説明

排気ガス浄化用触媒、排気ガス浄化用一体構造型触媒、及び排気ガス浄化方法

【課題】排気ガス中の炭化水素(HC)および一酸化炭素(CO)を効率よく除去することができ、耐硫黄被毒性を有する排気ガス浄化用酸化触媒、該触媒を含む排気ガス浄化用触媒構造体、ならびに該触媒構造体を用いた排気ガス浄化方法を提供。
【解決手段】金属触媒成分(A)がウイスカー状無機母材(B)に担持された繊維状の無機母材―金属触媒複合物を含有する排気ガス浄化用触媒であって、金属触媒成分(A)は、少なくとも貴金属元素を含み、一方、ウイスカー状無機母材(B)は、Alを主要構成単位とするとともに、その結晶内及び/又はその表面上にジルコニウム成分を含有し、かつ、直径が実質的に50nm以下、アスペクト比が2以上であることを特徴とする排気ガス浄化用触媒によって提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガス浄化用触媒、その製造方法、及び排気ガス浄化用一体構造型触媒に関し、より詳しくは、内燃機関、ボイラー等の排気ガスに含まれるHC、CO、SOF、NOx等に対して優れた浄化能力を有し、また、排気ガスが低温の環境下においても安定した浄化能力を発現しうる排気ガス浄化用触媒、その製造方法、及び排気ガス浄化用一体構造型触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関、ボイラーは、その構造、種類に応じて、燃料、潤滑剤等に由来した様々な有害物質を排出する。これら有害物質としては炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)のほかに、ディーゼルエンジンなどから排出される煤(スート)に代表される粒子状物質(particulate matter:以下、PMという事がある)があり、前記HCにはベンゼン、トルエン、炭素鎖長の長い炭化水素など有機溶剤に可溶な成分である可溶性有機成分(soluble organic fraction:以下、SOFと言うことがある)が含まれる。
【0003】
近年、各種内燃機関からの排気ガスによる環境汚染が社会的問題となり、その浄化のために種々の手法が提案されている。これら排気ガス中の有害成分を浄化する一つの方法として、排気ガスを触媒に接触させ、浄化する接触処理法が実用化されている。
このうちガソリン機関の排気ガス浄化用触媒としては、HC、SOF、COなどの有害成分を酸化して浄化する酸化触媒、NOxなどの有害成分を一時的に吸蔵した後に加熱したり、燃料などの未燃炭化水素、尿素、アンモニアなどの還元剤を供給することにより還元除去する還元触媒、HC、CO、NOxを同時に酸化・還元処理して浄化する三元触媒が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、ディーゼル機関から排出されるスートを排気ガスから濾し取り、スートが溜まった時点で燃料などの未燃HCやNOを供給し、加熱処理して、スートを酸化(燃焼)処理する方法が検討され、排気ガス中の粒子状物質を濾し取るためのフィルター(Diesel Particulate Filter、以下、DPFと言うことがある)、DPFを触媒化した触媒化フィルター(catalyzed soot filter、以下、CSFという事がある)が知られている。
【0005】
排気ガス浄化に寄与する活性金属としては、白金、パラジウム、ロジウムなどの貴金属、ニッケル、鉄などの遷移金属、セリウム、ランタンなどの希土類金属やその酸化物が知られている。また、これら活性金属は、表面積を大きくし強度を高めるために、β−アルミナ、γ−アルミナなどのアルミナやゼオライトなどの担体に担持される。なお、ゼオライトには、MFI型、β型等の種類があり、内部のカチオンをCe、Feなどの金属イオンで交換されることがある。触媒組成物は、その求められる機能に応じて、活性金属、担体の種類と量が選択され、触媒製造時に、アルカリ金属、アルカリ土類金属や、セリアに代表される酸素の吸蔵・放出材等が添加されることがある。
【0006】
このような排気ガス浄化用触媒の担体としては、金属の波板やセラミックスで成形されたハニカム状のフロースルー型担体や、DPF、CSFに多く用いられるハニカムの一端が閉じて市松模様になったウォールフロー型担体の一体構造型担体が知られている。また、太い繊維状物からなるフェルト様の不燃性構造体や、数ミリから数センチの直径の球状物、柱状物などからなる成型担体が知られている(本発明では、これらを総称して構造型担体と言い、フロースルー型担体、ウォールフロー型担体などの一体構造型担体と区別する)。
【0007】
これら排気ガス浄化用の触媒は、排気ガスが流出する際の圧力損失を小さく抑えることができ、しかも接触効率を大きく確保できるように、担体の表面に触媒組成物を被覆して、通常は排気ガスの流路に設置される。
排気ガス浄化用触媒を自動車に搭載する場合、車体の比較的温度の低い床下に設置されるものと、エンジンから排出された直後、高温の排気ガスが通過する位置に設置される直下型と言われるものとがある。このうち、直下型では排気ガスの温度が比較的高温であり、条件によっては800℃を超えるような高温になることもあるため、このような高温状態では触媒の活性も高く、排気ガスの浄化効率も高い。
【0008】
しかし、直下型であってもエンジンの始動直後や低回転時には排気ガス温度も低く、300℃を下回るような事も稀ではなく、このような低温状態では触媒が有効に働かず、排気ガス中の有害成分の浄化が難しい場合がある。一方、床下に配置された触媒では、もともと床下の温度が低いので一層深刻である。
自動車に搭載される排気ガス浄化用触媒では、排気ガス温度が低いときにも活性が求められている。このような低温時の触媒活性、すなわち低温活性が求められる状況としては、たとえば、半日以上静置され全体が外気温程度まで冷却された車両を始動させる場合が挙げられる。この場合、触媒およびエンジン燃焼室が外気温程度まで冷却された状態にある。この状態でエンジンを始動すると、その直後は、エンジン燃焼室が充分暖気されていないため、燃料の燃焼熱の一部が、エンジン暖気のために奪われてしまい、燃料が完全燃焼し難く、燃料の未燃成分や、不完全燃焼成分が多く排出されてしまう。
【0009】
これら排気ガスの有害物質を浄化することが、触媒に求められる低温活性である。ここで、低温活性が劣る触媒では、排気ガスの熱によって触媒が徐々に暖められ、充分機能する温度になるまでは排気ガス中の有害成分を浄化することができない事になる。
このように、特に自動車に搭載される排気ガス浄化用触媒では、十分な低温活性を有することが重要であり、それが近年厳しさを増す排気ガスに対する規制を充足するための重要な課題でもあった。
【特許文献1】特開平5−340236公報([0002])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記従来の課題に鑑み、内燃機関、ボイラー等の排気ガスに含まれるHC、CO、SOF、NOx等に対して優れた浄化能力を有し、また、排気ガスが低温の環境下においても安定した浄化能力を発現しうる排気ガス浄化用触媒、その製造方法、及び排気ガス浄化用一体構造型触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、このような上記課題を解決するために、排気ガス浄化用触媒として、ウイスカー状無機母材上に金属触媒成分を担持された繊維状の無機母材―金属触媒複合物について鋭意研究を重ねた結果、主要構成単位がAlであるウイスカー状無機母材にジルコニウム成分を含有させた、特定の直径、アスペクト比である触媒を用いることにより、低温時であっても排ガス中のHC、CO、NOxが効率的に浄化されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、金属触媒成分(A)がウイスカー状無機母材(B)に担持された繊維状の無機母材―金属触媒複合物を含有する排気ガス浄化用触媒であって、金属触媒成分(A)は、少なくとも貴金属元素を含み、一方、ウイスカー状無機母材(B)は、Alを主要構成単位とするとともに、その結晶内及び/又はその表面上にジルコニウム成分を含有し、かつ、直径が実質的に50nm以下、アスペクト比が2以上であることを特徴とする排気ガス浄化用触媒が提供される。
【0013】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、金属触媒成分(A)中の貴金属元素が、ロジウムを含むことを特徴とする排気ガス浄化用触媒が提供される。
【0014】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、ウイスカー状無機母材(B)が、繊維状ベーマイトであることを特徴とする排気ガス浄化用触媒が提供される。
【0015】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3の発明において、ウイスカー状無機母材(B)の直径が、実質的に30nm以下であることを特徴とする排気ガス浄化用触媒が提供される。
【0016】
さらに、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、ジルコニウム成分の含有量が、ウイスカー状無機母材(B)に対してZr酸化物換算で0.1〜30重量%であることを特徴とする排気ガス浄化用触媒が提供される。
【0017】
一方、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明に係る排気ガス浄化用触媒を、一体構造型担体の表面に被覆してなる排気ガス浄化用一体構造型触媒が提供される。
【0018】
また、本発明の第7の発明によれば、第6の発明において、金属触媒成分(A)の量が、一体構造型担体に対して0.01〜10g/Lであることを特徴とする排気ガス浄化用一体構造型触媒が提供される。
【0019】
さらに、本発明の第8の発明によれば、第6又は7の発明において、無機母材―金属触媒複合物の量が、一体構造型担体に対して10〜400g/Lであることを特徴とする排気ガス浄化用一体構造型触媒が提供される。
【0020】
一方、本発明の第9の発明によれば、第6〜8のいずれかの発明に係り、窒素酸化物、炭化水素、および一酸化炭素を含有する排気ガスを、前記排気ガス浄化用一体構造型触媒に流通して接触させることを特徴とする排気ガス浄化方法が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明の排気ガス浄化用触媒は、金属触媒成分(A)がAlを主要構成単位とする特定のウイスカー状無機母材(B)に担持された繊維状の無機母材―金属触媒複合物を含有する排気ガス浄化用触媒であることから、排気ガス中のHC、NOx、COなどに対して、低温時でも優れた浄化能力を発揮すると共に、これら有害成分を同時に除去することができる。したがって、特に自動車のエンジンから排出される排気ガスを浄化する三元系触媒として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の排気ガス浄化用触媒、排気ガス浄化用一体構造型触媒、及びこれら触媒を使用した排気ガス浄化方法について、自動車からの排気ガスを浄化するための三元触媒を中心に、図面を用いて詳細に説明する。
【0023】
1.排気ガス浄化用触媒
本発明の排気ガス浄化用触媒は、金属触媒成分(A)がウイスカー状無機母材(B)に担持された繊維状の無機母材―金属触媒複合物を含有する排気ガス浄化用触媒であって、金属触媒成分(A)は、少なくとも貴金属元素を含み、一方、ウイスカー状無機母材(B)は、Alを主要構成単位とするとともに、その結晶内及び/又はその表面上にジルコニウム成分を含有し、かつ、直径が実質的に50nm以下、アスペクト比が2以上であることを特徴とする。
【0024】
なお、本発明においてサイズを表す表現として用いる「実質的に」とは、直径、および長さの平均値を指すか、そのサイズを取りうる構成要素の多くが当該サイズを有する部位を保ちえる状態であることを意味する。
【0025】
また、ウイスカー状無機母材の「ウイスカー状」とは、いわゆるウイスカー状(ヒゲ状)の他、柱状、針状、繊維状など広い意味でアスペクト比により規定できる形状のことをいう。
【0026】
(金属触媒成分)
本発明において金属触媒成分は、貴金属元素を含有しなければならないが、その他、排気ガスの浄化に対して活性を有するものであれば、遷移金属、希土類金属などを含んでいてもよい。貴金属元素は、ロジウム、金、銀、白金、パラジウムなどが挙げられ、その1種又は2種以上を使用できる。好ましい金属触媒成分は、ロジウム、白金、パラジウムで、ロジウムが最も好ましい。
遷移金属としては、具体的には、鉄、ニッケル、コバルト、ジルコニウム、銅などが挙げられ、希土類金属としては、セリウム、ランタン、プラセオジム、ネオジウムなどから一種以上を適宜選択できる。
【0027】
金属触媒成分の量は、貴金属元素の種類、無機母材や担体の種類などによって異なるが、貴金属であれば、無機母材を含む触媒全体に対して、0.01〜25重量%、好ましくは0.1〜10重量%である。金属触媒成分の量が25重量%を超えると、触媒の生産コストが上昇してしまい、0.01重量%未満では、排気ガスの浄化性能が低下する。また、後述する一体構造型触媒の場合、一体構造型触媒の単位容積あたり、0.01〜10g/L、特に0.1〜10g/Lである事が好ましい。
【0028】
(無機母材)
本発明において、原料として用いられるウイスカー状無機母材は、少なくともAlからなり、熱的に安定な構成単位からなる無機物質であるか、または焼成後にウイスカー状になりうる前駆体である。特にAlを構成単位とし、これにジルコニウム成分を含有する無機物質である。このようなウイスカー状無機物質としては、繊維状ベーマイト(前駆体を含む)などがある。
【0029】
ここで、ウイスカー状無機母材は、その直径が実質的に50nm以下であることが望ましく、より好ましくは20nm以下、最も好ましくは10nm以下である。ウイスカー状無機母材の直径の下限については、特に限定されるものでは無いが、2nm以上の無機母材を用いた場合で本発明の効果が確認されている。なお、前駆体の場合は、通常は鎖状の高分子化合物の集合体であるため、直径を規定することはできない。
無機母材の長さは、特に限定されないが、100nmよりも長いものが好ましく、例えば、100〜10000nmの範囲にあるものが好ましい。また、本発明におけるウイスカー状無機母材の望ましいアスペクト比は2以上であり、より望ましくは10以上である。以下、本発明においてはこれらの形状を包括してウイスカー状という。
【0030】
本発明においてウイスカー状無機母材は、ジルコニウム成分を含むものであるが、ジルコニウム成分は、ジルコニウム金属のほか、ジルコニアアルミネート、酸化ジルコニウムなどの化合物でもよい。ジルコニウムそのものが、単体として無機物質に含まれていても良いが、前記繊維状ベーマイトの主要構成単位であるAl結晶内に取り込まれていることが望ましい。
【0031】
ここで、繊維状ベーマイトに対するジルコニウム成分の存在状態は、ベーマイト結晶中に含まれる状態、酸化アルミニウムとの複合酸化物を形成した状態、ベーマイト中にジルコニウム成分が島状に存在する状態、またウイスカー状無機母材の表面を被覆する状態(全体的に被覆する状態と斑状に被覆する状態がある)などがあり、また、これらの状態の幾つかが組み合わさった状態を取ることもできる。
【0032】
なお、繊維状ベーマイトへのジルコニウム成分の添加方法は、繊維状ベーマイトに対してジルコニウム成分をいかなる状態で存在させるかによって異なる。ジルコニウム成分が、ベーマイト結晶中に含まれる状態で存在させるのであれば、例えば、繊維状ベーマイトを含むスラリー中に硝酸ジルコニウム等のジルコニウム塩の溶液を混合攪拌し、アンモニアなどのアルカリ剤で中和後、必要に応じて乾燥した後、焼成することによって得ることができる。ここで乾燥条件は50〜200℃で5〜20時間行う事が好ましく、焼成条件は400〜700℃で1〜6時間行う事が好ましい。また、アルカリ剤での中和条件のうち、アルカリ剤使用量を酸化物に対して0.1〜6重量倍量とし、10分〜360分で投入する中和速度で中和するとよい。アルカリ剤は、30〜90分で投入する方が好ましい。10分未満の投入速度で投入すると、ジルコニウム成分の凝集が進み、繊維状ベーマイトとジルコニウムの分散性を損なう可能性がある。また、360分を超えると生産性が上がらないので好ましくない。
【0033】
酸化アルミニウムとの複合酸化物を形成した状態で、ジルコニウム成分を存在させるのであれば、酸化アルミニウムにジルコニウム成分をジルコニアとして混合し、均一に分散させた後、高温で焼成する。
【0034】
繊維状ベーマイトに添加されるジルコニウム成分の量は、無機母材に対してジルコニウム酸化物換算で0.1〜30重量%とし、0.5〜20重量%がより好ましく、1〜10重量%が最も好ましい。ジルコニウム成分が0.1重量%未満では充分な三元活性が得られず、30重量%を超えると、繊維状ベーマイトとジルコニウムの相互作用を阻害する変化が生じ、結晶学的変化が起こり、触媒としての特性が変化してしまう恐れがある。
本発明においては、ウイスカー状無機母材がジルコニウム成分を含んでいなければならず、ジルコニウム成分の代わりにバリウムなどのアルカリ土類金属やランタンなどの希土類金属を含むものでは触媒活性を得ることができない。
【0035】
本発明において、無機母材として好ましい繊維状ベーマイトは、主として分子式がAl・1.05〜3.0HOで表される。アルミナの結晶水が1.05より少ないベーマイトは、形状が板状になることがあり、結晶水が3.0を越えるベーマイトは極めて小さな繊維の凝集体であるため好ましくない。無機母材として好ましい繊維状ベーマイトは、主として分子式がAl・1.3〜3.0HOで表されるものである。
【0036】
また、繊維状ベーマイトは、直径が実質的に50nm以下、特に3〜50nmの範囲にあるものが好ましい。繊維の長さは特に限定されないが、100nmよりも長いものが好ましく、例えば、100〜10000nmの範囲にあるものが好ましい。繊維状ベーマイトの直径と長さは、得られる焼成物の細孔構造とも密接に関係している。すなわち、短い繊維のベーマイトから得られる焼成物の細孔容積は小さく、長い繊維の場合は細孔容積が大きい。また、細い繊維のベーマイトから得られる焼成物の比表面積は大きく、太い繊維の場合は比表面積が小さい。また、本発明における繊維状ベーマイトの望ましいアスペクト比は2以上であり、より望ましくは10以上である。
【0037】
このような繊維状ベーマイトからなるアルミナ水和物は、たとえば、国際公開特許(WO97/32817号公報、WO01/056951号公報)に記載された方法によって調製することができる。具体的には、アルミナ原料の水懸濁液に、酸を加えたのち90〜150℃の温度で水熱処理を行い、繊維状ベーマイトが分散したアルミナゾルを調製する。
上記アルミナ原料としては、少なくとも部分的に再水和性を有するρおよび/またはχ結晶構造を示すアルミナが用いられる。中でもギブサイト、バイヤライト等のアルミナ三水和物を急速高温加熱により脱水して得られたもので、比表面積が50〜500m/gの範囲にあり、かつ部分的に再水和性を有するアルミナが好ましい。
【0038】
図1の写真は、本発明に係るウイスカー状無機母材の走査型透過電子顕微鏡による写真(倍率:×100k)である。図1を見ると、原料として用いたジルコニウム成分を含む繊維状ベーマイトが、ウイスカー状無機母材となって分散しているが、部分的に複数本を合体して太くなっていている様子がわかる。ウイスカー状無機母材の形状、サイズを電子顕微鏡下において目視で測定すると、いずれも平均値で直径が5nm、長さが130nmであった。
【0039】
また、ウイスカー状無機母材の繊維の方向は、一方向であってもランダム方向であっても構わないが、通常は焼成によって略一方向に揃った状態で得られることが多い。繊維の長さや太い部分の幅は、特に限定されないが、繊維が長く幅が広いほど金属触媒を効果的に担持できるので好ましい。
【0040】
上記のようにして得られる繊維状ベーマイトは、通常、水に分散したゾル状であるが、このゾルに前記触媒金属成分を混合し、このスラリーを乾燥・焼成すると、繊維状ベーマイトの表面に触媒金属成分が担持され、安定したウイスカー状構造を形成する。繊維状ベーマイトの表面での触媒金属成分の存在状態は、一概にいえないが、針状に担持されていると極めて良好な活性を発揮できる。
【0041】
本発明が低温時でも優れた排気ガス浄化性能を発揮する理由は定かでは無いが、触媒中の貴金属が、例えば、ロジウムの場合であれば、以下のような理由によるものと推測される。
その一つが、前記した無機母材のウイスカー形状に由来してロジウムが効果的に担持されること、もう一つが本発明のウイスカー状無機母材によって、触媒中のロジウムの活性低下そのものが防止されることである。ロジウムそのものの活性低下が防止されると考えられる理由は以下のとおりである。
【0042】
すなわち、酸化ジルコニウムの表面は、負電荷を帯びた状態となっている事が知られており、本発明では、ウイスカー状無機母材上に担持されたロジウム粒子に、ウイスカー状無機母材中の酸化ジルコニウムから電子供与が行われ、ロジウム粒子が負電荷を帯びた状態になり、同じく負電荷である排気ガス中の酸素アニオンとロジウム粒子の親和性が低くなり、ロジウム粒子の酸化が抑制され、活性の高い金属状態を保つことができるためと考えられる。
【0043】
本発明の排気ガス浄化用触媒には、前記原料である金属触媒成分、ウイスカー状無機母材の他、触媒性能を改善するために、アルカリ金属、アルカリ土類金属などを適宜添加することができる。また、ゼオライト等の吸着剤、セリアやセリア−ジルコニア複合酸化物などの酸素吸蔵・放出材、白金、パラジウムなどの貴金属触媒、また、他のα型、γ型等のアルミナなどを適宜組み合わせて、より高度な機能を有する排気ガス浄化用触媒とする事が可能である。
【0044】
酸素吸蔵・放出材を使用する場合、その量は、その種類、担体の種類などによって異なるが、セリア−ジルコニア複合酸化物であれば、担体の容積当り、0.01〜10g/L、特に0.1〜10g/Lである事が好ましい。このように、本発明を酸化触媒として用いる場合は、酸素吸蔵・放出材と併用することで、酸素吸蔵・放出材から放出される酸素によりHC、SOF等の酸化作用が促進され、白金、パラジウムなどの貴金属触媒との併用によりスチームリフォーミング反応が促進され、NOxの浄化性能が促進される。
【0045】
γ−アルミナを使用する場合、その量は、担体の容積当り、5〜150g/L、特に10〜80g/Lである事が好ましい。γ−アルミナを使用することで、繊維状の無機母材―金属触媒複合物との分散性が向上し、担体への密着性も改良される。
【0046】
本発明の排気ガス浄化用触媒は、担体表面に上記複合物が被覆された構造型触媒として用いることが望ましい。ここで担体の形状は特に限定されるものではなく、円柱状、円筒状、球状、ハニカム状、シート状などから選択可能である。構造型担体のサイズは特に制限されないが、円柱状、円筒状、球状のいずれかであれば、例えば数ミリから数センチの直径のものが使用できる。
【0047】
2.排気ガス浄化用触媒の製造方法
本発明の排気ガス浄化用触媒は、前記金属触媒成分と無機母材とを水系媒体中で混合してスラリーを調製した後、該スラリーを焼成することにより製造される。金属触媒成分の原料は、通常、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩等の形態で使用される。
【0048】
ここで、スラリーは、無機母材、金属触媒成分、水系媒体を所定の比率で混合して調製されるが、本発明においては、無機母材100重量部に対して、ロジウムなどの貴金属を含む金属触媒成分0.01〜25重量部とを混合することが好ましい。水系媒体はスラリー中で無機母材と金属触媒成分が均一に分散できる量を用いれば良い。
【0049】
この際、必要に応じてpH調整のための酸、アルカリを、粘性の調整やスラリー分散性を向上するための界面活性剤、分散用樹脂等を配合する事ができる。また、スラリーの混合方法としては、ボールミルなどによる粉砕混合が適用可能であるが、他の粉砕、もしくは混合方法を適用しても良い。
なお、焼成条件は特に限定されないが、焼成温度は300〜1200℃が好ましく、400〜800℃がより好ましい。加熱手段については、電気炉やガス炉等の公知の加熱手段によって行う事ができる。
【0050】
なお、本発明の構造型触媒は、上記のようにスラリーを構造型担体に塗工し加熱することによって得られるが、予めスラリーそのものを焼成することによって焼成触媒組成物を得た後、別途粉砕してから構造型担体に担持させて触媒を得ることもできる。
【0051】
3.排気ガス浄化用一体構造型触媒
本発明の排気ガス浄化用一体構造型触媒は、排気ガスが流通可能な一体構造型担体表面に上記の触媒組成物が被覆された触媒である。
【0052】
ここで、一体構造型担体は、特に限定されるものではなく、公知の一体構造型担体の中から選択可能である。このような一体構造型担体としては、フロースルー型担体や、DPFに用いられるウォールフロー型担体があり、これら担体の材質としては金属、セラミックスがある。この他にも、細い繊維状物を編んだシート状構造体、比較的太い繊維状物からなるフェルト様の不燃性構造体が使用できる。これら一体構造型担体は、金属触媒成分の担持量が大きく、また排ガスとの接触面積が大きいので他の構造型担体よりも処理能力が高い。なお、本発明の排気ガス浄化触媒を自動車排気ガス浄化用の三元触媒とする場合は、フロースルー型担体を用いることが望ましい。
一体構造型担体の全体形状は任意であり、円柱型、四角柱型、六角柱型など適用する排気系の構造に応じて適宜選択できる。さらに開口部の孔数についても処理すべき排気ガスの種類、ガス流量、圧力損失あるいは除去効率などを考慮して適正な孔数が決められるが、通常、自動車の排気ガス浄化用途としては、1平方インチ当たり10〜1500個程度である。
【0053】
このようなフロースルー型担体、ウォールフロー型担体のようなハニカム形状の担体では、その構造的特徴がセル密度であらわされるが、本発明においてはセル密度10〜1500cel/inch、より好ましくは350〜900cel/inchの担体を用いる事ができる。セル密度が10cel/inch以上であれば、内燃機関の排気ガスの圧力損失を生じることなく内燃機関の性能を損う事がない。また、セル密度が1500cel/inch以下であれば、排気ガスと触媒の接触面積を確保する事ができ、充分な排気ガスの浄化機能が得られる。
なお、本発明ではこのようなフロースルー型担体、ウォールフロー型担体などの一体構造型担体上に触媒組成物が被覆されたものを、以下、一体構造型触媒と言うことがある。
【0054】
また、本発明の排気ガス浄化用一体構造型触媒は、一体構造型担体がセル密度10〜1500cel/inchであれば、無機母材―金属触媒複合物の被覆量は10〜400g/L、特に30〜300g/Lである事が好ましい。被覆量が400g/Lを超えると、自動車の排気ガス流路に配置すると排気ガスの圧損を生じてしまい、10g/L未満では、排気ガスの浄化性能が不十分となる。
また、金属触媒成分が貴金属としてロジウムを含む場合、金属触媒成分の担持量は、前記一体構造型担体に対して0.01〜8g/L、特に0.1〜5g/Lである事が好ましい。触媒の担持量が8g/Lを超えると、生産コストが上昇してしまい、0.01g/L未満では、排気ガスの浄化性能が不十分なものとなる。
【0055】
4.排気ガス浄化用一体構造型触媒の製造
本発明の排気ガス浄化用一体構造型触媒は、前記の方法で金属触媒成分またはその前駆体と、前記無機母材またはその前駆体と、必要によりその他の無機物質を用い、これらを水系媒体と共に混合してスラリー状混合物にしてから、一体構造型担体へスラリー状混合物を塗工して、乾燥、焼成する事により製造される。
【0056】
すなわち、まず、金属触媒成分、水系媒体を所定の比率で混合してスラリー状混合物を得る。本発明においては、無機母材100重量部に対して、金属触媒成分を0.01〜25重量部混合することが好ましい。無機物質として、γ−アルミナなどを無機母材100重量部に対して、1〜50重量部配合してもよい。水系媒体は、スラリー中で無機母材と金属触媒成分が均一に分散できる量を用いれば良い。
この際、必要に応じてpH調整のための酸、アルカリを、粘性の調整やスラリー分散性向上のための界面活性剤、分散用樹脂等を配合する事ができる。スラリーの混合方法としては、ボールミルなどによる粉砕混合が適用可能であるが、他の粉砕、もしくは混合方法を適用しても良い。
【0057】
次に、一体構造型担体へスラリー状混合物を塗工する。塗工方法は、特に限定されないが、ウオッシュコート法が好ましい。塗工した後、乾燥、焼成を行う事により触媒組成物が担持された一体構造型触媒が得られる。なお、乾燥温度は、100〜300℃が好ましく、100〜200℃がより好ましい。また、焼成温度は、300〜1200℃が好ましく、400〜800℃、特に400〜600℃が好ましい。加熱手段については、電気炉やガス炉等の公知の加熱手段によって行う事ができる。
【0058】
なお、上記製造工程に加えて、本発明の触媒組成物の被覆前に、定着性の向上などを目的として、一体構造型担体にアンダーコート層を設けても良い。このようなアンダーコート層としては、その組成、材料について特に限定されることはなく、γ型などの各種アルミナ等があげられ、その被覆量も特に限定されないが、概ね1〜100g/L程度が被覆される。
なお、上記アンダーコート層には、前記した各種触媒材料を適宜配合してもよいことは言うまでもない。
【0059】
本発明では、上記の方法で得た無機母材−金属触媒複合物を含む触媒組成物を、他の触媒成分、または他の無機材料を含む被覆層と積層して用いることもできる。その場合、本発明の触媒組成物の層は、排気ガス流に直接接する表面層であっても良く、本発明の触媒組成物層の上に他の触媒成分、または他の無機材料を含む被覆層を形成してもよい。
このような他の触媒成分、または他の無機材料を含む被覆層には、前記のように白金、パラジウム、ロジウム等の触媒金属、ゼオライト等の吸着剤、セリアやセリア−ジルコニア複合酸化物などの酸素吸蔵・放出材、アルカリ金属、アルカリ土類金属等が配合されていても良い。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の実施例、比較例を示すが、本発明は、この実施例に限定して解釈されるものではない。
【0061】
(実施例1)
<一体構造型触媒の製造>
まず、直径:5nm、長さ:130nm、アスペクト比:26の繊維状ベーマイトを含むスラリー158.3g(Alとして95g含有)とZrO換算で15重量%となる硝酸ジルコニウム溶液33.3g(ZrOとして5g含有)を水に添加し、Zr/Al複合酸化物として5重量%のスラリーを作製した。
このスラリーに25重量%のアンモニア水300gを60分で投入し、中和を行った。
次に、得られたスラリーをろ過し、十分に水洗した後、500℃で5時間焼成を行った後、粉砕した。これにより、ウイスカー状無機母材が凝集した二次粒子以上の凝集粒子径の平均粒子径(D50)が55μmの粉末を得た。
このようにして、酸化物換算で5重量%のジルコニウム成分がベーマイト結晶中に含まれる状態で存在するウイスカー状無機母材を得た。その写真を図1に示す。
次に、このウイスカー状無機母材を用い、金属触媒成分としてロジウム硝酸塩水溶液、γ−アルミナ(比表面積:150m/g)に水系媒体を加えてからボールミルを用いて混合しスラリーを得た。なお、水系媒体はスラリー中で無機母材と金属触媒成分が均一に分散できる量とした。
このスラリーをウオッシュコート法により下記一体構造型担体に被覆し、乾燥後500℃で1時間焼成し、一体構造型触媒を製造した。この一体構造型触媒の単位体積中の各成分量「g/L」を下記表1に記す。
[一体構造型担体]
・一体構造型担体の種類:フロースルー型担体
・一体構造型担体の材質:コージェライト
・一体構造型担体のセル密度:900cell/inch
【0062】
(比較例1、2)
<一体構造型触媒の製造>
実施例1記載のウイスカー状無機母材に添加されるZr成分をBa成分に換えた以外は実施例1と同様にして比較例1の一体構造型触媒を得た。また、実施例1記載のウイスカー状無機母材に添加されるZr成分をLa成分に換えた以外は実施例1と同様にして比較例2の一体構造型触媒を得た。実施例1と同様に、硝酸バリウム又は硝酸ランタンの溶液と繊維状ベーマイトを含むスラリーを混合して、ウイスカー状無機母材にBa又はLaを添加した。
比較例1のウイスカー状無機母材の写真を図2に、比較例2のウイスカー状無機母材の写真を図3に示す。なお、比較例1、比較例2に用いたウイスカー状無機母材のサイズ、形状は実施例のものとほぼ同様であった。
この一体構造型触媒の単位体積中の各成分量「g/L」を下記表1に記す。
【0063】
【表1】

【0064】
<触媒性能評価>
実施例1、比較例1、比較例2で得られた各一体構造型触媒について、以下の条件でガソリンエンジンからの排気ガスを模したモデルガスを流通させ、排気ガス中のHC、CO、NOxの浄化率を測定した。200〜300℃における触媒性能を図4〜6に表す。
・測定モード:モデルガス
・モデルガス組成:
CO :1体積%
:0.1体積%
:0.025体積%
NO :0.05体積%
:0.3体積%
CO :10体積%
O :10体積%
:残余
・排気ガスの測定機器:堀場製作所製 MEXA−7100
・空間速度:60,000/h
上記条件における排気ガス中のHCの浄化率を図4に、COの浄化率を図5に、NOxの浄化率を図6に、グラフとして表す。
グラフから、実施例1の触媒は、比較例1、比較例2の触媒に対して、低温時から浄化能力に優れていることが分かる。なお、HCの浄化率についてはBa添加品とLa添加品とも同様に悪く浄化率のグラフがほぼ重なって表されている。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明において、触媒の原料とされるZrを含む無機母材の外観を示す写真である。
【図2】比較用の触媒において原料とされるBaを含む無機母材の外観を示す写真である。
【図3】比較用の触媒において原料とされるLaを含む無機母材の外観を示す写真である。
【図4】実施例、比較例の触媒により排気ガスを処理したときのHCの転化率を表すグラフである。
【図5】実施例、比較例の触媒により排気ガスを処理したときのCOの転化率を表すグラフである。
【図6】実施例、比較例の触媒により排気ガスを処理したときのNOxの転化率を表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属触媒成分(A)がウイスカー状無機母材(B)に担持された繊維状の無機母材―金属触媒複合物を含有する排気ガス浄化用触媒であって、
金属触媒成分(A)は、少なくとも貴金属元素を含み、一方、ウイスカー状無機母材(B)は、Alを主要構成単位とするとともに、その結晶内及び/又はその表面上にジルコニウム成分を含有し、かつ、直径が実質的に50nm以下、アスペクト比が2以上であることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項2】
金属触媒成分(A)中の貴金属元素が、ロジウムを含むことを特徴とする請求項1に記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項3】
ウイスカー状無機母材(B)が、繊維状ベーマイトであることを特徴とする請求項1又は2に記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項4】
ウイスカー状無機母材(B)の直径が、実質的に30nm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項5】
ジルコニウム成分の含有量が、ウイスカー状無機母材(B)に対してZr酸化物換算で0.1〜30重量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の排気ガス浄化用触媒を、一体構造型担体の表面に被覆してなる排気ガス浄化用一体構造型触媒。
【請求項7】
金属触媒成分(A)の量が、一体構造型担体に対して0.01〜10g/Lであることを特徴とする請求項6に記載の排気ガス浄化用一体構造型触媒。
【請求項8】
無機母材―金属触媒複合物の量が、一体構造型担体に対して10〜400g/Lであることを特徴とする請求項6又は7に記載の排気ガス浄化用一体構造型触媒。
【請求項9】
窒素酸化物、炭化水素、および一酸化炭素を含有する排気ガスを、請求項6〜8のいずれかに記載の排気ガス浄化用一体構造型触媒に流通して接触させることを特徴とする排気ガス浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−253110(P2007−253110A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−83177(P2006−83177)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000208662)第一稀元素化学工業株式会社 (56)
【出願人】(000228198)エヌ・イーケムキャット株式会社 (87)
【Fターム(参考)】