説明

排ガス浄化触媒微粒子の製造方法

【課題】簡便なプロセス・設備によって、ナノ粒子に匹敵する炭化水素および一酸化炭素の酸化能を発揮するCo微粒子を合成する方法を提供する。
【解決手段】コバルト塩の水溶液に、この塩を中和するのに必要な量の0.8倍量〜1.1倍量のアルカリを添加して水酸化コバルトを生成させる工程、
生成した水酸化コバルトを熟成させる工程、および
熟成後の水酸化コバルトを空気中で熱処理してCoを生成させる工程
を含むことを特徴とする排ガス浄化触媒微粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化触媒、特に炭化水素(HC)および一酸化炭素(CO)の酸化触媒としてのCoの微粒子を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Coは1975年以来、酸化触媒として知られており、金属コバルト、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を800℃以下の空気中で加熱焼成することで得られる、ことが知られている(非特許文献1等)。すなわち、自動車排ガス、特に炭化水素(HC)および一酸化炭素(CO)を酸化浄化用の触媒としても有用である。
【0003】
Coをナノ粒子化することで、貴金属触媒を超える酸化能が発現する。Coナノ粒子を排ガス浄化触媒として用いようとすると、ナノ粒子合成にはプラズマ法やマイクロリアクター等の複雑なプロセス・設備を必要とし製造コストが高い、生成量が少ない、といった問題があった。
【0004】
そこで、簡便なプロセス・設備によって、ナノ粒子に匹敵する酸化能を発揮するCo微粒子を合成する方法が求められている。
【0005】
特許文献1には、Coを主成分とする酸化コバルトを含む亜酸化窒素分解触媒と、水溶性のコバルト塩とアルカリ性物質とを混合し、酸化コバルトの前躯体を得る方法が開示されている。得られた酸化コバルトは、300℃以下の低温における亜酸化窒素分解能が高い。しかし、典型例として、実施例17において、多量のアルカリ水溶液に硝酸コバルトを添加しているように、添加するアルカリ量の調整がなされていないため、結晶子径が十分小さい酸化コバルトを製造できない、という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−054714号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「ファインセラミック辞典」(ファインセラミックス辞典編集委員会、技報堂出版、1987年4月30日)、p132−133
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、簡便なプロセス・設備によって、ナノ粒子に匹敵する炭化水素および一酸化炭素の酸化能を発揮するCo微粒子を合成する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、下記:
コバルト塩の水溶液に、この塩を中和するのに必要な量の0.8倍量〜1.1倍量のアルカリを添加して水酸化コバルトを生成させる工程、
生成した水酸化コバルトを熟成させる工程、および
熟成後の水酸化コバルトを空気中で熱処理してCoを生成させる工程
を含むことを特徴とする排ガス浄化触媒微粒子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
コバルト塩を中和するのに必要な量の0.8倍量〜1.1倍量のアルカリを添加して水酸化コバルトを生成させることにより、熟成工程の後、最後の空気中熱処理によってナノ粒子に準ずる微粒子が得られ、ナノ粒子に匹敵する炭化水素および一酸化炭素の酸化能が達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、4種類の異なる方法で合成したCoのXRDチャートを示す。
【図2】図2は、本発明にしたがって硝酸コバルト水溶液をアンモニアで中和した水酸化コバルトを熟成後に空気中熱処理して合成したCoの結晶子径と、中和時のアンモニア量との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
従来から、Coの合成法の1つとして、水酸化コバルトを空気中で熱処理する方法があり、その水酸化コバルトの合成法としてコバルト塩の水溶液とアルカリ水溶液とを混合する手法(中和法)が知られている。
【0013】
本発明の特徴は、この中和法に用いるアルカリ量の適正範囲を規定した点にある。
【0014】
すなわち、アルカリ量がコバルト塩を中和するのに必要な量の0.8倍量〜1.1倍量にすれば、熟成工程を経て、空気中熱処理後に得られるCoは結晶子径が50nm以下の微粒子となり、ナノ粒子に匹敵する炭化水素および一酸化炭素の酸化能が達成される。
【0015】
特に、上記規定範囲内のアルカリ量とすることにより、熟成工程中に水酸化コバルトの粒成長を効果的に抑制することができ、この微粒子状態が、その後の空気中熱処理において生成するCoの結晶子径に引き継がれると考えられる。
【0016】
本発明において空気中熱処理の温度は、一般的には200℃〜800℃であり、望ましくは280℃〜550℃である。
【実施例】
【0017】
<Coの合成>
《中和工程》
硝酸コバルト六水和物25gを300mlの蒸留水に溶解させ、これを攪拌しながら、予め計量した(*)アンモニア水を少しずつ添加した。添加直後より桃色の沈殿物が生じた。(*注:硝酸コバルトを中和するのに必要な量の0.5倍量〜1.5倍量の範囲で種々に変化させた。ただし、比較試料との酸化能の比較評価用には、本発明の規定範囲内の1.1倍量とした。)
《熟成工程》
全てのアンモニア水を添加後、12時間以上攪拌を継続した。この間に沈殿物は青〜緑色に変化していた。
【0018】
《分離・乾燥・粉砕》
得られた沈殿物を遠心分離法により溶媒から分離した。次いで120℃で12時間乾燥させた。得られた粉末を粉砕した。
【0019】
《空気中熱処理》
分最後の粉末を加熱炉で空気雰囲気中にて500℃で2時間加熱した。
【0020】
熱処理後、粉末は黒色に変化していた。これを粉砕することでCoを得た。
【0021】
《比較試料》
下記(1)(2)(3)の3種類の比較試料を準備した。
【0022】
(1)ナノパウダー
アルドリッチ社から市販されているCoナノパウダー
(2)硝酸コバルト固体焼成によるCo
硝酸コバルト六水和物粉末を加熱炉で空気雰囲気中にて500℃で2時間加熱して得られたCo
(3)硝酸コバルト液体焼成によるCo
硝酸コバルト六水和物の水溶液を加熱炉で空気雰囲気中にて500℃で2時間加熱して得られたCo
<分析>
《Coの同定》
XRDによりCoの同定を行った。
【0023】
《結晶子径の測定》
XRDにおける(311)の回折ピークをガウス関数でフィッティングし、Scherrer式を用いて、結晶子径を算出した。
【0024】
《比表面積の測定》
BET吸着法により比表面積(SSA)を測定した。
【0025】
<酸化活性評価>
上記4種類の合成法によるCo粉末をそれぞれ、196MPaでプレスしてペレットにしたものを評価サンプルとした。これを2g用いて炭化水素および一酸化炭素の酸化能を測定した。それぞれ下記のガス組成を用いた。
【0026】
《炭化水素酸化能測定時のガス組成》
:1000ppm、O:1%、N:バランス
《一酸化炭素酸化能測定時のガス組成》
CO:1%、O:10%、N:バランス
どちらも総流量を10L/minとした。
【0027】
測定温度範囲は100℃〜600℃とし、昇温速度は20℃/minとした。
【0028】
<生成物の分析結果>
図1に、合成法の異なる4種類のCoのXRDデータを示す。どの手法でもCoが生成していることが確認できた。
【0029】
表1に、XRDデータから求めた各試料の結晶子径を、表2にBET吸着法により求めた比表面積(SSA)を示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
結晶子径と比表面積は合成法によって大きく異なっていた。Coナノパウダーは結晶子径(24.2nm)が最も小さく、比表面積(42.2m/g)が最も大きい。これはすなわち粒子が最も細かいことを意味している。これに対して、本発明により水酸化コバルトを介して合成したCoは、結晶子径(38.1nm)はナノパウダー(24.2nm)に比べれば大きいが、硝酸コバルト六水和物を固体焼成または液体焼成して得られたCoの結晶子径(96.6nm、>100nm)よりは遥かに小さく、相対的にはナノパウダーの結晶子径に近い。
【0033】
<酸化能の評価結果>
表3にCの50%浄化温度、表4にCOの50%浄化温度を示す。ただし、硝酸コバルト水溶液を焼成したサンプル(比較試料(3))は評価に必要な量が得られなかったので測定を実施していない。
【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【0036】
特筆すべき点は、本発明により水酸化コバルトを介して合成したCoはCOの酸化能がCoナノパウダー(比較試料(1))を上回っていることである。Cの酸化能についてはCoナノパウダーより25℃劣る(50%浄化温度が高い)ものの、硝酸コバルト六水和物粉末を焼成して得られたサンプル(比較試料(2))に比べて49℃優れている点は十分に評価できる。また、別の比較試料として、CeO−ZrO複合金属酸化物に0.4wt%のPdを担持させて作製したPd/CeO−ZrO触媒に比べても、C酸化能、CO酸化能ともに、大きく上回っている(50%浄化温度が低い)。
【0037】
<水酸化物合成時のアルカリ量と結晶子径との相関>
図2に、2価のCoイオンを全て中和するのに必要なアルカリ量に対して実際に添加したアルカリ量の倍率を横軸に、500℃での熱処理後に生成したCoの結晶子径を縦軸にとって両者の相関を示す。(上記の酸化能の比較評価用の試料は、注記したように1.1倍量のアルカリを添加した。)
図示したように、アルカリ量が0.8倍量〜1.1倍量の範囲内では結晶子径は40〜50nmのほぼ一定値であるが、この範囲を外れると結晶子径は急激に増大する。0.8倍量未満で結晶子径が大きくなるのは、アルカリ量が少ないため中和工程後にCoイオンが残留し、水酸化コバルト粒子の表面で酸化したためであると推察される。一方、1.1倍量を超える場合に結晶子径が大きくなる理由は、過剰量のアルカリによって水酸化コバルトが溶解すると共に、Coイオンとアンモニア分子が錯体を形成し、これらが酸化したためであると推察される。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、簡便なプロセス・設備によって、ナノ粒子に匹敵する炭化水素および一酸化炭素の酸化能を発揮するCo微粒子を合成する方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト塩の水溶液に、この塩を中和するのに必要な量の0.8倍量〜1.1倍量のアルカリを添加して水酸化コバルトを生成させる工程、
生成した水酸化コバルトを熟成させる工程、および
熟成後の水酸化コバルトを空気中で熱処理してCoを生成させる工程
を含むことを特徴とする排ガス浄化触媒微粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−24692(P2012−24692A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165664(P2010−165664)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】