説明

排ガス冷却装置

【課題】溶銑の予備処理時に発生する排ガスに対する冷却抜熱能力を大きくし、酸露点を下回る温度まで下げずに冷却する排ガス冷却装置を提供する。
【解決手段】溶銑の予備処理時に発生する300℃以上の排ガスを冷却する排ガス冷却装置であって、空気に対して動粘性係数が小さく、プラントル数の大きい飽和水蒸気を冷却媒体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶銑の予備処理時に発生する排ガスを冷却する排ガス冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉によって作られた溶銑は混銑車によって転炉工場に輸送される。溶銑中にはC,Si,Mn,P,S,Ti,Vなどの元素が例えば5〜8%程度含まれている。溶銑の成分組成は製鋼工程における精錬能率や鋼の品質に大きく影響する。製鋼工程を合理化し、操業を容易にするため、溶銑の成分組成や生産鋼種に応じて種々の形式の溶銑予備処理法が採用されている。溶銑の予備処理は脱燐、脱硫が主体であり、混銑車、溶銑取鍋などで行われる。製鋼工場内に予備処理のための専用設備を設けて溶銑を脱燐、脱硫する。
【0003】
図2及び図3は、例えば特許文献1に記載された溶銑の予備処理を示すものである。
図2に示すように、製鋼工場内に設けられた予備処理ステーション1に、排ガス処理装置4が接続している。
図3に示す溶銑を貯留した混銑車2は、予備処理ステーション1まで移動した後、予備処理剤、或いは脱珪、脱リンを行なうために気体酸素や固体酸素源を吹き込むためのランス3が挿入される。
【0004】
予備処理が行なわれている混銑車2は排ガスが発生するので、予備処理ステーション1に接続した排ガス処理装置4で処理される。また、場合によっては、溶銑湯面に気体酸素を吹き付け、混銑車炉口内で燃焼、昇温させることもあり、その際に発生する排ガスも、排ガス処理装置4で処理される。
排ガス処理装置4は、予備処理ステーション1内に連通するダクト5と、ダクト5を介して予備処理ステーション1内の排ガスを吸引するブロワ6と、ダクト5の途中に設けられて排ガスを冷却する排ガス冷却装置7と、冷却した排ガス中のダストを回収するダスト回収装置8とを備えている。
【0005】
溶銑の予備処理において、溶銑中に含まれるSや処理剤として使用させる酸素源が豊富に存在し、その反応によりSO(亜硫酸ガス)が発生し、SOが混銑車1内の水蒸気と反応して硫酸蒸気が発生しやすくなる。この硫酸蒸気を含んだ排ガスが、排ガス冷却装置7で急速に冷却されて酸露点以下になると、硫酸蒸気が結露して排ガス冷却装置7内部に付着し、排ガス冷却装置7、ダクト5、ダスト回収装置8を腐食損傷させるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−84958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
排ガス冷却装置として、空気を冷却媒体とした空冷式の排ガス冷却装置と、水を冷却媒体とした水冷式の排ガス冷却装置とがあるが、これら空冷式と水冷式の排ガス冷却装置について対流熱伝達の場合の熱伝達率について比較すると、水冷式の排ガス冷却装置の方が、空冷式の排ガス冷却装置と比較して大幅に熱伝導率が高い(例えば、水冷式の熱伝導率/空冷式の熱伝導率=130)。このため、排ガス冷却装置7として水冷式を採用すると、小さな熱交換面積で済むので、コンパクトな設備構成となる。
【0008】
ここで、図4は、冷却面熱伝達率を変数とした排ガス温度と受熱面最表面温度との関係を示したものである。
前述したように高い冷却能を有する水冷式の排ガス冷却装置を採用すると、冷却面の排ガス温度が、酸露点を下回る温度まで下がるおそれがある(例えば、図5に示すようにS0を含んだ排ガス中では、S0の酸露点150℃を下回ることになる)。また、溶銑予備処理の場合、混銑車1台ずつのバッチ処理であり、処理時間の経過に伴って精錬反応の内容も変化していくため、熱負荷そのものが変動し易く、酸露点以下への排ガス冷却を防ぎきれない。
【0009】
また、冷却面の排ガス温度の下がり過ぎを防止するだけなら、高い断熱コーティング等の処理を行なうことで対処できるが、結果的に総括熱伝達係数が下がって大型の装置構成となるので、コンパクトな設備構成で済むという水冷式の排ガス冷却装置の長所が失われる。
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、溶銑の予備処理時に発生する排ガスに対して、冷却空気を冷却媒体とした空冷式より抜熱能力を大きくし、酸露点を下回る温度まで下げずに冷却することができる排ガス冷却装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る請求項1記載の排ガス冷却装置は、溶銑の予備処理時に発生する300℃以上の排ガスを冷却する排ガス冷却装置であって、空気に対して動粘性係数が小さく、プラントル数の大きい飽和水蒸気を冷却媒体とした。
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の排ガス冷却装置において、前記冷却冷媒としての前記飽和水蒸気を160℃以上とし、受熱面が酸露点以下に下がらないように前記排ガスを冷却するようにした。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る排ガス冷却装置は、溶銑の予備処理時に発生する300℃以上の排ガスを160℃以上の飽和水蒸気を冷却媒体として冷却することから、冷却空気を冷却媒体とした空冷式排ガス冷却装置より抜熱能力を大きくして冷却することができるとともに、酸露点を下回る温度まで下げずに冷却するので、装置の腐食耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】排ガス温度が300℃〜700℃の範囲で変動する場合に、本発明に係る飽和水蒸気を冷却媒体とした排ガス冷却装置の熱交換面の熱流速を示したものである。
【図2】溶銑の予備処理の概要を示すブロック図である。
【図3】溶銑を貯留した混銑車を示す図である。
【図4】冷却面熱伝達率を変数とした排ガス温度と受熱面最表面温度との関係を示したグラフである。
【図5】排ガスのS、S0と温度変化の関係を示すグラフでである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という。)を、図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明に係る排ガス冷却装置は、図2と同様に、予備処理を行なっている混銑車2で発生した排ガスを冷却する排ガス冷却装置7である。
本実施形態の排ガス冷却装置7は、S0の酸露点が150℃なので、余裕を持って160℃以上の飽和水蒸気が冷却媒体として使用されている。
【0014】
本実施形態の排ガス冷却装置7と、30℃の空気を冷却媒体とした排ガス冷却装置について、抜熱能力(熱伝達率α)及び総括熱伝達係数を比較し、本実施形態の排ガス冷却装置7の性能について説明する。
先ず、熱伝達率を比較する。
一般的に対流熱伝達の場合の熱伝達率αは、次式で表される。
α=0.023λ/d・Re0.8Pr0.4 …… (1)
ただし、λ:流体の熱伝導率、d:流路の等価値径
Re:レイノルズ数=Ud/v
U:代表速度、d:冷却管の内径、v:動粘性係数、Pr:プラントル数
【0015】
そして、内径d=50mmの冷却管の中を流速20m/sで排ガスが通過する場合、
30℃の空気を冷却媒体とした排ガス冷却装置の熱伝達率α1は、
λ=0.022813kcal/mHr℃、Pr=0.71、
v=0.000016m/secより
α1=62.8kcal/mHr℃ …… (2)
の値を示す。
【0016】
これに対して、本実施形態の160℃以上の飽和水蒸気を冷却媒体とした排ガス冷却装置7の熱伝達率α2は、
λ=0.0262kcal/mHr℃、Pr=1.13、
v=0.00000436m/secより
α2=245.9kcal/mHr℃ …… (3)
の値を示す。
【0017】
したがって、上記(2)、(3)式の比較から明らかなように、空気を冷却媒体とした排ガス冷却装置と比較して、160℃以上の飽和水蒸気を冷却媒体とした排ガス冷却装置7は、小さな熱交換面積で済むので、コンパクトな設備構成とすることができる。
そして、空気を冷却媒体とした排ガス冷却装置の熱伝達率α1に対する、飽和水蒸気を冷却媒体とした排ガス冷却装置7の熱伝達率α2は、さほど高い値ではなく(α1/α2≒3.9)、300℃程度に低い排ガスを冷却する際に、排ガスを、酸露点を下回る温度まで下げることがない。
【0018】
次に、本実施形態の排ガス冷却装置7と、30℃の空気を冷却媒体とした排ガス冷却装置の総括熱伝達係数を比較する。
総括熱伝達係数Kは、次式で表される。
K=1/(1/α+ra+t/λ´+1/β+rb) …… (4)
ただし、t:冷却管の肉厚=4×10−3m、λ´:熱電導率=45kcal/mHr℃、
β:受熱面熱伝達率=60kcal/mHr℃、
rb:冷却管汚れ係数(受熱面)=0.003mHr℃/kcal、
ra:冷却管汚れ係数(冷却面)
【0019】
そして、冷却管汚れ係数(冷却面)ra=0.006mHr℃/kcalとした30℃の空気を冷却媒体とした排ガス冷却装置の総括熱伝達係数K1は、
K1=27.5kcal/mHr℃ …… (5)
の値を示す。
これに対して、冷却管汚れ係数(冷却面)ra=0.0mHr℃/kcalとした本実施形態の160℃以上の飽和水蒸気を冷却媒体とした排ガス冷却装置7の総括熱伝達係数K2は、
K2=42.0kcal/mHr℃ …… (6)
の値を示す。
このように、上記(5)、(6)式の比較から明らかなように、空気を冷却媒体とした排ガス冷却装置と比較して、160℃以上の飽和水蒸気を冷却媒体とした排ガス冷却装置7は総括熱伝達係数が大きい値となる。
【0020】
ここで、図1は、排ガス温度が300℃〜700℃の範囲で変動する場合に、本実施形態の飽和水蒸気を冷却媒体とした排ガス冷却装置7の熱交換面の熱流速をグラフ化したものである。図1によると、本実施形態の排ガス冷却装置7は、冷却媒体の温度が高いので(160℃以上の飽和水蒸気)、排ガス温度が低い場合には空気を冷却媒体とした排ガス冷却装置より熱流速が低くなって逆転現象が生じる。しかし、本実施形態の排ガス冷却装置7は、排ガス温度が700℃の場合には、空気を冷却媒体とした排ガス冷却装置と比較して約20%抜熱能力が増大する。したがって、本実施形態の飽和水蒸気を冷却媒体とした排ガス冷却装置7は、空気を冷却媒体とした排ガス冷却装置と比較して熱交換面積の削減を図ることができる。
【0021】
このように、本実施形態の160℃以上の飽和水蒸気を冷却媒体とした排ガス冷却装置7は、溶銑の予備処理時に発生する排ガスに対して冷却空気を冷却媒体とした空冷式排ガス冷却装置より抜熱能力を大きくすることができるとともに、酸露点を下回る温度まで下げずに冷却するので、腐食耐久性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0022】
1…予備処理ステーション、2…混銑車、3…ランス、4…排ガス処理装置、5…ダクト、6…ブロワ、7…排ガス冷却装置、8…ダスト回収装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶銑の予備処理時に発生する300℃以上の排ガスを冷却する排ガス冷却装置であって、
空気に対して動粘性係数が小さく、プラントル数の大きい飽和水蒸気を冷却媒体としたことを特徴とする排ガス冷却装置。
【請求項2】
前記冷却冷媒としての前記飽和水蒸気を160℃以上とし、受熱面が酸露点以下に下がらないように前記排ガスを冷却する請求項1記載の排ガス冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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