説明

排気ガスセンサの信号処理装置

【課題】排気ガスセンサ出力に対する排気脈動の影響度を加味した上で排気ガスセンサの出力値の補正をすることができる排気ガスセンサの信号処理装置を提供する。
【解決手段】空燃比センサ40に基づく脈動影響補正後の空燃比である補正A/F(n)を下記の式(1)で算出する。
補正A/F(n) = output(n−1) + (1/A´)×(output(n)−output(n−1))・・・(1)
ECU50は、この補正A/F(n)を用いて、EFI制御を行う。上記の式において、A´は、脈動影響値Aをセンサ出力の補正に反映させるために導入した値(以下、「脈動影響補正量」)である。このA´はエンジン10の運転条件に応じて与えられる数値である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、排気ガスセンサの信号処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特開2010−38794号公報に開示されているように、排気脈動の影響度に応じて排気ガスセンサの出力を補正する排気ガスセンサの信号処理装置が知られている。上記公報にかかる排気ガスセンサの信号処理装置は、内燃機関の排気通路における排気脈動の影響度を判定し、その判定結果に基づいてセンサ出力のなまし演算の実施態様(具体的には、演算内容の変更や、なまし演算の実行と停止)を変更している。
【0003】
排気通路内における排気圧力の変動(排気脈動)は、排気ガスセンサ(具体的には、例えば、空燃比センサ)の出力値の変動を生じさせる。このような排気脈動の影響に対して、いわゆる「なまし演算」を行う技術が知られている。なまし演算は、移動平均処理を求めるように時系列データを平均化する演算処理であり、出力変化を時間方向に平滑化することができる。
【0004】
なまし演算は、排気脈動の影響を抑制できる一方で、移動平均処理を行うことから実際のガス雰囲気の変化に対する応答性が低くなる。この点に関し、上記公報においては、排気通路内の圧力変動が排気ガスセンサ出力に及ぼす影響は一定でなく、ガス雰囲気や内燃機関の運転状態等に応じて大小変化することが着目されている。上記公報では、排気通路内の圧力変動による影響度が判定され、その判定結果に基づいてなまし演算の実施態様が変更されている。これにより、ガス雰囲気の圧力変動により生じるセンサ出力変動低減と同センサ出力の応答性確保の両立が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−38794号公報
【特許文献2】特開2004−150379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来技術にかかる上記公報においては、センサ出力への排気通路内の圧力変動による影響度が、(1)排気通路内のガス雰囲気、(2)内燃機関の回転速度、(3)排気通路内の圧力変化率のそれぞれの事項により変動するという説明がなされている。上記従来技術にかかる排気ガスセンサの信号処理装置では、上記の(1)〜(3)の事項に基づいて、例えば当該公報の段落0017等にもあるように、脈動の影響度が小さいと判定したときはなまし演算を実施しない(若しくはなまし演算のなまし率を小さくする)という措置をとっている。
【0007】
しかしながら、上記従来の技術は、排気脈動が実際に排気ガスセンサ出力へと及ぼす影響度合(排気ガスセンサの出力変動への寄与)がどの程度に大きいのかや、内燃機関の運転状態によってその寄与がどれくらい変化するのかといった事項をセンサ出力の補正内容に正確に加味するまでには至っていない。この点に関し、排気脈動の影響を抑制して排気ガスのセンシングを正確に行う観点からいまだ改善の余地が残されていた。
【0008】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、排気ガスセンサ出力に対する排気脈動の影響度を加味した上で排気ガスセンサの出力値の補正をすることができる排気ガスセンサの信号処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、排気ガスセンサの信号処理装置であって、
内燃機関の排気通路に備えられた排気ガスセンサの出力を取得する出力取得手段と、
排気の脈動による前記排気ガスセンサの前記出力の振動波形における振幅の大きさに基づいて求めた前記排気ガスセンサへの前記脈動の影響の大きさを表す値である脈動影響値に基づいて、前記排気ガスセンサの出力値の補正をする補正手段と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記内燃機関は、複数の気筒を有し、
前記補正手段は、
前記排気ガスセンサの前記出力の前記振動波形のなかの前記複数の気筒のそれぞれの燃焼に応じた前記排気ガスセンサの出力値である気筒別出力値を取得する気筒別出力値取得手段と、
前記排気ガスセンサの前記出力の前記振動波形の振幅の中心に対する前記複数の気筒それぞれの前記気筒別出力値の偏差の量を前記内燃機関の気筒の数に応じて平均した値を、前記振動波形の前記振幅として算出する振幅算出手段と、
前記振幅算出手段で前記振幅として算出した前記値を前記脈動影響値として扱って、前記排気ガスセンサの出力値の補正をする手段と、
を含むことを特徴とする。
【0011】
また、第3の発明は、第1または第2の発明において、
前記補正手段は、
排気の脈動による前記排気ガスセンサの前記出力の前記振動波形における前記振幅の大きさを求める振幅取得手段と、
前記振幅取得手段で求めた前記振幅の前記大きさに基づいて所定の周期で前記脈動影響値または当該脈動影響値に基づいて補正を行う際の補正量を更新する学習手段と、
を含むことを特徴とする。
【0012】
また、第4の発明は、第1乃至3の発明のいずれか1つにおいて、
前記内燃機関は、複数の気筒を有し、
前記排気ガスセンサの出力に基づいて、前記複数の気筒の間で空燃比のバラツキを検出する検出手段と、
前記検出手段による前記バラツキの検出の有無または前記バラツキの程度に基づいて、前記排気ガスセンサの前記出力値に対する前記補正手段の前記補正の量または内容を変更する補正内容変更手段と、
を備えることを特徴とする。
【0013】
また、第5の発明は、第4の発明において、
前記補正手段は、
前記脈動影響値に応じて前記排気ガスセンサの出力変化を時間方向に平滑化することにより求めた値を、今回の補正後出力値として算出する第1補正手段と、
前記第1補正手段による平滑化の程度よりも前記脈動影響値に応じた平滑化の程度を小さくするように前記排気ガスセンサの出力変化を時間方向に平滑化することにより求めた値を、今回の補正後出力値として算出する第2補正手段と、
を含み、
前記補正内容変更手段は、
前記検出手段による前記バラツキの検出の有無または前記バラツキの程度に基づいて、前記バラツキが相対的に小さい場合には前記第1補正手段によって前記排気ガスセンサの前記出力値の補正をし、前記バラツキが相対的に大きい場合には前記第2補正手段によって前記排気ガスセンサの前記出力値の補正をするように、前記第1補正手段と前記第2補正手段を選択的に実行する手段を、含むことを特徴とする。
【0014】
また、第6の発明は、第4の発明において、
前記補正内容変更手段は、前記検出手段による前記バラツキの検出の有無または前記バラツキの程度に基づいて、前記補正手段の前記補正の実行と停止を切り換える切換手段を含むことを特徴とする。
【0015】
また、第7の発明は、第4乃至第6の発明のいずれか1つにおいて、
前記検出手段は、
前記排気ガスセンサの前記振動波形における最大値または/および最小値の発現順序に基づいて、前記複数の気筒の間での空燃比のバラツキ異常の有無を判定する第1判定手段と、
前記排気ガスセンサの前記振動波形における最大値または/および最小値と、前記脈動影響値により決まる前記排気ガスセンサの脈動の大きさと、の比較に基づいて、前記複数の気筒の間での空燃比のバラツキ異常の有無を判定する第2判定手段と、
前記排気ガスセンサの出力値が所定の正常時波形の特性に従っているか否かに基づいて、前記複数の気筒の間での空燃比のバラツキ異常の有無を判定する第3判定手段と、
前記排気ガスセンサの前記振動波形における最大値、最小値のバラツキに基づいて、前記複数の気筒の間での空燃比のバラツキ異常の有無を判定する第4判定手段と、
のうち少なくとも1つの手段を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明によれば、排気の脈動による排気ガスセンサ出力の振動波形における振幅の大きさを排気ガスセンサが受ける脈動の影響の大きさとして取り扱うことにより、排気ガスセンサ出力に対する排気脈動の影響度を加味した上で排気ガスセンサの出力値の補正をすることができる。
【0017】
第2の発明によれば、複数気筒内燃機関における気筒ごとの空燃比の違いから排気ガスセンサ出力値の振幅が変化することを考慮に入れることにより、複数気筒内燃機関において、第1の発明における排気ガスセンサへの排気脈動の影響の補正を正確に行うことができる。
【0018】
第3の発明によれば、学習手段により内燃機関の状態にあわせて脈動影響値を更新することができるので、現在の内燃機関の状態に即して排気ガスセンサ出力に対する排気脈動の影響度を加味することができる。
【0019】
第4の発明によれば、複数気筒内燃機関において気筒間での空燃比のバラツキの程度に応じて、排気ガスセンサの出力値の補正の度合を変更することができる。気筒間空燃比のバラツキ異常(いわゆるインバランス)が生じると、正常時とは排気ガスセンサの出力の表れ方が異なってくる。第4の発明によれば、正常時と同じ補正をすることで却って排気ガスセンサによる検出精度が低下してしまうことを、抑制することができる。
【0020】
第5の発明によれば、排気ガスセンサの出力値の補正を行うにあたり、複数気筒内燃機関において気筒間での空燃比のバラツキの程度に応じて、相対的に大きな度合の補正と相対的に小さな度合の補正とを選択的に実行することができる。
【0021】
第6の発明によれば、複数気筒内燃機関において気筒間での空燃比のバラツキの程度に応じて、排気ガスセンサの出力値の補正の実行と停止を切り換えることができる。これにより、気筒間空燃比バラツキが問題となるような状況下では、補正自体を禁止し、排気ガスセンサによる検出精度が低下してしまうことを確実に抑制することができる。
【0022】
第7の発明によれば、排気ガスセンサの出力を利用して、気筒間空燃比バラツキ異常を精度良く判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる排気ガスセンサの信号処理装置およびこれが適用される内燃機関システムを説明するための全体構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1にかかる排気ガスセンサの信号処理装置の動作について説明するための図である。
【図3】本発明の実施の形態1にかかる排気ガスセンサの信号処理装置の動作について説明するための図である。
【図4】本発明の実施の形態1においてECUが実行するルーチンのフローチャートである。
【図5】実施の形態2にかかる排気ガスセンサの信号処理装置の動作について説明するための図である。
【図6】本発明の実施の形態2においてECUが実行するルーチンのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
図1は、本発明の実施の形態1にかかる排気ガスセンサの信号処理装置およびこれが適用される内燃機関システムを説明するための全体構成図である。本実施形態にかかる排気ガスセンサの信号処理装置は、例えば車両等の移動体が有する内燃機関に搭載される。この車両等の種類は特に限定は無く、FFV(Flexible Fuel Vehicle)やハイブリッド車両における内燃機関に対して本実施形態にかかる排気ガスセンサの信号処理装置を適用しても良い。
【0025】
図1には、符号10が指し示すように、内燃機関(以下、エンジン10)が示されている。エンジン10の各気筒には、ピストン12により燃焼室14が形成されており、ピストン12は、エンジンのクランク軸16に連結されている。また、エンジン10は、各気筒に吸入空気を吸込む吸気通路18と、各気筒から排気ガスが排出される排気通路20とを備えている。なお、図1ではエンジン10の1つの気筒のみを示しているが、本実施形態ではエンジン10は複数の気筒を有するものとする。
【0026】
吸気通路18には、アクセル開度等に基いて吸入空気量を調整する電子制御式のスロットルバルブ22が設けられている。一方、排気通路20には、排気ガスを浄化する触媒24が設けられている。また、各気筒には、吸気ポートに燃料を噴射する吸気ポート噴射弁26と、筒内の混合気に点火する点火プラグ30と、吸気ポートを筒内に対して開,閉する吸気バルブ32と、排気ポートを筒内に対して開,閉する排気バルブ34とが設けられている。
【0027】
さらに、本実施の形態のシステムは、クランク角センサ36、エアフローセンサ38、空燃比センサ40等を含むセンサ系統と、エンジン10の運転状態を制御するECU(Electronic Control Unit)50とを備えている。まず、センサ系統について説明すると、クランク角センサ36は、クランク軸16の回転に同期した信号を出力するもので、エアフローセンサ38は吸入空気量を検出する。空燃比センサ40は、触媒24の上流側で排気空燃比を検出する排気ガスセンサである。本実施形態では、空燃比センサ40は、所定気孔率を有する所定厚さの拡散層を備えた限界電流式の空燃比センサである。
【0028】
センサ系統には、上述したセンサ36〜44に加えて、エンジン10及びこれを搭載した車両の制御に必要な各種のセンサ(例えばエンジンの冷却水温を検出する水温センサ、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ等)が含まれており、これらのセンサはECU50の入力側に接続されている。また、ECU50の出力側には、スロットルバルブ22、噴射弁26、点火プラグ30等を含む各種のアクチュエータが接続されている。
【0029】
ECU50は、エンジンの運転情報をセンサ系統により検出しつつ、各アクチュエータを駆動し、運転制御を実行する。具体的には、クランク角センサ36の出力に基いてエンジン回転数とクランク角とを検出し、エアフローセンサ38の出力に基いて吸入空気量を算出する。また、吸入空気量、エンジン回転数等に基いてエンジンの負荷を算出し、クランク角に基いて燃料噴射時期等を決定する。さらに、吸入空気量、負荷等に基いて燃料噴射量を算出する。そして、燃料噴射時期が到来したときに噴射弁26を駆動し、点火プラグ30を駆動する。このようにしてEFI(Electronic Fuel Injection)制御を実行することにより、筒内で混合気を燃焼させエンジンを運転することができる。また、ECU50は、空燃比センサ40の出力に基いて空燃比を目標空燃比に制御する空燃比フィードバック制御を実行する。
【0030】
[実施の形態1の動作]
図2および図3は、本発明の実施の形態1にかかる排気ガスセンサの信号処理装置の動作について説明するための図である。
【0031】
(脈動影響補正後の補正A/Fの算出)
図2は、1サイクル内において、空燃比センサ40の出力がクランク角CAの増大に伴って経時的に振動する様子を示す図である。なお、クランク角CAは、720°で一周期を迎えるものとする。図2において矢印で示すように、本実施形態では、空燃比センサ40の振動波形における振幅を脈動影響値Aと考える。
実施の形態1では、各運転条件での脈動に応じて、脈動の影響を補正する。すなわち、内燃機関の運転領域が低回転高負荷であるほど、サイクル内の脈動影響が大きくなる。そこで、回転数および吸入空気量(負荷)に基づいて、脈動影響を排除するように空燃比センサ40の出力値を補正する。
【0032】
実施の形態1では、ECU50が、下記の式(1)に従って、空燃比センサ40に基づく脈動影響補正後の空燃比である補正A/F(n)を算出する。
補正A/F(n) = output(n−1) + (1/A´)×(output(n)−output(n−1)) ・・・(1)
ECU50は、この補正A/F(n)を用いて、EFI制御を行う。
ここで、output(n)とは、nサイクルつまり今回のサイクルにおける出力値であり、output(n−1)とは、n−1サイクルつまり前回のサイクルにおける出力値であるものとする。上記の式において、A´は、脈動影響値Aをセンサ出力の補正に反映させるために導入した値(以下、「脈動影響補正量」)である。このA´はエンジン10の運転条件に応じて与えられる数値である。A´は、例えば、内燃機関の運転領域が低回転高負荷であるほどサイクル内の脈動影響が大きくなることに対応させて、エンジン10が低回転高負荷であるほど大きな値としてマップや数式で規定しておくことができる。そして、ECU50が、クランク角センサ36やエアフローセンサ38の出力に基づき回転数や負荷を検出して、現在の運転条件に応じたA´を取得しても良い。
【0033】
(補正量学習)
図4は、実施の形態1にかかる排気ガスセンサの信号処理装置における脈動影響補正量の学習動作を説明するための図である。
同じ仕様の空燃比センサであっても、厳密にはその特性が完全に同一ではなく、個体ごとに特性に若干のずれを含んでいる。このため、実際にエンジン10に適用するにあたっては、個体ごとに脈動影響を把握、学習することが好ましい。そこで、実施の形態1では、脈動が既知である運転条件において、各空燃比センサ40の脈動影響を把握し、学習することにした。なお、ここでいう各空燃比センサ40の意義は、1つの内燃機関に複数の空燃比センサ40が搭載される際の個々の空燃比センサ40を対比する意味や、1つの内燃機関に1つの空燃比センサ40が搭載される際における異なる内燃機関の間でそれぞれの空燃比センサ40を対比する意味を含む。
【0034】
実施の形態1では、フューエルカット(F/C)に代表される安定した運転条件におけるセンサ出力に基づいて、センサ個体間の脈動影響を把握する。なお、アイドル運転時などの運転条件や、排気バルブタイミング変更、気筒停止、圧縮比変更などの措置により、強制的に所望の脈動変化を与えても良い。
【0035】
実施の形態1では、ECU50が、下記の式(2)に従って、脈動影響値Aを算出する。
A = Σ|(取得値−平均値)|/2m ・・・(2)
ただし、上記の式の右辺の書く文字、記号は、下記の意味である。
mは、空燃比センサ40あたりの気筒数を示す値である。
「取得値」とは、クランクアングル720°/m毎に、空燃比センサ40の出力の最大値と最小値を取得することにより得たその最大値と最小値である。具体的には、図3における黒丸が最大値、白抜き丸が最小値を模式的に示している。この最大値と最小値の取得は、所定周期でECU50が空燃比センサ40の出力をサンプリングすることにより行えばよい。
「平均値」とは、空燃比センサ40の出力の平均値であり、空燃比センサ40の振動波形の中点に相当する。図3では、空燃比センサ40の出力の振動波形をその中央で横切る破線でこの平均値を模式的に示している。
上記の式により、平均値に対する最大値と最小値のそれぞれの偏差を気筒数×2で除して、平均を求めた値が、脈動影響値Aとして算出される。
こうして求めた脈動影響値Aに基づいて、脈動影響補正量A´の値を更新(例えば、所定の演算を施したうえで或いはそのままの値で、最新のAの値により現在のA´を上書きするなどの学習処理)を行うことができる。
【0036】
[実施の形態1の具体的処理]
以下、図4を用いて、本発明の実施の形態1にかかる排気ガスセンサの信号処理装置が行う具体的処理を説明する。図4は、実施の形態1においてECU50が実行するルーチンのフローチャートである。
【0037】
図4に示すルーチンでは、先ず、ECU50が、エンジン10の始動および空燃比センサ40がセンサ活性状態にあるか否かを判定する処理を実行する(ステップS100)。このステップの条件の成立が認められない場合には、今回のルーチンは終了する。
【0038】
ステップS100の条件の成立が認められた場合には、続いて、ECU50が、空燃比センサ40の出力を取得する(ステップS102)。ここで取得された出力に対して、排気脈動の補正が施される。なお、実施の形態1においては、ECU50が、エンジン10の運転中に、空燃比センサ40の出力を所定周期でサンプリングして記憶する処理を実行しているものとする。
【0039】
次に、ECU50が、学習可能領域か否かを判定する処理を実行する(ステップS104)。このステップでは、具体的には、エンジン10が、脈動が既知である所定運転条件において運転されているか否かが判定される。この所定運転条件としては、例えば、フューエルカット(F/C)やアイドル運転時に代表される安定した運転条件を設定しておく。
なお、これに代えて、エンジン10の運転条件について、排気バルブタイミング変更、気筒停止、圧縮比変更などの運転条件変更を加えることにより、強制的に所望の脈動変化(但し、予めその運転条件変更によりどのような脈動が生ずるのかを特定しておくこととする)を与えても良い。この場合には、ステップS104の処理内容は、例えば、「当該運転条件変更を加えることが可能かどうかの判定処理」→「可能と判定された場合に、当該運転条件変更を実行する処理」と変更してもよい。
【0040】
ステップS104の条件の成立が認められた場合、次に、ECU50が、脈動影響補正量を算出する処理を実行する(ステップS106)。具体的には、ECU50が、前述した式(2)に従って脈動影響値Aを算出し、このAの値に基づいて、数式(1)で用いるための脈動影響補正量A´が更新される。
【0041】
次に、ECU50が、補正量学習判定の処理を実行する(ステップS108)。このステップでは、補正量学習が完了したかが判定される。
【0042】
ステップS108の補正量学習判定による学習完了成立後、或いは、ステップS104における学習可能領域ではないとの判定の後、続いて、ECU50は、脈動影響補正の処理を実行する(ステップS110)。このステップでは、前述した数式(1)を用いて、補正A/F(n)が算出される。
【0043】
続いて、ECU50が、ステップS104で算出された補正出力つまり補正A/F(n)を用いたEFI制御を実行する(ステップS112)。その後、今回のルーチンが終了する。
【0044】
以上の処理によれば、排気の脈動による空燃比センサ出力の振動波形における振幅の大きさを空燃比センサ40が受ける脈動の影響の大きさ(脈動影響値A)として取り扱うことにより、空燃比センサ40出力に対する排気脈動の影響度を加味した上で空燃比センサ40の出力値の補正をすることができる。
【0045】
また、上記の処理によれば、複数の気筒を有するエンジン10における気筒ごとの空燃比の違いから空燃比センサ40出力値の振幅が変化することを考慮に入れることにより、複数の気筒を有するエンジン10において、上述の空燃比センサ40への排気脈動の影響の補正を正確に行うことができる。
【0046】
また、上記の処理によれば、ステップS106の学習処理によりエンジン10の状態にあわせて脈動影響補正量A´を更新することができるので、現在のエンジン10の状態に即して空燃比センサ40出力に対する排気脈動の影響度(最新の脈動影響値A)を加味することができる。
【0047】
なお、上述した実施の形態1においては、脈動影響値Aが、前記第1の発明における「脈動影響値」に相当し、ECU50が図4のフローチャートにおけるステップS110の処理を実行することにより、前記第1の発明における「補正手段」が実現されている。
また、上述した実施の形態1においては、ECU50が図4のフローチャートにおけるステップ106において前述の式(2)の演算処理を実行することにより、前記第2の発明における「気筒別出力値取得手段」および「振幅算出手段」が実現されている。
また、上述した実施の形態1においては、ECU50が図4のフローチャートにおけるステップ106を実行することにより、前記第3の発明における「振幅取得手段」および「学習手段」が実現されている。
【0048】
[実施の形態1の効果、背景]
以下、実施の形態1にかかる排気ガスセンサの信号処理装置の効果を説明するために、その背景となる技術説明をする。実施の形態1にかかる排気ガスセンサの信号処理装置の背景として、下記の事項が挙げられる。
【0049】
・エミッション低減、OBD検出性向上に向けて、A/Fセンサ出力の高応答、高精度化が求められている。しかしながら、サイクル内の実空燃比をより高精度に検出しようとすると、脈動影響により出力ずれが大きくなってしまう。
・個々の排気ガスセンサはそれぞれ脈動による受ける影響が同一ではないため、バラツキが発生してしまい、精度が低い。
・サイクル内の挙動を把握するに拡散層の気孔率を上げたいという要請が有るが、その一方、気孔率が上がるほど脈動影響が大きくなり之に起因してセンシングの精度が低下する。ガス拡散速度差により出力がずれてしまうという問題もある。
【0050】
・検出性を向上させるセンサ構造について
限界電流式のA/Fセンサでのインバランス検出性向上(サイクル内追従性向上)のためには、センサ応答性の向上が必要である。センサ応答性向上の措置としてはカバー改良等の措置もあるものの、「拡散抵抗の低減」すなわち拡散層の気孔率増加および拡散距離短縮が基本的には有用である。しかしながら、この技術には脈動の影響を増加させるという背反がある。拡散抵抗の低減を追及するとこれに伴う脈動影響増加によりセンサの出力精度が低下するため、排ガスの制御性が悪化してエミッションが悪化するおそれがある。
・カバー改良について
カバー改良による応答性向上を図ろうとすると、耐被水性能を犠牲にしなければならず、信頼性を確保できない。したがって、拡散抵抗の低減による素子自身の応答性向上が必要となる。
以上のように、拡散抵抗の低減の追及にも脈動影響の面から限度があり、かつ、カバー改良に頼ることにも耐被水性能の面から限度がある。
【0051】
この点、本発明の実施の形態1にかかる排気ガスセンサの信号処理装置は、各センサにおける脈動影響を特定条件で取得し、かつその脈動影響率に基づいて空燃比センサ出力を補正し、サイクル内での空燃比検出性を向上させることができる。従って、実施の形態1にかかる排気ガスセンサの信号処理装置は、上記列挙した種々の技術的背景に照らして、拡散抵抗の低減やカバー改良以外の手法を用いて個々の排気ガスセンサの各環境について脈動影響を把握、補正することができるという有利な効果を発揮することができる。
【0052】
[実施の形態1の変形例]
実施の形態1では、限界電流式の空燃比センサ40に対して、本発明にかかる排気ガスセンサの信号処理装置を適用した。しかしながら、本発明はこれに限られるものではない。限界電流式以外の空燃比センサや、排気通路に設けられる酸素センサ、NOxやHCなど他の特定の排気ガス濃度成分を検出するためのガスセンサに対して、本発明を適用してもよい。
【0053】
実施の形態1では、数式(1)を用いて、脈動影響の補正を行った。この数式(1)では、「空燃比センサ40の前回の出力値output(n−1)と、空燃比センサ40の今回の出力変化分output(n)−output(n−1)に脈動影響値Aに応じた係数である脈動影響補正量A´を乗じた値と、を合算した値を、今回の補正後出力値である補正A/Fとして算出している。この演算は、脈動影響補正量A´を平滑化係数として用いて、空燃比センサ40の出力変化を時間方向に平滑化することにより求めた値を、今回の補正後出力値として算出するものである。
本発明において脈動影響の補正の際に実行される具体的数式は、実施の形態1における数式(1)のみ限られるものではない。空燃比センサ等の出力変化を時間方向に平滑化するための公知の各種数式を用いることができる。すなわち、その数式において平滑化の程度を左右する係数(平滑化係数)を、脈動影響値Aに応じて定めるようにすればよい。そして、その平滑化係数に応じて空燃比センサ等の出力変化を時間方向に平滑化することにより求めた値を、補正A/F等として算出すればよい。
【0054】
実施の形態1では、図4のフローチャートにおけるステップS106、S108により、脈動影響補正量A´を学習した。しかしながら、本発明はこれに限られず、学習をしなくともよい。その場合には、脈動影響Aに基づいて、運転条件に応じた脈動影響補正量A´の特性をマップや数式としてECU50に記憶させておき、エンジン10の運転条件に応じて脈動影響補正量A´を変更することが好ましい。
【0055】
実施の形態1では、上記の数式(2)を用いて、脈動影響補正量A´を学習した。しかしながら、本発明はこれに限られるものではない。次の手順に従うことにより、補正を行えばよい。
第1の段階として、ECU50が、排気の脈動による排気ガスセンサの出力の振動波形における振幅の大きさを算出する処理を実行する。
第2の段階として、ECU50が、求めた振幅の大きさに基づいて所定の周期で脈動影響値Aまたは脈動影響補正量A´を更新する処理を実行する。
上記第1の段階について、数式(2)においては、空燃比センサ40の出力の最大値と最小値の平均偏差を求めることにより、クランクアングル720°における振幅の大きさを求めている。しかしながら、必ずしもクランクアングル720°分の平均を求めなくとも良く(それよりも少なくとも良く)、あるいは、その反対に、クランクアングル720°よりも広いクランク角に渡って平均した振幅を求めても良い。また、数式(2)では、最大値と最小値の両方について偏差をとるように、取得値と平均値の差分の絶対値を取ったが、必ずしもこれに限られるものではない。最大値のみや最小値のみについて偏差を取っても良い(例えば、平均値(振動中心)を基準として振動波形が十分に対称と認める場合など)。
また、振幅を求めるに当たっては、必ずしも最大値、最小値についての平均偏差を求める手法に限られない。例えば、排気ガスセンサの出力サンプリング値を用いた振動波形のフィッティングその他の波形特定手法により、図2にも例示したような振動波形を特定したうえで、振幅を算出しても良い。
上記第2の段階について、上記各種計算手法を用いて求めた振幅の値に応じて、実施の形態1の脈動影響補正量A´或いは前述の変形例として述べた各種平滑化係数の値を、そのまま代入できる準備があるならばその値自体を用いて、そのまま代入できない場合には所定の変換式を用いるなどして、増加または減少させればよい。
【0056】
実施の形態2.
本発明の実施の形態2にかかる排気ガスセンサの信号処理装置およびその周辺システムのハードウェア構成は、図1で示した実施の形態1におけるシステムと同じである。重複説明を避けるため、以下、ハードウェア構成については図示を省略する。
【0057】
[実施の形態2の動作]
図5(a)(b)は、実施の形態2にかかる排気ガスセンサの信号処理装置の動作について説明するための図である。図5(a)は、正常時のセンサ出力波形の一例を示す図である。一方、噴射系故障などの空燃比に関する異常状態が発生している場合、図5(b)のように、空燃比センサ40の出力の最大値および最小値が交互に発現しなくなる。このような場合に正常時と同様の補正をすると、実空燃比にずれが生じる。そこで、実施の形態2では、気筒間空燃比バラツキの異常判定(いわゆるインバランス判定)を行うとともに異常時には補正方法の変更を行う。
【0058】
(異常判定)
実施の形態2では、先ず、気筒間空燃比バラツキ異常判定を、下記(i)〜(iv)の少なくとも1つの判定手法を用いて実行する。
(i)第1の判定手法は、720/m(°)毎の、最大値、最小値の発現順序に基づいて異常判定を行う。図5(a)のように、正常時であれば運転条件(回転数)で定まる一定周期で、最大値と最小値が交互に表れるはずである。一方、図5(b)のごとき出力波形が表れた場合には、正常時と同様に一定周期でサンプリングを行ったときに、正常時とは異なり、最大値と最小値の交互に発現しなくなる。そこで、この手法(i)では、最大値、最小値の発現順序が交互の場合は正常であると判定し、そうでない場合を異常であると判定する。
(ii)第2の判定手法は、振動波形の平均値(振動の中心)に対し、最大値、最小値が、脈動影響率(実施の形態1における脈動影響値A)以上に乖離している場合に異常と判定する。
(iii)第3の判定手法は、本来は最大値(または平均値よりリーン側の値)をとるべき時期の出力値に平均値よりリッチの値が発生していたり、あるいは、本来は最小値(または平均値よりリッチ側の値)を取るべき時期の出力値に平均値よりリーンの値が発生していたりする場合には、異常であると判定する。図5(b)に示すS1、S2の白抜き丸の時点は、本来最小値または少なくとも平均値より紙面下方側の値が表れているべき時点である。しかし、そのような規則に反して、S2は平均値より紙面上方に位置している。また、反対に、図5(b)に示すS3、S4の黒丸の時点は、本来最大値または平均値より紙面上方側の値が表れているべき時点である。しかし、そのような規則に反して、S3およびS4は平均値より紙面下方に位置している。このように、本来従うべき正常時の特性に反する場合に、気筒間空燃比バラツキ異常であると判定する。
(iv) 第4の判定手法は、最大値、最小値のバラツキが所定値より大きくなった場合に、異常が発生していると判定する。すなわち、図5(a)に示すように、正常時には、出力の最大値(図中の黒丸)や最小値(図中の白抜き丸)は、実質的に一定の値を示すはずである。このバラツキが過度に(所定範囲を逸脱するほどに)大きくなった場合に、異常が発生していると判定する。
これにより、空燃比センサ40の出力の振動波形に基づいて、気筒間空燃比バラツキ異常判定を行うことができる。
【0059】
(補正方法の変更)
実施の形態2にかかる排気ガスセンサの信号処理装置は、上記の異常判定の結果、気筒間空燃比バラツキ異常が認められた場合には、実施の形態1における式(1)に代えて、下記の式(3)を用いて空燃比センサ40の出力の補正を行う。
補正A/F(n) = output(n−1) + (1/3A´)×(output(n)−output(n−l)) ・・・(3)
この式(3)で算出した補正A/Fを、EFI制御に用いる。
この式(3)の演算によれば、式(1)の場合に比して、今回の空燃比センサ出力変化分の寄与を小さくしつつ補正A/Fを算出することができる。
【0060】
特に、上記の(3)と実施の形態1で述べた式(1)とを比較すると、式(3)においては、右辺第2項の(output(n)−output(n−l))に対する係数が式(1)に比して1/3ほど小さい。この「1/3」という値を用いた理由は、下記の通りである。
限界電流式の空燃比センサにおける空燃比計測は、基本的に、酸素(O)の拡散速度を基準としてなされる。一方、水素と酸素の拡散速度が水素:酸素=3:1という比率であり、水素のほうが3倍程度大きな拡散速度を有している。そこで、実施の形態2においては、インバランス異常の影響を精度良く排除するために、リッチ雰囲気における水素(H)の影響で空燃比センサが本来の酸素に基づく出力変化に比べて3倍程度に過剰な出力変化を示してしまうことに鑑みて1/3という係数を導入している。
【0061】
[実施の形態2の具体的処理]
以下、図6を用いて、本発明の実施の形態2にかかる排気ガスセンサの信号処理装置が行う具体的処理を説明する。図6は、実施の形態2においてECU50が実行するルーチンのフローチャートである。
【0062】
図6に示すルーチンでは、先ず、ECU50が、実施の形態1と同様に、ステップS100、S102、S104の処理を実行する。ステップS104の条件の成立が認められた場合には、実施の形態1と同様にステップS106、S108の処理が実行される。
【0063】
ステップS104の条件成立が認められなかった場合、或いは、ステップS108の処理が完了した場合には、続いて、ECU50が、インバランス状態(気筒間空燃比バラツキ異常状態)か否かの判定処理を実行する(ステップS200)。本ステップでは、ECU50が、予め記憶された、前述した(i)〜(iv)の少なくとも1つの判定手法に従った判定処理を実行する。ここでは、一例として、ECU50が前述した(i)の判定手法に従った判定処理を実行するものとする。
【0064】
ステップS104においてインバランス状態であることが認められた場合には、ECU50が、インバランス時脈動影響補正のための処理を実行する(ステップS202)。このステップでは、前述した式(3)を用いて、補正A/F(n)が算出される。
【0065】
続いて、ECU50が、ステップS202で算出された補正出力つまり補正A/F(n)を用いたEFI制御を実行する(ステップS204)。その後、今回のルーチンが終了する。
【0066】
一方、ステップS200においてインバランス状態であることが認められなかった場合には、ECU50は、実施の形態1における図4のルーチンと同様に、ステップS110およびS112を実行する。その後、今回のルーチンが終了する。
【0067】
以上の処理によれば、エンジン10において気筒間での空燃比のバラツキの程度に応じて、空燃比センサ40の出力値の補正の度合を変更することができる。気筒間空燃比のバラツキ異常(いわゆるインバランス状態)が生じると、正常時とは空燃比センサ40の出力の表れ方が異なってくる。この点、上記の処理によれば、正常時と同じ補正をすることで却って空燃比センサ40による検出精度が低下してしまうことを、抑制することができる。
【0068】
また、実施の形態2にかかる排気ガスセンサの信号処理装置によれば、空燃比センサ40の出力値の補正を行うにあたり、エンジン10において複数の気筒間での空燃比のバラツキの程度に応じて、相対的に大きな度合の補正(式(1)による補正)と相対的に小さな度合の補正(式(3)による補正)とを選択的に実行することができる。
【0069】
なお、上述した実施の形態2においては、ECU50が図6のルーチンのステップS200の処理を実行することにより、前記第4の発明における「検出手段」が、ECU50が図6のルーチンのステップS110とS202の処理を択一的に実行することにより、前記第4の発明における「補正内容変更手段」が、それぞれ実現されている。また、上述した実施の形態2においては、式(1)を使用して行われるS110の補正処理をECU50が実行することにより、前記第5の発明における「第1補正手段」が、式(3)を使用して行われるS110の補正処理をECU50が実行することにより、前記第5の発明における「第2補正手段」が、それぞれ実現されている。
【0070】
[実施の形態2の変形例]
実施の形態2では、前述の(i)〜(iv)の判定手法を用いて、気筒間空燃比バラツキ異常の判定を行った。しかしながら、本発明はこれに限られるものではない。空燃比センサ以外のセンサを用いる公知の他の判定手法を用いても良い。
【0071】
なお、実施の形態2においては、ステップS200の判定結果に応じて、式(1)による補正処理であるステップS110の処理と、式(3)による補正処理であるステップS202の処理とを選択的に実行した。しかしながら、本発明はこれに限られるものではない。気筒エンジン10において気筒間での空燃比のバラツキの程度に応じて、空燃比センサ40の出力値の補正の実行と停止を切り換えてもよい。これにより、気筒間空燃比バラツキが問題となるような状況下では、補正自体を禁止し、空燃比センサ40による検出精度が低下してしまうことを確実に抑制することができる。
【0072】
なお、実施の形態2において、実施の形態1の変形例の欄で述べた各種変形を適宜に用いてもよい。例えば、実施の形態1において補正の具体的演算処理が式(1)に限られない旨を説明したが、この点と同様に、実施の形態2も式(3)に代えて公知の各種の平滑化演算手法を利用してもよい。また、ステップS110とS202で異なる平滑化式を用いるようにしても良い。
【符号の説明】
【0073】
10 エンジン
12 ピストン
14 燃焼室
16 クランク軸
18 吸気通路
20 排気通路
22 スロットルバルブ
24 触媒
26 吸気ポート噴射弁
30 点火プラグ
32 吸気バルブ
34 排気バルブ
36 クランク角センサ
38 エアフローセンサ
40 空燃比センサ
50 ECU(Electronic Control Unit)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に備えられた排気ガスセンサの出力を取得する出力取得手段と、
排気の脈動による前記排気ガスセンサの前記出力の振動波形における振幅の大きさに基づいて求めた前記排気ガスセンサへの前記脈動の影響の大きさを表す値である脈動影響値に基づいて、前記排気ガスセンサの出力値の補正をする補正手段と、
を備えることを特徴とする排気ガスセンサの信号処理装置。
【請求項2】
前記内燃機関は、複数の気筒を有し、
前記補正手段は、
前記排気ガスセンサの前記出力の前記振動波形のなかの前記複数の気筒のそれぞれの燃焼に応じた前記排気ガスセンサの出力値である気筒別出力値を取得する気筒別出力値取得手段と、
前記排気ガスセンサの前記出力の前記振動波形の振幅の中心に対する前記複数の気筒それぞれの前記気筒別出力値の偏差の量を前記内燃機関の気筒の数に応じて平均した値を、前記振動波形の前記振幅として算出する振幅算出手段と、
前記振幅算出手段で前記振幅として算出した前記値を前記脈動影響値として扱って、前記排気ガスセンサの出力値の補正をする手段と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の排気ガスセンサの信号処理装置。
【請求項3】
前記補正手段は、
排気の脈動による前記排気ガスセンサの前記出力の前記振動波形における前記振幅の大きさを求める振幅取得手段と、
前記振幅取得手段で求めた前記振幅の前記大きさに基づいて所定の周期で前記脈動影響値または当該脈動影響値に基づいて補正を行う際の補正量を更新する学習手段と、
を含むことを特徴とする請求項1または2記載の排気ガスセンサの信号処理装置。
【請求項4】
前記内燃機関は、複数の気筒を有し、
前記排気ガスセンサの出力に基づいて、前記複数の気筒の間で空燃比のバラツキを検出する検出手段と、
前記検出手段による前記バラツキの検出の有無または前記バラツキの程度に基づいて、前記排気ガスセンサの前記出力値に対する前記補正手段の前記補正の量または内容を変更する補正内容変更手段と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の排気ガスセンサの信号処理装置。
【請求項5】
前記補正手段は、
前記脈動影響値に応じて前記排気ガスセンサの出力変化を時間方向に平滑化することにより求めた値を、今回の補正後出力値として算出する第1補正手段と、
前記第1補正手段による平滑化の程度よりも前記脈動影響値に応じた平滑化の程度を小さくするように前記排気ガスセンサの出力変化を時間方向に平滑化することにより求めた値を、今回の補正後出力値として算出する第2補正手段と、
を含み、
前記補正内容変更手段は、
前記検出手段による前記バラツキの検出の有無または前記バラツキの程度に基づいて、前記バラツキが相対的に小さい場合には前記第1補正手段によって前記排気ガスセンサの前記出力値の補正をし、前記バラツキが相対的に大きい場合には前記第2補正手段によって前記排気ガスセンサの前記出力値の補正をするように、前記第1補正手段と前記第2補正手段を選択的に実行する手段を、含むことを特徴とする請求項4に記載の排気ガスセンサの信号処理装置。
【請求項6】
前記補正内容変更手段は、前記検出手段による前記バラツキの検出の有無または前記バラツキの程度に基づいて、前記補正手段の前記補正の実行と停止を切り換える切換手段を含むことを特徴とする請求項4に記載の排気ガスセンサの信号処理装置。
【請求項7】
前記検出手段は、
前記排気ガスセンサの前記振動波形における最大値または/および最小値の発現順序に基づいて、前記複数の気筒の間での空燃比のバラツキ異常の有無を判定する第1判定手段と、
前記排気ガスセンサの前記振動波形における最大値または/および最小値と、前記脈動影響値により決まる前記排気ガスセンサの脈動の大きさと、の比較に基づいて、前記複数の気筒の間での空燃比のバラツキ異常の有無を判定する第2判定手段と、
前記排気ガスセンサの出力値が所定の正常時波形の特性に従っているか否かに基づいて、前記複数の気筒の間での空燃比のバラツキ異常の有無を判定する第3判定手段と、
前記排気ガスセンサの前記振動波形における最大値、最小値のバラツキに基づいて、前記複数の気筒の間での空燃比のバラツキ異常の有無を判定する第4判定手段と、
のうち少なくとも1つの手段を含むことを特徴とする請求項4乃至6の何れか1項に記載の排気ガスセンサの信号処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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