説明

排気浄化装置

【課題】貴金属の使用量を増加させることなく、触媒の脆化による活性低下を抑制することのできる排気浄化装置を提供する。
【解決手段】排気通路上に設けられ、排気を浄化するための触媒53と、この触媒53の周囲に設けられ吸湿性能を有する物質から構成された保持部材54とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気通路上に設けられる排気浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、排気通路上に設けられる排気浄化装置として、燃焼室より排出された排気を浄化するための三元触媒が知られている。この三元触媒は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)等の貴金属を担持したアルミナがコーティングされたものであり、排気に含まれる炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOX)等の主な有害物質は、三元触媒を通過することにより、炭化水素を水と二酸化炭素に、一酸化炭素を二酸化炭素に、窒素酸化物を窒素に、それぞれ酸化または還元される。ここで、内燃機関の燃焼時に発生し、排気に含まれる水は、内燃機関の運転時には、三元触媒が高温に保たれているため水蒸気(気体)となるが、内燃機関の停止時には、内燃機関が低温になるとともに三元触媒も低温となるため、前述した水蒸気が凝縮して水(液体)となる。
【0003】
ところで、排気には、炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物の他に副次的に含まれる二酸化硫黄や三酸化硫黄等の硫黄酸化物(SOX)も存在するが、これらの硫黄酸化物が前述した凝縮した水と反応すると、硫酸(H2SO4)が発生する。特に、実使用条件下においては、頻繁に内燃機関の運転/停止が繰り返され、三元触媒が低温かつ凝縮水が存在する状態となることが多いため、硫黄酸化物は容易に硫酸となる。
【0004】
この硫酸は、三元触媒に用いられているアルミナ等の酸化物を徐々に硫酸塩化し、脆化させるものであることが知られており、脆化された触媒は活性が低下することが問題となっている。そのため、一般的には、このような脆化を見越して触媒の貴金属の使用量を予め増やしているが、貴金属の使用量の増加によってコストが高くなるという問題がある。
【0005】
一方、このような貴金属の使用量を増やすことなく上述した脆化の問題を解消しようとするものとして、排気通路における触媒の上流に吸水部材を配置したものも考えられている(例えば、特許文献1または2を参照)。ところが、このようなものであると、吸水部材が排気通路を塞ぐように配置されているため、排気の流れを妨げるおそれがある。特に、冷間始動時には吸水部材が水分を吸収したままの状態にあるため、この吸水部材によって排気の流れが悪くなるだけでなく、触媒の暖機に時間を要し、一時的に浄化性能が低下したり、背圧が増加することによって燃費が悪化したりする等の懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−143940号公報
【特許文献2】特開2008−261263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、貴金属の使用量を増加させることなく、触媒の脆化による活性低下を抑制することのできる排気浄化装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以上のような課題を解決するために、次のような構成を採用したものである。すなわち、本発明に係る排気浄化装置は、排気通路上に設けられ、排気を浄化するための触媒と、この触媒の周囲に設けられ吸湿性能を有する物質から構成された保持部材とを備えたことを特徴とする。
【0009】
このようなものであれば、例えば内燃機関の停止後等に発生する凝縮水は、排気通路の壁面を伝って、触媒の周囲に配された保持部材により吸収される。そのため、触媒側に流れ込む水を従来よりも少なくすることができ、触媒の浄化性能を低下させる硫酸の発生を抑制することができる。したがって、従来のように触媒に用いられる貴金属の使用量を予め増加させておく必要がなくなり、低コストな排気浄化装置を提供することができる。また、内燃機関の始動後、排気により触媒を暖機しつつ、保持部材に吸収された水分も蒸発させることが可能となり、触媒内の水分を排気とともに排出できる。
【0010】
さらに、本発明は、保持部材が触媒の周囲に設けられているので、従来のような吸水部材を触媒の上流に配置した場合に生じ得る問題、すなわち、排気の流れが悪くなったり、触媒の暖機に時間を要し一時的に浄化性能が低下したり、背圧が増加することによって燃費が悪化したりする等の問題をも生じない。また、触媒を周囲からしっかりと保持することもできる。
【0011】
また、前記触媒が、少なくともその表面が疎水性能を有する物質によりコートされたものであれば、排気浄化性能低下を更に防止でき、触媒の貴金属使用量も低減することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、以上のような構成であるから、貴金属の使用量を増加させることなく、触媒の脆化による活性低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態の内燃機関の構成を示す図。
【図2】同実施形態の排気浄化装置の構成を示す図。
【図3】同実施形態の排気浄化装置を横断面で示す図。
【図4】同実施形態の排気浄化装置を縦断面で示す図。
【図5】同実施形態の排気浄化装置の横断面を拡大して示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0015】
図1に、一気筒の構成を概略的に示すこの実施形態における内燃機関100は、例えば自動車に搭載される火花点火式のものである。内燃機関100の吸気系1には、アクセルペダルの踏み込み量に応じて作動するスロットルバルブ11を設けており、スロットルバルブ11の下流にはサージタンク13を有する吸気マニホルド12を取り付けている。サージタンク13には吸気管圧力を検出するための圧力センサ71を配している。サージタンク13より下流の吸気系1には、吸気ポートに向けて燃料を噴射するインジェクタ3が取り付けてある。インジェクタ3の燃料噴射バルブは、後述する電子制御装置4により開閉を制御される。
【0016】
排気系5には、排気マニホルド51を取り付け、排気ガス浄化用の排気浄化装置52を装着している。排気浄化装置52は、図1〜図5に示すように、排気通路上に設けられており、より具体的には排気通路の一部をなす外管50の内側に取り付けられている。この排気浄化装置52は、排気を浄化するための触媒53と、この触媒53の周囲に設けられ吸湿性能を有する物質から構成された保持部材54とを備えてなる。
【0017】
触媒53は、図1〜図5に示すように、その表面が疎水性能を有する物質によりコートされたものであり、具体的には、担体基材55と、担体基材55の表面に形成された触媒コート層56と、触媒コート層56の表面に形成された疎水性コート層57とを備えたものである。担体基材55は、コーディエライトやメタル等から形成されたハニカム構造のものであり、従来のものと同様である。触媒コート層56は、アルミナやセリア等の多孔質酸化物よりなる担体に白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属を担持したものであり、従来のものと同様である。疎水性コート層57の材質としては、例えばゼオライトや窒化ケイ素等、触媒コート層で用いられるアルミナやセリア等に比べて疎水性が高く耐熱性の高いものであればどのようなものであってもよい。本実施形態においては、疎水性コート層57として、ゼオライトの一種であり、触媒コート層56との付着性に優れるとともに、疎水性が特に高いシリカライトを用いている。疎水性コート層57の厚さは、20μmより小さいと疎水効果が小さくなるとともに、80μmより大きいと触媒コート層56での浄化活性が低下するため、20μm〜80μmが好ましい。
【0018】
保持部材54は、図1〜図4に示すように、触媒53の周囲全体を包み持つように保持する筒状のものであり、外管50と触媒53との間に形成される隙間を埋めるように配されている。保持部材54の両端部は、排気通路内に露出している。すなわち、保持部材54の上流側の端部は、排気通路内における排気浄化装置52の上流側に露出しているとともに、保持部材54の下流側の端部は、排気通路内における排気浄化装置52の下流側に露出している。保持部材54は、厚み方向に弾性変形可能な素材により形成されたものであり、無機質の繊維を含んでいる。保持部材54は、例えばシリカゲル等の吸湿材によって表面処理を施されたものである。なお、この保持部材54の繊維は、表面処理工程に耐えられるとともに、排気浄化装置52の高い運転温度に耐えられるものであればどのようなものであってもよい。
【0019】
そして、排気浄化装置52の上流位置にフロント空燃比センサ58を、またその下流位置にはリアO2センサ59をそれぞれ配置している。フロント空燃比センサ58及びリアO2センサ59は、排気ガスに接触して反応することにより、排気ガス中の酸素濃度に応じた電圧信号を出力する。
【0020】
シリンダ2上部に形成される燃焼室の天井部には、吸気バルブ21、排気バルブ22及び点火プラグ23が配置される。
【0021】
電子制御装置4は、内燃機関100の運転を制御するもので、中央演算装置41、記憶装置42、入力インターフェース43、出力インターフェース44などを有するコンピュータシステムである。
【0022】
入力インターフェース43には、圧力センサ71から出力される吸気圧信号a、エンジン回転数を検出するための回転数センサ72から出力される回転数信号b、車速を検出するための車速センサ73から出力される車速信号c、スロットルバルブ11の開度を検出するためのスロットルセンサ74から出力されるスロットル開度信号d、冷却水の温度を検出するための水温センサ76から出力される水温信号f、フロント空燃比センサ58から出力される上流側空燃比信号g、リアO2センサ59から出力される下流側空燃比信号hなどが入力される。一方、出力インターフェース44からは、インジェクタ3に対して燃料噴射信号n、点火プラグ23に対して点火信号mなどが出力される。
【0023】
中央演算装置41は、記憶装置42にあらかじめ格納されているプログラムを実行し、運転に必要な各種情報を上記の各センサa、b、c、d、f、g、hから取得し、燃料噴射量や点火時期などを制御する。
【0024】
このような内燃機関100は、運転後に停止されると、内燃機関100の温度が低下することにより排気中の水蒸気が冷却され、排気通路上に凝縮水が発生する。特に、排気通路における排気浄化装置52の上流側で発生した水は、排気通路の壁を伝って排気浄化装置52へと流れ込む。その際、排気浄化装置52の保持部材54の端部が前記排気通路に露出しており、保持部材54が前記排気通路の壁に沿って配されているので、前記水は、排気浄化装置52の保持部材54に吸収される。
【0025】
また、排気浄化装置52の触媒53が配置されている箇所に水が流れ込んだ場合であっても、触媒53の表面の疎水性コート層57によって水がはじかれ、この水が触媒コート層56に吸着された硫黄酸化物と反応することなく排気浄化装置52の保持部材54側または排気浄化装置52の下流側へと排出される。
【0026】
以上説明したように、本実施形態の排気浄化装置52は、排気通路上に設けられ、排気を浄化するための触媒53と、この触媒53の周囲に設けられ吸湿性能を有する物質から構成された保持部材54とを備えているので、内燃機関100の停止後に発生する凝縮水は、排気通路の壁面を伝って、上流側の端部が排気通路内に露出している保持部材54により吸収される。そのため、触媒53側に流れ込む水を従来よりも少なくすることができ、触媒53の浄化性能を低下させる硫酸の発生を抑制することができる。したがって、従来のように触媒53に用いる貴金属の使用量を予め増加させておく必要がなくなり、低コストな排気浄化装置52を提供することができる。また、保持部材54の内周が触媒53に接触しているため、内燃機関100の始動後、排気により触媒53を暖機しつつ、保持部材54に吸収されていた水分も蒸発させることが可能となり、触媒53内の水分を排気とともに排出できる。
【0027】
さらに、本実施形態の排気浄化装置52は、保持部材54が触媒53の周囲に設けられているので、従来のような吸水部材54を触媒53の上流に配置した場合に生じ得る問題、すなわち、排気の流れが悪くなったり、触媒53の暖機に時間を要し一時的に浄化性能が低下したり、背圧が増加することによって燃費が悪化したりする等の問題も生じない。
【0028】
また、保持部材54が吸湿材によって表面処理されたものであり、このような表面処理を施していない場合に比べて繊維表面の摩擦係数が大きくなるため、触媒53をしっかりと保持することもできる。すなわち、保持部材54が表面処理を施されたものであるため、触媒53の保持性能が向上する。
【0029】
特に、保持部材54として弾性変形可能なマット状の素材を用いているので、外管50の内周と触媒53の外周との間を密接に埋めることができる。したがって、保持部材54は、触媒53の外管50への組み付けを容易にしたり、触媒53が熱で膨張し変形した際の当該触媒53と外管50との間の隙間の縮小に対応したりすることができる。
【0030】
また、前記触媒53が、その表面が疎水性能を有する物質によりコートされたものであるので、この疎水性コート層57の働きによって、水が触媒コート層56まで浸入することを防止または抑制できる。したがって、従来のものと比べて、触媒53の貴金属上における水と硫黄酸化物との反応を抑制できる、言い換えれば、触媒コート層56を形成するアルミナやセリア等の塩基性物質上に吸着した硫黄酸化物が水と反応して硫酸が生成されることを抑制できる。したがって、触媒53が硫酸塩化し脆化されることを防ぐことができる。
【0031】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0032】
保持部材は、触媒の周囲に設けられるものであればどのようなものであってもよく、上述したような連続的なものに限られず、円周方向及び/または長手方向に間欠的に配されるものであってもよい。
【0033】
触媒や保持部材の材質は、上述した実施形態のものに限られず種々変更可能である。
【0034】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、車両等に搭載される内燃機関の排気浄化装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0036】
53…触媒
54…保持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路上に設けられ、排気を浄化するための触媒と、この触媒の周囲に設けられ吸湿性能を有する物質から構成された保持部材とを備えたことを特徴とする排気浄化装置。
【請求項2】
前記触媒が、少なくともその表面が疎水性能を有する物質によりコートされたものである請求項1記載の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−108431(P2013−108431A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253702(P2011−253702)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】