続される接続部34b、および、これら脚部34aと接続部34bとを連結して接続部34bに径方向内方にばね力を付勢するクラッチばね35を有している。クラッチシュー34の脚部34aは、アルミニウム合金のような金属製の浮動式ホルダ36を介してフライホイール18に連結されている。ホルダ36の材質はこれに限定されない。
【0025】
図4に示すように、ホルダ36は、クランク軸16(図3)の軸心方向から見て円形状で、中心部に貫通孔36aを有している。ホルダ36は、前面に形成されたホルダ収納凹所37内に嵌まり込んで収納されている。このホルダ収納凹所37には、径方向内方にせり出した保持部(インロー部)40が一体形成されている。保持部40は、周方向に等間隔に3つ形成されている。ホルダ36の外周面が、保持部40における径方向内方を向く保持面40aに、径方向に相対移動不能に嵌合している。保持部40の数は3つに限定されず、2つまたは4つ以上でもよく、また、保持面40aをホルダ収納凹所37の内周面全体としてもよい。
【0026】
ホルダ36の外周寄りの部分には、回転軸心Cと同心の円弧状のスリットからなる収納凹所42が形成されている。収納凹所42は、ホルダ36を軸方向に貫通した、周方向に長い孔であり、回転軸心Cを挟んでほぼ対称な位置に2つ形成されている。収納凹所42は、3つ以上設けてもよい。また、収納凹所42は、貫通孔でなく、ホルダ36の前面に開口した有底の凹部であってもよい。
【0027】
さらに、フライホイール18のホルダ収納凹所37の底壁にねじ孔44が形成されている。ねじ孔44も回転軸心Cを挟んで対称な位置に2つ設けられている。各ねじ孔44は、フライホイール18のホルダ収納凹所37にホルダ36を嵌合した状態で、ホルダ36の各収納凹所42のほぼ中央部に相当する位置に設けられている。図3に示すように、ホルダ36の収納凹所42に押圧部材である段付きボルト46を挿通し、フライホイール18のねじ孔44に締め付けて、段付きボルト46の段部46aをホルダ収納凹所37の底面に当接させている。段付きボルト46の頭部46bとホルダ36の前面36bとの間には、後述するカバー体48(図4)が保持されており、このカバー体48の弾性押さえ力によって、ホルダ36が軸方向に強固に締め付けられないで若干の相対移動が可能な浮動した状態でフライホイール18に取り付けられている。
【0028】
段付きボルト46を締め付けた状態で、段付きボルト46の頭部46bとねじ部46cとの間の大径部46dの大部分がホルダ36の収納凹所42内に位置している。この収納凹所42内における残余の部分に、図4に示す弾性部材である圧縮コイルスプリング50が収納されている。圧縮コイルスプリング50は、段付きボルト46を挟んで各収納凹所42内の周方向に一対設けられており、各圧縮コイルスプリング50は、一端50aが収納凹所42の周方向端面42aに、他端50bが段付きボルト46の大径部46dにそれぞれ押し付けられており、段付きボルト46に周方向の弾性力を付勢している。すなわち、ホルダ36は、フライホイール18に対して圧縮コイルスプリング50を介して周方向に相対移動可能に連結されている。こうして、段付きボルト46は、ホルダ36をフライホイール18に支持する支持部材と、圧縮コイルスプリング50を周方向に押圧する押圧部材とを兼ねている。
【0029】
収納凹所42の前方は、圧縮コイルスプリング50が収納凹所42からの離脱を阻止する前記カバー体48により覆われている。カバー体48は板金製で、収納凹所42の全体を前方から覆う2つのカバー部48a,48aと、各カバー部48a,48aを接続する接続部48bとを有している。カバー体48の形状は、圧縮コイルスプリング50の離脱を阻止できる形状であればよく、このような形状に限定されない。
【0030】
図5に示すように、カバー体48は、周方向に沿った断面が段付きボルト46の軸方向に湾曲した形状を有している。つまり、カバー体48は、段付きボルト46の頭部46bとホルダ36との間で、段付きボルト46の軸方向、つまり回転軸心C(図4)の方向に圧縮された弾性体として作用する。詳細には、カバー部48aの周方向中央部48aaは、ホルダ36から離れる方向に向かってせり出しており、この中央部48aaに、段付きボルト46の頭部46bを挿通させる挿通孔49が形成されている。各カバー部48a,48aの周方向両端部48abは、ホルダ36の前面36bに押し当てられており、したがって、カバー体48は、ホルダ36と段付きボルト46を介したフライホイール18との間で面接触して、摩擦ダンパとして作用する。面接触する前記周方向両端部48abは、図4ではクロスハッチングが付されている。
【0031】
図4に示すように、ホルダ36の外周面の2箇所、具体的には、回転軸心Cを挟んで対称な位置に、径方向内方へ向かって凹入する切欠部52,52が形成されている。一方、フライホイール18には、ホルダ収納凹所37の底面から軸方向前方に突出する凸部54が一体形成されている。凸部54も回転軸心Cを挟んで対称な位置に2つ設けられている。フライホイール18にホルダ36を取り付けた状態で、凸部54の内径側を向いた内径壁面54aと周方向を向いた周方向端面54bとが、ホルダ36の切欠部52を形成する底面52aおよび側面52bにそれぞれ隙間を持って対向している。圧縮スプリング50が最大限にまで圧縮される前に、凸部54の周方向壁面54bとホルダ36の側面52bとが当接してエンジンEの回動力をホルダ36に伝達する。このように、フライホイール18の凸部54とホルダ36の切欠部52とにより、圧縮スプリング50が全圧縮する前に凸部54とホルダ36が当接し、回動力をホルダ36に伝達するストッパ構造56を構成している。
【0032】
さらに、ホルダ36には、軸方向前方に突出したボス58が一体形成されており、このボス58には、軸方向前方に開口した有底のねじ孔58aが形成されている。ボス58も回転軸心Cを挟んで対称な位置に2つ設けられている。図3に示すように、クラッチシュー34の脚部34aに形成されたボルト挿通孔60に、締結部材62を挿通して、そのねじ部62cをボス58のねじ孔58aに締め付けることで、クラッチシュー34がホルダ36に支持される。この実施形態では、締結部材62として段付きボルトを使用し、段付きボルト62の段部62aとボス58との間に平ワッシャ64を、段付きボルト62の頭部62bと脚部34aとの間にウェーブワッシャ66を、それぞれ介在させている。
【0033】
つぎに、本実施形態の捩りダンパ付クラッチ20の作用について説明する。図2のエンジンEが始動すると、クランク軸16、これに固定されたフライホイール18、フライホイール18に連結されたホルダ36、およびホルダ36に支持されたクラッチシュー34が回転する。エンジンEの回転数が上昇すると、クラッチシュー34の遠心力が大きくなり、クラッチばね35のばね力に抗して、接続部34bがクラッチドラム32に近づいて接触し、クラッチが入り始める。
【0034】
クラッチが入り始めると、図3のドライブシャフト6が回転し、図1の刈刃3の負荷がかかってエンジンEの回転数が低下し、クラッチが切れようとする。この状態でも、刈刃3は慣性力により回転を続ける。クラッチが切れると、刈刃3(図1)の回転は徐々に低下するが、一方で、エンジンEの回転数は再上昇して再びクラッチが入り始める。このように、クラッチがオン・オフを繰り返すと、エンジンの回転数変化およびトルク変動が発生し、エンジンEのフライホイール18(図2)と刈刃3との間の慣性効果により、エンジンEと刈刃3とを接続する、図3に示すドライブシャフト6およびクラッチドラム32に、正逆に反転を繰り返す捩り方向の力がかかる。このような捩り方向の力は、クラッチシュー34を介してホルダ36に伝達されるが、ホルダ36とフライホイール18との間に介在する圧縮コイルスプリング50により吸収され、クランク軸16には伝わらない。また、図4のカバー体48のカバー部48aの周方向両端部48abが、ホルダ36と段付きボルト52を介したフライホイール18との間で、回転方向の相対移動に対する摩擦ダンパとして作用する。
【0035】
さらに、回転数が上昇すると、図3に示すクラッチシュー34の回転数も上昇してクラッチ20が完全に入り、図4に示すフライホイール18の凸部54の周方向壁面54bが、ホルダ36の切欠部52の側面52bに当接してエンジンEの回動力をホルダ36に確実に伝達する。これにより、クラッチ20およびドライブシャフト6を介して、図1の刈刃3が高速回転する。
【0036】
上記構成において、ホルダ36がフライホイール18に対して圧縮コイルスプリング50を介して周方向に相対移動可能に設けられ、このホルダ36に、図3のクラッチシュー34が支持されているので、刈刃3(図1)を駆動するドライブシャフト6とクランク軸16との間に作用する捩り方向の力が圧縮コイルスプリング50により吸収され、ドライブシャフト6の捩り振動を抑制することができる。さらに、クラッチシュー34が、フライホイール18の固定具であるナット19ではなく、フライホイール18に取り付けられたホルダ36に支持されているから、捩り方向の力によりナット19が緩むことがない。
【0037】
図4に示すように、ホルダ36に収納凹所42が設けられ、圧縮コイルスプリング50がこの収納凹所42に収納され、該圧縮コイルスプリング50が、フライホイール18に固定された段付きボルト46により、収納凹所42の内面に周方向に押し付けられているので、ホルダ36の収納凹所42内に圧縮コイルスプリング50が納まり、簡単な構造で、圧縮コイルスプリング50を配置することができる。
【0038】
さらに、圧縮コイルスプリング50の収納凹所42からの離脱を阻止するカバー体48が設けられているので、エンジンEの回転による振動や外部からの振動により圧縮コイルスプリング50が収納凹所42から離脱するのを防止できる。
【0039】
図3に示すように、段付きボルト46の頭部46bによってホルダ36が支持され、この頭部46bとホルダ36との間でカバー体48が保持されているので、段付きボルト46によりホルダ36とカバー体48の両方が支持されるから、簡単な構造でカバー体48を保持することができる。
【0040】
また、カバー体48が、段付きボルト46の頭部46bとホルダ36との間で、段付きボルト46の軸方向に圧縮された弾性体として作用するので、カバー体48のカバー部48aの周方向両端部48abがホルダ36に接触することにより、ホルダ36と、段付きボルト36を介したフライホイール18との間で、周方向の相対移動に対する摩擦ダンパとして作用する。これによって、捩り振動をさらに抑制できる。
【0041】
図4に示すように、ホルダ36の外周面が、フライホイール18に設けた径方向内方を向く保持面40aに、径方向に相対移動不能に嵌合しているので、エンジン回転による振動や外部からの振動によりホルダ36が径方向に移動することを防止できるうえに、組立時のホルダ36の芯合せも容易になる。
【0042】
図6は、第2実施形態に係る捩りダンパ付クラッチ20Aを備えたエンジンの部分縦断面図で、図7は捩りダンパ付クラッチ20Aを負荷側から見た正面図である。図7に示すように、第2実施形態の捩りダンパ付クラッチ20Aは、ホルダ36の径方向に対向する2つの収納凹所42のそれぞれを別体のカバー体68,68で覆った点と、図6に示すように、段付きボルト46の頭部46bとホルダ36との間で、段付きボルト46の軸方向に圧縮される弾性体であるウェーブワッシャ70が配置されている点で、上述の第1実施形態の捩りダンパ付クラッチ20と相違し、それ以外の構成は第1実施形態と同様である。ウェーブワッシャ70は、軸方向に湾曲した波形状を有しており、軸方向の弾性力を有する。ウェーブワッシャ70の外径は、段付きボルト46の頭部46bの最大外径よりも若干大きく、内径は、段付きボルト46の大径部46dの外径よりも若干大きい。
【0043】
各カバー体68,68は、径方向外方に開口したU字形状で、U字形状に開いた2つの突片68a,68aがウェーブワッシャ70の外周の半分以上を取り囲んで、両突片68a,68aの間に、段付きボルト46の頭部46bおよびウェーブワッシャ70を位置させている。これにより、収納凹所42の前方が、カバー体68の2つの突片68a,68aとウェーブワッシャ70により覆われる。
【0044】
U字形状のカバー体68の基部68bに2つの挿通孔72が形成され、図6に示すように、ねじ体のような締結部材74を挿通孔72に挿通し、ホルダ36の前端面に形成されたカバー取付用ねじ孔76に締め付けることで、カバー体68がホルダ36に支持されている。
【0045】
第2実施形態においても、第1実施形態と同様にクラッチドラム32に発生する捩り方向の力が、圧縮コイルスプリング50に吸収されるから、クラッチドラム32に捩り振動が発生するのを抑制できる。また、第2実施形態によれば、圧縮コイルスプリング50の保守・点検を行う際に、大きな段付きボルト46を取り外すことなく、小さな締結部材74を取り外すことによって、カバー体68をホルダ36から取り外して圧縮コイルスプリング50を取り出すことができるので、圧縮コイルスプリング50の保守・点検が容易になる。さらに、2つのカバー体68と2つのウェーブワッシャ70が必要になるが、カバー体68は第1実施形態のカバー体48よりも小形になる。
【0046】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能であり、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。例えば、上記各実施形態では、弾性部材として圧縮コイルスプリング50を使用しているが、シリコン系ゴムのような耐熱性の高いゴムを使用することもできる。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0047】
3 刈刃(負荷)
6 ドライブシャフト
16 クランク軸(回転軸)
18 フライホイ−ル
19 ナット(固定具)
20、20A 捩りダンパ付クラッチ
32 クラッチドラム
34 クラッチシュー
36 ホルダ
40a 保持面
42 収納凹所
46 段付きボルト(押圧部材)
46b 頭部
48 カバー体(弾性体)
50 圧縮コイルスプリング(弾性部材)
56 ストッパ構造
68 カバー体
70 ウェーブワッシャ(弾性体)
74 締結部材
E エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライブシャフトを介して負荷に連結されたクラッチドラムと、エンジンの回転軸に連結されて遠心力により前記クラッチドラムに接続されるクラッチシューとを備えたクラッチであって、
前記回転軸に固定具で固定されたフライホイールに、弾性部材を介してホルダが周方向に相対移動可能に連結され、
前記クラッチシューが前記ホルダに支持され、
前記フライホイールと前記ホルダとの間に、前記エンジンの回動力を前記ホルダに伝達するストッパ構造が設けられた捩りダンパ付クラッチ。
【請求項2】
請求項1において、前記ホルダに収納凹所が設けられ、前記弾性部材が前記収納凹所に収納され、
さらに、前記フライホイールに固定されて前記弾性部材を前記収納凹所の内面に周方向に押し付ける押圧部材を備える捩りダンパ付クラッチ。
【請求項3】
請求項2において、さらに、前記弾性部材の前記収納凹所からの離脱を阻止するカバー体を有する捩りダンパ付クラッチ。
【請求項4】
請求項3において、前記押圧部材が前記フライホイールにねじ連結された段付きボルトであり、
この段付きボルトの頭部によって前記ホルダが支持され、この頭部とホルダとの間で前記カバー体が保持されている捩りダンパ付クラッチ。
【請求項5】
請求項4において、前記カバー体が、前記段付きボルトの頭部と前記ホルダとの間で、段付きボルトの軸方向に圧縮された弾性体からなる捩りダンパ付クラッチ。
【請求項6】
請求項3において、前記押圧部材が前記フライホイールにねじ連結された段付きボルトであり、この段付きボルトの頭部によって前記ホルダが支持され、
さらに、前記段付きボルトの頭部と前記ホルダとの間で、前記段付きボルトの軸方向に圧縮されるウェーブワッシャが配置され、
前記カバー体が前記ホルダに締結部材により取り付けられている捩りダンパ付クラッチ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項において、前記ホルダの外周面が、前記フライホイールに設けた径方向内方を向く保持面に、径方向に相対移動不能に嵌合している捩りダンパ付クラッチ。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の捩りダンパ付クラッチを備えたエンジン。
【請求項9】
請求項8に記載のエンジンを備えた刈払機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−210182(P2012−210182A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77662(P2011−77662)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】