説明

接点、スイッチ

【課題】本発明は、雷などによる大電流を確実に流すことのできる接点、およびスイッチを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の接点は、雷サージ電流用の接点である。そして、接触位置近傍のあらかじめ定めた範囲の抵抗率が、あらかじめ定めた値よりも高い。本発明のスイッチは、電流を導く第1導通部、第1導通部の一部に設けられた第1接点、電流を導く第2導通部、第2導通部の一部に第1接点と接触できるように設けられた第2接点、第1接点と第2接点の接続状態を変更する可動部を備える。また、あらかじめ定めた範囲の抵抗率があらかじめ定めた値よりも高い接点を有する。あるいは、第1接点と第2接点とがそれぞれ2つずつ備えられており、第1導通部と第2導通部には、電流の向きが同じとなるように対向させた対向部分がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雷サージ電流用の接点とスイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
雷の性質や過電圧防護技術については、非特許文献1に紹介されている。以下には、本発明を理解する上で必要な背景技術を簡単に説明する。図1に、雷によって生じる電圧または電流の変化の様子S(t)を示す。縦軸は電圧または電流を示している。雷が直撃した場合には、一般に波高値が数十kAの電流が流れる。また、誘導雷の場合には、波高値が数kVの電圧が生じる。また、波頭長は1μ秒〜10μ秒、波尾長は10μ秒〜1000μ秒である。
【0003】
図2は、雷によって屋外の電力ケーブルに流れた電流(または電圧)から屋内の機器を守るための過電圧防護装置の例である。この過電圧防護装置900は、屋外側のケーブルにつながる屋外端子902、903、屋内側のケーブルにつながる屋内端子904、905、屋外端子902と屋内端子904とをつなぐ導線906、屋外端子903と屋内端子905とをつなぐ導線907、スイッチ910、過電圧防護素子920、制御手段930から構成される。スイッチ910は、通常はON状態(導通状態)となっている。過電圧防護素子920には、放電管やバリスタ、またはこれらを組み合わせたものが用いられる。
【0004】
過電圧防護素子920は、導線906と導線907の間に過電圧が加わっていないときは、電流を流さない(抵抗が大きい)。一方、雷などにより導線906と導線907の間に過電圧が加わると、過電圧防護素子920は、電流を流す(抵抗が小さくなる)。制御手段930は、商用電源の電流が導線906と導線907の間に流れないようにスイッチ910を制御する手段である。通常は、スイッチ910はON状態だが、過電圧防護素子920があるので、導線906と導線907の間には電流は流れない。雷などにより導線906と導線907の間に過電圧が加わると、過電圧防護素子920の抵抗が小さくなり、スイッチ910を介して、導線906と導線907の間に電流が流れる。過電圧防護装置900は、このように屋内側の機器に過電圧が加わることを防ぐ。
【0005】
ところが、雷によって電流が流れた過電圧防護素子920は、導線906と導線907の間の電圧が下がっても(100V程度になっても)、抵抗が低い状態が続くことがある。つまり、雷による過電圧の状態が終了した後に、商用電源の電流を流し続けてしまう。このような電流を、続流と呼ぶ。また、過電圧防護素子920が壊れたときや、何らかの原因で漏電があったときに、商用電源の電流がスイッチ910を流れてしまうことがある。続流、故障、漏電などによって導線906と導線907の間に流れる電流は、商用電源によるものなので、継続的な50Hzまたは60Hzの交流であり、電圧は100〜600Vである。制御手段930は、このような商用電源の性質を利用して、スイッチ910に流れている電流が商用電源か否かを判断する。そして、商用電源による電流の場合には、スイッチ910をOFF状態(遮断状態)にする。このように、スイッチ910と制御手段930によって、続流、故障、漏電などによって導線906と導線907の間に電流が流れることを防いでいる。
【非特許文献1】木島均著、「接地と雷防護」、初版、コロナ社刊、社団法人電子情報通信学会編、平成14年4月5日、pp.1-54.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スイッチ910は、雷サージ電流のような大電流を流せなければならない。ところが、雷が原因の大電流が流れたときにスイッチ910の接点が離れてしまい、過電圧から屋内の機器を保護できないことがあった。
【0007】
本発明の目的は、雷が原因の大電流を確実に流すことのできる接点、およびスイッチを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の接点は、雷サージ電流用の接点である。そして、接触位置近傍のあらかじめ定めた範囲の抵抗率が、あらかじめ定めた値よりも高い。あらかじめ定めた抵抗率とは、4.8×10−8Ω・mである。また、具体的な金属としてはタングステンを80%より多く含有する金属などがある。あらかじめ定めた範囲とは、少なくとも接点の(面の)法線同士が作る角度が閾値以下の範囲である。閾値は、スイッチの構造(重さ、大きさなど)と流れる電流の性質(電流の大きさ、周波数)などから適宜設計すればよい。
【0009】
本発明のスイッチは、電流を導く第1導通部、第1導通部の一部に設けられた第1接点、電流を導く第2導通部、第2導通部の一部に第1接点と接触できるように設けられた第2接点、第1接点と第2接点の接続状態を変更する可動部を備える。また、あらかじめ定めた範囲の抵抗率があらかじめ定めた値よりも高い接点を有する。あるいは、第1接点と第2接点とがそれぞれ2つずつ備えられており、第1導通部と第2導通部には、電流の向きが同じとなるように対向させた対向部分がある。
【発明の効果】
【0010】
本発明の接点によれば、抵抗率の高い導体を用いるので、高周波成分を含む大電流が流れても、表皮効果による接点同士の反発力を低減できる。また、本発明のスイッチによれば、表皮効果による接点同士の反発力を低減させた接点を用いる。または、接点が2つあることで、電流の向きが同じとなるように対向させた対向部分がある。したがって、雷による電流のような高周波成分を含む大電流が流れても、接点同士が離れない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明の実施例を示す。なお、同じ機能の構成部には同じ番号を付け、重複説明を省略する。
【実施例1】
【0012】
分析
本発明では、まず、雷による大電流が流れたときにスイッチ910の接点が離れてしまう原因を分析する。図3は、スイッチ910の構造の例を示す図である。スイッチ910は、電流を導く第1導通部911、第1導通部911の一部に設けられた第1接点912、 電流を導く第2導通部916、第2導通部916の一部に前記第1接点912と接触できるように設けられた第2接点917、第1接点912と第2接点917の接続状態を変更する可動部913を備える。可動部913は、例えばヒンジや回転軸のような回転自在な構造でもよいし、スライドする構造でもよく、可動の方法は問わない。
【0013】
雷による電流の特徴は、図1を用いて説明したとおり、波頭長は1μ秒〜10μ秒、波尾長は10μ秒〜1000μ秒である。波頭長や波尾長の時間から、雷による電流には、主に1kHzから1MHzの周波数成分がある。高い周波数の電流が金属中を流れる場合には、表皮効果という現象が生じる。また、表皮効果によって電流が金属の表面に集中する程度を表すパラメータに表皮効果の深さ(表皮の厚さ)δがあり、
【0014】
【数1】

ただし、ωは各周波数、σは導電率、μは透磁率
と表現できる。
【0015】
ここで、図4を用いて2つの導線に働く力について説明しておく。図4(A)は、2つの導線に同じ方向に電流が流れた場合に働く力を示す図である。図4(B)は、2つの導線に異なる方向に電流が流れた場合に働く力を示す図である。まず、図4(A)の場合を説明する。導線801に電流Iが流れると、磁界Hが生じる。磁界Hは、図4(A)に示すように、図の表側から裏側に向かう方向である。導線802に、電流Iと同じ方向に電流Iが流れていると、電流Iと磁界Hによってローレンツ力が生じ、導線802は導線801側に引き寄せられる。同様に導線801は、電流Iと、電流Iが作る磁界Hによって生じるローレンツ力によって導線802側に引き寄せられる。つまり、電流が同じ向きに流れる場合、2つの導線は互いに引き寄せあう。
【0016】
次に、図4(B)の場合を説明する。導線801に電流Iが流れると、磁界Hが生じる。磁界Hは、図4(B)に示すように、図の表側から裏側に向かう方向である。導線802に、電流Iと逆方向に電流Iが流れていると、電流Iと磁界Hによってローレンツ力が生じ、導線802は導線801から引き離される。同様に導線801は、電流Iと、電流Iが作る磁界Hによって生じるローレンツ力によって導線802から引き離される。つまり、電流が逆向きに流れる場合、2つの導線は互いに退けあう(反発しあう)。
【0017】
次に、上述の表皮効果と2つの導線に働く力を、スイッチ910の接点の場合に当てはめてみる。図5は、表皮効果がほとんど生じていない場合に接点912から接点917に流れる電流の様子を示している。このときには、接点の912、917の真ん中を多くの電流が流れる。電流の周波数が高くなると、図6に示すように接点912から接点917に電流が流れる。そして、さらに周波数が高くなると、表皮効果によって、図7に示すように接点912と接点917の表面近傍を電流が流れるようになる。接点912の表面を流れる電流と接点917の表面を流れる電流とは、逆向きである。したがって、接点912と接点917とは互いに退けあう(反発しあう)。
【0018】
つまり、雷によって生じる電流の周波数成分(1kHz〜1MHz)によって表皮効果が発生し、接点近傍で電流が逆向きに流れ、接点同士が反発する力が生じていると考えられる。
【0019】
なお、材料ごとの表皮効果の深さを計算した結果は、次のようになった。
周波数50Hzの場合
銀:9.06mm 銅:9.34mm
真ちゅう:12.40mm タングステン:16.67mm
周波数100kHzの場合
銀:0.20mm 銅:0.21mm
真ちゅう:0.28mm タングステン:0.37mm
周波数1MHzの場合
銀:0.06mm 銅:0.07mm
真ちゅう:0.09mm タングステン:0.12mm
【0020】
具体的構成
本発明の接点を、図8に示す。接点112と接点117の形状は、従来の接点と同じであるが、材質が異なる。接点112と接点117は、接触位置近傍のあらかじめ定めた範囲(図の網掛け部分)の抵抗率が、あらかじめ定めた値よりも高い。あらかじめ定めた抵抗率とは、通常の電気を流すための接点に用いる金属よりも高い抵抗率である。一般的に、大電流を流すためには抵抗率を小さくするべきであり、電力用などの大電流を流す導線には、銀(抵抗率:約1.6×10−8Ω・m)や銅(抵抗率:約1.7×10−8Ω・m)がよく使われる。また、信号用などの小電流用では、錆びないという理由から金メッキ(抵抗率:約2.4×10−8Ω・m)がよく使われる。例えば、ブレーカのように通常時には電気を流しておき、過電流が流れた場合に接点を離すような装置の場合、接点の抵抗を下げる必要がある。本発明がターゲットとしている、雷サージ電流用の接点の場合、雷サージ電流が発生した時には電流が流れるが、通常時は電流が流れていない。そこで、本発明は、あえて抵抗率の高い材料を利用する。例えば、タングステンの抵抗率は約5.5×10−8Ω・m、タングステンが80%で銀が20%の合金の抵抗率は約4.72×10−8Ω・mである。本発明の効果を得るためには、抵抗率が4.8×10−8Ω・m以上の材料を用いるべきである。ただし、どの程度高い抵抗率の材料を用いるかは、適宜設計と実験を行えばよい。
【0021】
また、あらかじめ定めた範囲とは、少なくとも接点の(面の)法線同士が作る角度が閾値以下の範囲である。閾値は、スイッチの構造(重さ、大きさなど)と流れる電流の性質(電流の大きさ、周波数)などから適宜設計し、実験により動作を確認すればよい。表皮効果による接点同士の反発力を弱めるために、本発明ではあえて抵抗率の高い材料を用いる。したがって、反発力が強く働く範囲のみを抵抗率が高い材料とすればよい。なお、数10kAの電流の場合、接点全体をタングステンにすれば一般的には問題ない。本発明の接点によれば、抵抗率の高い導体を用いるので、高周波成分を含む大電流が流れても、表皮効果による接点同士の反発力を低減できる。
【0022】
さらに、本発明の接点を図3に示したスイッチに用いれば、表皮効果による接点同士の反発力を低減させることができるので、雷による電流のような高周波成分を含む大電流が流れても、接点同士が離れにくいスイッチにできる。なお、本発明の接点を2つの対向する接点の両方に用いれば最も効果があるが、いずれか一方に本発明の接点を用いても、表皮効果による接点同士の反発力を低減できる。
【実施例2】
【0023】
図9に実施例2のスイッチの構成例を示す。スイッチ300は、電流を導く第1導通部311、第1導通部の一部に設けられた2つの第1接点312、312、電流を導く第2導通部216、第2導通部の一部に第1接点とそれぞれ接触できるように設けられた2つの第2接点317、317、第1接点312、312と第2接点317、317の接続状態を変更する可動部313を備える。また、第1導通部311と第2導通部316には、電流の向きが同じとなるように対向させた対向部分がある。図9(A)は対向部分が重なる方向から見た図であり、図9(B)は対向部分が平行に並んだ様子が分かる方向から見た図である。なお、図9では、第1導通部311、第1接点312、312、可動部313を実線で示し、第2導通部316、第2接点317、317を点線で示す。また、図9(A)では対向部分は重なり合っているので、第2導通部316、第2接点317には見えない部分があるはずであるが、位置関係を示すために図示している。
【0024】
この例では、第1接点312と第2接点317の部分で、電流Iは、電流Iと電流Iとに分けられる。また、第1接点312と第2接点317の部分で、電流Iと電流Iとは加算され電流Iとなる。このように、第1接点と第2接点をそれぞれ2つ設け、その間隔を広げることで、電流の向きが同じとなる対向部分を設けている。実施例1の分析で説明したように、2つの電流の向きが同じ場合、互いに引き寄せあう。したがって、第1導通部311と第2導通部316とは引き寄せあう。この力が、第1接点312、312と第2接点317、317とが互いに退けあう力を十分弱めるように、間隔と長さを適宜設計すれば、高周波成分を含む大電流が流れても、接点同士が離れなくなる。なお、接点として実施例1の接点を用いれば、さらに有効である。また、第1導通部311と第2導通部316の対向部分に流れる電流が等しくなるように、第1導通部311と第2導通部316と2組の第1接点と第2接点をそれぞれ適宜設計すれば、引き寄せあう力を最適にできる。なお、本発明の接点を2つの対向する接点の両方に用いれば最も効果があるが、いずれか一方に本発明の接点を用いても、表皮効果による接点同士の反発力を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】雷によって生じる電圧または電流の変化の様子S(t)を示す図。
【図2】雷によって屋外の電力ケーブルに流れた電流(または電圧)から屋内の機器を守るための過電圧防護装置の例を示す図。
【図3】従来のスイッチの構成例を示す図。
【図4】2つの導線に働く力について説明するための図。
【図5】表皮効果がまったく生じていない場合に接点に流れる電流の様子を示す図。
【図6】表皮効果が少し生じた場合(周波数が低い場合)に接点に流れる電流の様子を示す図。
【図7】表皮効果が生じた場合(周波数が高い場合)に接点に流れる電流の様子を示す図。
【図8】実施例1の接点を示す図。
【図9】実施例2のスイッチの構成例を示す図。
【符号の説明】
【0026】
112、312、312、912 第1接点
117、317、317、917 第2接点
300、910 スイッチ
311、911 第1導通部
316、916 第2導通部
313、913 可動部
900 過電圧防護装置 902、903 屋外端子
904、905 屋内端子 906、907 導線
920 過電圧防護素子 930 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雷サージ電流用の接点であって、
接触位置近傍のあらかじめ定めた範囲の抵抗率が4.8×10−8Ω・mよりも高い
ことを特徴とする接点。
【請求項2】
雷サージ電流用の接点であって、
接触位置近傍のあらかじめ定めた範囲にタングステンを80%より多く含んだ金属を用いた
ことを特徴とする接点。
【請求項3】
雷サージ電流用のスイッチであって、
電流を導く第1導通部と、
第1導通部の一部に設けられた第1接点と、
電流を導く第2導通部と、
第2導通部の一部に前記第1接点と接触できるように設けられた第2接点と、
前記第1接点と前記第2接点の接続状態を変更する可動部
を備え、
少なくとも前記第1接点または前記第2接点の一方は、請求項1または2記載の接点である
ことを特徴とするスイッチ。
【請求項4】
雷サージ電流用のスイッチであって、
電流を導く第1導通部と、
第1導通部の一部に設けられた2つの第1接点と、
電流を導く第2導通部と、
第2導通部の一部に前記第1接点とそれぞれ接触できるように設けられた2つの第2接点と、
前記第1接点と前記第2接点の接続状態を変更する可動部
を備え、
前記第1導通部と前記第2導通部には、電流の向きが同じとなるように対向させた対向部分がある
ことを特徴とするスイッチ。
【請求項5】
請求項4記載のスイッチであって、
少なくとも前記第1接点または前記第2接点の一方は、請求項1または2記載の接点である
ことを特徴とするスイッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−199804(P2009−199804A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38452(P2008−38452)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(505457503)
【Fターム(参考)】