説明

排気ガス測定装置および排気ガス測定方法

【課題】内燃機関のトルクを直接計測することなく、内燃機関の仕事量を求め、内燃機関の単位出力あたりの排気ガス中の各成分の質量を、容易に求めることができる排気ガス測定装置および排気ガス測定方法を提供すること。
【解決手段】内燃機関から排出される排気ガス中のCO、CO2およびTHC等の炭素化合物に係る成分の排出量に基づき、当該内燃機関の仕事量を算出することで、ECUが有しているトルクデータ等を用いることなく内燃機関の仕事量を簡単に算出し、内燃機関の単位仕事量あたりに排出される排気ガス中の各成分の質量を算出することを可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の内燃機関から排出される排気ガスを測定する排気ガス測定装置および排気ガス測定方法に関するものであり、より詳細には、前記内燃機関の仕事量および該仕事量あたりの排気ガス量を求めることを可能とする排気ガス測定装置および排気ガス測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に備えられる内燃機関(エンジン)から排出される排気ガスに含まれるCOやCO、NO等の所定成分についての濃度を測定し、排気ガス分析を行う排気ガス測定装置が知られている。(例えば、特許文献1)
【0003】
このような排気ガス測定装置においては、内燃機関から排出される排気ガスが大気汚染に対してどのような影響を及ぼすかを測定するために、排気ガス中に含まれる所定成分の濃度を知るだけではなく、排気ガス排出質量又は排気ガス中に含まれる前記所定成分の質量を知ることが主たる目的となっている。
【0004】
一方、内燃機関の性能評価や法的規制のために、内燃機関から排出される排気ガス排出質量や、排気ガス中に含まれる所定成分の質量を、内燃機関の単位仕事量(単位出力)あたりに換算して算出した指標、すなわち単位出力あたりの排気ガス排出質量が用いられている。
【0005】
この指標は、特に大型車両の内燃機関など、車両に搭載した状態では対応する大型のシャシダイナモメータ等がなく、内燃機関単体での測定しかできないような場合に用いられている。
【0006】
ところで、前述内燃機関の仕事量(出力)は、トルクと回転数との積で表されるので、これを算出するためには、直接的には、内燃機関のトルクおよび回転数を求める必要があるところ、いずれの量も簡単に求まるものではなく、特にトルクを求めるセンサを備えているものはほとんど見受けられない。
【0007】
そこで、このような内燃機関の仕事量を求めるために、従来は、ECUが燃料機関への燃料噴射量等から算出して求めたトルクデータを用いる手法や、実際に内燃機関の軸にトルクセンサを取り付け、これによりトルクを検出する手法がとられている。
【特許文献1】特開平8−128948号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このようなECU等により求まるトルクデータは、内燃機関近傍の燃料供給量や吸入空気量等に基づいており、内燃機関から離れた排気管(テールパイプ)から排出される排気ガスの量のデータとは時間的に遅れが生じ、同時期の内燃機関の仕事量あたりの排気ガス排出量を算出することができるとは限られないし、トルクセンサは取付が極めて困難であるという問題点がある。さらに、車両がトルクデータを外部へ出力するためのECU信号やOBD等のインターフェイスを備えていない場合もあり、また例え備えていたとしても、車両毎に信号形態が異なってその取得が難しい上に、内燃機関の仕事量を正確かつ簡易に行うことができないというのが実情である。
【0009】
そこで本発明は、ECU等から得られるトルクデータやトルクセンサを用いることなく、排気ガス測定装置のみで、リアルタイムに内燃機関の仕事量(出力)及びそれから算出される単位仕事量あたりの排ガス質量を測定可能で、内燃機関単独での測定はもちろんのこと、大型車両等でも実走行させながらその測定を可能とする排気ガス測定装置および排気ガス測定方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明に係る排気ガス測定装置及び排気ガス測定方法は、内燃機関から排出される排気ガス中の炭素化合物に係る成分の排出量に基づいて、当該内燃機関の仕事量を算出することを特徴とする。
【0011】
このようなものであれば、内燃機関の仕事量を、排気ガス測定装置で測定した炭素化合物に係る成分量のみから求めることができるため、ECUが有しているトルクデータ等を用いることなく、排気ガス測定装置のみを用いて、内燃機関の仕事量を簡単に算出することができるとともに、シャシダイナモを用いることができないような大型車の場合であっても、内燃機関の仕事量を求めることが可能になる。
【0012】
一方、排気ガスの排出量は簡易な流量計等があれば容易に求められるため、これらから内燃機関の単位仕事量(単位出力)あたりに換算して算出した指標、すなわち単位出力あたりの排気ガス排出質量も、容易に算出できる。
【0013】
しかも、上述した内燃機関の仕事量も、排気ガス(及び各成分)の排出質量も、双方排気ガスから測定するため、両者に生じる遅れ時間は原理的にゼロで、ECUのトルクデータやトルクセンサを利用するときのような複雑な同期機構が不要になり、時系列的に連続したリアルタイム測定も可能になる。
【0014】
さらに、排気ガス測定装置を車両に搭載できるため、従来では不可能であった大型車両を実走行させながらの測定もできるようになるうえ、車両が変わっても同一の測定装置で測定できるため、車両毎の違いを客観的に示す信頼性の高い測定が可能になる。
【0015】
既存の分析計を用いて簡単に排気ガス中の炭素化合物に係る成分量を測定するには、内燃機関から排出される排気ガス中の炭素化合物に係る成分の濃度を測定する排気ガス濃度測定部を備え、測定した炭素化合物に係る成分の濃度と排気ガスの流量とから、前記炭素化合物に係る成分の排出量を算出するようにしたものが好ましい。
【0016】
そして、上述したように、前記内燃機関の仕事量に基づいて、当該内燃機関が単位仕事量あたりに排出する排気ガスの質量または排気ガス中の所定成分の質量を算出すればよい。
【0017】
具体的実施態様としては、測定すべき前記炭素化合物に係る成分が、少なくともCO、COおよび炭化水素類であればよい。内燃機関の燃料が燃焼して生成される炭素化合物は、上述した3種類がほとんどだからである。その中でもCOの割合が多いため、低い精度でもいい場合など、使用目的によっては、COのみを測定対象成分としても構わない。
【0018】
内燃機関の仕事量の具体的な算出手順としては、炭素化合物に係る成分の排出量からカーボンバランス法などの手法により燃料消費量を算出し、その燃料消費量に、予め定められた当該燃料の燃焼エネルギと内燃機関の燃焼効率とをかけることにより、当該内燃機関の仕事量を算出する態様が考えられる。
【0019】
前記排気ガス中の炭素化合物に係る成分の濃度を、特定の時間区域において積算して求め、その積算した値から、前記時間区域内において前記内燃機関から排出される排気ガス中の炭素化合物に係る成分の排出量を算出するものであれば、内燃機関の脈動等の影響で、一時的に仕事量や前記各成分の排出量等が変動する場合でも、前記時間区域における単位仕事量あたりに排出される排気ガス中の各成分の平均的な質量を求めることが可能となる。また、前記時間区域を短く設定することで、内燃機関の単位仕事量あたりに排出される排気ガス中の各成分の質量を、リアルタイムに求めることもできる。
【0020】
前記時間区域は、排気ガスの流量が脈動する周期に応じて定められておくことが好ましい。例えば、内燃機関における1回転に相当するピストンシリンダの1ストロークの開始から終了までに対応する期間そのものまたはその複数倍を時間区域とし、この時間区域を測定の1単位としてこれを連続して測定するようにすればよい。このような排気ガス測定装置は、内燃機関のピストンシリンダが1回駆動する毎(内燃機関の脈動ごと)に発生する排気ガス中の各成分の質量と、仕事量とをそれぞれ求めることができるため、内燃機関の性能や特性を詳細に調べる必要がある際に好適である。
【0021】
なお、本発明に係る排気ガス測定装置は、内燃機関から排出される排気ガス中に含まれる、環境に対して悪影響を及ぼすような種々の成分について、単位仕事量あたりに排出される質量を求めるものであることが好ましい。すなわち、前記排気ガス濃度測定部は、排気ガス中に含まれるCO、COおよびTHCの濃度のみを測定するものに限られず、排気ガス中に含まれるNO等のその他の成分を同時に測定するものであってもよい。
【発明の効果】
【0022】
上述のように、本発明によればECU等からのトルクデータ等を用いることなく、排気管での排気ガス測定装置のみで、内燃機関の単位出力あたりの排気ガス質量を時間的なずれなく容易に求めることができ、車種に拘わらず測定できる、リアルタイムで実走行時にも測定できるなどの種々の効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本願発明の一実施形態について、図1から図3を参照しつつ説明する。
本実施形態に係る排気ガス測定装置は車両搭載型のもので、図1にその概略構成を示すように、自動車等の車両の内燃機関Eから排出された排気ガスGが導入される流路系10と、その流路系10上に設けられて排気ガスG中の種々の成分濃度を測定する排気ガス濃度測定部としての3つの分析計、すなわち、サンプルガスである排気ガスG中のCO、CO及びHOの濃度を測定する赤外線ガス分析計30と、THC(トータルハイドロカーボン、炭化水素類)の濃度を測定する水素炎イオン化分析計40と、NOの濃度を測定するCLD式NO計50と、これらの各分析計30、40、50からの測定結果データを収集して目的に応じた分析を行うとともに、流路系10に配置された圧力制御弁等の制御を行う情報処理装置60とを備えている。
【0024】
流路系10は、内燃機関Eから排出された排気ガスGの大部分を通過させるバイパス経路としての役割を果たす主流路10aと、その主流路10aと並列に設けた複数(2つ)の副流路10b、10cとを備えている。主流路10aには赤外線ガス分析計30が、副流路10b、10c上にはそれぞれ水素炎イオン化分析計40及びCLD式NO計50が設けられている。
【0025】
主流路10aは、その上流端をメインポート10dとして開口させたものであり、このメインポート10dに車両の排気管を接続し、下流端に設けた吸引ポンプ11で吸引することにより、内燃機関Eから排出される排気ガスGのうちの必要量(一部又は全部)が流路系10に導入されるように構成している。
【0026】
より具体的に説明すると、主流路10a上には、排気ガスGを導入するメインポート10dに引き続いて、ポンプ12に接続され、排気ガスG中に含まれる液状水分を取り除くドレンセパレータ13、フィルタ14、流量制御管(キャピラリ)15、分岐部101、赤外線ガス分析計21、流量制御管(キャピラリ)16、合流部111、吸引ポンプ11をこの順に直列配置している。なお、赤外線ガス分析計30の下流には圧力制御弁17が接続されており、前記キャピラリ14および16間の流路系の圧力をコントロールするとともに、各キャピラリと協働して赤外線ガス分析計30を流れる排気ガスGの流量及び圧力を一定に保つ役割を担う。
【0027】
分岐部101からは、第1の副流路10bおよび第2の副流路10cがそれぞれ分岐させてあり、各副流路10a、10bの下流端が、合流部111で主流路10aに再度接続されるように構成されている。
【0028】
第1の副流路10b上には、排気ガスG中のTHCの濃度を測定する水素炎イオン化分析計40が設けてある。この水素炎イオン化分析計40の上流には、流量制御管(キャピラリ)41が設けられており、THCの濃度測定に必要な流量を、当該水素炎イオン化分析計40に流すように構成している。なお、第1の副流路10bを流れる排気ガスGの流量は、主流路10aを流れる排気ガスGの流量に比べればわずかな量であって、本実施形態においては、主流路10aを流れる排気ガスGの流量が約2.5L/minであるのに対して、第1の副流路10bを流れる排気ガスGの流量は0.01L/minに設定されている。
【0029】
第2の副流路10c上には、流量制御管(キャピラリ)51、CLD式NO計50が上流からこの順で設けてある。流量制御管(キャピラリ)51は、この副流路10cを流れる排気ガスGの量を、窒素酸化物の濃度測定に必要な流量に制限するものである。なお、第2の副流路10cを流れる排気ガスGの流量も、主流路10aを流れる排気ガスGの流量に比べればわずかな量であり、本実施形態においては、第2の副流路10cを流れる流量は0.07L/minに設定されている。
【0030】
なお、合流部111に接続されている圧力制御弁20は、フィルタ21を介して合流部112と外気とを連通するものであり、後述するように、副流路10b、10cの圧力をコントロールする。すなわち、この圧力制御弁20は、各副流路10b、10cの上流部に設けられた前記キャピラリ41、51と協働して水素炎イオン化分析計40及びCLD式NO計50を流れる排気ガスGの流量及び圧力を一定に保つ役割を担う。
【0031】
次に各分析計30、40、50の概略を説明する。
【0032】
赤外線ガス分析計30は、CO、CO、HO等が、それぞれ固有の波長の赤外線を吸収する性質を有していることから、各固有波長の赤外線がサンプルガスを通過してどれだか吸収されたかを示す吸収度を検出することにより、CO、CO、HO等の量(濃度)を測定できるようにしたものである。
【0033】
水素炎イオン化分析計40は、サンプルガスである排気ガスGに、燃料ガス(水素ガス)を一定の割合で混合して燃焼し、その際にそのサンプルガスに含まれるTHC(全炭化水素)がイオン化されて生じる電流の値を検出する方式のもので、その電流値からTHCの量(濃度)を算出することができる。この水素炎イオン化分析計40は、燃料ガスの他に助燃用ガス(空気)も導かれるように構成されている。
【0034】
CLD式NO計50は、排気ガスGに含まれるNOの量(濃度)を測定可能なものであり、図1に示すように、NOコンバータ52、オゾン発生器53、光検出器(図示せず)を含む反応槽54を備えている。NOコンバータ52は、NOをNOに変換するものであり、第2の副流路10cに導入された排気ガスGを2分する一対の並列経路の一方に設けられている。これら並列経路の終端には電磁式切替バルブ55が設けてあって、いずれか一方の経路からのみ、反応槽54内に択一的にガスが導かれるように構成してある。オゾン発生器53は、大気を除湿することなくそのまま取り込み、その大気に含まれる酸素をオゾンに変換して一定量のオゾン含有ガスを、キャピラリ53aを介して出力する。反応槽54は、一定容積を有する筐体であり、サンプルガス導入ポート、オゾン含有ガス導入ポート及び導出ポートを有している。サンプルガス導入ポートには、前述したように切替バルブで選択されたいずれか一方の並列経路からのガスが導かれるとともに、オゾン含有ガス導入ポートには、前記オゾン発生器53からのオゾン含有ガスが導かれる。それら各ガスは反応槽54内部で混合し、発光する。図示しない光検出器は、反応槽54内での発光強度を測定するものであり、この実施形態においては、光検出器として例えば光電子倍増管を用いている。なお、この実施形態では、前述したように、CLD式NO計50におけるオゾン発生器53に大気を除湿することなく導入することで、従来必要であった除湿器やドライヤを省略し、電力消費量の大幅削減とコンパクト化とを実現して車両搭載に適したものとしている。
【0035】
しかしてこの実施形態では、情報処理装置60が、各分析計30、40、50と、内燃機関Eから排出される排気ガスGの流量とから得られた測定データに所定の演算を施して、内燃機関Eの単位仕事量あたりの排気ガス中に含まれる各成分の質量を算出するようにしている。
【0036】
図2に示すように、情報処理装置60は、演算処理部61と、予め所定のデータを記録するためのメモリ62、および演算処理部61によって演算された結果が出力されるディスプレイ等の出力装置63を備えている。なお図2においては、演算処理部61からの指示信号が与えられることで、情報処理装置60内においてどのようなデータのやり取りや演算が施されているかを視覚的に表現するため、情報処理装置60の内部における処理工程の一部を記載している。また、この処理工程の詳細については、図3に示すフローチャートを用いて説明する。
【0037】
次に、本実施形態に係る排気ガス測定装置1を用いて、内燃機関Eからの排気ガスGを各分析計30、40、50において測定し、前記内燃機関の単位仕事量あたりに排出される排気ガス中の各成分の質量を算出し、出力する工程の概略を、図3を参照しつつ説明する。なお、本実施形態においては、適当な時間区域t〜tにおいて、内燃機関の仕事量の時系列的変化と、内燃機関より排出される排気ガス中に含まれる各成分の質量の時系列的変化を求めて、この時間区域における単位仕事量あたりの前記各成分の平均質量を求める場合の一例を示すものとする。
【0038】
まず、内燃機関Eから排出された排気ガスGが、メインポート10dを介して流路系10に流入する。流路系10に流入した排気ガスGは、分岐部101においてその流れが分岐され、主流路10a、第1の副流路10b、第2の副流路10cにそれぞれ流入する(S101)。
【0039】
このとき、内燃機関Eの排気管から排出された排気ガスGの総流量は、適宜設けたフローメータなどの流量測定手段(図示しない)によって時系列的に測定され、その時系列的変化が逐次、情報処理部60の演算処理部61に送信される(S102)。
【0040】
一方、各流路に流入した排気ガスGは、各分析計30、40、50において所定の成分の濃度が時系列的に測定され、その測定値が演算処理部61に送信される(S103)。詳細には、赤外線ガス分析計30および水素炎イオン化分析計40において、CO、CO2およびTHCの各成分の濃度が時系列的に測定され、CLD式NO計50においては、排気ガスGに含まれるNOの量(濃度)が時系列的に測定される。演算処理部61では、各分析計30、40、50に流れこむ排気ガスの時間のずれを考慮して、同一時期の排気ガスの濃度を取得するようにまず補正する。
【0041】
次に、演算処理部61は、前記排気ガスGの総流量と、前記成分濃度とを積算し、内燃機関Eから排出された排気ガスGに含まれる各成分の質量の時系列的変化を算出する(S104)。前記各成分の質量の時系列的変化は、時刻tにおける各成分の瞬時排出量として、以下のように表される。
【0042】
時間tにおけるCOの瞬時排出量[g/s]:COMASS(t)[g/s]、
時間tにおけるCOの瞬時排出量[g/s]:CO2MASS(t)[g/s]、
時間tにおけるTHCの瞬時排出量[g/s]:THCMASS(t)[g/s]
【0043】
次に、演算処理部61は、S103の工程で算出された成分CO、CO2およびTHCの時刻tにおける瞬時排出量(COMASS(t)[g/s]、CO2MASS(t)[g/s]、THCMASS(t)[g/s])を、以下の(数1)に示す演算式に代入することによって、時刻tにおける内燃機関Eの燃料消費率FuelCB(t)を求める(S201)。数1において、RCWFHCは排気ガスG中のHCの平均炭素質量割合を、RCWFHCは燃料の炭素質量割合を表しており、それらの値は、数2および3に示すように、炭素の原子量M(=12)、一酸化炭素の分子量MCO(=28)、ニ酸化炭素の分子量MCO2(=44)、燃料の水素炭素原子数比α(=1.85)、燃料の酸素炭素原子数比β(=0.00)、排気ガスG中のHCの平均水素炭素原子数比αEX(=1.85)を用いて求められる。
【0044】
【数1】

【0045】
【数2】

【0046】
【数3】

【0047】
そして、メモリ62に予め記憶された内燃機関Eの燃焼効率EffiEnergyと、S201で求めた内燃機関Eの燃料消費率FuelCB(t)とから、内燃機関Eの仕事量の時系列変化Work(t)[kW]を算出する(S202)。内燃機関Eの仕事量の時系列変化Work(t)を算出する式を、以下の数4に示す。この数4において、Calorifuel[kJ/g]は内燃機関Eで燃焼される燃料の単位質量あたりの既知の燃焼エネルギー[kJ/kg]を表している。
【0048】
【数4】

【0049】
そして、S104の工程において求めた排気ガスGに含まれる各成分の時刻tにおける質量(瞬時排出量)COMASS(t)[g/s]、CO2MASS(t)[g/s]、THCMASS(t)[g/s]を、S202の工程で求めた内燃機関Eの仕事量の時系列変化Work(t)で各々除算することによって、内燃機関Eが単位仕事量あたりに排出する排気ガスG中の各成分の質量を算出する(S105)。
【0050】
具体的に説明すると、例えば時刻tからtの間における、内燃機関Eが単位仕事量あたりに排出する排気ガスG中のCO成分の質量を算出する場合は、時刻tからtにおける内燃機関Eの仕事量Wt1−t2[kW]を数5に示す換算式より算出するとともに、同じく時刻tからtにおけるCOの排出量COMASS_t1−t2[g]を数6に示す換算式より算出し、COMASS_t1−t2をWt1−t2で除算する。これによって、時刻tからtまでの間に、内燃機関Eが単位仕事量あたりに排出するCOの排出量(質量)を求めることができる。
【0051】
【数5】

【0052】
【数6】

【0053】
そして、このようにして得られた排気ガスG中の各成分について、内燃機関Eが単位仕事量あたりに排出する排出量(質量)に関するデータが、出力装置63に出力される(S106)。
【0054】
このようにして求めた仕事量は、内燃機関のトルクおよび回転数を測定し、これらの測定データから算出した仕事量と、ほぼ整合していることが実験により確かめられている。図4に示すグラフは、横軸にトルクおよび回転数から求めた内燃機関の仕事量を、縦軸には排気ガスGに含まれるCOおよびCO,THCの濃度を用いて、内燃機関の燃料消費率FuelCBを求めた結果得られる内燃機関の仕事量を表している。このグラフから明らかなように、前述の実施形態において求められた内燃機関の仕事量は、測定した内燃機関の仕事量と極めて高い相関関係(相関係数=0.9971)にあり、精度よく算出された値であることがわかる。
【0055】
したがって、本発明においては、前記内燃機関の燃焼効率と、前記内燃機関の燃料消費率とから内燃機関の仕事量を算出するため、ECUが有しているトルクデータ等を用いることなく、前記内燃機関の単位仕事量あたりに排出される排気ガス中の各成分の質量を簡単に算出することができる。
【0056】
また、ECUからのデータを用いる必要がないため、車両等に搭載された内燃機関(エンジン)を測定する場合に限られず、内燃機関を単独に切り離した状態でも測定することができる。そのため、大型ディーゼル車のように、車両自体の寸法が極めて大きくシャシダイナモ等に搭載して走行中のエンジン排出ガスを測定することができない場合であっても、ディーゼルエンジンのみを取り外し、このディーゼルエンジン単独で単位仕事量あたりに排出する排気ガス中の各成分の質量を算出することもできるし、車両に搭載して実走行中に測定することも容易にできる。
【0057】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0058】
例えば、前記内燃機関の単位仕事量あたりに排出される排気ガス中の各成分の質量を、さらに応答性よく求める場合は、前記時間間隔t〜tをごく短い時間(例えば0.5秒)に設定すればよい。その場合、走行中の車両の内燃機関から排出される、単位仕事量あたりの前記各成分の質量をリアルタイムに求めることができる。
【0059】
また、前記時間区域t〜tを、内燃機関のピストンシリンダが駆動する、1ストロークの開始から終了までに対応する時間区域に定めるとともに、この時間区域t〜t間の間隔(=Δt)で、内燃機関Eが単位仕事量あたりに排出する排出量(質量)に関するデータを連続的に取得してもよい。この場合、内燃機関Eの脈動がする1ストローク毎について、発生する排気ガス中の各成分の質量と、仕事量とをそれぞれ求めることができるため、内燃機関の性能や特性を詳細に調べる上で有効なデータを取得することができる。
【0060】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本願発明の第1の実施形態である排気ガス測定装置の全体を概略的に示す概略図である。
【図2】図1に示す排気ガス測定装置に含まれる情報処理装置の内部構造を概略的に示すブロック図である。
【図3】図1に示す排気ガス測定装置を用いて、内燃機関から排出される排気ガスの単位仕事量あたりに排出される排気ガス中の各成分の質量を求める手順を示すフローチャートである。
【図4】内燃機関のトルクおよび回転数から求めた仕事量と、排気ガスに含まれるCOおよびCO,THCの濃度を用いて、内燃機関の燃料消費率を求めた結果得られる内燃機関の仕事量をとの相関関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0062】
1 ・・・排気ガス測定装置
10 ・・・流路系
10a ・・・主流路
10b ・・・第1の副流路
10c ・・・第2の副流路
30 ・・・赤外線ガス分析計(排気ガス濃度測定部)
40 ・・・水素炎イオン化分析計(排気ガス濃度測定部)
50 ・・・CLD式NO計(排気ガス濃度測定部)
60 ・・・情報処理装置
E ・・・内燃機関

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前記内燃機関から排出される排気ガス中の炭素化合物に係る成分の濃度を測定する排気ガス濃度測定部を備え、
測定した炭素化合物に係る成分の濃度と排気ガスの流量とから、前記炭素化合物に係る成分の排出量を算出し、その排出量から当該内燃機関の仕事量を算出することを特徴とする排気ガス測定装置。
【請求項2】
前記内燃機関の仕事量に基づいて、当該内燃機関が単位仕事量あたりに排出する排気ガスの質量または排気ガス中の所定成分の質量を算出する請求項1記載の排気ガス測定装置。
【請求項3】
前記炭素化合物に係る成分が、少なくともCO、COおよび炭化水素類である請求項1又は2記載の排気ガス測定装置。
【請求項4】
炭素化合物に係る成分の排出量から燃料消費量を算出し、その燃料消費量に、予め定められた当該燃料の燃焼エネルギと内燃機関の燃焼効率とをかけることにより、当該内燃機関の仕事量を算出する請求項1から3いずれかに記載の排気ガス測定装置。
【請求項5】
前記排気ガス中の炭素化合物に係る成分の濃度を、特定の時間区域において積算して求め、その積算した値から、前記時間区域内において前記内燃機関から排出される排気ガス中の炭素化合物に係る成分の排出量を算出する請求項1から4のいずれかに記載の排気ガス測定装置。
【請求項6】
前記時間区域が、排気ガスの流量が脈動する周期に応じて定められている請求項5に記載の排気ガス測定装置。
【請求項7】
内燃機関から排出される排気ガス中の炭素化合物に係る成分の排出量を時系列的に連続して測定し、その排出量のみから当該内燃機関の仕事量を算出することを特徴とする車載型排気ガス測定装置。
【請求項8】
前記内燃機関から排出される排気ガス中の炭素化合物に係る成分の濃度を測定し、その測定した成分の濃度と排気ガスの流量とから、前記炭素化合物に係る成分の排出量を算出し、その排出量から当該内燃機関の仕事量を算出することを特徴とする排気ガス測定方法。
【請求項9】
前記内燃機関の仕事量に基づいて、当該内燃機関の単位仕事量あたりの排気ガス排出質量または排気ガス中の所定成分の質量を算出する請求項8記載の排気ガス測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−284470(P2006−284470A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−107191(P2005−107191)
【出願日】平成17年4月4日(2005.4.4)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】