説明

排水からの硝酸アンモニウムの回収方法

【課題】産業分野において発生する硝酸、アンモニア又は硝酸アンモニウムを低濃度で含む排水から、高濃度の硝酸アンモニウム水溶液又は常温で固形の硝酸アンモニウムとして硝酸アンモニウムを回収する方法を提供する。
【解決手段】硝酸、アンモニア及び硝酸アンモニウムから選ばれた含窒素成分を低濃度で含有する排水を、必要によりアンモニア又は硝酸で中和するとともに、濃縮して濃度40〜65重量%の硝酸アンモニウム水溶液(「中濃度硝安液」)とし、中濃度硝安液のpHが5〜8の範囲内でないときはこれに硝酸またはアンモニアを添加してpHを5〜8の範囲内に調整したのち、さらに濃縮を行って濃度70〜90重量%の硝酸アンモニウム水溶液(「高濃度硝安液」)とする排水からの硝酸アンモニウムの回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水からの硝酸アンモニウムの回収方法に関する。詳しくは本発明は、化学関連産業分野において発生する硝酸、アンモニア又は硝酸アンモニウムを低濃度で含む排水から、高濃度の硝酸アンモニウム水溶液又は常温で固形の硝酸アンモニウムとして硝酸アンモニウムを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学関連産業分野において硝酸、アンモニア又は硝酸アンモニウムを低濃度で含む廃液が発生する。これらは、通常、硝酸アンモニウムを主体とし、場合により硝酸分が過剰な廃液として、或いはアンモニア分が過剰な廃液として発生する。その他に、硝酸を単独で含む廃液、及びアンモニアを単独で含む廃液も発生する。これらの廃液をそのまま外部に排出することは、関連水域の富栄養化につながり、また、資源の損失ともなる。従ってこれらの廃液から資源的に価値ある成分を回収しようと試みることは当然であるが、工業的に見て有効な方法は見出されていないのが現状である。従って通常、これらの廃液は、廃液のpHにもよるが、アンモニア分が過剰である場合は硫酸などで中和処理し、また、硝酸分が過剰な場合はアルカリで中和処理したのちに、焼却処分されるなどの方法で、産業廃棄物として処分されている。
【0003】
上記の資源的に価値ある成分の回収方法として、硝酸アンモニウムを含む廃水に酸化鉛を加えてアンモニアを遊離するとともに、硝酸イオンを塩基性硝酸鉛として回収する方法が提案されている。(特許文献1)この方法は、アンモニアと硝酸イオンを同時に回収する方法ではあるが、酸化鉛を使用する点で環境上、問題がないとは言えず、また、廃液中の資源的に価値ある成分の全てを有効利用し得る方法であるとも言えない。
【特許文献1】特開平8−259222号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、産業廃棄物についてのリサイクル促進の情勢および環境への貢献という観点から、従来、単に産業廃棄物として処理されていた硝酸、アンモニア又は硝酸アンモニウムを低濃度で含む廃液から資源的に価値ある成分を有効に回収する方法を見出すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の2段階濃縮処理を行なうことによって、上記低濃度の硝酸、アンモニア又は硝酸アンモニウムを、高濃度の硝酸アンモニウム水溶液又は固形の硝酸アンモニウムとして回収し、再生利用することができることを見出して本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち、本発明の要旨は、
(1)硝酸、アンモニア及び硝酸アンモニウムからなる群から選ばれた含窒素成分を低濃度で含有する排水を、必要によりアンモニア又は硝酸で中和するとともに、濃縮して濃度40〜65重量%の硝酸アンモニウム水溶液(以下「中濃度硝安液」という)とし、中濃度硝安液のpHが5〜8の範囲内でないときはこれに硝酸またはアンモニアを添加してpHを5〜8の範囲内に調整したのち、さらに濃縮を行って濃度70〜90重量%の硝酸アンモニウム水溶液(以下「高濃度硝安液」という)とすることを特徴とする排水からの硝酸アンモニウムの回収方法、
(2)高濃度硝安液のpHを90℃において3〜6となるように調整する、上記(1)に記載の硝酸アンモニウムの回収方法、並びに、
(3)高濃度硝安液をさらに脱水処理して常温で固形である硝酸アンモニウムとする、上記(1)又は(2)に記載の硝酸アンモニウムの回収方法、
に存する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の方法により、従来、単に産業廃棄物として処分されていた、硝酸、アンモニア又は硝酸アンモニウムを低濃度で含む廃液から、高濃度の硝酸アンモニウム水溶液又は固形の硝酸アンモニウムを回収することができ、これらを各種産業原料として有効に再生利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の方法を詳細に説明する。
本発明は、硝酸、アンモニア及び硝酸アンモニウムからなる群から選ばれた含窒素成分を低濃度で含有する排水から、硝酸アンモニウムを各種産業原料として有効に再生利用することができる形で回収する方法である。
上記の硝酸、アンモニア及び硝酸アンモニウムからなる群から選ばれた含窒素成分を低濃度で含有する排水は、化学関連産業分野、特に触媒製造工程、金属酸化物製造工程などから排水として排出されるものである。かかる排水は、通常、硝酸アンモニウムを主体とし、場合により硝酸分が過剰な廃液として、或いはアンモニア分が過剰な廃液として発生する。その他に、硝酸を単独で含む廃液、及びアンモニアを単独で含む廃液も発生する。これら各種の廃液に硝酸分又はアンモニア分が過剰に含まれているときには、これらの廃液を、硝酸またはアンモニアで硝酸アンモニウムが生成するように中和して、実質的に硝酸アンモニウムの水溶液とする。硝酸アンモニウム水溶液となった場合、硝酸アンモニウムの濃度にもよるが、pHが3〜8であることが好ましい。
【0008】
化学関連産業分野の各種製造工程から排出され、上記の中和反応によって生成された硝酸アンモニウム水溶液は、通常、低濃度であり、硝酸アンモニウムの濃度は通常、1〜20重量%、多くの場合、10重量%以下である。これら低濃度の硝酸アンモニウム水溶液は、そのままでは産業原料として再生利用することが困難である。
【0009】
従って、これらの低濃度の硝酸アンモニウム水溶液を再生利用するためには、これらを何らかの方法で濃縮して高濃度の硝酸アンモニウム水溶液とする必要がある。濃縮には、通常、加熱蒸発による濃縮器が使用されるが、この濃縮段階には技術的な問題点がある。即ち、硝酸アンモニウム水溶液を加熱蒸発によって濃縮する場合、アンモニア分の揮散により、一般に原液のpHよりも濃縮液のpHは低くなる。例えば、硝酸アンモニウム濃度が10重量%、pHが7の低濃度の硝酸アンモニウム水溶液を1段階で70重量%以上にまで濃縮した場合、最終的なpHは3未満に低下する。高温で高濃度の硝酸アンモニウム水溶液を取り扱う場合、設備にステンレス製の配管を使用するが、pHが3未満の高温で高濃度の硝酸アンモニウム水溶液はステンレスをも腐食するという問題がある。これを避けるためには、原液のpHをより高く設定する必要があるが、このpH調整を揮発性のアンモニアのみで行うためには、多量のアンモニアを使用する必要があるのでアンモニア分の損失となり、他方で、非揮発性のアルカリで行う場合には、事実上、硝酸分の損失となる。従って、工業的に見た場合、単に加熱蒸発で濃縮することによっては、硝酸アンモニウムの有効な再生利用を達成することはできない。
【0010】
本発明方法においては、これらの低濃度の硝酸アンモニウム水溶液を特定の2段階工程で濃縮することによって、硝酸アンモニウム水溶液の高濃度化を達成する。濃縮を行うための装置としては、通常、加熱蒸発による濃縮器を使用する。
即ち本発明方法においては、上記低濃度の硝酸アンモニウム水溶液を、第1段階の濃縮によって濃度40〜65重量%の硝酸アンモニウム水溶液(「中濃度硝安液」)とし、上記中濃度硝安液のpHが5〜8の範囲内でないときはこれに硝酸またはアンモニアを添加してpHを5〜8の範囲内に調整したのち、さらに第2段階の濃縮を行って濃度70〜90重量%の硝酸アンモニウム水溶液(「高濃度硝安液」)とする。
上記中濃度硝安液のpHの調整は、通常、上記第1段階の濃縮の後で、常温でアンモニアを添加し、pHを5〜8に調整することによって行う。このpHの調整後の中濃度硝安液について第2段階の濃縮を行って濃度70〜90重量%の硝酸アンモニウム水溶液、即ち高濃度硝安液とするのであるが、上記中濃度硝安液のpHの調整は、第2段階の濃縮後の高濃度硝安液のpHが3以上になるように設定する。
上記の通り、第2段階の濃縮前の中濃度硝安液は、硝酸アンモニウム濃度が40〜65重量%、pHが5〜8に調整されている。上記pHを8より大きくした場合は、第2段階の濃縮中にアンモニアの分離量が大きくなって、蒸発させた後の凝縮水のpHが高くなる傾向があり、凝縮水の処分のためのpH調整がさらに必要となる。また、硝酸アンモニウムの濃度が40重量%より低い場合には、第2段階の濃縮前のpHを高めに設定しても、第2段階の濃縮後の高濃度硝安液のpHが3未満になり、他方、硝酸アンモニウムの濃度が65重量%より高い場合には、常温で硝酸アンモニウムが結晶化するので、上記のpH調整自体が困難となる。
【0011】
上記の通り、第2段階の濃縮後の高濃度硝安液のpHは3以上とするが、好ましくは90℃におけるpHが3〜6となるようにする。これらの高濃度硝安液のpHの調整は、第2段階の濃縮前の中濃度硝安液のpHの設定によって、或いは第2段階の濃縮後の高濃度硝安液への硝酸またはアンモニアの添加によって、行うことができる。pHを3〜6に調整することによって、通常、硝酸アンモニウムの設備に使用されるステンレスの配管についての腐食その他のトラブルを防止することができる。
【0012】
上記のようにして回収された高濃度硝安液は、各種産業原料として有効に再生利用することができるが、用途によってさらに固体の硝酸アンモニウムが必要な場合には、上記高濃度硝安液をさらに脱水処理して常温で固形である硝酸アンモニウムとする。脱水処理には、通常、晶析器、乾燥器等の装置を使用する。
【0013】
なお、本発明方法の出発材料である、上記の化学関連産業分野、例えば触媒製造工程、金属酸化物製造工程などから排水として排出される硝酸、アンモニア及び硝酸アンモニウムからなる群から選ばれた含窒素成分を低濃度で含有する排水は、金属等の不純物を含有していることがある。金属の種類にもよるが、回収された硝酸アンモニウムの最終的な使用目的に不必要なものであれば、これを除去して使用することもでき、通常、除去するのが好ましい。金属等の不純物の除去は、濾過、吸着、イオン交換等の通常の除去手段により行うことができる。具体的には除去する対象物によって使い分けるが、カートリッジフィルター、イオン交換膜、キレート樹脂などを使用する方法が挙げられる。
【0014】
本発明方法によって、高濃度の硝酸アンモニウム水溶液又は常温で固形の硝酸アンモニウムとして回収された硝酸アンモニウムは、各種産業原料、例えば爆薬の原料、肥料の原料として有効に再生利用することができる。上記爆薬としては、含水爆薬やアンホ爆薬などが挙げられる。
【実施例】
【0015】
以下に本発明の具体的態様を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0016】
[実施例1]
硝酸アンモニウム濃度7重量%、pH8の、硝酸アンモニウムを主体とし、アンモニア分を過剰に含有する排水に硝酸を加えてpHを6に調整したのち、加熱蒸発により第1段階の濃縮を行って、硝酸アンモニウム濃度55重量%の硝酸アンモニウム水溶液(「中濃度硝安液」)を得た。pHは2.5であった。この硝酸アンモニウム水溶液にアンモニアを添加してpHを6に調整したのち、加熱蒸発により第2段階の濃縮を行って、硝酸アンモニウム濃度86重量%の硝酸アンモニウム水溶液(「高濃度硝安液」)を得た。pHは4.5であった。
本実施例で得られた硝酸アンモニウム濃度86重量%の硝酸アンモニウム水溶液のpHは4.5であり、高温時でもステンレスの腐食がない高濃度の硝酸アンモニウム水溶液が得られた。
【0017】
[比較例1]
実施例1で出発材料として使用した硝酸アンモニウム濃度7重量%、pH8の、硝酸アンモニウムを主体とし、アンモニア分を過剰に含有する排水につき、加熱蒸発により1段階の濃縮を行って、硝酸アンモニウム濃度86重量%の硝酸アンモニウム水溶液を得た。pHは1.8であった。
本比較例で得られた硝酸アンモニウム濃度86重量%の硝酸アンモニウム水溶液のpHは1.8であり、高温時にはステンレスの腐食が発生するものであって、再生利用することができないものであった。
【0018】
[使用例1]
実施例1で得られた硝酸アンモニウム濃度86重量%の硝酸アンモニウム水溶液86重量部を90℃に加温し、これに硝酸ナトリウム5重量部を加えて酸化剤水溶液とした。この酸化剤水溶液を、予め90℃で溶解混合されたマイクロクリスタリンワックス4重量部、ソルビタンモノオレート1重量部の混合物に加え、十分撹拌混合して油中水滴型エマルションを得た。これに微小中空粒子としてガラスマイクロバルーン4重量部を加えて撹拌混合し、油中水滴型エマルション爆薬を得た。
【0019】
[試験例1]
使用例1で製造された油中水滴型エマルション爆薬について、その性能の指標として爆速を、また貯蔵安定性の指標として最小起爆薬量をそれぞれ測定した。爆速は、工業火薬協会規格ES−41(3)に基づき、直径30mmの薬包で測定した。また、最小起爆薬量は、工業火薬協会規格ES−32に基づき、起爆できる弱雷管の号数を求めた。それらの結果を表1(表中最小起爆感度の欄の数値は工業用雷管の号数を示す)に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
表1の結果から明らかなように、回収した硝酸アンモニウムを使用した爆薬の性能は、爆薬としての品質を保証し得るものであり、回収した硝酸アンモニウムが問題なく再生利用できることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝酸、アンモニア及び硝酸アンモニウムからなる群から選ばれた含窒素成分を低濃度で含有する排水を、必要によりアンモニア又は硝酸で中和するとともに、濃縮して濃度40〜65重量%の硝酸アンモニウム水溶液(以下「中濃度硝安液」という)とし、中濃度硝安液のpHが5〜8の範囲内でないときはこれに硝酸またはアンモニアを添加してpHを5〜8の範囲内に調整したのち、さらに濃縮を行って濃度70〜90重量%の硝酸アンモニウム水溶液(以下「高濃度硝安液」という)とすることを特徴とする排水からの硝酸アンモニウムの回収方法。
【請求項2】
高濃度硝安液のpHを90℃において3〜6となるように調整する、請求項1に記載の硝酸アンモニウムの回収方法。
【請求項3】
高濃度硝安液をさらに脱水処理して常温で固形である硝酸アンモニウムとする、請求項1又は2に記載の硝酸アンモニウムの回収方法。

【公開番号】特開2010−120815(P2010−120815A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−296327(P2008−296327)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(308010365)カヤク・ジャパン株式会社 (10)
【Fターム(参考)】