説明

接着剤組成物

【課題】熱履歴を受けやすい環境下においても、優れた接着特性が得られる接着剤組成物を提供すること。
【解決手段】セラック樹脂を主成分とし、炭素数が8〜28のアルキル基を有する脂肪酸の金属塩を少なくとも含有することを特徴とする仮止用の接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品、光学部品、医療部品および自動車部品などの部材を切断または研磨加工する際に、これらの部材を一時的に仮止するために使用する接着剤組成物(以下、単に「接着剤組成物」という場合がある)に関し、さらに詳しくは、熱履歴が伴っても粘度安定性と、塗布性、接着性および加工後の接着剤の洗浄除去性(以下これらの特性を纏めて「接着特性」という場合がある)が優れた接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セラック樹脂を主体とした仮止用の接着剤組成物は、使用されているセラック樹脂が、熱硬化性を有するために、加熱したり、高温雰囲気下で長時間放置されると熱硬化が徐々に進行することにより、熱経時変化を受けやすい。とくに、上記の接着剤組成物は、熱履歴のかかりやすい輸送中および保管中において、さらに熱硬化反応が進行することにより、接着作業の際に、その溶融粘度が上昇して流動性が低下したり、溶けにくい固まりが混入することにより均一な塗布性が低下する。また、接着性および加工後の接着剤の洗浄除去性が損なわれる。
【0003】
また、セラック樹脂は、ラックカイガラ虫が分泌する樹脂状の物質を公知の方法で調製して得られる天然物であるために、上記の熱履歴による熱経時変化の度合も、その原料によりバラツキが生じる。従って、接着剤組成物の原料として上記のセラック樹脂を使用した場合に、接着剤組成物の安定した接着特性の管理が複雑となる。
【0004】
上記の接着剤組成物の接着特性を改良するために、セラック樹脂に脂肪酸、可塑剤、粘着付与剤などの添加剤を配合する方法が知られている。その一例として、例えば、天然セラックに添加剤として脂肪酸を配合してなる接着剤(特許文献1参照)が開示されている。しかしながら、特許文献1に開示の接着剤は、天然セラックに、添加剤として12−ヒドロキシステアリン酸とパルミチン酸を配合しているが、パルミチン酸はセラック樹脂に対して貧相溶性であり、また双方共に固形のために混合性がよくなく均一な接着剤が得にくい。また、上記の12−ヒドロキシステアリン酸とパルミチン酸との混合物は接着剤調製や接着剤塗布の際の高熱により変化し増粘し易く、このことから、安定した溶融塗布性および接着強度を有する接着剤が得られない。
【0005】
上述のことから、熱履歴を受けやすい環境下においても、粘度安定性、塗布性、接着性および加工後の接着剤の洗浄除去性が優れた接着剤組成物が要望されている。
【0006】
【特許文献1】特開平7−53943号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、熱履歴を受けやすい環境下においても、優れた接着特性が得られる接着剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、セラック樹脂を主成分とし、炭素数が8〜28のアルキル基を有する脂肪酸の金属塩(以下、単に「脂肪酸金属塩」という場合がある)を少なくとも含有することを特徴とする接着剤組成物を提供する。
【0009】
本発明者は、前記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、セラック樹脂を主成分とし、上記の脂肪酸金属塩を少なくとも配合した接着剤組成物が、とくに、輸送や保管中における熱履歴に伴う経時変化を抑制して、優れた接着特性が得られる接着剤組成物であることを見いだした。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、セラック樹脂を主成分とし、上記の特定の脂肪酸金属塩を配合することにより、従来のセラック系の接着剤組成物に比べて、その調製時や、製品の輸送や保管中における熱履歴に伴う経時変化を抑制することにより、優れた接着特性を有する品質的に安定した接着剤組成物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
本発明を特徴づける脂肪酸金属塩は、炭素数が8〜28のアルキル基を有する脂肪酸の金属塩である。上記の脂肪酸金属塩は、単独でも、あるいは、それらを混合した複合体としても使用することができる。
【0012】
上記の脂肪酸金属塩としては、例えば、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ヘンエイコサン酸、ベヘン酸、トリコサン酸、リグノセリン酸、ペンタコサン酸、セロチン酸、ヘプタコタン酸およびモンタン酸などの脂肪酸と、Mg、Ca、Zn、Al、Ba、Li、Sr、Cd、Pb、Na、Kなどの金属からなる脂肪酸金属塩、およびそれらの混合物(複合体)などが挙げられる。
【0013】
上記の化合物である脂肪酸金属塩の金属としては、好ましくはMg、Ca、Zn、Al、BaまたはLiから選ばれる少なくとも1種である。
【0014】
前記の脂肪酸金属塩の具体例としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸ストロンチウム、ステアリン酸鉛、ステアリン酸カドミウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸バリウム、ラウリン酸亜鉛、ラウリン酸カドミウム、ミリスチン酸亜鉛、モンタン酸カルシウム、モンタン酸亜鉛、モンタン酸マグネシウム、モンタン酸アルミニウム、モンタン酸リチウム、ベヘン酸カルシウム、ベヘン酸カルシウム、ベヘン酸亜鉛、ベヘン酸マグネシウム、ベヘン酸リチウム、カプリル酸アルミニウム、ミリスチン酸亜鉛、ミリスチン酸マグネシウム、ミリスチン酸カルシウム、ミリスチン酸アルミニウム、ミリスチン酸バリウム、ミリスチン酸リチウム、パルミチン酸亜鉛、パルミチン酸マグネシウム、パルミチン酸カルシウム、パルミチン酸アルミニウム、パルミチン酸バリウム、パルミチン酸リチウムなどの単体、およびそれらの混合物であるステアリン酸カルシウム/ステアリン酸亜鉛複合体、ステアリン酸亜鉛/ステアリン酸バリウム複合体などの複合体が挙げられる。
【0015】
上記脂肪酸金属塩のうちで、好ましい脂肪酸金属塩としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸バリウム、およびステアリン酸リチウムから選ばれる少なくとも1種である。すなわち、それら単体、または、それらの任意の混合物が挙げられ、該混合物としては、例えば、ステアリン酸カルシウム/ステアリン酸亜鉛複合体、ステアリン酸亜鉛/ステアリン酸バリウム複合体などの複合体が挙げられる。
【0016】
また、本発明で使用する前記の脂肪酸金属塩単体またはその混合物(複合体)は、その融点が80℃〜190℃のものが好ましく使用され、とくに好ましくは融点が100℃〜180℃のものが有効である。上記の脂肪酸金属塩の融点が上記範囲内であると、接着剤組成物の調製時の温度下におけるセラック樹脂、その他の成分との溶融混合性が良好であり、得られる接着剤組成物は安定した接着特性が得られる。なお、上記の融点が、高すぎると、接着剤組成物の調製時の温度下において、接着剤組成物の構成成分である主成分のセラック樹脂、その他の成分との溶融混合性が低下し、安定した接着特性が得にくい。
【0017】
上記の融点を有する脂肪酸金属塩としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ラウリン酸亜鉛、ラウリン酸カルシウム、ミリスチン酸亜鉛、モンタン酸カルシウム、モンタン酸亜鉛、モンタン酸マグネシウム、モンタン酸アルミニウム、ベヘン酸カルシウム、ベヘン酸亜鉛、ベヘン酸マグネシウム、パルミチン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム/ステアリン酸亜鉛複合体、ステアリン酸亜鉛/ステアリン酸バリウム複合体などが挙げられる。
【0018】
前記の脂肪酸金属塩の単体、または、それらの複合体の含有量は、好ましくは接着剤組成物総量中に0.2質量%〜5.0質量%、さらに好ましくは0.5質量%〜3.0質量%を占める量である。上記の脂肪酸金属塩の含有量が多過ぎると、得られる接着剤組成物の接着力が低下する。一方、上記含有量が、少な過ぎると得られる接着剤組成物の熱履歴に対する抑制効果が低下し、十分な前記の接着特性が得られない。
【0019】
また、本発明に使用するセラック樹脂は、ラックカイガラ虫が分泌する樹脂状の物質を公知の溶液抽出法、ソーダー法などの方法により精製したものであり、その採取産地やその精製方法に限定されるものでなく、いずれのものも使用することができる。その樹脂分は、アレウリチン酸、ジャラール酸、ラクシジャラール酸などの樹脂酸とのエステル化合物を主成分とした天然セラック樹脂あるいは合成セラック樹脂である。上記のセラック樹脂としては、例えば、その熱硬化時間が170℃において90秒以上、好ましくは200秒〜600秒の精製セラック樹脂および漂白セラック樹脂、脱色セラック樹脂などの加工セラック樹脂が挙げられる。なお、上記のセラック樹脂の熱硬化時間とは、セラック樹脂のJIS規格K5909−1994による測定値である。
【0020】
また、本発明では、他に、本発明の目的を妨げない範囲において、前記のセラック樹脂および前記の脂肪酸金属塩と混合可能な可塑剤、体質顔料、粘着付与剤、ワックス類、酸化防止剤、分散剤などの添加剤を添加してもよく、それらの添加剤としては、例えば、トリクレジルフォスフェート、トリフェニルフォスフェート、フタル酸ジシクロヘキシルなどの可塑剤;ひ性硫酸バリウム、沈降性硫酸バリウム、ケイ酸アルミニウム、シリカ、タルク、アルミナ、酸化チタンなどの無機体質顔料;高級脂肪酸、高級アルコールからなるワックス類;ロジン、ロジン誘導体などの粘着付与剤などが挙げられる。上記の添加剤の配合量は、接着剤組成物総量中において5質量%〜60質量%である。
【0021】
本発明の接着剤組成物の調製は、例えば、前記のセラック樹脂と前記の脂肪酸金属塩とを配合し、100℃〜150℃の雰囲気下で5〜30分間熱溶融しながら公知の方法で均一に混練して均質化する。その混合物を熱溶融したままで必要に応じてその他の任意の成分を配合して均質化後、上記の溶融混合物を成形型に流し込み、常温まで冷却して固形化して調製される。
【0022】
本発明の接着剤組成物を使用する事例としては、電子部品、光学機器、医療部品および自動車に使用されるガラス、セラミック、磁性体などの材料からなる部材を切断、切削および研磨加工する際に、これらの部材を一時的に仮止するためのカーボンプレートなどからなる固定台を100℃〜180℃に加熱し、当該固定台に上記の接着剤組成物を手塗り、あるいは通常のホットメルトアプリケーターを使用して、10μm〜100μmの厚みに溶融塗布する。次に、熱溶融状態にある該接着剤組成物塗布面に上記の加工される部材を加熱圧着し、圧着後、常温まで冷却して仮固定する。
【0023】
上記の仮固定された部材を、例えば、ダイヤモンドカッターなどを使用して切断加工する。切断加工後、pH12〜14に調製されたアルカリ洗浄液、例えば90℃の5質量%水酸化カリウム水溶液を使用して上記の接着剤組成物を洗浄除去し加工部材を得る。その他、洗浄液として、メタノールなどの有機溶剤を使用することもできる。
【実施例】
【0024】
次に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。文中「部」または「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0025】
[実施例1〜4](接着剤組成物J1〜J4)
セラック樹脂(a)、脂肪酸金属塩(b)、可塑剤(c)および体質顔料(e)を用い、表1に示すように各々を配合し、120℃にて10分間均一に熱溶融混練して均質化し、均質化後、常温まで冷却固化して本発明の接着剤組成物J1〜J4を調製した。
【0026】
[比較例1](接着剤組成物H1)
実施例1において、脂肪酸金属塩(b)を使用せず、可塑剤(c)の配合割合を20部に置き換える以外は実施例1と同様にして接着剤組成物H1を調製した。
【0027】
[比較例2](接着剤組成物H2)
実施例4において、脂肪酸金属塩(b)を使用せず、可塑剤(c)の配合割合を10部に置き換える以外は実施例4と同様にして接着剤組成物H2を調製した。
【0028】
なお、上記表1に示すセラック樹脂(a)、脂肪酸金属塩(b)、可塑剤(c)および体質顔料(d)は下記の通りである。
・セラック樹脂(a):170℃にて200秒の熱硬化時間を有する精製セラック樹脂
・脂肪酸金属塩(b):
b1:ステアリン酸カルシウム
b2:ステアリン酸マグネシウム
b3:ステアリン酸亜鉛
b4:ステアリン酸カルシウム/ステアリン酸亜鉛複合体
・可塑剤(c):トリクレジルフォスフェート
・体質顔料(d):ひ性硫酸バリウム(平均粒子径5μm〜10μm)
【0029】

【0030】
上記で得られた各々の接着剤組成物を45℃の雰囲気下で7日間放置し、放置後の接着剤組成物の塗布性、粘度安定性、接着性、および洗浄除去性に関して下記の測定方法により評価した。評価結果を表2に示す。
【0031】
(塗布性)
上記で得られた各々の接着剤組成物を使用して、150℃に加熱されたカーボンプレート上に手塗りにて塗布し、その溶融塗布状態を下記の測定方法により評価した。
○:塗布面に溶融不良の異物の混入が認められず、均一に平滑な塗布が容易にできる。
△:均一に平滑な塗布がやや劣る。
×:塗布面に溶融不良の異物の混入が認められ、均一に平滑な塗布が劣る。
【0032】
(粘度安定性)
上記で得られた各々の接着剤組成物の45℃の雰囲気下で7日間放置前後の150℃における粘度変化をB型粘度計で測定して、下記の評価方法で評価した。
○:粘度の変化率が、30%未満である。
△:粘度の変化率が、30%以上、100%未満である。
×:粘度の変化率が、100%以上である。
【0033】
(接着性)
上記で得られた各々の接着剤組成物を150℃に加熱溶融して、ステンレス基板同士を接着し、25℃まで冷却後に引張り剪断力をテンシロンにて測定(JIS K6850に準拠)した。
○:引張り剪断力が、9MPa以上である。
△:引張り剪断力が、5MPa以上、9MPa未満である。
×:引張り剪断力が、5MPa未満である。
【0034】
(洗浄除去性)
上記で得られた各々の接着剤組成物を使用して、150℃に加熱されたガラス基板上に手塗りにて40〜50μmの厚みに塗布し、常温まで冷却して固化させて試料を作製し、該試料を90℃の条件下の5質量%の水酸化カリウム水溶液の洗浄液に浸漬し、該接着剤組成物の上記の洗浄液に対する洗浄除去性を下記の基準で評価した。
○:ガラス基板上の接着剤組成物が、容易に洗浄除去される。
△:ガラス基板上の接着剤組成物が、洗浄後やや残る。
×:ガラス基板上の接着剤組成物が、洗浄除去されない。
【0035】

【0036】
上記の評価結果より、本発明の接着剤組成物は、熱履歴を受けやすい環境下に置かれても、接着特性が優れていることが実証されている。一方、比較例の接着剤組成物は、熱履歴を受けるに従って接着特性が低下している。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、本発明の接着剤組成物は、熱履歴を受けやすい輸送や保管などの環境下においても、その接着特性が優れていることから、電子部品、光学部品および医療部品などの部材を切断、切削または研磨加工する際に、これらの部材を品質的に安定して仮止できる接着剤組成物として有効に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラック樹脂を主成分とし、炭素数が8〜28のアルキル基を有する脂肪酸の金属塩を少なくとも含有することを特徴とする仮止用の接着剤組成物。
【請求項2】
前記の脂肪酸金属塩の含有量が、接着剤組成物総量中で0.2〜5.0質量%を占める量である請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記の脂肪酸金属塩の金属が、Mg、Ca、Zn、Al、BaおよびLiから選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
前記の脂肪酸金属塩の融点が、80℃〜190℃である請求項1〜3のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
前記の脂肪酸金属塩が、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸バリウムおよびステアリン酸リチウムから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の接着剤組成物。

【公開番号】特開2008−63430(P2008−63430A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−242579(P2006−242579)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(000183923)ザ・インクテック株式会社 (268)
【Fターム(参考)】