説明

接着剤組成物

【課題】高いせん断接着強さ、剥離接着強さ及び衝撃接着強さを有するとともに、特に接着強さの耐冷熱サイクル性に優れた接着剤組成物を提供する。
【解決手段】(a)2−シアノアクリレート(エトキシエチル−2−シアノアクリレート等)、(b)シアノアクリレートに難溶性の重合体となり得る単量体、可溶性の重合体となり得る単量体、及びカルボキシル基含有単量体を用いてなる共重合体(エチレン/メチルアクリレート/アクリル酸共重合体等)、並びに(c)ヒュームドシリカ(疎水性シリカが好ましい。)を含有し、(a)2−シアノアクリレートを100質量部とした場合に、(b)共重合体は2〜40質量部(好ましくは3〜35質量部)であり、(c)ヒュームドシリカは1〜30質量部(好ましくは1〜25質量部)である接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物に関する。更に詳しくは、本発明は、2−シアノアクリレートを含有し、高いせん断接着強さ、剥離接着強さ及び衝撃接着強さを有するとともに、特に接着強さの耐冷熱サイクル性に優れた接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
2−シアノアクリレートを含有する接着剤組成物は、主成分である2−シアノアクリレートが有する特異なアニオン重合性により、被着体表面に付着する僅かな水分等の微弱なアニオンによって重合を開始し、各種材料を短時間で強固に接合することができる。そのため、所謂、瞬間接着剤として、工業用、医療用、家庭用等の広範な分野において用いられている。 しかし、この接着剤組成物は、その硬化物が硬く脆いため、優れたせん断接着強さを有する反面、剥離接着強さ及び衝撃接着強さが低く、特に異種の被着体間での耐冷熱サイクル性に劣るという問題点を有する。従来、このような問題点を改良するため、種々のエラストマー及び添加剤等を配合する改質方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参考。)。また、接着剤組成物にシリカを配合することも知られている(例えば、特許文献3、4参考。)。
【0003】
【特許文献1】特開平3−290484号公報
【特許文献2】特開平6−57214号公報
【特許文献3】特開平8−53651号公報
【特許文献4】特開2000−44892号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の特許文献1、2に記載された改質方法では、特に異種の被着体間での耐冷熱サイクル性を十分に向上させることができないことがある。また、上記の特許文献3、4では、シリカを配合する目的は接着剤にチクソトロピー性を付与することであり、耐冷熱サイクル性等の接着強さの耐久性については何ら言及されていない。
【0005】
本発明は、上記の従来の状況に鑑みてなされたものであり、2−シアノアクリレートを含有し、高いせん断接着強さ、剥離接着強さ及び衝撃接着強さを有するとともに、特に接着強さの耐冷熱サイクル性に優れた接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のとおりである。
1.(a)2−シアノアクリレート、(b)シアノアクリレートに難溶性の重合体となり得る単量体、可溶性の重合体となり得る単量体、及びカルボキシル基含有単量体を用いてなる共重合体、並びに(c)ヒュームドシリカを含有する接着剤組成物であって、
上記(a)2−シアノアクリレートを100質量部とした場合に、上記(b)共重合体は2〜40質量部であり、上記(c)ヒュームドシリカは1〜30質量部であることを特徴とする接着剤組成物。
2.シアノアクリレートに難溶性の重合体となり得る上記単量体が、エチレン、プロピレン、イソプレン及びブタジエンのうちの少なくとも1種であり、可溶性の重合体となり得る上記単量体が、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルのうちの少なくとも一方である上記1.に記載の接着剤組成物。
3.シアノアクリレートに難溶性の重合体となり得る上記単量体が重合してなる難溶性セグメントと、可溶性の重合体となり得る上記単量体が重合してなる可溶性セグメントとの合計を100モル%とした場合に、該難溶性セグメントは30〜80モル%であり、該可溶性セグメントは20〜70モル%である上記1.又は2.に記載の接着剤組成物。
4.上記難溶性セグメント、上記可溶性セグメント、及び上記カルボキシル基含有単量体が重合してなるカルボキシル基含有接着剤の合計を100モル%とした場合に、該カルボキシル基含セグメントは0.1〜5モル%である上記3.に記載の接着剤組成物。
5.上記共重合体の数平均分子量が5000〜500000である上記1.乃至4.のうちのいずれか1項に記載の接着剤組成物。
6.可塑剤を含有し、上記(a)2−シアノアクリレートを100質量部とした場合に、該可塑剤は3〜50質量部である上記1.乃至5.のうちのいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の接着剤組成物は、2−シアノアクリレートと、特定の共重合体と、ヒュームドシリカとを、所定の質量割合で含有しているため、2−シアノアクリレートを含有する接着剤が本来有する高いせん断接着強さを有するとともに、従来、必ずしも良好ではなかった剥離接着強さ、衝撃接着強さも十分であり、特に優れた耐冷熱サイクル性を有する。
また、シアノアクリレートに難溶性の重合体となり得る単量体が、エチレン、プロピレン、イソプレン及びブタジエンのうちの少なくとも1種であり、可溶性の重合体となり得る単量体が、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルのうちの少なくとも一方である場合は、容易に2−シアノアクリレートに適度に可溶な共重合体とすることができ、高いせん断接着強さ等と、優れた耐冷熱サイクル性とを併せて有する接着剤組成物とすることができる。
更に、シアノアクリレートに難溶性の重合体となり得る単量体が重合してなる難溶性セグメントと、可溶性の重合体となり得る単量体が重合してなる可溶性セグメントとの合計を100モル%とした場合に、難溶性セグメントが30〜80モル%であり、可溶性セグメントが20〜70モル%である場合は、2−シアノアクリレートに共重合体をより適度に、且つ容易に溶解させることができ、高いせん断接着強さ等と、優れた耐冷熱サイクル性とを併せて有する接着剤組成物とすることができる。
また、難溶性セグメント、可溶性セグメント、及びカルボキシル基含有単量体が重合してなるカルボキシル基含有接着剤の合計を100モル%とした場合に、カルボキシル基含有セグメントが0.1〜5モル%である場合は、速やかに硬化し、且つ高いせん断接着強さ等と、優れた耐冷熱サイクル性とを併せて有する接着剤組成物とすることができる。
更に、共重合体の数平均分子量が5000〜500000である場合は、共重合体が2−シアノアクリレートに容易に溶解し、且つ耐冷熱サイクル試験後の接着強さの保持率がより高い接着剤組成物とすることができる。
また、可塑剤を含有し、(a)2−シアノアクリレートを100質量部とした場合に、可塑剤が3〜50質量部である場合は、硬化物が柔軟になり、更に難溶性の重合体となり得る単量体を多く用いた共重合体であるときに、共重合体の2−シアノアクリレートへの溶解が容易となるため、耐冷熱サイクル試験後の接着強さの保持率をより向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の接着剤組成物について詳しく説明する。
本発明の接着剤組成物は、(a)2−シアノアクリレート、(b)シアノアクリレートに難溶性の重合体となり得る単量体、可溶性の重合体となり得る単量体、及びカルボキシル基含有単量体を用いてなる共重合体、並びに(c)ヒュームドシリカを含有し、(a)2−シアノアクリレートを100質量部とした場合に、(b)共重合体は2〜40質量部であり、(c)ヒュームドシリカは1〜30質量部である。
【0009】
上記「(a)2−シアノアクリレート」としては、この種の接着剤組成物に一般に使用される2−シアノアクリレートを特に限定されることなく用いることができる。この2−シアノアクリレートとしては、2−シアノアクリル酸のメチル、エチル、クロロエチル、n−プロピル、i−プロピル、アリル、プロパギル、n−ブチル、i−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、シクロヘキシル、フェニル、テトラヒドロフルフリル、ヘプチル、2−エチルヘキシル、n−オクチル、n−ノニル、オキソノニル、n−デシル、n−ドデシル、メトキシエチル、メトキシプロピル、メトキシイソプロピル、メトキシブチル、エトキシエチル、エトキシプロピル、エトキシイソプロピル、プロポキシメチル、プロポキシエチル、イソプロポキシエチル、プロポキシプロピル、ブトキシメチル、ブトキシエチル、ブトキシプロピル、ブトキシイソプロピル、ブトキシブチル、2,2,2−トリフルオロエチル及びヘキサフルオロイソプロピル等のエステルが挙げられる。これらの2−シアノアクリレートは1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。併用する場合、組み合わせは特に限定されないが、例えば、エチル−2−シアノアクリレートとエトキシエチル−2−シアノアクリレートとの組み合わせ、イソブチル−2−シアノアクリレートとエトキシエチル−2−シアノアクリレートとの組み合わせ等が挙げられる。
【0010】
上記「(b)共重合体」は、シアノアクリレートに難溶性の重合体となり得る単量体が重合してなる難溶性セグメントと、可溶性の重合体となり得る単量体が重合してなる可溶性セグメントと、カルボキシル基含有単量体が重合してなるカルボキシル基含有セグメントと、を備える共重合体である。
上記「シアノアクリレートに難溶性の重合体となり得る単量体」は特に限定されず、エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、クロロプレン、1−ヘキセン及びシクロペンテン等が挙げられる。これらの単量体は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。難溶性の重合体となり得る単量体としては、エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン及びクロロプレンが用いられることが多い。
【0011】
また、上記「シアノアクリレートに可溶性の重合体となり得る単量体」も特に限定されず、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルエーテル、スチレン及びアクリロニトリル等が挙げられる。アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−プロピル、アクリル酸−i−プロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−i−ブチル、アクリル酸−n−ヘキシル、アクリル酸−n−ヘプチル、アクリル酸−n−オクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸メトキシプロピル、アクリル酸エトキシエチル及びアクリル酸エトキシプロピル等が挙げられる。これらの単量体は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0012】
更に、メタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸−n−プロピル、メタクリル酸−i−プロピル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸−i−ブチル、メタクリル酸−n−ヘキシル、メタクリル酸−n−ヘプチル、メタクリル酸−n−オクチル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸メトキシプロピル、メタクリル酸エトキシエチル及びメタクリル酸エトキシプロピル等が挙げられる。これらの単量体は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルとを併用してもよい。
【0013】
難溶性の重合体となり得る単量体が重合してなる難溶性セグメントと、可溶性の重合体となり得る単量体が重合してなる可溶性セグメントとの割合は特に限定されず、これらのセグメントの合計を100モル%とした場合に、難溶性セグメントが5〜90モル%、好ましくは10〜80モル%、可溶性セグメントが10〜95モル%、好ましくは20〜90モル%であればよい。この割合は、難溶性セグメントが30〜80モル%、可溶性セグメントが20〜70モル%、特に難溶性セグメントが40〜80モル%、可溶性セグメントが20〜60モル%、更に難溶性セグメントが50〜75モル%、可溶性セグメントが25〜50モル%であることがより好ましい。難溶性セグメントが5〜90モル%であり、可溶性セグメントが10〜95モル%であれば、特に難溶性セグメントが30〜80モル%であり、可溶性セグメントが20〜70モル%であれば、共重合体を2−シアノアクリレートに適度に溶解させることができ、高いせん断接着強さ等と、優れた耐冷熱サイクル性とを併せて有する接着剤組成物とすることができる。
各々のセグメントの割合は、プロトン核磁気共鳴分光法(以下、「H−NMR」と表記する。)測定によるプロトンの積分値により算出することができる。
【0014】
上記「カルボキシル基含有単量体」も特に限定されず、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、クロトン酸及び桂皮酸等が挙げられる。これらの単量体は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。カルボキシル基含有単量体としては、アクリル酸及びメタクリル酸が用いられることが多く、これらはいずれか一方を用いてもよく、併用してもよい。このカルボキシル基含有単量体が重合してなるカルボキシル基含有セグメントは、シアノアクリレートに可溶性のセグメントになる。また、ヒュームドシリカ表面、又はシアノアクリレートとの親和性を高めることができるため、適量のカルボキシル基含有単量体を用いる。
【0015】
カルボキシル基含有セグメントの割合も特に限定されないが、難溶性セグメント、可溶性セグメント、及びカルボキシル基含有セグメントの合計を100モル%とした場合に、0.1〜5モル%、特に0.3〜4モル%、更に0.4〜3モル%であることが好ましい。また、この含有量は、0.5〜2.5モル%、特に0.5〜2モル%であることがより好ましい。カルボキシル基含有セグメントが0.1〜5モル%、特に0.5〜2.5モル%であれば、被着体に塗布後、速やかに硬化し、且つ高い接着強さと、優れた耐冷熱サイクル性とを併せて有する接着剤組成物とすることができる。
カルボキシル基含有セグメントの割合は、JIS K0070に準じ、電位差滴定法又は指示薬滴定法により測定することができる。
【0016】
共重合体としては、例えば、エチレン/アクリル酸メチル/アクリル酸共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/アクリル酸ブチル/アクリル酸共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸共重合体、エチレン/酢酸ビニル/アクリル酸共重合体、ブタジエン/アクリル酸メチル/アクリル酸共重合体、ブタジエン/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体、ブタジエン/アクリロニトリル/アクリル酸エステル/アクリル酸共重合体、及びブタジエン/スチレン/アクリロニトリル/アクリル酸メチル/アクリル酸共重合体等を用いることができる。この共重合体としては、エチレン/アクリル酸メチル/アクリル酸共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/アクリル酸ブチル/アクリル酸共重合体が特に好ましい。これらの共重合体は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
共重合体の平均分子量も特に限定されないが、数平均分子量(Mn)が5000〜500000であればよく、10000〜200000、特に15000〜150000、更に20000〜100000であることが好ましい。共重合体の数平均分子量が5000〜500000、特に10000〜200000であれば、共重合体が2−シアノアクリレートに容易に溶解し、特に耐冷熱サイクル試験後の接着強さの保持率が高い接着剤組成物とすることができる。また、共重合体の重量平均分子量(Mw)は、5000〜1000000、特に10000〜1000000であることが好ましく、Mw/Mnは1.00〜10.0、特に1.00〜8.0であることが好ましい。
尚、本発明における平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」と略記する。)で測定した値である。GPC測定の際には、テトラヒドロフランを移動相として、ポリスチレンゲルカラムを使用し、分子量の値はポリスチレン換算値で求めた。
【0018】
接着剤組成物における共重合体の含有量は、2−シアノアクリレートを100質量部とした場合に、2〜40質量部である。この共重合体の好ましい含有量は、2−シアノアクリレートの種類、共重合体の製造に用いた単量体の種類及び割合、並びにヒュームドシリカの種類及び含有量等にもよるが、3〜35質量部、特に5〜30質量部であることが好ましい。共重合体の含有量が3〜35質量部であれば、十分なせん断接着強さ等を有し、且つ優れた耐冷熱サイクル性を併せて有する接着剤組成物とすることができる。
【0019】
上記「(c)ヒュームドシリカ」は、超微粉(一次粒子が500nm以下、特に1〜200nm)の無水シリカであり、この無水シリカは、例えば、四塩化ケイ素を原料とし、高温の炎中において気相状態での酸化により生成する超微粉(一次粒子が500nm以下、特に1〜200nm)の無水シリカであって、親水性の高い親水性シリカと、疎水性の高い疎水性シリカとがある。このヒュームドシリカとしては、いずれも用いることができるが、2−シアノアクリレート及び共重合体への分散性がよいため疎水性シリカが好ましい。また、シアノアクリレートに可溶性の重合体となり得る単量体を多く用いてなる共重合体、即ち、可溶性セグメント(カルボキシル基含有セグメントを含む。)が多い共重合体を用いる場合は、親水性シリカを組み合わせて用いることが好ましく、難溶性の重合体となり得る単量体を多く用いてなる共重合体、即ち、難溶性セグメントが多い共重合体を用いる場合は、疎水性シリカを組み合わせて用いることが好ましい。
【0020】
親水性シリカとしては市販の各種の製品を用いることができ、例えば、アエロジル50、130、200、300及び380(以上、商品名であり、日本アエロジル社製である。)等が挙げられる。これらの親水性シリカの比表面積は、それぞれ50±15m/g、130±25m/g、200±25m/g、300±30m/g、380±30m/gである。また、市販の親水性シリカとしては、レオロシールQS−10、QS−20、QS−30及びQS−40(以上、商品名であり、トクヤマ社製である。)等を用いることができる。これらの親水性シリカの比表面積は、それぞれ140±20m/g、220±20m/g、300±30m/g、380±30m/gである。この他、CABOT社製等の市販の親水性シリカを用いることもできる。
【0021】
更に、疎水性シリカとしては、親水性シリカと、親水性シリカの表面に存在するヒドロキシル基と反応し、疎水基を形成し得る化合物、又は親水性シリカの表面に吸着され、表面に疎水性の層を形成し得る化合物とを、溶媒の存在下又は不存在下に接触させ、好ましくは加熱し、親水性シリカの表面を処理することにより生成する製品を用いることができる。
【0022】
親水性シリカを表面処理して疎水化するのに用いる化合物としては、n−オクチルトリアルコキシシラン等の疎水基を有するアルキル、アリール、アラルキル系の各種のシランカップリング剤、ジメチルジクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン等のシリル化剤、ポリジメチルシロキサン等のシリコーンオイル、ステアリルアルコール等の高級アルコール、及びステアリン酸等の高級脂肪酸などが挙げられる。疎水性シリカとしては、いずれの化合物を用いて疎水化された製品を用いてもよい。
【0023】
市販の疎水性シリカとしては、例えば、シリコーンオイルで表面処理され、疎水化されたアエロジルRY200、R202、ジメチルシリル化剤で表面処理され、疎水化されたアエロジルR974、R972、R976、n−オクチルトリメトキシシランで表面処理され、疎水化されたアエロジルR805、トリメチルシリル化剤で表面処理され、疎水化されたアエロジルR811、R812(以上、商品名であり、日本アエロジル社製である。)等が挙げられる。これらの疎水性シリカの比表面積は、それぞれ100±20m/g、100±20m/g、170±20m/g、110±20m/g、250±25m/g、150±20m/g、150±20m/g、260±20m/gである。
【0024】
接着剤組成物におけるヒュームドシリカの含有量は、2−シアノアクリレートを100質量部とした場合に、1〜30質量部である。このヒュームドシリカの好ましい含有量は、2−シアノアクリレートの種類、共重合体の製造に用いた単量体の種類及び割合、並びにヒュームドシリカの種類等にもよるが、1〜25質量部、特に2〜20質量部であることが好ましい。ヒュームドシリカの含有量が1〜30質量部であれば、高いせん断接着強さ等を有し、且つ優れた耐冷熱サイクル性を併せて有する接着剤組成物とすることができる。
尚、ヒュームドシリカの含有量の増加とともに接着剤組成物の粘度が高くなる傾向にあるため、この含有量は、接着剤組成物の調製及び接着剤組成物の被着体への塗布等における作業性などを考慮して設定する必要がある。
【0025】
接着剤組成物には、可塑剤を含有させることができる。特に、難溶性の重合体となり得る単量体を多く用いてなる共重合体、即ち、難溶性セグメントが多い共重合体(難溶性セグメントの割合が65モル%以上の共重合体)を用いる場合は、適量の可塑剤を含有させることにより、その溶解性を向上させることができる。この可塑剤としては、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、セバシン酸ジメチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソトリデシル、フタル酸ジペンタデシル、テレフタル酸ジオクチル、イソフタル酸ジイソノニル、トルイル酸デシル、ショウノウ酸ビス(2−エチルヘキシル)、2−エチルヘキシルシクロヘキシルカルボキシレート、フマル酸ジイソブチル、マレイン酸ジイソブチル及びカプロン酸トリグリセライド等が挙げられる。これらの中では、2−シアノアクリレートとの相溶性が良く、かつ可塑化効率が高いという点から、アセチルクエン酸トリブチル、アジピン酸ジメチル、フタル酸ジメチルが好ましい。これらの可塑剤は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、可塑剤の含有量は特に限定されないが、2−シアノアクリレートを100質量部とした場合に、3〜50質量部、特に10〜45質量部、更に20〜40質量部であることが好ましい。可塑剤の含有量が3〜50質量部であれば、特に難溶性セグメントが多い共重合体であるときに、共重合体の2−シアノアクリレートへの溶解を容易とし、特に耐冷熱サイクル試験後の接着強さの保持率を向上させることができる。
【0026】
本発明の接着剤組成物には、上記の必須成分及び可塑剤の他に、従来、2−シアノアクリレートを含有する接着剤組成物に配合して用いられているアニオン重合促進剤、安定剤、増粘剤、着色剤、香料、溶剤、強度向上剤等を、目的等に応じて、接着剤組成物の硬化性及び接着強さ等を損なわない範囲で適量配合することができる。
【0027】
アニオン重合促進剤としては、ポリアルキレンオキサイド類、クラウンエーテル類、シラクラウンエーテル類、カリックスアレン類、シクロデキストリン類及びピロガロール系環状化合物類が挙げられる。ポリアルキレンオキサイド類とは、ポリアルキレンオキサイド及びその誘導体であって、例えば、特公昭60−37836号、特公平1−43790号、特開昭63−128088号、特開平3−167279号、米国特許第4386193号、米国特許第4424327号等で開示されているものが挙げられる。具体的には、(1)ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレンオキサイド、(2)ポリエチレングリコールモノアルキルエステル、ポリエチレングリコールジアルキルエステル、ポリプロピレングリコールジアルキルエステル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、ジプロピレングリコールモノアルキルエーテル、ジプロピレングリコールジアルキルエーテル等のポリアルキレンオキサイドの誘導体などが挙げられる。クラウンエーテルとしては、例えば、特公昭55−2236号、特開平3−167279号等で開示されているものが挙げられる。具体的には、12−クラウン−4、15−クラウン−5、18−クラウン−6、ベンゾ−12−クラウン−4、ベンゾ−15−クラウン−5、ベンゾ−18−クラウン−6、ジベンゾ−18−クラウン−6、ベンゾ−15−クラウン−5、ジベンゾ−24−クラウン−8、ジベンゾ−30−クラウン−10、トリベンゾ−18−クラウン−6、asym−ジベンゾ−22−クラウン−6、ジベンゾ−14−クラウン−4、ジシクロヘキシル−24−クラウン−8、シクロヘキシル−12−クラウン−4、1,2−デカリル−15−クラウン−5、1,2−ナフト−15−クラウン−5、3,4,5−ナフチル−16−クラウン−5、1,2−メチルベンゾ−18−クラウン−6、1,2−tert−ブチル−18−クラウン−6、1,2−ビニルベンゾ−15−クラウン−5、1,2−ベンゾ−1,4−ベンゾ−5−オキシゲン−20−クラウン−7等が挙げられる。シラクラウンエーテルとしては、例えば、特開昭60−168775等で開示されているものが挙げられる。具体的には、ジメチルシラ−11−クラウン−4、ジメチルシラ−14−クラウン−5、ジメチルシラ−17−クラウン−6等が挙げられる。カリックスアレン誘導体としては、例えば、特開昭60−179482号、特開昭62−235379号、特開昭63−88152号等で開示されているものが挙げられる。具体的には、5,11,17,23,29,35−ヘキサ−tert−butyl−37,38,39,40,41,42−ヘキサヒドロオキシカリックス〔6〕アレン、37,38,39,40,41,42−ヘキサヒドロオキシカリックス〔6〕アレン、37,38,39,40,41,42−ヘキサ−(2−オキソ−2−エトキシ)−エトキシカリックス〔6〕アレン、25,26,27,28−テトラ−(2−オキソ−2−エトキシ)−エトキシカリックス〔4〕アレン等が挙げられる。シクロデキストリン類としては、例えば、公表平5−505835号等で開示されているものが挙げられる。具体的には、α−、β−又はγ−シクロデキストリン等が挙げられる。ピロガロール系環状化合物としては、特願平10−375121号等で開示されている化合物が挙げられる。具体的には、3,4,5,10,11,12,17,18,19,24,25,26−ドデカエトキシカルボメトキシ−C−1、C−8、C−15、C−22−テトラメチル[14]−メタシクロファン等が挙げられる。これらのアニオン重合促進剤は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
更に、安定剤としては、(1)二酸化イオウ、メタンスルホン酸等の脂肪族スルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の芳香族スルホン酸、三弗化ホウ素ジエチルエーテル、HBF、トリアルキルボレート及びスルトン化合物等のアニオン重合禁止剤、(2)ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、t−ブチルカテコール、カテコール及びピロガロール等のラジカル重合禁止剤などが挙げられる。また、増粘剤としては、ポリメタクリル酸メチル、アクリルゴム、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、セルロースエステル、ポリアルキル−α−シアノアクリレート及びエチレン−酢ビ共重合体等が挙げられる。これらの安定剤及び増粘剤は、それぞれ1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
[1]接着剤組成物の製造
実施例1
エトキシエチル−2−シアノアクリレートに、二酸化硫黄を40ppm、18−クラウン−6を100ppm、ハイドロキノンを1000ppm(エトキシエチル−2−シアノアクリレートを100質量部とする。)配合し、これに更に表1に記載の、エチレン/メチルアクリレート/アクリル酸共重合体(デュポンエラストマー社製、商品名「Vamac MR)、及びヒュームドシリカ(日本アエロジル社製、商品名「アエロジル RY200)を、表1に記載の含有量(エトキシエチル−2−シアノアクリレートを100質量部としたときの「質量部」である。)となるように配合し、温度20〜40℃で、15分間攪拌し、混合して接着剤組成物を製造した。
【0030】
実施例2〜15及び比較例1〜4
エトキシエチル−2−シアノアクリレートに、表1に記載のエチレン/アクリル酸エステル/アクリル酸共重合体(デュポンエラストマー社製、商品名「Vamac MR、GLS、HVG及びUltra LT)(実施例2〜15及び比較例1)、ポリメチルメタクリレート(住友化学社製、商品名「スミスペック」)(比較例3)、エチレン/メチルアクリレート共重合体(デュポンエラストマー社製、商品名「Vamac DP)(比較例4)、ヒュームドシリカ(日本アエロジル社製、商品名「アエロジル RY200、R974、200、R805」)(実施例2〜15及び2〜4)、及び可塑剤[アセチルクエン酸トリブチル(キシダ化学社製、試薬)、表1では「ATBC」と表記する。](実施例3、6〜15及び比較例2、4)、[アジピン酸ジメチル(キシダ化学社製、試薬)、表1では「DMA」と表記する。](実施例4)、[フタル酸ジメチル(キシダ化学社製、試薬)、表1では「DMP」と表記する。](実施例5)を、表1に記載の含有量となるように配合した他は、実施例1と同様にして接着剤組成物を製造した。
【0031】
【表1】

【0032】
上記の共重合体のうち、デュポンエラストマー社製の商品名「Vamac」シリーズの組成並びに数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は表2のとおりである。また、日本アエロジル社製の商品名「アエロジル」シリーズのヒュームドシリカの表面処理の有無及び表面処理剤並びに親水性、疎水性の指標となるSiOH残存量は表3のとおりである。
尚、表2において、「E」はエチレン、「MA」はメチルアクリレート、「AA」はアクリル酸」を表す。
更に、共重合体の組成のうちエチレンとアクリレートの比は前記のH−NMR測定(日本電子社製、型式「ECA−400」を用いた。)により、溶媒:重クロロホルム、温度:室温の条件で測定した値であり、アクリル酸の組成比はJIS K0070に準じ、酸価測定により求めた値である。また、平均分子量は、GPC(ウォーターズ社製、型式「アライアンス2695」)により、[カラム:東ソー社製「TSKgel SuperMultiporeHZ−H」2本+東ソー社製「TSKgel SuperHZ−2500」2本連結、移動相:テトラヒドロフラン、測定温度:40℃、分子量の値はポリスチレン換算値である。]の条件で測定した値である。
【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
[2]耐冷熱サイクル性の評価
アルミニウム板とABS樹脂製の試験片とを、実施例1〜15及び比較例1〜4の接着剤組成物を用いて接着させ、23℃で3日間静置して養生させた後、JIS K 6850に準じて引張せん断接着強さを測定し(これを初期強度とする。)、次いで、冷熱衝撃試験機を用いて、−40℃で1時間保持し、その後、80℃で1時間保持する冷熱サイクルを1サイクルとして10サイクル後の引張せん断接着強さを上記と同様にして測定し(これを試験後強度とする。)、下記のようにして保持率を算出した。結果は表4のとおりである。
保持率(%)=(試験後強度/初期強度)×100
【0036】
【表4】

【0037】
表4の結果によれば、共重合体の種類と含有量、ヒュームドシリカの種類と含有量、及び可塑剤の含有の有無と含有量が互いに係わり合って初期強度、保持率に影響を及ぼしているようであるが、実施例1〜15の接着剤組成物では、冷熱サイクル後の引張せん断接着強さの保持率は25%以上(25〜86%)、特に50%以上であり、十分な耐冷熱サイクル性を有していることが分かる。また、エチレンセグメントの割合が高く、より疎水的と考えられるVamac MRは、親水性シリカであるアエロジル200よりも、疎水性シリカであるR974との組み合わせでより高い初期強度及び保持率を有し(実施例3、実施例12)、アクリル酸メチルセグメントの割合が高く、より親水的と考えられるVamac GLSは、疎水性シリカであるR974よりも、親水性シリカであるアエロジル200との組み合わせでより高い初期強度及び保持率を有していることが分かる(実施例9、実施例15)。一方、比較例1〜4の接着剤組成物では、保持率は16%以下であり、特に、共重合体ではなく、ポリメチルメタクリレートを用いた比較例3では保持率が極めて低く、エチレン−アクリル酸エステル共重合体を用いた比較例4でも保持率が大きく低下していることが分かる。
【0038】
実施例16〜19
エトキシエチル−2−シアノアクリレートに代えて、表5に記載された2−シアノアクリレートを用いた他は、実施例3と同様にして接着剤組成物を製造し、同様にして耐冷熱サイクル性を評価した。結果を表5に併記する。
【0039】
【表5】

【0040】
表5の結果によれば、エチル−2−シアノアクリレートを用いた場合と比べて、イソブチル−2−シアノアクリレートを用いたときは、冷熱サイクル後の引張せん断接着強さの保持率が向上する。また、エチル−2−シアノアクリレートとエトキシエチル−2−シアノアクリレートとを併用した場合は、併用の効果が殆どみられないが、イソブチル−2−シアノアクリレートとエトキシエチル−2−シアノアクリレートとを併用したときは、初期強度は低下するものの、保持率が52%から95%へと大きく向上する。このように、特定の2−シアノアクリレートを組み合わせることにより、保持率を向上させ得ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、2−シアノアクリレートを含有し、所謂、瞬間接着剤として一般家庭用、医療分野等の他、各種産業界などの広範な製品、技術分野において利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)2−シアノアクリレート、(b)シアノアクリレートに難溶性の重合体となり得る単量体、可溶性の重合体となり得る単量体、及びカルボキシル基含有単量体を用いてなる共重合体、並びに(c)ヒュームドシリカを含有する接着剤組成物であって、
上記(a)2−シアノアクリレートを100質量部とした場合に、上記(b)共重合体は2〜40質量部であり、上記(c)ヒュームドシリカは1〜30質量部であることを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
シアノアクリレートに難溶性の重合体となり得る上記単量体が、エチレン、プロピレン、イソプレン及びブタジエンのうちの少なくとも1種であり、可溶性の重合体となり得る上記単量体が、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルのうちの少なくとも一方である請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
シアノアクリレートに難溶性の重合体となり得る上記単量体が重合してなる難溶性セグメントと、可溶性の重合体となり得る上記単量体が重合してなる可溶性セグメントとの合計を100モル%とした場合に、該難溶性セグメントは30〜80モル%であり、該可溶性セグメントは20〜70モル%である請求項1又は2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
上記難溶性セグメント、上記可溶性セグメント、及び上記カルボキシル基含有単量体が重合してなるカルボキシル基含有セグメントの合計を100モル%とした場合に、該カルボキシル基含有セグメントは0.1〜5モル%である請求項3に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
上記共重合体の数平均分子量が5000〜500000である請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
可塑剤を含有し、上記(a)2−シアノアクリレートを100質量部とした場合に、該可塑剤は3〜50質量部である請求項1乃至5のうちのいずれか1項に記載の接着剤組成物。

【公開番号】特開2010−150422(P2010−150422A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331245(P2008−331245)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】