説明

接合方法および接合体

【課題】接合に供される部材の材質によらず、部材同士を、接合強度を調整しつつ高い寸法精度で、効率よく接合することのできる接合方法、および、部材同士が高い寸法精度および調製された接合強度で接合された接合体を提供すること。
【解決手段】本発明の接合方法は、第1の基材21および第2の基材22の少なくとも一方に、シリコーン材料を含有する液状材料を付与して液状被膜30を形成し、液状被膜30を乾燥して接合膜3を得る第1の工程と、接合膜3の全域または一部にエネルギーを付与して接着性が発現した第1の領域33を形成するとともに、接合膜3の第1の領域33に包含される部位または第1の領域33と異なる部位に過剰にエネルギーを付与してエネルギー付与の過程で一旦生じた接着性を失活させた第2の領域34を形成し、第1の領域33において第1の基材21と第2の基材22とを接合して接合体1を得る第2の工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合方法および接合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2つの部材(基材)同士を接合(接着)する際には、従来、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、シリコーン系接着剤等の接着剤を用いて行う方法が多く用いられている。
接着剤は、部材の材質によらず、接着性を示すことができる。このため、種々の材料で構成された部材同士を、様々な組み合わせで接着することができる。
例えば、インクジェットプリンタが備える液滴吐出ヘッド(インクジェット式記録ヘッド)は、樹脂材料、金属材料、シリコン系材料等の異種材料で構成された部品同士を、接着剤を用いて接着することにより組み立てられている(例えば、特許文献1参照)。
このように接着剤を用いて部材同士を接着する際には、液状またはペースト状の接着剤を接着面に塗布し、塗布された接着剤を介して部材同士を貼り合わせる。その後、熱または光の作用により接着剤を硬化させることにより、部材同士を接着する。
【0003】
ところが、このような接着剤では、以下のような問題がある。
・接着強度が低く、接着強度を調整することが困難である
・寸法精度が低い
・硬化時間が長いため、接着に長時間を要する
・接着後、接着強度が変化しやすい
【0004】
また、多くの場合、接着強度を高めるためにプライマーを用いる必要があり、そのためのコストと手間が接着工程の高コスト化・複雑化を招いている。
また、特に、接着剤を用いて接着強度を調整する場合、接着剤の材料を選択したり、異なる接着性を有する接着剤を混合したりすることが必要となり所望の接着強度を得ることが困難であった。また、所望の接着強度を得た場合であっても、熱や紫外線等によって接着剤が劣化してしまい、接着強度が変化しやすい問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開平5−155017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、接合に供される部材の材質によらず、部材同士を、接合強度を調整しつつ高い寸法精度で、効率よく接合することのできる接合方法、および、部材同士が高い寸法精度、および調製された接合強度で接合された接合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の接合方法は、第1の基材と第2の基材とを用意し、前記第1の基材および前記第2の基材の少なくとも一方に、シリコーン材料を含有する液状材料を付与することにより液状被膜を形成し、該液状被膜を乾燥して接合膜を得る第1の工程と、
前記接合膜の全域または一部にエネルギーを付与することにより接着性が発現した第1の領域を形成するとともに、前記接合膜の前記第1の領域に包含される部位または前記第1の領域と異なる部位に過剰にエネルギーを付与することにより前記エネルギー付与の過程で一旦生じた接着性を失活させた第2の領域を形成し、前記第1の領域において前記第1の基材と前記第2の基材とを接合して接合体を得る第2の工程とを有することを特徴とする。
これにより、接合に供される部材の材質によらず、部材同士を、接合強度を調整しつつ高い寸法精度で、効率よく接合することのできる接合方法を提供することができる。
【0008】
本発明の接合方法では、前記第2の工程において、前記第1の領域の形成は、前記第2の領域の形成の開始後に開始されるものであることが好ましい。
これにより、第1の領域の形成が完了してから、接合膜を介しての第1の基材と第2の基材との接触を行うまでの時間を短縮することができ、第1の領域に位置する接合膜に発現した接着性が、緩和して低下することを防止することができる。
【0009】
本発明の接合方法では、前記第2の工程において、前記第1の領域の形成の完了と同時または完了後に前記第2の領域の形成が完了することが好ましい。
これにより、本発明の接合方法における接合体の生産性を高いものとすることができる。
本発明の接合方法では、前記第2の工程において、前記第2の領域の形成は前記第1の領域の形成の完了よりも前に開始されるものであり、かつ、前記第2の領域の形成と前記第1の領域の形成とは時間的に重複していることが好ましい。
これにより、本発明の接合方法における接合体の生産性を高いものとすることができる。
【0010】
本発明の接合方法では、前記第2の領域の形成の完了後に、前記第1の基材と前記第2の基材とを前記接合膜を介して接触させることが好ましい。
これにより、第2の領域に位置する接合膜において、不本意に接着性が発現することが防止される。
本発明の接合方法では、前記第2の工程において、前記第2の領域の形成の完了と同時または完了後に前記第1の領域の形成が完了することが好ましい。
これにより、第1の領域の形成が完了してから、接合膜を介しての第1の基材と第2の基材との接触を行うまでの時間を短縮することができ、第1の領域に位置する接合膜に発現した接着性が、緩和して低下することを防止することができる。
【0011】
本発明の接合方法では、前記第2の領域の形成の完了後に、前記第1の基材と前記第2の基材とを前記接合膜を介して接触させ、その後、前記第1の領域の形成を開始することが好ましい。
これにより、第1の基材と第2の基材との位置合わせが容易になり、得られる接合体の寸法精度を特に優れたものとすることができる。
【0012】
本発明の接合方法では、第1の基材と第2の基材とは、第1の領域の形成の完了および第2の領域の形成の完了のいずれか遅い方の後に、前記接合膜を介して接触するものであることが好ましい。
これにより、第1の領域と第2の領域との形成を連続して行うことができる本発明の接合方法は、生産性に優れたものとなる。また、第2の領域に位置する接合膜において、不本意に接着性が発現することが防止される。
【0013】
本発明の接合方法では、前記第1の基材と第2の基材とは、ともに前記接合膜が形成されるものであり、
前記接合体は、前記第1の基材の前記接合膜と、前記第2の基材の前記接合膜とが接触するように接合されるものであることが好ましい。
これにより、接合に供される部材の材質によらず、部材同士を、接合強度を調整しつつ高い寸法精度で、効率よく接合することのできる接合方法を提供することができる。
【0014】
本発明の接合方法では、エネルギーの付与は、前記接合膜にエネルギー線を照射する方法、前記接合膜を加熱する方法、および前記接合膜に圧縮力を付与する方法のうちの少なくとも1つの方法により行われることが好ましい。
これにより、接合膜の表面を効率よく活性化させることができるとともに、さらに接合膜の表面の接着性を失活させることができる。また、接合膜中の分子構造を必要以上に切断しないので、接合膜の特性が低下してしまうのを避けることができる。
【0015】
本発明の接合方法では、前記エネルギーの付与は、大気雰囲気中で行われることが好ましい。
これにより、接合膜の表面の活性化がより円滑に行われることとなり、接合膜をより容易に活性化できるとともに、失活させることができる。さらに、雰囲気を制御することに手間やコストをかける必要がなくなり、接合膜に対しエネルギーをより簡単に付与することができる。
【0016】
本発明の接合方法では、前記シリコーン材料は、シラノール基を有することが好ましい。
これにより、液状被膜を乾燥させて接合膜を得る際に、隣接するシリコーン材料が有する水酸基同士が結合することとなり、得られる接合膜の膜強度が優れたものとなる。
本発明の接合方法では、前記シリコーン材料は、シラノール基を有するシリコン原子にフェニル基が結合したものであることが好ましい。
これにより、液状被膜を乾燥させて接合膜を得る際に、シラノール基の反応性がより向上し、隣接するシリコーン材料が有する水酸基同士の結合がより円滑に行われるようになり、得られる接合膜の膜強度が特に優れたものとなる。
【0017】
本発明の接合方法では、前記液状被膜は、液滴吐出法により形成されることが好ましい。
液滴吐出法によれば、液状材料を液滴として接合面に供給することができるため、たとえ液状被膜を接合面の一部の領域に選択的にパターニングして形成する場合であったとしても、液状材料をこの領域の形状に対応して(選択的に)供給することができる。
【0018】
本発明の接合方法では、前記第1の基材および前記第2の基材の少なくとも前記接合膜と接触する部分は、シリコン材料、金属材料またはガラス材料を主材料として構成されていることが好ましい。
このような材料で構成された第2の基材は、その表面が酸化膜で覆われており、この酸化膜の表面には、水酸基が結合(露出)している。したがって、このような酸化膜で覆われた第2の基材を用いることにより、上記のような表面処理を施さなくても、第2の基材の接合面と接合膜との接合強度をより確実に所望のものとすることができる。
【0019】
本発明の接合方法では、前記接合膜の平均厚さは、10〜10000nmであることが好ましい。
形成される接合膜の平均厚さを前記範囲内とすることにより、第1の基材と第2の基材とを接合した接合体の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、接合膜の接着強度をより容易に所望のものとすることができる。
【0020】
本発明の接合方法では、前記第1の基材および前記第2の基材の前記接合膜と接触する面には、あらかじめ、前記接合膜との密着性を高める表面処理が施されていることが好ましい。
これにより、第1の基材の接合面上に接合膜を形成したとき、接合面と接合膜とをより強固に接合することができ、得られる接合体の信頼性をより高いものとすることができる。
【0021】
本発明の接合方法では、前記表面処理は、プラズマ処理または紫外線照射処理であることが好ましい。
表面処理として、特にプラズマ処理または紫外線照射処理を行うことにより、接合面を、清浄化および活性化することができる。その結果、接合面と接合膜とをより強固に接合することができる。
本発明の接合体は、前記第1の基材と前記第2の基材とが、本発明の接合方法により形成された接合膜を介して接合されてなることを特徴とする。
これにより、部材同士が高い寸法精度、および調整された接合強度で接合された接合体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の接合方法および接合体を、添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
<接合方法>
本発明の接合方法では、第1の基材21と第2の基材22とを用意し、第1の基材21および第2の基材22の少なくとも一方に、シリコーン材料を含有する液状材料を付与することにより液状被膜30を形成し、該液状被膜30を乾燥して接合膜3を得る第1の工程と、接合膜3の全域または一部にエネルギーを付与することにより接着性が発現した第1の領域33を形成するとともに、接合膜の第1の領域33に包含される部位または第1の領域33と異なる部位に過剰にエネルギーを付与することによりエネルギー付与の過程で一旦生じた接着性を失活させた第2の領域34を形成し、第1の領域33において前記第1の基材と前記第2の基材とを接合して接合体を得る第2の工程とを有する。
【0023】
かかる方法によれば、2つの基材21、22同士を、シリコーン材料を原材料とする接合膜3の第1の領域33の表面32付近に発現した接着性により、高い寸法精度で接合することができる。一方、接合膜3は、第2の領域34において、表面32付近の接着性が失活したものとなる。このため、得られる接合体においては、第2の領域34に位置する部位において、表面32付近の接着性が全く発現しないか、第2の基材22と接着するに足る接着強度を有しないものとなる。
【0024】
以上より、本発明の接合方法を用いた場合、第1の領域33と第2の領域34との面積比を設定して第1の基材21と第2の基材22との接合を行うことにより、接合体1の接合強度を適宜調節することができる。
また、接合膜3は、第2の領域34において、表面付近の接着性が失活したものであり、接合体1において、接着性が発現することが防止されている。このため、接合体1を適用した機器等を長期にわたって使用した場合においても、接合膜3は、第2の領域34において接着性が発現しないので、一旦調節された接合体1の接合強度が変化しにくいものとなる。
【0025】
なお、本明細書において、「接着性が発現している」とは、接合膜3が活性化され、第1の基材21と第2の基材22とを接着するに足る接着強度を有している状態をいう。また、「接着性が失活している」とは、接合膜3の接着性が全く発現しないか、接合膜3が第1の基材と第2の基材22とを接着するに足る接着強度を有しない状態をいう。
また、2つの基材21、22は接合膜3を介して低温下で効率よく接合されることができる。
【0026】
以下、この本発明の接合方法の第1実施形態を、工程ごとに詳述する。
<<第1実施形態>>
図1および図2は、本発明の接合方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図1および図2中の上側を「上」、下側を「下」と言う

【0027】
本実施形態の接合方法は、接合膜3を、第2の基材22上に形成することなく、第1の基材21上に選択的に形成して、接合膜3を介して第1の基材21と第2の基材22とを接合する接合方法である。
また、本実施形態では、第1の領域33と第2の領域34とは、接合膜3においてそれぞれ異なる領域に位置することとして説明する。
また、本実施形態において、第1の工程は、後述する工程[1]と工程[2]と工程[3]とで構成され、第2の工程は、後述する工程[4]と工程[5]と工程[6]とを含んで構成される。
【0028】
[1]まず、第1の基材21と第2の基材22とを用意する。なお、図1(a)では、第2の基材22を省略している。
このような第1の基材21および第2の基材22の各構成材料は、それぞれ特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、ポリブテン−1、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリオキシメチレン、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アラミド系樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリウレタン等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等の樹脂系材料、Fe、Ni、Co、Cr、Mn、Zn、Pt、Au、Ag、Cu、Pd、Al、W、Ti、V、Mo、Nb、Zr、Pr、Nd、Smのような金属、またはこれらの金属を含む合金、炭素鋼、ステンレス鋼、インジウム錫酸化物(ITO)、ガリウムヒ素のような金属系材料、単結晶シリコン、多結晶シリコン、非晶質シリコンのようなシリコン系材料、ケイ酸ガラス(石英ガラス)、ケイ酸アルカリガラス、ソーダ石灰ガラス、カリ石灰ガラス、鉛(アルカリ)ガラス、バリウムガラス、ホウケイ酸ガラスのようなガラス系材料、アルミナ、ジルコニア、MgAl、フェライト、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化チタン、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステンのようなセラミックス系材料、グラファイトのような炭素系材料、またはこれらの各材料の1種または2種以上を組み合わせた複合材料等が挙げられる。
【0029】
また、第1の基材21および第2の基材22は、それぞれ、その表面に、Niめっきのようなめっき処理、クロメート処理のような不働態化処理、または窒化処理等を施したものであってもよい。
なお、第1の基材21の構成材料と第2の基材22の構成材料とは、それぞれ同じでも、異なっていてもよい。
【0030】
また、第1の基材21の熱膨張率と第2の基材22の熱膨張率は、ほぼ等しいのが好ましい。これらの熱膨張率がほぼ等しければ、第1の基材21と第2の基材22とを接合した際に、その接合界面に熱膨張に伴う応力が発生し難くなる。その結果、最終的に得られる接合体1において、不本意な剥離を確実に防止することができる。
なお、後に詳述するが、第1の基材21の熱膨張率と第2の基材22の熱膨張率が互いに異なる場合でも、後述する工程において、第1の基材21と第2の基材22とを接合する際の条件を最適化することにより、これらを高い寸法精度で、接合膜3を介した第1の基材21と第2の基材22との間の接合強度が所望のものとなるように調整しつつ接合することができる。
【0031】
また、2つの基材21、22は、互いに剛性が異なるのが好ましい。これにより、2つの基材21、22を十分に密着させることができ、より確実に接合することができる。
また、2つの基材21、22のうち、少なくとも一方の構成材料は、樹脂材料であるのが好ましい。樹脂材料は、その柔軟性により、2つの基材21、22を接合した際に、その接合界面に発生する応力(例えば、熱膨張に伴う応力等)を緩和することができる。このため、接合界面が破壊し難くなり、結果的に、該応力によって接合強度が低下することを防止することができる。
【0032】
なお、上記のような観点から、2つの基材21、22のうちの少なくとも一方は、可撓性を有しているのが好ましい。これにより、接合体1の接合界面に発生する応力によって接合強度が低下することをより効果的に防止することができる。さらに、2つの基材21、22の双方が可撓性を有している場合には、全体として可撓性を有し、機能性の高い接合体1が得られる。
また、各基材21、22の形状は、それぞれ、接合膜3を支持する面を有するような形状であればよく、例えば、板状(層状)、塊状(ブロック状)、棒状等とされる。
【0033】
なお、本実施形態では、図1、2に示すように、各基材21、22がそれぞれ板状をなしている。これにより、各基材21、22は撓み易くなり、2つの基材21、22を重ね合わせたときに、互いの形状に沿って十分に変形し得るものとなる。このため、2つの基材21、22を重ね合わせたときの密着性が高くなり、最終的に得られる接合体1における接合強度をより容易かつ確実に所望のものとすることができ、接合体1の信頼性をより高いものとすることができる。
また、各基材21、22が撓むことによって、接合界面に生じる応力を、ある程度緩和する作用が期待できる。
この場合、各基材21、22の平均厚さは、特に限定されないが、0.01〜10mm程度であるのが好ましく、0.1〜3mm程度であるのがより好ましい。
【0034】
次に、必要に応じて、第1の基材21の接合面23に形成される接合膜3との密着性を高める表面処理を施す。これにより、接合面23を清浄化および活性化され、接合面23に対して接合膜3が化学的に作用し易くなる。その結果、後述する工程において、接合面23上に接合膜3を形成したとき、接合面23と接合膜3とをより強固に接合することができ、得られる接合体1の信頼性をより高いものとすることができる。
【0035】
この表面処理としては、特に限定されないが、例えば、スパッタリング処理、ブラスト処理のような物理的表面処理、酸素プラズマ、窒素プラズマ等を用いたプラズマ処理、コロナ放電処理、エッチング処理、電子線照射処理、紫外線照射処理、オゾン暴露処理のような化学的表面処理、または、これらを組み合わせた処理等が挙げられる。
なお、表面処理を施す第1の基材21が、樹脂材料(高分子材料)で構成されている場合には、特に、コロナ放電処理、窒素プラズマ処理等が好適に用いられる。
【0036】
また、表面処理として、特にプラズマ処理または紫外線照射処理を行うことにより、接合面23を、清浄化および活性化することができる。その結果、接合面23と接合膜3とをより強固に接合することができる。
また、第1の基材21の構成材料によっては、上記のような表面処理を施さなくても、接合膜3との接合強度が十分に高くなるものがある。このような効果が得られる第1の基材21の構成材料としては、例えば、前述したような各種金属系材料、各種シリコン系材料、各種ガラス系材料等を主材料とするものが挙げられる。
【0037】
このような材料で構成された第1の基材21は、その表面が酸化膜で覆われており、この酸化膜の表面には、水酸基が結合している。したがって、このような酸化膜で覆われた第1の基材21を用いることにより、上記のような表面処理を施さなくても、第1の基材21の接合面23と接合膜3とをより強固に接合することができる。
また、表面処理に代えて、第1の基材21の接合面23に、あらかじめ、中間層を形成しておいてもよい。
【0038】
この中間層は、いかなる機能を有するものであってもよく、例えば、接合膜3との密着性を高める機能、クッション性(緩衝機能)、応力集中を緩和する機能等を有するものが好ましい。このような中間層上に接合膜3を成膜することにより、最終的に、信頼性の高い接合体1を得ることができる。
かかる中間層の構成材料としては、例えば、アルミニウム、チタンのような金属系材料、金属酸化物、シリコン酸化物のような酸化物系材料、金属窒化物、シリコン窒化物のような窒化物系材料、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボンのような炭素系材料、シランカップリング剤、チオール系化合物、金属アルコキシド、金属−ハロゲン化合物のような自己組織化膜材料、樹脂系接着剤、樹脂フィルム、樹脂コーティング材、各種ゴム材料、各種エラストマーのような樹脂系材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、これらの各材料で構成された中間層の中でも、酸化物系材料で構成された中間層によれば、第1の基材21と接合膜3との間の接合強度を特に高めることができる。
【0039】
一方、第1の基材21と同様、第2の基材22の接合面24(後述する工程において、接合膜3と密着する面)にも、必要に応じて、あらかじめ接合膜3との密着性を高める表面処理を施してもよい。これにより、接合面24を清浄化および活性化する。その結果、後述する工程において、接合面24と接合膜3とを密着させ、これらを接合したとき、接合面24と接合膜3との接合強度をより確実に所望のものとすることができる。
【0040】
この表面処理としては、特に限定されないが、前述の第1の基材21の接合面23に対する表面処理と同様の処理を用いることができる。
また、第1の基材21の場合と同様に、第2の基材22の構成材料によっては、上記のような表面処理を施さなくても、接合膜3との密着性が十分に高くなるものがある。このような効果が得られる第2の基材22の構成材料としては、例えば、前述したような各種金属系材料、各種シリコン系材料、各種ガラス系材料等を主材料とするものが挙げられる。
【0041】
すなわち、このような材料で構成された第2の基材22は、その表面が酸化膜で覆われており、この酸化膜の表面には、水酸基が結合(露出)している。したがって、このような酸化膜で覆われた第2の基材22を用いることにより、上記のような表面処理を施さなくても、第2の基材22の接合面24と接合膜3との接合強度をより確実に所望のものとすることができる。
【0042】
なお、この場合、第2の基材22の全体が上記のような材料で構成されていなくてもよく、少なくとも接合膜3と接合する領域において、接合面24付近が上記のような材料で構成されていればよい。
また、第2の基材22の接合面24に、以下の基や物質を有する場合には、上記のような表面処理を施さなくても、第2の基材22の接合面24と接合膜3との接合強度をより確実に所望のものとすることができる。
【0043】
このような基や物質としては、例えば、水酸基、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、ニトロ基、イミダゾール基のような各種官能基、各種ラジカル、開環分子または、2重結合、3重結合のような不飽和結合を有する脱離性中間体分子、F、Cl、Br、Iのようなハロゲン、過酸化物からなる群から選択される少なくとも1つの基や物質、または、これらの基が脱離してなる終端化されていない結合手(未結合手、ダングリングボンド)が挙げられる。
【0044】
このうち、脱離性中間体分子は、開環分子または不飽和結合を有する炭化水素分子であるのが好ましい。このような炭化水素分子は、開環分子および不飽和結合の顕著な反応性に基づき、接合膜3に対して強固に作用する。したがって、このような炭化水素分子を有する接合面24は、接合膜3に対して特に強固に接合可能なものとなる。
また、接合面24が有する官能基は、特に水酸基が好ましい。これにより、接合面24は、接合膜3に対して特に容易かつ強固に接合可能なものとなる。特に接合膜3の表面に水酸基が露出している場合には、水酸基同士間に生じる水素結合に基づいて、接合面24と接合膜3との間を高い強度で接合することができる。
【0045】
また、後述するようなエネルギーの付与による接合体1の接合強度の調節に加えて、このような基や物質を有するように、接合面24に対して上述したような各種表面処理を適宜選択して行うことが好ましい。これにより、第2の基材22は、より容易に、接合膜3に対して所望の接合強度で接合可能なものとなる。具体的には、例えば、上述したような基や物質の接合面24における密度を適宜設定する(第2の基材22の接合面24に露出した部分の材料やその組成を選択する)ことによって、第2の基材22は、より容易に、接合膜3に対して所望の接合強度で接合可能なものとなる。
【0046】
このうち、第2の基材22の接合面24には、水酸基が存在しているのが好ましい。このような接合面24には、水酸基が露出した接合膜3との間に、水素結合に基づく大きな引力が生じる。これにより、最終的に、第1の基材21と第2の基材22とを特に強固に接合することができる。
また、表面処理に代えて、第2の基材22の接合面24に、あらかじめ、中間層を形成しておいてもよい。
【0047】
この中間層は、いかなる機能を有するものであってもよく、例えば、前記第1の基材21の場合と同様に、接合膜3との密着性を高める機能、クッション性(緩衝機能)、応力集中を緩和する機能等を有するものが好ましい。このような中間層を介して、第2の基材22と接合膜3とを接合することにより、最終的に、信頼性の高い接合体1を得ることができる。
かかる中間層の構成材料には、例えば、前記第1の基材21の接合面23に形成する中間層の構成材料と同様の材料を用いることができる。
なお、上記のような表面処理および中間層の形成は、必要に応じて行えばよく、特に高い接合強度を必要としない場合には、省略することができる。
【0048】
[2]次に、シリコーン材料を含有する液状材料を塗布法を用いて接合面23上に供給する。これにより、第1の基材21の接合面23上に、液状被膜30が形成される(図1(b)参照)。
塗布法としては、特に限定されないが、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法および液滴吐出法や等が挙げられるが、特に、液滴吐出法を用いるのが好ましい。液滴吐出法によれば、図1(b)に示すように、液状材料を液滴31として接合面23に供給することができるため、たとえ液状被膜30を接合面23の一部の領域に選択的にパターニングして形成する場合であったとしても、液状材料をこの領域の形状に対応して(選択的に)供給することができる。
【0049】
液滴吐出法としては、特に限定されないが、圧電素子による振動を利用して液状材料を吐出する構成のインクジェット法が好適に用いられる。インクジェット法によれば、目的とする領域(位置)に、液状材料を液滴31として、優れた位置精度で供給することができる。また、圧電素子の振動数および液状材料の粘度等を適宜設定することにより、液滴31のサイズ(大きさ)を、比較的容易に調整できることから、液滴31のサイズを小さくすれば、たとえ膜を形成する領域の形状が微細なものであったとしても、この領域の形状に対応した液状被膜30を確実に形成することができる。
【0050】
液状材料の粘度(25℃)は、通常、0.5〜200mPa・s程度であるのが好ましく、3〜20mPa・s程度であるのがより好ましい。液状材料の粘度をかかる範囲とすることにより、液滴の吐出をより安定的に行うことができる。さらに、この液状材料で構成される液状被膜30を次工程[3]で乾燥させた際に、接合膜3を形成するのに十分な量のシリコーン材料を液状材料中に含有したものとすることができる。また、形成される液状被膜30が、微細な形状をなしていた場合であっても、精度よく描画し得る大きさの液滴31を吐出することができる。
【0051】
また、液状材料の粘度をかかる範囲内とすれば、具体的には、液滴31の量(液状材料の1滴の量)を、平均で、0.1〜40pL程度に、より現実的には1〜30pL程度に設定し得る。これにより、接合面23に供給された際の液滴31の着弾径が小さなものとなることから、微細な形状の接合膜3をも確実に形成することができる。
さらに、接合面23に供給する液滴31の適宜設定することにより、形成される接合膜3の厚さの制御を比較的容易に行うことができる。
【0052】
また、液滴31として吐出される液状材料は、前述のようにシリコーン材料を含有するものであるが、シリコーン材料単独で、液状をなし目的とする粘度範囲である場合、シリコーン材料をそのまま液状材料として用いることができる。また、シリコーン材料単独で、固形状または高粘度の液状をなす場合には、液状材料として、シリコーン材料の溶液または分散液を用いることができる。
【0053】
シリコーン材料を溶解または分散するための溶媒または分散媒としては、例えば、アンモニア、水、過酸化水素、四塩化炭素、エチレンカーボネイト等の無機溶媒や、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、イソブタノール等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒、メチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒、ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化合物系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン等の硫黄化合物系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル等のニトリル系溶媒、ギ酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸系溶媒のような各種有機溶媒、または、これらを含む混合溶媒等を用いることができる。
シリコーン材料は、液状材料中に含まれ、次工程[3]において、この液状材料を乾燥させることにより形成される接合膜3の主材料として構成するものである。
【0054】
ここで、「シリコーン材料」とは、ポリオルガノシロキサン骨格を有する化合物であり、通常、主骨格(主鎖)部分が主としてオルガノシロキサン単位の繰り返しからなる化合物のことを言い、主鎖の一部から突出する分枝状の構造を有するものであってもよく、主鎖が環状をなす環状体であってもよく、主鎖の末端同士が連結しない直鎖状のものであってもよい。
例えば、ポリオルガノシロキサン骨格を有する化合物において、オルガノシロキサン単位は、その末端部では下記一般式(1)で表わされる構造単位を有し、連結部では下記一般式(2)で表わされる構造単位を有し、また、分枝部では下記一般式(3)で表わされる構造単位を有している。
【0055】
【化1】

[式中、各Rは、それぞれ独立して、置換または無置換の炭化水素基を表し、各Zは、それぞれ独立して、水酸基または加水分解基を表し、Xはシロキサン残基を表し、aは0または1〜3の整数を表し、bは0または1〜2の整数を表し、cは0または1を表す。]
【0056】
なお、シロキサン残基とは、酸素原子を介して隣接する構造単位が有するケイ素原子に結合しており、シロキサン結合を形成している置換基のことを表す。具体的には、−O−(Si)構造(Siは隣接する構造単位が有するケイ素原子)となっている。
このようなシリコーン材料において、ポリオルガノシロキサン骨格は、分枝状をなすもの、すなわち上記一般式(1)で表わされる構造単位、上記一般式(2)で表わされる構造単位および上記一般式(3)で表わされる構造単位で構成されているのが好ましい。この分枝状をなすポリオルガノシロキサン骨格を有する化合物(以下、「分枝状化合物」と略すこともある。)は、主骨格(主鎖)部分が主としてオルガノシロキサン単位の繰り返しからなる化合物であり、主鎖の途中でオルガノシロキサン単位の繰り返しが分枝するとともに、主鎖の末端同士が連結しないものである。
【0057】
この分枝状化合物を用いることにより、次工程[3]において、液状材料中に含まれるこの化合物の分枝鎖同士が互いに絡まり合うようにして接合膜3が形成されることから、得られる接合膜3は特に膜強度に優れたものとなる。
なお、上記一般式(1)〜上記一般式(3)中、基R(置換または無置換の炭化水素基)としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、ビフェニリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基等が挙げられる。さらに、これらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部または全部が、I)フッ素原子、塩素原子、臭素原子のようなハロゲン原子、II)グリシドキシ基のようなエポキシ基、III)メタクリル基のような(メタ)アクリロイル基、IV)カルボキシル基、スルフォニル基のようなアニオン性基等で置換された基等が挙げられる。
【0058】
加水分解基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基等のケトオキシム基、アセトキシ基等のアシルオキシ基、イソプロペニルオキシ基、イソブテニルオキシ基等のアルケニルオキシ基等が挙げられる。
また、分枝状化合物は、その分子量が、1×10〜1×10程度のものであるのが好ましく、1×10〜1×10程度のものであるのがより好ましい。分子量をかかる範囲内に設定することにより、液状材料の粘度を上述したような範囲内に比較的容易に設定することができる。
【0059】
このような分枝状化合物は、シラノール基を有するものであるのが好ましい。すなわち、上記一般式(1)〜上記一般式(3)で表わされる構造単位において、各基Zは水酸基であるのが好ましい。これにより、次工程[3]において、液状被膜30を乾燥させて接合膜3を得る際に、隣接する分枝状化合物が有する水酸基同士が結合することとなり、得られる接合膜3の膜強度が優れたものとなる。さらに、第1の基材21として、前述したように、その接合面(表面)23から水酸基が露出しているものを用いた場合には、分枝状化合物が備える水酸基と、第1の基材21が備える水酸基とが結合することから、分枝状化合物を物理的な結合ばかりでなく、化学的な結合によっても第1の基材21に結合させることができる。その結果、接合膜3は、第1の基材21の接合面23に対して、強固に結合したものとなる。
【0060】
また、シラノール基が有するシリコン原子に連結している炭化水素基は、フェニル基であるのが好ましい。すなわち、基Zが水酸基である上記一般式(1)〜上記一般式(3)で表わされる構造単位に存在する基Rは、フェニル基であるのが好ましい。これにより、シラノール基の反応性がより向上するため、隣接する分枝状化合物が有する水酸基同士の結合がより円滑に行われるようになる。
【0061】
さらに、シラノール基が存在しないシリコン原子に連結している炭化水素基は、メチル基であるのが好ましい。すなわち、基Zが存在しない上記一般式(1)〜上記一般式(3)で表わされる構造単位に存在する基Rは、メチル基であるのが好ましい。このように、基Zが存在しない上記一般式(1)〜上記一般式(3)で表わされる構造単位に存在する基Rがメチル基である化合物は、比較的入手が容易で、かつ安価であるとともに、接合膜3にエネルギーを付与することにより、メチル基が容易に切断されて、その結果として、接合膜3に確実に接着性を発現させる。さらに、接合膜3にエネルギーが過剰に付与されると、メチル基が切断された部位において当該化合物同士が互いに結合することにより接合膜3の接着性は、失活する。以上より、上記化合物は、分枝状化合物(シリコーン材料)として好適に用いられる。
以上のことを考慮すると、分枝状化合物としては、例えば、下記一般式(4)で表わされる化合物が好適に用いられる。
【0062】
【化2】

[式中、nは、それぞれ独立して、0または1以上の整数を表す。]
【0063】
さらに、上述した分枝状化合物は、比較的柔軟性に富む材料である。そのため、後工程[6]において、接合膜3を介して第1の基材21に第2の基材22を接合して接合体1を得る際に、例えば、第1の基材21と第2の基材22との各構成材料が互いに異なるものを用いる場合であったとしても、各基材21、22間に生じる熱膨張に伴う応力を確実に緩和することができる。これにより、最終的に得られる接合体1において、不本意な剥離が生じるのを確実に防止することができる。
【0064】
また、分枝状化合物は、耐薬品性に優れているため、薬品類等に長期にわたって曝されるような部材の接合に際して効果的に用いることができる。具体的には、例えば、樹脂材料を浸食し易い有機系インクが用いられる工業用インクジェットプリンタの液滴吐出ヘッドを製造する際に、接合膜3を用いて接合すれば、その耐久性を確実に向上させることができる。また、分枝状化合物は、耐熱性にも優れていることから、高温下に曝されるような部材の接合に際しても効果的に用いることができる。
【0065】
[3]次に、第1の基材21上に設けられた液状被膜30を乾燥することにより、接合膜3を形成する(図1(c)参照)。
液状被膜30を乾燥させる際の温度は、25℃以上であるのが好ましく、25〜100℃程度であるのがより好ましい。
また、乾燥させる時間は、0.5〜48時間程度であるのが好ましく、15〜30時間程度であるのがより好ましい。
【0066】
かかる条件で液状被覆30を乾燥させることにより、後述する工程[5]において、エネルギーを付与することにより接着性が好適に発現する接合膜3を確実に形成することができる。また、シリコーン材料として前記工程[2]で説明したようなシラノール基を有するものを用いた場合には、シリコーン材料が有するシラノール基同士を、さらには、シリコーン材料が有するシラノール基と第1の基材21が有する水酸基とを、確実に結合させることができるため、形成される接合膜3を膜強度に優れ、かつ第1の基材21に対して強固に結合したものとすることができる。
【0067】
さらに、乾燥させる際の雰囲気の圧力は、大気圧下であってもよいが、減圧下であるのが好ましい。具体的には、減圧の程度は、133.3×10−5〜1333Pa(1×10−5〜10Torr)程度であるのが好ましく、133.3×10−4〜133.3Pa(1×10−4〜1Torr)程度であるのがより好ましい。これにより、接合膜3の膜密度が緻密化して、接合膜3をより優れた膜強度を有するものとすることができる。
【0068】
以上のように、接合膜3を形成する際の条件を適宜設定することにより、形成される接合膜3の膜強度等を所望のものとすることができる。
接合膜3の平均厚さは、10〜10000nm程度であるのが好ましく、50〜5000nm程度であるのがより好ましい。供給する液状材料の量を適宜設定して、形成される接合膜3の平均厚さを前記範囲内とすることにより、第1の基材21と第2の基材22とを接合した接合体1の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、接合膜3の接着強度をより容易に所望のものとすることができる。
【0069】
すなわち、接合膜3の平均厚さが前記下限値を下回った場合は、最終的に得られる接合体1において十分な接合強度が得られないおそれがある。一方、接合膜3の平均厚さが前記上限値を上回った場合は、接合体1の寸法精度が著しく低下するおそれがある。
さらに、接合膜3の平均厚さをかかる範囲とすることにより、接合膜3がある程度弾性に富むものとなることから、後工程[6]において、第1の基材21と第2の基材22とを接合する際に、接合膜3と接触させる第2の基材22の接合面24にパーティクル等が付着していても、このパーティクルを接合膜3で取り囲むようにして接合膜3と接合面24とが接合することとなる。そのため、このパーティクルが存在することによって、接合膜3と接合面24との界面における接合強度が低下したり、この界面において剥離が生じたりするのを的確に抑制または防止することができる。
また、本発明では、液状材料を供給して接合膜3を形成する構成となっていることから、たとえ第1の基材21の接合面23に凹凸が存在している場合であっても、その凹凸の高さにもよるが、凹凸の形状に追従するようにして接合膜3を形成することができる。その結果、接合膜3が凹凸を吸収して、その表面がほぼ平坦面で構成されることとなる。
【0070】
[4]次に、第1の基材21に設けられた接合膜3の表面32における第2の領域34となるべき領域に対して、当該領域に位置する接合膜3の接着性が失活するまで過剰なエネルギーを付与する。これにより、接合膜3に接着性が失活した第2の領域34が形成される(図1(d)参照)。
本実施形態では、接合膜3の表面32に対してエネルギー線を過剰に照射することにより、エネルギーの付与を行う。
【0071】
ここで、接合膜3のエネルギーが付与された領域においては、表面32付近のシリコーン材料の分子結合の一部が切断し、表面32が活性化されることに起因して、表面32付近に第2の基材22に対する接着性が発現する。このような状態の第1の基材21は、第2の基材22と、接合膜3を介して化学的結合に基づいて接合可能なものとなる。
しかしながら、この接合膜3の接着性が発現した領域に対してエネルギーを過剰に付与すると、表面32付近で活性化されたシリコーン材料同士の分子結合が切断された部位で再結合する。その結果、接合膜3のエネルギーが過剰に付与された領域においては、表面32付近に一旦発現した接着性がエネルギーの付与とともに失われ、接合膜3の表面32付近では接着性が失活することとなる。また、一旦接合膜3の表面32付近において接着性を失活させれば、接合膜3の失活した部位にエネルギーが付与されたとしても、当該部位の表面32付近の接着性が発現することはない。
【0072】
ここで、本明細書中において、表面32が「活性化された」状態とは、上述のように接合膜3の表面32の分子結合の一部、具体的には、例えば、ポリジメチルシロキサン骨格が備えるメチル基が切断されて、接合膜3中に終端化されていない結合手(以下、「未結合手」または「ダングリングボンド」とも言う。)が生じた状態の他、この未結合手が水酸基(OH基)によって終端化された状態、さらに、これらの状態が混在した状態を含めて、接合膜3が「活性化された」状態と言うこととする。
【0073】
なお、未結合手の多い、より活性化された状態では、接合膜3の接着強度は大きいものなる。一方、未結合種の少ない、あまり活性していない状態では、接合膜3の接着強度は小さいものとなる。
接合膜3にエネルギーを付与する方法としては、いかなる方法であってもよいが、例えば、接合膜3にエネルギー線を照射する方法、接合膜3を加熱する方法、接合膜3に圧縮力(物理的エネルギー)を付与する方法、接合膜3をプラズマに曝す(プラズマエネルギーを付与する)方法、接合膜3をオゾンガスに曝す(化学的エネルギーを付与する)方法等が挙げられる。これにより、接合膜3の表面32を効率よく活性化させることができるとともに、さらに接合膜3の表面32の接着性を失活させることができる。また、接合膜3中の分子構造を必要以上に切断しないので、接合膜3の特性が低下してしまうのを避けることができる。
【0074】
上記の方法の中でも、本実施形態では、接合膜3にエネルギーを付与する方法として、特に、接合膜3にエネルギー線を照射する方法を用いる。かかる方法は、付与するエネルギーの量を、精度よく簡単に調整することができる。このため、接合膜3で切断される分子結合の量を調整することが可能となる。このように切断される分子結合の量を調整することにより、接合膜3の接着性を容易に調整することができるとともに、接合膜3の接着性をより確実に失活させることができる。
【0075】
すなわち、表面32付近で切断される分子結合の量を多くすることにより、接合膜3の表面32付近に、より多くの活性手が生じるため、接合膜3に発現する接着性がより高くなる。しかしながら、表面32付近で切断される分子結合の量が過剰に多くなると、シリコーン材料同士の分子結合が切断された部位においてシリコーン材料同士が再結合し、接合膜3の表面32付近に一旦生じた接着性が失活することとなる。一方、表面32付近で切断される分子結合の量が少なくなると、接合膜3の表面32付近に生じる活性手を少なくなり、接合膜3に発現する接着性を抑えられる。
【0076】
換言すれば、接合膜3は、エネルギーが付与されることにより接着性を発現するが、さらに過剰にエネルギーが付与されると、エネルギー付与の過程で一旦生じた接着性が失活するものである。
また、エネルギー線を照射して接合膜3にエネルギーを付与する際には、エネルギー線の種類、エネルギー線の出力、エネルギー線の照射時間等の条件を調整することにより、接合膜3に付与するエネルギーの量を容易に調節することができる。
【0077】
さらに、エネルギー線を照射する方法によれば、短時間で大量のエネルギーを付与することができるので、エネルギーの付与をより効率よく行うことができる。
また、エネルギー線を放射する方法によれば、接合膜3に対し、容易に位置選択的にエネルギーを付与することができる。
エネルギー線としては、例えば、紫外線、レーザ光のような光、X線、γ線のような電磁波、電子線、イオンビームのような粒子線等や、またはこれらのエネルギー線を2種以上組み合わせたものが挙げられる。
【0078】
これらのエネルギー線の中でも、特に、レーザ光、電子線のような指向性の高いエネルギー線を用いるのが好ましい。かかるエネルギー線であれば、目的の方向に向けて照射することにより、所定領域に対してエネルギー線を選択的にかつ簡単に照射することができる。
また、紫外線としては、波長126〜300nm程度の紫外線を用いるのが好ましい。かかる範囲内の紫外線によれば、付与されるエネルギー量が最適化されるので、接合膜3中の骨格をなす分子結合が必要以上に破壊されるのを防止しつつ、接合膜3から表面32付近の分子結合を選択的に切断することができる。これにより、接合膜3の特性(機械的特性、化学的特性等)が低下するのを防止しつつ、接合膜3に接着性を確実に発現させることができるとともに、接合膜3の接着性を失活させることができる。
【0079】
なお、紫外線の波長は、より好ましくは、126〜300nm程度とされる。
また、紫外線によれば、広い範囲をムラなく短時間に処理することができるので、分子結合の切断を効率よく行うことができる。さらに、紫外線には、例えば、UVランプ等の簡単な設備で発生させることができるという利点もある。
また、UVランプを用いて紫外線を照射を行う場合、UVランプの出力は、接合膜3の面積に応じて異なるが、1mW/cm〜1W/cm程度であるのが好ましく、5mW/cm〜50mW/cm程度であるのがより好ましい。なお、この場合、UVランプと接合膜3との離間距離は、3〜3000mm程度とするのが好ましく、10〜1000mm程度とするのがより好ましい。
【0080】
また、紫外線を照射する時間は、接合膜3の表面32付近の分子結合を切断し得る程度の時間、すなわち、接合膜3の表面付近に存在する分子結合を選択的に切断し得る程度の時間とするのが好ましい。具体的には、紫外線の光量、接合膜3の構成材料等に応じて若干異なるものの、1秒〜30分程度であるのが好ましく、1秒〜10分程度であるのがより好ましい。
また、紫外線は、時間的に連続して照射されてもよいが、間欠的(パルス状)に照射されてもよい。
【0081】
一方、レーザ光としては、例えば、エキシマレーザのようなパルス発振レーザ(パルスレーザ)、炭酸ガスレーザ、半導体レーザのような連続発振レーザ等が挙げられる。中でも、パルスレーザが好ましく用いられる。パルスレーザでは、接合膜3のレーザ光が照射された部分に経時的に熱が蓄積され難いので、蓄積された熱による接合膜3の変質・劣化を確実に防止することができる。すなわち、パルスレーザによれば、接合膜3の内部にまで蓄積された熱の影響がおよぶのを、防止することができる。
【0082】
また、パルスレーザのパルス幅は、熱の影響を考慮した場合、できるだけ短い方が好ましい。具体的には、パルス幅が1ps(ピコ秒)以下であるのが好ましく、500fs(フェムト秒)以下であるのがより好ましい。パルス幅を前記範囲内にすれば、レーザ光照射に伴って接合膜3に生じる熱の影響を、的確に抑制することができる。なお、パルス幅が前記範囲内程度に小さいパルスレーザは、「フェムト秒レーザ」と呼ばれる。
【0083】
また、レーザ光の波長は、特に限定されないが、例えば、200〜1200nm程度であるのが好ましく、400〜1000nm程度であるのがより好ましい。
また、レーザ光のピーク出力は、パルスレーザの場合、パルス幅によって異なるが、0.1〜10W程度であるのが好ましく、1〜5W程度であるのがより好ましい。
さらに、パルスレーザの繰り返し周波数は、0.1〜100kHz程度であるのが好ましく、1〜10kHz程度であるのがより好ましい。パルスレーザの周波数を前記範囲内に設定することにより、表面32付近の分子結合を選択的に切断することができる。
【0084】
なお、このようなレーザ光の各種条件は、レーザ光を照射された部分の温度が、好ましくは常温(室温)〜600℃程度、より好ましくは200〜600℃程度、さらに好ましくは300〜400℃程度になるように適宜調整されるのが好ましい。これにより、レーザ光を照射した部分の温度が著しく上昇するのを防止して、表面32付近の分子結合を選択的に切断することができる。
【0085】
また、接合膜3に照射するレーザ光は、その焦点を、接合膜3の表面32に合わせた状態で、この表面32に沿って走査されるようにするのが好ましい。これにより、レーザ光の照射によって発生した熱が、表面32付近に局所的に蓄積されることとなる。その結果、接合膜3の表面32に存在する分子結合を選択的に脱離させることができる。
また、接合膜3に対するエネルギー線の照射は、いかなる雰囲気中で行うようにしてもよく、具体的には、大気、酸素のような酸化性ガス雰囲気、水素のような還元性ガス雰囲気、窒素、アルゴンのような不活性ガス雰囲気、またはこれらの雰囲気を減圧した減圧(真空)雰囲気等が挙げられるが、中でも、大気雰囲気(特に、露点が低い雰囲気下)中で行うのが好ましい。これにより、表面32付近にオゾンガスが生じて、表面32の活性化および失活がより円滑に行われることとなる。さらに、雰囲気を制御することに手間やコストをかける必要がなくなり、エネルギー線の照射をより簡単に行うことができる。
【0086】
このように、エネルギー線を照射する方法によれば、接合膜3に対して選択的にエネルギーを付与することが容易に行えるため、例えば、エネルギーの付与による第1の基材21の変質・劣化を防止することができる。
なお、エネルギー線を照射する方法以外の方法で接合膜3に対してエネルギーを付与してもよい。
また、上述したように、本実施形態では、第2の領域34となるべき領域に位置する接合膜3に対し、選択的に過剰のエネルギーを付与する。
【0087】
具体的には、図1(d)に示すように、接合膜3の表面32の上方に、エネルギー線を照射すべき領域(第2の領域34)の形状に対応する形状をなす窓部61を有するマスク6を設け、このマスク6を介してエネルギー線を照射する。このようにすれば、エネルギー線を照射すべき領域(第2の領域34)に対して、エネルギー線を選択的に照射することが容易に行える。これにより、接合膜3に、表面32の接着性が失活した第2の領域34が形成される。
また、用いるエネルギー線が指向性の高いエネルギー線である場合、マスクを用いないものであっても、エネルギー線を照射すべき部位(第2の領域34)に対し、選択的にエネルギー線を照射することができる。
【0088】
[5]次に、接合膜3の全域に対して、エネルギーを付与する。
本実施形態では、接合膜3の領域全部に対してエネルギー線を照射し、接合膜3の第2の領域34とは異なる部位に接着性が発現した第1の領域33を形成する(図1(e))。
ここでは、第2の領域34は、接着性が失活されているので、さらにエネルギーが付与されたとしても接着性が発現することがない。また、たとえ、第2の領域34に接着性が残存していた場合であっても、接合膜3の第2の領域34に対してさらにエネルギーの付与を行うことにより、接合膜3の第2の領域34における表面32付近の接着性をより確実に失活させることができる。
【0089】
一方で、前記工程[4]においてエネルギーが付与されていない接合膜3の第2の領域34以外の領域では、エネルギーが付与されることにより接着性が発現し、第1の領域33が形成される。
なお、本工程[5]において接合膜3の単位面積当たりに付与されるエネルギーの量は、前記工程[4]において接合膜3の単位面積当たりに付与されるエネルギーの量よりも少ないものである。
【0090】
このように、本実施形態では、第1の領域33の形成が、第2の領域34の形成の開始後に開始されるものである。これにより、第1の領域33の形成が完了してから後工程[6]を行うまでの時間を短縮することができ、第1の領域33に位置する接合膜3に発現した接着性が、後述するように緩和して低下することを防止することができる。
また、本実施形態では、第2の領域34の形成の完了後に第1の領域33の形成が完了するものである。これにより、第1の領域33の形成が完了後、速やかに後工程[6]を行うことができ、第1の領域33に位置する接合膜3に発現した接着性が、後述するように緩和して低下することを防止することができる。
【0091】
なお、本明細書において、第1の領域33の形成の完了とは、接合膜3の第1の領域33が形成されるべき部位において、第1の基材21と第2の基材22とを当該部位において接着するに足る接着強度が発現した時点をいう。
また、本明細書において、第2の領域34の形成の完了とは、接合膜3の第2の領域34が形成されるべき部位において、一旦接着性が発現した後、第1の基材21と第2の基材22とを当該部位において接着することができない程度に接着強度が低下した時点をいう。
【0092】
また、エネルギー線の照射については、マスク6を取り除いた状態で行うことにより、接合膜3の全域(第1の領域33および第2の領域34)に位置する接合膜3に同時にエネルギー線を照射することができる。
エネルギー線の照射については、第1の領域33に位置する接合膜3に接着性が発現するような条件であればよく、上述した前記工程[4]と同様にして行うことができる。
なお、本工程では、少なくとも第1の領域33となるべき部位にエネルギー線が照射されていればよい。
【0093】
[6]次に、接合膜3と第2の基材22とが密着するように、第1の基材21と第2の基材22とを接触させ、貼り合わせる(図2(f)参照)。これにより、前記工程[4]において、第1の領域33に位置する接合膜3の表面32に、第2の基材22に対する接着性が発現していることから、当該領域に位置する接合膜3と第2の基材22の接合面24とが化学的に結合する。その結果、第1の基材21と第2の基材22とが、接合膜3の第1の領域33に位置する部分を介して接合され、図2(g)に示すような接合体1が得られる。
【0094】
このようにして得られた接合体1では、従来の接合方法で用いられていた接着剤のように、主にアンカー効果のような物理的結合に基づく接着ではなく、共有結合のような短時間で生じる強固な化学的結合に基づいて、2つの基材21、22が接合されている。このため、接合体1は短時間で形成することができ、かつ、不本意な接合ムラ等も生じ難いものとなる。
【0095】
また、このような接合方法によれば、高温(例えば、700℃以上)での熱処理を必要としないことから、耐熱性の低い材料で構成された第1の基材21および第2の基材22をも、接合に供することができる。
また、接合膜3を介して第1の基材21と第2の基材22とを接合しているため、各基材21、22の構成材料に制約がないという利点もある。
以上のことから、本発明によれば、第1の基材21および第2の基材22の各構成材料の選択の幅をそれぞれ広げることができる。
【0096】
また、本発明の接合方法では、接合体1の接合強度を調整することができるため、例えば、接合膜3が付与された同一の部品(第1の基材21)を複数品種の製品に用いる場合、当該部品を用いる際に、製品ごとに部品の接合強度を異ならせることができる。すなわち、本発明の接合方法は、少量多品種の製品の製造に有利である。
また、本実施形態では、第2の領域34の形成の完了後に第1の基材21と第2の基材22とを接合膜3を介して接触させて接合体1を得るものである。これにより、第2の領域34に位置する接合膜3において、不本意に接着性が発現することが防止される。
【0097】
また、本実施形態では、第1の基材21と第2の基材22とが、第1の領域33の形成の完了および第2の領域34の形成の完了のいずれか遅い方の後に、接合膜3を介して接触する。これにより、第1の領域33と第2の領域34との形成を連続して、または時間的に重複して行うことができる。この結果、本実施形態の接合方法は、接合体1の製造時間を短いものとすることができる。
【0098】
また、第1の基材21の熱膨張率と第2の基材22の熱膨張率が互いに異なっている場合には、できるだけ低温下で接合を行うのが好ましい。接合を低温下で行うことにより、接合界面に発生する熱応力のさらなる低減を図ることができる。
具体的には、第1の基材21と第2の基材22との熱膨張率の差にもよるが、第1の基材21および第2の基材22の温度が25〜50℃程度である状態下で、第1の基材21と第2の基材22とを貼り合わせるのが好ましく、25〜40℃程度である状態下で貼り合わせるのがより好ましい。このような温度範囲であれば、第1の基材21と第2の基材22との熱膨張率の差がある程度大きくても、接合界面に発生する熱応力を十分に低減することができる。その結果、接合体1における反りや剥離等の発生を確実に抑制または防止することができる。
【0099】
また、この場合、具体的な第1の基材21と第2の基材22との間の熱膨張係数の差が、5×10−5/K以上あるような場合には、上記のようにして、できるだけ低温下で接合を行うことが特に推奨される。
ここで、本工程において、第1の基材21と第2の基材22とを接合するメカニズムについて説明する。
【0100】
例えば、第2の基材22の接合面24に水酸基が露出している場合を例に説明すると、本工程において、第1の基材21に形成された接合膜3と、第2の基材22の接合面24とが接触するように、これらを貼り合わせたとき、接合膜3の表面32に存在する水酸基と、第2の基材22の接合面24に存在する水酸基とが、水素結合によって互いに引き合い、水酸基同士の間に引力が発生する。この引力によって、第1の基材21と第2の基材22とが接合されると推察される。
【0101】
また、この水素結合によって互いに引き合う水酸基同士は、温度条件等によって、脱水縮合を伴って表面から切断される。その結果、第1の基材21と第2の基材22との接触界面において第2の領域34では、水酸基が結合していた結合手同士が結合する。これにより、第1の基材21と第2の基材22とがより強固に接合されると推察される。
また、第1の基材21の接合膜3の表面や内部、および、第2の基材22の接合面24や内部に、それぞれ終端化されていない結合手すなわち未結合手(ダングリングボンド)が存在している場合、第1の基材21と第2の基材22とを貼り合わせた時、これらの未結合手同士が再結合する。この再結合は、互いに重なり合う(絡み合う)ように複雑に生じることから、接合界面にネットワーク状の結合が形成されることとなる。これにより、接合膜3と第2の基材22とが特に強固に接合される。
【0102】
なお、前記工程[4]で活性化された接合膜3の表面は、その活性状態が経時的に緩和してしまう。すなわち、第1の基材21と第2の基材22とを接触させる前において、接合膜3の表面32にある未結合手が終端化された場合、当該終端化された未結合手による接着性は失活する。このため、前記工程[4]の終了後、できるだけ早く本工程[6]を行うようにするのが好ましい。具体的には、前記工程[4]の終了後、60分以内に本工程[6]を行うようにするのが好ましく、5分以内に行うのがより好ましい。かかる時間内であれば、接合膜3の表面が十分な活性状態を維持しているので、第1の基材21と第2の基材22とを貼り合わせたとき、これらの間により確実に所望の接合強度を得ることができる。
【0103】
換言すれば、活性化させる前の接合膜3は、シリコーン材料を乾燥させて得られた接合膜であるため、化学的に比較的安定であり、耐候性に優れている。このため、活性化させる前の接合膜3は、長期にわたる保存に適したものとなる。したがって、そのような接合膜3を備えた第1の基材21を多量に製造または購入して保存しておき、本工程の貼り合わせを行う直前に、必要な個数のみに前記工程[5]に記載したエネルギーの付与を行うようにすれば、接合体1の製造効率の観点から有効である。
【0104】
なお、接合膜3全体の接着強度の調整は、例えば、接合膜3を平面視した場合において、第1の領域33における接合膜3の面積と第2の領域34における接合膜3の面積の比率を変更することにより行うことができる。より具体的には、接合膜3における第1の領域33の面積の比率を大きくすることにより、接合膜3全体としての接着強度を大きいものとすることができる。また、接合膜3における第1の領域33の面積の比率を小さものとすることにより、接合膜3全体としての接着強度を小さいものとすることができる。
【0105】
接合膜3を平面視した場合における第1の領域33および第2の領域34のパターンは、いかなるものであってもよく、接合される第2の基材22の形状、性質等に合わせて適宜設定することができるが、例えば、図3(a)に示すように短冊状に形成された第1の領域33および第2の領域34が交互に並べられたパターン、図3(b)に示すように四角形状に形成された第2の領域34を四角形状の第1の領域33と第2の領域34とが交互に取り囲んだパターン等が挙げられる。
【0106】
また、接合膜3を平面視した場合において、図3(a)、図3(b)のように接着性を有する領域(第1の領域33)が接合膜3の縁部に設けられていることが好ましい。これにより、得られる接合体1において、第1の基材21と第2の基材22とが不本意に剥離しにくいものとなり、一定の接合強度を長期間にわたって保つことができる。
以上のようにして、図2(g)に示す接合体(本発明の接合体)1を得ることができる。
【0107】
なお、接合体1を得る際、または、接合体1を得た後に、この接合体1に対して、必要に応じ、以下の3つの工程([7−1]、[7−2]および[7−3])のうちの少なくとも1つの工程(接合体1の接合強度を高める工程)を行うようにしてもよい。これにより、接合体1の接合強度の向上を容易に図ることができる。なお、第2の領域34において接着性が失活しているため、このような工程において、接合膜3は、第2の領域34に接着性が発現することはない。
【0108】
[7−1] 図2(h)に示すように、得られた接合体1を、第1の基材21と第2の基材22とが互いに近づく方向に加圧する。
これにより、第1の基材21の表面および第2の基材22の表面に、それぞれ接合膜3の表面がより近接し、接合体1における接合強度をより高めることができる。
また、接合体1を加圧することにより、接合体1中の接合界面に残存していた隙間を押し潰して、接合面積をさらに広げることができる。これにより、接合体1における接合強度をさらに高めることができる。
【0109】
なお、この圧力は、第1の基材21および第2の基材22の各構成材料や各厚さ、接合装置等の条件に応じて、適宜調整すればよい。具体的には、第1の基材21および第2の基材22の各構成材料や各厚さ等に応じて若干異なるものの、0.2〜10MPa程度であるのが好ましく、1〜5MPa程度であるのがより好ましい。これにより、接合体1の接合強度を確実に高めることができる。なお、この圧力が前記上限値を上回っても構わないが、第1の基材21および第2の基材22の各構成材料によっては、各基材21、22に損傷等が生じるおそれがある。
また、加圧する時間は、特に限定されないが、10秒〜30分程度であるのが好ましい。なお、加圧する時間は、加圧する際の圧力に応じて適宜変更すればよい。具体的には、接合体1を加圧する際の圧力が高いほど、加圧する時間を短くしても、接合強度の向上を図ることができる。
【0110】
[7−2] 図2(h)に示すように、得られた接合体1を加熱する。
これにより、接合体1における接合強度をより高めることができる。
このとき、接合体1を加熱する際の温度は、室温より高く、接合体1の耐熱温度未満であれば、特に限定されないが、好ましくは50〜200℃程度とされ、より好ましくは50〜150℃程度とされる。かかる範囲の温度で加熱すれば、接合体1が熱によって変質・劣化するのを確実に防止しつつ、接合強度を確実に高めることができる。
【0111】
また、加熱時間は、特に限定されないが、1〜30分程度であるのが好ましい。
また、前記工程[7−1]、[7−2]の双方を行う場合、これらを同時に行うのが好ましい。すなわち、図2(h)に示すように、接合体1を加圧しつつ、加熱するのが好ましい。これにより、加圧による効果と、加熱による効果とが相乗的に発揮され、接合体1の接合強度を特に高めることができる。
これにより、接合膜3と第2の基材22との間に形成される化学結合を増加させ、接合体1の接合強度を特に高めることができる。
このとき照射されるエネルギー線の条件は、前記工程[4][5]に示したエネルギー線の条件と同等にすればよい。
【0112】
また、本工程[7−3]を行う場合、第1の基材21および第2の基材22のうち、いずれか一方が透光性を有していることが必要である。そして、透光性を有する基材側から、エネルギー線を照射することにより、接合膜3に対して確実にエネルギー線を照射することができる。
また、このとき、第1の領域33に位置する接合膜3に対し、選択的にエネルギー線の照射を行ってもよい。
以上のような工程を行うことにより、接合体1における接合強度のさらなる向上を容易に図ることができる。
【0113】
また、例えば、前記工程[5]において、第1の領域33に位置する接合膜3に付与するエネルギーの量を少ないものとして比較的弱い接着性を発現させて、その後、接合を行って比較的弱い接合強度を有する接合体1を得、さらに、前記3つの工程([7−1]、[7−2]および[7−3])のうち少なくとも1つの工程を行うことにより、接合体1の接合強度を所望の大きさに調整してもよい。これにより、接合を行った直後の接合体1は、位置ずれ等が起きた際に、容易に剥離することができ、前記工程[5]および前記工程[6]を再び行うことで、再度の第1の基材21と第2の基材22との間での接合が可能になる。このため、位置ずれを防止した状態で前記3つの工程([7−1]、[7−2]および[7−3])のうち少なくとも1つの工程を行うことができ、最終的に得られる接合体1は、寸法精度が高く、所望の接合強度を有するものとなる。
【0114】
上述したような接合方法によって得られる接合体1は、第1の基材21と第2の基材22とが、接着性が発現した第1の領域33と接着性が失活した第2の領域34とが形成された接合膜3を介して接合されている。このため、接合体1の接合強度を容易に調整することができる。その結果、例えば、第1の基材21と第2の基材22との接合強度を大きいものとすることもできるし、小さいものとすることもできる。したがって、第1の基材21と第2の基材22とが強固に接合されたものとすることもできるし、第1の基材21と第2の基材22とが容易に剥離可能なものとすることもできる。
【0115】
すなわち、接合体1の接合強度を調整可能であると同時に、接合体1を分離する際の強度(割裂強度)を調整可能である。
また、本発明の接合体1は、接合膜3がシリコーン材料で構成されており、化学的に安定であるため熱や水分等によっては変質しにくく、接合強度が低下しにくいものである。さらに、接合膜3の一旦失活した第2の領域34では、接着性が発現することがない。
【0116】
これに対し、例えば、接合膜3全体に付与するエネルギーの量を調節して、接合体1の接合強度を調節することも考えられる。このような場合、得られた接合体1を使用している際に、熱、エネルギー線等のエネルギーが付与された場合に、接合体1の接合強度が大きくなってしまう。このため、接合体1の接合強度を一定の調節された大きさで維持することが困難である。
【0117】
また、従来の接着剤を用いた場合、得られる接合体は、熱や紫外線、湿気等によって接合強度が変化する。さらに、接着材の膜において失活した部位と接着性を有する部位とを同時に形成することは困難である。
また、第1の基材21と第2の基材22とが接合する接合膜3の面積や形状を適宜設定することにより、接合膜3に生じる応力の局所集中を緩和することができる。これにより、例えば、第1の基材21と第2の基材22との間で熱膨張率差が大きい場合でも、各基材21、22を確実に接合することができる。
【0118】
<<第2実施形態>>
次に、本発明の接合方法の第2実施形態について説明する。
図4は、本発明の接合方法の第2実施形態を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図4中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
以下、接合方法の第2実施形態について説明するが、前記第1実施形態にかかる接合方法との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0119】
本実施形態にかかる接合方法は、第1の基材21が備える接合膜3の全部の領域にエネルギーを付与し、接合膜3の全域に、接着性が発現した第1の領域33を形成する。その後、第1の基材21が備える第1の領域33に包含された位置ある接合膜3に対し、選択的に過剰のエネルギーを付与して、第1の領域33に位置する接合膜3の一部に、接着性が失活した第2の領域34を形成する。以上の点以外は、前述した第1実施形態と同様である。
また、本実施形態において、第1の工程は、後述する工程[1A]と工程[2A]とで構成され、第2の工程は、後述する工程[3A]と工程[4A]と工程[5A]とを含んで構成される。
【0120】
[1A]まず、前記工程[1]と同様の第1の基材21と第2の基材22とを用意する。
[2A]次に、前記工程[2]および前記工程[3]で説明したのと同様にして、第1の基材21の接合面23に接合膜3を形成する。
[3A]次に、図4(a)に示すように、前記工程[5]で説明したのと同様にして、第1の基材21に形成された接合膜3の全域に対してエネルギーを付与する。これにより、接合膜3の全域に、接着性が発現した第1の領域33が形成される。
【0121】
[4A]次に、図4(b)に示すように、第1の基材21が備える第1の領域33に包含された位置にある接合膜3に対し、接着性が失活するまで選択的に過剰のエネルギーを付与する。これにより、第1の領域33に包含された領域に位置する接合膜3に、接着性が失活した第2の領域34を形成する。すなわち、本実施形態では、本工程において、第1の領域33の一部が第2の領域34に変化する。
【0122】
本実施形態では、第1の領域33の一部を第2の領域34に変化させることにより、第2の領域34の形成が第1の領域33の形成の完了前に開始され、第1の領域33と第2の領域34との形成を時間的に重複させて行うものである。このため、本発明の接合方法における接合体1の生産時間を短いものとすることができ、生産性を高いものとすることができる。
【0123】
また、本実施形態では、第1の領域33の形成の完了後に第2の領域34を形成するものである。これにより、結果として、第1の領域33と第2の領域34との形成を時間的に重複させて行うことができる。このため、本発明の接合方法における接合体1の生産時間を短いものとすることができ、生産性を高いものとすることができる。
また、エネルギーの付与は、前記工程[4]と同様にして行うことができ、本実施形態では、図4(b)に示すように、第2の領域34に対応する形状の窓部61を有するマスク6を介して、エネルギー線を接合膜3に照射することにより行うことができる。
【0124】
[5A]次に、図4(c)に示すように、次に、接合膜3と第2の基材22とが密着するように、第1の基材21と第2の基材22とを貼り合わせる。これにより、前記工程[3A]において、接合膜3の表面32の第1の領域33に、第2の基材22に対する接着性が発現していることから、当該領域に位置する接合膜3と第2の基材22の接合面24とが化学的に結合する。その結果、第1の基材21と第2の基材22とが、接合膜3の第1の領域33に位置する部分を介して接合され、図4(d)に示すような接合体1が得られる。
【0125】
また、このように、本実施形態では、第2の領域34の形成が完了した後に本工程[5A]を行うものである。このため、接合膜3の第2の領域34において不本意に接着性が発現することが防止される。
なお、接合体1を得た後、この接合体1に対して、必要に応じ、前記第1実施形態の工程[7−1]、[7−2]および[7−3]のうちの少なくとも1つの工程を行うようにしてもよい。
【0126】
<<第3実施形態>>
次に、本発明の接合方法の第3実施形態について説明する。
図5は、本発明の接合方法の第3実施形態を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図5中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
以下、接合方法の第3実施形態について説明するが、前記第1実施形態にかかる接合方法との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0127】
本実施形態にかかる接合方法は、まず、第1の基材21が備える接合膜3の一部にエネルギーを過剰に付与し、接着性が失活した第2の領域34を形成する。次に、第1の基材21と第2の基材22とを接合膜3を介して接触させる。そして、少なくとも第2の領域34とは異なる部位にエネルギーを付与することにより、接着性が発現した第1の領域33を形成して、接合膜3の第1の領域33において第1の基材21と第2の基材22とを接合する。以上の点以外は、前述した第1実施形態と同様である。
なお、本実施形態では、第2の基材22が光透過性を有するものとして説明する。
また、本実施形態において、第1の工程は、後述する工程[1B]と工程[2B]とで構成され、第2の工程は、後述する工程[3B]と工程[4B]と工程[5B]とを含んで構成される。
【0128】
[1B]まず、前記工程[1]と同様の第1の基材21と第2の基材22とを用意する。
[2B]次に、前記工程[2]および前記工程[3]で説明したのと同様にして、第1の基材21の接合面23に接合膜3を形成する。
[3B]次に、図5(a)に示すように、前記工程[4]で説明したのと同様にして、形成すべき第2の領域34に接着性が失活するまでエネルギーを過剰に付与する。これにより、接合膜3の当該一部に、接着性が失活した第2の領域34が形成される。
また、本工程は、対応する形状の窓部61を有するマスク6を介して、第1の基材21に形成された接合膜3の一部に対してエネルギー線を過剰に付与することにより行うことができる。
【0129】
[4B]次に、図5(b)、図5(c)に示すように、次に、接合膜3と第2の基材22とが密着するように、第1の基材21と第2の基材22とを接触させる。本工程において、接合膜3は、接着性を有していないものである。このため、第1の基材21と第2の基材22との位置合わせを容易に行うことができる。
[5B]次に、図5(d)に示すように、接合膜3の全域に対し、第2の基材22を介してエネルギーを付与する。これにより、第2の領域34とは異なる部位に位置する接合膜3に、接着性が発現した第1の領域33が形成される。そして、当該第1の領域33によって第1の基材21と第2の基材22とが接合され、接合体1が得られる。
【0130】
なお、エネルギーの付与は前述した工程[5]と同様にして行うことができる。
本実施形態では、上述したように第1の基材21と第2の基材22との位置合わせをした後に、エネルギーを付与して接着性が発現した第1の領域33を形成し、接合を行うものである。このため、接合体1は、寸法精度に特に優れたものとなる。
また、このように、第1の基材21と第2の基材22とを接合膜3を介して接触させ、位置合わせした後にエネルギーの付与を行うことにより、第1の領域33に発現する接着性を容易に制御することができる。
なお、接合体1を得た後、この接合体1に対して、必要に応じ、前記第1実施形態の工程[7−1]、[7−2]および[7−3]のうちの少なくとも1つの工程を行うようにしてもよい。
【0131】
<<第4実施形態>>
次に、本発明の接合方法の第4実施形態について説明する。
図6および図7は、本発明の接合方法の第4実施形態を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図6および図7中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0132】
以下、接合方法の第4実施形態について説明するが、前記第1実施形態にかかる接合方法との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
本実施形態にかかる接合方法は、接合面(表面)23に接合膜3が形成されている他に、さらに第2の基材22の接合面(表面)24にも接合膜3が形成されている。すなわち、本実施形態の接合方法は、第1の基材21上および第2の基材22上の双方に、接合膜3を形成して、これら接合膜3同士を一体化させることにより、第1の基材21と第2の基材22とを接合する接合方法である。
【0133】
そして、本実施形態では、第1実施形態における前記工程[4]と同様の工程において第2の領域となるべき部位に対し付与するエネルギーの量を調節することにより、第1実施形態における前記工程[5]と同様の工程において、接合膜3における第1の領域33と第2の領域34との形成を同時に完了させるものである。
以上の点以外は、前述した第1実施形態と同様である。
また、本実施形態において、第1の工程は、後述する工程[1C]と工程[2C]とで構成され、第2の工程は、後述する工程[3C]と工程[4C]と工程[5C]とを含んで構成される。
【0134】
[1C]まず、前記工程[1]と同様の第1の基材21と第2の基材22とを用意する。
[2C]次に、前記工程[2]および前記工程[3]で説明したのと同様にして、第1の基材21の接合面23に接合膜3を形成するとともに、第2の基材22の接合面24にも接合膜3を形成する。
【0135】
[3C]次に、図6(a)、図6(b)に示すように、第1の基材21に形成された接合膜3と、第2の基材22に形成された接合膜3との一部(不活化領域34’)に対してエネルギーを付与し、接着性を発現する。不活化領域34’は、後工程[4C]において、接着性が失活した第2の領域34となるべき領域である。
エネルギーの付与は、前期工程[4]で説明したのと同様にして行うことができ、例えば、不活化領域34‘に対応する形状の窓部61を有するマスク6を介してエネルギー線を照射することにより行うことができる。
また、接合膜3の不活化領域34’に位置する部位に付与されるエネルギーの量は、接合膜3の当該部位の接着性が失活するために必要な量から、後工程[4C]において、接合膜3の不活化領域34’に位置する部位に付与される量を引いた差となる。
【0136】
[4C]次に、図6(c)、図6(d)に示すように、前記工程[5]で説明したのと同様にして、第1の基材21に形成された接合膜3と、第2の基材22に形成された接合膜3との全域に対してエネルギーを付与する。これにより、不活化領域34’に位置する部位では、前記工程[3C]で付与されたエネルギーに加え、本工程で、エネルギーを付与されることにより接着性が失活して第2の領域34が形成される。また、第2の領域34が形成されると同時に、接合膜3の第2の領域34と異なる部位では、エネルギーが付与されることにより、接着性が発現して第1の領域33が形成される。
【0137】
本実施形態では、第1の領域33の形成と第2の領域34の形成とを同時に完了するものである。これにより、第1の領域33の接着性が発現してから、後工程[5C]において接合膜3を介して第1の基材21と第2の基材22とを接合するまでの時間が短いものとなる。この結果、第1の領域33で発現した接着性が緩和して低下することを防止することができ、得られる接合体1の接合強度をより確実に所望のものとすることができる。
【0138】
また、本実施形態では、第1の領域33の形成と第2の領域34の形成とを、時間的に重複して行うものである。これにより、本発明の接合方法は生産性に優れたものとなる。
また、本実施形態では、第1の領域33の形成は、第2の領域34の形成の開始後に開始されるものである。このような構成により、第1の領域33と第2の領域34との形成を同時に完了することができる。
【0139】
[4D]次に、図7(e)に示すように、各基材21、22が備える第1の領域33に位置する部位に接着性が発現した接合膜3同士を、それぞれが密着するように、各基材21、22同士を貼り合わせる。これにより、双方の基材21、22が備える接合膜3の第1の領域33により、基材21、22同士が接合され、図7(f)に示すような接合体1が得られる。
以上のようにして接合体1を得ることができる。
【0140】
なお、接合体1を得た後、この接合体1に対して、必要に応じ、前記第1実施形態の工程[7−1]、[7−2]および[7−3]のうちの少なくとも1つの工程を行うようにしてもよい。
以上のような前記各実施形態にかかる接合方法は、種々の複数の部材同士を接合するのに用いることができる。
【0141】
このような接合に供される部材としては、特に限定されず、例えば、トランジスタ、ダイオード、メモリのような半導体素子、水晶発振子のような圧電素子、反射鏡、光学レンズ、回折格子、光学フィルターのような光学素子、太陽電池のような光電変換素子、半導体基板とそれに搭載される半導体素子、絶縁性基板と配線または電極、インクジェット式記録ヘッド、マイクロリアクタ、マイクロミラーのようなMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)部品、圧力センサ、加速度センサのようなセンサ部品、半導体素子や電子部品のパッケージ部品、磁気記録媒体、光磁気記録媒体、光記録媒体のような記録媒体、液晶表示素子、有機EL素子、電気泳動表示素子のような表示素子用部品、一次電池用部品、リチウムイオン二次電池用部品等の二次電池用部品、燃料電池用部品等が挙げられる。
【0142】
<リチウムイオン二次電池>
次に、上述した接合方法をリチウムイオン二次電池に適用した場合の実施形態について説明する。図8は、本発明の接合方法を用いて製造されたリチウムイオン二次電池の断面図である。以下の説明では、図8の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0143】
図8に示すようにリチウムイオン二次電池40は、電池ケース41と、電極巻回体42と、電解液43と、正極端子44と、安全弁47とを有している。
電池ケース41は、四角柱の有底筒状をなし上側に開口部が設けられたケース本体411と、ケース本体411の開口部を封止しており開口部の形状に対応した板状をなしている封止部412とを有している。
【0144】
電池ケース41は、電極巻回体42、電解液43等を保持する機能を有する。また、電池ケース41は、負極リード45を介して電極巻回体42と接続されており、負極端子としても機能する。
封止部412は、二つの開口部を有している。一方の開口部には、正極端子44が封止部412を貫通するように設けられている。また、封止部412の他方の開口部413は、安全弁47によって封止されている。
【0145】
電池ケース41を構成する材料としては、電解液43と反応しにくく、導電性を有する材料を用いることができ、例えば、鉄、アルミニウム等の金属を1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
電極巻回体42は、電池ケース41内に封入されており、負極421と、セパレータ422と正極423とを有している。
【0146】
負極421、セパレータ422および正極423はそれぞれシート状をなしている。そして、負極421と、セパレータ422と正極423とがこの順番で積層した状態で巻回されて、電極巻回体42をなしている。
また、負極421は、負極リード45を介して電池ケース41に接続されている。
負極421を構成する材料としては、例えば、グラファイト、ハードカーボン等の炭素系材料等が挙げられる。
【0147】
正極423を構成する材料としては、例えば、コバルト酸リチウム等のリチウム遷移金属酸化物等が挙げられる。
セパレータ422は、負極421と正極423との間での短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させる機能を有する。セパレータ422は、リチウムイオンが移動できるような孔を有する多孔質の絶縁体で形成されている。
【0148】
セパレータ422を構成する材料としては、絶縁性を有するものであればよく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等の樹脂材料が挙げられる。
電解液43は、電池ケース41の内部の空間431を充填している。
電解液43は、リチウム塩(電解質)と、リチウム塩を溶解させる溶媒とを含むものである。
【0149】
リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiN(SOCF、LiC(SOCF3、LiN(SO、LiC(SO等を1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
また、溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等の環状炭酸エステル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル等の鎖状炭酸エステル等が挙げられ、これらを1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0150】
正極端子44は、封止部412を貫通するようにして設けられている。正極端子44は、正極リード46を介して正極423に接続されている。
正極端子44を構成する材料としては、特に限定されず、例えば、上述した電池ケース41と同様の材料を用いることができる。
また、正極端子44と封止部412との間には、絶縁膜414が設けられ、正極端子44と封止部412との間での短絡を防止している。
【0151】
安全弁47は、電池ケース41の上部の外表面に、封止部412の開口部413を封するようにして設けられている。
また、安全弁47は、シリコーン材料を含む接合膜35を介して本発明の接合方法を用いて封止部412に接合されている。かかる構成のリチウムイオン二次電池40は、安全弁(第1の基材)47と接合膜35と封止部(第2の基材)412とで構成された接合体を構成する。安全弁47は、電池ケース41内の圧力が一定以上に上昇した際に、封止部412から剥離して、電池ケース41内の内容物を放出することにより、電池ケース41内の圧力を逃がすことができる。本発明の接合方法を用いているため、安全弁47と封止部412とを含んで構成される接合体の接合強度は、調整可能である。このため、安全弁47と封止部412との間での接合強度を適宜設定することにより、電池ケース41内で発生する最大の圧力を制御することができる。
【0152】
そして、リチウムイオン二次電池40の正極端子44および電池ケース(負極端子)41を外部の電源または電子機器と接続することにより、充電および放電が行われる。
充電は、外部の電源の陽極と正極端子44とを接続し、外部の電源の陰極と電池ケース(負極端子)41とを接続して行われる。外部の電源から電力がリチウムイオン二次電池40に供給されることにより、正極423にあるリチウムイオンがセパレータ422の孔を通じて負極421に移動し、充電が行われる。
【0153】
放電は、外部機器と正極端子44および電池ケース(負極端子)41とを接続した状態で行う。負極421に一旦移動したリチウムイオンがセパレータ422の孔を通じて正極423に移動することにより、リチウムイオン二次電池40の放電が行われ、外部機器に電力が供給される。
リチウムイオン二次電池は、一般に、充電を過度に行った場合や、放電を過度に行った場合、不本意な金属イオンの析出、金属材料の電解液への溶出が起こる。このような場合、正極と負極との短絡等によってリチウムイオン二次電池が発熱する可能性がある。また、電解液が分解、揮発することにより気体が発生し、リチウムイオン二次電池が膨張する場合がある。以上のような場合、リチウムイオン二次電池が破裂する恐れがある。
【0154】
しかしながら、リチウムイオン二次電池40は、安全弁47が設けられているので、リチウムイオン二次電池40の電池ケース41内の圧力が一定以上に高まった場合であっても、安全弁47が封止部412から剥離し、封止部412の開口部413を通じて圧力を開放することができる。この結果、リチウムイオン二次電池40の破裂等を防止することができる。また、リチウムイオン二次電池40が発熱した場合であっても、接合膜3の失活した部位(上述した第1の領域33に相当)は、接着性を発現させることがなく、安全弁47と封止部412との間での接合強度が変化しにくいものとなる。
以上、本発明の接合方法および接合体を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例えば、本発明の接合方法では、必要に応じて、1以上の任意の目的の工程を追加してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0155】
【図1】本発明の接合方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図2】本発明の接合方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図3】本発明の接合方法において接合膜に付与されるエネルギーのパターンを示す平面図である。
【図4】本発明の接合方法の第2実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図5】本発明の接合方法の第3実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図6】本発明の接合方法の第4実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図7】本発明の接合方法の第4実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図8】本発明の接合方法を用いて製造されたリチウムイオン二次電池の断面図である。
【符号の説明】
【0156】
1……接合体 21……第1の基材 22……第2の基材 23、24……接合面 3……接合膜 30……液状被膜 31……液滴 32……表面 33……第1の領域 34……第2の領域 34’……不活化領域 35……接合膜 40……リチウムイオン二次電池 41……電池ケース 411……ケース本体 412……封止部 413……開口部 414……絶縁膜 42……電極巻回体 421……負極 422……セパレータ 423……正極 43……電解液 431……空間 44……正極端子 45……負極リード 46……正極リード 47……安全弁 6……マスク 61……窓部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基材と第2の基材とを用意し、前記第1の基材および前記第2の基材の少なくとも一方に、シリコーン材料を含有する液状材料を付与することにより液状被膜を形成し、該液状被膜を乾燥して接合膜を得る第1の工程と、
前記接合膜の全域または一部にエネルギーを付与することにより接着性が発現した第1の領域を形成するとともに、前記接合膜の前記第1の領域に包含される部位または前記第1の領域と異なる部位に過剰にエネルギーを付与することにより前記エネルギー付与の過程で一旦生じた接着性を失活させた第2の領域を形成し、前記第1の領域において前記第1の基材と前記第2の基材とを接合して接合体を得る第2の工程とを有することを特徴とする接合方法。
【請求項2】
前記第2の工程において、前記第1の領域の形成は、前記第2の領域の形成の開始後に開始されるものである請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
前記第2の工程において、前記第1の領域の形成の完了と同時または完了後に前記第2の領域の形成が完了する請求項1または2に記載の接合方法。
【請求項4】
前記第2の工程において、前記第2の領域の形成は前記第1の領域の形成の完了よりも前に開始されるものであり、かつ、前記第2の領域の形成と前記第1の領域の形成とは時間的に重複している請求項1ないし3のいずれかに記載の接合方法。
【請求項5】
前記第2の領域の形成の完了後に、前記第1の基材と前記第2の基材とを前記接合膜を介して接触させる請求項1ないし4のいずれかに記載の接合方法。
【請求項6】
前記第2の工程において、前記第2の領域の形成の完了と同時または完了後に前記第1の領域の形成が完了する請求項1または2に記載の接合方法。
【請求項7】
前記第2の領域の形成の完了後に、前記第1の基材と前記第2の基材とを前記接合膜を介して接触させ、その後、前記第1の領域の形成を開始する請求項5に記載の接合方法。
【請求項8】
第1の基材と第2の基材とは、第1の領域の形成の完了および第2の領域の形成の完了のいずれか遅い方の後に、前記接合膜を介して接触するものである請求項1ないし6のいずれかに記載の接合方法。
【請求項9】
前記第1の基材と第2の基材とは、ともに前記接合膜が形成されるものであり、
前記接合体は、前記第1の基材の前記接合膜と、前記第2の基材の前記接合膜とが接触するように接合されるものである請求項1ないし8のいずれかに記載の接合方法。
【請求項10】
エネルギーの付与は、前記接合膜にエネルギー線を照射する方法、前記接合膜を加熱する方法、および前記接合膜に圧縮力を付与する方法のうちの少なくとも1つの方法により行われる請求項1ないし9のいずれかに記載の接合方法。
【請求項11】
前記エネルギーの付与は、大気雰囲気中で行われる請求項1ないし10のいずれかに記載の接合方法。
【請求項12】
前記シリコーン材料は、シラノール基を有する請求項1ないし11のいずれかに記載の接合方法。
【請求項13】
前記シリコーン材料は、シラノール基を有するシリコン原子にフェニル基が結合したものである請求項1ないし12のいずれかに記載の接合方法。
【請求項14】
前記液状被膜は、液滴吐出法により形成される請求項1ないし13のいずれかに記載の接合方法。
【請求項15】
前記第1の基材および前記第2の基材の少なくとも前記接合膜と接触する部分は、シリコン材料、金属材料またはガラス材料を主材料として構成されている請求項1ないし14のいずれかに記載の接合方法。
【請求項16】
前記接合膜の平均厚さは、10〜10000nmである請求項1ないし15のいずれかに記載の接合方法。
【請求項17】
前記第1の基材および前記第2の基材の前記接合膜と接触する面には、あらかじめ、前記接合膜との密着性を高める表面処理が施されている請求項1ないし16のいずれかに記載の接合方法。
【請求項18】
前記表面処理は、プラズマ処理または紫外線照射処理である請求項17に記載の接合方法。
【請求項19】
前記第1の基材と前記第2の基材とが、請求項1ないし18のいずれかに記載の接合方法により形成された接合膜を介して接合されてなることを特徴とする接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−298891(P2009−298891A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−153509(P2008−153509)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】