説明

排ガス浄化方法

【課題】永久NEMCA効果を有する触媒を使用した排ガス浄化方法において、触媒活性を大きく低下させることなく消費電力を低減することを可能とする排ガス浄化方法を提供すること。
【解決手段】触媒作用を有するアノード電極と、前記アノード電極上に配置された酸素イオン伝導性固体電解質と、前記固体電解質上に配置された触媒作用を有するカソード電極とを備える永久NEMCA効果を有する排ガス浄化用触媒と排ガスとを、前記排ガス浄化用触媒に印加する電圧を制御しながら接触せしめる排ガスの浄化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化方法に関し、より詳しくは、永久NEMCA効果を有する排ガス浄化用触媒を用いた排ガス浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NEMCA効果(触媒活性の非ファラデー的電気化学的変性)は、アノード電極と、前記アノード電極上に配置された固体電解質と、前記固体電解質上に配置されたカソード電極からなり、前記電極うちの少なくとも1つが触媒作用を有する触媒に、数ボルトの電圧を印加すると、前記固体電解質に数マイクロアンペアから数ミリアンペアの微弱電流が流れ、前記電極表面の触媒活性や選択性が変化するというものである。
【0003】
このようなNEMCA効果を利用したものとして、特開2000−80490号公報(特許文献1)には、特定のアノードと、酸素イオン伝導性固体電解質と、金属からなるカソードとを備える触媒を使用した有機化合物を電気化学的に酸化する方法が開示されている。また、特開2000−96278号公報(特許文献2)には、固体状電解質と、この固体電解質に施された触媒作用材料と、前記固体状電解質に結合された金属基板とからなる触媒に電圧を印加して、有機化合物を水添する方法が開示されている。
【0004】
また、C.Piangosら,Solid State Ionics,vol.136−137(2000),p.767−773(非特許文献1)およびC.G.Vayenasら,Electrochemical Activation of Catalyst:Promotion,Electrochemical Promotion,and Metal−Support Interactions,New York,Kluwer Academic/Plenum Publishers,2001,p.176−179(非特許文献2)には、酸化イットリウムで安定化されたジルコニアなどの酸素イオン伝導性固体電解質とその両面に白金やロジウムなどの金属またはこれらの酸化物からなる触媒電極膜とを備える触媒が、永久NEMCA効果を有し、一酸化炭素の酸化反応や窒素酸化物の還元反応に利用できることが開示されている。永久NEMCA効果とは、前記触媒に電圧を印加して表面をNEMCA状態にして触媒活性を向上させた後、電圧の印加を停止しても暫くの間は前記NEMCA状態が持続され、触媒活性は低下するものの、初期の触媒活性に比べて高い活性が維持されるというものである。
【0005】
しかしながら、上述したように、永久NEMCA効果を有する触媒であっても、電圧の印加を停止すると触媒活性が低下するため、実際には、触媒活性をより高く維持するために継続して電圧を印加する必要があり、電力消費量が多くなるという問題があった。また、ディーゼル排ガスの浄化など非定常な系では、その条件、特に酸素濃度や温度の上昇によって触媒活性が変動するという問題もあった。
【特許文献1】特開2000−80490号公報
【特許文献2】特開2000−96278号公報
【非特許文献1】C.Piangosら,Solid State Ionics,vol.136−137(2000),p.767−773
【非特許文献2】C.G.Vayenasら,Electrochemical Activation of Catalyst:Promotion,Electrochemical Promotion,and Metal−Support Interactions,New York,Kluwer Academic/Plenum Publishers,2001,p.176−179
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、永久NEMCA効果を有する触媒を使用した排ガス浄化方法において、触媒活性を大きく低下させることなく消費電力を低減することを可能とする排ガス浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、永久NEMCA効果を有する触媒に印加する電圧を制御しながら前記触媒と排ガスとを接触せしめることにより、触媒活性を大きく低下させることなく消費電力を低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の排ガス浄化方法は、触媒作用を有するアノード電極と、前記アノード電極上に配置された酸素イオン伝導性固体電解質と、前記固体電解質上に配置された触媒作用を有するカソード電極とを備える永久NEMCA効果を有する排ガス浄化用触媒に一定の電圧を印加して前記固体電解質に電流を流しながら前記排ガス浄化用触媒と排ガスとを接触せしめる工程と、
前記固体電解質に流れる電流が一定となった時点で、前記アノード電極と前記カソード電極との間の電位EONを測定し、且つ前記電圧の印加を停止する工程と、
前記排ガス浄化用触媒に電圧を印加せずに前記排ガス浄化用触媒と排ガスとを接触せしめ、且つ前記アノード電極と前記カソード電極との間の電位EOFFを測定する工程と、
前記電位EONに対する前記電位EOFFの比率(EOFF/EON)が所定の閾値未満になった時点で前記排ガス浄化用触媒に電圧を印加する工程と、
を含むことを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の他の排ガス浄化方法は、触媒作用を有するアノード電極と、前記アノード電極上に配置された酸素イオン伝導性固体電解質と、前記固体電解質上に配置された触媒作用を有するカソード電極とを備える永久NEMCA効果を有する排ガス浄化用触媒に一定の電圧を印加しながら前記排ガス浄化用触媒と排ガスとを接触せしめる工程と、
前記排ガス浄化用触媒と排ガスとの接触により生成する反応生成物の生成速度が一定となった時点で、該生成速度rONを測定し、且つ前記電圧の印加を停止する工程と、
前記排ガス浄化用触媒に電圧を印加せずに前記排ガス浄化用触媒と排ガスとを接触せしめ、且つ前記反応生成物の生成速度rOFFを測定する工程と、
前記生成速度rONに対する前記生成速度rOFFの比率(rOFF/rON)が所定の閾値未満になった時点で前記排ガス浄化用触媒に電圧を印加する工程と、
を含むことを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明のさらに他の排ガス浄化方法は、触媒作用を有するアノード電極と、前記アノード電極上に配置された酸素イオン伝導性固体電解質と、前記固体電解質上に配置された触媒作用を有するカソード電極とを備える永久NEMCA効果を有する排ガス浄化用触媒に電圧を印加しながら前記排ガス浄化用触媒と排ガスとを接触せしめる排ガスの浄化方法であって、
前記排ガス中の反応物の目標転化率を設定する工程と、
前記排ガス浄化用触媒と接触させた後の排ガス中の反応物の転化率を測定する工程と、
前記目標転化率、前記転化率の測定値、および前記排ガス浄化用触媒と前記排ガスとの接触条件に基づいて、印加する電圧をPID制御しながら前記排ガス浄化用触媒と前記排ガスとを接触せしめる工程と、
を含むことを特徴とするものである。
【0011】
なお、本発明の排ガス浄化方法によって触媒活性を大きく低下させることなく消費電力を低減できる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、永久NEMCA効果を有する触媒に電圧を印加すると、触媒活性を向上させる因子(例えば、酸素イオン)が生成し、これが触媒表面に吸着した反応物と反応する。しかし、電圧の印加を継続すると、反応物と反応せずに消滅するものも多くなるため、消費電力は増大するが、触媒活性が見かけ上、向上しないものと推察する。
【0012】
そこで、前記触媒活性向上因子が所定量生成した時点で前記触媒への電圧の印加を停止すると、新たな触媒活性向上因子は生成しないが、これまでに生成した触媒活性向上因子が触媒、特に固体電解質中に保持されると推察する。そして、保持された触媒活性向上因子が反応物と反応するため、電圧の印加を停止した後も触媒活性が大きく低下しないものと推察する。その後、前記反応により触媒活性向上因子の保持量が所定の量まで減少した時点で、再び触媒に電圧を印加することにより新たに触媒活性向上因子が生成して触媒活性が維持されるものと推察する。
【0013】
その結果、本発明では、触媒活性向上因子を補う場合にのみ触媒に電圧を印加するため、継続的に印加する場合に比べて消費電力が低減するものと推察する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、永久NEMCA効果を有する触媒に印加する電圧を制御しながら、前記触媒と排ガスとを接触せしめることによって、触媒活性を大きく低下させることなく消費電力を低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0016】
本発明の排ガスの浄化方法は、永久NEMCA効果を有する排ガス浄化用触媒に印加する電圧を制御しながら前記排ガス浄化用触媒と排ガスとを接触せしめることを特徴とするものである。
【0017】
本発明に用いる永久NEMCA効果を有する排ガス浄化用触媒は、触媒作用を有するアノード電極と、前記アノード電極上に配置された酸素イオン伝導性固体電解質と、前記固体電解質上に配置された触媒作用を有するカソード電極とを備えるものである。
【0018】
前記アノード電極は触媒作用を有するものであれば特に限定されず、例えば、特開2000−80490号公報に記載の触媒作用材料からなる電極、特開2000−96278号公報に記載のアノード物質からなる電極などが挙げられ、中でも、白金、ロジウムなどの貴金属からなる電極が好ましい。
【0019】
前記カソード電極は触媒作用を有するものであれば特に限定されず、例えば、特開2000−80490号公報に記載の触媒作用材料からなる電極、特開2000−96278号公報に記載のカソードなどが挙げられる。
【0020】
前記酸素イオン伝導性固体電解質としては、酸化イットリウムにより安定化されたジルコニア〔(Y1−x(ZrO(式中、x=0.57〜0.99)〕、セリウム系酸化物〔Ce1−m(式中、BはSm、Gd、YおよびCaからなる群から選択される少なくとも1種を示す。0<m≦0.4。)〕、ランタン−ガリウム系酸化物〔La1−aSrGa1−b−cMg(式中、AはCo、Fe、NiおよびCuからなる群から選択される少なくとも1種を示す。a=0.05〜0.3、b=0〜0.29、c=0.01〜0.3、b+c=0.025〜0.3。)、特開2000−96278号公報に記載の酸素イオン伝導性固体などが挙げられる。
【0021】
前記排ガス浄化用触媒は、例えば、前記酸素イオン伝導性固体電解質をプレス成形した後、大気中、約1500℃で焼成して固体電解質膜を作製し、この固体電解質膜の一方の面に前記アノード電極を、他方の面に前記カソード電極を形成することによって製造することができる。
【0022】
本発明の排ガス浄化方法を適用することができる排ガスとしては、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)および窒素酸化物(NOx)を含有する混合ガス、例えば、ディーゼル排ガスなどが挙げられる。また、本発明の排ガス浄化方法では、この排ガスに酸素を混合し、この混合ガスを前記排ガス浄化用触媒と接触させてもよい。前記混合ガスの酸素濃度は0〜20vol%であることが好ましく、0〜10vol%であることがより好ましい。
【0023】
本発明の排ガス浄化方法は、前記排ガス浄化用触媒に印加する電圧を制御しながらこのような排ガスと前記排ガス浄化用触媒とを接触せしめ、COやHCを酸化したり、NOxを還元するものである。
【0024】
前記排ガス浄化用触媒と前記排ガスとを接触させる際の温度としては、100〜600℃が好ましく、300〜500℃がより好ましい。接触温度が上記下限未満になると前記排ガス浄化用触媒による排ガスの浄化が困難となる傾向にあり、他方、上記上限を超えると例えばディーゼル排ガスの浄化では非現実的な温度となる傾向にある。
【0025】
本発明の排ガス浄化方法の具体的な態様としては、前記排ガス浄化用触媒に一定の電圧を印加して前記固体電解質に電流を流しながら前記排ガス浄化用触媒と排ガスとを接触せしめる工程と、
前記固体電解質に流れる電流が一定となった時点で、前記アノード電極と前記カソード電極との間の電位EONを測定し、且つ前記電圧の印加を停止する工程と、
前記排ガス浄化用触媒に電圧を印加せずに前記排ガス浄化用触媒と排ガスとを接触せしめ、且つ前記アノード電極と前記カソード電極との間の電位EOFFを測定する工程と、
前記電位EONに対する前記電位EOFFの比率(EOFF/EON)が所定の閾値未満になった時点で前記排ガス浄化用触媒に電圧を印加する工程と、
を含む方法(以下、「第一の排ガス浄化方法」という)が挙げられる。図1にはEOFF/EONの閾値を0.6に設定した場合の第一の排ガス浄化方法の電圧制御フローチャートを示す。
【0026】
なお、前記第一の排ガス浄化方法においては、電流値の1分間の変動幅が±10%以内となった時点を「電流が一定となった時点」と判定するものとする。
【0027】
前記排ガス浄化用触媒に印加する電圧としては、1〜3Vが好ましい。印加する電圧が上記下限未満になると電圧を印加しても触媒活性が十分に再生しない傾向にあり、他方、上記上限を超えると酸素イオン伝導性固体電解質が破壊される傾向にある。
【0028】
本発明の第一の排ガス浄化方法においては、EOFF/EONの閾値を、0.4〜0.8の範囲に設定することが好ましく、0.5〜0.7の範囲に設定することがより好ましい。EOFF/EONの閾値が上記下限未満になると触媒活性が低くなりすぎ、十分な排ガス浄化効果が得られない傾向にあり、他方、上記上限を超えると触媒活性が十分に保持された状態で電圧を印加することになり、消費電力の低減効果が十分に得られない傾向にある。
【0029】
このように、前記アノード電極と前記カソード電極との間の電位に基づいて、前記排ガス浄化用触媒に印加する電圧をON−OFF制御することにより、触媒活性を大きく低下させることなく、消費電力を低減することができる。
【0030】
本発明の排ガス浄化方法の他の態様としては、前記排ガス浄化用触媒に一定の電圧を印加しながら前記排ガス浄化用触媒と排ガスとを接触せしめる工程と、
前記排ガス浄化用触媒と排ガスとの接触により生成する反応生成物の生成速度が一定となった時点で、該生成速度rONを測定し、且つ前記電圧の印加を停止する工程と、
前記排ガス浄化用触媒に電圧を印加せずに前記排ガス浄化用触媒と排ガスとを接触せしめ、且つ前記反応生成物の生成速度rOFFを測定する工程と、
前記生成速度rONに対する前記生成速度rOFFの比率(rOFF/rON)が所定の閾値未満になった時点で前記排ガス浄化用触媒に電圧を印加する工程と、
を含む方法(以下、「第二の排ガス浄化方法」という)が挙げられる。図2にはrOFF/rONの閾値を0.8に設定した場合の第二の排ガス浄化方法の電圧制御フローチャートを示す。
【0031】
なお、前記第二の排ガス浄化方法においては、反応生成物の生成速度の1分間の変動幅が±10%以内となった時点を「反応生成物の生成速度が一定となった時点」と判定するものとする。
【0032】
前記排ガス浄化用触媒に印加する電圧としては、1〜3Vが好ましい。印加する電圧が上記下限未満になると電圧を印加しても触媒活性が十分に再生しない傾向にあり、他方、上記上限を超えると酸素イオン伝導性固体電解質が破壊される傾向にある。
【0033】
本発明の第二の排ガス浄化方法においては、rOFF/rONの閾値を、0.4〜0.8の範囲に設定することが好ましく、0.5〜0.7の範囲に設定することがより好ましい。rOFF/rONの閾値が上記下限未満になると触媒活性が低くなりすぎ、十分な排ガス浄化効果が得られない傾向にあり、他方、上記上限を超えると触媒活性が十分に保持された状態で電圧を印加することになり、消費電力の低減効果が十分に得られない傾向にある。
【0034】
このように、排ガスの浄化により生成する反応生成物の生成速度に基づいて、前記排ガス浄化用触媒に印加する電圧をON−OFF制御することにより、触媒活性を大きく低下させることなく、消費電力を低減することができる。
【0035】
本発明の排ガス浄化方法のさらに他の態様としては、前記排ガス浄化用触媒に電圧を印加しながら前記排ガス浄化用触媒と排ガスとを接触せしめる排ガスの浄化方法であって、
前記排ガス中の反応物の目標転化率xを設定する工程と、
前記排ガス浄化用触媒と接触させた後の排ガス中の反応物の転化率xを測定する工程と、
前記目標転化率x、前記転化率の測定値x、および前記排ガス浄化用触媒と前記排ガスとの接触条件に基づいて、印加する電圧をPID制御しながら前記排ガス浄化用触媒と前記排ガスとを接触せしめる工程と、
を含む方法(以下、「第三の排ガス浄化方法」という)が挙げられる。この第三の排ガス浄化方法の電圧制御フローチャートを図3Aに示す。また、電圧のPID制御のブロック線図を図3Bに示す。図3Bにおいては、前記接触条件として接触温度および酸素と排ガスとを含む混合ガスの酸素濃度を例示したが、前記条件はこれらに限定されるものではない。
【0036】
図3B中、xは反応物の目標転化率、xは反応物の転化率の測定値、Δx=x−x、ΔVは電圧増減値、Tは接触温度、CO2は前記混合ガスの酸素濃度を示す。
【0037】
本発明の第三の排ガス浄化方法においてはPID制御を以下のようにして実施する。先ず、PID制御装置1にΔx、および接触条件(例えば、TおよびCO2)を入力し、転化率の測定値xに対する最適なΔVを求める。次に、このΔVに基づいて前記排ガス浄化用触媒2に印加する電圧を変更する。変更された電圧および前記接触条件の下での転化率xを測定し、この測定値を用いてさらに上記PID制御を繰り返す。
【0038】
このように、転化率の測定値xに基づいて、随時、PID制御を実施することにより、触媒活性を大きく低下させることなく、より効率的に消費電力を低減することができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
<排ガス浄化用触媒の作製>
酸化イットリウム(3mol%)で安定化されたジルコニアをプレス成形した後、大気中、1480℃で5時間焼成して円形状の固定電解質膜(直径2.5cm、厚さ0.1mm)を作製した。この固定電解質膜の一方の面にRhペーストを塗布してアノード電極としてのRh電極膜(直径2.0cm、厚さ10μm)を作製し、他方の面にAuペーストを塗布してカソード電極としてのAu電極膜(直径2.0cm、厚さ10μm)を作製した。これを大気中、600℃で1時間焼成し、排ガス浄化用触媒を得た。
【0041】
図4に示すように、この排ガス浄化用触媒のアノード電極3およびカソード電極4に、電源6および電位測定装置7を接続した。電源としてソースメータ(ケースレー社製、型番「2400」)、電位測定装置としてデジタルマルチメータ(ケースレー社製、型番「2010」)を使用した。
【0042】
(実施例1)
電源および電位測定装置が接続された前記排ガス浄化用触媒を直径3cmの石英管内に装入し、表1に示す混合ガス(残りの成分はHe)を表1に示す条件で前記石英管に240cm/分の流量で流通させた。電圧の印加は図1に示す電圧制御フローチャートに従って制御した。すなわち、先ず、前記混合ガスを流通させながら前記排ガス浄化用触媒に+2Vの電圧を印加した。電流が一定となった時点で電位EONを測定し、電圧の印加を停止した。その後、電位EOFFを測定し、EOFF/EONが0.6未満になった時点で再び前記排ガス浄化用触媒に+2Vの電圧を印加した。この操作を繰り返しながら前記混合ガスを40分間流通させた。
【0043】
40分経過後、供給した混合ガスおよび浄化後の混合ガスを四重極質量分析計(キャノンアネルバ(株)製、型番「M−201QA」)を用いて測定し、m/z=41、28、30および44の質量数のピークの信号強度比から、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)および一酸化窒素(NO)の転化率、ならびに二酸化炭素(CO)の生成率を算出した。また、この間に消費した電力量を算出した。これらの結果を表2に示す。
【0044】
(実施例2)
印加する電圧を、図2に示す電圧制御フローチャートに従って制御した以外は実施例1と同様にして、表1に示す混合ガスを石英管に流通させた。すなわち、先ず、前記混合ガスを流通させながら前記排ガス浄化用触媒に+2Vの電圧を印加した。二酸化炭素(CO)の生成速度が一定となった時点でこのときのCOの生成速度rONを測定し、電圧の印加を停止した。その後、COの生成速度rOFFを測定し、rOFF/rONが0.8未満になった時点で再び前記排ガス浄化用触媒に+2Vの電圧を印加した。この操作を繰り返しながら前記混合ガスを40分間流通させた。
【0045】
40分経過後の、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)および一酸化窒素(NO)の転化率、ならびに二酸化炭素(CO)の生成率を表2に示す。また、この間に消費した電力量を表2に示す。
【0046】
(実施例3)
反応物(CO)の目標転化率xを、酸素濃度CO2に関わらず、接触温度T=300℃では80%、T=350℃では85%、T=370℃では87%に設定した。
【0047】
印加する電圧を、図3Aに示す電圧制御フローおよび図3Bに示すPID制御のブロック線図に従って制御した以外は実施例1と同様にして、表1に示す混合ガスを石英管に流通させた。すなわち、一酸化炭素(CO)の転化率x、接触温度T、および酸素濃度CO2を測定し、下記式(1)により最適なΔVを算出した。
【0048】
【数1】

【0049】
式(1)中、e(τ)は誤差、Kは比例ゲイン、Tは積分時間、Tは微分時間を示し、予め実験により接触温度Tと酸素濃度CO2から求めた最適値を使用した。
【0050】
算出したΔVに基づいて前記排ガス浄化用触媒に印加する電圧を変更した。前記測定、ΔVの算出、および電圧の変更を繰り返しながら前記混合ガスを40分間流通させた。
【0051】
40分経過後の、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)および一酸化窒素(NO)の転化率、ならびに二酸化炭素(CO)の生成率を表2に示す。また、この間に消費した電力量を表2に示す。
【0052】
(比較例1)
電圧を印加しなかった以外は実施例1と同様にして、表1に示す混合ガスを石英管に流通させた。40分経過後の、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)および一酸化窒素(NO)の転化率、ならびに二酸化炭素(CO)の生成率を表2に示す。
【0053】
(比較例2)
前記排ガス浄化用触媒に常時+2Vの電圧を印加した以外は実施例1と同様にして、表1に示す混合ガスを石英管に流通させた。40分経過後の、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)および一酸化窒素(NO)の転化率、ならびに二酸化炭素(CO)の生成率を表2に示す。また、この間に消費した電力量を表2に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
表2に示した結果から明らかなように、本発明の排ガス浄化方法により、排ガス浄化用触媒に印加する電圧を制御しながらCO、HCおよびNOを含む排ガスを浄化せしめた場合(実施例1〜3)は、排ガス浄化用触媒に常時一定の電圧を印加した場合(比較例2)に比べてCO、HCおよびNOの転化率を大きく低下させることなく、消費電力を大幅に低減することができた。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上説明したように、本発明によれば、永久NEMCA効果を有する触媒に印加する電圧を制御しながら、前記触媒と排ガスとを接触せしめることによって、触媒活性を大きく低下させることなく消費電力を低減することが可能となる
したがって、本発明の排ガスの浄化方法は、経済性に優れるため、ディーゼル排ガスなどの浄化方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の第一の排ガス浄化方法における電圧制御方法を示すフローチャートである。
【図2】本発明の第二の排ガス浄化方法における電圧制御方法を示すフローチャートである。
【図3A】本発明の第三の排ガス浄化方法における電圧制御方法を示すフローチャートである。
【図3B】本発明の第三の排ガス浄化方法における電圧のPID制御のブロック線図である。
【図4】実施例および比較例で使用した排ガス浄化用触媒を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0059】
1…PID制御装置、2…排ガス浄化用触媒、3…アノード電極、4…カソード電極、5…固体電解質膜、6…電源、7…電位測定装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒作用を有するアノード電極と、前記アノード電極上に配置された酸素イオン伝導性固体電解質と、前記固体電解質上に配置された触媒作用を有するカソード電極とを備える永久NEMCA効果を有する排ガス浄化用触媒に一定の電圧を印加して前記固体電解質に電流を流しながら前記排ガス浄化用触媒と排ガスとを接触せしめる工程と、
前記固体電解質に流れる電流が一定となった時点で、前記アノード電極と前記カソード電極との間の電位EONを測定し、且つ前記電圧の印加を停止する工程と、
前記排ガス浄化用触媒に電圧を印加せずに前記排ガス浄化用触媒と排ガスとを接触せしめ、且つ前記アノード電極と前記カソード電極との間の電位EOFFを測定する工程と、
前記電位EONに対する前記電位EOFFの比率(EOFF/EON)が所定の閾値未満になった時点で前記排ガス浄化用触媒に電圧を印加する工程と、
を含むことを特徴とする排ガス浄化方法。
【請求項2】
触媒作用を有するアノード電極と、前記アノード電極上に配置された酸素イオン伝導性固体電解質と、前記固体電解質上に配置された触媒作用を有するカソード電極とを備える永久NEMCA効果を有する排ガス浄化用触媒に一定の電圧を印加しながら前記排ガス浄化用触媒と排ガスとを接触せしめる工程と、
前記排ガス浄化用触媒と排ガスとの接触により生成する反応生成物の生成速度が一定となった時点で、該生成速度rONを測定し、且つ前記電圧の印加を停止する工程と、
前記排ガス浄化用触媒に電圧を印加せずに前記排ガス浄化用触媒と排ガスとを接触せしめ、且つ前記反応生成物の生成速度rOFFを測定する工程と、
前記生成速度rONに対する前記生成速度rOFFの比率(rOFF/rON)が所定の閾値未満になった時点で前記排ガス浄化用触媒に電圧を印加する工程と、
を含むことを特徴とする排ガス浄化方法。
【請求項3】
触媒作用を有するアノード電極と、前記アノード電極上に配置された酸素イオン伝導性固体電解質と、前記固体電解質上に配置された触媒作用を有するカソード電極とを備える永久NEMCA効果を有する排ガス浄化用触媒に電圧を印加しながら前記排ガス浄化用触媒と排ガスとを接触せしめる排ガスの浄化方法であって、
前記排ガス中の反応物の目標転化率を設定する工程と、
前記排ガス浄化用触媒と接触させた後の排ガス中の反応物の転化率を測定する工程と、
前記目標転化率、前記転化率の測定値、および前記排ガス浄化用触媒と前記排ガスとの接触条件に基づいて、印加する電圧をPID制御しながら前記排ガス浄化用触媒と前記排ガスとを接触せしめる工程と、
を含むことを特徴とする排ガスの浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−113003(P2009−113003A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−292012(P2007−292012)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】