説明

掘削深度を測定管理する方法及び装置

【課題】負圧による気泡の発生を抑制し、気泡抜き作業を必要とせず、測定精度と安全性の高い管理方法と装置を提供すること。
【解決手段】土木工事機械における駆動アームの先端に、地表面を垂直に掘削する掘削撹拌装置を設けた装置において、掘削撹拌装置に設けられ、液体を充填し、かつ、大気に開放したヘッドタンクと、土木工事機械に設けられ、ヘッドタンクの液面高さを水頭値H1として受圧面で測定する圧力センサと、ヘッドタンクと圧力センサとの間を連結する導圧管と、圧力センサの地上高さをHS、ヘッドタンクと掘削撹拌装置の掘削先端の垂直距離をL0としたときの掘削深度DP=−H1−HS+L0を演算する手段とを具備した構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にバックホウ等の土木工事機械をベースとし、アーム先端に掘削撹拌装置を具備し、セメント系固化材スラリー等を吐出しつつ、地表面から比較的厚く表層土を掘削・撹拌して地盤改良を行う地盤改良工事において、施工中の掘削撹拌装置の先端の貫入深度と、掘削撹拌装置の傾斜角を演算して、オペレータの表示器に表示し、さらにこれらのデータを記録する掘削深度を測定管理する方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記技術分野において実施されている先行技術に、図10aに示すものがある(特許文献1)。この先行技術においては、土木工事機械10の上に支柱を立ててそこにヘッドタンク32を固定設置し、掘削撹拌装置37の上部のブラケット24に設置した圧力センサ30の圧力(又は2個の圧力センサ30、31の平均圧力)と、ヘッドタンク32の水頭差を用いて貫入深度を測定し、また、2個の圧力センサ30、31の間の距離と圧力差から逆三角関数演算器と角度発信器を用いて混合撹拌装置の傾斜角を算出していた。
【0003】
さらに詳しくは、図10aに示す掘削機における傾斜角及び掘削深度の測定装置は、自走式の土木工事機械10における油圧駆動アーム14の先端に着脱自在に設けた掘削撹拌装置37により、地表面の掘削を行なう装置において、前記土木工事機械10に設けたヘッドタンク32と前記掘削撹拌装置37に位置を変えて設けた2つの圧力センサ30,31とを導圧管33を介して連結し、前記2つの圧力センサ30,31の出力側34,35に掘削深度と傾斜角を演算する演算手段を結合し、この演算手段は、圧力センサ30,31からヘッドタンク32までのそれぞれの水頭値と、予め設定された圧力センサ30,31の相互間距離とから前記掘削撹拌装置37の傾斜角を演算し、かつ、前記いずれか一方の圧力センサ30又は31からヘッドタンク32までの水頭値と、予め設定されたヘッドタンク32から施工地面20までの距離及び掘削撹拌装置37の垂直長さとから掘削深度を演算するようにしたものである。
【0004】
図10aにおいて、HSは、適用する土木工事機械10の上に設けられたヘッドタンク32のヘッド水面から施工地面20までの高さであり、L0は、掘削深度の基準となる水位センサ30の受圧面から掘削撹拌装置37の掘削先端までの寸法で、いずれも固定値であるから、水位センサ30によって得られる変数の水頭値をH1とすれば、この水頭値H1に基づく垂直距離H1は、圧力センサ30からヘッドタンク32までの水頭値から演算手段で演算され、掘削深さDPは
DP=H1−HS+L0
で与えられる。
【0005】
また、掘削撹拌装置37が垂直である場合において、図11のように両水位センサ30,31が互いに高低差を持って取り付けられているときの受圧面間寸法L1と垂直方向の寸法差△H0は、固定値であるから、両水位センサ30,31の受圧面を結ぶ直線と水平面が成す角度θ0は、
θ0=sin−1(△H0/L1)
で与えられる固定値となる。
このとき、2つの水位センサ30,31が高低差なく、同一水平面に配置されていれば、
θ0=0
である。
【0006】
図10aの例では、ヘッドタンク32を、土木工事機械10に支柱等によってできるだけ高い位置に取り付けたが、低位置に取り付けても、圧力センサ30,31における受圧面85,86が負圧を検出することになるだけで、正圧の場合の上記動作例と変わるところはない。
しかし、図12のようにヘッドタンク32を低位置に設置した場合において、導圧管33の途中の頂部が所定高さ以上になると、誤動作の問題が発生することがある。これは、ヘッドタンク32に充填した圧力伝達媒体の液体が純水である場合、ヘッドタンク32の液面から導圧管33の頂部までの高さhが10.3mを越えると、頂部の部分が真空になることによる。そこで、ヘッドタンク32の取り付けに際しては、頂部とヘッドタンク32の高さhが10.3mを越えないように設定する必要がある。特に、水には、不純物、気泡などを含んでいるので、この高さhは、安全性を見越して7〜8mとする。
【特許文献1】特開2004−157112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の従来の装置は、作業者に高度な熟練度を要求することなく、また、補助的報知要員を配置することなく、安価に作業能率の高い施工工事を可能にすることができるという効果を有する。
しかしながら、次のような若干の問題があった。
(1)前記特許文献1のように、掘削撹拌装置37の長さが短い場合において、図10bに示すように、掘削撹拌装置37の先端を地表部付近に上げたときに、圧力センサ31とヘッドタンク32の水位差(H1)が最大2mまでの場合には、液体循環系の導管内に気泡が析出するような問題はなかった。
しかし、掘削深度が約4m以上になると、図10cに示すように、掘削撹拌装置37の長さがそれに応じて長くなり、圧力センサ31とヘッドタンク32の水位差(H1)が2mを超えると、ヘッドタンク32の位置を土木工事機械10に直接設置した場合に、特に掘削撹拌装置37が最高位置になる掘削開始時から初期貫入時において、導水管内に生じる負圧が大きくなり、当該管理装置の液体循環系の導圧管内に気泡が析出し、測定誤差が大きくなり、施工精度が著しく低下する。そのため、気泡を除去するために、気泡抜き作業が必要となり、施工能力の大幅な低減に繋がる。
(2)そこで、液体循環系の導圧管内に負圧を生じさせないようにするためには、ヘッドタンク32の位置を高くする必要がある。そのために、図10dに示すように、土木工事機械10に支柱を設けヘッドタンク32をその支柱の上に設置することになるが、ヘッドタンク32を支持する支柱の高さが高くなればなるほど施工時の振動等が増幅してヘッドタンク32に大きな振動を与え、不安定になって測定誤差が大きくなるとともに、安全上の問題が生じる。
【0008】
本発明は、ヘッドタンクの取り付け位置を低くしても、負圧による気泡の発生を抑制し、気泡抜き作業を必要とせず、測定精度と安全性の高い管理方法と装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、地表面を垂直にのみ掘削する場合には、土木工事機械における駆動アームの先端に、地表面を垂直に掘削する掘削撹拌装置を設け、この掘削撹拌装置による掘削深度を測定管理する装置において、
前記掘削撹拌装置に設けられ、液体を充填し、かつ、大気に開放したヘッドタンクと、
前記土木工事機械に設けられ、前記ヘッドタンクの液面高さを水頭値H1として受圧面で測定する圧力センサと、
前記ヘッドタンクと圧力センサとの間を連結する導圧管と、
前記圧力センサの地上高さをHS、前記ヘッドタンクと掘削撹拌装置の掘削先端の垂直距離をL0としたときの掘削深度DP=−H1−HS+L0を演算する手段と
を具備した構成とする。
【0010】
本発明は、垂直のみならず、傾斜した方向にも掘削する場合には、前記構成に加えて、
前記掘削撹拌装置に設けられ、前記掘削撹拌装置の垂直線との傾斜角θを測定する傾斜角センサと、
前記圧力センサの地上高さをHS、前記ヘッドタンクと掘削撹拌装置の掘削先端の垂直距離をL0としたときの掘削深度DP=−H1−HS+L0cosθを演算する手段と
を具備した構成とする。
【0011】
ヘッドタンクは、液体を充填し、かつ、大気に開放した液体容器の中に、多数の流通孔を穿設した複数の邪魔板を所定間隔で設置することが好ましい。
導圧管は、一部又は全部が透明なパイプで構成することで、気泡の発生の有無を直接確認することができる。
液体は、不凍液を用いれば、寒冷地でも、冬期間でも用いることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下の効果を有する。
(1)ヘッドタンクを掘削撹拌装置に設け、圧力センサを土木工事機械に設けたので、掘削深度が4m以上になっても、掘削撹拌装置の長さに拘らずヘッドタンクの取り付け位置を高くする必要がない。
したがって、ヘッドタンクに大きな振動を与えることなく、安定した測定ができる。
(2)ヘッドタンクを掘削撹拌装置に設け、圧力センサを土木工事機械に設けたので、負圧でも気泡が発生する程の高さにする必要がなく、気泡の発生をなくし、頻繁な気泡抜き作業が不必要となり、施工能力が大幅に向上する。
(3)垂直のみならず、傾斜した方向にも掘削する場合には、傾斜角センサを掘削撹拌装置に設け、演算する手段で掘削深度DP=−H1−HS+L0cosθを演算することで容易に掘削深度を測定できる。
(4)ヘッドタンクを構成する液体容器の中に、多数の流通孔を穿設した複数の邪魔板を所定間隔で設置することによって、掘削中に生じる液面の揺れを抑制してより正確な測定ができる。
(5)導圧管は、一部又は全部が透明なパイプで構成することで、気泡の発生の有無を直接確認することができる。
(6)液体は、不凍液を用いれば、寒冷地でも、冬期間でも用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、土木工事機械における駆動アームの先端に取り付けた掘削撹拌装置によって、地表面を垂直に掘削する場合には、
前記掘削撹拌装置の上端部に設けたヘッドタンクの液面高さを、前記土木工事機械の車体などの安定した箇所に設けた圧力センサの受圧面でこれらの水頭値H1を得る工程と。
前記圧力センサの地上高さをHS、前記ヘッドタンクと掘削撹拌装置の掘削先端の垂直距離をL0としたとき掘削深度DP=−H1−HS+L0を演算する工程とを具備する。
【0014】
本発明は、垂直方向の掘削のみならず、傾斜した方向にも掘削する場合には、
前記水頭値H1を得る工程の外に、前記掘削撹拌装置に設けた傾斜角センサで掘削撹拌装置による垂直線に対する掘削傾斜角度θを検出する工程を付加し、さらに、演算の工程では、前記圧力センサの地上高さをHS、前記ヘッドタンクと掘削撹拌装置の掘削先端の距離をL0とするとともに、垂直線に対する掘削撹拌装置の傾斜角度をθとしたときの掘削深度DP=−H1−HS+L0cosθを演算する。
【0015】
掘削撹拌装置に設けたヘッドタンクの液面高さが土木工事機械に設けた圧力センサの受圧面より高いときは、+H1とし、掘削撹拌装置に設けたヘッドタンクの液面高さが土木工事機械に設けた圧力センサの受圧面より低いときは、−H1として演算する。
【0016】
地表面を垂直に掘削する場合には、
前記掘削撹拌装置に設けられ、液体を充填し、かつ、大気に開放したヘッドタンクと、
前記土木工事機械に設けられ、前記ヘッドタンクの液面高さを水頭値H1として受圧面で測定する圧力センサと、
前記ヘッドタンクと圧力センサとの間を連結する導圧管と、
前記圧力センサの地上高さをHS、前記ヘッドタンクと掘削撹拌装置の掘削先端の垂直距離をL0としたときの掘削深度DP=−H1−HS+L0を演算する手段と
を具備した装置とする。
【0017】
垂直方向の掘削のみならず、傾斜した方向にも掘削する場合には、
前記掘削撹拌装置に設けられ、液体を充填し、かつ、大気に開放したヘッドタンクと、
前記掘削撹拌装置に設けられ、前記掘削撹拌装置の垂直線との傾斜角θを測定する傾斜角センサと、
前記土木工事機械に設けられ、前記ヘッドタンクの液面高さを水頭値H1として受圧面で測定する圧力センサと、
前記ヘッドタンクと圧力センサとの間を連結する導圧管と、
前記圧力センサの地上高さをHS、前記ヘッドタンクと掘削撹拌装置の掘削先端の垂直距離をL0としたときの掘削深度DP=−H1−HS+L0cosθを演算する手段と
を具備した装置とする。
【0018】
ヘッドタンクは、液体を充填し、かつ、大気に開放した液体容器の中に、多数の流通孔を穿設した複数の邪魔板を所定間隔で設置する。
導圧管は、気泡の発生を確認するため、一部又は全部が透明なパイプとする。
液体は、冬期間、寒冷地でも使用できるようにするため、不凍液を用いる。
【実施例1】
【0019】
以下、本発明による掘削深度を測定管理する方法及び装置の実施例1を図面に基づいて説明する。
まず、図6に基づきグラウトの製造、供給から地盤改良のために施工地盤を掘削、撹拌し、グラウトを注入するまでの一般的な一連の流れを説明する。
グラウト主剤、例えばセメントなどは、サイロ40からコンベア41を介して計量槽43へ送られ、図示しない水を供給して撹拌機42に送られ撹拌翼44によって撹拌され、できあがったグラウト49は、供給槽45からさらに流量計46を経由してグラウトポンプ47によって圧送され、圧送ホース48を介してフロントアタッチメントである掘削撹拌装置37へ送られ、支柱38の下方端部からグラウト49を地盤へ注入しつつ、掘削撹拌装置37の撹拌ビット39で軟弱土を掘削し、撹拌して混合する。この施工地面20に掘削孔21を順次掘削することで改良土23が形成される。
この図6において、53は、発電機である。
【0020】
前記土木工事機械10と掘削撹拌装置37に搭載した掘削深度を測定管理する装置を図1に基づき説明すると、クローラ11によって自走する方式の土木工事機械10には、油圧駆動アーム12,13が順次連結され、その先端にフロントアタッチメントとして比較的厚く表土層を掘削可能な掘削撹拌装置37がブラケット24を介在して着脱自在に取り付けられている。この掘削撹拌装置37は、垂直な掘削撹拌装置37の下端部に撹拌ビット39が回転自在に設けられ、この撹拌ビット39によって施工地面20が掘削される。
図1は、孔壁19が正しく垂直に施工されている状態を示した側面図である。この掘削撹拌装置37は、一般に、油圧駆動アーム12,13及び油圧シリンダ18、18を介してオペレータが操縦室から掘削深度、掘削傾斜角を自在に調整し得るようになっている。
【0021】
また、前記掘削撹拌装置37の上端部のブラケット24には、支持部材50に支持されてヘッドタンク32と傾斜角センサ57が設けられている。前記土木工事機械10の安定した車体の一箇所には、圧力センサ31が設けられる。この圧力センサ31は、油圧駆動アーム12,13に沿って設けられた透明な導圧管33を介して前記ヘッドタンク32に連結されてヘッドタンク32からの水頭圧が測定できるようになっている。
【0022】
前記土木工事機械10の操縦室15には、監視盤36が設置されている。この監視盤36は、図5(a)(b)に示すように、正面にディスプレ81と電源スイッチ82とゼロ設定スイッチ83が設けられている。
このディスプレイ81は、単に表示機能を保有するのみでなく、パネルタッチスイッチ機能を持つプログラマブル表示器を採用することも可能であり、その場合には、他の入力を得て、工事施工プログラム、工事進捗状況、施工偏差など選択的にオペレータに報知せしめることも可能である。
【0023】
前記ヘッドタンク32と傾斜角センサ57の取付けと具体的構造を図2乃至図4に基づき説明する。
図2において、油圧駆動アーム13と掘削撹拌装置37を連結するブラケット24に、掘削撹拌装置37の支柱38と一直線をなす複数本の支持部材50を固着し、この支持部材50の上端部にヘッドタンク32と傾斜角センサ57を取り付けた取付け板56を固定する。
前記ヘッドタンク32は、図3(a)(b)に示すように、円形筒を横にしたような液体容器55からなり、この液体容器55には、液面監視管29が備えられていて、圧力伝達媒体としての液体25が充填される。この液体25は、環境汚染がなく、安価であることから、一般に、水が使用されるが、水に限られるものではなく、寒冷地においては、エチレングリコールを主体とした車両用不凍液を用いることができ、また、応答速度を速めるために粘性の少ないアルコール類を用いたり、応答速度を遅くするために粘性の大きい油類を用いたり、目的に応じて選択することができる。
【0024】
前記液体容器55の上端部には、流体注入口28と気泡抜き管52が設けられ、下端部には、液体導出口64と予備の管接続口73が設けられている。また、液体容器55の側面には、液面監視管29が取り付けられている。
前記気泡抜き管52には、ヘッドタンク32としての計測時には開放し、運搬などの不使用時には閉鎖する気泡抜き弁65が設けられている。前記液体導出口64と圧力センサ31の間は、気泡の発生を確認するために透明な導圧管33で連結されている。
前記液体容器55の内部には、掘削撹拌装置37による掘削時に液体25の液面が激しく揺れるのを抑制するために、小さな流通孔27を多数穿設した邪魔板26が収納されている。この邪魔板26は、図4(a)に示すように、厚さ1mm程度の鉄板に、直径6〜10mm程度の流通孔27を10〜15mm程度の間隔で穿設したもので、これを10〜15mm間隔で3〜4枚を垂直に配置する。また、全方向の揺れに対応するため図4(b)に示すように、複数枚ずつ直交して井桁状に組み込んでもよい。
【0025】
前記傾斜角センサ57は、例えば、市販のサーボ方式重力加速度検出タイプが使用され、信号ケーブル34によって前記監視盤36に接続され、この傾斜角センサ57から発せられる傾斜角信号は、操縦室15内に設けられた監視盤36へ与えられ、掘削撹拌装置37の傾斜角として表示されるように構成されている。
【0026】
以上のような構成において、グラウトポンプ47によって圧送されたグラウト49を、圧送ホース48を介して掘削撹拌装置37へ送り、支柱38の下方端部から地盤へ注入しつつ、撹拌ビット39で軟弱土を掘削し、撹拌して混合する。一般的には、掘削撹拌装置37の支柱38を垂直に立て、この施工地面20に垂直な掘削孔21を順次掘削することで改良土23が形成される。
また、図9に示すように、施工区域内に埋設管72等があって、垂直に掘削できないときには、あえて傾斜を持たせて順次掘削することで改良土23が形成される。
【0027】
つぎに、掘削撹拌装置37による掘削深度の計測原理を説明する。
図7(a)(b)において、
HSは、適用する土木工事機械10上に安定した状態で設置された圧力センサ31の受圧面から施工地面20までの高さであり、
L0は、掘削深度の基準となるヘッドタンク32の液面から掘削撹拌装置37の掘削先端までの垂直方向の寸法で、いずれも固定値である。
ここで、水頭値H1は、ヘッドタンク32の液面と掘削深度の基準となる圧力センサ31の受圧面との水頭差に基づき演算された高低差で、変数値であるが水頭差が測定されれば容易に求められる。
従って、掘削深さDPは次式で与えられる。
DP=−H1−HS+L0
なお、掘削方向が垂直のみならず、図9に示すように、掘削撹拌装置37を傾斜して掘削する場合の傾斜方向も含む場合には、一般式は、次式で与えられる。
DP=−H1−HS+L0cosθ
ここで、傾斜角θは、掘削撹拌装置37に傾斜角センサ57を設置しているのでL0cosθは容易に演算できる。
【0028】
さらに具体的には、図7(a)に示すように、ヘッドタンク32の液面が掘削深度の基準となる圧力センサ31の液面より高い位置の場合であって、かつ、垂直方向に掘削する場合は、水頭値H1≧0、cosθ=1であるから、掘削深さDPは次式で与えられる。
DP=−H1−HS+L0
また、図7(b)に示すように、ヘッドタンク32の液面が掘削深度の基準となる圧力センサ31の液面より低い位置の場合であって、かつ、垂直方向に掘削する場合は、水頭値H1<0、cosθ=1であるから、掘削深さDPは次式で与えられる。
DP=−(−H1)−HS+L0=H1−HS+L0
図9に示すように、掘削撹拌装置37を傾斜して掘削する場合、すなわち、垂直線に対して角度θをもって掘削する場合の掘削深さDPは次式で与えられる。
DP=−H1−HS+L0cosθ
【0029】
図7(b)において、水頭値H1<0の場合、深度検出のための液体循環系に負圧が作動することになるが、本発明では、圧力センサ31を支柱なしで土木工事機械10の車体に直接安定した状態で設置し、かつ、ヘッドタンク32を掘削撹拌装置37の上端部に取り付けたことにより、該負圧の値は、高々2m程度であり、気泡の発生はないことが実験によって確認されている。ただし、H1が−2m以上になると、気泡の発生が認められ、測定精度に影響することが確認されている。
【0030】
つぎに、図8は、図7(a)(b)に基づき説明した掘削深度DPを求める式に従って、具体的な演算方法を示すブロックダイヤグラムである。
図8において、ヘッドタンク32の水頭圧を発信する圧力センサ31からのアナログ信号は、A/Dコンバータ51によってデジタル変換されて水頭圧H1が得られ、この水頭値信号H1は、加算演算器67に送られる。基準水頭設定器66では、傾斜角センサ57の出力値θを基にして−HS+L0cosθが演算され、加算演算器67に送られる。この加算演算器67では、−H1と−HS+L0cosθが加算され、掘削深度DP(=−H1−HS+L0cosθ)が得られ、D/Aコンバータ69を介して記録計62へ出力され、また、変換増幅器68を介して深度表示器70へ出力され、さらに図示されない記録媒体(M)への掘削深度記録信号71として出力され、記録、表示、記憶される。
なお、掘削撹拌装置37が垂直に掘削する場合には、基準水頭設定器66に傾斜角センサ57からの傾斜角信号cosθ=1を入力して、基準水頭設定器66にて設定した既知の−HS+L0が加算演算器67に送られて−H1と加算される。
【0031】
減算演算器57によって得られた掘削撹拌装置37の傾斜角信号は、D/Aコンバータ59を介して記録計62へ出力されて記録され、また、変換増幅器58を介して傾斜角表示器60へ出力されて表示され、さらに図示されない記録媒体(M)への傾斜角記録信号61として出力されて記録媒体に記憶される。
【0032】
図8に示す実施例では、説明を簡単にするため、傾斜角センサ57及び基準水頭設定器66は、あらかじめ出力が固定的に設定されているものとした。しかし、ヘッドタンク32を搭載した掘削撹拌装置37を垂直に保持して、深度ゼロの位置に置いたときに発せられる圧力センサ31のデジタル変換出力値を、図5(a)(b)に示した監視盤36のゼロ設定スイッチ83からの信号によってラッチゲートを介して取り込み、メモリーレジスタに記憶することにより、自動設定するよう構成することが可能である。
【0033】
なお、圧力伝達媒体が水以外の液体であって液体密度をρ、大気圧をp、重力加速度をgとしたとき、高さhは、
h<p/(ρg)
に設定することが望ましい。
【実施例2】
【0034】
前記実施例では、図1に示すように、フロントアタッチメントとして油圧駆動アーム13の先端に、ブラケット24を着脱自在に取り付け、このブラケット24の下端部の支柱38の両側に水平方向に回転する撹拌ビット39を取り付けたものについて説明したが、図10に示すような無端帯チェーンに掘削・撹拌翼を取り付けたものであってもよい。
【0035】
前記実施例では、掘削機として、グラウトを注入しつつ地表面を掘削、撹拌して表層地盤を改良する掘削機に利用する場合について説明したが、必ずしもグラウトの注入を伴なわず、フロントアタッチメントが単に地表面を掘削する掘削機に利用するものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明による掘削深度を測定管理する方法及び装置の一実施例を示す垂直に掘削時の説明図である。
【図2】ヘッドタンク32と傾斜角センサ57の取り付け状態の詳細な斜視図である。
【図3】(a)は、ヘッドタンク32の一部を切り欠いた正面図、(b)は、ヘッドタンク32と傾斜角センサ57の取付け状態を示す側面図である。
【図4】(a)(b)は、ヘッドタンク32の内部に取り付けた邪魔板26のそれぞれ異なる例を示す斜視図である。
【図5】操縦室に設けられる監視盤の一実施例を示もので、(a)は、側面図、(b)は、正面図である。
【図6】地盤改良掘削、撹拌部分に、注入するグラウトの製造、供給する装置をも加えた一連の作業の説明図である。
【図7】掘削深度DPの測定原理を説明するためのもので、(a)は、水頭値H1が+のときの説明図、(b)は、水頭値H1が−のときの説明図である。
【図8】掘削深度と傾斜角を求める具体的な演算方法を示すブロックダイヤグラムである。
【図9】傾斜して掘削している状態を示す説明図である。
【図10a】背景技術を説明するための垂直掘削状態の説明図である。
【図10b】背景技術を説明するための説明図であって、掘削撹拌装置37の長さが短い場合の説明図である。
【図10c】背景技術を説明するための説明図であって、掘削撹拌装置37の長さが長く、かつ、ヘッドタンク32を土木工事機械10に直接設置した場合の説明図である。
【図10d】背景技術を説明するための説明図であって、掘削撹拌装置37の長さが長く、かつ、ヘッドタンク32を高さの高い支柱の上に設置した場合の説明図である。
【図11】背景技術により掘削深度を求めるための説明図である。
【図12】背景技術により掘削深度を求めるための他の説明図である。
【符号の説明】
【0037】
10…土木工事機械、11…クローラ、12…油圧駆動アーム、13…油圧駆動アーム、14…油圧駆動アーム、15…操縦室、17…ビット、18…油圧シリンダ、19…垂直孔壁、20…施工地面、21…掘削孔、22…掘削底面、23…改良土、24…ブラケット、25…液体、26…邪魔板、27…流通孔、28…流体注入口、29…液面監視管、30…圧力センサ、31…圧力センサ、32…ヘッドタンク、33…導圧管、34…信号ケーブル、35…信号ケーブル、36…監視盤、37…掘削撹拌装置、38…支柱、39…撹拌ビット、40…サイロ、41…コンベア、42…撹拌機(アジテータ)、43…計量槽、44…撹拌翼、45…供給槽、46…流量計、47…グラウトポンプ、48…圧送ホース、49…グラウト、50…支持部材、51…A/Dコンバータ、52…気泡抜き管、53…発電機、55…液体容器、56…取付け板、57…傾斜角センサ、58…変換増幅器、59…D/Aコンバータ、60…傾斜角表示器、61…記録媒体用傾斜角信号、62…記録計、64…液体導出口、65…気泡抜き弁、66…基準水頭設定器、67…加算演算器、68…変換増幅器、69…D/Aコンバータ、70…掘削深度表示器、71…記録媒体用深度信号、72…埋設管、73…予備の管接続口、81…ディスプレイ、82…電源スイッチ、83…ゼロ設定スイッチ、85…受圧面、86…受圧面、87…受信計、88…受信計。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土木工事機械における駆動アームの先端に、地表面を垂直に掘削可能な掘削撹拌装置を設け、この掘削撹拌装置による掘削深度を測定管理する方法において、
前記掘削撹拌装置に設けたヘッドタンクの液面高さを、前記土木工事機械に設けた圧力センサの受圧面でこれらの水頭値H1を得る工程と、
前記圧力センサの地上高さをHS、前記ヘッドタンクと掘削撹拌装置の掘削先端の垂直距離をL0としたとき掘削深度DP=−H1−HS+L0を演算する工程と
からなることを特徴とする掘削深度を測定管理する方法。
【請求項2】
土木工事機械における駆動アームの先端に、地表面を掘削可能な掘削撹拌装置を設け、この掘削撹拌装置による掘削深度を測定管理する方法において、
前記掘削撹拌装置に設けたヘッドタンクの液面高さを、前記土木工事機械に設けた圧力センサの受圧面でこれらの水頭値H1を得る工程と、
前記掘削撹拌装置に設けた傾斜角センサで掘削撹拌装置による垂直線に対する掘削傾斜角度θを検出する工程と、
前記圧力センサの地上高さをHS、前記ヘッドタンクと掘削撹拌装置の掘削先端の距離をL0とするとともに、前記傾斜角度θとにより掘削深度DP=−H1−HS+L0cosθを演算する工程と
からなることを特徴とする掘削深度を測定管理する方法。
【請求項3】
土木工事機械における駆動アームの先端に、地表面を垂直に掘削可能な掘削撹拌装置を設け、この掘削撹拌装置による掘削深度を測定管理する装置において、
前記掘削撹拌装置に設けられ、液体を充填し、かつ、大気に開放したヘッドタンクと、
前記土木工事機械に設けられ、前記ヘッドタンクの液面高さを水頭値H1として受圧面で測定する圧力センサと、
前記ヘッドタンクと圧力センサとの間を連結する導圧管と、
前記圧力センサの地上高さをHS、前記ヘッドタンクと掘削撹拌装置の掘削先端の垂直距離をL0としたときの掘削深度DP=−H1−HS+L0を演算する手段と
を具備したことを特徴とする掘削深度を測定管理する装置。
【請求項4】
土木工事機械における駆動アームの先端に、地表面を掘削可能な掘削撹拌装置を設け、この掘削撹拌装置による掘削深度を測定管理する装置において、
前記掘削撹拌装置に設けられ、液体を充填し、かつ、大気に開放したヘッドタンクと、
前記掘削撹拌装置に設けられ、前記掘削撹拌装置の垂直線との傾斜角θを測定する傾斜角センサと、
前記掘削撹拌装置に設けられ、掘削撹拌装置による垂直線に対する掘削傾斜角度θを検出する傾斜角センサと、
前記土木工事機械に設けられ、前記ヘッドタンクの液面高さを水頭値H1として受圧面で測定する圧力センサと、
前記ヘッドタンクと圧力センサとの間を連結する導圧管と、
前記圧力センサの地上高さをHS、前記ヘッドタンクと掘削撹拌装置の掘削先端の垂直距離をL0としたときの掘削深度DP=−H1−HS+L0cosθを演算する手段と
を具備したことを特徴とする掘削深度を測定管理する装置。
【請求項5】
ヘッドタンクは、液体を充填し、かつ、大気に開放した液体容器の中に、多数の流通孔を穿設した複数の邪魔板を所定間隔で設置したことを特徴とする請求項3又は4記載の掘削深度を測定管理する装置。
【請求項6】
導圧管は、一部又は全部が透明なパイプからなることを特徴とする請求項3、4又は5記載の掘削深度を測定管理する装置。
【請求項7】
液体は、不凍液からなることを特徴とする請求項3、4、5又は6記載の掘削深度を測定管理する装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10a】
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【図10b】
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【図10c】
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【図10d】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−164350(P2008−164350A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−352013(P2006−352013)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000185972)小野田ケミコ株式会社 (58)
【出願人】(391006038)東都電機工業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】