説明

据置き型楽器

【課題】 運搬時には軽くすることができ、演奏の際には重くして安定させることのできる据置き型楽器を提供すること。
【解決手段】 鍵盤22、操作パネル23および足踏みペダル16a,16b,16cと、これらが取り付けられる支持台10とを備えた電子楽器Mの支持台10に、タンク30a,30b,30cを設けた。そして、タンク30a,30b,30cに、開口部を設けるとともに、この開口部を閉塞するキャップ31a,31b,31cを設けた。さらに、タンク30a,30b,30cに水を注入したり排出したりするためのポンプ35を備えた移動タンク36を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の場所に設置して使用する据置き型楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から使用されている据置き型楽器、例えば、鍵盤楽器は、外観上の豪華性を出すために重い材料を用いたり、鍵盤操作やペダル操作による振動を生じさせないための機能構造を構成するために複雑な構造になったりして重くなりがちであった。このため、運搬や設置場所を変えるための移動の際の作業が大きな労力を要するものになっていた。昨今では、材料や構造の見直しが行われ軽量の鍵盤楽器も開発されている。しかしながら、このような、軽量の鍵盤楽器では、安定性が良くないため、演奏時に鍵盤楽器が揺れてしまい、その揺れが演奏に悪影響を及ぼすことがあった。
【0003】
また、鍵盤楽器の安定性を増すために転倒防止装置を設けた鍵盤楽器もある(例えば、特許文献1参照)。この鍵盤楽器では、鍵盤を支持する棚板の両側に支持部材が揺動可能に取り付けられており、鍵盤楽器に揺れが生じると、支持部材が突出して鍵盤楽器が転倒することを防止する。しかしながら、この鍵盤楽器の転倒防止装置は、地震発生の際の振動等に対応するもので、演奏者が演奏する際に生じる揺れを防止することはできない。
【特許文献1】特開平11−15464号公報
【発明の開示】
【0004】
本発明は、前述した問題に対処するためになされたもので、その目的は、運搬時には軽くすることができ、演奏の際には重くして安定させることのできる据置き型楽器を提供することである。
【0005】
前述した目的を達成するため、本発明に係る据置き型楽器の構成上の特徴は、演奏操作子と、演奏操作子が取り付けられるフレーム部とを備えた据置き型楽器において、フレーム部にタンクを設置するとともに、タンクに流体物を注入したりタンクから流動物を排出したりするための注入・排出機構を設けたことにある。
【0006】
前述したように構成した本発明の据置き型楽器では、据置き型楽器のフレーム部にタンクを設置するとともに、このタンク内に流体物を入れたり、タンクから外部に流体物を出したりすることができるようにしている。したがって、据置き型楽器を所定の場所に設置したときには、タンク内に流体物を流し込みその状態で演奏する。これによって、据置き型楽器の重量が増加するため、安定性が増す。この結果、演奏者が演奏操作子の操作を激しく行っても据置き型楽器には揺れが生じなくなり、快適な演奏が行える。
【0007】
また、据置き型楽器を他の場所に運搬する際や、設置場所を変える際には、タンク内の流体物を抜いてタンクを空にしておく。これによって、据置き型楽器の重さは軽くなり容易に据置き型楽器の運搬や移動ができる。この場合の据置き型楽器とは、電子鍵盤楽器等、軽量の据置き型楽器であって、激しい演奏操作があっても揺れず安定性を維持する必要のある楽器である。また、タンクは、直接フレーム部に取り付けてもよいし、タンク設置用の部材等を介してフレーム部に取り付けてもよい。また、フレーム部におけるタンクの設置場所は、安定性の面からフレーム部の下部にすることが好ましい。
【0008】
注入・排出機構としては、タンクに開口部を設け、この開口部を蓋や栓で開閉できる構造や、ポンプを備えた流体物貯蔵タンクをホースを介してタンクに接続できる構造等とすることができる。注入・排出機構を、タンクに設けた開口部を蓋や栓で開閉できる構造にした場合には、タンクをフレーム部から取り外すことができるようにして、タンク内に流体物を入れたり、タンクから流体物を排出したりするときには、タンクを据置き型楽器の本体から離した状態で作業を行うことが好ましい。これによって、据置き型楽器の本体に流体物がかかることを防止できる。
【0009】
さらに、タンクは、1個で構成してもよいし、複数個で構成してもよい。タンクを複数個で構成にした場合には、据置き型楽器が設置される床の強度バランス等を考慮して各タンク内に所定量の流動体を入れることができる。また、タンクを可搬性にした場合には、その持ち運びが容易になる。さらに、据置き型楽器を重くするための流体物としては、水等の液体や砂等の粒状体を用いることができる。また、流体物として、水を用いた場合には、タンクに冷却機能を設けることもできる。これによると、タンク内で水が凍って固体になるため、確実な揺れ防止が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。図1は、本発明に係る据置き型楽器である電子楽器Mを示している。この電子楽器Mは、本発明のフレーム部としての支持台10と、支持台10の上に設けられた楽器本体20と、支持台10の下部側部分に設置された3個のタンク30a,30b,30cと、ポンプ35を備えた移動タンク36とで構成されている。
【0011】
支持台10の底面部は、底板部11と、底板部11の両側部に取り付けられた側枠部12a,12bとで構成されている。底板部11は、図1における左右方向に長くなった板体で構成され、その両側部の下面に四角棒状の側枠部12a,12bが前端部を底板部11の前端部よりも前方(演奏者側)に突出させた状態で取り付けられている。底板部11はこの側枠部12a,12bによって支持されている。そして、側枠部12a,12bの後部側部分の上面から幅の広い板状の幅広脚部13a,13bが上方に向けて設けられ、側枠部12a,12bの前部の上面から幅の狭い棒状の幅狭脚部14a,14bが上方に向けて設けられている。この4個の幅広脚部13a,13bと幅狭脚部14a,14bとで脚部が構成されている。
【0012】
そして、底板部11の後縁部における幅広脚部13a,13b間から左右方向の幅が底板部11と等しく、高さが幅広脚部13a,13bおよび幅狭脚部14a,14bと等しく設定された板状の後板部15が上方に向かって設けられている。また、底板部11の前面における左右方向の中央の下部には、3個の足踏みペダル16a,16b,16cが設けられている。
【0013】
楽器本体20は、図1における左右方向に長くなった箱状に形成されている。そして、楽器本体20の両側部を構成する側板21a,21bおよび後縁部の下面が、幅広脚部13a,13b、幅狭脚部14a,14bおよび後板部15に支持された状態で、楽器本体20は支持台10の上に固定されている。また、楽器本体20の上面前部には、複数の鍵で構成される鍵盤22が設けられ、鍵盤22の後方に、複数の操作子等を備えた操作パネル23が設けられている。
【0014】
この鍵盤22および操作パネル23は、電子楽器Mを演奏するためのものであり、足踏みペダル16a,16b,16c、鍵盤22の鍵および操作パネル23の操作子で、本発明に係る演奏操作子が構成される。そして、楽器本体20における操作パネル23の後方部分が、鍵盤22および操作パネル23が設置された設置面24よりも高さが高くなった天板部25に形成されている。天板部25の上面には、譜面を置くための譜面板26および譜面の下端部を支持する譜面受け27が設けられている。
【0015】
タンク30a,30b,30cは、底板部11の上面に並んで固定されており、これらのうちの両端に設置されたタンク30a,30cは、前方から見た形状が略正方形に形成され、奥行きの長さが底板部11の幅よりもやや短くなった同形の箱状体で構成されている。そして、タンク30aの上面における前方から見て右側部分に開口部(図示せず)が形成され、この開口部がキャップ31aで閉塞されている。また、タンク30cの上面における前方から見て左側部分に開口部(図示せず)が形成され、この開口部がキャップ31cで閉塞されている。
【0016】
タンク30bは、底板部11の上面におけるタンク30a,30c間に固定されており、横長の箱状体で構成されている。すなわち、このタンク30bは幅が広く、高さがタンク30a,30cの略半分で、奥行きがタンク30a,30cと等しく設定されている。そして、タンク30bの上面における前方から見て左側部分に開口部(図示せず)が形成され、この開口部がキャップ31bで閉塞されている。
【0017】
移動タンク36は、内部に水を貯蔵できるタンク部37と4個の車輪(2個しか図示せず)38a,38bとで構成されている。そして、タンク部37内に水を入れた状態で車輪38a,38bを転がすことにより電子楽器Mの近傍位置と離れた位置との間を移動させることができる。また、タンク部37には正逆反転して作動可能なポンプ35が取り付けられており、このポンプ35にはホース39が接続されている。
【0018】
このため、タンク30a,30b,30cのキャップ31a,31b,31cを取外し、各開口部からタンク30a,30b,30cの内部にホース39の先端部を順次差し込んで、例えば、ポンプ35を正方向に作動させることにより、タンク部37の水をタンク30a,30b,30c内に順次注入していくことができる。また、各開口部からタンク30a,30b,30cに内部にホース39の先端部を差し込んだ状態で、ポンプを逆方向に作動させることにより、タンク30a,30b,30c内に充填された水をタンク部37内に順次戻していくことができる。
【0019】
このように構成された電子楽器Mを、所定場所に設置するために移動させる際には、タンク30a,30b,30c内をすべて空の状態にしておく。これによって、電子楽器Mの重量は小さくなり容易に運搬できるようになる。また、所定の場所に設置したのちには、タンク部37内に水を入れた状態の移動タンク36を電子楽器Mの近傍に移動させ、各タンク30a,30b,30c内に水を注入する。この注入した水によって、電子楽器Mの重量が増し、電子楽器Mは安定した状態になる。
【0020】
この場合、重量を増加させた際の電子楽器Mの設定重量や、電子楽器Mが設置される床面の状態等に応じて水の注入量を調節する。例えば、電子楽器Mを設置する床面が水平面で、電子楽器Mを左右バランスよく設置する場合には、タンク30a,30c内に注入する水量を均等にする。また、電子楽器Mの重量を最大限に増やす場合には、タンク30a,30b,30cを全て満杯にし、電子楽器Mの重量を最大限よりも小さくする場合には、その設定重量に応じた水量をタンク30a,30b,30cに注入する。
【0021】
また、電子楽器Mを設置する床面が傾斜面であったり、場所によって強度が異なっていたりする場合には、適宜、各タンク30a,30b,30cに注入する水量を調節する。これによって、電子楽器Mの各部分の重量が床面の状態に合ったものになり、電子楽器Mをより好ましい状態で設置することができる。タンク30a,30b,30c内に水を注入したのちには、タンク30a,30b,30cからホース39を外し、タンク30a,30b,30cの各開口部をキャップ31a,31b,31cで閉塞する。これによって、水はタンク30a,30b,30c内から漏れなくなる。
【0022】
そして、演奏者が、電子楽器Mを演奏する場合には、電子楽器Mの手前に椅子(図示せず)を置き、演奏者はこの椅子に座った状態で、譜面板26に譜面を置いて楽譜を見ながら演奏することができる。この演奏の際、電子楽器Mは、タンク30a,30b,30c内に注入された水の重量によって安定性が増すため、演奏者が、鍵盤22の鍵、操作パネル23の操作子および足踏みペダル16a,16b,16cを激しく操作しても電子楽器Mに揺れが生じなくなる。この結果、演奏者は快適な演奏を行うことができる。
【0023】
このように、本実施形態に係る電子楽器Mでは、支持台10にタンク30a,30b,30cを設置して、このタンク30a,30b,30c内に移動タンク36から水を注入したり、タンク30a,30b,30cから移動タンク36に、その水を排出したりできるようにしている。したがって、電子楽器Mを所定の場所に設置して演奏する際には、タンク30a,30b,30c内に水を注入し重量を増加させることにより、電子楽器Mの安定性を増すことができる。この結果、電子楽器Mには揺れが生じなくなり、演奏者は快適な演奏を行える。
【0024】
また、電子楽器Mを移動させる際には、タンク30a,30b,30c内の水を抜いてタンク30a,30b,30cを空にしておくことによって、電子楽器Mの重量が小さくなり容易に運ぶことができる。また、タンク30a,30b,30cが、支持台10の底面部を構成する底板部11の上面に設置されているため、タンク30a,30b,30cの内部に水を注入すると、電子楽器Mの重心は下方に移動する。これによって、電子楽器Mはより安定した状態になる。さらに、タンクが、タンク30a,30b,30cの3個で構成されているため、電子楽器Mが設置される床の強度バランス等を考慮して各タンク30a,30b,30c内に水を入れることができる。
【0025】
また、本発明に係る据置き型楽器は、前述した実施形態に限定するものでなく、適宜変更して実施することができる。例えば、前述した実施形態では、据置き型楽器を鍵盤22等の演奏操作子を備えた電子楽器Mとしたが、この据置き型楽器としては、軽量の据置き型楽器であって、激しい演奏操作があっても揺れず安定性を維持する必要のある楽器であれば他の楽器であってもよい。
【0026】
また、前述した実施形態では、タンク30a,30b,30cを底板部11の上面に固定した状態で設置しているが、支持台10をタンクを組み込んだ構造で構成したり、支持台10にタンクを設置するための設置部を設け、この設置部を介してタンクを設置したりすることもできる。支持台10にタンクを組み込んだり、支持台10に設置部を設けたりした場合には、外観デザインの優れた据置き型楽器を得ることができる。さらに、タンク30a,30b,30cを、底板部11から取り外して持ち運びができるようにすることもできる。この場合、タンク30a,30b,30cの上面に手で持つための取っ手を設けることが好ましい。
【0027】
さらに、前述した実施形態では、タンクを3個のタンク30a,30b,30cとしているが、このタンクは、1個のもので構成してもよい。また、前述した実施形態では、電子楽器Mの重さを増加させるための流体物を水としているが、この流体物としては、水以外の液体や砂等の粒状体を用いることもできる。また、タンクにペルチェ素子等を用いた冷却装置を設けて、演奏者が据置き型楽器を演奏する際には、タンク内の水を凍らすこともできる。これによると、タンク内の水が凍って固体になるため、据置き型楽器の確実な揺れ防止が行える。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係る電子楽器を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0029】
10…支持台、11…底板部、16a,16b,16c…足踏みペダル、20…楽器本体、22…鍵盤、23…操作パネル、30a,30b,30c…タンク、31a,31b,31c…キャップ、35…ポンプ、36…移動タンク、37…タンク部、M…電子楽器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
演奏操作子と、前記演奏操作子が取り付けられるフレーム部とを備えた据置き型楽器において、
前記フレーム部にタンクを設置するとともに、前記タンクに流体物を注入したり前記タンクから前記流動物を排出したりするための注入・排出機構を設けたことを特徴とする据置き型楽器。

【図1】
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【公開番号】特開2006−65136(P2006−65136A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−249443(P2004−249443)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】