説明

排煙システム

【課題】壁近傍での煙降下を抑制し、火災時における在館者の避難安全性を向上させることができる排煙システムを提供することを目的とする。
【解決手段】火災時に室内に発生する煙Sを屋外に排出する排煙システムであって、室の天井Cの外縁に沿って配設された環状排煙口1と、環状排煙口1に連通する排煙流通路3,4と、排煙流通路3,4内に流入した煙Sを屋外に強制排出する排煙ファン5と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災時に室内に発生する煙を室外に排出する排煙システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物の室内における排煙システムとして、自然排煙方式の排煙システムと機械排煙方式の排煙システムとがある。
従来の自然排煙方式の排煙システムは、屋外に連通する排煙口が室内の天井や壁に設けられ、この排煙口から室内に発生した煙を屋外に排出するシステムである。自然排煙方式の排煙システムでは、煙が排出し易いように排煙口が屋外側の壁に設けられていることが好ましいが、この場合、風の影響を受け易くなり、高層構造物に適さない。
【0003】
一方、従来の機械排煙方式の排煙システムとしては、例えば下記特許文献1に示されているような、天井チャンバー式の排煙システムが提案されている。この天井チャンバー式の排煙システムは、室内の天井に、その天井裏の天井チャンバーに連通する複数の排煙口が設けられ、これら複数の排煙口から天井チャンバー内に流入した煙を排煙ファンで屋外に強制排煙するシステムである。上記した複数の排煙口は天井全体に均等に配設されており、室内全体で略均一な排煙が行われる。
【特許文献1】特開2007−24469号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、火災時に発生した煙が壁近傍まで流れた後に降下し、在館者の避難の妨げになる場合がある。詳しく説明すると、例えば居室面積が大きな事務所ビル等の建物では、出火位置から離れたところに壁があることが多いため、火災時に発生した煙が、天井を伝って出火位置から壁に向かって長い距離を流れる場合がある。この場合、煙は、その厚みを増していきながら壁の方へ向かって進み、壁に衝突した後で下降し、その後、壁から離れる方向へ向かって進むことがあり、壁近傍では煙の降下が増す傾向がある。
【0005】
しかしながら、上記した従来の機械排煙方式の排煙システムでは、室内全体で略均一な排煙を行うので、上述したような壁近傍での煙降下を十分に抑制することができないという問題がある。
【0006】
本発明は、上記した従来の問題が考慮されたものであり、壁近傍での煙降下を抑制し、火災時における在館者の避難安全性を向上させることができる排煙システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る排煙システムは、火災時に室内に発生する煙を屋外に排出する排煙システムであって、前記室の天井の外縁に沿って配設された環状排煙口と、該環状排煙口に連通する排煙流通路と、該排煙流通路内に流入した煙を屋外に強制排出する排煙ファンと、を備えることを特徴としている。
【0008】
このような特徴により、火災時に、出火位置から天井を伝って壁近傍まで流れ着いた煙が、環状排煙口から排煙流通路内に流入し、排煙ファンによって屋外に強制排出される。
【0009】
また、本発明に係る排煙システムは、前記天井のうちの前記環状排煙口の内側位置に配設された内側排煙口が備えられ、前記環状排煙口が設けられた天井端部における単位面積当たりの有効排煙量が、前記内側排煙口が設けられた天井内側部における単位面積当たりの有効排煙量よりも多いことが好ましい。
【0010】
これにより、火災時に、出火位置から天井を伝って壁側に向かって流れる煙が内側排煙口から屋外に排出されるとともに、室内の壁近傍まで流れた煙が環状排煙口から屋外に排出される。このとき、天井端部における単位面積あたりの有効排煙量が、天井内側部における単位面積当たりの有効排煙量よりも多いため、室内の内側よりも壁近傍の方がより多くの煙が排出される。
【0011】
また、本発明に係る排煙システムは、前記天井の端部に、天井裏側に窪んだ窪み部が前記天井の外縁に沿って環状に設けられ、該窪み部の内側に前記環状排煙口が設けられていることが好ましい。
【0012】
これにより、出火位置から天井を伝って壁近傍まで流れ着いた煙が窪み部に溜まる。そして、この窪み部に溜まった煙が環状排煙口から屋外に強制排出される。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る排煙システムによれば、出火位置から天井を伝って壁近傍まで流れ着いた煙が屋外に強制排出されるので、壁近傍での煙降下を十分に抑制することができ、火災時における在館者の避難安全性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る排煙システムの第1、第2の実施の形態について、図面に基いて説明する。
【0015】
[第1の実施の形態]
まず、第1の実施の形態について図1及び図2に基いて説明する。
図1は本実施の形態における排煙システムを備える建物の室内の見上げ図であり、図2は本実施の形態における排煙システムを備える建物の断面図である。
【0016】
図1、図2に示すように、本実施の形態における排煙システムは、火災時に室内に発生する煙Sを屋外に排出するシステムであり、例えば大型事務所ビル等に最適な排煙システムである。この排煙システムの概略構成としては、天井Cの端部に配設された環状排煙口1と、天井Cの内側部分に配設された複数の内側排煙口2と、天井Cの裏側(上方)に形成された天井チャンバー3と、その天井チャンバー3を介して環状排煙口1及び内側排煙口2にそれぞれ連通する排煙ダクト4と、排煙ダクト4内に流入した煙Sを屋外に強制排出する排煙ファン5と、を備えている。なお、上記した天井チャンバー3及び排煙ダクト4が、本発明における「排煙流通路」に相当する。
【0017】
環状排煙口1は、煙Sが流通可能な開口であって、室内空間と天井チャンバー3とを連通させる開口である。詳しく説明すると、環状排煙口1は、天井Cの外縁(壁Wの内壁面)に沿って環状(平面視矩形枠状)に配設された常時開放の開口である。この環状排煙口1は、格子やパンチングメタル等のカバーで覆われていてもよく、或いは、前記したカバー等が設けられていない全開放になっていてもよい。
【0018】
内側排煙口2は、煙Sが流通可能な開口であって、室内空間と天井チャンバー3とを連通させる開口である。詳しく説明すると、内側排煙口2は、一方に長いスリット状の常時開放の開口であり、天井Cのうちの環状排煙口1の内側位置に複数配設されている。複数の内側排煙口2は、天井C全体に略均一に並設されている。
【0019】
上記した環状排煙口1と内側排煙口2とは煙Sの流通量が異なる。具体的に説明すると、環状排煙口1は、内側排煙口2と比較して開口面積が大きくて煙の流通量が多い。すなわち、環状排煙口1が設けられた天井Cの端部における単位面積当たりの有効排煙量が、内側排煙口2が設けられた天井Cの内側部分における単位面積当たりの有効排煙量よりも多い。なお、ここでいう「有効排煙量」とは、単位時間当たりに排出する煙Sの容量のことをいう。
【0020】
天井チャンバー3は、上記した環状排煙口1や内側排煙口2から吸い込んだ煙Sが流入する大容量の蓄煙空間であり、建物のスラブと天井Cとの間に形成された空間をチャンバーとして利用したものである。
【0021】
排煙ダクト4は、天井チャンバー3内の煙Sを排煙ファン5に送るダクトであり、排煙ファン5の吸気口に接続されている。この排煙ダクト4には、天井チャンバー3内に配設された吸気口40が形成されている。この吸気口40は、天井チャンバー3内に向けて常時開放された口部である。排煙ダクト4としては、公知の排煙用ダクトや耐熱処理を施した空調用ダクトを用いることができる。
【0022】
排煙ファン5は、排煙ダクト4内に流入した煙Sを屋外に送り出す送風機であり、吸気口が排煙ダクト4に接続されるとともに排気口が屋外に向けて配設されている。この排煙ファン5としては、公知の排煙用ファンを用いることができる。
【0023】
次に、上記した構成からなる排煙システムの作用について説明する。
【0024】
火災時に発生する煙Sは、出火位置から天井Cまで浮上した後、天井Cを伝って壁W側に向かって流れる。このとき、その煙Sの一部が、天井Cに設けられた内側排煙口2から天井チャンバー3内に流入し、室内の内側領域の煙Sが排出される。
【0025】
また、天井Cを伝って流れる煙Sが壁W近傍まで到達すると、その煙Sは、環状排煙口1から天井チャンバー3内に流入し、室内の壁W近傍の煙Sが排出される。このとき、環状排煙口1が設けられた天井端部における単位面積あたりの有効排煙量が、内側排煙口2が設けられた天井内側部における単位面積当たりの有効排煙量よりも多いため、室内の内側よりも壁近傍の方がより多くの煙Sが排出される。
【0026】
上述したように天井チャンバー3内に流入した煙Sは、排煙ファン5によって屋外に強制排出される。すなわち、排煙ファン5を稼動させることにより、天井チャンバー3内の煙Sが排煙ダクト4の吸気口40から排煙ダクト4内に吸い込まれる。そして、その煙Sは、排煙ダクト4内を通って排煙ファン5内に流入し、排煙ファン5から屋外に送り出される。
【0027】
上記した構成からなる排煙システムによれば、出火位置から天井Cを伝って壁W近傍まで流れ着いた煙が環状排煙口1から天井チャンバー3内に流入して排煙ファン5によって屋外に強制排出されるので、壁W近傍での煙Sの降下を十分に抑制することができる。その結果、火災時における在館者の避難安全性を向上させることができる。
【0028】
また、環状排煙口1が設けられた天井端部における単位面積あたりの有効排煙量が、内側排煙口2が設けられた天井内側部における単位面積当たりの有効排煙量よりも多く、室内の内側よりも壁W近傍の煙の方がより多くの煙が排出されるので、壁W近傍での煙Sの降下を確実に抑制することができる。
【0029】
[第2の実施の形態]
次に、第2の実施の形態について、図3に基いて説明する。
図3は天井端部の拡大断面図である。
なお、上述した第1の実施の形態と同様の構成については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0030】
本実施の形態における排煙システムでは、天井Cの端部に天井裏側(天井チャンバー3側)に窪んだ窪み部6が形成されている。窪み部6は、天井Cの内側部分よりも天井面を一段高くした段差天井であり、窪み部6の天井高さは、天井Cの内側部分の天井高さよりも高くなっている。また、窪み部6は、天井Cの外縁に沿って環状(平面視矩形枠状)に延設されている。
【0031】
上記した窪み部6の内側には、環状排煙口1が形成されている。詳しく説明すると、窪み部6の立上り部分(環状の窪み部6の内周側の側面)に環状排煙口1が形成されている。この環状排煙口1は、窪み部6の内側と天井チャンバー3内とを連通する開口であり、環状の窪み部6の全周に亘って延設されている。
【0032】
また、本実施の形態における排煙システムは、窪み部6に設けられ、環状排煙口1における煙Sの流通を制御するダンパー7と、天井Cに取り付けられ、室内の煙Sを感知する煙感知器8と、を備えている。
【0033】
ダンパー7は、環状排煙口1を開閉する扉体70と、扉体70を開閉動作させる図示せぬ開閉機構と、を備えている。扉体70は、平常時において環状排煙口1を閉塞する板部であり、回動可能に設けられている。また、上記した開閉機構は、例えばモータやシリンダ等の駆動源やリンク機構を備える機構であり、煙感知器8に連動して駆動するように制御されている。具体的に説明すると、開閉機構の駆動源と煙感知器8とは図示せぬ制御手段(制御盤)を介して接続されており、煙感知器8から制御手段に煙感知信号が送信されると、制御手段から開閉機構の駆動源に駆動信号が送られて当該駆動源が駆動し、扉体70を回動させて環状排煙口1を開放させる構成となっている。
【0034】
上記した構成からなる排煙システムの作用について説明する。
【0035】
室内に煙Sが発生し、その煙Sを煙感知器8が感知すると、図示せぬ開閉機構の動力源が駆動して扉体70が回動し、環状排煙口1が開放される。
一方、出火位置から天井Cを伝って壁W近傍まで流れ着いた煙Sは窪み部6内に溜まる。そして、この窪み部6に溜まった煙Sは、開放された環状排煙口1から天井チャンバー3内に流入する。そして、天井チャンバー3内に流入した煙Sは、上述した第1の実施の形態と同様に、吸気口40から排煙ダクト4内に流入し、排煙ファン5によって屋外に排出される。
【0036】
上記した構成からなる排煙システムによれば、壁W近傍の煙Sが上昇し易いように、煙溜スペースとなる窪み部6が設けられているため、壁W近傍における煙Sの降下をより抑制することができる。
【0037】
また、環状排煙口1を開閉するダンパー7が煙感知器8に連動して動作するため、室内に煙Sが発生した際に環状排煙口1を一斉に開放させることができ、壁W近傍の煙Sの排出を早期に行うことができる。
【0038】
以上、本発明に係る排煙システムの実施の形態について説明したが、本発明は上記した第1、第2の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記した第1、第2の実施の形態では、天井Cに内側排煙口2が設けられているが、本発明は、内側排煙口2を省略し、環状排煙口1だけで排煙を行う排煙システムであってもよい。
【0039】
また、上記した第1、第2の実施の形態では、大型事務所ビルに適用される排煙システムについて説明しているが、本発明に係る排煙システムは、避難路が店舗周囲に配置されることが多い物販店舗にも最適であり、また、比較的小規模な空間にも適用可能である。
【0040】
上記した第1、第2の実施の形態では、天井チャンバー3及び排煙ダクト4からなる排煙流通路を有する排煙システムについて説明しているが、本発明は、上記した構成に限定されるものではなく、排煙流通路の構成は適宜変更可能である。例えば、天井チャンバー3内の壁に排煙ファンを取り付けて天井チャンバー3内の煙Sを直接屋外に排出する構成にすることも可能であり、これにより、排煙ダクト4を省略することができる。また、環状排煙口1や内側排煙口2に排煙ダクト4の吸気口を連結し、環状排煙口1や内側排煙口2から排煙ダクト4内に煙Sを直接流入させる構成にすることも可能であり、これにより、天井チャンバー3を省略することも可能である。
【0041】
また、上記した第2の実施の形態では、モータ等の駆動源によって稼動する電動式のダンパー7が用いられているが、本発明は、手動式のダンパーで環状排煙口1を開閉させることも可能である。
【0042】
その他、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1の実施の形態を説明するための建物室内の見上げ図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態を説明するための建物の断面図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態を説明するための天井端部の断面図である。
【符号の説明】
【0044】
1 環状排煙口
2 内側排煙口
3 天井チャンバー(排煙流通路)
4 排煙ダクト(排煙流通路)
5 排煙ファン
6 窪み部
C 天井
S 煙
W 壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
火災時に室内に発生する煙を屋外に排出する排煙システムであって、
前記室の天井の外縁に沿って配設された環状排煙口と、
該環状排煙口に連通する排煙流通路と、
該排煙流通路内に流入した煙を屋外に強制排出する排煙ファンと、
を備えることを特徴とする排煙システム。
【請求項2】
請求項1記載の排煙システムにおいて、
前記天井のうちの前記環状排煙口の内側位置に配設された内側排煙口が備えられ、
前記環状排煙口が設けられた天井端部における単位面積当たりの有効排煙量が、前記内側排煙口が設けられた天井内側部における単位面積当たりの有効排煙量よりも多いことを特徴とする排煙システム。
【請求項3】
請求項1または2記載の排煙システムにおいて、
前記天井の端部には、天井裏側に窪んだ窪み部が前記天井の外縁に沿って環状に設けられ、
該窪み部の内側に前記環状排煙口が設けられていることを特徴とする排煙システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−2132(P2010−2132A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−161701(P2008−161701)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】