説明

排湿外壁構造

【課題】外壁の全部または少なくとも一部に設けることで、屋内の高い相対湿度が低くなるように自然的にコントロールできる排湿外壁構造の提供。
【解決手段】内面が実質的に内気と接触し、外面が実質的に外気と接触する単一構造体からなり、当該単一構造体は透湿性を有している。さらに上記単一構造体は、微細な細孔による多孔質体であり、その多孔質体は珪藻土を主原料とする場合であるか、稚内層珪質頁岩を主原料とする場合とが有る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋内の相対湿度を外壁のみでコントロールでき、湿気を屋外に排湿するためのエネルギー消費設備を不要にした排湿外壁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
冬期の締め切った屋内では、湿気が高くなり、結露現象やカビの発生により不衛生な生活環境になりやすい。
そこで、従来から内装材に調湿機能を有する壁材を用いることが提案されている。
しかし、従来の調湿壁材は、屋内の湿気が高いときに屋内空気中の水分を吸湿し、屋内の湿気が低いときに屋内空気中へ放湿することをメカニズムとしているために屋内の湿気を屋外に排湿する機能を有していない。
【0003】
また、従来から透湿性を有する壁構造も提案されている。
例えば、特開2007−191935号公報には、壁内結露を解消するための壁構造を開示する。
しかし、同公報に開示する壁構造は、発泡ウレタンの外側にラスモルタル材、外壁仕上材を配置し、内側に石膏プラスター、内装仕上材を配置した複数の壁材を重ね合わせたもので、屋内の湿気を屋外に充分に排湿できるものではない。
【0004】
特許第3429243号公報には、グラスウールの壁材の外側の外壁材に調湿材を塗布又は吹付け施工し、屋内の仕上材に調湿材を用いた壁構造を開示するが、この壁構造も多くの壁材を重ね合せたものでグラスウールそのものには排湿機能を期待することはできない。
【0005】
【特許文献1】特開2007−191935号公報
【特許文献2】特許第3429243号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、外壁の全部または少なくとも一部に設けることで、屋内の高い相対湿度が低くなるように自然的にコントロールできる排湿外壁構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、屋内外の水蒸気分圧差に着目した場合に、例えば、冬季において室温が20℃では、相対湿度60%のときの水蒸気分圧は約1.4kPaであり、相対湿度が80%のときの水蒸気分圧は約1.9kPaである。
これに対して屋外の外気温が5℃であると、仮に相対湿度が室内よりも高い90%であっても、そのときの屋外の水蒸気分圧は約0.8kPaであり、屋内よりもかなり低い値である。
【0008】
即ち、分圧の法則により水蒸気分圧の高い方から低い方に移動する働きを積極的に利用すれば特別な機械的設備を用いることなく、屋内の湿気を屋外に排湿できることに着目し本発明に至った。
【0009】
本発明に係る外壁構造は、内面が実質的に内気と接触し、外面が実質的に外気と接触する単一構造体からなり、当該単一構造体は透湿性を有していることを特徴とする。
ここで単一構造体としたのは、複数の壁材を重ね合せることなく、製作、施工したことをいい、必要に応じて枠組してもよい。
また、実質的に内気、外気と接触するとは、例えば、本発明に係る外壁の外側に所定の隙間を設けて公知のサイディング仕上げをしてもよく、外壁の室内側に湿気の通過を防げない内装仕上げをしてもよいことを意味する。
即ち、実質的に内気及び外気と接触している状態の全てが含まれる。
【0010】
本発明における単一構造体は、調湿性も兼ね備えた微細な細孔による多孔質体が好ましく、多孔質体は珪藻土に由来する原材料を主原料とするのがよく、珪質頁岩、そのなかでも、特に稚内層珪質頁岩を主原料とするとよい。
この稚内層珪質頁岩は、北海道の主に天北地方及び宗谷地方に分布している堆積岩であり、珪藻プランクトンの遺骸が堆積して出来た珪藻土が、地圧と地熱による地質的変成を受けて岩石化して出来たページ状岩石の珪質頁岩である。
主成分はオパールCTである珪素成分の他、鉄分やアルミナ等の金属元素等により構成され、同時に堆積中の層内にはスメクタイト系・雲母系などの粘土鉱物も含有する。
この稚内層珪質頁岩は珪藻土に比べて、珪藻が変質したサブミクロンの微細な細孔による針状が集合した球状(マリモ状)の微粒で構成されており、その細孔の容量が多いため、一般的な珪藻土より、3倍以上の吸湿、放湿機能を発揮するといわれている。
その調湿機能については特許2652593・特許3375927にも記載されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、透湿性を有する単一構造体を単壁として外壁に用いたことにより、屋内温度が屋外温度よりも高い場合に分圧の法則により、屋内の高い相対湿度を低い一定の湿度に自然的にコントロールすることができる。
よって、エネルギー消費に頼ることなく排湿できる。
また、本発明に係る壁構造は、住宅用のみならず、収蔵庫のように内部の湿度を機械的設備を用いることなく一定レベルにコントロールしたい構造物にも適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の内容を実験例に基づいて以下説明する。
図8に示したような人工気象室を用いて実験した。
人工気象室は1室3020×1985×2100mmの2室(A室,B室)からなる恒温恒湿室である。
2室間には850×1800mmの開口部があり、この部分に断熱材と本発明に係る排湿外壁を設置する。
【0013】
測定対象に用いた外壁は主原料を稚内層珪質頁岩とする珪藻塗り壁材1である。
壁材1の製作方法は稚内層珪質頁岩を細かくした塗り材と水を3:2の割合で攪拌し、型枠に流し込み一週間養生させて製作した。
その後300×400mmに切り出した壁材を枠にはめ込み、コーキング剤で固定・断湿処理をした。
これを箱質量が測定できるよう軽量なプラスチック製の箱に蓋をする形ではめ、アルミテープで固定し、室内環境をこの箱内で再現する実験箱10とした。
この実験箱に側面に直径20mmの穴を開け、気象室の室内側設定室の温度制御とは別途に湿度を制御することを可能にした。
実験箱の仕様を図9の表に示す。
人工太陽照明灯15は既製品にランプシェードへの改良を施し、日射量を上げた。
測定対象への日射量分布を図10に示す。
なお、日射量の単位はW/mで示した。
【0014】
2室ある人工気象室のうちB室を室外設定、A室を室内設定として温湿度制御した。
両室間に設けられている開口部には断熱材2をはめ込み、床上750mmの地点に測定する厚さの壁材1がはめ込まれた実験箱10を設置する。
なお、実験箱10は台12に重量計11を置き、その上に載置した。
実験箱の重量を測定しながら箱を室温、湿度にて12時間以上放置する。
壁材1からの水分の出入りがなくなった(壁材1の重量の変動がなくなった)ことを確認したのち、実験条件の設定温湿度で気象室の室内外設定室を運転させ、2時間放置する。
以上の作業を養生とした。
気象室の運転を始めて1時間56分後に室内設定側A室に入室し、実験開始の設定条件湿度になるよう実験箱内に一定量の水をスプレーにより噴霧し加湿を行なう。
冬季実験の場合、与える水分量は約5g前後であった。
この水噴霧後(気象室運転開始から2時間後)から実験を開始する。
日射照射条件では3時間照射し続け、非照射では照射せずそのままで3時間測定する。
気象室運転から5時間後、実験を終了する。
A室の測定点13及びB室の測定点14は室の中心、高1.1mである。
吸放湿量は実験開始時点での実験箱10の重量を基準として、その増減量とした。
【0015】
実験開始の条件は、A室の室温を20℃に設定し、実験開始時の実験箱内の相対湿度を100%RHにした。
また、B室は室温5℃、相対湿度70%RHに設定した。
実験結果を図1〜図6のグラフに示し、図1〜図3は人工太陽照明灯を消灯した日射なしを想定し、図4〜図6は点灯し日射ありを想定した。
グラフ中、Tは実験に用いた壁材1の厚みを示し、左側の目もりは実験箱の重量変化から得られた吸放湿量変化と測定温度を示す。
右側の目もりは相対湿度を示す。
また、棒グラフで示した(a)は、5分毎に測定した吸放湿量を10分単位にて表示した。
グラフ中に示した内壁表面温度(c)は、実験に供した壁材1の実験箱内側の表面温度を示し、外壁表面温度(d)は壁材1のB室側の表面温度を示す。
また、外気温度(e)、外気相対湿度(g)は測定点14での値である。
図4に示すように、T=10mm、日射ありの実験箱内相対湿度(f)の変化は10分後に減少に転じ、3時間後には100%RH近くから76%RHまで24%RH減少した。
絶対湿度では1g/kgDAの水分が箱外へ移動した。
これに対して図1に示すように、T=10mm、日射なし時は45分後に100%RH近くから3時間後に64%RHとなった。
よって実質的には2時間15分で36%RH減少した。
反応は鈍いが、反応した後の効果は高かった。また絶対湿度では4.27g/kgDA減少した。
図2及び図5に示すようにT=30mmの場合も、T=10mmと同様の傾向が見られた。
T=30mm、日射ありは100%RHから74%RHまで低下し、26%RHの減少量であった。
絶対湿度減少量は1.51g/kgDAである。
日射なし時の相対湿度変化は40分後に低下し始め、3時間毎に61%RHとなり、本実験のどの組み合わせよりも大きな低下を示した。
絶対湿度では65分後に反応し始め、その後の115分間で約4.9g/kgDAが放出された。
図3及び図6に示すように、T=50mmは日射の有無に関係なく非常に反応が鈍く、3時間という時間内では特に良い効果が得られなかった。
吸放湿傾向では放湿をし続けているが、相対湿度は5%RH減少した一方で、絶対湿度は増加し始め、1.29g/kgDA増加した。
これは壁材1のもつ水分が他の厚みの壁材より多いため、本実験で設定した養生では抜けきれていなかったことが原因なのではないかと思われる。
日射なしでは、相対湿度の減少傾向が見られ始めたのが90分を経過してからであった。
絶対湿度では非常に緩やかに10分後から低下しているが、75分を過ぎたころから反応よく低下した。
相対湿度は最終的には75%RHまで減少し、日射ありのT=30mmに相当した。
全体を通して日射なしは相対湿度変化の反応は日射ありよりも遅いが、反応後は日射ありよりも速やかに低下した。
【0016】
相対湿度低下量を日射条件と厚さ別に図7に示す。
図を見て分かるように日射なしの方が低下量は多く、日射ありの場合の約1.5倍以上ある。
T=10mmでは約1.7倍、T=30mmでは約1.5倍、T=50mmでは傾向が強く、約4.5倍である。
相対湿度でいうと13〜19%RHの差がみられた。
日射がある方が壁材を乾燥させ、効果があると思われたが日射なしの方が約1.5倍以上の相対湿度低減効果があることが明らかとなった。
本実験結果から、床面積30m、外壁T=30mmで試算すると外壁面積の約6%程度を本発明に係る壁材にすれば、相対湿度コントロールが可能である。
例えば、住宅の外壁に本発明に係る排湿外壁構造を適用する例を図11に模式的に示す。
本発明に係る壁材1の屋外側には、外気接触空間28を確保しつつ、防水透湿シート27等を配置し、その外側に通気層21を設け、サイディング22仕上げをする。
本発明に係る壁材1以外の部分は断熱層25、その外側に構造材、内側に内装材26等を配置してもよい。
また、壁材1の排湿機能を選択使用できるように屋内側に遮湿戸23を設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】壁材の厚みT=10mm、日射なしの条件での相対湿度変化を示す。
【図2】壁材の厚みT=30mm、日射なしの条件での相対湿度変化を示す。
【図3】壁材の厚みT=50mm、日射なしの条件での相対湿度変化を示す。
【図4】壁材の厚みT=10mm、日射ありの条件での相対湿度変化を示す。
【図5】壁材の厚みT=30mm、日射ありの条件での相対湿度変化を示す。
【図6】壁材の厚みT=50mm、日射ありの条件での相対湿度変化を示す。
【図7】日射のあり、なしでの相対湿度変化の比較を示す。
【図8】人工気象室の構造を示す。
【図9】実験箱の仕様を示す。
【図10】日射量分布を示す。
【図11】本発明に係る排湿外壁構造の適用例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面が実質的に内気と接触し、外面が実質的に外気と接触する単一構造体からなり、当該単一構造体は透湿性を有していることを特徴とする外壁構造。
【請求項2】
単一構造体は、微細な細孔による多孔質体であることを特徴とする請求項1記載の外壁構造。
【請求項3】
多孔質体は、珪藻土に由来する原材料を主原料とするものであることを特徴とする請求項2記載の外壁構造。
【請求項4】
多孔質体は、稚内層珪質頁岩を主原料とするものであることを特徴とする請求項2記載の外壁構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図11】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−19054(P2010−19054A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−183159(P2008−183159)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 「平成19年度 工学設計III 公開発表審査会 予稿集」,発行日:平成20年2月25日,発行者:金沢工業大学 石川県石川郡野々市町扇が丘7番1号 「平成19年度 工学設計III 公開発表審査会」,開催者:学校法人金沢工業大学,開催日:平成20年2月28日
【出願人】(593165487)学校法人金沢工業大学 (202)
【Fターム(参考)】