説明

接着性に優れた高強力繊維および繊維ゴム複合体

【課題】ゴム接着性に優れた高強力繊維および該高強力繊維により補強された繊維ゴム複合体の提供。
【解決手段】上記の課題は、繊維表面の官能基(カルボキシル基、水酸基)の少なくとも一部が、前記カルボジイミド系架橋剤と反応しており、かつ繊維強度が10cN/dex以上である高強力繊維(全芳香族ポリエステル系繊維など)および該高強力繊維により補強された繊維ゴム複合体により解決される。前記架橋剤は繊維に対して0.1〜10重量%付与される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムとの接着性に優れた高強力繊維および該高強力繊維により補強された繊維ゴム複合体に関し、特に、繊維表面の官能基と架橋剤とが結合することにより改質された高強力繊維および該高強力繊維により補強された繊維ゴム複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤ、ベルト、ホースなどのゴム製品は繊維により補強される必要があり、その場合、補強繊維とゴムとの接着性が要求される。従来から、補強繊維にゴム接着性を付与するために、レゾルシンフォルマリンラテックスなど種々の処理剤が検討されてきた。特許文献1には、ポリエステル繊維に、ポリアリルアミン類を含有する組成物、および水溶性もしくは水分散性のブロックドイソシアネートまたは水溶性のポリカルボジイミドである架橋剤を含有する組成物を糸条に付与することにより、ポリエステル繊維とゴムとの接着性が改良されることを開示している。しかしながら、ポリエステル繊維で補強された繊維ゴム複合体は、繊維自体の強度的性質が十分でないために、ポリエステル繊維補強のゴム複合体の使用範囲は狭いものであった。
【0003】
強力の高い繊維としてアラミド繊維が注目されているが、特許文献2では、アラミド繊維を、カルボジイミド化合物を主成分とする水性表面処理剤で処理することにより、ゴム等の複合材マトリックスとの接着性が改良されるとしている。しかしながら、アラミド繊維に付着されたカルボジイミド化合物は該化合物のみで自己架橋により繊維表面を覆うために、カルボジイミド系表面処理剤と繊維との密着性が十分でなく、そのためにゴムとの接着性も十分でないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3853935号公報
【特許文献2】特許3438957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、上記の事情に鑑みて、ゴムとの接着性の優れた高強力繊維を得ることができれば、繊維で補強された繊維ゴム複合体をより過酷な条件での使用が期待され、従来、スチールやワイヤで補強されたゴム製品が使用されている分野に、軽量化された繊維ゴム複合体を提供できると着目して、接着性に優れた高強力繊維を得ることを目的として検討を行った。
【0006】
本発明者らは、繊維の有する高強度を活かすためには、ゴムとの接着性が高くなければならないが、繊維処理剤を単に繊維表面に付着させるのでは十分でなく、繊維表面の官能基との化学的結合により固定することが効果的であることに着目して検討し、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明第1の構成は、 繊維表面の官能基の少なくとも一部がカルボジイミド系架橋剤と反応しており、かつ繊維強度が10cN/dex以上であることを特徴とする高強力繊維である。なお、上記の繊維強度は、JIS LI013に基づいて得られる値であり、繊維表面の官能基とカルボジイミド系架橋剤との反応はESCAにより架橋剤処理前後の繊維表面の官能基量を測定することにより確認できる。
前記構成において、前記架橋剤が、0.1〜10重量%(対繊維)付与されていることが好ましい。なお、付与されている架橋剤における「架橋剤」とは、繊維を処理する前の架橋剤だけでなく、処理後の、繊維表面の官能基と反応したり、架橋剤同士が自己架橋したりした架橋剤をも含む。
また、前記構成において、高強力繊維が全芳香族系ポリエステル系繊維であることが好ましい。前記構成において、高強力繊維が全芳香族ポリエステル繊維である場合、前記官能基は、ポリマーの末端基等に存在するカルボキシル基または水酸基である。
【0008】
本発明第2の構成は、繊維強度が10cN/dex以上である繊維に、カルボジイミド系架橋剤を付与加熱し、繊維表面の官能基の少なくとも一部を前記カルボジイミド系架橋剤と反応させることを特徴とする高強力繊維の処理方法である。前記構成において、前記カルボジイミド系架橋剤を付与加熱する際に、さらに、ブロックドイソシアネート化合物またはエポキシ化合物を加えて付与加熱することが好ましい。
【0009】
本発明第3の構成は、ゴムが繊維で補強された繊維ゴム複合体であって、繊維表面の官能基の少なくとも一部が、前記カルボジイミド系架橋剤と反応しており、かつ繊維強度が10cN/dex以上である高強力繊維により補強された繊維ゴム複合体である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、上記の構成を有することにより、ゴムとの接着性に優れた高強力繊維が得られるので、この繊維を使用して得られる繊維ゴム複合体は、タイヤ、ベルト、ホースなどの形態で過酷な環境下での使用が可能となる。
とくに、本発明の高強力繊維では、カルボジイミド系架橋剤が繊維と化学結合により固定されているので、表面処理効果の持続性が高く、したがって、本発明に係る繊維ゴム複合体は、過酷な環境下において長期間使用しても、繊維ゴム間において剥離や亀裂が生じにくいというメリットがある。
したがって、従来、スチールやワイヤにより補強されていたゴム製品に替って、本発明に係る繊維ゴム複合体の使用可能性があり、この場合には、製品の軽量化が達成されることになる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(高強力繊維)
本発明は、高強度を有する繊維をカルボジイミド系架橋剤で処理し、繊維表面の官能基の少なくとも一部がカルボジイミド系架橋剤と反応することにより、ゴム接着性を有する高強力繊維を与えることにある。したがって、本発明において出発原料としての繊維は、繊維強度が10cN/dtex以上を有するもので、かつ、カルボジイミド系架橋剤と反応可能な官能基を繊維表面に有する必要がある。かかる高強力繊維を与える素材としては、全芳香族ポリエステル系繊維、ポリビニルアルコール繊維などが挙げられる。なかでも、より高強力が得られる全芳香族ポリエステル系繊維が好ましい。
アラミド繊維も10cN/dtex以上の繊維強度を有する繊維であるが、カルボジイミド系架橋剤で処理した場合、該架橋剤が自己架橋をして繊維表面を被覆するのみで、アラミド繊維表面の官能基との反応は認められないことから、本発明において用いられる高強力かつ接着性を与える繊維の範疇には属さない。
【0012】
(全芳香族ポリエステル系繊維)
本発明において用いられる全芳香族ポリエステル系繊維は、ポリアリレート系溶融異方性ポリマーから形成されており、このポリマーは、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸等より重合されて得られるポリマーで、例えば、下記化1及び化2に示す構成単位の組合せからなるものである。
【0013】
【化1】

【0014】
【化2】

【0015】
特に好ましくは、下記化3に示す(A)、(B)の反復構成単位からなる部分が80モル%以上である全芳香族ポリエステルであり、特に(B)の成分が3〜45モル%である全芳香族ポリエステルが最も好ましい。
【0016】
【化3】

【0017】
全芳香族ポリエステル系繊維を構成するポリアリレート系溶融異方性ポリマーとして好ましいものは融点(以下、Mpと称す)が260〜360℃の範囲のものであり、さらに好ましくはMpが270〜350℃のものである。なお、Mpは示差走査熱量計(メトラー社DSC)により主吸熱ピークが現れる温度を測定することにより求められる。
【0018】
なお、前記ポリアリレート系溶融異方性ポリマーには、10cN/dtex以上の繊維強度が得られる範囲内で、他の熱可塑性ポリマー、酸化チタン、シリカ、硫酸バリウム等の無機物、カーボンブラック、染料や顔料等の着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の各種添加剤を加えてもよい。
【0019】
次に、溶融異方性ポリマーの紡糸方法について述べる。溶融異方性ポリマーは、ノズルを通過する時のせん断速度を10〜10sec−1とすると、紡糸時に著しい分子配向が生じるため、通常のポリエチレンテレフタレート紡糸原糸などに行われている紡糸後の延伸を行なわなくとも、紡糸原糸のままで強度8cN/dtex以上、弾性率400cN/dtex以上の繊維となる。本発明にいうせん断速度γは、円形ノズルの場合は次式により求めることが出来る。
γ=4Q/πr(sec−1
但しr:ノズルの半径(cm)
Q:単孔当たりのポリマー吐出量(cm/sec)
【0020】
紡糸原糸は、熱処理することにより強度・弾性率を更に向上させることが可能である。熱処理は(Mp−80℃)〜Mpの温度条件で行なうのが好ましい。本発明の全芳香族ポリエステル系繊維の融点は熱処理温度を上げるに従い上昇するので、熱処理方法としては段階的に温度を上昇させながら熱処理する方法が好ましい。熱処理雰囲気としては、窒素、アルゴン等の不活性ガスや空気等の活性ガス、あるいはそれらを組み合わせた雰囲気などが好適に用いられる。また上記熱処理を減圧下で行っても何等差し支えない。例えば、このような全芳香族ポリエステル系繊維は、(株)クラレから「ベクトラン(登録商標)」として上市されている。
【0021】
全芳香族ポリエステル系繊維は、通常、単繊維繊度が1〜20dtex程度、好ましくは5〜15dtex程度である。全芳香族ポリエステル系繊維の強度は、10〜100cN/dtex程度、より好ましくは15〜80cN/dtex程度あり、本発明の高強力
繊維に必要な10cN/dtex以上を有する。また、全芳香族ポリエステル系繊維の弾性率は、300〜2000cN/dtex程度、より好ましくは400〜1500cN/dtex程度を有する。
【0022】
(ポリビニルアルコール繊維)
本発明において出発原料として用いられるポリビニルアルコール系繊維としては、繊維強度が10cN/dtex以上の繊維であれば特に限定されない。重合度1500以上および鹸化度99モル%以上のポリビニルアルコールを水または有機溶媒に溶解または半溶融させて、湿式、乾式、または乾湿式紡糸し、必要に応じて脂肪族または脂環族ジカルボン酸を含有させて、高延伸することにより、繊維強度10cN/dtex以上のものが得られる。延伸熱処理後、フォルムアルデヒドなどにより、ポリビニルアルコールのOH基の一部のアセタール化を行ってもよく、また行わなくてもよい。いずれの場合も本発明において使用可能であるが、カルボジイミド系架橋剤との反応性の点からはアセタール化を行っていない方が好ましい。ポリビニルアルコール繊維の場合には、カルボジイミド系架橋剤は、ポリマーの末端基だけでなく、ポリマー主鎖中のOH基と反応することが可能である。なお、ポリビニルアルコール系繊維は、(株)クラレから商品名「ビニロン」として市販されており、単繊維繊度が1〜10dtex、繊維強度が10cN/dtex以上、10〜15cN/dtexの範囲内で適宜選択して用いることができる。
【0023】
(高強力繊維の形態)
ゴムと複合する高強力繊維の形態としては、フィラメント糸でも短繊維からなる紡績糸でもよいが、強度やゴム製品製造工程通過性の面からフィラメント糸が好適に用いられる。
【0024】
(カルボジイミド系架橋剤)
本発明において用いられるカルボジイミド系架橋剤とは、1分子中に2個以上のカルボジイミド(−N=C=N−)基 を有する化合物のことである。カルボジイミド系架橋剤は、その化学構造より、カルボキシル基、水酸基と反応することができるし、また、カルボジイミド基を2個有することにより自己架橋によりポリマーを形成することができる。カルボジイミド系架橋剤としては、特に限定されるものではなく、ポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニルカルボジイミド)等の芳香族ポリカルボジイミド;ポリ(ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)等の脂環族ポリカルボジイミド、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)等の脂肪族ポリカルボジイミドが挙げられる(ポリ;2〜20の繰り返しを示す。)
また、カルボジイミド系架橋剤としては、水溶性または水分散性(エマルジョン型)が繊維処理の容易性の点から好ましい。カルボジイミド系架橋剤は、カルボジライトV−02(溶剤:水、カルボジイミド成分40%含有、日清紡績株式会社製)、カルボジライトV−04(溶剤:水、カルボジイミド成分40%含有、日清紡績株式会社製)、カルボジライトV−06(溶剤:水、カルボジイミド成分40%含有、日清紡績株式会社製)等の市販品を入手して用いることができる。
【0025】
カルボジイミド系架橋剤は水に溶解または分散させた処理液に繊維を浸漬後、搾液して所定量の架橋剤を付着させるか、所定濃度の架橋剤液を繊維にコーテイングするか、また
架橋剤液を繊維表面に均一にスプレーして繊維表面に付与することが可能である。
【0026】
カルボジイミド系架橋剤の繊維表面への付与量としては、0.1〜10重量%(対繊維重量)の範囲内が好ましく、0.5〜5重量%の範囲がさらに好ましい。0.1重量%未満ではゴム接着性が不十分であり、10重量%を超えると、架橋剤の量が増えてもゴム接着性がそれ以上に向上する効果が得られない。
【0027】
繊維にカルボジイミド系架橋剤含有液を付与・乾燥後、繊維を乾燥機中で加熱することにより、または熱ローラに接触させることによりカルボジイミド系架橋剤のキュアリングを行うことができる。キュアリングは、80〜180℃の範囲、好ましくは100〜150℃の範囲の温度で、10秒〜5分、好ましくは20秒〜2分の範囲で行い、架橋剤と繊維表面の官能基との反応、架橋剤の自己架橋が進行し、特に、本発明においてはカルボジイミド系架橋剤が繊維表面の官能基と反応するために、ゴムとの接着性に優れた高強力繊維が得られる。
【0028】
(ブロックドイソシアネート化合物またはエポキシ化合物併用)
本発明において、カルボジイミド系架橋剤とともに、ブロックドイソシアネート化合物またはエポキシ化合物を加えて、カルボジイミド系架橋剤―ブロックドイソシアネート化合物またはカルボジイミド系架橋剤―エポキシ化合物との組合せで、繊維を処理してもよい。また、ブロックドイソシアネート化合物またはエポキシ化合物で処理してから、カルボジイミド系架橋剤で処理してもよい。ブロックドイソシアネート化合物またはエポキシ化合物を併用することにより架橋剤の反応を促進する場合がある。ブロックドイソシアネート化合物またはエポキシ化合物は、カルボジイミド系架橋剤液に添加されて適用されてもよく、ブロックドイソシアネート化合物またはエポキシ化合物溶液でまず繊維を処理してからカルボジイミド系架橋剤で処理してもよい。ブロックドイソシアネート化合物またはエポキシ化合物の繊維への付与量は、0.1〜10重量%(対繊維)の範囲内で適宜選択される。
【0029】
上記のブロックドイソシアネートは、常温では水と反応しないが、加熱することによりブロック剤が解離し、活性なイソシアネート基が再生されることにより、繊維の処理を促進することができる。ブロックドイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)やトリレンジイソシアネート(TDI)等の有機ポリイソシアネート化合物を、フェノール、チオフェノール、クロルフェノール等のフェノール類;イソプロピルアルコール、tert−ブチルアルコール等の第2級又は第3級のアルコール;ジフェニルアミン等の芳香族第2級アミン類等のブロック剤でブロックしたものが挙げられる。また、ブロックドイソシアネートとして、第一工業製薬(株)社製、エラストロンBN−69、BN−44、BN−04、BN−08、タケネートWB−700、WB−770等の市販品を使用してもよい。
【0030】
エポキシ化合物としては、脂肪族エポキシ化合物及び芳香族エポキシ化合物のいずれも用いることができるが、脂肪族エポキシ化合物が好ましい。この脂肪族エポキシ化合物としては、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の商品名「デナコールEX−512」、(デナコールは登録商標、以下同じ))、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の商品名「デナコールEX−321」)、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の商品名「デナコール EX−211」)、グリセロールポリグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の商品名「デナコール EX−313」)、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の商品名「デナコール EX−941」)、エチレングリコールジグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の商品名「デナコール EX−810」)、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の商品名「デナコール EX−850」)、ソルビトールポリグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の商品名「デナコール EX−611」)、及びペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の商品名「デナコール EX−411」)等を挙げることができる。
【0031】
(繊維ゴム複合体)
カルボジイミド系架橋剤で処理された高強力繊維は、ゴムと接着されることにより本発明に係る繊維ゴム複合体を形成する。本発明により、カルボジイミド系架橋剤で処理された高強力繊維はゴムとの接着性に優れていることから、高強力繊維の有する物理的特性が繊維ゴム複合体に反映することができるので、従来では達成されなかった過酷な条件下において使用可能な繊維ゴム複合体を与えることができる。
【0032】
(ゴム)
本発明の繊維ゴム複合体を成型する場合には、あらゆるゴムを使用することができる。例えば、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、イソプレンゴム(IR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)などが挙げられる。
【0033】
(繊維ゴム複合体の用途)
これらのゴムを使用して得られる繊維ゴム複合体は、タイヤ、コンベアベルト,ホース,空気バネなどに用いることができる。特に、従来、スチール、ワイヤ等により補強されているゴム製品に代替して、軽量化された製品を提供することが可能である。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。尚、物性等の評価は下記の方法にて実施した。
【0035】
(繊維表面官能基封鎖度合)
カルボジイミド系架橋剤との反応性を有する繊維表面の活性水素基(COOH基、OH基等)の量、すなわち、繊維表面の官能基の量を、カルボジイミド系架橋剤処理前後のESCAのClsスペクトルから求め、次式により封鎖率を算出し、その封鎖率を下記によりランク分けして、その結果を表1に示した。
封鎖率=(反応前官能基量―反応後官能基量)/(反応前官能基量)×100
繊維表面に存在する官能基のうち、封鎖率60%以上: ○
30〜60%: △
30%未満: ×
【0036】
(ヤーン強度の測定)
JIS L1013に基づいて、予め調湿されたヤーンを試長20cm、初荷重0.25cN/dtex及び引張速度50%/分の条件で測定し、n=20の平均値を採用した。また繊維繊度は質量法により求めた。
【0037】
(架橋剤含有量)
架橋剤処理前後における処理繊維の重量変化から、架橋剤含有量を求めた。
【0038】
(ゴム接着性の評価)
カルボジイミド架橋剤で処理された繊維コード7本を自動車タイヤ用カーカス配合未加硫ゴム表層に配置し、160℃で15分間、200Kg/cmの圧力をかけて加硫した後、5本のコードを20cm/分で引きはがす際の必要な力を島津製作所(株)製オートグラフにて測定し、比較例1の試料についての荷重を100とした時の相対比較にて性能を評価した。
相対値が150以下: ×
相対値が150〜200: △
相対値が200以上: ○
【0039】
(実施例1)
全芳香族ポリエステル系液晶ポリマー繊維(商品名「ベクトラン」:(株)クラレ製)(パラヒドロキシ安息香酸と2−ヒドロキシー6−ナフトエ酸の共重合体)からなるフィラメント糸(1670dtex/300f)を、架橋剤液[カルボジイミド系架橋剤(日清紡績(株)製「カルボジライトV−02」を水に対して純分換算で3質量%添加したもの]に浸漬して、架橋剤液を含浸させ、ついで、ローラープレスして搾液後、熱風乾燥機にて加熱乾燥し、表1に示す条件でキュアリングを行った。得られた高強力繊維について、繊維表面官能基の封鎖度合、ヤーン強度、架橋剤含有量、およびゴム接着性を評価し、表1に示した。
【0040】
(実施例2)
実施例1で用いたベクトラン繊維の代わりに、ポリビニルアルコール繊維(株式会社クラレ製、ビニロンフィラメント糸)2000dtex/1000fを用いた以外、実施例1と同様に行った。結果を表1に示した。
【0041】
(実施例3)
実施例1におけるベクトラン繊維と同じ繊維を用いて、実施例1における架橋剤液に、イソシアネート化合物[第一工業製薬(株)製「エラストロンBN−04」] を、カルボジイミド系架橋剤の1/2量、加えた処理液に浸漬し、搾液、乾燥後、表1に示す条件でキュアリングを行った。結果を表1に示す。
【0042】
(比較例1)
実施例1で用いたベクトラン繊維を、架橋剤処理を行うことなく、繊維表面官能基封鎖度合、ヤーン強度、ゴム接着性を評価した結果を表1に示した。
【0043】
(比較例2)
実施例1で用いたベクトラン繊維の代わりに、ポリエステル繊維(ユニチカ株式会社製、ポリエステルフィラメントE−223)1500dtexを用い以外、実施例1と同様に行って、得られた結果を表1に示した。
【0044】
(比較例3)
実施例1で用いたベクトラン繊維の代わりに、アラミド繊維(東レ・デュポン株式会社製、ケプラー29;フィラメント)1500dtex/1000fを用いた以外、実施例1と同様に行って、得られた結果を表1に示した。
【0045】
【表1】

【0046】
上記の実施例1および実施例3の結果から明らかであるように、全芳香族ポリエステル繊維(ベクトラン)では、カルボジイミド系架橋剤で処理することにより、繊維表面の官能基(ポリマーの末端基であるカルボン酸基、水酸基)の60%が封鎖されていることを確認した。繊維表面の官能基の封鎖は、繊維表面の官能基が架橋剤と反応したためであると判断するのが合理的である。 そして、どちらの例でも23cN/dtexの高強力を有し、かつ、ゴム接着性に優れた高強力繊維を得ることができた。
また、実施例2の結果から明らかであるように、ポリビニルアルコール繊維の場合にも、繊維表面の官能基の60%以上が封鎖されており、このため、繊維強度が12cN/
dtexと高強力でありながら、ゴムとの接着性に優れている。
一方、比較例1に示したように、カルボジイミド架橋剤による処理を行わない全芳香族ポリエステル繊維の場合には、高強力であってもゴムとの接着性に乏しい結果であった。
また、比較例2の結果から明らかであるように、ポリエステル繊維の場合、繊維表面の官能基の60%以上が封鎖されていることにより、ゴムとの接着性には優れているが、繊維自体の強度が低く、高度の機械的性質が要求される用途での使用は困難である。
比較例3は、アラミド繊維の場合であるが、繊維自体は高強力であるが、繊維表面の官能基はほとんど封鎖されておらず、ゴムとの接着性が不十分であった。したがって、カルボジイミド系架橋剤で処理されたアラミド繊維は、繊維強度は10cN/dtex以上を有するが、繊維表面の官能基が架橋剤との反応に実質的に関与していないため、本発明における、カルボジイミド系架橋剤により表面官能基の少なくとも一部が架橋された高強力繊維ではない。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明により得られる、カルボジイミド系架橋剤により表面官能基の少なくとも一部が架橋されており、かつ繊維強度が10cN/dex以上であることを特徴とする高強力繊維は、ゴムとの接着性に優れ、しかも、高強力であるので、過酷な条件下で使用されるタイヤ、ベルト、ホース等の繊維ゴム複合体に使用される可能性があり、繊維製造分野、繊維ゴム複合体製造分野、繊維ゴム複合体を使用する種々の産業分野における産業上の利用可能性が高い。
【0048】
以上、本発明の好ましい実施態様を例示的に説明したが、当業者であれば、特許請求の範囲に開示した本発明の範囲及び精神から逸脱することなく多様な修正、付加および置換ができることが理解可能であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維表面の官能基の少なくとも一部が、前記カルボジイミド系架橋剤と反応しており、かつ繊維強度が10cN/dex以上であることを特徴とする高強力繊維。
【請求項2】
請求項1において、前記架橋剤が、0.1〜10重量%(対繊維)付与されている高強力繊維。
【請求項3】
請求項1において、全芳香族系ポリエステル系繊維からなる高強力繊維。
【請求項4】
請求項1において、前記官能基がカルボキシル基または水酸基である高強力繊維。
【請求項5】
繊維強度が10cN/dex以上である繊維に、カルボジイミド系架橋剤を付与加熱し、繊維表面の官能基の少なくとも一部を前記カルボジイミド系架橋剤と反応させることを特徴とする高強力繊維の処理方法。
【請求項6】
請求項5において、カルボジイミド系架橋剤にさらにブロックドイソシアネート化合物またはエポキシ化合物を加えて付与加熱する処理方法。
【請求項7】
ゴムが繊維で補強された繊維ゴム複合体であって、繊維表面の官能基の少なくとも一部が、前記カルボジイミド系架橋剤と反応しており、かつ繊維強度が10cN/dex以上である高強力繊維により補強された繊維ゴム複合体。

【公開番号】特開2011−214183(P2011−214183A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82099(P2010−82099)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】