説明

排ガス収集ボックス

【課題】炭素化炉上部に形成されてなり、排ガスダクトから排ガスをスムーズに抜き出すことができる排ガス収集ボックスを提供する。
【解決手段】互いに平行に並んで上方から下方に炭素化炉2内を走行する酸化繊維ストランド群8を焼成して炭素繊維を製造する炭素化炉2の上部に形成されてなる排ガス収集ボックス4であって、その上壁18に酸化繊維ストランド群搬入スリット10を、下壁に酸化繊維ストランド群搬出スリットを有すると共に、前記排ガス収集ボックス4の上部側に且つ背壁20a近傍に、排ガス収集ボックス4の背後上方に向かって突き出した幅広の排ガスダクト14を有する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素化炉上部に形成される排ガス収集ボックスに関する。更に詳述すると、炭素化炉で発生する排ガスを外部の排ガス処理装置等に効率良く移送して系外に排出する排ガス収集ボックスに関する。
【背景技術】
【0002】
前駆体繊維としてのポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系、フェノール系、セルロース系、レーヨン系等の原料繊維を焼成して炭素繊維を製造する方法においては、通常まず原料繊維を酸化雰囲気で装置内温度300℃以下の熱処理装置により耐炎化処理を施して耐炎化繊維(酸化繊維)を得る。この耐炎化処理において、原料繊維は通常束ねて僅かに撚られた糸(ストランド)として熱処理装置に投入される。次いで、400℃以上の炭素化炉で熱処理することにより炭素化を行う。
【0003】
上記炭素化処理においては排ガスが発生する。通常、走行ストランドの10〜40質量%がガス化される。このガスは排出口を通過して炭素化炉外へ排出される(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
なお、炭素化炉としては大きく分けて、炭素化炉内に酸化繊維を水平方向に沿って供給する横型炭素化炉と、炭素化炉内に酸化繊維を上方から下方、即ち鉛直方向に沿って供給する縦型炭素化炉とがある。
【0005】
横型炭素化炉は、炉内を走行する酸化繊維を支持する手段を必要とするため、炭素化炉が大きくなり、更に炉全体が複雑化する。これに対し、縦型炭素化炉は、炉心筒内を走行する酸化繊維を支持する手段を特に必要とはしないため、炉全体の複雑化、大型化を回避できる。
【特許文献1】特開昭62−85029号公報 (特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、図5の概略斜視図に示す炉上部に取り付ける排ガス収集ボックスの構造に特徴を有する縦型炭素化炉を新たに製造し、この炭素化炉を用いて炭素繊維を製造することを試みた。
【0007】
図5中、32は周辺設備を含む炭素化炉設備であり、上部の排ガス収集ボックス34と、下部の炭素化炉本体36とから構成される。排ガス収集ボックス34は、炭素化炉本体36内で発生する排ガスが周囲に拡散しないように収集するためのボックスである。
【0008】
38は、酸化繊維ストランドである。各酸化繊維ストランドは互いに平行に並んで、排ガス収集ボックス34の上壁に形成された酸化繊維ストランド群搬入スリット40から排ガス収集ボックス34内に搬入される。
【0009】
次いで、酸化繊維38は排ガス収集ボックス34内を上方から下方に走行した後、炭素化炉本体36内の炉心筒内を上方から下方に走行し、炭素化処理されて炭素繊維が製造される。
【0010】
排ガス収集ボックス34の二つの壁42a、42bのうちの背壁42aには、3個の円形の開口部(不図示)が穿設されている。この開口部周縁には、それぞれの接続パイプ44a、44b、44cが接続されている。
【0011】
これら接続パイプ44a、44b、44cは何れも、所定の長さのところで下方に折曲され、それらの各下端は排ガス移送メインダクト46に接続されている。
【0012】
炭素化炉本体36及び排ガス収集ボックス34において、排ガスは背壁42aに穿設された開口部に向かって進み、開口部を通って断面円形の接続パイプ44a、44b、44cに入り、更に排ガス移送メインダクト46を通って系外に排出される。
【0013】
しかし、かなりの量の排ガスは、排ガス収集ボックス34内を複雑な流路で動いているため、排ガス収集ボックス34内からスムーズに抜き出せず、排ガス収集ボックス34内に滞留する問題がある。
【0014】
タールを含む排ガスが滞留すると、排ガス収集ボックス34の内壁にはタールが付着しやすい。そのため、頻繁に前壁42bに備えられた作業用扉48a、48bを開けて内部を掃除しないと開口部、接続パイプ等を閉塞してしまう危険性がある。更に上記タールの内壁における付着により、タールが酸化繊維ストランドを汚染し、炭素繊維の生産性を低減させる危険性がある。
【0015】
本発明者は、上記問題を解決するために種々検討しているうちに、排ガス収集ボックスと排ガス移送メインダクトとを接続するダクトを、前記排ガス収集ボックスの上部に排ガス収集ボックスの背面方向に向かって斜め上方に幅広に形成することにより、排ガス収集ボックス内からスムーズに排ガスを抜き出すことができることを知得し、本発明を完成するに到った。
【0016】
従って、本発明の目的とするところは、上記問題を解決した排ガス収集ボックスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成する本発明は、以下に記載するものである。
【0018】
〔1〕 互いに平行に並んで上方から下方に炭素化炉内を走行する酸化繊維ストランド群を焼成して炭素繊維を製造する炭素化炉の上部に形成されてなる排ガス収集ボックスであって、その上壁に酸化繊維ストランド群搬入スリットを、下壁に酸化繊維ストランド群搬出スリットを有すると共に、前記排ガス収集ボックスの上部側に且つ背壁近傍に、排ガス収集ボックスの背後上方に向かって突き出した幅広の排ガスダクトを有する排ガス収集ボックス。
【0019】
〔2〕 酸化繊維ストランド群が形成する走行面に平行な前壁に開閉扉が形成されてなる〔1〕に記載の排ガス収集ボックス。
【発明の効果】
【0020】
本発明の排ガス収集ボックスは、前記のように構成したので、排ガス収集ボックス内からスムーズに排ガスを抜き出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。図1は、本発明の排ガス収集ボックス及びその周辺設備の一例を示す概略斜視図である。図2は、図1の排ガス収集ボックスの概略図であり、(A)はその側面図であり、(B)はその平面図である。
【0022】
図1及び2中、2は周辺設備を含む炭素化炉設備であり、上部の排ガス収集ボックス4と、下部の炭素化炉本体6とから構成される。排ガス収集ボックス4は、炭素化炉本体6で発生した排ガスが周囲に拡散しないように収集する。8は、酸化繊維ストランドで、各ストランドは互いに平行に並んで、排ガス収集ボックス4の上面の酸化繊維ストランド群搬入スリット10から内部に搬入される。
【0023】
次いで、酸化繊維8は排ガス収集ボックス4内を上方から下方に走行した後、排ガス収集ボックス4の下壁に形成された酸化繊維ストランド群搬出スリット(不図示)から炭素化炉本体6の上部に供給され、炭素化炉本体6内の炉心筒(不図示)内を上方から下方に走行し、この際に炭素化処理されて炭素繊維が製造される。
【0024】
排ガス収集ボックス4の上部には、ボックス4の背面方向に向かって斜め上方に突き出した排ガスダクト14が形成されている。
【0025】
この排ガスダクト14は、下方から上方に向かうに従って、その長方形に形成した開口面積が徐々に減少する中空の角錐台状の、いわゆる漏斗形状になっている。この排ガスダクト14の下部開口端の長辺qは、図2(B)に示すように排ガス収集ボックス4の幅方向長さQとほぼ等しく形成されている。ここで、ボックス4の幅方向は、酸化繊維ストランド群搬入スリット10の長さ方向で定義される。排ガスダクト14の下部開口端の短辺sは、図2(A)に示すように排ガス収集ボックス4の奥行長さPのほぼ1/2に形成されている。pは、この短辺sの水平方向長さ成分である。
【0026】
前記排ガスダクト14の上端側は接続ダクト16に接続され、更に接続ダクト16は排ガス移送メインダクト12に接続されている。これにより、排ガス収集ボックス4内と排ガス移送メインダクト12内とは連通される。
【0027】
排ガス収集ボックス4の、酸化繊維ストランド群8が互いに平行に並んだ走行面に平行な二つの壁20a、20bのうちの前壁20bには、開閉扉22a、22bが形成されている。
【0028】
排ガスダクト14における斜め上方に向かう傾斜角は、水平面に対し、排ガスダクト14の上面において20〜75゜、排ガスダクト14の下面において30〜80゜とすることが好ましい。
【0029】
排ガスダクト14の排ガス収集ボックス4に対する取付け位置は、排ガス収集ボックス4の上部側である。即ち、図2(A)に示すように排ガス収集ボックス4の上壁18と背壁20aとに亘り排ガスダクト14を取り付けても良い。
【0030】
又は、図3に示すように排ガス収集ボックス4の上壁18の背壁20a側に取り付けても良い。更には、図4に示すように排ガス収集ボックス4の背壁20aの上部側に取り付けても良い。
【0031】
上壁18に対する排ガスダクト14の取付け幅p(背壁20aからの距離)は、排ガス収集ボックス4の奥行Pの90%以下が好ましく、80%以下がより好ましい。
【0032】
背壁20aに対する排ガスダクト14の取付け幅r(上壁18からの距離)は、排ガス収集ボックス4の高さRの80%以下が好ましく、60%以下がより好ましい。
【0033】
図1及び2に示すように、排ガスダクト14が排ガス収集ボックス4の上壁18及び背壁20aに亘って取り付けられている場合も、取付け幅は同様である。
【0034】
以下、排ガスダクト14の動作につき説明する。排ガス収集ボックス4において酸化繊維8から発生した排ガスはスムーズに、上面背部に向かって進み、排ガスダクト14に入り、更に排ガス移送メインダクト12を通って系外に排出される。
【0035】
排ガスは、排ガス収集ボックス4内からスムーズに抜き出せるので、排ガス収集ボックス4内における排ガスの滞留が低減される。これにより、排ガス収集ボックス4の内壁におけるタールの付着が低減される。そのため、排ガスダクト等の排ガス流路を閉塞してしまう危険性が低減し、前壁20bに備えられた作業用扉22a、22bを開けて掃除する頻度が低減し作業性が向上する。また、上記タールの内壁における付着低減により、タールが酸化繊維ストランドを汚染する危険性が低減し、炭素繊維の生産性が高くなる。
【0036】
排ガス収集ボックス4内排ガスの流路がシンプルでスムーズに排ガスが抜ける構造となっているので、排ガス収集ボックス4を背壁20aの方向及び前壁20bの方向に広げる必要はない。そのため、排ガス収集ボックス4は小さいままで良く、設備の複雑化、大型化は回避される。
【0037】
なお、図1及び2の例では、排ガスダクト14の上端長辺lを、下端長辺mよりも短くしたが、同じ長さにしても良い。
【0038】
また、接続ダクト16は、その断面形状が長方形のものを使用したが、その断面形状は、任意で、例えば、ひし形状、楕円形状のものを用いることができる。更に、本発明の排ガスダクトの形態は図1〜4の形態だけではなく、本発明の要旨を変更しない限り、適宜変形して差支えない。
【実施例】
【0039】
実施例1
図1に示す排ガスダクト及びその周辺設備を有する炭素化炉を用いて炭素繊維を製造した。
【0040】
排ガス収集ボックス4は、縦(背壁20aと前壁20bとの間の距離)が1.0m、横(背壁20a又は前壁20bの幅)が2.5m、高さが1.0mであった。接続ダクト16の排ガス流路方向長さは0.7mであった。排ガスダクト14における斜め上方に向かう傾斜角は、水平面に対し、排ガスダクト14の上面において60゜、排ガスダクト14の下面において70゜であった。排ガス移送メインダクト12の直径は0.25mであった。
【0041】
この炭素化炉に酸化繊維を通して炭素繊維を製造したところ、排ガスは、排ガス収集ボックス4内からスムーズに抜き出され、排ガス収集ボックス4の内壁におけるタールの付着が低減された。そのため、酸化繊維ストランドのタールによる汚染は低減され、製品収集率(工程トラブルによる断糸及びタール付着による汚染等の無い製品の収率)は理論値の92%と、高い生産性で熱処理を行うことができた。
【0042】
比較例1
図5に示す排ガスダクト及びその周辺設備を有する炭素化炉を用いて炭素繊維を製造した。
【0043】
排ガス収集ボックス34は、縦(背壁20aと前壁20bとの間の距離)が2.0m、横(背壁42a又は前壁42bの幅)が2.5m、高さが1.0mであった。接続パイプ44a、44b及び44cは、それぞれ直径が0.1m、0.15m、0.1mであった。排ガス移送メインダクト46の直径は0.25mであった。
【0044】
この炭素化炉に酸化繊維を通して炭素繊維を製造したところ、排ガスは、排ガス収集ボックス4内からスムーズに抜き出されず、排ガス収集ボックス34の内壁におけるタールの付着は多いものであった。そのため、酸化繊維ストランドのタールによる汚染の影響を受け、製品収集率は理論値の80%と、生産性は低いものであった。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の排ガス収集ボックス及びその周辺設備の一例を示す概略斜視図である。
【図2】本発明の排ガス収集ボックス及びその周辺設備の一例を示す概略図であり、(A)はその側面図であり、(B)はその平面図である。
【図3】本発明の排ガス収集ボックス及びその周辺設備の他の例を示す概略側面図である。
【図4】本発明の排ガス収集ボックス及びその周辺設備の更に他の例を示す概略側面図である。
【図5】比較例1で用いた排ガス収集ボックス及びその周辺設備を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0046】
2、32 周辺設備を含む炭素化炉設備
4、34 排ガス収集ボックス
6、36 炭素化炉本体
8、38 酸化繊維ストランド
10、40 酸化繊維ストランド群搬入スリット
12、46 排ガス移送メインダクト
14 排ガスダクト
16 接続ダクト
18 排ガス収集ボックスの上壁
20a、42a 排ガス収集ボックスの背壁
20b、42b 排ガス収集ボックスの前壁
22a、22b、48a、48b 作業用扉
44a、44b、44c 接続パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに平行に並んで上方から下方に炭素化炉内を走行する酸化繊維ストランド群を焼成して炭素繊維を製造する炭素化炉の上部に形成されてなる排ガス収集ボックスであって、その上壁に酸化繊維ストランド群搬入スリットを、下壁に酸化繊維ストランド群搬出スリットを有すると共に、前記排ガス収集ボックスの上部側に且つ背壁近傍に、排ガス収集ボックスの背後上方に向かって突き出した幅広の排ガスダクトを有する排ガス収集ボックス。
【請求項2】
酸化繊維ストランド群が形成する走行面に平行な前壁に開閉扉が形成されてなる請求項1に記載の排ガス収集ボックス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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