説明

接合方法および接合システム

【課題】接合処理の後工程等において加熱処理が実行される場合においても、マイクロボイドの発生を抑制することが可能な接合技術を提供する。
【解決手段】エネルギー波を照射すること(プラズマ処理等)によって両被接合物のうち少なくとも一方の被接合物の接合表面にポーラス酸化物を生成し(ステップS10)、その後、ポーラス酸化物が生成された当該接合表面に適量の水分子を付着させる(ステップS20)。そして、接合表面に水分子を付着させた状態で両被接合物の接合表面を互いに接触させて加圧し、当該両被接合物を接合する(ステップS30)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの被接合物を接合する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
2つの被接合物の接合表面に対して酸素プラズマ処理を施して表面活性化した後に、両被接合物を接合する技術が存在する。
【0003】
例えば、特許文献1には、2つの被接合物の接合表面がプラズマ処理によって活性化された後、当該2つの被接合物の接合表面が対向状態にされて接合される技術が記載されている。
【0004】
また、この特許文献1には、表面研磨および洗浄工程後に、混合ガス(酸素および四フッ化炭素(CF)等の混合ガス)を用いたプラズマ処理を行い、両被接合物を接合する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2003−523627号公報
【特許文献2】特開平6−302486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような接合技術においては、接合後の後工程において比較的高温(たとえば700℃〜1000℃)で加熱処理が行われると、接合界面にマイクロボイドが発生するという問題が生じる。
【0007】
なお、このようなマイクロボイドは次のような事情によって発生すると考えられる。すなわち、上記の接合技術においては、微視的には、プラズマ処理後の接合表面にて酸素原子の一部がフッ素分子等に置換され、比較的大きなリング状の(仮想的な)鎖ができ、その鎖の中に水分子が捕捉される。そのため、比較的多量の水分子が接合界面に留まっている。そして、このような状態で加熱処理が行われると、残存していた水分子が接合界面から急激に排除される。このとき、当該水分子が存在していた部分がボイド(マイクロボイド)になるものと考えられる。
【0008】
そこで、この発明の課題は、接合処理の後工程等において加熱処理が実行される場合においても、マイクロボイドの発生を抑制することが可能な接合技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、請求項1の発明は、両被接合物を接合する接合方法であって、a)エネルギー波を照射することによって前記両被接合物のうち少なくとも一方の被接合物の接合表面にポーラス酸化物を生成する工程と、b)前記ポーラス酸化物が生成された前記少なくとも一方の被接合物の接合表面に適量の水分子を付着させる工程と、c)前記少なくとも一方の被接合物の接合表面に水分子を付着させた状態で前記両被接合物の接合表面を互いに接触させて加圧し、前記両被接合物を接合する工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1の発明に係る接合方法において、前記工程a)は、a−1)前記少なくとも一方の被接合物の前記接合表面にフッ素を供給する工程を有することを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明は、請求項2の発明に係る接合方法において、前記工程a−1)においては、フッ素の化合物を混合したガスを用いてプラズマ処理が実行されることによって、前記少なくとも一方の被接合物の前記接合表面にフッ素が供給されることを特徴とする。
【0012】
請求項4の発明は、請求項3の発明に係る接合方法において、前記工程a−1)においては、前記ガスにおける前記フッ素の化合物の混合量が制御されることを特徴とする。
【0013】
請求項5の発明は、請求項2の発明に係る接合方法において、前記工程a−1)においては、フッ素樹脂加工面を有する部材を前記少なくとも一方の被接合物の周囲に配置してプラズマ処理が実行されることを特徴とする。
【0014】
請求項6の発明は、請求項5の発明に係る接合方法において、前記工程a−1)においては、前記少なくとも一方の被接合物の前記接合表面の面積と前記少なくとも一方の被接合物の周囲に配置された前記フッ素樹脂加工面の露出面積との比が所定割合に設定された状態で前記プラズマ処理が実行されることを特徴とする。
【0015】
請求項7の発明は、請求項2の発明に係る接合方法において、前記工程a−1)においては、前記少なくとも一方の被接合物が配置されるチャンバ内にフッ素樹脂加工された部材が配置されて、プラズマ処理が実行されることを特徴とする。
【0016】
請求項8の発明は、請求項1ないし請求項7のいずれかの発明に係る接合方法において、前記工程b)は、b−1)前記少なくとも一方の被接合物の接合表面の湿度を制御する工程、を有することを特徴とする。
【0017】
請求項9の発明は、請求項8の発明に係る接合方法において、前記工程b−1)においては、前記少なくとも一方の被接合物の温度を制御することによって前記少なくとも一方の被接合物の接合表面の湿度が制御されることを特徴とする。
【0018】
請求項10の発明は、請求項1ないし請求項7のいずれかの発明に係る接合方法において、前記工程b)は、b−2)水ガスを供給する工程、を有することを特徴とする。
【0019】
請求項11の発明は、請求項10の発明に係る接合方法において、前記工程b−2)は、b−2−1)前記水ガスの供給量を制御する工程、を有することを特徴とする。
【0020】
請求項12の発明は、請求項10または請求項11の発明に係る接合方法において、前記工程b−2)においては、前記水ガスは水蒸気として供給されることを特徴とする。
【0021】
請求項13の発明は、請求項1ないし請求項12のいずれかの発明に係る接合方法において、d)前記工程b)と前記工程c)との間において、前記両被接合物のうち前記少なくとも一方の被接合物に対して窒素ラジカル処理を施す工程、をさらに備え、前記工程a)においては、酸素プラズマ処理によって、前記両被接合物のうち前記少なくとも一方の被接合物の接合表面にポーラス酸化物が生成されることを特徴とする。
【0022】
請求項14の発明は、請求項1ないし請求項13のいずれかの発明に係る接合方法において、前記工程c)は、前記両被接合物を大気圧空間に配置した状態で実行されることを特徴とする。
【0023】
請求項15の発明は、請求項1ないし請求項12のいずれかの発明に係る接合方法において、d)前記工程b)と前記工程c)との間において、前記両被接合物のうち前記少なくとも一方の被接合物に対して窒素ラジカル処理を施す工程、をさらに備え、前記工程a)においては、酸素プラズマ処理によって、前記両被接合物のうち前記少なくとも一方の被接合物の接合表面にポーラス酸化物が生成され、前記工程a)〜d)は、いずれも、前記両被接合物を真空中に配置して実行されることを特徴とする。
【0024】
請求項16の発明は、両被接合物を接合する接合システムであって、エネルギー波を照射し、前記両被接合物のうち少なくとも一方の被接合物の接合表面にポーラス酸化物を生成させるエネルギー波照射手段と、前記ポーラス酸化物が生成された前記少なくとも一方の被接合物の接合表面に適量の水分子を付着させる水分子供給手段と、前記少なくとも一方の被接合物の接合表面に水分子を付着させた状態で前記両被接合物を加圧して、前記両被接合物を接合する加圧手段と、を備えることを特徴とする。
【0025】
請求項17の発明は、請求項16の発明に係る接合システムにおいて、前記エネルギー波照射手段は、酸素とフッ素の化合物とを含む混合ガスを用いたプラズマ処理を実行するプラズマ処理手段を有することを特徴とする。
【0026】
請求項18の発明は、請求項16の発明に係る接合システムにおいて、前記エネルギー波照射手段は、前記少なくとも一方の被接合物の周囲にフッ素樹脂加工部材が配置されたチャンバ内において酸素プラズマ処理を実行するプラズマ処理手段を有することを特徴とする。
【0027】
請求項19の発明は、請求項16ないし請求項18のいずれかの発明に係る接合システムにおいて、前記少なくとも一方の被接合物の温度を制御することによって前記少なくとも一方の被接合物の接合表面の湿度を制御する温度制御手段、をさらに備えることを特徴とする。
【0028】
請求項20の発明は、請求項16ないし請求項18のいずれかの発明に係る接合システムにおいて、前記少なくとも一方の被接合物に対して水ガスを供給する水ガス供給手段、をさらに備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
請求項1ないし請求項20に記載の発明によれば、ポーラス酸化物を有する接合表面に水分子が付着され、少なくとも一方の接合表面に適量の水分子が付着した状態で両接合表面が加圧され、両接合表面が接合される。接合時には、接合界面に存在する水分子が両接合表面を互いに引き寄せる作用を奏するため、両接合表面が良好に密着し接合される。また、接合時および接合後においては、接合表面のポーラス酸化物の孔を通って水分子が接合表面から排除され、良好な接合が実現される。特に、接合表面に適量の水分子が付着した状態で両被接合物が接合されており、接合後において接合界面から水分子が徐々に排除され、余分な水分子が接合界面に残留せずに済むため、更にその後に両被接合物が仮に加熱されたとしても、その接合界面におけるマイクロボイドの発生が抑制される。
【0030】
特に、請求項2に記載の発明によれば、接合表面にフッ素が供給されることによって、良好な接合強度を得ることができる。
【0031】
また特に、請求項4に記載の発明によれば、非常に良好な接合強度を得ることができる。
【0032】
また特に、請求項5ないし請求項7に記載の発明によれば、フッ素ガスの供給を伴わずにフッ素が接合表面に供給され、良好な接合強度が得られる。
【0033】
また特に、請求項15に記載の発明によれば、真空中で接合する場合においても、良好な接合強度を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】第1実施形態に係る接合システムを示す図である。
【図2】接合システムにおけるプラズマ装置の断面図である。
【図3】接合システムにおける接合装置の断面図である。
【図4】第1実施形態に係る動作を示すフローチャートである。
【図5】プラズマ照射処理を示す概念図である。
【図6】水分子付着処理を示す概念図である。
【図7】接近動作を示す概念図である。
【図8】加圧動作を示す概念図である。
【図9】汚染物が接合表面に付着した状態を示す概念図である。
【図10】酸素原子とフッ素原子とが接合表面に付着した状態を示す概念図である。
【図11】水分子が接合表面に付着した状態を示す概念図である。
【図12】両被加圧物が水分子を挟んで接近した状態を示す概念図である。
【図13】加圧後の接合状態を示す概念図である。
【図14】接合界面から水が排出される様子を示す概念図である。
【図15】接合された両被接合物をさらに加熱したときのボイド発生率を示す図である。
【図16】比較例に係る両被接合物を700℃で加熱した後のボイドの発生状況を示す図である。
【図17】第1実施形態に係る両被接合物を700℃で加熱した後のボイドの発生状況を示す図である。
【図18】様々な処理時間でプラズマ処理した両被接合物をさらに加熱したときのボイド発生率を示す図である。
【図19】プラズマ処理時間が10秒に設定されたときのボイドの発生状況を示す図である。
【図20】CFガスの供給量の変更に伴って、接合強度が変化する様子を示す図である。
【図21】接合エネルギー(接合強度)の測定手法について説明する図である。
【図22】被接合物の接合表面の湿度の変更に伴って、接合エネルギーが変化する様子を示す図である。
【図23】第2実施形態に係る接合システムを示す断面図である。
【図24】第3実施形態に係る接合システムを示す上面図である。
【図25】第4実施形態に係る接合システムのプラズマ装置を示す断面図である。
【図26】ステージ付近の様子を示す図である。
【図27】第4実施形態に係る両被接合物の接合エネルギーを示す図である。
【図28】第5実施形態に係る両被接合物の接合エネルギーを示す図である。
【図29】第6実施形態における動作を示すフローチャートである。
【図30】第6実施形態に係る実験結果等を示す図である。
【図31】変型例に係る実験結果等を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0036】
<1.第1実施形態>
<1−1.システム構成>
<概要>
図1は、本発明の第1実施形態に係る接合システム1(1Aとも称する)を示す図である。図1に示すように、接合システム1Aは、プラズマ装置10と接合装置20とを備えている。2つの被接合物91,92(図2および図3等参照)の接合表面が、それぞれ、プラズマ装置10でプラズマ処理された後、接合装置20にて対向され相対的に接近され接合される。
【0037】
この接合システム1は、被接合物91の接合表面と被接合物92の接合表面とをエネルギー波照射(プラズマ照射等)で活性化させ、両被接合物91,92を接合するシステムである。この接合システム1によれば、両被接合物91,92の接合表面に対して表面活性化処理を施すとともに、当該両被接合物91,92を固相接合することが可能である。特に、後述するように、両被接合物91,92の接合表面に対して水分子供給処理が施されること等によって、両被接合物91,92が良好に接合される。
【0038】
この実施形態では、被接合物91,92として、Si(シリコン)(より詳細には半導体シリコンウエハ)を用いる場合を例示する。ただし、本発明はこれに限定されず、被接合物の材料として、様々な種類の材料を用いることができる。たとえば、SiO(二酸化珪素),SiC(炭化珪素),SiN(窒化珪素),Ge(ゲルマニウム),Cu(銅),Al(アルミニウム),Al(酸化アルミニウム),LiTaO(タンタル酸リチウム),LiNbO(ニオブ酸リチウム)などの各種の材料を用いることができる。
【0039】
なお、両被接合物91,92の接合表面には予め表面平滑化処理(鏡面処理等)が施されていることが好ましい。
【0040】
<プラズマ装置>
図2は、接合システム1Aにおけるプラズマ装置10(10Aとも称する)の断面図である。プラズマ装置10は、被接合物の接合表面をエネルギー波照射(プラズマ照射等)で活性化させる装置であることから、表面活性化処理装置などとも表現される。また、プラズマ装置10は、プラズマ処理によって被接合物の接合表面にポーラス酸化物を生成させる(後述)ことから、ポーラス酸化物生成処理装置であるとも表現される。なお、ここでは、プラズマ装置10Aとして、RIE(Reactive Ion Etching:反応性イオンエッチング)方式のプラズマ処理装置を例示する。ただし、これに限定されず、他の種類のプラズマ処理装置を用いるようにしてもよい。
【0041】
プラズマ装置10Aは、各被接合物91,92の処理空間であるチャンバ11と、チャンバ11に対して各種のガスを供給するガス供給口17と、チャンバ11内のガスをチャンバ11の外部へ排気する排気口18とを備えている。
【0042】
排気口18は、排気弁(不図示)を介して真空ポンプ(不図示)に接続されており、真空ポンプの吸引動作に応じてチャンバ11内の圧力が低減(減圧)されることによって、チャンバ11の内部空間は真空状態にされる。また、排気弁は、その開閉動作と排気流量の調整動作とによって、チャンバ11内の真空度を調整することができる。
【0043】
ガス供給口17からは、各種のガスがチャンバ11の内部に対して供給される。この実施形態においては、O(酸素)ガスとCF(四フッ化炭素)ガスとの混合ガスが、プラズマ反応ガスとして、ガス供給口17からチャンバ11の内部に対して供給される。
【0044】
プラズマ装置10Aは、上面視略円形状のステージ14を有している。ステージ14は、その中心部付近に電極部材15を有し、当該電極部材15の周囲に、上面視略円環形状の支持部材16を有している。支持部材16は、各種の材料(ここでは水晶)で構成される。
【0045】
チャンバ11は、電気的に接地(アース)されている。電極部材15に所定周波数の電源電圧が印加されると、チャンバ11内の混合ガス(O(酸素)とCF(四フッ化炭素)との混合ガス)をプラズマ反応ガスとして、各被接合物91,92の接合表面に対して、それぞれ、プラズマ処理が実行される。
【0046】
<接合装置>
図3は、接合システム1Aにおける接合装置20(20Aとも称する)の断面図である。図3においては、便宜上、XYZ直交座標系を用いて方向等を示している。
【0047】
接合装置20Aは、チャンバ29内で、被接合物91と被接合物92との位置合わせ動作(アライメント動作)を行い、その対向面に表面活性化処理が施された両被接合物91,92を接合する装置である。この装置20Aによれば、両被接合物91,92を固相接合することが可能である。なお、両被接合物91,92は、それぞれ、アライメント動作の対象物であるとも表現される。
【0048】
接合装置20Aは、両被接合物91,92の処理空間であるチャンバ29を備える。
【0049】
両被接合物91,92は、プラズマ装置10にてプラズマ処理(ポーラス酸化物の生成処理)が施された後、チャンバ29内に配置される。具体的には、上側の被接合物92は、その接合表面が下向きに配置された状態で、ヘッド22によって保持される。同様に、下側の被接合物91は、その接合表面が上向きに配置された状態で、当該ステージ21によって保持される。
【0050】
ヘッド22およびステージ21は、いずれも、チャンバ29内に設置されている。ヘッド22は、アライメントテーブル23によってX方向およびY方向に移動(並進移動)されるとともに、回転駆動機構25によってθ方向(Z軸回りの回転方向)に回転される。ヘッド22は、後述する位置認識部28等による位置検出結果等に基づいてアライメントテーブル23および回転駆動機構25によって駆動され、X方向、Y方向、θ方向におけるアライメント動作が実行される。
【0051】
ヘッド22は、Z軸昇降駆動機構26によってZ方向に移動(昇降)される。Z軸昇降駆動機構26は、不図示の圧力検出センサにより検出した信号に基づいて、接合時の加圧力を制御することができる。
【0052】
また、ヘッド22は、温度調節部22tを内蔵している。温度調節部22tは、ヒータと空冷式の冷却部とを有しており、当該ヘッド22の温度を変更(加熱および冷却)することによって、ヘッド22に保持された被接合物92の温度を変更することができる。また、ヘッド22には被接合物91の表面温度を測定する温度センサ22s(不図示)が配置されている。接合装置20Aは、温度センサ22sによる測定温度に基づいて被接合物92の表面温度を制御することが可能である。
【0053】
ステージ21も同様である。ステージ21は、温度調整部21tと温度センサ21sとを有しており、被接合物91の表面温度を制御することが可能である。
【0054】
さらに、接合装置20Aは、被接合物91,92の位置を認識する位置認識部28を備えている。
【0055】
位置認識部28は、カメラ等を有しており、両被接合物91,92に付されたパターンの位置を認識することが可能である。そして、位置認識部28により認識された位置情報に基づき、アライメントテーブル23と回転駆動機構25とによって、ヘッド22が2つの並進方向(X方向およびY方向)と回転方向(θ方向)とに駆動される。これにより、両被接合物91,92が相対的に移動される。このようにして、両被接合物91,92の位置合わせ動作(アライメント動作)が実行される。
【0056】
<1−2.動作>
つぎに、接合システム1における接合動作等について説明する。図4は、当該動作を示すフローチャートである。
【0057】
<概要>
まず、プラズマ装置10A(図1および図2参照)において、両被接合物91,92の各接合表面に対して、それぞれ、プラズマ処理が施される(ステップS10)。
【0058】
このプラズマ処理によって、接合表面における自然酸化物などの不純物(塵埃を含む)が除去される。端的に言えば、接合表面に対する洗浄処理(ドライ洗浄処理)が施される。また、当該プラズマ処理によって、両被接合物91,92の接合表面に対する表面活性化処理も施され、両被接合物91,92の接合表面には、酸素原子が付着される。換言すれば、両被接合物91,92の接合表面に向けてエネルギー波が照射され、両被接合物91,92の接合表面が活性化される。特に、当該プラズマ処理による酸素原子の付着等に伴って、両被接合物91,92の接合表面にはポーラス酸化物(多孔質の酸化物、換言すれば通水性を有する酸化物)が生成される。後述するように、ポーラス酸化物が接合表面に形成されることによって、両被接合物91,92の接合界面から、水分子が良好に排出される。さらに、このプラズマ処理では、接合表面にフッ素原子も付着される。
【0059】
プラズマ処理が施された両被接合物91,92は、それぞれ、接合装置20(図1および図3参照)に向けて搬送される。そして、接合装置20内において、2つの被接合物91,92の接合表面が所定距離離間されて対向配置される。
【0060】
また、接合装置20Aにおいては、水分子の付着処理(後述)も実行される(ステップS20)。当該水分子の付着処理においては、プラズマ処理によってポーラス酸化物が生成された両被接合物91,92の接合表面に、それぞれ、水分子が付着される。なお、ここでは、接合装置20Aにおいて水分子の付着処理が実行される場合を例示するが、これに限定されず、プラズマ装置10内あるいは他の装置等において水分子の付着処理が実行されるようにしてもよい。
【0061】
その後、接合装置20Aにおいて、両被接合物91,92の接合表面が相対的に近接し接合される(ステップS30)。具体的には、両被接合物91,92の接合表面に水分子が付着した状態で両被接合物91,92の接合表面を互いに接触させて加圧し、両被接合物91,92が接合される。
【0062】
接合された両被接合物91,92は、大気圧下にて所定期間(たとえば24時間)にわたって放置される(ステップS40)。
【0063】
<詳細動作>
図5〜図8は、動作中における各両被接合物91,92の状態を示す概念図である。以下では、図4に加えて、図5〜図8をも参照しながら、接合システム1における接合動作等についてさらに詳細に説明する。
【0064】
まず、ステップS10(図4)において、被接合物91の接合表面に対するプラズマ処理がプラズマ装置10A(図1および図2参照)を用いて施される(図5参照)。具体的には、O(酸素)とCF(四フッ化炭素)との混合ガスが、プラズマ反応ガスとして、ガス供給口17からチャンバ11の内部に対して供給される。そして、電源電圧が電極部材15に印加され、被接合物91の接合表面に対して、プラズマ処理が実行される。プラズマ処理時間は、比較的短い時間(たとえば、十秒程度から数十秒程度)であることが好ましい。また、後述するように、混合ガスにおけるCF(四フッ化炭素)の混合量は、所定の目標値に制御されることが好ましい。なお、このプラズマ処理は、チャンバ内の圧力を所定の低圧力(たとえば数十Pa(パスカル))にまで減圧した状態で実行される。
【0065】
被接合物91に対するプラズマ処理が終了すると、被接合物91はステージ14(図1)から取り外される。そして、当該被接合物91の代わりに、今度は、他方の被接合物92がステージ14に保持される。
【0066】
そして、他方の被接合物92の接合表面に対しても、プラズマ装置10Aにおいて同様のプラズマ処理が施される。被接合物92に対するプラズマ処理が終了すると、被接合物92はステージ14から取り外される。
【0067】
このようにしてプラズマ処理が施された両被接合物91,92は、それぞれ、接合装置20Aへと大気搬送され、接合装置20A内に配置される。具体的には、被接合物91は、その接合表面が上側に配置された状態で、当該ステージ21(図3)によって保持される。一方、被接合物92は、反転装置(不図示)によって上下面が反転され、その接合表面が下側に配置された状態で、ヘッド22によって保持される。当該2つの被接合物91,92は、その接合表面が互いに所定距離離間された状態で、接合装置20A内において対向配置される。なお、この実施形態においては、接合装置20Aのチャンバ29の内部空間の圧力は、大気圧であるものとする。
【0068】
次のステップS20においては、両被接合物91,92に対する水分子供給処理(水分子付着処理)が実行される(図6参照)。すなわち、プラズマ処理(ステップS10)によってポーラス酸化物が生成された両被接合物91,92の接合表面に、それぞれ、水分子が付着される。
【0069】
詳細には、接合装置20Aは、各被接合物91,92の接合表面の温度TM1をそれぞれ制御することによって、各被接合物91,92の接合表面の湿度HM1をそれぞれ所望の値に調整し、両被接合物91,92の接合表面に水分子を付着させる。
【0070】
被接合物の接合表面の湿度HM1は、環境温度TM0と環境湿度HM0と被接合物の接合表面の温度TM1とを用いて、式(1)のように表現される。
【0071】
【数1】

【0072】
ここでは、この式(1)に基づいて、各被接合物91,92の接合表面の湿度HM1をそれぞれ所望の値HMd(たとえば75%程度)に調整する。たとえば、環境温度TM0が25℃であり且つ環境湿度HM0が50%である場合には、被接合物91を冷却して被接合物91の温度TM1を約17℃にまで低減することによって、被接合物91の湿度HM1を約75%に調整することができる。被接合物92についても同様である。なお、このような湿度HM1の調整期間は、10秒前後から数分程度にわたって行われる。このようにして、被接合物91,92の接合表面の湿度HM1を所定の値に制御することによって、被接合物91,92の接合表面に適切な量の水分子が供給される。
【0073】
次のステップS30においては、常温(室温)且つ大気圧のチャンバを有する接合装置20において、両被接合物91,92の接合表面が相対的に近接し(図7)、両被接合物91,92の接合表面が接合される(図8)。具体的には、両被接合物91,92の接合表面に水分子が付着した状態で両被接合物91,92の接合表面を互いに接触させて加圧し、両被接合物91,92が接合される。例えば、約10(10の5乗)Pa(パスカル)程度〜約10(10の7乗)Pa(パスカル)程度の比較的小さな接合圧力(加圧力)が付与されることにより、両被接合物91,92が良好に接合され得る。
【0074】
さらに、次のステップS40においては、ステップS30で加圧接合された両被接合物91,92を所定期間(たとえば約24時間)に亘って、常温且つ大気圧中で放置(保存)する。なお、当該保存処理は、接合装置20の内部で行われてもよく、あるいは、接合装置20の外部で行われてもよい。
【0075】
以上のような接合動作によれば、両被接合物91,92は、非常に良好に接合される。具体的には、後述するように、両被接合物91,92は、十分な結合エネルギーを有する状態で結合される。また、両被接合物91,92の接合界面におけるボイドの発生も抑制される。さらに、両被接合物91,92は、大気圧空間において非常に良好に接合される。また、両被接合物91,92は、常温で非常に良好に接合される。特に、両被接合物91,92は、必ずしもアニーリング処理を伴うことを要しない。さらに、両被接合物91,92は、ウエット化学洗浄処理を伴うことなく、非常に良好に接合される。
【0076】
<原理>
つぎに、上記の接合原理等について、図9〜図13を参照しながら説明する。
【0077】
まず、ステップS10のプラズマ処理(図4および図5参照)によって、被接合物91の接合表面から、図9に示すような自然酸化物等の汚染物(コンタミネーション)CTが除去される。
【0078】
また、当該プラズマ処理によって、酸素原子が被接合物91の接合表面に付着し、当該接合表面にポーラス酸化物が生成される(図10参照)。当該ポーラス酸化物は、比較的厚い膜(たとえば、SiO(二酸化珪素)の薄膜等)として生成されるものであってもよいが、これに限定されず、当該接合表面上において、1個ないし数個の原子分の厚さを有する部分として生成されるものであってもよい。また、被接合物91の接合表面には、酸素原子のみならずフッ素原子も付着する(図10参照)。
【0079】
その後、ステップS20の水分子付着処理(図6参照)によって、図11に示すように被接合物91の接合表面に水分子が付着する。このとき、水分子は、(プラズマ処理(ステップS10)にて生成された)ポーラス酸化物に付着する。また、当該接合表面には、水酸基も付着している。
【0080】
なお、被接合物92についても同様である。すなわち、ステップS10のプラズマ処理によって、被接合物92の接合表面から汚染物CTが除去されるとともに、酸素原子とフッ素原子とが被接合物92の接合表面に付着し、当該接合表面にポーラス酸化物が生成される。また、ステップS20の水分子付着処理によって、(ポーラス酸化物が生成されている)被接合物92の接合表面に水分子が付着される。当該接合表面には、水酸基も付着している。
【0081】
さらに、ステップS30の加圧接合処理の結果、図12に示すように、両被接合物91,92の接合界面に水分子の層(端的に言えば、「水の膜」)が存在する状態で両被接合物91,92の接合表面が互いに接合される。特に、接合時には、接合界面に存在する水分子が、両被接合物相互間の隙間を埋めて当該両接合表面を互いに引き寄せる作用を奏するため、両接合表面が良好に密着し接合される。
【0082】
そして、ステップS40においては、両被接合物91,92が加圧接合された状態で保存される。この保存処理によって、水分子が両被接合物91,92の接合界面から徐々に(じわじわと)抜け出していき、両被接合物91,92が良好に接合される(図13参照)。この際、両被接合物91,92の接合表面には、ポーラス酸化物が存在するため、ポーラス酸化物の「孔」を通って、水分子が接合界面の外部へと(詳細には、両被接合物91,92の接合部分の外周部等に向けて)良好に排出される(図14参照)。ここにおいて、ポーラス酸化物の「孔」が平面的に連結されることにより、両被接合物91,92の接合界面には、水分子が通過可能な空洞が接合界面付近において網の目状に存在している(すなわち水分子が通過可能な「道」が存在する)。水分子はこのような「道」を通過して、図14に示すように、両被接合物91,92の外縁部へと到達して接合界面から除去され得る。このようにして、良好な接合が実現される。なお、接合の過程においては、被加圧物91の水酸基(OH基)と被加圧物92の水酸基(OH基)とが互いに結合する水酸基結合も介在する。当該水酸基結合においては、両水酸基から水分子が放出され、Si−O−Siの強固な共有結合が得られる。
【0083】
この実施形態に係る動作においては、以上のようにして、ポーラス酸化物を有する接合表面に水分子が付着され(ステップS20)、適量の水分子が接合表面に付着した状態で両被接合物が加圧されて接合される(ステップS30)。
【0084】
ここにおいて、両被接合物91,92の接合時(ステップS30)には、接合界面に存在する水分子が両接合表面の隙間を埋めて両接合表面を互いに引き寄せる作用を奏するため、両接合表面が良好に密着し接合される。
【0085】
ところで、その他の従来の接合技術として、特許文献2(特開平6−302486号公報)に示すものが存在する。特許文献2の技術においては、接合表面に対する水分子の噴射によって接合表面に水分子と水酸基とを吸着させた後に、当該接合表面から水分子を除去する処理が行われる。そして、接合表面に残留した水酸基を専ら用いて接合処理が行われる。このような技術においては、接合表面の水酸基を専ら用いて接合処理が行われるため、接合表面に対して非常に近い距離に対向接合部分が存在しないと良好な接合が実現されない。そのため、被接合物に微小な反りが存在する場合には、当該反りの影響で対向部分が比較的遠い位置に存在する領域においては、良好な接合が実現されない。
【0086】
これに対して、上記実施形態に係る接合技術においては水分子を介した接合(ステップS30)が行われるため、比較的遠い位置に対向部分が存在する場合でも水分子の吸着力によって両被接合物が互いに引き寄せられる。したがって、被接合物に微小な反りが存在する場合においても、当該反りの影響が緩和され、良好な接合が実現され得る。
【0087】
このように、水分子を利用することによって、両被接合物91,92を良好に密着させて接合することが可能である。
【0088】
また、上述のようにステップS30においては両被接合物91,92が加圧されて接合され、ステップS40においては、両被接合物91,92が加圧された状態で保存される。そのため、ステップS30,S40においては、接合表面のポーラス酸化物の「孔」を通って水分子が接合表面から徐々に(じわじわと)排除される。そのため、余分な水分子が接合界面に残留せずに済む。すなわち、接合界面から水分子が良好に排除される。
【0089】
特に、上記のステップS10においては、CFガスをも用いた酸素プラズマ処理が行われているため、両被接合物91,92の各接合表面におけるポーラス酸化物にはフッ素も結合している。そして、このフッ素の影響によって、接合表面の水分子の量(ひいては接合界面における水分子の残存量)が適切に制御され、良好な接合が実現される。
【0090】
後述するように、ステップS10にてCFガスを用いた酸素プラズマ処理が行われない場合には、接合界面の水分子の量が多過ぎることなどに起因して、接合強度が若干低下する。
【0091】
一方、ステップS10にてCFガスをも用いた酸素プラズマ処理が行われる場合には、次述するように接合表面の疎水性が増大することによって、接合表面には適量の水分子が付着する。
【0092】
詳細には、接合表面にフッ素が結合している状態と接合表面にフッ素が結合していない状態とを比較すると、前者(フッ素が結合している状態)における接合表面の親水性の程度は、後者における接合表面の親水性の程度よりも若干低い。換言すれば、前者は後者に比べて、接合表面における疎水性が若干増大する。したがって、各被接合物91,92の接合表面の水分子の量は、当該接合表面に酸素原子のみが存在する場合(フッ素が結合していない状態)に比べて若干減少する。これにより、多過ぎた水分子の量が低減され、接合表面には適量の水分子が付着する。
【0093】
その結果、ステップS30の接合後における接合界面における水分子の量が適切に制御され、ステップS40の後においては、図13に示すように、接合状態の両被接合物91,92の接合界面には、適量の水分子(若干低減された量の水分子)が残留する。すなわち、接合界面の水分子の量は適切に制御される。
【0094】
このように、ステップS10でフッ素が接合表面に付着することにより、接合表面の親水性の程度が低減されているため、ステップS20での水分子の付着量が適切に制御(低減)され、接合界面における水分子の量が適切に制御される(図12,図13参照)。そして、ステップS40の処理後における接合界面での当該水分子の残留量も適切に調整(低減)される。
【0095】
そのため、ステップS40の処理後において、仮に両被接合物が加熱されることがあるとしても、その接合界面におけるマイクロボイドの発生が抑制される。具体的には、上述したように、本発明に係る接合処理(接合工程)の後工程において、接合状態の被接合物91,92が加熱される場合においても、水分子が接合界面から既に良好に排出されているため、残留水分子に起因するマイクロボイドの発生を抑制することができる。
【0096】
図15〜図17は、加熱による影響を説明する図である。
【0097】
図15の曲線L1は、上記のステップS40の後にアニーリングプロセスがさらに実行された両被接合物91,92におけるボイド発生率を表している。「ボイド発生率」は、被接合物の接合表面の全面積中に占める「ボイド」の面積の割合、を表している。なお、図15においては、様々なアニーリング温度(具体的には、100℃,200℃,300℃,400℃,500℃,600℃,700℃,800℃)による実験結果が示されている。
【0098】
また、図15においては、曲線L2も示されている。曲線L2は、比較例に係る両被接合物91,92におけるボイド発生率を示している。当該比較例に係る両被接合物91,92においては、上記実施形態と同様の処理(ただし、ステップS10にて、酸素ガスのみ(CF4ガスを含まないガス)をプラズマ反応ガスとしてプラズマ処理が施される点で上記実施形態とは異なる処理)が施されている。詳細には、曲線L2は、当該比較例に係る両被接合物91,92に対してアニーリングプロセスがさらに実行されたときのボイド発生率を表している。
【0099】
図15に示すように、たとえば、アニーリングプロセスにて700℃にまで加熱される場合には、比較例に係る両被接合物のボイド発生率が約13%程度であるのに対して、上記実施形態に係る両被接合物のボイド発生率は約4%程度である。
【0100】
また、図16は、比較例に係る両被接合物を700℃で加熱した後のボイドの発生状況(実験結果)を示す図であり、図17は、上記実施形態に係る両被接合物を700℃で加熱した後のボイドの発生状況(実験結果)を示す図である。
【0101】
特に図17と図16とを比較すると判るように、後工程等にて比較的高温(ここでは700℃)での加熱が行われる場合においても、上記実施形態によれば、ボイド(特にマイクロボイド)の発生が抑制される。これは、ステップS10でフッ素が添加されることによって、接合表面における水分子の残留量が適切に低減され、ステップS40の処理後における接合界面での当該水分子の残留量が適切に調整(低減)されているためである。
【0102】
また、図18は、図15と同様、ボイド発生率を示す図である。ただし、図18においては、上記実施形態におけるプラズマ処理時間を変更して取得された実験データ(曲線L11〜L14)が示されている。曲線L11は、プラズマ処理時間が10秒に設定されたときの実験結果を示す曲線であり、曲線L12は、プラズマ処理時間が30秒に設定されたときの実験結果を示す曲線である。同様に、曲線L13は、プラズマ処理時間が60秒に設定されたときの実験結果を示す曲線であり、曲線L14は、プラズマ処理時間が120秒に設定されたときの実験結果を示す曲線である。図18に示すように、特に比較的高温(たとえば700℃)に加熱される場合には、ステップS10でのプラズマ処理時間は比較的短いこと(たとえば10秒程度であること)が好ましい。また、図19は、プラズマ処理時間が10秒に設定されたときの実験結果を示す図である。図19の実験結果においては、ボイドが非常に良好に低減されている様子が示されている。
【0103】
なお、上記実施形態においては、常温で両被接合物91,92を接合し保存する場合を例示しているが、これに限定されない。たとえば、接合後において所定温度(たとえば、100℃〜300℃程度)にまで加熱(アニーリング)するようにしてもよい。あるいは、常温よりも高い温度で保存動作を行うようにしてもよい。
【0104】
<1−3.CFガス混合量の調整>
また、上述の接合動作においては、酸素ガスとCFガスとの混合ガスを用いてプラズマ処理が実行されることによって、両被接合物91,92の接合表面にフッ素が供給される。より良好な接合を実現するためには、接合表面へのフッ素の供給量は適切に調整されることが好ましい。詳細には、ステップS10でのCFガスの混合量(混合比)が適切に調整されることが好ましい。換言すれば、CFなどの、フッ素の化合物(フッ化物)の混合量が制御されることが好ましい。
【0105】
図20は、ステップS10でのCFガスの供給量(CFガスの混合量)の変更に伴って、接合強度が変化する様子を示す図である。図20においては、室温での接合動作が実行された場合(且つアニーリングを伴わない場合)における実験データが示されている。なお、接合強度(接合エネルギー)γは、図21に示すように、ブレードBDを両被加圧物91,92の接合界面に挿入したときのクラックの長さLに基づいて、次の式(2)に従って算出される。
【0106】
【数2】

【0107】
ここで、記号Eはヤング率であり、記号tbはブレードBDの厚さであり、記号twは被接合物(ここでは半導体ウエハ)の厚さである。
【0108】
図20における複数のデータは、酸素ガスの流量を一定値(ここでは、500(sccm(standard cc/min)))とし、CFガスの流量を変更して取得されたデータである。CFガスの流量の大きさは、酸素ガスの流量に対する相対値(O原子に対するF原子の混合比(詳細には、F原子の原子百分率(Famount))に換算しても表現される。たとえば、酸素ガスの流量が500(sccm)に設定され且つCFガスの流量が2.0(sccm)に設定されるときには、当該混合比は、0.8(at.%(原子百分率))であると表現される。
【0109】
また、図20における複数のデータは、プラズマ照射時間を60秒に設定し且つチャンバ内圧力を50MPa(メガパスカル)に設定して取得されたものである。
【0110】
図20に示すように、CFガスの流量(混合量)が、0.25(sccm)以上4.25(sccm)以下の範囲の値を有するときには、接合エネルギーとして、1.0(J/m)以上の値が得られている。すなわち、十分に強固な接合が実現されている。
【0111】
また、CFガスの混合量が、0.75(sccm)以上2.0(sccm)以下の範囲値を有するときには、接合エネルギーとして2.0(J/m)以上の値が得られている。すなわち、非常に強固な接合が実現されている。さらに、CFガスの混合量が、1.0(sccm)以上1.5(sccm)以下の値を有するときには、接合エネルギーとして2.25(J/m)以上の値が得られている。すなわち、特に非常に強固な接合が実現されている。
【0112】
そのため、CFガスの混合量は適切な値に調整されることが好ましい。たとえば、0.25(sccm)以上4.25(sccm)以下の範囲の値となるように、CFガスの流量が決定されることが好ましい。また、0.75(sccm)以上2.0(sccm)以下の範囲の値となるように、CFガスの流量が決定されることが、より好ましい。さらに、1.0(sccm)以上1.5(sccm)以下の範囲の値となるように、CFガスの流量が決定されることが、さらに好ましい。なお、上記実施形態の実験例においては、CFガスの混合量が、1.25(sccm)の値を有するように、CFガスの流量が決定されている。
【0113】
このように、上述のような接合動作においては、CFガスの供給量が適切に調整されることが好ましい。
【0114】
<1−4.接合表面湿度の調整>
また、上述のような接合動作において、より良好な接合を実現するためには、特に、ステップS20での水分子付着量が適切に調整されることが好ましい。より詳細には、両被接合物91,92の接合表面の湿度HM1が適切に調整されることが好ましい。
【0115】
図22は、被接合物91(,92)の接合表面の湿度HM1の変更に伴って、接合強度が変化する様子を示す図である。なお、図22は、常温での接合動作が実行された場合(且つアニーリングを伴わない場合)における実験データを示す図である。この実験データは、CFガスの混合量を1.25(sccm)に設定するとともに、他の条件を図20のデータと同様の条件に設定して取得されたものである。
【0116】
図22に示すように、表面湿度HM1が、50%以上100%以下の範囲の値を有するときには、接合エネルギーとして、1.5(J/m)以上の値が得られている。すなわち、十分に強固な接合が実現されている。また、表面湿度HM1が、60%以上90%以下の範囲の値を有するときには、接合エネルギーとして2.0(J/m)以上の値が得られている。すなわち、非常に強固な接合が実現されている。さらに、表面湿度HM1が、70%から80%までの値を有するときには、接合エネルギーとして2.5(J/m)以上の値が得られている。すなわち、特に非常に強固な接合が実現されている。
【0117】
したがって、表面湿度HM1は、60%以上90%以下の範囲の値を有するように制御されることが、より好ましく、70%以上80%以下の範囲の値を有するように制御されることが更に好ましい。なお、上記実験例(図20参照)においては、両被接合物91,92の表面湿度HM1は、それぞれ、約75%の値を有するように制御されている。
【0118】
このように、上述のような接合動作においては、表面湿度HM1も適切に調整されることが好ましい。
【0119】
<2.第2実施形態>
第2実施形態は、第1実施形態の変形例である。上記第1実施形態においては、ポーラス酸化物生成処理と接合処理とは互いに異なる処理室で実行される場合を例示したが、この第2実施形態においては、ポーラス酸化物生成処理と接合処理とを含む全ての処理が1つの処理室内において実行される場合を例示する。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0120】
図23は、第2実施形態に係る接合システム1(1Bとも称する)を示す図である。この接合システム1Bは、上述のプラズマ装置10Aの機能と接合装置20Aの機能との双方を兼ね備えている。
【0121】
詳細には、接合システム1Bは、ステージ51とヘッド52とアライメントテーブル53と回転駆動機構55とZ軸昇降駆動機構56と位置認識部58とチャンバ59とを備えている。
【0122】
これらの各部分51,52,53,55,56,58,59は、それぞれ、第1実施形態における部分21,22,23,25,26,28,29と同様の構成を備えており、接合システム1Bは、接合装置として機能する。
【0123】
また、上述の各部分51,52,59は、それぞれ、第1実施形態における部分14,14,11と同様の構成をも備えるとともに、接合システム1Bは、ガス供給口47と排気口48とをさらに備える。これにより、接合システム1Bのチャンバ59内の空間は、プラズマ処理空間としても機能する。すなわち、接合システム1Bは、プラズマ装置としても機能する。
【0124】
そして、この接合システム1Bにおいて、上述のステップS10〜S40の各処理と同様の処理が実行される。
【0125】
具体的には、まず、ステップS10において、ステージ51により保持された被接合物91とヘッド52により保持された被接合物92とに対してプラズマ処理が実行される。接合システム1Bにおいては、プラズマ処理の終了後においては、チャンバ59内の圧力は大気圧に戻されるものとする。
【0126】
その後、ステップS20においては、ステージ51の温度調整によって被接合物91の接合表面の湿度が制御されるとともに、ヘッド52の温度調整によって被接合物92の接合表面の湿度が制御される。これにより、両被接合物91,92の各接合表面に対する水分子供給処理が実行される。
【0127】
さらに、ステップS30において、Z軸昇降駆動機構56の下降動作によって、両被接合物91,92の接合表面が相対的に近接し接合される。
【0128】
また、ステップS40においては、ステップS30で加圧接合された両被接合物91,92が所定期間(たとえば約24時間)に亘って大気圧中で放置(保存)される。なお、当該保存処理は、チャンバ59の内部で行われてもよく、あるいは、チャンバ59の外部で行われてもよい。
【0129】
以上のような態様によっても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0130】
<3.第3実施形態>
第3実施形態は、第1実施形態の変形例である。以下では、第1実施形態の相違点を中心に説明する。
【0131】
図24は、第3実施形態に係る接合システム1(1C)を示す上面図である。当該接合システム1Cは、導入部105とプラズマ処理部110と接合処理部120と反転部130と搬送部150と搬送ロボット(搬送装置)RB1とを備えている。これらの各処理部105,110,120,130,150は、それぞれ、減圧装置に接続されており真空状態を形成することが可能である。ただし、ここでは、接合処理部120における水分子供給処理お加圧接合処理等は、大気圧で実行されるものとする。
【0132】
搬送部150は、その他の処理部105,110,120,130に接続される被接合物搬送用の処理室であり、搬送ロボットRB1を備えている。搬送部150に設置された搬送ロボットRB1は、被接合物を複数の処理部110,120,130,140の相互間で移動させることができる。ここでは、搬送中の再付着防止の観点から、搬送ロボットRB1は被接合物を真空状態で搬送(真空搬送)するものとする。
【0133】
また、プラズマ処理部110は、上述のプラズマ装置10Aと同様の構成を有しており、接合処理部120は、上述の接合装置20Aと同様の構成を有している。また、反転部130は、被接合物の上下を反転させる処理部である。反転部130は、被接合物を回転して反転する反転部材を有している。
【0134】
そして、この接合システム1Cにおいて、上述のステップS10〜S40の各処理と同様の処理が実行される。
【0135】
このような態様によっても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0136】
<4.第4実施形態>
上記第1実施形態においては、CFガスを用いてプラズマ処理が実行されることによって、両被接合物91,92の接合表面にフッ素が供給される場合を例示した。この第4実施形態では、フッ素樹脂加工面を有する部材(フッ素樹脂コーティング部材等)をプラズマ装置10のステージ14の周辺部分に配置してプラズマ処理を実行することによって、両被接合物91,92の接合表面にフッ素を供給する場合を例示する。
【0137】
第4実施形態は、第1実施形態の変形例であり、以下、相違点を中心に説明する。
【0138】
図25は、第4実施形態に係る接合システム1(1D)におけるプラズマ装置10(10D)を示す図である。
【0139】
このプラズマ装置10Dは、第1実施形態に係るプラズマ装置10Aと同様の構成を有している。ただし、プラズマ装置10Dの支持部材16(16Dとも称する)は、フッ素樹脂で加工された面(フッ素樹脂加工面)を有している。詳細には、支持部材16の表面(上面、外側面、下面)が、フッ素樹脂(テフロン(登録商標)等)でコーティングされている。
【0140】
図26は、プラズマ装置10Dのステージ14(14D)付近の様子を示す図である。図26においては、プラズマ処理の対象物である被接合物91がステージ14D上に載置されている様子が示されている。なお、ここでは、被接合物91について主に説明するが、被接合物92についても同様である。
【0141】
図26に示すように、略円盤状の被接合物91は、略円盤状のステージ14(14D)に支持されて配置されている。詳細には、被接合物91の中心部は電極部材15に支持され、被接合物91の周辺部は支持部材16Dに支持される。また、ステージ14Dの支持面は、被接合物91の接合表面よりも大きいことが好ましい。たとえば、上面視略円形状の被接合物91の直径D0が200mm(ミリメートル)であるのに対して、上面視略円環形状の支持部材16Dの外周側の直径D1は220mmであることが好ましい。
【0142】
この第4実施形態においては、支持部材16Dのフッ素樹脂加工面が被接合物91の周囲にて露出した状態で、ステップS10のプラズマ処理が実行される。また、この第4実施形態におけるプラズマ処理は、O(酸素)とCF(四フッ化炭素)との混合ガスをプラズマ反応ガスとして利用するのではなく、酸素ガスのみをプラズマ反応ガスとして利用する。
【0143】
そして、このようなプラズマ処理が実行されると、イオン化した酸素原子等が被接合物91の表面のみならず支持部材16Dにも衝突する。そのため、支持部材16Dのフッ素樹脂加工面から一部のフッ素原子が剥離してチャンバ空間内に浮遊する。そして、当該フッ素原子は、被接合物91の表面に付着する。これによれば、プラズマ反応ガスとしてCFガスが用いられずとも、結果的に被接合物91(,92)の表面にフッ素原子が供給される。
【0144】
その後、第1実施形態と同様のステップS20〜S40の処理が実行される。
【0145】
このような態様によれば、第1実施形態と同様に、良好な接合結果を得ることができる。
【0146】
図27は、第4実施形態に係る動作によって接合された両被接合物91,92の接合強度(接合エネルギー)を示す図である。なお、図27における複数のデータは、それぞれ、第1実施形態と同様に、プラズマ照射時間を60秒に設定し且つチャンバ内圧力を50MPa(メガパスカル)に設定して取得されたものである。
【0147】
図27に示すように、支持部材16Dの外周側の直径D1が220mmであるときには、約1.3(J/m)の接合エネルギーが得られており、良好な接合強度が実現されている。
【0148】
また、より良好な接合を実現するためには、接合表面へのフッ素の供給量が適切に調整されることが好ましい。そのため、プラズマ装置10Dにおいては、支持部材16Dの外周側の直径D1を適切に設定することなどによって、被接合物の周囲に配置されたフッ素樹脂加工面の露出面積が適切に調整されることが好ましい。
【0149】
図27には、支持部材16Dの外周側の直径D1が220mm以外の値を有する場合における接合エネルギーEの測定結果も記載されている。具体的には、直径D1が200mmであるときには接合エネルギーEは約1.3(J/m)であり、直径D1が240mmであるときには接合エネルギーEは約1.7(J/m)であり、直径D1が260mmであるときには接合エネルギーEは約1.1(J/m)である。
【0150】
たとえば、直径D1を240mmに設定することによれば、接合強度をさらに向上させることが可能である。
【0151】
このように、プラズマ装置10Dにおいては、支持部材16Dの外周側の直径D1を適切に設定することなどによって、被接合物91の周囲に配置されたフッ素樹脂加工面の露出面積S1が適切に調整されることが好ましい。換言すれば、被接合物91の接合表面の面積S0(=π×D0×D0/4)と被接合物91の周囲に配置されたフッ素樹脂加工面の露出面積S1との比R1が所定割合Rdに設定された状態でプラズマ処理が実行されることが好ましい。なお、露出面積S1は、上記面積S0と支持部材16Dの上面の全面積S2(=π×D1×D1/4)とを用いて、S1=S2−S0、であると表現され、上記比R1は、R1=S1/S0=(S2−S0)/S0、などとも表現される。また、値Rdとしては、たとえば、D1=240mmのときの値R1等が採用されればよい。
【0152】
なお、ここでは、支持部材16Dがフッ素樹脂加工されている場合を例示しているが、これに限定されず、チャンバ11内に配置される別の部材(チャンバ内壁部材等)がフッ素樹脂加工されている態様等であってもよい。
【0153】
また、ここでは、第1実施形態に対して上記のような改変を行う場合を例示したが、これに限定されず、第2実施形態および第3実施形態に対しても同様の改変が可能である。
【0154】
<5.第5実施形態>
上記各実施形態においては、両被接合物91,92を冷却することによって、両被接合物91,92の接合表面に水分子を付着させる技術を例示したが、本発明は、これに限定されない。たとえば、水ガスをチャンバ内に供給することによって水分子を両被接合物91,92の接合表面に付着させるようにしてもよい。第5実施形態においては、このような変形例について説明する。
【0155】
この第5実施形態は、第1実施形態の変形例であり、以下では、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0156】
第5実施形態に係る接合システム1(1E)のプラズマ装置10(10E)は、図2のプラズマ装置10Aと同様の構成を備えるとともに、そのガス供給口17からチャンバ11に対して水ガス(水蒸気)を供給することも可能である。
【0157】
この接合システム1Eにおいて、上述のステップS10〜S40の各処理と類似の処理が実行される。
【0158】
具体的には、まず、上記第1実施形態と同様にして、ステップS10の処理が実行される。
【0159】
ステップS10の処理が終了すると、次のステップS20の処理が実行される。ただし、この第5実施形態においては、ステップS20の処理(水分子付着処理)は、(接合装置20ではなく)プラズマ装置10Eによって実行される。詳細には、ステップS10の終了後、プラズマ装置10Eのチャンバ11内から、O(酸素)とCF(四フッ化炭素)との混合ガスが排気され、今度は、当該チャンバ11内に水ガス(水蒸気)が供給される。そして、当該水ガスの供給処理によって、被接合物91(,92)の接合表面に水分子が供給される。
【0160】
その後、ステップS30およびステップS40が、上記第1実施形態と同様にして実行される。
【0161】
このような態様によっても、第1実施形態と同様に、良好な接合結果を得ることができる。
【0162】
図28は、第5実施形態に係る動作によって接合された両被接合物91,92の接合強度(接合エネルギー)を示す図である。なお、図28における複数のデータは、それぞれ、第1実施形態と同様に、プラズマ照射時間を60秒に設定し且つチャンバ内圧力を50MPa(メガパスカル)に設定して取得されたものである。
【0163】
図28に示すように、水ガスの流量FLが100(sccm)以下であるときには、約1.0(J/m)の接合エネルギーが得られており、良好な接合強度が実現されている。
【0164】
また、より良好な接合を実現するためには、水分子の接合表面への付着量が適切に調整されることが好ましい。そのため、プラズマ装置10Eにおいては、水ガスの流量FL(供給量)が適切に制御されることが好ましい。
【0165】
図28の実験結果においては、様々な水ガスの流量FLと接合エネルギーEの測定結果との関係が示されている。
【0166】
たとえば、水ガスの流量FLが50(sccm)であるときには、接合エネルギーとして、値1.2(J/m)が得られている。すなわち強固な接合が実現されている。
【0167】
また、水ガスの流量FLが10(sccm)であるとき、および水ガスの流量FLが20(sccm)であるときには、それぞれ、接合エネルギーとして、値2.5(J/m)が得られている。すなわち、特に非常に強固な接合が実現されている。
【0168】
このように、この実施形態に係る接合動作においては、水ガスの流量FL(供給量)が所定の範囲(たとえば、10(sccm)以上20(sccm)以下の範囲)の値に制御されることが特に好ましい。
【0169】
また、ここでは、第1実施形態に対して上記のような改変を行う場合を例示したが、これに限定されず、第2実施形態〜第4実施形態に対しても同様の改変が可能である。
【0170】
<6.第6実施形態>
上記各実施形態においては、ステップS30での接合処理が大気圧で行われる場合を例示したが、本発明は、これに限定されず、当該接合処理が真空中で行われるようにしてもよい。ただし、次述するように、接合処理が真空中で行われる場合には、ステップS20での水分子の付着処理の後に、窒素ラジカル処理(ステップS25)を施すことが好ましい。
【0171】
第6実施形態は、第2実施形態と第4実施形態と第5実施形態とを組み合わせた変形例である。以下では、これらの実施形態との相違点を中心に説明する。
【0172】
この第6実施形態に係る接合システム1(1F)は、第2実施形態に係る接合システム1B(図23)と同様のシステム構成を有している。ただし、接合システム1Fは、第4実施形態に係るプラズマ装置10Dと同様、ステージ(被接合物の支持部材)51上において、当該被接合物の周囲にはフッ素樹脂加工面が存在する。
【0173】
第6実施形態においては、当該システム構成において、第4実施形態および第5実施形態と同様の動作等が実行される。具体的には、図29のフローチャートに示す動作が実行される。
【0174】
まず、ステップS10において、上記第4実施形態と同様にして、酸素プラズマ処理が実行され、接合表面にポーラス酸化物が生成される。なお、ステップS10においては、第4実施形態と同様に、フッ素樹脂加工面から剥離したフッ素が、接合表面上に供給される。
【0175】
次のステップS20においては、第5実施形態と同様に水ガス供給処理が実行されるとともに、チャンバ59内の圧力が真空状態に維持される。
【0176】
そして、ステップS25において、チャンバ59内の圧力が減圧状態(真空状態)に維持されたまま窒素ラジカル処理が実行される。このステップS25の処理は、ステップS20とステップS30との間に実行される処理である。
【0177】
次のステップS30においては、真空中での接合動作が実行される。
【0178】
その後、ステップS40における保存動作は、大気中で実行される。
【0179】
以上のような態様によっても、良好な接合結果を得ることができる。
【0180】
図30は、上記の実験結果等を示す図である。図30においては、第6実施形態に係る実験結果が、下段に示されている。なお、図30の上段のデータは、ステップS25の処理を実行しなかったときのデータである。
【0181】
図30の下段に示すように、酸素プラズマ処理(ステップS10)を60秒間実行した後に、水ガス供給処理(ステップS20)を60秒間実行し、さらに窒素ラジカル処理(ステップS25)を60秒間実行する場合には、約0.6(J/m)の接合エネルギーが実現された。
【0182】
なお、ステップS25の窒素ラジカル処理を実行しない場合には、約0.05(J/m)の接合エネルギーしか得られなかった。これは、真空中での接合処理においては、水分子が比較的急速に接合界面から抜け出していくため、接合強度が低下したためであると考察される。
【0183】
これに対して、ステップS25の窒素ラジカル処理を施すことによれば、比較的良好な接合エネルギーを得ることができる。すなわち、酸素プラズマ処理、水分子供給処理、および窒素ラジカル処理をこの順序で実行した後に接合処理を行うことによれば、当該接合処理を真空中で行う場合でも、良好な接合が実現される。
【0184】
また、ここでは、主に第2実施形態のシステムに対して上記のような改変を行う場合を例示したが、これに限定されず、第1実施形態および第3実施形態のシステムに対しても同様の改変が可能である。
【0185】
<7.変形例等>
以上、この発明の実施の形態について説明したが、この発明は上記説明した内容のものに限定されるものではない。
【0186】
たとえば、上記各実施形態においては、ステップS10においてフッ素が接合表面に付着することによって、接合表面における水分子の残留量が適切に調整される場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。接合表面へのフッ素添加を伴わない酸素プラズマ処理を施すようにしてもよい。その場合は、図20において「CFガス流量=0」のデータとして示すように、その接合強度(接合エネルギー)は、0.6(J/m)であり、1.0(J/m)よりは若干低い値ではあるが、或る程度良好な値である。なお、当該変型例における接合強度が上記実施形態における接合強度よりも低下する要因としては、接合界面の水分子の量が最適量よりも多過ぎることなどが挙げられる。
【0187】
このような変型例(ステップS10において接合表面にフッ素が添加されない態様)においても、上述の原理(図9〜図13参照)と同様の原理に基づいて、両被加圧物91,92が良好に接合される。ただし、当該変型例においては、フッ素原子が接合表面に存在しないため、水分子の接合表面への供給量を適切に調整することは、上記各実施形態(フッ素を用いる技術)に比べて若干困難になる。そのため、この場合には、特に、ステップS20において、接合表面への水分子の供給量が適切に調整されることが好ましい。詳細には、表面湿度HM1が適切に調整されること、あるいは、水ガスの供給量が適切に制御されることなどによって、接合界面での水分子の量が適切に調整されることが好ましい。
【0188】
また、このように接合表面へのフッ素添加を伴わない酸素プラズマ処理を施す場合には、常温で接合した後に室温よりも若干高い温度(たとえば80℃程度)での保存処理(放置処理)を行うことが好ましい。このような保存処理を行うことによれば、その接合強度を向上させることができる。たとえば、80℃で8時間保存(放置)することによって、接合強度が1.08(J/m)にまで改善されたデータが得られている。
【0189】
あるいは、上記と同様にして常温で両被接合物91,92を接合した後に、更にアニーリング処理を比較的低温(たとえば100℃〜300℃、より好ましくは100℃〜200℃)で行うことが好ましい。このようなアニーリング処理によれば、マイクロボイドの発生を抑制しつつ、接合強度を増大させることが可能である。
【0190】
また、上記第6実施形態においては、ステップS30での接合処理を真空中で行う場合において、酸素プラズマ処理、水分子付着処理、および窒素ラジカル処理をこの順序で実行する技術を例示したが、本発明は、これに限定されない。たとえば、当該接合処理を大気中で行う場合において、酸素プラズマ処理、水分子付着処理、および窒素ラジカル処理をこの順序で実行するようにしてもよい。
【0191】
図31は、両被加圧物91,92に対して、酸素プラズマ処理、水分子付着処理、および窒素ラジカル処理をこの順序で実行した後に、大気中において当該両被接合物91,92を接合した場合における実験結果(菱形の点)を示す図である。ここでは、第4および第6実施形態と同様に、ステップS10においては、フッ素樹脂加工面から剥離したフッ素が、接合表面上に供給されている。
【0192】
図31においては、窒素ラジカルのプロセス時間と両被加圧物91,92の相互間の引張強度との関係が示されている。なお、図31において、窒素ラジカル処理のプロセス時間がゼロのデータ(菱形に丸を付した点)は、酸素プラズマ処理および水分子付着処理をこの順序で実行した後に、窒素ラジカル処理を施さずに、大気中で両被加圧物91,92を接合したときのデータである。また、図31では、各接合強度は、引張試験の結果として得られた値で示されている。
【0193】
図31において、菱形の点と菱形に丸を付した点とを比較すると判るように、酸素プラズマ処理および水分子付着処理に加えて、窒素ラジカル処理をも実行することによれば、接合強度をさらに向上させることが可能である。
【0194】
また、図31では、第4実施形態と同様にして接合表面にフッ素を供給する場合を例示しているがこれに限定されない。上記変型例のように、接合表面へのフッ素添加を伴わない酸素プラズマ処理を施すようにしてもよい。すなわち、フッ素を供給することなく、酸素プラズマ処理、水分子付着処理、および窒素ラジカル処理をこの順序で実行するようにしてもよい。なお、この場合には、上記変型例と同様に、(表面湿度HM1が適切に調整されること、あるいは、水ガスの供給量が適切に制御されること等によって、)水分子付着処理における接合表面への水分子の供給量が適切に調整されることが好ましい。また上記変型例と同様に、接合後の保存温度が適宜に調整されることが好ましい。
【0195】
また、上記各実施形態においては、ステップS10において酸素プラズマ処理を実行する場合を例示したが、これに限定されず、ステップS10においてアルゴン(Ar)プラズマ処理を実行するようにしてもよい。
【0196】
あるいは、プラズマ処理に限定されず、原子ビーム処理、イオンビーム処理等の各種のエネルギー波照射処理を被接合物の接合表面に対して施し、ポーラス酸化物を接合表面に生成するようにしてもよい。
【0197】
また、上記第5実施形態では、水ガスを水蒸気の状態で供給する場合を例示したが、これに限定されない。たとえば、ステップS20において、水をプラズマ化してプラズマ処理を行うようにしてもよい。あるいは、イオンビーム処理のイオン源として水を用いたイオンビーム処理(水ビーム処理とも称する)を行うことによって、接合表面に水ガスを供給するようにしてもよい。あるいは、水分子をラジカル化して供給するようにしてもよい。
【0198】
また、上記第1〜第6実施形態においては、ステップS10において、O(酸素)とCF(四フッ化炭素)との混合ガスが、プラズマ反応ガスとして供給される場合を例示したが、これに限定されない。例えば、N(窒素)とCF(四フッ化炭素)との混合ガス等が、プラズマ反応ガスとして供給されるようにしてもよい。
【0199】
また、上記各実施形態においては、両被接合物91,92の双方の接合表面に、ポーラス酸化物の生成処理を施す場合を例示したが、これに限定されない。たとえば、両被接合物91,92のうちの一方の被接合物のみの接合表面にポーラス酸化物の生成処理を施すようにしてもよい。
【符号の説明】
【0200】
1,1A〜1F 接合システム
10,10A,10D,10E プラズマ装置
11,29,59 チャンバ
14,21,51 ステージ
15 電極部材
16 支持部材
17,47 ガス供給口
18,48 排気口
20,20A 接合装置
21t,22t 温度調整部
22,52 ヘッド
91,92 被接合物
110 プラズマ処理部
120 接合処理部
130 反転部
150 搬送部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両被接合物を接合する接合方法であって、
a)エネルギー波を照射することによって前記両被接合物のうち少なくとも一方の被接合物の接合表面にポーラス酸化物を生成する工程と、
b)前記ポーラス酸化物が生成された前記少なくとも一方の被接合物の接合表面に適量の水分子を付着させる工程と、
c)前記少なくとも一方の被接合物の接合表面に水分子を付着させた状態で前記両被接合物の接合表面を互いに接触させて加圧し、前記両被接合物を接合する工程と、
を備えることを特徴とする接合方法。
【請求項2】
請求項1に記載の接合方法において、
前記工程a)は、
a−1)前記少なくとも一方の被接合物の前記接合表面にフッ素を供給する工程を有することを特徴とする接合方法。
【請求項3】
請求項2に記載の接合方法において、
前記工程a−1)においては、フッ素の化合物を混合したガスを用いてプラズマ処理が実行されることによって、前記少なくとも一方の被接合物の前記接合表面にフッ素が供給されることを特徴とする接合方法。
【請求項4】
請求項3に記載の接合方法において、
前記工程a−1)においては、前記ガスにおける前記フッ素の化合物の混合量が制御されることを特徴とする接合方法。
【請求項5】
請求項2に記載の接合方法において、
前記工程a−1)においては、フッ素樹脂加工面を有する部材を前記少なくとも一方の被接合物の周囲に配置してプラズマ処理が実行されることを特徴とする接合方法。
【請求項6】
請求項5に記載の接合方法において、
前記工程a−1)においては、前記少なくとも一方の被接合物の前記接合表面の面積と前記少なくとも一方の被接合物の周囲に配置された前記フッ素樹脂加工面の露出面積との比が所定割合に設定された状態で前記プラズマ処理が実行されることを特徴とする接合方法。
【請求項7】
請求項2に記載の接合方法において、
前記工程a−1)においては、前記少なくとも一方の被接合物が配置されるチャンバ内にフッ素樹脂加工された部材が配置されて、プラズマ処理が実行されることを特徴とする接合方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の接合方法において、
前記工程b)は、
b−1)前記少なくとも一方の被接合物の接合表面の湿度を制御する工程、
を有することを特徴とする接合方法。
【請求項9】
請求項8に記載の接合方法において、
前記工程b−1)においては、前記少なくとも一方の被接合物の温度を制御することによって前記少なくとも一方の被接合物の接合表面の湿度が制御されることを特徴とする接合方法。
【請求項10】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の接合方法において、
前記工程b)は、
b−2)水ガスを供給する工程、
を有することを特徴とする接合方法。
【請求項11】
請求項10に記載の接合方法において、
前記工程b−2)は、
b−2−1)前記水ガスの供給量を制御する工程、
を有することを特徴とする接合方法。
【請求項12】
請求項10または請求項11に記載の接合方法において、
前記工程b−2)においては、前記水ガスは水蒸気として供給されることを特徴とする接合方法。
【請求項13】
請求項1ないし請求項12のいずれかに記載の接合方法において、
d)前記工程b)と前記工程c)との間において、前記両被接合物のうち前記少なくとも一方の被接合物に対して窒素ラジカル処理を施す工程、
をさらに備え、
前記工程a)においては、酸素プラズマ処理によって、前記両被接合物のうち前記少なくとも一方の被接合物の接合表面にポーラス酸化物が生成されることを特徴とする接合方法。
【請求項14】
請求項1ないし請求項13のいずれかに記載の接合方法において、
前記工程c)は、前記両被接合物を大気圧空間に配置した状態で実行されることを特徴とする接合方法。
【請求項15】
請求項1ないし請求項12のいずれかに記載の接合方法において、
d)前記工程b)と前記工程c)との間において、前記両被接合物のうち前記少なくとも一方の被接合物に対して窒素ラジカル処理を施す工程、
をさらに備え、
前記工程a)においては、酸素プラズマ処理によって、前記両被接合物のうち前記少なくとも一方の被接合物の接合表面にポーラス酸化物が生成され、
前記工程a)〜d)は、いずれも、前記両被接合物を真空中に配置して実行されることを特徴とする接合方法。
【請求項16】
両被接合物を接合する接合システムであって、
エネルギー波を照射し、前記両被接合物のうち少なくとも一方の被接合物の接合表面にポーラス酸化物を生成させるエネルギー波照射手段と、
前記ポーラス酸化物が生成された前記少なくとも一方の被接合物の接合表面に適量の水分子を付着させる水分子供給手段と、
前記少なくとも一方の被接合物の接合表面に水分子を付着させた状態で前記両被接合物を加圧して、前記両被接合物を接合する加圧手段と、
を備えることを特徴とする接合システム。
【請求項17】
請求項16に記載の接合システムにおいて、
前記エネルギー波照射手段は、酸素とフッ素の化合物とを含む混合ガスを用いたプラズマ処理を実行するプラズマ処理手段を有することを特徴とする接合システム。
【請求項18】
請求項16に記載の接合システムにおいて、
前記エネルギー波照射手段は、前記少なくとも一方の被接合物の周囲にフッ素樹脂加工部材が配置されたチャンバ内において酸素プラズマ処理を実行するプラズマ処理手段を有することを特徴とする接合システム。
【請求項19】
請求項16ないし請求項18のいずれかに記載の接合システムにおいて、
前記少なくとも一方の被接合物の温度を制御することによって前記少なくとも一方の被接合物の接合表面の湿度を制御する温度制御手段、
をさらに備えることを特徴とする接合システム。
【請求項20】
請求項16ないし請求項18のいずれかに記載の接合システムにおいて、
前記少なくとも一方の被接合物に対して水ガスを供給する水ガス供給手段、
をさらに備えることを特徴とする接合システム。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図2】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図25】
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【公開番号】特開2011−249643(P2011−249643A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−122616(P2010−122616)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(304019355)ボンドテック株式会社 (36)
【出願人】(503177074)
【出願人】(000192567)神港精機株式会社 (54)
【Fターム(参考)】