説明

排水口用蓋体

【課題】排水口の内側を消毒する紫外線を照射する紫外線LEDを備えた遮蔽体と、前記紫外線LEDの駆動電力を供給する電池を収納可能な収納部と、を着脱可能に結合し個別に交換可能な衛生器具の排水口用蓋体を提供する。
【解決手段】排水が流入する衛生器具の排水口に被せる排水口用蓋体20であり、前記排水口の内側を消毒する紫外線を照射する紫外線LED1を一表面側に備え前記紫外線を遮蔽可能な遮蔽体2と、該遮蔽体2と着脱可能に遮蔽体2の他表面側に結合され紫外線LED1の駆動電力を供給する電池3を収納可能な収納部4と、を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌の消毒手段として紫外線LEDを備えた衛生器具の排水口用蓋体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、ウイルス、細菌などの病原体の感染による感染症の流行や抵抗力の弱い高齢者の増加にともなう感染症の感染対策が社会問題視されている。このような背景から、身近な住空間における衛生環境を改善することは、居住者の健康管理をより高度なものとし、さらには、住空間の維持管理を簡便にできるので、より安心で快適な暮らしを実現することに寄与する。
【0003】
住空間の中で、台所、洗面所や風呂などの水周りは、衛生環境が悪化しやすい。特に、水周りとなる衛生器具の排水部では、たとえば、台所においては食材汚れなど、洗面所や風呂などにおいては皮脂や石鹸垢などが付着し、それらを栄養分としてカビや細菌などが繁殖する。また、排水部には、細菌が自己の乾燥を防ぎ、増殖する際に出すバイオフィルム(ヌメリ)が付着しやすい。バイオフィルムは、内部に種々の雑菌が存在し、雑菌の繁殖などにより悪臭の発生源にもなる。さらには、バイオフィルムは、病原性微生物の温床にもなる。したがって、衛生器具の排水部において、病原性微生物だけでなく、バイオフィルムを産生する細菌などを殺菌・消毒することは、住空間における衛生環境をより好ましいものとすることができる。
【0004】
この種の細菌の殺菌・消毒手法として、従来から、加熱殺菌、塩素などの薬剤を用いた薬剤殺菌や紫外線照射による紫外線消毒などが知られている。このうち紫外線消毒は、紫外線を細菌に照射させ、細菌の遺伝子情報を司る核酸(DNAやRNA)に作用して光化学反応を引き起こさせる。光化学反応は、細菌の核酸の一部に障害を生じさせ、遺伝子からの転写制御が滞ることから新陳代謝異常により細菌が不活化するとされている。そのため、薬剤を用いた細菌の薬剤殺菌と異なり、不要な薬剤残留や耐性菌をつくらない。また、紫外線消毒に用いられる紫外線照射装置は、加熱殺菌に用いられる加熱殺菌装置のような冷却システムが不要で構造が簡易であり、比較的安価に製造できるなどの理由により、広範囲に利用されている。
【0005】
通常、紫外線照射装置は、紫外線を照射する光源として、低圧水銀ランプ(主となる輝線スペクトル:253.7nm)が用いられている。低圧水銀ランプは、細菌の核酸における吸収スペクトルの吸収帯に合わせて消毒効果の高い紫外線を効率よく発光することができる。
【0006】
ところで、近年、紫外線を照射する光源として、近紫外線や遠紫外線など紫外域に発光可能な紫外線発光ダイオード(以下、紫外線LEDという)が盛んに研究・開発されている。紫外線LEDの研究・開発は、目覚ましく、光出力の向上にともないその一部が既に実用化されている。このような紫外線LEDは、低圧水銀ランプのように紫外線を効率よく透過する石英管中に水銀を封入する必要がないので、環境に与える負荷が少なく破損などの問題も生じにくい。また、紫外線LEDは、低圧水銀ランプのように高い電圧を必要とすることもない。そのため、紫外線LEDは、小型、軽量且つ低消費電力である利点を生かし、これまで低圧水銀ランプでの設置が困難な小スペースの場所へも利用することができる。
【0007】
たとえば、紫外線LEDを備えた抗菌装置の例として、図2に示すように、人の足跡の形状に設計した踏面部32が荷重板31の一表面に設けられた体重計30が提案されている(特許文献1)。なお、図2(b)は、図2(a)の体重計30の踏面部32におけるA−A断面を示しており、図2(c)は、図2(b)の踏面部32における要部拡大断面図を示している。
【0008】
踏面部32は、平板状のガラスで構成されており、人の足が乗せ置かれる踏面部32の前記ガラスの前記一表面側には、二酸化チタンの薄膜からなる光触媒33がコーティングされている。荷重板31の一表面に設けられた凹部31a上には、複数の支持脚部32b,32bで支持された踏面部32が被せられている。また、荷重板31の凹部31aには、乾電池などで駆動されて、踏面部32の他表面側へ紫外線を照射可能な紫外線LED1が設けられている。
【0009】
なお、踏面部32の前記一表面には、滑り止めの突起32aが設けられており、踏面部32の前記他表面には、紫外線LED1の可視光成分を散乱させて踏面部32の美観性を高めるための凹凸32cが形成されている。上述の体重計30では、紫外線LED1から踏面部32の前記他表面側へ前記紫外線を照射することにより、前記紫外線が前記ガラスを透過して踏面部32の前記一表面側に設けられた光触媒33を活性化する。光触媒33は、活性化された光触媒33の酸化力により、光触媒33に接触する細菌やカビなどの微生物を死滅させ、その増殖を阻害することができる、とされている。
【0010】
また、上述した衛生器具は、たとえば、キッチンのシンクや浴室の洗い場などにおいて、一般に排水が流入する排水口を備え、前記排水を排出する排水管と接続される排水部を有している。そこで、前記衛生器具の前記排水部における細菌を消毒するために、前記排水が流入する前記衛生器具の前記排水口に被せる排水口用蓋体に紫外線LEDを備えることも考えられる。
【0011】
このような紫外線LEDを備えた排水口用蓋体として、本発明者が提案する参考例を図3に示す。図3に示した排水口用蓋体20’は、前記排水口の内側を消毒する紫外線を照射する複数個の紫外線LED1を一表面側に備え、紫外線LED1から照射された前記紫外線が遮蔽可能な遮蔽体2’を有している。遮蔽体2’は、遮蔽体2’の他表面側に紫外線LED1の駆動電力を供給する電池3を収納可能なパッケージ形状に形成させている。このような、排水口用蓋体20’は、前記排水口に被せ、該排水口の内側に前記紫外線を照射することで、前記排水口の内側における細菌などを消毒することができる。
【0012】
なお、図3に示した例では、遮蔽体2’の前記他表面側には、使用者に紫外線LED1の交換などを促すことを表示する表示部8および電池3を収納するための電池ボックス12が内部に配置できるように防水可能なパッケージ2d’の構造に形成している。また、遮蔽体2’における前記他表面側は、パッケージ2d’の内部に収納された電池3が交換可能なように防水可能な電池収納蓋13を設けている。さらに、遮蔽体2’のパッケージ2d’の内部には、紫外線LED1および表示部8を制御する制御回路部7が設けられている。
【0013】
遮蔽体2’の前記一表面側には、紫外線LED1および紫外線LED1が実装される紫外線LED用実装基板14を収納し、遮蔽体カバー15で覆うことによって防水可能に封止したパッケージ2c’の構造に形成している。遮蔽体カバー15には、遮蔽体カバー15の厚み方向に設けられた貫通孔15aにキャンパッケージタイプの紫外線LED1を挿入している。表示部8は、配線17,17を介して制御回路部7と電気的に接続している。また、紫外線LED1は、紫外線LED用実装基板14から配線16,16および遮蔽体2’を貫通する電気経路16a,16aを介して制御回路部7と電気的に接続している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平9−941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、紫外線LED1は、半導体発光素子であり原理的に低圧水銀ランプのように電極消耗による不灯がない。そのため、紫外線LED1は、低圧水銀ランプと比較して寿命が長い。また、紫外線LED1は、パルス点灯による駆動制御も比較的容易であり、さらに長時間にわたって高出力に点灯させることもできる。
【0016】
しかしながら、紫外線LED1の特長を活かすため、紫外線LED1を電池3によって、駆動させようとすると、紫外線LED1の駆動電力を供給する電池3の寿命は、紫外線LED1の点灯駆動時間や発光出力にもよるが紫外線LED1の寿命と比べて短い。そのため、排水口用蓋体20’は、紫外線LED1に電力を供給する電池3だけを交換する必要がある場合がある。
【0017】
また、紫外線LED1は、使用にともなう劣化により、前記紫外線の強度が徐々に低下する傾向がある。そのため、排水口用蓋体20’は、紫外線LED1から前記紫外線が照射されていても、時間の経過とともに紫外線LED1から照射される前記紫外線の強度が低くなり、細菌などに対して期待する消毒効果を十分得ることができない場合がある。この場合、排水口用蓋体20’の紫外線LED1は、交換する必要がある。
【0018】
このような場合、前記排水口の形状、構造や設置場所によっては、排水口用蓋体20’を前記排水口から取り外し電池3などを容易に交換できない場合もある。
【0019】
さらに、既存の排水口に被せられた蓋と、紫外線LED1を備えた排水口用蓋体20’と、を交換して細菌の消毒を新たに行う場合は、前記排水口には種々の形状や大きさがあり、全ての前記排水口に対応する排水口用蓋体20’を製造するのは製造コストや在庫管理コストなどの点で合理的ではない。
【0020】
本発明は上記事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、紫外線LEDを備えた遮蔽体と、電池を収納可能な収納部と、を着脱可能に結合し、個別に交換可能な衛生器具の排水口用蓋体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
請求項1の発明は、排水が流入する衛生器具の排水口に被せる排水口用蓋体であって、前記排水口の内側を消毒する紫外線を照射する紫外線LEDを一表面側に備え前記紫外線を遮蔽可能な遮蔽体と、該遮蔽体と着脱可能に前記遮蔽体の他表面側に結合され前記紫外線LEDの駆動電力を供給する電池を収納可能な収納部と、を有することを特徴とする。
【0022】
この発明によれば、紫外線LEDを備えた遮蔽体と、前記紫外線LEDを駆動させる電池を収納可能な収納部と、を着脱可能な排水口用蓋体としていることにより、前記紫外線LEDを備えた前記遮蔽体、あるいは前記電池が収納された前記収納部のいずれか一方に不具合などが生じた場合においても、一方だけを交換することが可能となる。
【0023】
また、前記排水口用蓋体本体を排水口から取り出すことが困難な場所であっても、前記遮蔽体を前記排水口に設置したまま前記収納部のみを切り離すことも可能となる。さらに、既存の種々の前記排水口における形状や大きさに対応させた複数種類の前記遮蔽体と、複数種類の前記遮蔽体と着脱可能な前記遮蔽体に共通する前記収納部と、を組み合わせることにより、前記収納部の種類を少なくさせることができる。これにより、製造コストや在庫管理コストなどを低減可能な前記排水口用蓋体とすることもできる。
【0024】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記遮蔽体と、前記収納部と、を結合する結合部は、防水処理を施してなることを特徴とする。
【0025】
この発明によれば、前記排水口用蓋体にかかる排水によって、遮蔽体と収納部との結合部から内部に浸入した水分で、前記遮蔽体の前記紫外線LEDや前記収納部の前記電池に故障などが生じることを防ぐことが可能となる。
【0026】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に発明において、前記電池は、二次電池であることを特徴とする。
【0027】
この発明によれば、前記排水口用蓋体に用いられる前記電池を二次電池とすることで、前記電池を繰り返し充電して使用することができ、細菌の消毒にかかる前記排水口用蓋体の維持費用を低減することが可能となる。
【0028】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の発明において、前記電池における電池残量の低下を検知する検知部と、前記遮蔽体の他表面側または前記収納部の前記遮蔽体と結合する一表面と対向する他表面側に前記検知部からの情報に基づいて前記電池残量を表示する表示部と、を有することを特徴とする。
【0029】
この発明によれば、前記排水口用蓋体に収納された前記電池の電池残量が低下した場合、使用者に前記排水口用蓋体に設けられた表示部によって知らせ、使用者に前記電池の交換や前記電池の充電を促すことが可能となる。
【発明の効果】
【0030】
請求項1の発明では、排水口用蓋体が紫外線LEDを備えた遮蔽体と、電池を収納可能な収納部と、を着脱可能に結合していることにより、前記遮蔽体と前記収納部とを個別に交換可能な衛生器具の排水口用蓋体を提供することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施形態の衛生器具の排水口に被せる排水口用蓋体を示す模式断面図である。
【図2】従来の紫外線LEDを備えた抗菌装置を有する体重計を示し、(a)は、体重計の概略平面図であり、(b)は、体重計の踏面部におけるA−A断面であり、(c)は、踏面部における要部拡大断面図である。
【図3】参考のための衛生器具の排水口に被せる排水口用蓋体を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本実施形態の衛生器具の排水口に被せる排水口用蓋体について、図1を用いて説明する。
【0033】
本実施形態では、排水が流入する排水口に被せる排水口用蓋体20が、前記排水口の内側を消毒する紫外線を照射する複数個の紫外線LED1を一表面側に備え前記紫外線を遮蔽可能な遮蔽体2と、該遮蔽体2と着脱可能に遮蔽体2の他表面側に結合され紫外線LED1の駆動電力を供給する電池3を収納可能な収納部4と、を有している。
【0034】
ここで、排水口用蓋体20は、キッチンのシンクにおける前記排水口に被せることができるように、たとえば、平面視略円形からなっている。
【0035】
また、収納部4における遮蔽体2と結合する一表面と対向する収納部4の他表面側は、内部が防水可能なパッケージ4dの構造に形成している。パッケージ4dの内部は、電池3を収納するための電池ボックス12、電池ボックス12からの電力の供給をうけ紫外線LED1の駆動制御を行う制御回路部7を収納している。同様に、パッケージ4dの内部には、制御回路部7と配線17,17を介して電気的に接続され、使用者に電池3の電池残量を表示する表示部(たとえば、液晶表示装置など)8を収納している。また、収納部4における前記他表面側には、パッケージ4dの内部に収納された電池3が交換可能なように防水可能な電池収納蓋13を設けている。
【0036】
また、遮蔽体2の前記一表面側には、複数個の紫外線LED1が実装された紫外線LED用実装基板14を備えている。紫外線LED用実装基板14には、キャンタイプパッケージで形成した紫外線LED1が平面視において略同心円状に実装している。遮蔽体2は、前記一表面側に紫外線LED用実装基板14を収納し遮蔽体カバー15で覆うことによって防水可能に封止したパッケージ2cの構造に形成している。遮蔽体カバー15には、複数個の貫通孔15aが形成されている。遮蔽体カバー15の貫通孔15aには、複数個の紫外線LED1がそれぞれ防水可能に挿入してあり、紫外線LED1から前記紫外線が照射可能なように配置してある。
【0037】
排水口用蓋体20には、収納部4の電池3と、遮蔽体2の紫外線LED1と、を電気的に接続させるために接続端子9,9,10,10をそれぞれ備えている。収納部4における遮蔽体2と対向する前記一表面側には、正極および負極を構成する一対の雄型の接続端子9,9が設けられている。収納部4側の前記雄型の接続端子9,9は、制御回路部7と電気経路17a,17aを介して電気的に接続されている。また、遮蔽体2の前記他表面側には、正極および負極を構成する一対の雌型の接続端子10,10が設けられている。遮蔽体2側の前記雌型の接続端子10,10は、紫外線LED用実装基板14と配線16,16および電気経路16a,16aを介して電気的に接続されている。
収納部4側の前記雄型の接続端子9,9と、遮蔽体2側の前記雌型の接続端子10,10と、を接触させることによって、紫外線LED1が備えられた遮蔽体2と、電池3が収納された収納部4と、は電気的に接続される。
【0038】
また、遮蔽体2の前記他表面には、遮蔽体2の外周部に突起部2aが設けられている。収納部4における遮蔽体2と対向する前記一表面側には、遮蔽体2の突起部2aと嵌合できる窪み部4aが形成されている。排水口用蓋体20は、遮蔽体2の突起部2aと、収納部4の窪み部4aと、を嵌め合わせることにより、遮蔽体2の前記雌型の接続端子10,10と収納部4の前記雄型の接続端子9,9の位置合わせも行われることになる。
【0039】
また、本実施形態の排水口用蓋体20は、遮蔽体2および収納部4の接続端子9,9,10,10を外部の排水などから防水するため、収納部4における遮蔽体2と対向する前記一表面に設けられた窪み部4aよりも外周部に、平面視形状がリング形状の窪み部4bを設けている。排水口用蓋体20は、収納部4における前記リング形状の窪み部4bに防水用ゴムリング5を配置させ、遮蔽体2と収納部4とを押し圧した状態で固定することで防水処理している。
【0040】
遮蔽体2と収納部4との固定は、収納部4の外周端に形成された雄螺子4cと遮蔽体2の外周端に収納部4の外周と同径に形成させた雄螺子2bの位置を合わせ、雌螺子6aとなるリング形状の固定具6を回転させながら収納部4の雄螺子4cおよび遮蔽体2の雄螺子2bに押し込むことで行うことができる。
【0041】
このように構成された排水口用蓋体20は、使用者が排水口用蓋体20の表示部8に表示した電池3の電池残量などにより、細菌の消毒が適切に行われているかを判断することができる。また、使用者は、排水口用蓋体20の表示部8の表示にしたがって適切な時期に、電池3の交換、充電や紫外線LED1を備えた遮蔽体2自体の交換などを判断することもできる。
【0042】
以下、本実施形態の排水口用蓋体20における各構成について、詳述する。
【0043】
排水口用蓋体20における遮蔽体2の前記一表面に備えられる紫外線LED1は、前記排水口の内側に前記紫外線を照射させ、前記排水口の内側における病原性微生物やバイオフィルムを産生する細菌などを消毒可能なものである。
【0044】
このような紫外線LED1は、前記排水口の内側における細菌を消毒するために照射する前記紫外線の発光波長が380nm以下のものを好適に用いることができる。紫外線LED1が発光する発光波長は、細菌をより効率よく消毒するために300nm以下であることが好ましい。消毒する菌の種類(大きさや形状など)および前記排水口の内側の状態などによって左右されるものの、紫外線LED1は、特に250nmから280nmの発光波長を発光することがより好ましい。
【0045】
通常、細菌などのDNAの光吸収は、波長260nm付近に吸収ピークを備えている。そのため、細菌に250nmから280nm付近の波長をもった紫外線を照射することで、細菌のDNAに光化学反応を効率的に生じさせ、細菌の消毒効果を高めることができると考えられる。
【0046】
このような紫外線LED1は、AlN、AlGaN、AlInGaNなどの窒化物半導体材料を発光層に用いた半導体発光素子やダイヤモンド薄膜を発光層に用いた半導体発光素子を使用することができる。また、紫外線LED1は、前記発光層の組成比で発光波長を調整することもできる。紫外線LED1の前記発光層に窒化物半導体材料を用いた場合は、Alの含有量を増やすにつれ、発光波長を短くすることができる。他方、細菌の消毒作用における分光特性は、約260nm付近において消毒作用が強く約260nmをピークとして細菌の消毒作用が低下する傾向にある。そのため、紫外線LED1が照射する前記紫外線の主となる発光波長を260nmに設定すればよい。
【0047】
しかしながら、前記発光層に窒化物半導体材料を用いた紫外線LED1では、前記発光層にAlの含有量が増えるにつれ、前記発光層の結晶性が悪くなる傾向にある。そのため、短波長側の紫外線LED1は、より長波長側で発光する紫外線LED1と比較して紫外線LED1から放出される前記紫外線の強度が低下する傾向にある。
【0048】
紫外線LED1から照射される前記紫外線の強度を高め消毒作用を強めるためには、260nm付近に発光波長のある紫外線LED1を複数個直列接続させてもよいし、並列接続や直並列接続させて出力を向上させてもよい。また、紫外線LED1は、パルス駆動が比較的容易なため、ダイナミック点灯させることでスタティック点灯した場合と比較し、瞬時値として出力を大きくすることができる。また、紫外線LED1は、パルス駆動することにより消費電力を低減させることもできる。そのため、紫外線LED1の駆動制御を調整することで細菌の消毒を効率的に高めてもよい。
【0049】
このような紫外線LED1は、金属製のキャンパッケージやセラミックパッケージ内に前記半導体発光素子を実装させたものを用いてもよいし、ベアチップの前記半導体発光素子を用いてもよい。
【0050】
また、紫外線LED1は、前記排水口の内側の大きさ、形状などに応じて、紫外線LED1の個数や設置箇所を適宜設定すればよい。さらに、複数個の紫外線LED1を設けた場合、必ずしも同種の紫外線LED1のみで構成する必要もなく、たとえば、紫外線LED1ごとに照射する前記紫外線の発光波長や光出力を変えてもよい。
【0051】
なお、紫外線LED1から放出される前記紫外線の発光スペクトルは、低圧水銀ランプなどから放出される水銀の輝線スペクトルよりもスペクトル幅が広い。そのため、紫外線LED1が照射する前記紫外線は、細菌が吸収する紫外線量を多くさせることができる。また、紫外線LED1から照射される発光波長がたとえば、近紫外域にある355nmから375nm程度の比較的長波長域にあり、細菌に対する消毒作用が低い発光波長であっても、紫外線LED1から照射される前記紫外線を凸レンズなどにより集光させることで消毒効果を高めることができる場合もある。さらに、紫外線LED1から照射される近紫外線をTiO材料やZnO材料などからなる粉体の光触媒の活性化に利用して、該光触媒の酸化作用によって前記光触媒に接した細菌を殺菌することも可能である。この場合、前記光触媒は、排水口用蓋体20の紫外線LED1から前記紫外線が照射される前記排水口の内側となる前記排水部の内壁面に前記光触媒を予め設けておけばよい。
【0052】
また、深紫外域が発光可能なInAlGaNなどを前記発光層に用いた紫外線LED1を用いることで、前記光触媒を用いた酸化作用による殺菌ではなく、細菌の光化学反応により直接的に消毒することもできる。紫外線LED1から照射される前記紫外線の発光波長を250nmから280nmの間にすることで、排水口用蓋体20は、前記排水口の内側の前記内壁面に前記光触媒を設けることなく直接的に細菌などを効率よく消毒することができる。これによって、排水口用蓋体20は、紫外線LED1からの前記紫外線を照射することにより、前記排水口の内部空間に飛散している細菌などに対しても消毒を行うことができる。また、排水口用蓋体20は、前記排水口の内側の前記内壁面に前記光触媒を用いることなく、既存の排水口に被せる蓋から排水口用蓋体20に取り替えるだけで細菌の消毒を行うこともできる。
【0053】
本実施形態の衛生器具の排水口用蓋体20における遮蔽体2は、遮蔽体2の前記一表面側に紫外線LED1を備え、紫外線LED1から前記排水口の内側に照射した前記紫外線が前記排水口から外部に漏れ出ることを抑制可能なものである。
【0054】
したがって、遮蔽体2は、紫外線LED1を前記一表面側に備え、該紫外線LED1を保護するために、防水可能なパッケージ2cの構造に形成することが好ましい。本実施形態の遮蔽体2では、前記一表面側に紫外線LED1を配置させ、遮蔽体カバー15の貫通孔15aに紫外線LED1を挿入してパッケージ2cを構成している。なお、遮蔽体2の前記一表面側は、流入した排水などと紫外線LED1が直接接しないように前記紫外線を透過する保護板(たとえば、石英ガラスや紫外線透過アクリル樹脂など)で密閉保護してもよい。
【0055】
このような、遮蔽体2は、紫外線LED1が照射した前記紫外線を反射あるいは吸収する材料で形成することができる。遮蔽体2の材料としては、たとえば、鉄の亜鉛メッキ、ステンレス、アルミニウムやFRP(Fiber Reinforced Plastics)材料などを用いることができる。
【0056】
なお、遮蔽体2は、前記排水口の内側と対向する前記一表面側や遮蔽体2の前記一表面側に設けられた遮蔽体カバー15の表面に凹凸を形成してもよい。遮蔽体2や遮蔽体カバー15の前記凹凸は、紫外線LED1が照射され前記排水口の内側の前記内壁面などで反射された前記紫外線を再び反射・散乱させて有効利用することもできる。さらに、遮蔽体2の前記一表面側に前記光触媒として機能するTiOやZnOの微粒子を膜状に形成させてもよい。
【0057】
また、遮蔽体2の前記一表面側に複数個の紫外線LED1を設ける場合、紫外線LED1は、必ずしも全ての紫外線LED1からの前記紫外線を同一方向に照射させる必要はない。前記排水口の内側を効率よく消毒するために、各紫外線LED1の方向を適宜変えてもよいし、一箇所に集光させるように照射させてもよい。
【0058】
このような遮蔽体2は、浴室の洗い場の排水溝、キッチンのシンク、洗面所の排水穴、ディスポーザー(生ごみ粉砕装置)の本体、キッチン、浴室やトイレの前記排水管からの悪臭を防ぐトラップ部など使用される衛生器具の蓋として用いることができる。そのため、遮蔽体2は、前記衛生器具の種類、前記排水口の形状や大きさによって種々の形状や大きさとすることができる。遮蔽体2は、たとえば、表面排水を目的に浴室の洗い場などの排水溝における目皿やグレーチング、ベル型トラップにおける椀状の蓋などとして用いてもよい。本実施形態の排水口用蓋体20では、遮蔽体2が、前記排水が流入する前記衛生器具の前記排水口の周部で保持できるフランジ部2eを備えている。
【0059】
なお、排水口用蓋体20は、前記排水口を覆うために該排水口よりも遮蔽体2を大きくして前記排水口に保持させることもできるし、収納部4を遮蔽体2よりも大きくして、収納部4によって前記排水口に保持させてもよい。
【0060】
次に、本実施形態の衛生器具の排水口用蓋体20に用いられる電池3としては、紫外線LED1を駆動可能なものであれば、アルカリ電池、ニッケル水素電池、マンガン電池やリチウムイオン電池など種々のものを用いることができる。また、電池3の形状は、ボタン形、角形、パック形や円筒形状など電池3を収納する収納部4の形状、大きさに応じて適宜決定すればよい。また、電池3の電池容量や数は、電池3の種類、紫外線LED1の数などに応じて適宜決定すればよい。また、電池3を収納部4に収納させるためには、必ずしも電池ボックス12を用いる必要はない。
【0061】
電池3に二次電池を用いた場合は、同一の電池3を充電することで繰り返し使用することができる。そのため、電池3に二次電池を用いた排水口用蓋体20は、前記排水口の内側の細菌を消毒するための排水口用蓋体20の維持費用を低減することができる。また、前記衛生器具の排水口用蓋体20に用いられる電池3は、遮蔽体2と着脱可能に遮蔽体2の前記他表面側に結合され紫外線LED1の駆動電力を供給する収納部4に収納できればよく、必ずしも電池3自体を取り出せる構造とする必要はない。
【0062】
したがって、収納部4のパッケージ4dの内部に電池3として二次電池を収納したまま、該二次電池を充電させることもできる。たとえば、排水口用蓋体20は、電池3の電池残量が少なくなったときに、収納部4の表示部8に前記電池残量を表示させる。これに基づいて、使用者は、排水口用蓋体20の前記リング状の固定具6を外し、排水口用蓋体20の遮蔽体2と収納部4とを分離させる。使用者は、遮蔽体2から分離した前記二次電池からなる電池3を収納したままの収納部4における前記雄型の接続端子9,9を用いて、充電器と電気的に接続させ前記二次電池からなる電池3を充電することでもできる。また、前記二次電池からなる電池3の充電のためには、前記二次電池からなる電池3と前記充電器とを電源コードなどを介して有線で商用電源などと電気的に接続させるものほか、誘導コイルを用いて無線で電気的に接続させることもできる。
【0063】
本実施形態の衛生器具の排水口用蓋体20における収納部4は、紫外線LED1の駆動電力を供給する電池3を収納可能なものであって、紫外線LED1を備えた遮蔽体2と、分離可能に結合し個別に交換可能なものである。
【0064】
収納部4は、遮蔽体2と同様の材料で形成させてもよいし、別の材質で形成させてもよい。たとえば、遮蔽体2は、紫外線LED1から前記排水口の内側に照射した前記紫外線を内部で閉じ込めて有効利用するため、紫外線LED1から照射した前記紫外線に対して反射性のある金属材料で形成する。これに対して、収納部4は、遮蔽体2とは異なる材料として比較的簡単に成形できるプラスチック材料で形成させることにより、排水口用蓋体20全体のコストを低減させることもできる。また、収納部4は、無機銀系抗菌剤を配合したプラスチック材料で形成し、抗菌性を発現させてもよい。なお、収納部4は、パッケージ4dの内部に収納された電池3が交換可能なように防水可能な電池収納蓋13を必ずしも設ける必要はない。したがって、収納部4は、電池収納蓋13を設けることなく防水性を向上させるために密閉構造としてもよい。
【0065】
次に、本実施形態の排水口用蓋体20における前記結合部の防水処理は、遮蔽体2と、収納部4と、を結合する前記結合部から前記排水などの水分の浸入が防止することができるものであればよく、防水用ゴムリング5だけでなく、各種樹脂材料を用いたパッキンなどで構成することができる。なお、前記結合部は、接続端子9,9,10,10などが配置された遮蔽体2と収納部4とで構成される空間を密閉できるどのような部位であってもよい。
【0066】
本実施形態の排水口用蓋体20においては、収納部4に紫外線LED1が前記排水口の内側へ前記紫外線を照射するように紫外線LED1の点灯を駆動制御する制御回路部7を備えている。制御回路部7は、電池3からの電力が制御回路部7を介して紫外線LED1に供給できるように接続している。
【0067】
また、本実施形態の排水口用蓋体20の制御回路部7は、電池3における電池残量の低下を検知できるように電池3と電気的に接続させた検知部(図示せず)を備えている。さらに、制御回路部7は、前記検知部からの情報に基づいて、遮蔽体2の前記他表面側または収納部4の遮蔽体2と結合する前記一表面と対向する前記他表面側に設けられた表示部8で電池3の前記電池残量を表示できるように制御してもよい。前記検知部は、電池3が紫外線LED1へ供給する電圧もしくは電流を常時検知しもよいし、前記制御回路部7にタイマ回路を備え、所定の期間ごとに前記検知部で前記電圧もしくは前記電流を検知してもよい。また、前記検知部の構成によっては、紫外線LED1の劣化を検知させることもできる。
【0068】
たとえば、制御回路部7は、検知している電池3の電圧や電流と、予め設定した所定値と、を比較する。制御回路部7は、電池3の電圧や電流が予め設定した所定値以下になった場合、電池3の電力供給能力が低下し前記電池残量が少なくなったと判断し、表示部8の液晶装置に表示させるように駆動制御する。あるいは、表示部8の可視光発光体(たとえば、緑色光や赤色光が発光可能な可視光LED)を点灯させるように駆動制御する。
【0069】
表示部8に緑色光と赤色光がそれぞれ発光可能な可視光LEDを各1個づつ用いた場合、制御回路部7は、たとえば、紫外線LED1が適正な点灯時には常時緑色光が発光可能な可視光LEDだけを点灯させておき、電池3の検出値が予め設定した所定値以下になった場合に赤色光を発光する可視光LEDだけの点灯に変えればよい。また、表示部8に赤色光が発光可能な可視光LEDだけを用いた場合、制御回路部7は、たとえば、紫外線LED1が適正な点灯時には常時赤色光に点灯させておき、電池3の検出値が予め設定した所定値以下になった場合に赤色光の点滅表示に変えればよい。これにより排水口用蓋体20は、表示部8の表示が常時点灯から点滅表示に切り替わることで、使用者への注意喚起を促すとともに、電池3の消費電力を抑制することもできる。使用者は、表示部8の表示にしたがい、たとえば、電池収納蓋13を開けて電池3の充電や交換を行えばよい。
【0070】
ここで、大腸菌を消毒するためには、たとえば、波長253.7nmの紫外線を紫外線照射量(被照射面での紫外線照度と紫外線照射時間との積)が6.6mW・s/cmとなるように照射すればよいことが知られている。したがって、細菌の種類や前記排水口の内部の状態によって種々異なるが、紫外線LED1が細菌を消毒するためには、紫外線LED1から発光波長が254nm付近となる深紫外の前記紫外線を上述の紫外線照射量で照射すればよい。
【0071】
そのため、排水口用蓋体20の制御回路部7は、紫外線LED1から前記排水口の内側に照射した前記紫外線の前記紫外線照射量が所定の細菌を消毒できるように紫外線LED1の出力および駆動時間を適宜制御すればよい。
【0072】
また、制御回路部7は、紫外線LED1の点灯を行う点灯回路部を内蔵し、別途好適に設けた光検出器によって検出された検出値に基づいて、細菌の消毒に必要な紫外線照射量が一定になるように紫外線LED1の点灯駆動をフィードバック制御可能に構成してもよい。紫外線LED1は、制御回路部7によって、定電圧駆動時における電流量の増減、パルス点灯駆動時における点灯時間の増減や点灯間隔の増減などによってフィードバック制御することができる。排水口用蓋体20は、制御回路部7が紫外線LED1をフィードバック制御させ、所定の消毒作用を維持させることで衛生環境をより好ましいものとすることができる。このような、制御回路部7は、マイクロコンピュータなどを用いて適宜構成することができる。
【0073】
次に、本実施形態の衛生器具の排水口用蓋体20に設けられた表示部8は、電池3の電池残量が低下した場合、使用者に表示部8によって前記電池残量の低下を知らせることが可能なものである。このような、表示部8が表示する情報としては、電池3の電池残量に加えて、たとえば、電池3の交換、紫外線LED1の適正な点灯駆動、紫外線LED1の点灯、紫外線LED1の劣化、紫外線LED1の故障、紫外線LED1の交換などのエラーモード表示などが挙げられる。表示部8としては、可視光LED、有機EL(Organic Electro Luminescence)、無機EL(InorganicElectro Luminescence)や液晶装置などを用いることができる。表示部8として可視光発光体を用いた例としては、可視光LED、有機EL、無機ELやバックライト付液晶装置などが挙げられる。
【0074】
こうして構成された本実施形態の衛生器具の排水口用蓋体20は、紫外線LED1を備えた遮蔽体2と、紫外線LED1の駆動電力を供給する電池3を収納可能な収納部4と、を分離可能に結合し個別に交換可能することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 紫外線LED
2 遮蔽体
3 電池
4 収納部
8 表示部
20 排水口用蓋体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水が流入する衛生器具の排水口に被せる排水口用蓋体であって、前記排水口の内側を消毒する紫外線を照射する紫外線LEDを一表面側に備え前記紫外線を遮蔽可能な遮蔽体と、該遮蔽体と着脱可能に前記遮蔽体の他表面側に結合され前記紫外線LEDの駆動電力を供給する電池を収納可能な収納部と、を有することを特徴とする排水口用蓋体。
【請求項2】
前記遮蔽体と、前記収納部と、を結合する結合部は、防水処理を施してなることを特徴とする請求項1に記載の排水口用蓋体。
【請求項3】
前記電池は、二次電池であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の排水口用蓋体。
【請求項4】
前記電池における電池残量の低下を検知する検知部と、前記遮蔽体の他表面側または前記収納部の前記遮蔽体と結合する一表面と対向する他表面側に前記検知部からの情報に基づいて前記電池残量を表示する表示部と、を有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の排水口用蓋体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−275748(P2010−275748A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128095(P2009−128095)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】