説明

接着剤充填方法、及びヘッドサスペンションの製造方法

【課題】 間隙部への接着剤充填を圧着を伴わない簡素な工程をもって遂行可能な接着剤充填方法を提供する。
【解決手段】 本発明に係る接着剤充填方法は、接着機能及び硬化機能を有する接着剤1がカプセル3内に封入された接着剤カプセル5を、前記間隙部7を満たすように導入する導入工程(ステップS11)と、前記間隙部7の前記接着剤カプセル5にエネルギーを与えることによって該接着剤カプセル5から前記接着剤1を排出させる排出工程(ステップS12)と、前記排出した接着剤1にエネルギーを与えることによって硬化を促す硬化促進工程(ステップS13)とを備えた。従って、間隙部への接着剤の充填を圧着を伴わない簡素な工程をもって遂行することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間隙部に接着剤を充填するための接着剤充填方法に関する。また、本発明は、この方法を用いてヘッドサスペンションに圧電素子を接着固定するヘッドサスペンションの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、接着剤がカプセル内に封入された接着剤カプセルを用いて物体間を接着することは、例えば特許文献1等により公知である。
【0003】
前記特許文献1に記載の接着剤カプセルは、熱硬化などにより接着剤として機能する粘性流体(シール材)と固形粉体(スペーサ)を内包する。このものによれば、均一な間隙を空けて基板間を強固に接着することができる。
【0004】
しかしながら、前記特許文献1に記載の接着技術では、スペーサを内包した接着剤カプセルを基板間に介在させつつ圧着して前記基板間を接着硬化させるため、圧着を伴わない使用には不適であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−275688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決しようとする課題は、従来の接着技術では、圧着を伴わない使用には不適であった点である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、間隙部への接着剤充填を圧着を伴わない簡素な工程をもって遂行可能な接着剤充填方法を提供することを目的とする。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る接着剤充填方法は、間隙部に接着剤を充填するための接着剤充填方法であって、接着機能及び硬化機能を有する接着剤がカプセル内に封入された接着剤カプセルを前記間隙部に導入する導入工程と、前記間隙部の前記接着剤カプセルにエネルギーを与えることによって該接着剤カプセルから前記接着剤を排出させる排出工程と、前記排出した接着剤にエネルギーを与えることによって硬化を促す硬化促進工程と、を備えたことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る接着剤充填方法によれば、接着機能及び硬化機能を有する接着剤がカプセル内に封入された接着剤カプセルを前記間隙部に導入する導入工程と、前記間隙部の前記接着剤カプセルにエネルギーを与えることによって該接着剤カプセルから前記接着剤を排出させる排出工程と、前記排出した接着剤にエネルギーを与えることによって硬化を促す硬化促進工程と、を備えたので、間隙部への接着剤の充填を圧着を伴わない簡素な工程をもって遂行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例1に係る接着剤充填方法の工程を示す説明図である。
【図2】実施例2に係るヘッドサスペンションの外観を表す斜視図である。
【図3】図3(A)は、実施例2に係るヘッドサスペンションに設けられる圧電アクチュエータを拡大して示す平面図、図3(B)は、図3(A)のIIIB−IIIB線に沿う矢視断面図である。
【図4】実施例2に係るヘッドサスペンション11において、開口部への圧電素子の実装工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
間隙部への接着剤の充填を圧着を伴わない簡素な工程をもって遂行するといった目的を、接着機能及び硬化機能を有する接着剤がカプセル内に封入された接着剤カプセルを間隙部に導入する導入工程と、前記間隙部の前記接着剤カプセルにエネルギーを与えることによって該接着剤カプセルから前記接着剤を排出させる排出工程と、前記排出した接着剤にエネルギーを与えることによって硬化を促す硬化促進工程と、を備えた接着剤充填方法によって実現した。
【実施例1】
【0012】
以下、本発明の実施例1に係る接着剤充填方法について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
[接着剤充填方法の概要]
図1は、実施例1に係る接着剤充填方法の工程を示す説明図である。
【0013】
実施例1に係る接着剤充填方法は、ステップS11の導入工程と、ステップS12の排出工程と、ステップS13の硬化促進工程と、を備える。
【0014】
ステップS11の導入工程では、図1に示すように、接着剤1がカプセル3内に封入された複数の接着剤カプセル5を、前記間隙部7を満たすように導入する。
【0015】
前記接着剤1は、接着機能及び硬化機能を基本的に有する。具体的には、この接着剤1としては、例えば、熱硬化性、紫外線硬化性、若しくは嫌気硬化性のもの、又は導電性若しくは非導電性のもの等を好適に採用することができる。
【0016】
前記カプセル3は、例えば球形状に形成され、球体直径が約1〜1000μm程度のきわめて微小なマイクロカプセル(容器)であり、前記間隙部7よりも小径である。このカプセル3は、化学的または物理的な手法を用いて製造される。前記カプセル3は、湿気や酸素等の雰囲気から接着剤1を保護すると共に、取り扱い性を高める役割を果たす。
【0017】
前記接着剤カプセル5の製法については、例えば、界面重合法、in situ 重合法、液中硬化被覆法(オリフィス法)、水溶液系からの相分離法(コアーセルベーション法)、有機溶液系からの相分離法、液中乾燥法、または融解分散冷却法などと呼ばれるもののうち、接着剤1との相性等を考慮して適宜の製法を採用すればよい。
【0018】
前記間隙部7は、物体間の隙間を意味する。この物体としては、同一のもの(例えば、ある物体に存在する溝部など)であるか、相互に異なるもの(例えば、複数の物体の組み合わせによって生じた隙間など)であるかを問わない。
【0019】
また、”前記間隙部7を満たすように導入する”とは、前記接着剤カプセル5によって、前記間隙部7の隙間を隈無く埋めるように満たすことを意味する。前記接着剤カプセル5が球形状である場合、前記間隙部7に球形状の接着剤カプセル5を複数投入すると、これらカプセル5同士の間に隙間ができる。
【0020】
そこで、この隙間分の接着剤1を補填するために、図1に示すように、前記間隙部7に対して前記接着剤カプセル5を、前記隙間分を埋めるのにじゅうぶんな量だけ投入する。この投入量は、前記接着剤カプセル5に封入された接着剤1の量を一定量とすれば、同接着剤カプセル5の数によって管理することができる。
【0021】
ステップS12の排出工程では、前記間隙部7に導入された接着剤カプセル5にエネルギーを与えることによって該接着剤カプセル5から前記接着剤1を排出させる。これにより、前記接着剤カプセル5に封入されていた接着剤1がカプセル3の殻から排出し、本来の接着機能及び硬化機能を発揮する準備が整う。
【0022】
前記接着剤カプセル5に与えるエネルギーとしては、当該接着剤カプセル5のうち膜材(殻)の素材や内包されている接着剤1の硬化タイプなどの諸要素を考慮して、適切なものを与えればよい。具体的には、例えば、前記接着剤1の硬化タイプが、熱硬化性であれば加熱による熱エネルギーを、また、紫外線硬化性であれば可視光照射による熱エネルギーを、当該接着剤1の排出促進のために与えればよい。
【0023】
ステップS13の硬化促進工程では、前記排出した接着剤1にエネルギーを与えることによって硬化を促す。これにより、前記接着剤カプセル5の殻から排出してきた接着剤1が、本来の接着機能及び硬化機能を発揮する。その結果、図1に示すように、前記間隙部7を隈無く埋める接着剤層9が出現する。
【0024】
前記排出した接着剤1に与えるエネルギーとしては、当該接着剤1の硬化タイプが、熱硬化性であれば加熱による熱エネルギーを、また、紫外線硬化性であれば紫外線照射によるエネルギーを、当該接着剤1の硬化促進のために与えればよい。
【0025】
なお、本実施例1では、ステップS12の排出工程と、ステップS13の硬化促進工程とを、相互に独立した工程として記載したが、これらを時系列的に一連の工程として取り扱うこともできる。
【0026】
具体的には、仮に、前記接着剤1の硬化タイプが熱硬化性であるとする。この場合、ステップS12の排出工程では、熱エネルギーを与えることによって接着剤カプセル5から接着剤1を排出させる。次いで、ステップS13の硬化促進工程では、前記熱エネルギーの供与を継続することによって、前記接着剤カプセル5から排出した接着剤1の硬化を促す。
【0027】
要するに、接着剤カプセル5または接着剤1に対する熱エネルギーの供与を継続して行うことによって、ステップS12の排出工程と、ステップS13の硬化促進工程とを、時系列的に一連の工程として実行することができる。
【0028】
また、仮に、前記接着剤1の硬化タイプが紫外線硬化性であるとする。この場合、可視光線と紫外線とを切り替え照射可能なランプを用意する。ステップS12の排出工程では、可視光照射による熱エネルギーを与えることによって接着剤カプセル5から接着剤1を排出させる。次いで、ステップS13の硬化促進工程では、前記ランプを紫外線照射に切り替えることによって、前記接着剤カプセル5から排出した接着剤1の硬化を促す。
【0029】
要するに、可視光線と紫外線とを適宜のタイミングで切り替え照射することによって、ステップS12の排出工程と、ステップS13の硬化促進工程とを、時系列的に一連の工程として実行することができる。
【0030】
実施例1に係る接着剤充填方法によれば、接着機能及び硬化機能を有する接着剤1がカプセル3内に封入された接着剤カプセル5を、前記間隙部7を満たすように導入する導入工程(ステップS11)と、前記間隙部7の前記接着剤カプセル5にエネルギーを与えることによって該接着剤カプセル5から前記接着剤1を排出させる排出工程(ステップS12)と、前記排出した接着剤1にエネルギーを与えることによって硬化を促す硬化促進工程(ステップS13)とを備えたので、間隙部への接着剤の充填を圧着を伴わない簡素な工程をもって遂行することができる。
【実施例2】
【0031】
次に、前述した実施例1に係る接着剤充填方法を、ヘッドサスペンションに対する圧電素子の接着固定に応用した実施例2に係るヘッドサスペンションの製造方法について説明する。
【0032】
初めに、前提となるヘッドサスペンションの概略構成について説明する。
[ヘッドサスペンションの概略構成]
図2は、実施例2に係るヘッドサスペンションの外観を表す斜視図である。
【0033】
実施例2に係るヘッドサスペンション11は、磁気ディスク装置(不図示)における情報の読み書きに用いられるもので、図2に示すように、ベースプレート13と、ロードビーム15と、アクチュエータベース18となどを備える。
【0034】
前記ベースプレート13は、前記アクチュエータベース18を介して、前記ロードビーム15を弾性支持する役割を果たす。このベースプレート13は、例えば、150〜200μm程度の板厚の、ステンレス鋼などの金属製薄板からなる。
【0035】
前記ベースプレート13には、略円形のボス孔19が開設されている。このボス孔19を介して、ベースプレート13は、ボイスコイルモータ(不図示)によって駆動されるアクチュエータアーム(不図示)の先端部分に固着され、前記ボイスコイルモータによって旋回駆動されるようになっている。
【0036】
前記ロードビーム15は、その先端側に設けられる磁気ヘッドスライダ(不図示)に負荷荷重を与える役割を果たす。このロードビーム15は、例えば、50〜150μm程度の板厚の、ばね性を有するステンレス鋼などの金属製薄板からなる。
【0037】
前記アクチュエータベース18は、前記ベースプレート13と前記ロードビーム15との間に介在させて設けられ、電圧の印加状態に応じて圧縮変形する圧電素子23の取付部としての役割を果たす。このアクチュエータベース18は、前記ベースプレート13と一体に形成してもよい。
【0038】
前記ベースプレート13を、前記アクチュエータベース18と一体に形成した場合は、このベースプレート13が本発明の”基部”に相当する。一方、前記ベースプレート13を、前記アクチュエータベース18とは別体に形成した場合は、このアクチュエータベース18が本発明の”基部”に相当する。
【0039】
前記ロードビーム15には、フレキシャ25が設けられている。このフレキシャ25における先端側には、磁気ヘッドスライダ(不図示)が設けられる。
【0040】
前記ロードビーム15には、その両側部に一対の曲げ縁27a,27bが形成されている。これら一対の曲げ縁27a,27bは、ロードビーム15の剛性を高める役割を果たす。
【0041】
前記ロードビーム15における後端側には、連結プレート29が一体に設けられている。
【0042】
前記連結プレート29は、例えば、板厚が30μm程度の、ステンレス鋼などのばね性を有する金属薄板からなる。この連結プレート29の一部には、厚み方向の曲げ剛性を下げ、軽量化を図る等の目的で、孔31が開設されている。この孔31の両側部に、厚み方向に撓むことのできる一対のヒンジ部33a,33bが、それぞれ形成されている。
【0043】
前記連結プレート29における後端側、つまり、ロードビーム15の基部は、前記アクチュエータベース18の前端側に、その裏面側から重ね合わされて、レーザ溶接等の適宜の固着手段によって相互に固着されている。
【0044】
次に、実施例2に係るヘッドサスペンション11に設けられる圧電アクチュエータの概略構成について説明する。
[圧電アクチュエータの概略構成]
図3(A)は、実施例2に係るヘッドサスペンションに設けられる圧電アクチュエータを拡大して示す平面図、図3(B)は、図3(A)のIIIB−IIIB線に沿う矢視断面図である。
【0045】
圧電アクチュエータ17を設計するにあたっては、電圧の印加状態に応じて圧縮変形する圧電素子23の歪み(変位)を効果的に前記ロードビーム15に伝達すること、圧電素子23の電極とアクチュエータベース18間における電気的な絶縁性を担保すること、圧電素子23の外側面から塵埃が離脱するのを未然に防止すること、並びに、脆く壊れやすい圧電素子23をその損傷から保護すること、の諸要素を考慮することが求められる。
【0046】
かかる諸要素を考慮して、本発明の実施例2に係る圧電アクチュエータ17は、図2及び図3に示すように、アクチュエータベース18に設けた開口部21の内部空間に、前記圧電素子23を実装してなる。
【0047】
前記アクチュエータベース18には、図2及び図3に示すように、前記圧電素子23を収容するための、略矩形形状の開口部21が開設されている。この開口部21には、圧電素子23が埋め込み式に設けられている。前記ベースプレート13の上側面と、前記圧電素子23の上側電極面23aとは、面一の関係になっている。
【0048】
前記アクチュエータベース18のうち開口部21の幅方向両側には、U字形状に突出した一対の可撓連結部35が形成されている。これら一対の可撓連結部50の存在が、圧電アクチュエータ17の剛性向上に寄与すると共に、圧電アクチュエータ17のスウェイ動作時において、変位ストローク動作を妨げない役割を果たす。
【0049】
前記開口部21の内側面における先端側及び後端側には、前記圧電素子23の下側電極面23bを、幅方向に渡る面で受ける受け部37a1,37a2がそれぞれ形成されている。この受け部37a1,37a2を開口部21と一体に形成するにあたっては、共通の金属製薄板から所定の形状に切り出した前記アクチュエータベース18のうち、前記受け部37a1,37a2に該当する部位に化学的な腐食処理を施すことによって、その周囲の部分に比べて板厚を薄くする、部分的なハーフエッチング処理を適用すればよい。
【0050】
前記圧電素子13の下側電極面23bと、前記受け部37a1,37a2との間には、図3(B)に示すように、適宜の厚みを有する非導電性接着剤層39が形成されている。
【0051】
前記開口部21に装着される前記圧電素子23は、その外形寸法が前記開口部21の内形寸法よりも僅かに小さい、略矩形形状に形成されている。
【0052】
前記圧電素子23を、前記開口部21における所定の取付位置に置いた状態で、前記開口部21の内側面21aと、前記圧電素子23の外側面23cとの間に、矩形形状の周回溝を生じる。この矩形形状の周回溝を、以下では間隙部41と呼ぶ。
【0053】
この間隙部41を埋めて、前記圧電素子23の歪み(変位)を前記ロードビーム15に的確に伝達する等の効果を狙って、前記圧電素子23は、図2及び図3に示すように、前記間隙部41内に非導電性接着剤43を隈無く充填することによって前記開口部21に接着固定される。
[ヘッドサスペンションの製造方法]
次に、前記開口部21に前記圧電素子23を接着固定する際の実装工程について説明する。
【0054】
図4は、実施例2に係るヘッドサスペンション11において、開口部への圧電素子の実装工程を示す説明図である。
【0055】
ステップS21の導入工程では、図4に示すように、前記開口部21の内側面21aと前記圧電素子23の外側面23cとの間の間隙部41に、熱硬化性または紫外線硬化性を有する非導電性接着剤43がマイクロカプセル3内に封入された球形状の接着剤マイクロカプセル45を、前記間隙部41を満たすように導入する。
【0056】
ステップS22の排出工程では、前記間隙部41に導入された前記接着剤マイクロカプセル45に熱または光照射エネルギーを与えることによって該接着剤マイクロカプセル45から前記非導電性接着剤43を排出させる。これにより、前記接着剤マイクロカプセル45に封入されていた非導電性接着剤43がマイクロカプセル3の殻から排出し、本来の接着機能及び硬化機能を発揮する準備が整う。
【0057】
ステップS23の硬化促進工程では、前記排出した非導電性接着剤43に熱または紫外線照射エネルギーを与えることによって硬化を促す。これにより、前記接着剤マイクロカプセル45の殻から排出してきた非導電性接着剤43が、本来の非導電性接着剤43としての接着機能、硬化機能、及び絶縁機能を発揮する。
【0058】
その結果、図3(B)及び図4に示すように、前記間隙部41を隈無く埋める非導電性接着剤層43が出現する。要するに、前記間隙部41に前記非導電性接着剤53を充填することによって、前記開口部21に前記圧電素子23を接着固定した。
【0059】
なお、本実施例2では、ステップS22の排出工程と、ステップS23の硬化促進工程とを、相互に独立した工程として記載したが、これらを時系列的に一連の工程として取り扱うこともできる。
【0060】
具体的には、仮に、前記非導電性接着剤43の硬化タイプが熱硬化性であるとする。この場合、ステップS22の排出工程では、熱エネルギーを与えることによって接着剤マイクロカプセル45から非導電性接着剤43を排出させる。次いで、ステップS23の硬化促進工程では、前記熱エネルギーの供与を継続することによって、前記接着剤マイクロカプセル45から排出した非導電性接着剤43の硬化を促す。
【0061】
要するに、接着剤マイクロカプセル45または非導電性接着剤43に対する熱エネルギーの供与を継続して行うことによって、ステップS22の排出工程と、ステップS23の硬化促進工程とを、時系列的に一連の工程として実行することができる。
【0062】
また、仮に、前記非導電性接着剤43の硬化タイプが紫外線硬化性であるとする。この場合、可視光線と紫外線とを切り替え照射可能なランプを用意する。ステップS22の排出工程では、可視光照射による熱エネルギーを与えることによって接着剤マイクロカプセル45から非導電性接着剤43を排出させる。次いで、ステップS23の硬化促進工程では、前記ランプを紫外線照射に切り替えることによって、前記接着剤マイクロカプセル45から排出した非導電性接着剤43の硬化を促す。
【0063】
要するに、可視光線と紫外線とを適宜のタイミングで切り替え照射することによって、ステップS22の排出工程と、ステップS23の硬化促進工程とを、時系列的に一連の工程として実行することができる。
【0064】
実施例2に係るヘッドサスペンションの製造方法によれば、前記開口部21の内側面21aと前記圧電素子23の外側面23cとの間の間隙部41に、熱硬化性または紫外線硬化性を有する非導電性接着剤43がマイクロカプセル3内に封入された接着剤マイクロカプセル45を、前記間隙部41を満たすように導入する導入工程(ステップS21)と、前記間隙部41に導入された前記接着剤マイクロカプセル45に熱または光照射エネルギーを与えることによって該接着剤マイクロカプセル45から前記非導電性接着剤43を排出させる排出工程(ステップS22)と、前記排出した非導電性接着剤43に熱または紫外線照射エネルギーを与えることによって硬化を促す硬化促進工程(ステップS23)とを備えたので、間隙部41への接着剤の充填を圧着を伴わない簡素な工程をもって遂行することができる。
【0065】
なお、実施例2に係る接着剤マイクロカプセル45としては、前記間隙部41が有する矩形形状と同一形状に形成したものを採用してもよい。このように構成すれば、前記間隙部41への接着剤マイクロカプセル45の導入を、同カプセル45を前記間隙部41へとはめ込むといったきわめて簡素な工程をもって遂行することができる。従って、前記導入工程の簡素化を実現することができる。
【0066】
また、実施例2に係る排出工程では、前記開口部21から前記接着剤マイクロカプセル45に直接的に熱または光照射エネルギーを与えることによって該接着剤マイクロカプセル45から前記非導電性接着剤43を排出させる構成を採用してもよい。このように構成すれば、前記接着剤マイクロカプセル45からの前記非導電性接着剤43の排出を著しく促進することができる。従って、前記排出工程の効率化を実現することができる。
【0067】
さらに、実施例2に係る硬化促進工程では、前記排出した非導電性接着剤43に熱または紫外線照射エネルギーを与えることによって硬化を促す構成を採用してもよい。このように構成すれば、前記接着剤マイクロカプセル45の硬化を著しく促進することができる。従って、前記硬化促進工程の効率化を実現することができる。
【0068】
次に、上述の実装手順を経て製造された実施例2に係るヘッドサスペンション11の作用について説明する。
【0069】
前記開口部21に実装された前記圧電素子23は、所定の給電信号が与えられると、前記圧電素子23の長手方向に沿う中心軸(図2中の2本の点線参照)を境界として一側が長手方向に伸びるとともに、他側が長手方向に縮む。つまり、前記圧電素子23は、全体として略台形形状に歪む。
【0070】
その結果、前記圧電アクチュエータ17は、前記圧電素子23によってもたらされる歪み方向及び変位ストローク量に応じて、前記ロードビーム15の先端側をスウェイ方向に微少距離だけ変位させるように動作する。
【0071】
この点、実施例2に係る製造方法を用いて製造されたヘッドサスペンション11では、前記開口部21の内側面21aと前記圧電素子23の外側面23cとの間に生じた間隙部41内に、非導電性接着剤43を隈無く充填することによって、前記開口部21に前記圧電素子23が接着固定されているので、前記圧電素子23に生じた歪み(変位)を前記ロードビーム15に的確に伝達することができる。
【0072】
また、前記圧電素子23と、前記アクチュエータベース18との間には、前記非導電性接着剤39,43が介在しているので、前記両者間における電気的な絶縁性を確実に保証することができる。
【0073】
さらに、前記圧電素子23の外側面23cは、前記非導電性接着剤43によって隈無く覆われているので、圧電素子の外側面から塵埃が離脱するのを確実に防止することができる。
【0074】
そして、前記圧電素子23は、前記開口部21内に、前記非導電性接着剤39,43を介在させて接着固定されているので、脆く壊れやすい圧電素子をその損傷から的確に保護することができる。
[その他]
本発明は、上述した実施例に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨、あるいは技術思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う接着剤充填方法、及びヘッドサスペンションの製造方法もまた、本発明における技術的範囲の射程に包含されるものである。
【0075】
本発明の実施例中、導入工程、排出工程、及び硬化促進工程を備えた接着剤充填方法を例示して説明したが、本発明はこの例に限定されない。すなわち、本発明の実施に際し、常温常圧下では接着機能及び硬化機能が封印されて易取扱い性を有した接着剤の塊を採用すれば、かかる接着剤塊ではカプセル化を要しない。
【0076】
前記接着剤の塊は、熱、圧力または紫外線照射などのエネルギーが与えられていない常温常圧下では接着機能及び硬化機能が封印されており、易取扱い性を有する。このような接着剤の一例として、”反応型構造用ホットメルト接着剤”を例示することができる。一般的なホットメルト接着剤は、例えば熱可塑性樹脂であるのに対し、前記反応型構造用ホットメルト接着剤は、熱溶解後、環境の水分と反応、硬化し、架橋構造をとるため、構造用接着剤として用いることができる。こうした構造用接着剤では、熱、圧力または紫外線照射などのエネルギーが与えられると、前記の封印が解かれて、接着機能及び硬化機能が顕在化する。この場合、カプセルから接着剤を排出させるための排出工程を省略することができる。
【0077】
すなわち、間隙部に接着剤を充填するための接着剤充填方法であって、常温常圧下では接着機能及び硬化機能が封印されて易取扱い性を有した接着剤の塊を前記間隙部に導入する導入工程と、前記間隙部の前記接着剤の塊にエネルギーを与えることによって硬化を促す硬化促進工程と、を備えた変形例に係る接着剤充填方法も、本発明の技術的範囲の射程に包含される。
【0078】
なお、実施例1に係る接着剤充填方法と、前記変形例に係る接着剤充填方法とは、接着剤の易取扱い性を担保するための手段が、実施例1ではカプセル化である一方、変形例では接着剤の有する性状である点で大きく相違する。このため、変形例では排出工程を省略することができるが、その他の構成(導入工程及び硬化促進工程)は共通である。そこで、実施例1に係る上記共通部分の説明を援用することで、変形例の説明に代えることとする。
【符号の説明】
【0079】
1 接着剤
3 カプセル
5 接着剤カプセル
7 間隙部
11 ヘッドサスペンション
13 ベースプレート(基部)
15 ロードビーム
17 圧電アクチュエータ
18 アクチュエータベース(基部)
21 開口部
21a 開口部の内側面
23 圧電素子
23c 圧電素子の外側面
41 間隙部
43 非導電性接着剤
45 接着剤マイクロカプセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隙部に接着剤を充填するための接着剤充填方法であって、
接着機能及び硬化機能を有する接着剤がカプセル内に封入された接着剤カプセルを前記間隙部に導入する導入工程と、
前記間隙部の前記接着剤カプセルにエネルギーを与えることによって該接着剤カプセルから前記接着剤を排出させる排出工程と、
前記排出した接着剤にエネルギーを与えることによって硬化を促す硬化促進工程と、
を備えたことを特徴とする接着剤充填方法。
【請求項2】
請求項1記載の接着剤充填方法であって、
前記排出工程では、前記接着剤カプセルに熱または光照射エネルギーを与えることによって該接着剤カプセルから前記接着剤を排出させる、
ことを特徴とする接着剤充填方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の接着剤充填方法であって、
前記接着剤は、熱硬化性または紫外線硬化性を有し、
前記硬化促進工程では、前記排出した接着剤に熱または紫外線照射エネルギーを与えることによって硬化を促す、
ことを特徴とする接着剤充填方法。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれかに記載の接着剤充填方法であって、
前記接着剤カプセルは、球形状であり、かつ前記間隙部よりも小径である、
ことを特徴とする接着剤充填方法。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれかに記載の接着剤充填方法であって、
前記導入工程では、前記間隙部を満たすように前記接着剤カプセルを複数導入する、
ことを特徴とする接着剤充填方法。
【請求項6】
間隙部に接着剤を充填するための接着剤充填方法であって、
常温常圧下では接着機能及び硬化機能が封印されて易取扱い性を有した接着剤の塊を前記間隙部に導入する導入工程と、
前記間隙部の前記接着剤の塊にエネルギーを与えることによって硬化を促す硬化促進工程と、
を備えたことを特徴とする接着剤充填方法。
【請求項7】
給電状態に応じて変形する圧電素子と、前記圧電素子が実装される開口部を有する基部と、前記基部に設けられるロードビームとを備え、前記圧電素子の変形に従って前記ロードビームの先端側をスウェイ方向に変位させるヘッドサスペンションを製造するための製造方法において、
前記開口部の内側面と前記圧電素子の外側面との間の間隙部に、熱硬化性または紫外線硬化性を有する非導電性接着剤がマイクロカプセル内に封入された接着剤マイクロカプセルを、前記間隙部を満たすように導入する導入工程と、
前記間隙部の前記接着剤マイクロカプセルに熱または光照射エネルギーを与えることによって該接着剤マイクロカプセルから前記非導電性接着剤を排出させる排出工程と、
前記排出した非導電性接着剤に熱または紫外線照射エネルギーを与えることによって硬化を促す硬化促進工程と、
を備え、
前記間隙部に前記非導電性接着剤を充填することによって前記開口部に前記圧電素子を接着固定した、
ことを特徴とするヘッドサスペンションの製造方法。
【請求項8】
請求項7記載のヘッドサスペンションの製造方法であって、
前記接着剤カプセルは、前記間隙部の形状と同一形状に形成された、
ことを特徴とするヘッドサスペンションの製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8記載のヘッドサスペンションの製造方法であって、
前記排出工程では、前記開口部から前記接着剤マイクロカプセルに直接的に熱または光照射エネルギーを与えることによって該接着剤マイクロカプセルから前記非導電性接着剤を排出させる、
ことを特徴とするヘッドサスペンションの製造方法。
【請求項10】
請求項7〜9のうちいずれかに記載のヘッドサスペンションの製造方法であって、
前記硬化促進工程では、前記開口部から前記接着剤マイクロカプセルに直接的に熱または紫外線照射エネルギーを与えることによって硬化を促す、
ことを特徴とするヘッドサスペンションの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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