説明

採取された血液に対する耐糖能異常の判定方法

【課題】 採取された血液の耐糖能異常を簡便かつ正確に判定する。
【解決手段】 採取された血液の空腹時血糖値ならびに血中1,5−アンヒドログルシトール(1,5AG)濃度を測定すること、空腹時血糖値ならびに血中1,5AG濃度の基準値を設定すること、空腹時血糖値の基準値の0.80〜0.90倍に相当する値として規定される低値基準値と血中1,5AG濃度の基準値の1.2〜1.5倍に相当する値として規定される高値基準値とをそれぞれ設定すること、及び測定された空腹時血糖値ならびに血中1,5AG濃度と、空腹時血糖値ならびに血中1,5AG濃度について設定した基準値、低値基準ならびに高値基準値との高低を確認することを含む、採取された血液の耐糖能異常を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、採取された血液中の空腹時血糖値ならびに血中1,5−アンヒドログルシトール濃度(血中1,5AG濃度)をそれぞれ測定し、その測定値と空腹時血糖値ならびに血中1,5AG濃度について設定される基準値との高低を確認して、採取された血液の耐糖能異常を判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は現代社会における代表的な生活習慣病であり、近年では、食生活の高栄養化や日常的な運動不足等から、その患者数は年々増加の一途をたどっている。日本における糖尿病の患者数は、2003年厚生労働省発表の「糖尿病実態調査」によると、糖尿病が強く疑われる人740万人(1998年の調査より+60万人)、可能性を否定できない人880万人(同、+190万人)で、総数1620万人(同、+250万人)に達する。
【0003】
糖尿病の治療は糖尿病診断時の新患教育が重要であるが、それと共に、糖尿病予備群ともいえる境界型と呼ばれる耐糖能異常を示す者あるいは境界型に準じたより軽度の血糖上昇を示す耐糖能異常(準境界型)を示す者を早期に発見(スクリーニング)し、これらに対して生活習慣を変える指導を行うことなどによって、糖尿病への進展を予防することも非常に重要である。境界型と呼ばれる耐糖能異常とは、糖尿病ではないが血糖状態が正常ではない軽度の耐糖能異常であって、空腹時血糖値と75g経口糖負荷試験(75gOGTT)2時間値の結果で判定される正常型あるいは糖尿病型のいずれにも属さず、それらの中間の状態にあるものと理解されている(非特許文献1)。また、75gOGTTの1時間値が180mg/dl以上であるものは、準境界型と呼ばれる耐糖能異常であり、これも糖尿病へと悪化する危険があると考えられている(非特許文献2)。ここで、耐糖能とは、血糖値を一定の幅の中にコントロールする、本来的にヒトに備わっている能力のことである。
これらの境界型あるいは準境界型耐糖能異常を発見、選別して、これを治療したり、あるいはそれ以上耐糖能の異常が進まないように処置したりするために、地域や職域において一般健診や糖尿病検診が実施されている。
【0004】
従来これらの検診では、空腹時血糖値を指標とし、この値が一定の値、すなわち基準値を超えて高いか否かを確認することで耐糖能異常を判定する場合が多い。この基準値は、例えば日本糖尿病学会、米国National Diabetes Data Groupその他の機関によって、臨床学的に定められている、正常者と耐糖能異常者とを区別するための値であり、日本糖尿病学会の委員会報告「糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告」(1999年、糖尿病、第42巻、第5号、第385〜401頁)によれば、空腹時血糖値の基準値は110mg/dlとされている。
この空腹時血糖値の基準値を指標とした方法で耐糖能異常と判定される者は、被検診者全体に対して6〜8%といわれている。一方、40歳以上のヒト集団に対する詳細な検討及び各地で行われた75gOGTTを一次検査とする疫学調査から、糖尿病有病率は10%、境界型を含む軽度の耐糖能異常を加えると25%にのぼり(非特許文献2)、このことから検出された者の40%から半数近くは既に糖尿病と診断されるレベルにあるということになる。すなわち、空腹時血糖値とその基準値に基づく従来のスクリーニング方法では、保健指導すべき対象である軽度の耐糖能異常者が多く見逃されていることになる。
【0005】
また、慢性の高血糖状態を反映するために糖尿病の治療効果の指標として有用であるHbA1c濃度が、耐糖能異常のスクリーニングにおいても有効であろうと期待し、HbA1c値を耐糖能異常の検診における指標として使っている例もある。しかし、最近、その問題点の指摘がなされてきている(非特許文献3)。これは、HbA1c値の異常は耐糖能異常がある程度進んで糖尿病に至った状態でよく観察される、すなわち慢性の高血糖状態を反映する指標であるので、糖尿病治療における病態の変化を表す指標としてHbA1c値は非常に有用であるものの、75gOGTTにおいて軽度の耐糖能異常と判定される血液におけるHbA1cの平均値と正常な血液におけるその平均値との差はわずかであり、また、正常者と異常者の値の分布はかなりの部分でオーバーラップしており、検診における軽度の耐糖能異常を示す指標としては、HbA1c値は必ずしも十分ではないためである。事実、空腹時血糖値という指標にHbA1c値という指標を追加して検査を行っても、境界型や準境界型を含む軽度の耐糖能異常を検出する感度は、余り向上しない。このことは、75gOGTTの判定区分別にみたHbA1c値の分布において、正常型と境界型ではHbA1c値の差がほとんどないことからも判断される(非特許文献2)。
【0006】
【非特許文献1】日本糖尿病学会編、科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン、南江堂、2004年、6頁。
【非特許文献2】葛谷健、伊藤千賀子ら、糖尿病 42巻5号、1999年、385〜401頁。
【非特許文献3】Medical Tribune, 2002年3月21日 p.35。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、これまでの空腹時血糖値やHbA1c値の測定値とそれぞれの基準値との比較による判定では、耐糖能異常と判断された半数近くの患者が既に糖尿病と診断されるレベルにあり、血糖異常が一定以上進展した状態でないと耐糖能異常としてスクリーニングできないという問題がある。
その一方、軽度の耐糖能異常をより多くスクリーニングしようとして空腹時血糖値等の基準値を低くすれば、同時に正常者が異常と判定される偽陽性も増加してしまい、75gOGTTを行う必要のある者の数が増えて、被験者ならびに75gOGTTを実施する機関双方に対して負担を与える結果となりかねない。逆に、空腹時血糖等の基準値を徒に高くすれば、異常者が正常と判定される偽陰性が増えてしまい、血糖値検査本来の趣旨を没却することにもなる。
従って、境界型あるいは準境界型を含む軽度の耐糖能異常を示す血液を有する者を選択的に発見し、糖尿病や心血管合併症への進展を予防する措置を講じることができるようにするために、従来見逃されがちであった境界型や準境界型を含む軽度の耐糖能異常を示す血液を出来るだけ見逃しなく選別でき、かつ正常が耐糖能異常と判定されてしまう偽陽性を極力少なくできる、バランスのとれた検査方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記したような問題点を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、臨床検査において一般的に使用が認められている検査項目である空腹時血糖値ならびに血中1,5AG濃度に着目し、空腹時血糖値と血中1,5AG濃度の測定値が、それぞれの基準値とそれらに対して設定される一定の値との間にあるか否かを確認することにより、効率的かつ高感度に境界型ならびに準境界型を含む軽度の耐糖能異常を示す血液をスクリーニングすることができることを見出し、本発明を完成した。
即ち本発明は、採取された血液の空腹時血糖値ならびに血中1,5AG濃度を測定すること、空腹時血糖値ならびに血中1,5AG濃度の基準値を設定すること、空腹時血糖値の基準値の0.80〜0.90倍に相当する値として規定される低値基準値と血中1,5AG濃度の基準値の1.2〜1.5倍に相当する値として規定される高値基準値とをそれぞれ設定すること、及び測定された空腹時血糖値ならびに血中1,5AG濃度と、空腹時血糖値ならびに血中1,5AG濃度について設定した基準値、低値基準ならびに高値基準値との高低を確認することを含む、採取された血液の耐糖能異常を判定する方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法は、耐糖能異常を示す血液の判定に関する偽陽性や偽陰性という誤判定を、従来の方法に比べて低くすることができる。また、境界型あるいは準境界型と呼ばれる耐糖能異常を含む軽度の耐糖能異常を示す血液を、従来の方法に比べ効率的に選別することが可能となる。この様にして発見された耐糖能異常を示す血液が採取された者に対して、運動療法や食事療法等による生活態度の改善やそれらを含めた治療を施すことにより、血糖の高値異常への進展、即ち糖尿病の罹患を防ぐことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明は、血中1,5AG(1,5-アンヒドログルシトール)濃度を、採取された血液の耐糖能異常、特に軽度の耐糖能異常の判定における指標のひとつとして利用する。1、5AGは、その化学構造がグルコースのそれに似たポリオールである。
ヒト体内における血液中の1、5AGは、腎尿細管の1,5AG/マンノース/フルクトース共輸送体により、そのほぼ99.9%が再吸収されている。そのため、血中1,5AG濃度の変化量はごくわずかで、正常な状態であれば検査時期に因らず血中1、5AG濃度はほとんど変化しないが、高血糖に伴う尿糖によって1,5AGの再吸収が競合阻害を受けることで1,5AGが尿中へ排出され、その結果、血中1,5AG濃度が低下することが知られている。
この様に、血中1,5AG濃度は、尿糖の影響を受けて増減すること、さらに血糖の近正常域(HbA1cで6〜8%のレベル)で大きな変動幅を有するために、他の血糖指標よりも正確で、検査時ないし検査直近の血糖状態とよい相関を有する客観的な血糖情報を提供する指標として、広く利用されている。
血中1,5AG濃度の測定それ自体は、広く知られた方法、例えば自動分析機用の市販試薬(例えばラナ1,5AGオートリキッド(商標))を用いて簡便に行うことができる。
【0012】
本発明は、空腹時血糖値ならびに血中1,5AG濃度について、それぞれの基準値に加えて、各基準値に対する一定の値として設定される低値/高値基準値を利用して、耐糖能異常を判定する。
空腹時血糖値の基準値は、例えば日本糖尿病学会、米国National Diabetes Data Groupその他の機関によって臨床学的に定められている。日本糖尿病学会の委員会報告「糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告」(1999年、糖尿病、第42巻、第5号、第385〜401頁)によれば、空腹時血糖値の基準値は110mg/dlとされており、この基準値以上の空腹時血糖値を示す血液が耐糖能異常として判定されることとなっている。また、血中1,5AG濃度の現在の基準値は、男性、女性共通に14μg/mlとされており、この基準値未満の血中1,5AG濃度を示す血液が耐糖能異常とすることとなっている。
【0013】
従来の方法は、耐糖能異常を示す血液の判定を、空腹時血糖値あるいは血中1,5AG値の測定値がそれぞれの基準値に対して高低(あるいは前後、上下、多少等)のいずれに位置するかで行なっていた。これに対して、本発明は、空腹時血糖値の基準値の0.80〜0.90倍の血糖値を低値基準値として、さらに血中1,5AG濃度の基準値の1.2〜1.5倍の濃度を高値基準値としてそれぞれ設定し、これらを耐糖能異常、特に軽度の耐糖能異常を示す血液の判定に利用するものである。
具体的には、空腹時血糖値ならびに血中1,5AG値の両測定値が、各基準値ならびにこれらに対して設定される低値/高値基準値に対して高低等のいずれに位置するかを確認することで、より詳しくは、測定された空腹時血糖値が低値基準値以上基準値未満でありかつ測定された血中1,5AG濃度が基準値以上高値基準値未満であることを確認することで、境界型や準境界型と呼ばれる軽度の耐糖能異常を示す血液を判定するものである。
【0014】
以上の関係を、空腹時血糖値と血中1,5AG濃度の基準値、低値/高値基準値と耐糖能異常との関係においてグラフ化したものを、図1に示す。図1の縦軸は血中1,5AG濃度を、横軸は空腹時血糖値をそれぞれ示す。グラフのA1、A2は、それぞれ血中1,5AG濃度の基準値と高値基準値を示し、グラフのB1、B2は、それぞれ空腹時血糖値の基準値と低値基準値を示す。また曲線Cと曲線Dは、採取された血液中の血中1,5AG濃度と空腹時血糖値の個々の実際の測定値が概ねプロットされる領域の境を示す線である。
【0015】
図中[I]を記した領域は、空腹時血糖と血中1,5AG濃度のいずれかまたは両方が異常値となっている領域であり、採取された血液の空腹時血糖値及び/又は血中1,5AG濃度の測定値がこの領域にプロットされるときは、その様な血液は耐糖能異常がある程度またはそれ以上進展した状態にある血液であると判定されることになる。この領域に属することとなる血液は、従来の方法、すなわち空腹時血糖値、血中1,5AG濃度のいずれか一方でもその基準値を超えたときに耐糖能異常と判定する方法でも、同様に耐糖能異常として判定される。
【0016】
一方、図中の[II]の領域は、両指標がそれぞれ明らかな異常値であるとは言えないまでも、軽度の耐糖能異常の状態にある領域であり、採取された血液の空腹時血糖値及び血中1,5AG濃度の測定値がこの領域にプロットされるときは、その様な血液は少なくとも軽度の耐糖能異常を示す血液であると判定されることになる。
【0017】
本発明は、採取された血液の空腹時血糖値及び血中1,5AG濃度の測定値が図中[II]の領域にプロットされる血液を、耐糖能異常としてスクリーニング対象とする。このように本発明の方法では、空腹時血糖値と血中1,5AG濃度が両者ともに軽度異常値として図中[II]の領域にプロットされる血液を陽性(異常)と判定し、その結果、異常であるにもかかわらず正常と判定される偽陰性を減らして耐糖能異常を示す血液をスクリーニングする能力、即ちスクリーニング感度を上げることが出来る。
この様にして陽性と判定された血液を有する者については、さらに確認のため75gOGTT等の精密な検査を行ってもよく、必要に応じて生活指導や治療を行うことになる。
【0018】
なお、学術的な観点等から、先に述べた空腹時血糖値ならびに血中1,5AG濃度の各基準値は、その値の適否が見直される結果、それまでの値とは数値的に異なる新たな基準値に変更されることもあり得る。その場合には、かかる変更された新しい基準値に対して本発明で規定する割合に相当する血中濃度として、空腹時血糖値の低値基準値ならびに血中1,5AG濃度の高値基準値を設定すればよい。特に、空腹時血糖値の基準値が110mg/mlである場合、低値基準値として95mg/mlを設定することが好ましい。
また、空腹時血糖値ならびに血中1,5AG濃度の各基準値は、検体者の年齢や性別に応じて、それぞれ異なる値となることもあるが、この場合も、それぞれの特定の基準値に対して本発明で規定する割合に相当する血中濃度として、空腹時血糖値の低値基準値ならびに血中1,5AG濃度の高値基準値を設定すればよい。
特に本発明では、男性、女性共通に14μg/mlとして定められている血中1,5AG濃度の基準値に代わり、男性については14μg/ml、女性については10μg/mlをそれぞれ採用し、それぞれについて本発明で規定する割合に相当する高値基準値を、例えば男性については18μg/ml、女性については14μg/mlを設定して使用することが好ましい。この性別に応じた血中1,5AG濃度の基準値と高値基準値を利用することで、採取された血液の耐糖能異常の判定の精度を、より高めることができる。
【0019】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0020】
実施例1
12時間以上断食した被験者に対して通常の採血後処理を行った血液について、 空腹時血糖値ならびに血中1、5AG値を測定した。空腹時血糖値の基準値を110mg/dl、その低値基準値を95mg/dl(0.86倍)と設定し、また血中1,5AG濃度については、男性から採取された血液に対する基準値を14μg/ml、高値基準値を18μg/ml(1.29倍)、女性から採取された血液に対する基準値を10μg/ml、高値基準値を14μg/ml(1.4倍)とそれぞれ設定し、測定された値から耐糖能異常の有無を判定した。
その結果、空腹時血糖値が低値基準値以上基準値未満でありかつ血中1,5AG濃度が基準値以上高値基準値未満である血液、すなわち図1の[II]の領域にプロットされる血液14検体がスクリーニングされた。
このスクリーニングされた血液を採取した被験者に対して75gOGTTを実施して耐糖能異常を調べ、この試験による判定結果と本発明の方法による判定結果を比較したところ、本発明では軽度の耐糖能異常と判定されたが75gOGTT試験では正常型と判定された3例(×印のもの)を除き、本発明による方法と75gOGTTとで判定が一致したのは11例(糖尿病型と判定した検体を含む)であり、79%の一致率であった。以上の結果を表1に示す。
この結果は、本発明の方法による判定結果と75gOGTTの確定判定とが極めて高い確率で一致することを示すものである。また、本発明でスクリーニングされた検体は従来の基準値のみを用いた方法ではスクリーニングされないものであることから、本発明の方法は、耐糖能異常を補足するのに優れた方法である。
【0021】
【表1】

【0022】
実施例2
本発明の判定方法を利用したマススクリーニングの例として、正常、軽度の耐糖能異常あるいは糖尿病と判定される検体を合わせたスクリーニング例を示す。12時間以上断食したある職域におけるボランティア(成人男性54名、成人女性41名の計95名、平均年齢34.7歳)から採取され、通常の採血後処理を行った血液について、空腹時血糖値ならびに血中1,5AG値を測定した。空腹時血糖値の基準値を110mg/dl、その低値基準値を95mg/dlと設定し、また血中1,5AG濃度については、男性の基準値を14μg/ml、高値基準値を18μg/ml、女性の基準値を10μg/ml、高値基準値を14μg/mlとそれぞれ設定した。測定された値から耐糖能異常の有無を判定し、軽度の耐糖能異常の検体と、空腹時血糖値が基準値以上または血中1,5AG濃度が基準値未満の検体とを合わせて選別した。耐糖能異常として選別された検体は15であった。
一方、同じボランティアに75gOGTTを実施して耐糖能異常を判定したところ、糖尿病を含む耐糖能異常は13名であり、正常は82名であった。
上記の空腹時血糖値と1,5AG濃度を用いる判定により選別された15検体のうち、75gOGTTで耐糖能異常と判定されたものの検体は11であった(耐糖能異常選出数)。また、上記の空腹時血糖値と1,5AG濃度を用いる判定により選別されずに正常と判定された検体は80であったが、このうち75gOGTTで正常と判定されたのは78であった(正常非選出数)。これらを感度(耐糖能異常選出数/13(75gOGTTによる耐糖能異常数)x100)、特異度(正常非選出数/82(75gOGTTによる正常数)x100)で表し、結果を表2−Aに示す。
【0023】
さらに、同じ血液に対して空腹時血糖値のみを指標とし、その基準値を95μg/ml、100μg/ml、110μg/mlとそれぞれ定めた場合の判定結果を、表2−B−1〜3に示す。また、同じ血液に対して血中1,5AG濃度のみを指標とし、その基準値を18μg/ml、14μg/ml、10μg/mlとそれぞれ定めた場合の判定結果を、表2−C−1〜3に示す。さらに、男性から採取された血液に対する血中1,5AG濃度の基準値を18μg/mlとし、女性から採取された血液に対する血中1,5AG濃度の基準値を14μg/mlとそれぞれ設定して、血中1,5AG濃度のみを指標として判定した結果を表2−C−4に示す。また、本発明の方法において、男性から採取された血液に対する血中1,5AG濃度の基準値を14μg/mlとし、女性から採取された血液に対する血中1,5AG濃度の基準値を10μg/mlとそれぞれ設定して、血中1,5AG濃度のみを指標として判定した結果を、感度ならびに特異性と共に表2−C−5に示す。
また、同じ血液95例について、空腹時血糖と血中1,5AG濃度についてそれぞれ3種類の基準値を設定してこれらを互いに組み合わせ、空腹時血糖値が基準値以上かつ血中1、5AG濃度が基準値未満である血液、ならびに空腹時血糖値が基準値以上または血中1、5AG濃度が基準値未満である血液をいずれも耐糖能異常と判定した場合の結果を、感度ならびに特異性と共に表3−A−1〜表3−C−6に示す。
【0024】
表2−Aは、感度84.6%(耐糖能異常者13名中11名を選別)、特異度95.1%(正常者82名中78名選別)という結果を示しており、特異度を95%以上の高い値に保ちながら80%以上の感度を確保しており、両者がともに高いことが望ましいスクリーニング法であるが、空腹時血糖値や血中1,5AG濃度を単独の指標として判定した結果と比べて、良好なスクリーニング結果を与えた。
一方、血中1,5AG濃度の基準値を男性18μg/ml、女性14μg/mlとして、血中1,5AG濃度のみを指標としてスクリーニングした場合(表2−C−4)は、感度76.9%、特異度87.8%とバランスがとれた成績となってはいるが、本発明の方法による判定成績よりも、感度、特異度ともに7.3%低い結果となっている。また、その他の成績の中には、たとえば表2−B−2、表2−B−3、表2−C−3、表2−C−5のように、特異度において本発明による方法より高いものがあるが、感度においては最高でも表2−B−2、表2−C−5での61.5%と、本発明の方法での84.6%に比べ大幅に低くなっている。
【0025】
空腹時血糖値が基準値以上かつ血中1、5AG濃度が基準値未満である血液、すなわち空腹時血糖値と血中1,5AG値の両者が同時に異常である血液をスクリーニング対象とするような組み合わせでは、全て特異度は高いが、感度が50%程度またはそれ以下の低い結果となっている。また空腹時血糖値又は血中1,5AG値のいずれかが異常である血液をスクリーニング対象とするような組み合わせの場合には、比較的バランスの取れた成績であるように見えるが、特異度が低く偽陰性を与えやすいという結果となった。これらの結果は、本発明の判定方法を利用したスクリーニングが優れていることを示している。
【0026】
【表2】







【表3】






【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、空腹時血糖値の基準値とその低値基準値、血中1、5AG濃度の基準値とその高値基準値ならびにこれらと耐糖能異常との関係をグラフ化したものを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
採取された血液の空腹時血糖値ならびに血中1,5−アンヒドログルシトール濃度を測定すること、空腹時血糖値ならびに血中1,5−アンヒドログルシトール濃度の基準値を設定すること、空腹時血糖値の基準値の0.80〜0.90倍に相当する値として規定される低値基準値と血中1,5−アンヒドログルシトール濃度の基準値の1.2〜1.5倍に相当する値として規定される高値基準値とをそれぞれ設定すること、及び測定された空腹時血糖値ならびに血中1,5−アンヒドログルシトール濃度と、空腹時血糖値ならびに血中1,5−アンヒドログルシトール濃度について設定した基準値、低値基準ならびに高値基準値との高低を確認することを含む、採取された血液の耐糖能異常を判定する方法。
【請求項2】
測定された空腹時血糖値が低値基準値以上基準値未満でありかつ測定された血中1,5−アンヒドログルシトール濃度が基準値以上高値基準値未満であることを確認する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
男性から採取された血液ならびに女性から採取された血液それぞれに対して異なる血中1,5−アンヒドログルシトール濃度の基準値を使用する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
男性から採取された血液ならびに女性から採取された血液に対する血中1,5−アンヒドログルシトール濃度の基準値が、それぞれ14μg/mlならびに10μg/mlである、請求項3に記載の方法。


【図1】
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【公開番号】特開2006−292521(P2006−292521A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−112648(P2005−112648)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【出願人】(505131452)
【Fターム(参考)】