説明

捲回式極板群を備える蓄電池

【課題】捲回式極板群を備える蓄電池であって、生産性を低下させることなく高容量で高率放電特性、急速充電受け入れ特性に優れた蓄電池を提供する。
【解決手段】負極板の一部を電槽缶5の内面に当接させて集電する捲回式極板群を備え、極板群の構成を、負極板が内周部分1と最外周部分2からなり、負極板の内周部分は導電性基板の両面に活物質層を備え、最外周部分は導電性基板2’の片面にのみ活物質層2”を備え、負極板の最外周部分の片面にのみ配置した活物質層が正極板3に対向するように配置し、負極板の内周部分の巻き終わり端部9と最外周部分の巻き始め端部8を電気的に接続させた捲回式極板群とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捲回式極板群を備える円筒形のニッケル水素蓄電池やニッケルカドミウム蓄電池などに関するものであって、生産性を低下させることなく高容量であって、優れた高率放電特性、急速充電受け入れ特性を達成した蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
円筒形のニッケル水素蓄電池やニッケルカドミウム蓄電池は、サイクル特性、耐過放電特性、耐過充電特性に優れるところから携帯形の電気機器、電動工具などの電源として広く用いられている。これまでも前記蓄電池の高容量化の技術が開発されてきたが、これらの用途においては長時間の使用に耐える電源に対する要望が強く、さらに高容量の蓄電池の開発が進められている。
【0003】
捲回式極板群を構成する極板は、通常、正極板、負極板共に導電性基板(穿孔金属板や金属箔)の両面に活物質層を設けているのであるが、極板群の最外周に位置する負極板の外面は正極板と対向しないので該部分に配置した活物質は起電反応に寄与しない。捲回式極板群を備える蓄電池において、蓄電池のさらなる高容量化を達成するために極板群の構造の改良が提案されている。例えば、極板群の最外周に位置する負極板の導電性基板の外面を露呈させた構造の捲回式極板群が提案されている。該提案によれば、極板群の最外周に位置する負極板の外面の起電反応に寄与しない活物質を除き、起電反応に寄与する活物質量を増やすことによって、高容量化を図っている。(例えば特許文献1、特許文献2)。
【0004】
【特許文献1】特開平1−279578号公報
【特許文献2】特開2001−23680号公報 これらの特許文献に提案されている蓄電池の捲回式極板群の基本構造を説明するための概念図(断面図)を図6に示す。該捲回式極板群は、帯状の正極板3、負極板1、セパレータ4の積層体を捲回したものであって、有底円筒形の金属製電槽缶5内に収納されている。前記負極板1は、導電性基板1′の両面に活物質層1″を配置したものである。但し、活物質層の端部6を境にして正極板と対向しない箇所には活物質層1″を配置しない部分(活物質層非塗工部分)7が設けられている。 しかし、該構成の極板群を作製しようとすれば。1枚の負極板に活物質塗工部分と非塗工部分を設けなければならず、そのためには間歇塗工を行うか、塗工後に一部分活物質を取り除いて活物質非塗工部分を形成する必要があり、極板を作製する工程が複雑であり生産性に劣る欠点があった。
【0005】
前記特許文献1、特許文献2に記載の極板群と別の構成を有するものとして、負極板を内周部分と該内周部分に比べて厚さの小さい最外周部分とに分割し、内周部分と最外周部分とを重ね合わせて接続した捲回式極板群が示されている。(例えば特許文献3)
【特許文献3】特開2004−63325号公報 該構成によれば、負極板を内周部分と外周部分に分割しているので、前記特許文献1、特許文献2に記載の1枚の負極板において非塗工部分を設ける構成や、負極板の厚さの異なる部分を設ける構成に比べると負極板の製造が容易である利点がある。しかし、負極板の外周部分には、起電反応に寄与しない負極活物質が存在し、負極板外周部分の正極に対向していない面(外側の面)の活物質を排除した蓄電池に比べて容量が小さいという欠点があった。また、負極板の内周部分と最外周部分を重ね合わせ部分は活物質層同士が接触するので、該重ね合わせ部分の電気抵抗が大きく高率放電特性や急速充電を行ったときの充電受け入れ特性が劣る虞があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来の密閉形蓄電池の欠点に鑑みてなされたものであって、捲回式極板群を備える蓄電池であって生産性を低下させることなく、高容量で高率放電特性、急速充電受け入れ特性に優れた蓄電池を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては、蓄電池の構成を以下の構成とすることによって前記課題を解決する。
本発明に係る蓄電池は、正極板、セパレータ、負極板の積層体を捲回してなる極板群であって、該極板群の最外周に負極板を配置してなる捲回式極板群を、金属製電槽缶に収納し、前記負極板の最外周部分の少なくとも一部分を前記電槽缶の内面に当接させた蓄電池において、前記負極板が内周部分と最外周部分に分割されており、該負極板内周部分が導電性基板の両面に活物質層を備え、負極板最外周部分が導電性基板の片面にのみ活物質層を備え、該導電性基板の片面にのみ配置した活物質層を正極板に対向するように配置し、前記負極板内周部分の巻き終わり端部と負極板最外周部分の巻き始め端部とを電気的に接続させた捲回式極板群を備える蓄電池である。(請求項1)
【0008】
本発明に係る蓄電池は、前記負極板内周部分の巻き終わり端部と負極板最外周部分の巻き始め端部を重ねた重ね合わせ領域を備えた捲回式極板群であって、負極板最外周部分の導電性基板が負極板内周部分に当接するように負極板内周部分の巻き終わり端部と負極板最外周部分の巻き始め端部を重ねたことを特徴とする請求項1に記載の捲回式極板群を備える蓄電池である。(請求項2)
本発明に係る蓄電池は、前記負極板内周部分の巻き終わり端部と負極板最外周部分の巻き始め端部の導電性基板が当接するように重ねた重ね合わせ領域を備え、かつ、前記負極板内周部分の巻き終わり端部を電槽缶の内面に当接させたことを特徴とする請求項2に記載の捲回式極板群を備えた蓄電池である。(請求項3)
本発明に係る蓄電池は、前記負極板内周部分の巻き終わり端部と負極板最外周部分の巻き始め端部の導電性基板が当接するように重ねた重ね合わせ領域を備え、該重ね合わせ領域が、前記正極板の巻き終わり端面と重ならず、前記負極板最外周部分の巻き始め端面と正極板の巻き終わり端面の距離を内周部分の負極板の厚さ以上としたことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の捲回式極板群を備えた蓄電池である。(請求項4)
本発明に係る蓄電池は、前記負極板内周部分の巻き終わり端部および前記負極板最外周部分の巻き始め端部の導電性基板を両面ともに露出させ、該露出させた導電性基板同士を接合することによって前記負極板内周部分の巻き終わり端部と負極板外周部分の巻き始め端部とを電気的に接続させたことを特徴とする請求項1に記載の捲回式極板群を備えた蓄電池である。(請求項5)
【発明の効果】
【0009】
前記請求項1によれば、捲回式極板群を備える蓄電池であって、生産性を低下させることなく放電容量、高率放電特性、急速充電時の充電受け入れ特性に優れた捲回式極板群を備えた蓄電池とすることができる。
前記請求項2、請求項3によれば、請求項1に係る捲回式極板群を備えた蓄電池のうちでも負極板の集電機能に優れた捲回式極板群を備える蓄電池とすることができる。
前記請求項4によれば、セパレータの損傷による内部短絡の虞のない蓄電池とすることが出来る。
前記請求項5によれば、請求項1に係る捲回式極板群を備えた蓄電池のうちでも特に負極板の集電機能に優れた捲回式極板群を備える蓄電池とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(第1の実施形態)
本発明において負極板内周部分と負極板最外周部分を電気的に接続する方法は特に限定されるものではないが、負極板内周部分の巻き終わり端部と負極板最外周部分の巻き始め端部を重ね合わせた重ね合わせ領域を形成するのが簡便であって好適な方法である。
図1は、本発明第1の実施形態に係る蓄電池において捲回式極板群および該極板群を構成する負極板内周部分と負極板最外周部分の重ね合わせ構造を概念的に示した断面図である。
図1において、負極板内周部分1は、導電性基板1′の両面に活物質層1″を配置している。負極板最外周部分2は、導電性基板2′の正極板3と対向する面(導電性基板2′の内面)にのみ活物質層2″を配置している。負極板内周部分1の巻き終わり端部と負極板最外周部分2の巻き始め端部は、重ね合わせ領域Aにおいて、電気的に接続している。また、負極板最外周部分2の少なくとも一部分は、その導電性基板2′が金属製電槽5の側壁の内面に当接しており、前記負極板内周部分1は負極板最外周部分2を介して金属製電槽5に電気的に接続させることによって負極板の集電機能を確保している。
【0011】
図2は、図1に示した本実施形態の負極板内周部分1の端部と負極板最外周部分2端部を重ね合わせた重ね合わせ領域Aの部分拡大断面図である。重ね合わせ領域Aの長さは特に限定されるものではないが、負極板内周部分1が該重ね合わせ領域Aを介して電槽缶5に接続しているので、該重ね合わせ領域Aの電気抵抗を小さくすることが好ましい。そのためには、重ね合わせ領域Aの長さを1mm以上にすることが好ましく、2mm以上にすることがさらに好ましい。重ね合わせの長さが1mm未満では、重ね合わせ領域Aの負極板内周部部分1と負極板最外周部分2の界面の電気抵抗が大きくなり負極板の集電機能が損なわれる虞がある。また、重ね合わせ領域Aの長さが大きくなると、起電反応に寄与しない負極活物質の量が多くなり放電容量の低下を招く虞がある。放電容量の低下を避けるためには、重ね合わせ領域Aの長さを4mm以下にすることが好ましく、3mm以下にすることがさらに好ましい。
【0012】
本発明においては、前記重ね合わせ領域Aにおいて負極板内周部分の巻き終わり端部と負極板巻き始め端部の何れを内側、何れを外側に配置するか特に限定されるものではない。但し、例えばアルカリ蓄電池の場合、水素吸蔵合金やカドミウムで構成される負極の活物質層は、充電・放電により体積変化をしたり、表面に非導電性の水酸化物の被膜が生成する。前記重ね合わせ領域Aにおいて負極板の活物質層同士が当接するように重ね合わせた場合には、該当接界面の電気抵抗が大きくなる虞がある。従って、重ね合わせ領域Aが、図2の(ロ)に示したようにな負極板内周部分1の活物質層1″と負極板最外周部分2の活物質層2″とが当接するよりも、図2の(イ)に示したように、当接する一方が負極板最外周部分2の導電性基板2′である方が好ましい。該重ね合わせ方式によれば、当接する一方が導電性基板なので、重ね合わせ領域Aの当接界面の電気抵抗が小さく抑えられる。
また、負極板が導電性基板の両面に活物質層を配置した従来電池の蓄電池と比較して、本発明蓄電池においては導電性基板2′と金属製電槽5の内面が活物質層を介さずに直に接触させることができるので負極板最外周部分2と金属製電槽缶5の当接箇所の接触抵抗を低減し集電機能を高めることができる。
【0013】
本実施形態のように負極板内周部分1の巻き終わり端部と負極板最外周部分の巻き始め端部を重ね合わせる方式の場合、前記重ね合わせ領域Aは、正極板3の巻き終わり端面3′と重ならず、該正極板巻き終わり端面3′と負極板最外周部分2の巻き始め端面との距離Cは、負極板内周部分1の厚さ以上とすることが好ましい。前記重ね合わせ領域Aが、正極板3の巻き終わり端面3′と重なったり、前記距離Cの大きさが負極板内周部分1の厚さ未満の場合は、正極板巻き終わり端面3′と負極板最外周部分2の巻き始め端面で挟まれた部分においてセパレータが強く押圧されて損傷し、内部短絡に至る虞がある。但し、距離Cが大きくなると、負極板内周部分1の正極板3と対向しない長さが長くなって、放電に寄与しない負極活物質量が大きくなるので、距離Cは、出来るだけ小さくする方が好ましい。負極板内周部分1と負極板最外周部分2は、重ね合わせ領域Aにおいて、負極板の厚さが大きくなるのでその周辺部分に比べて負極板が厚さ方向に突出する。正極板3の巻き終わり端部3′の延長線上には空間があり、前記重ね合わせ領域Aを正極板の巻き終わり端部3′の近傍に配置すれば前記空間が重ね合わせ領域Aの負極板の負極板の厚さ方向へ突出した部分を収容できるので好ましい。具体的には、負極板内周部分1の巻き終わり端面9と正極板3の巻き終わり端面3の距離(図1の重ね合わせ領域Aの長さ+距離C)は、正極板3の厚さの10倍以下が好ましく、5倍以下がさらに好ましい。なお、図1において4は、正極板と負極板を隔離するセパレータである。
【0014】
(第2の実施形態)
図3は、本発明第2の実施形態に係る蓄電池において捲回式極板群を構成する負極板内周部分と負極板最外周部分の重ね合わせ部分の構成、負極板の内周部分の巻き終わり端部および負極板の最外周部分と電槽缶が当接している構成を概念的に示す断面図である。本実施の形態によれば、負極板内周部分1が負極板最外周部分2を介して電槽缶5に接続している他に、負極板内周部分1の端部が当接領域Bにおいて直に電槽缶5に当接しているので、負極板内周部分1と電槽缶5の間の電気抵抗が小さく、負極板の集電機能が高くなる。当接領域Bの長さは特に限定されるものではないが、1〜4mmであることが好ましく、2〜3mmであることがさらに好ましい。該当接の幅が1mm未満では当接の効果が得られず、4mmを超えると正極板に対向しない負極活物質量が多くなり、放電容量の低下を招く虞がある。
【0015】
(第3の実施形態)
図4は、本発明第3の実施形態に係る蓄電池において捲回式極板群を構成する負極板内周部分と負極板最外周部分の接合部分の構成、負極板の最外周部分と電槽缶が当接している構成を概念的に示す断面図であり、図5は、負極板内周部分と負極板最外周部分の接合部分を拡大した拡大断面図である。本実施の形態によれば、負極板内周部分1の巻き終わり端部(巻き終わり端面9の外側に)導電性基板1′を両面ともに露出させ、負極板最外周部分2の巻き始め端部(巻き始め端面8の外側に)導電性基板2′を両面ともに露出させ、露出させた基板同士を接合する。具体的には負極板内周部分1の巻き終わり端部および負極板最外周部分2の巻き始め端部に幅1〜2mmに亘って活物質非塗工部を設けるか或いは一旦活物質を塗工した後活物質除去することによって導電性基板を露出させる。捲回に先だって図5に示すように導電性基板1′と導電性基板2′とを重ね合わせ、該重ね合わせ部10を電気抵抗溶接等によって接合し、負極板内周部分1と負極板最外周部分2を一体化する。該実施形態は、負極板を製造する際に導電性基板の露出部分を形成する必要があるので、導電性基板の両面、片面の全面に活物質層を配置する実施形態1、実施形態2に比べて工程が複雑であるが、基板露出部分の幅が1〜2mmと小さくて済むので、従来提案にある1枚の負極板で最外周部分の外側全面に亘って局部的に導電性基板を露出させる方式に比べてはるかに容易に負極板を製造することができる。また、捲回に先だって負極板が一体化されているので、巻き込む時点で負極板が別れている実施形態1、実施形態2に比べて捲回が容易である利点がある。
【0016】
前記図1に示した構成において、負極板最外周部分2は、正極板に対向する面にのみ活物質層2″を配置し、起電反応に寄与しない外側の活物質層がない構成としているので、起電反応に寄与しない負極活物質層を省くことによって生じた空間を起電反応に寄与する活物質を充填するための空間として活用することができる。
【0017】
前記空間を活用する第一の活用方法は、負極板の容量と正極板の容量の比(N/P比)が変わらないように前記空間を正極板、負極板の両方に割り当て、正極板、負極板ともに大きくする方法である。詳細は省略するが、該第一の方法によれば正極板、負極板共に起電反応に寄与する活物質量が増大するので、充放電サイクル特性を低下させることなく、通常レート(0.1〜0.2ItA)での放電における放電容量を向上させることが出来る。
第二の活用方法は、負極板のうち正極板に対向する部分の負極活物質層の厚さを厚くすることによって充放電に寄与する負極活物質量を増大させる方法である。該方法によれば前記N/P比を大きくすることができる(第二の活用方法によれば、負極板の最外周部分2の両面に活物質層を配置した従来の電池と比較して負極板の活物質充填量は変わらないが、起電反応に寄与する負極の活物質量が増大するので実質的にN/P比を大きくすることができる。)。
N/P比を大きくすると通常レート(0.1〜0.2ItA)での放電における放電容量を顕著に向上させることはできないが、高率放電特性、急速充電を行ったときの充電受け入れ特性を向上させることができる。また、充電リザーブを大きくすることができるので、充放電サイクル特性が向上する。
【実施例】
【0018】
以下、本発明が顕著な効果を奏する前記空間の第二の活用方法を対象として、実施例により本発明の詳細を説明するが、本発明は以下に記載の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
(電池の構成)
亜鉛を金属換算で亜鉛を3重量%、コバルトを1重量%固溶状態で含有する水酸化ニッケルを芯層とし該芯層95重量%に対して5重量%のオキシ水酸化コバルトからなる表面被覆層を設けた正極活物質粉末を発泡ニッケル製基板に充填した厚さ0.7mm、長さ96mm、幅44mmの極板を正極板とした。正極板の容量{正極活物質充填量(g)×正極活物質単位重量当たりの容量(mAh/g)}は、2000mAhであった。
厚さ0.04mm、直径が1mmの円形の開口を有し、開口率40%の穿孔鋼板(ニッケルメッキ品)を基板とし、該基板の両面に、Mm1.0Ni3.9Co0.7Mn0.3Al0.2(Mmはミッシュメタルを表す)の組成を有する平均粒径40μmの水素吸蔵合金97重量%とSBR(スチレンブタジエンゴム)2重量%、MC(メチルセルロース)からなる活物質層を配置し、厚さが0.32mm、長さが94mm、幅が44mmの極板を負極板内周部分とした。
厚さ0.04mm、直径が1mmの円形の開口を有し、開口率40%の穿孔鋼板(ニッケルメッキ品)を基板とし、該基板の片面に、Mm1.0Ni3.9Co0.7Mn0.3Al0.2の組成を有する平均粒径40μmの水素吸蔵合金97重量%とSBR(スチレンブタジエンゴム)2重量%、MC(メチルセルロース)からなる活物質層を配置し、厚さが0.17mm、長さが43mm、幅が44mmの極板を負極板最外周部分とした。
厚さ0.1mm、坪量40g/m2、幅が46mmであって親水処理を施したポリプロピレン製繊維からなる不織布をセパレータに適用した。
【0019】
前記正極板、セパレータ、負極板内周部分を積層し、直径が2mmの巻芯にして正極板が内側になるように捲回した。負極板内周部分1を巻き終えた時点で、負極板最外周部分を導電性基板を外側に、活物質層を内側に向けて配置し、図2(イ)に示すように、負極板最外周部分の巻き始め端部が負極板内周部分の巻き終わり端部の内側に位置するように重ね合わせた。なお、重ね合わせ領域の長さを2mmとした。さらに捲回して粘着前記図1に示した構成の捲回式極板群を作製した。該極板群を直径(内径)13.6mmの金属製電槽缶に収納し、6.8M/lのKOHと0.8M/lのLiOHを含む水溶液からなる電解液を所定量注入し、電槽缶の開放端を排気弁およびキャップ状正極端子付きの蓋体で気密に封止してAAサイズの円筒形ニッケル水素蓄電池を作製した。なお、負極板の容量{水素吸蔵合金粉末1g当たりの容量(mAh/g)×水素吸蔵合金粉末の充填量(g)}と正極板の容量{正極活物質1g当たりの容量(mAh/g)×正極活物質の充填量(g)}の比(N/P比)は、1.3であった。該例を実施例1とする。
【0020】
(実施例2)
前記実施例1において、正極板の長さを96mm、負極板の内周部分の長さを98mm、負極板の最外周部分の長さを39mmとし、負極板の内周部分の巻き終わり端部を幅2mm電槽缶の内面に直に当接させ、前記図3に示した構成を有する円筒形ニッケル水素蓄電池を作製した。該例を実施例2とする。該例のN/P比は、実施例1と同じ1.3であった。
【0021】
(実施例3)
前記実施例1において、正極板の長さを96mm、負極板内周部分の長さを94mm、負極板最外周部分の長さを43mmとし、負極板内周部分の巻き終わり端部の導電性基板の両面に配置した活物質層を幅2mmに亘って帯状に除去し、導電性基板を露出させた。負極板最外周部分の巻き始め端部の導電性基板の片面に配置した活物質層を幅2mmに亘って帯状に除去し、導電性基板を露出させた。負極板内周部分の巻き終わり端部と負極板最外周部分の巻き始め端部に露出させた導電性基板同士を重ね合わせ、重ね合わせた導電性基板を等間隔に4点スポット溶接して接合し、一体化した。該負極板を適用して図4に示した構成の捲回式極板を構成し、円筒形ニッケル水素蓄電池を作製した。該例を実施例3とする。該例のN/P比は、実施例1と同じ1.3であった。
【0022】
(参考例1)
前記実施例1において、負極板内周部分1と負極板内周部分2の重ね合わせ領域において負極板の重ね合わせ部分は、図2(ロ)に示したように、負極板内周部分1を内側に、負極板最外周部分2を外側になるように重ね、負極板内周部分1と負極板最外周部分2が互いの活物質層同士が当接するように重ねた。このこと以外は、実施例1と同じ構成になるように円筒形ニッケル水素蓄電池を作製した。該例を参考例1とする。該例のN/Pは、実施例1と同じ1.3であった。
【0023】
(比較例1)
前記実施例1において、負極板を基板の両面に活物質層を配置した1枚の負極板で構成した。なお、正極板の長さを96mm、負極板を厚さ0.29mm、長さ131mmの1枚構成の負極板とし、それ以外は実施例1と同じ構成となるように円筒形ニッケル水素蓄電池を作製した。該例を比較例1とする。該例のN/P比は、1.17でをあった(負極活物質充填量は、全負極活物質うち最外周の正極板に対向しない部分の活物質を除いた値とした)。
【0024】
(初期化成)
前記実施例1〜3、参考例1および比較例1に係る蓄電池を周囲温度20℃において初期化成を行った。初回(1サイクル目)1/50ItAで13時間充電した後、1/10ItAで10時間充電した。1時間放置後放電電流1/5ItA、放電カット電圧1.0Vとして放電した。2〜10サイクル目まで1/10ItAで16時間充電後1時間放置し、放電電流1/5ItA、放電カット電圧を1.0vとし、該充放電を1サイクルとして繰り返し充放電を行った。
【0025】
(放電容量評価試験)
実施例1〜3、参考例1、比較例1に係る蓄電池であって、化成済みの蓄電池をそれぞれ10個用意し、周囲温度20℃において充電電流0.1ItAで16時間充電後、1時間放置した後、放電電流0.2ItAにおいて放電カット電圧1.0Vにて放電し、放電容量を求めた。
(高率放電試験)
実施例1〜3、参考例1、比較例1に係る蓄電池であって、化成済みの蓄電池をそれぞれ10個用意し、周囲温度20℃において充電電流0.1ItAで16時間充電後、1時間放置した後、放電電流3ItAにおいて放電カット電圧0.9Vにて放電し、放電容量を求めた。
(急速充電試験)
実施例1〜3、参考例1、比較例1に係る蓄電池であって、化成済みの蓄電池をそれぞれ10個用意し、蓄電池の内圧を測定するための圧力センサーを取り付けた。該蓄電池を周囲温度20℃において充電電流1ItAで1.5時間充電し、充電終了時点での蓄電池内部の圧力を記録した。充電終了後、1時間放置した後、放電電流0.2ItAにおいて放電カット電圧1.0Vにて放電し、放電容量を求め、該放電容量を、急速充電受け入れ特性を示す指標とした。
(充放電サイクル試験)
実施例1〜3、参考例1、比較例1に係る蓄電池であって、化成済みの蓄電池をそれぞれ10個用意し、該蓄電池を周囲温度20℃において充電電流1ItAで1.5時間充電し、1時間放置した後、放電電流1ItAにおいて放電カット電圧1.0Vにて放電した。該充放電を1サイクルとしてサイクルを繰り返し行った。放電容量が該サイクルの1サイクル目の放電容量の60%に低下したサイクル数をもって当該蓄電池のサイクル寿命とした。
【0026】
表1に、放電容量評価試験、高率放電試験の結果を示す(10個の平均値)を示す。
【表1】

表1に示したように、本発明に係る実施例1〜3、参考例1は、比較例1に比べて0.2ItA放電における放電容量が大きく、且つ、3ItA放電において放電容量が大きい。実施例1〜3、参考例1は、比較例1に比べて充放電に寄与する負極活物質量が多くN/P比が大きいために0.2ItA放電での放電容量が少し大きく、3ItA放電における放電容量が顕著に大きくなったと考えられる。3ItA放電のような高率放電においては、放電特性に対する負極支配が強まるために実施例1〜3、参考例1と比較例1の差が大きくなったものと考えられる。また、実施例1〜3、比較例1のうちでは、負極板最外周部分のみでなく負極板内周部分の端部を電槽缶に接触させた実施例2、負極板最外周部分と負極板内周部分の導電性基板同士を接合させた実施例3が負極板の集電機能に優れており3ItA放電で特に優れた放電特性を示したものと考えられる。一方参考例1は、負極板内周部分と負極板最外周部分が両者の活物質層同士が接触しているために実施例1に比べて重ね合わせ領域の電気抵抗が大きく、そのために3ItA放電における放電容量が低くなったものと考えられる。表1に示した結果から、前記負極板内周部分と負極板最外周部分の重ね合わせ領域においては、負極板最外周部分の導電性基板と負極板内周部分を当接させることが好ましく、該重ね合わせ領域の構成を備え、且つ、負極板内周部分の巻き終わり端部を電槽缶の内壁に当接させることがさらに好ましいことが分かる。また、負極板内周部分の巻き終わり端部と負極板最外周部分の巻き始め端部に導電性基板露出部分を設け、導電性基板同士を接合させるのが特に好ましいことが分かる。
【0027】
表2に、急速充電試験、充放電サイクル試験の結果を示す(10個の平均値)を示す。
【表2】

表2に示したように、本発明に係る実施例1〜3、参考例1は、比較例1に比べて1ItA充電を行ったときの蓄電池内部の圧力上昇が抑制されている。実施例1〜3、参考例1は、比較例1に比べて充放電に寄与する負極活物質量が多くN/P比が大きいために、充電を行ったときに負極からの水素ガスの発生が抑制されることおよび正極から発生する酸素ガスの吸収機能に優れるために蓄電池の内圧上昇が抑制されたものと考えられる。また、実施例1〜3、参考例1は、N/P比を大きくしたために充電受け入れ特性が高く、急速充電(1ItA充電)後の放電容量が高くなったものと考えられる。また、実施例1〜3、参考例1のうちでは負極板の集電機能に優れた実施例2、実施例3が特に優れた充電受け入れ特性を示したものと考えられる。表2に示した結果からも、前記負極板内周部分と負極板最外周部分の重ね合わせ領域においては、負極板最外周部分の導電性基板と負極板内周部分が当接させることが好ましく、該重ね合わせ領域の構成を備え、且つ、負極板内周部分の巻き終わり端部を電槽缶の内壁に当接させることがさらに好ましく、負極板内周部分の巻き終わり端部と負極板最外周部分の巻き始め端部に露出させた導電性基板同士を接合させるのが特に好ましいことが分かる。
【0028】
また、表2に示したように、本発明に係る実施例1〜3、参考例1は、比較例1に比べて充放電サイクル特性に優れている。実施例1〜3、参考例1は、比較例1に比べて、N/P比が大きいために大きい充電リザーブが確保でき、また、充電受け入れ特性や負極板のガス吸収機能が優れているために充電時の蓄電池の内圧上昇が抑制されるとともに電解液の涸渇が抑制されたので優れたサイクル性能が得られたものと考えられる。実施例1〜3、参考例1のうちでは負極板の集電機能を高めることによって充電受け入れ特性を向上させた実施例2、3が特に優れた充放電サイクル特性を示したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、捲回式極板群を備えるニッケル水素蓄電池やニッケルカドミウム蓄電池などの円筒形蓄電池において、生産性を低下させることなく、高率放電特性、急速充電受け入れ特性に優れた蓄電池の提供を可能にするもので産業上の利用価値の高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る蓄電池の極板群の構成を概念的に示す断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る蓄電池の負極板内周部分と負極板最外周部分の重ね合わせ構造を概念的に示す拡大断面図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る蓄電池の極板群の構成を概念的に示す断面図である。
【図4】本発明の第3の実施形態に係る蓄電池の極板群の構成を概念的に示す断面図である。
【図5】本発明の第3の実施形態に係る蓄電池の負極板内周部分と負極板最外周部分の導電性基板同士の接合構造を概念的に示す拡大断面図である。
【図6】従来提案に係る蓄電池の極板群の構成を概念的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 負極板内周部分
1′ 導電性基板
1″ 活物質層
2 負極板最外周部分
2′ 導電性基板
2″ 活物質層
A 重ね合わせ領域
3 正極板
3′ 正極板の巻き終わり端面
4 セパレータ
5 電槽缶
8 負極板最外周部分巻き始め端面
9 負極板内周部分の巻き終わり端面



【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板、セパレータ、負極板の積層体を捲回してなる極板群であって、該極板群の最外周に負極板を配置してなる捲回式極板群を、金属製電槽缶に収納し、前記負極板の最外周部分の少なくとも一部分を前記電槽缶の内面に当接させた蓄電池において、前記負極板が内周部分と最外周部分に分割されており、該負極板内周部分が導電性基板の両面に活物質層を備え、負極板最外周部分が導電性基板の片面にのみ活物質層を備え、該導電性基板の片面にのみ配置した活物質層を正極板に対向するように配置し、前記負極板内周部分の巻き終わり端部と負極板最外周部分の巻き始め端部とを電気的に接続させたことを特徴とする捲回式極板群を備えた蓄電池。
【請求項2】
前記負極板内周部分の巻き終わり端部と負極板最外周部分の巻き始め端部を重ねた重ね合わせ領域を備えた捲回式極板群であって、負極板最外周部分の導電性基板が負極板内周部分に当接するように負極板内周部分の巻き終わり端部と負極板最外周部分の巻き始め端部を重ねたことを特徴とする請求項1に記載の捲回式極板群を備える蓄電池。
【請求項3】
前記負極板内周部分の巻き終わり端部と負極板最外周部分の巻き始め端部の導電性基板が当接するように重ねた重ね合わせ領域を備え、かつ、前記負極板内周部分の巻き終わり端部を電槽缶の内面に当接させたことを特徴とする請求項2に記載の捲回式極板群を備えた蓄電池。
【請求項4】
前記負極板内周部分の巻き終わり端部と負極板最外周部分の巻き始め端部の導電性基板が当接するように重ねた重ね合わせ領域を備え、該重ね合わせ領域が、前記正極板の巻き終わり端面と重ならず、前記負極板最外周部分の巻き始め端面と正極板の巻き終わり端面の距離を内周部分の負極板の厚さ以上としたことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の捲回式極板群を備えた蓄電池。
【請求項5】
前記負極板内周部分の巻き終わり端部および前記負極板最外周部分の巻き始め端部の導電性基板を両面ともに露出させ、該露出させた導電性基板同士を接合することによって前記負極板内周部分の巻き終わり端部と負極板外周部分の巻き始め端部とを電気的に接続したことを特徴とする請求項1に記載の捲回式極板群を備えた蓄電池。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−32304(P2006−32304A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−213783(P2004−213783)
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(000006688)株式会社ユアサコーポレーション (21)
【Fターム(参考)】